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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
20/62

一枚岩って幻想だよね

 翌日。玲瓏学院では、正宗、美子、コブシら在校生の授業が開始された。

 オウマ、ユウヤら新入生は、午前に学習内容説明会オリエンテーションが行われ、午後に倶楽部活動紹介の予定となっている。

 その間であるお昼休み、兄妹は生徒会執務室に招かれていた。昼食会議ランチ・ミーティングと言うことで、高級お弁当が用意されているとのことだった。兄の手作り弁当を食べる機会が一食減るため、妹はぶーぶー文句を言っていた。兄は弁当を作る時間の分、前日の幸運的助平ラッキースケベを回想できたので、朝からゴキゲンだった。

 生徒会執務室には、生徒会役員が全員集合していた。青紫の制服に身を包んだ在校生が五人。

 生徒会長である中村美子、その脇に控える副会長の三年生が二人。

 二人の脇に控える会計、書記の二年生が一人。

 そこに濃紺の編入生が二人。一年生である織田皇眞と織田優弥の兄妹が混じっている。

 昼食を食べ終わり、会長が幕の内弁当の蓋を閉める。さあ会議ミーティングの開始だ。

「御馳走様でした。さてと、始めましょうか」

 美子が手を合わせた後、皆を見回す。長方形の会議用足長洋風机ミーティング・テーブル。その短編に奥に会長、手前に副会長が並列。その両脇の長編に奥に会計、手前に書記が向かい合う形で座っている。書記と並んで、ユウヤ、オウマが並び、残り青紫の一人が会計に並んで、妹と向かい合っている。

 青紫四人は、会長の言葉に食べるのを即座に中止し、蓋を閉めた後、背筋を伸ばし姿勢を正した。

 副会長の視線がユウヤに向く。食べ終わっていたユウヤもそれにならって姿勢を正す。

 副会長、会計、書記、残り青紫の八つの視線が、オウマを射抜く。

「うめえ、なんじゃこりゃ。こんな美味い弁当が世の中に存在してたのか」

 目を輝かせながら、三つ目の弁当に手をかけている。副会長兼会計、会計兼書記の二人が別件で急に不在になったため、弁当が余っていたのだ。

「宜しければどうぞ」

 美子の勧めに、オウマに断る理由は無かった。

「オホン」

 副会長がオウマに向けて、咳払いする。遠慮もしないオウマは空気も読まず、咳払いに気付かない。書記が微かな笑いを浮かべた。

 副会長を手を上げ制し、会長は話を始める。

「それでは、第百二十三代生徒会による、二十三回目の生徒会役員会議を行います」

 生徒会長の宣言に、役員は承認の拍手を返す。

「ちょっと、お兄ちゃん」

 合わせて拍手をしながら、ユウヤがオウマを肘で小突く。オウマは最後のお茶を飲み干すべく、ゴキュゴキュゴキュッと喉を鳴らしている。煽るように飲み、喉仏を全開に見せる。副会長の眉が跳ねる。今度は会計が眼鏡を直しながら、笑いを噛み殺した。

「議題は、生徒会役員の庶務担当の任命です」

 会長はそう言って、ユウヤと、その向かいの青紫に視線を走らせた。

「生徒会の習わしとして、新入生代表の挨拶を行った生徒が、生徒会の庶務に任命されることになっています。織田優弥さん、宜しいでしょうか?」

 ユウヤに視線を合わせる。その奥では弁当が詰まりに詰まって膨らんだ腹を、オウマがポンポン叩いている。副会長が物凄い顔で睨み、

「もう勘弁して」

と書記と会計が、涙目に笑いを殺していた。

 生徒会長の誘いに、ユウヤの答えはシンプルだった。

「お兄様とご一緒なら、お引き受け致します」

 その答えに、今までユウヤを睨み殺していた青紫が口を開いた。いや、叫んだ。立ち上がって机を叩いた。

「会長。こんな変質的兄溺愛妹ブラコンを私は認めません!! 私がやります」

 在校生の進級試験最上位、青紫の一年生が吠える。

「あらあら、困ったわね」

 チャーンス。兄と一緒にいる時間が減るのは勘弁。生徒活動? 何それ? 兄妹活動に勝る時間など無い。変質的兄溺愛妹よばわりは後ほど、体育館裏でしばく。小一時間、お兄様の魅力について説明してあげるわ。

「有り難いお話ですが、そちらの方に、お譲り致します。在校生のお方の方が学院にお詳しいかと思いますので、そちらのお方が適任かと、ご推薦致します」

 ユウヤは、在校生、転入生の仕組み(システム)に気付いている。もちろん在校生のその選民意識も。

「あらあら、困ったわね。どうしましょう、副会長」

 苦虫を奥歯で擦り潰していたような表情で、オウマを射抜いていた副会長が、会長に視線を戻し、進級試験最上位に目線を移す。汚れ役は会長を補佐する副会長である自分の役目だ。

「そもそも君が、進級・入学総合順位で首席を穫らなかったのが、問題ではないのかね」

 副会長の迫力に押され、最上位が黙る。

「在校生が首席を逃すなど、前代未聞の椿事ちんじだ。転入生の背中を拝するなど、恥を知り賜え」

 副会長の言葉に、最上位はうつむいてしまう。副会長は初等部の入学試験から、ずっと最上位をひた走っている。その言葉は有言実行で重い。青紫の一年生は完全に沈黙してしまう。

 国境無き医師団に入る。

 その夢が出来て以来、青紫一年生は勉強が苦でなくなった。元々素養も良かったが、気が付いたら最上位にいた。いるのが当たり前になった。在校生での二位とは五十ポイント以上差を付け、突き放した独走状態が続いていた。

 自分は高等部での進級試験でも首席を穫り

、慣例に従って生徒会入りする。そこで諸先輩方と席を共にし、経験し、学び、成長していく。

 そう一年生は確信していた。

 一年生は運が悪かった。そもそも一年生は試験対策など全くしていなかった。いつも通りに対策も無しに試験を受けた。そこがユウヤとの差だった。

 それに対しユウヤは、オウマを合格させるため、百年以上続く老舗学院の過去の入学試験問題集を、全てこなした。さらにはそこから予想問題まで作成し、入学試験用だけに傾向分析・対策に万全を期した。

 一年生は汎用、ユウヤは専用。その差が次席と首席の差となってしまった。

 転入生が在校生に勝った前例は、創設以来ゼロだ。今回は前だけを見ていた一年生が、いきなり横からユウヤにブン殴られたに等しい。運が無いとしか言い様が無い。

 一年生が力試しに受けた、全国模試。その好敵手ライバル達が別の学校に進学している。

 自分より一枚も二枚も上手が、ぽっと出するほど、一年生の学力は低くは無い。むしろ有り得ない最高峰だ。

 さらに、その同性さえも羨まざるおえない容姿と体型。そら睨むぐらいしか出来ないではないか。

 重い沈黙が、室内を包み込む。一年生は唇を噛みしめ、膝に置いた手がプルプル震えている。テーブルの内側は空いているので、向かいに座ったオウマには、それがよく見えた。

 流石、在校席首席女子。スカートが長い。膝下どころか、くるぶし上何センチだ、ありゃ。冷え性なのか、これまた長いレギンスを履いている。足の生肌が全く見えない。ちぇ。

「げぷー!!」

 エロスの無さの失望により、オウマの気が抜ける。盛大なゲップが胃の中の空気を吐き出す。弁当三つも食べれば、食材と共に食べてしまった空気は多い。その排泄に胃から逆流し、喉を大きく鳴らしてしまった。ゲップが沈黙を打ち破る。

「あっ、ごめんごめん」

 会計と書記はとうとう腹を抱えて笑い出した。

「君、さっきから何だね、その態度は!!」

 副会長が机を叩いて立ち上がる。こめかみがピクピクして、顔も真っ赤になっていく。

「君とは何ですか!! お兄様には皇眞と言う、ご立派なお名前がございます。もう一度お呼び直し下さい」

 兄を庇うように、妹が立ち上がる。相対する副会長とユウヤ。副会長は迎撃を開始する。

「君もなんだね」

「副会長!!」

 会長の大声が、緊迫した空気を吹き飛ばす。皆の注目が会長に集まる。

「まず、君、君、君とは何ですか。新見香織さんも、織田皇眞さんも、織田優弥さんも、それぞれにご立派な名前があるのです。それを君とは何ですか!!」

「ですが会長」

「それに転入生、在校生と言う呼ぶ方も許しかねます。機会の平等性をうたう学院の生徒会役員ともあろう者が、その選民意識を助長する言葉を発するとは恥を知りなさい!!」

 会長に叩き斬られた副会長は、席に戻る。がっくり肩を落とし、うなだれた。

「そもそも、会長、副会長、会計、書記などと、役職で呼称するのが間違っていました。この会議は対外的でもない、内部会議です。これより内部会議は、各人の名前で呼称するとします」

 ショックを受けたままの副会長の代わりに、会計が代行する。

「会長から発議が有りました。反対意見のある方は、挙手をお願いします」

 会計が全員を見回す。面白半分に手を上げようとしたオウマを、ユウヤが肘打ちで阻止する。脇腹に響く痛みに、オウマの挙手は果たせなかった。そこは昨日も殴られた場所!!

「反対意見はゼロ、満場一致で、第三十九議案、内部会議は名前で呼ぶ、は可決されました。これより施行を開始致します」

 会計の宣言が、場を整える。

「と言う訳なの。香織さんと優弥さん、生徒会の庶務をやって頂けるかしら」

「喜んで」

 美子を尊敬する香織は、二つ返事だ。

「お兄様と、ご一緒ならば」

 そう答えるユウヤを睨む。

「あらあら、困ったわね。本当に困ったわ」

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