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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
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学校案内

 私立玲瓏学院。

 首都建設と同時に設立された、創立百二十五年を迎える学校法人。その目的は、首都を永続的に発展、発達させる優秀な人材の育成にある。

 学部は幼稚舎、初等部、中等部、高等部、大学、大学院、社会人向けの政治・経済塾が存在し、子どもから大人までの全期間を網羅した一貫教育機関である。

 また所在地は、首都湾の人工島に置かれ、総敷地面積は縦二十粁キロメートル、横三十キロメートルの六百万平方メートルを有しており、首都ドーム約一万三千個分となっている。生徒数も高等部だけで一万近くに迫る、国内最大の巨大教育機関でもある。

 さらには、首都一部上場企業の最高経営責任者チーフ・エクゼクティブ・オフィサー、CEO輩出数ランキング、官僚・政治家の上級公僕輩出数ランキングにおいて、長年二冠を達成している、超名門教育期間でもある。

 付け加えれば、テレビや雑誌などの大衆伝達媒体マスメディアに、出身者やその名前自体も頻出される、超有名教育期間でもある。

 そんな広大な学院の。

 数ある学部の一つの高等部キャンパス内の。

 数ある中庭の一つの。

 数あるベンチの一つに、

 オウマは腰をかけていた。手には学校案内のパンフレットを握っている。手遊びに丸めている。

「お兄様。わたくしが、ご挨拶の後に入学手続きなどを済ませておきます。そこのベンチでお待ち下さい」

 そう言って妹は去っていった。何でも入学試験の成績が最高位だったため、入学式で入学生代表挨拶を任されたらしい。その事前打ち合わせ、リハーサルのために、妹の付き添いで兄も早めに、ここ玲瓏学院に足を踏み入れていた。

 手にパンフレットだけが残っているのは、入学試験合格証明書と共に送られてきた書類を、案内書パンフ以外は、妹が抜き取っていったからだ。丸めていたパンフを横に放り投げる。ベンチの背もたれに身体を預け、両腕、両肩を背もたれに乗せる。空を見上げる。

 今日は四月八日、月曜日。天気は降水確率ゼロパーセントの晴天だ。中庭には春の風が吹き、桜を舞い散らせている。絶好の入学式典日和と言えよう。

 本日は、オウマとユウヤの入学式だ。兄妹ともに高等部一年生になる。

 二人は年子である。だが、兄のオウマが四月二日の最遅生まれで、妹のユウヤが一年遅れの四月一日の最早生まれなので、学年が一緒となっている。

 中庭に設置された時計を見る。式典まで後二時間もある。

 青い芝生、生い茂る木々、舗装されたレンガ道。樹木の上には遠くに校舎群が見える。広々した空間に、自然の緑と赤が描かれ、それを下地に人工の白が点在している。のんびりするのは極上の空間とも言える。朝の新鮮な空気と、小鳥の、さえずりに力が勝手に抜けていく。だが、オウマには退屈だった。

 人影も少なすぎる。ここに来るまで、二、三人しか遠くに人影を見ていない。観察対象の分母が小さすぎる。見回す限り、今この中庭にいるのは

、オウマ一人だった。

 衆人の中に一人でいるのは孤独を感じるが、自然に一人では孤独を感じない。

 との言葉もあるが、オウマはそうは思わなかった。自然は人など愛していない。正確には、特別になど愛してはいない。自然に聞いたことは無いので、勝手に、そう思っている。

 オウマには人がいないのは、退屈だった。そもそも孤独自体を感じる繊細な神経は持ち合わせていなかった。

 ひまだ。暇だ。ヒマヒマだ。ふぁ〜ふぁ。

 オウマは喉チンコをさらけ出す大きな欠伸と共に、大きく伸びをする。春の陽気にベンチも温かい。気を抜けば眠ってしまいそうだ。

 昨夜は目が覚めて眠れなかった。

 睡眠不足も追い打ちをかける。時間潰しに回想を始める。どうしてこうなったのか? ワンシーズン前を思い出す。

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