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肉弾×白兵×遠火×魔戦  作者: 夏目義弘
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 唾が構え、拳を握る。ボクシング部か。真正面から突っ込んでくる相手に、冷静な交差法カウンターを取る。ジャブが紺色の顔面にキレイに合わせられ、直撃する。

 あちゃー。正宗は走りながら、その衝突に顔をしかめる。その威力は、突っ込んだ速度+ジャブの速度を合わせた相対速度が算出する。それも減退率無しに直撃だ。鼻の粘膜の裂傷による鼻血はもちろんのこと、運が悪ければ鼻の軟骨がへし折れる。鼻の奥から脳に抜ける、つんとした痛みを想像するだけで、片目がしかめられる。速度重視のジャブでなく、体重の乗ったストレートパンチであれば、運が悪ければ、折られた鼻骨がその勢いのまま、脳に突き刺さりかねない、見事なカウンターだった。濃紺がノックダウンする。

 だが正宗の予想は裏切られた。そのイメージは実現されなかった。

 気が付いたら、唾が地面に叩き付けられていた。一瞬で、唾の天地が逆さまになっていた。濃紺の左手が唾の顔面を掴み、地面に叩き伏せていた。

 何が起こったの?

 ジャブへの頭突き。懐に飛び込み、顔面を片手で掴んでの組み伏せ。その驚異的な速度スピード馬力パワーに、正宗は状況を理解できなかった。正宗の優れた動体視力を持ってしても、その動きが見えなかった。モーションのコマが削られたような、瞬間移動のような動きだった。

 無我の境地? 無拍子? 縮地? 何にせよ、面白い。

 驚きが喜びに変わる。得体の知れない存在に、顔が綻ぶ。仕掛けてみたい。戦闘民族の衝動に血がたぎる。

 正宗は頭を振って、息を吐き出す。その衝動を振り払う。

 いかん、いかん。この獲物は後回しだ。まずは、先の問題からだ。

 視線を濃紺から、残る青紫に移す。二体は固まったままだ。濃紺に目を奪われている。その隙を逃さない。

「チェストー!!」

 背後に回り込み、背中から斬撃を食らわせる。十分にしなった竹刀が、暴漢の首筋をバシっと叩く。衝撃と痛みにのけぞった背中に、逆の首筋に竹刀を叩きつける。

 竹刀は、その目的上、衝撃を分散し拡散し減退させる構造だ。そのため、斬撃の衝動は、広範囲に渡る。

 痛みを知覚するA10神経は、知覚度と範囲が比例する。範囲が広ければ広いほど、知覚は鋭くなる。痛みが広範囲であればあるほど、痛いのである。

 痛みが許容範囲を越える。脳が壊れないように、その伝達を止めるべく、脳自体が強制終了される。両首筋をしばかれた青紫が、気を失う。膝から崩れ落ち、仰向けに倒れる。

 その背中を蹴って、正宗はもう一体に向かう。体勢を低くし、突進する。懐に入り込んだ。竹刀の先を鳩尾へと突き刺す。頭の上で苦鳴が漏れる。その顎先を、竹刀を掴んだまま肘でカチ上げる。

「チェストー!!」

 空いた首筋を思いっきりしばく。気を失った青紫は顔面から芝生に突っ込んだ。

 正宗は血糊を払うかのように、竹刀を振り払った。

 さてと、これで邪魔者は片付いた。これからは、お楽しみの時間だ。

 濃紺へと視線を移す。顔面を掴んだままの濃紺と目が合う。なにゆえか、掴んだ左手の甲を隠すように、右手を重ねている。

 だが戦いに問答は無用だ。正宗は切っ先を濃紺に向け構えを取る。一言、宣言する。

「第一剣道部主将、風紀委員会が長、塚原正宗。推して参る」

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