プロローグ
戦争のダメージは可視化した。
数値化されゲージで確認出来る様になった兵士の命、戦車の耐久、そして国の降伏度。
それは兵士達から命の尊さを容易く奪った。
そして戦争はゲームと呼ばれる様になった。
兵士は低年齢化した、司令官もそうだ。
兵士達は迷わず相手の頭を狙った。
司令官は捕虜の扱い、拷問を機械にやらせた。
戦争は残虐性を増した。情を失った。一つのコンピュータに統御された。
大量虐殺兵器は威力を増した。無意味に。無慈悲に。盛大に。
殺戮はスコア化された。得点加算の快感を大量に得られるクラスター爆弾が好まれ、日夜降り注いだ。スコアは金や地位、称号にこそ繋がらなかったが、兵士達のモチベーションを保つには充分だった。
兵士達はスコアを命より重んじた。
戦争は世界の生ける者全てを巻き込んだ。
「隊長!
向こうから戦車一台!ロシアのです!
HPはマンタン!弾数もフル!」
「何ィ、これから帰るところだぞ!?よし!
まるで何事も無かったかの様に横を通りすぎろ!こっちはボロボロだ!
多分見逃してくれるだろう!」
「ハッ!
敵接近!右方向へ!
主砲を逆へ!害意が無い事を示せ!」
「敵!我々を無視して1m横を通過!
主砲を逆へ向けています!」
「よし!情のある対応感謝する!」
「隊長!」
「なんだ!」
「隊長の娘さんの3DSのすれ違いランプが点滅しています!」
「なに!?まさかあいつらから!?
至急確認せよ!」
「ハッ!
…あ!娘さんの村に手紙が届いています!
読みます…!
「よろ!やっとローン払い終わったー!
村番書いとくから、今度遊びに来てねー!
くらぁ★より」
あ!手紙に贈り物が付いています!
こ…これは…おうかんです!これを売ればローン地獄ともおさらばですね!」
「何ぃ!?友好的だとぉ!?
どうしたこった!俺のすれ違いメールの中身は
「核に飲まれて滅びろロシア!
ロシアの国土は永久放棄!
アメリカ大好き★より」だぞ!」
「なんてこと書いてんですか!」
「しかも添付した贈り物は一瞬にして村を雑草まみれにする増草剤爆弾だ」
「嫌な荒らしじゃないですか!」
「隊長!」
「なんだ!」
「敵、急停止!
主砲を此方へ向けてきます!」
「なんだと!?
くそ…お前らすまない!」
「隊長…!」
「隊長…!」
「隊長…!」
「せめて死ぬ時は一緒!」
そのロシアの戦車の乗組員は4ptゲットした。
死んだ兵士は、蘇った。
全ての装甲戦車、ヘリ、潜水艦、戦闘機にはセンサーによって起動する緊急脱出装置が配備され兵士達を致命傷から守った。
医療の発達により致命傷を負った兵士でも引き金を引くくらいには作り直せた。
これにより戦場の死亡者の半分は蘇った。
関係の無い国民の被害が増えた。
兵士達のコンピュータに統制された生活、死しても戦わされる脅迫感、その尋常を超えたストレスは何故か国民に降りかかった。
戦争に掛けられた分、国民へ掛けられる金は減った。
大量虐殺兵器はいつも国民に使われた。
核はいつも国民に向けられた。
国民は点数は低いが狙いやすかった。
国民は連続ヒットを狙いやすかった。
1945年、日本の広島、長崎に落とされた二発の核は世界の核の引き金を一気に重くした。
2024年、ロシアが合衆国沿岸に撃った核は世界の核の引き金を一気に軽くした。
誰もが恐れた核戦争がついに勃発した。
ロシアが核を撃った理由はわからなかった。
他国がロシアに対して行った仕打ちのどれをとっても核を撃つ理由にはたり得なかった。
ロシアも理由は語らなかった。
第三次世界大戦はこう呼ばれた。
馬鹿と馬鹿のバカ騒ぎ。金の掛かる自滅。大惨事大戦。
第三次世界大戦は世界の気候を変えた。
ロシアが最初に撃った核「雪の女王」の爆心地は遂に2年目の冬を迎えた。
爆散した汚染物質は海流、風に乗って隣国の草木をも枯らし、そこを冬と化した。
第三次世界大戦は世界を分かち、世界の国民は一つとなった。
国民は世界と戦った。