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「ねー姫ちゃん、実際男って不自由なものよね」


 放課後の大道具室。文化祭ぐらいしか使い道のないその部屋を、僕たちは部室として使わせてもらっている。




遊戯部パンドラ




 それが、顧問もいない、僕たち二人だけの同好会の名前。勉学に委員会に生徒会にと精力的に高校生活を送っているように見える優等生|(僕)と、奇抜な見た目と異常なIQの高さを誇る変人(ユウヤ)の二人は、しかし、人知れず毎日こうしてこっそり集まっては、忘れ去られたほこり塗れのこの部屋で、ぼろぼろの雀卓を囲んでいる 。




「そうだね。僕は女の子がうらやましいよ」


「この時代、手術すれば女の子になれるわよ?男でも」


「そこまでの勇気はないけどさ」


「姫ちゃんがならないなら、あたしが先になっちゃおうかしら♪」


「どうぞー」




 すさまじい勢いでゲームは進行する。斜めに置いた麻雀を、一人二役で進めるのが僕たちのやり方だ。人数二人しかいないしね。あー、この流れは僕の負けかなぁ・・・




「なう。ユウヤはさ、好きな人っている?」




ぱちん。ユウヤの手が止まる。




「・・・さぁ、ね?」




 どこか寂しそうに呟く。カラーコンタクトを入れたコバルトブルーの瞳が、俯いて虚空を見つめている。何か悪いことを聞いてしまったのだろうか?




「ユウヤ?」


「ロン」




あ、と言う僕の声を背に、ユウヤは立ち上がり、鞄を掴む。




「あたし、用があるから今日はこれで」


「あの、ユウヤ」


「なぁに?」


「気を悪くした?」




少しの沈黙。




「・・・いいえ?それじゃまた、明日ね」




 白銀の髪を茜色に染めながら、ユウヤは部室を後にした。彼(彼女?)も辛い恋をしているのだろうか・・・。そういえば、僕はユウヤの事をあまり知らない。お気楽そうに見えて、結構根の深い悩みを抱えているのかもしれない。




コンコン!




ユウヤが去ったそのドアを誰かが叩く。ノック音とともに、苦手な人物が登場した。




「ちょっと、失礼するわよ。木ノ下さんいる?・・・わ、何ぃ?ごほっ!埃っぽいわねー!ひどい環境!ゴミ溜めみたい」


「ご挨拶だね」


「本当にいたわ・・・!よくこんな所にいて平気ね?信じらんない」


「用は何」




 知らず不機嫌な態度になる。温和で明るくて素直で可愛いと言われている僕も、この子の傲慢な態度を見るとつい攻撃的になってしまう。ああ、嫌。色白でわがままで、サラサラロングストレート、透き通るハイトーンボイス。僕がなりたかった「女の子」の典型だ。彼女の名前は(せい) 藤葉(とうは)。名前の通りの正統派美少女。どうも、トキの事が好きらしく、何かというと僕につっかかってくる。




「時久くん知らない?」


「知らないよ」




 即座に答える。知ってるけど君には教えない。てゆーかこのあと会う約束してるし。残念だったねプギャーてらわろす。頭の中で顔文字を乱舞させながら、僕は人畜無害な表情を浮かべる。




「あらそう。じゃあいいわ。そうそう、そのリボンぜんっぜん!似合ってないからやめた方がいいわよ」




ガラ、ぴしゃん!




 もうもうと埃が舞い上がり、藤葉の香水の匂いが残された。顔面がビキビキと痙攣する。リボン、……トキにもらったリボンを、けなされた。うん、最低な気分になった。…なう。

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