幻想の城(3)
迫り来る悪夢に耳を塞ぎ、ようやく城の門をくぐった私が、次に何をしたか分かりますか」
硬く結ばれたむき出しの軟骨のような指が、小刻みに震えていた。
傍に控えていた従者も、頭頂部についた耳を覆うようにしてうずくまっている。
「人とは本当に業の深い生き物なのでしょう。
私は私の後について城へ入った者たちに、門を閉じるように命じました。
命を受けた者たちは何を命じられているのか分からないという顔をしていましたね。
それはそうでしょう、門といっても外敵に攻められることなど想定されていませんから、一時の足止め程度にしかならないのは、目に見えています。それに、後からはまだ仲間も、逃げ惑う領民も城を目指していましたから。
あの時、多くの者はもう助からないだろうことを自覚していたでしょう。
それほど絶望的な状況だったのです。
そんな中で、私の心を捉えていたのは、あの穏やかな日々にもう一度帰りたいということだけでした。
ただひたすらそれを願い、愚かな話ですが、城の門を閉じさえすれば、それが叶うと思っていたのです。
互いを罵り合う地獄のような怒号の中、無慈悲な鈍い音を響かせ、門は閉ざされました。
私は自分の血と、誰かの血にまみれた両手で耳を塞ぎ、目を硬く閉じ、悪夢から覚めることをひたすら願いました。
ただ恐怖だけが私の心を覆い、逃れるためなら、どんなものでも差し出しますと神に何度も祈りました。
そうするうちに、一瞬、閉じたはずのまぶたの裏に光が溢れました。
地鳴りとなって大気を震わせていた戦の声も、徐々に遠のいていくようです。悪夢には不釣り合いなその静けさは、強い耳鳴りとなり、頭の中を貫かれるような激しい痛みと共に、私はその場で意識を失いました。
私は本来、あの場所で死ぬべきだったのでしょう。
それが私の運命だった・・・。
しかし私と数名の従者たちは、運命の輪から弾かれるようにしてこぼれ落ちました。




