●日常
いつもの様に、私の思考回路とやらは何処かぶっ飛んでいた。
となりの席の男子の理解不可能な行動が気になる。
栗山京平。自習プリントで紙ヒコーキをつくり終えると、一人で溜め息を吐いた。
「俺さ、思うんだけど……ダブったって辞めることなくねぇ?」
別れというのは、何の前触れもなくやってくる。べつに歩いて来る訳じゃないけど、人は表現力の強い生き物だと思う。
でも、時には有りのままに受け入れても良いんじゃないかな。
「仕方ないじゃん」
私は無表情で感慨もなく言った。
プリントの名前の欄に『遠野志穂』とカキコんでいると、少し違和感があった。
麗奈だっ!!
数日前、ずっと仲良しだった麗奈が学校を辞めることになった。
出席日数が足りず、ダブったのだ。偏差値30の我が亀沢北高でさえ、学校を去るものは多い。
「けど、麗奈が〜」
京平は何も解かってない。納得できないようで、教頭に直談判したらしい。
「忘れるよ」
!!!
「居ない奴の事なんか、すぐに忘れる。麗ちゃんが仲間でも、きっとマンネリの毎日に負われて覚えてられなくなる」
最近まで病院で入退院を繰り返していた華恵は、いつものトゲトゲした口調とは裏腹に、冷たい目線を向けた。
―――クソ学校に俺らは何を求めているのだろう―――
昼間の暑さに比べ、夜はまだ寒かった。
昨晩の夜遊びがたたったのか、華恵が倒れた。今朝、学校に四十度も熱が上がったと、連絡が届いたらしい。
「大丈夫かな〜?華恵ちゃん」
ユリちゃんは凄く優しくて、頭も良い。本名、久下百合子。亀沢北高は英文科と農林科と普通科の三つがあって、ユリちゃんは英文科だった。
数日前、こんなことがあった。
「お前ら、何だ!!そろいもそろってその髪の色は……」
廊下でタムロしていると、後ろで生活指導の柳沢が眉間にシワを寄せていた。
その頃、私と健ちゃんの髪は茶色、京平はオレンジ色(中途半端に生え際が黒い)をしていて、ユリちゃんのまっ黒な髪が羨ましかった。
「俺のは地毛っす、よっ!!」
健ちゃんは"地毛"で通しているらしかった。
それが通るのも、親が多額の寄付や援助をしているからで、健ちゃんは根っからのヤンキーだ。
塚本健二。農林科でユリちゃんの彼氏。野球部でタバコを吸ってタムロしている。
「久下、友達は英文科にも居るだろう。こんなデキの悪い奴らなんかとツルんでると、一生を台無しにするぞ……(以下略)」
でたでた、柳沢ブシ。柳沢は英文科の担任で、英文科以外の生徒は全て『デキの悪い』と決め付けている。
「なぁなぁ!!志穂。コレって華恵じゃねぇ?」
さっきから無言で携帯と睨めっこしてた京平が問うてきた。
何ゴトかと目を丸くして話を聞いていた私は、内容の半分も頭に入っていかなかった。
送信 kae_best-friend@docomo.ne.jp
件名 塚本大学病院にて
本文 セブンのオレンジジュース。
それは紛れもなく、華恵のメールだった。
「・・・・どう、思う?」
はっ。我に帰ると、真剣な眼差しで問うている京平の姿があった。
「あ、うん。えっと・・・・なんだっけ」
「なんだよ〜。聞いてなかったのかよ」
京平は口を尖らせて言う。
こいつ、いっぺん土に埋めてやろうか。そういう世界遺産、なんつったかなー。
「華恵ちゃんのお見舞い行こうって話してたんだけど、志穂ちゃんも行かない?」
と、ユリちゃんが再度説明してくれた。
「行かないよ」
私にはどうしても行けなかった。
華恵が死ぬんじゃないかって考えると、恐怖が込上げてくる。
「行くどー!!お前ら連れてこないと、華恵にぶん殴られるのよ。俺」
京平は面倒臭そうに言った。