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第12話:素直な先輩の裏は


どうも、格孤です。


前々回、10話の続きです。


没サブタイトル:「管野ゆりの諦め」


…では、本編をどうぞ。


昨日。

あのあと、あの、先輩に意地悪なことをされたあと…



私は、まだ混乱した頭で、言いたいことを全部先輩にぶちまけた。


「なんであんな意地悪な方法を選んだんですか?」

とか、

「演技だったなんて…さっサイテーです!」

とか、

「なんで閉じ込めるんですか!早く帰らせてください!家族も心配してるだろうし…なにより、もう先輩と一緒にいたくありません!」

とか…。


まぁ一緒にいたくないというか、これ以上一緒にいたら恥ずかしいし、なんかいけないことになりそうな予感がしたからこう言っただけで、本当に、嫌いになったわけじゃ…ない…ん、だよ…?


まぁそれはともかく、こんなに散々言いたい放題言われたのに先輩は、特に驚いた表情もせず、笑顔のままニコリと笑って、


「そうだね!じゃあ僕が家まで送ってってあげるよ!夜は危ないからね!ゆりちゃんかわいいし」


…と、言い放った。


…うん?それだけ?

え、帰してくれるの?

そんなあっさり?


いや、それよりかわいいとか言わないで…!

あんなことをされたあとに、そ、そんなこと言われたら…。

………。


そして、なんの抵抗もない様子で、扉を抑えていたストッパーをひょいと外しながら、


「あ、ゆりちゃんの自転車、駅前の置き場においてあるよね?とってきてあげるからカギ貸して!あ、ゆりちゃんはここで待ってていいよ。とってきたら呼ぶから…。」


と言った。


やけに…やけに素直だった。

こんな簡単に帰してくれるんだったら、なぜ閉じ込めた?

っていうか、いままでの話はどうなったんだ?

まるでなかったかのように…

この話はここで終わり!とでも言いたそうに…


「あ、あの…なんで…」


「ん?なんだい?ジュースもっと欲しい?それとも、お菓子でも持ってこようか…あ、ちょっと冷え込んできたね。寒くない?ひとりで大丈夫?怖くない?」


…子供かっ!


というツッコミは、ここでは控えておこう。


「大丈夫…です…。」


引きつった笑顔で答えながら、言われた通りに自転車のカギを渡す。


「えっと…じゃあ、お願いします…」


「うん。ありがとう

そっか。じゃぁ、ちょっと行ってくるね。5分以内に戻ってくるからね。じゃあ!」


…そう言って、先輩は本当に私の自転車を取りに駅まで走って行ってしまった…。


先輩がいなくなった途端、腰が抜けて、へなへなとその場で脱力する。

…もう、なんだか。

わけわかんなかった。



先輩は、本当に5分以内に、3分で戻ってきた。


あとでよく考えたら、あの場所から駅までは私の足じゃ頑張っても15分かかるんじゃないかってぐらいの距離がある気がする。

でも3分で戻ってきた…。

ってことは、全速力で走ったのかな…


寒いなか…

…私のために…?


…うーん…それは一端の女の子として考えさせられるものがあるね…


「ゆりちゃん!とってきたよ。玄関の前に置いてあるから、さ、こっち。」


「は…はあ…」


そのまま先輩に促されて外へ出ると、本当に私の自転車があった。

ほ、本当に帰してくれちゃうのか…

え?いいの?


…と、素直すぎる先輩に若干不安を抱きながら乗ろうとしたら、


「はい、じゃあ僕がこぐから、ゆりちゃんは後ろに乗っていいよ!」


と、言われ…


「…はい?」


という暇もなく、


「あ、ちょっと待って、うしろに単に座っただけじゃおしり痛いよね…なにか…あ、これでいいや!」


と、着ていた自分のブレザーを脱ぎ、手際良くたたんで、それを座布団代わりに自転車の後ろにおいた。


「い、いや、いろいろよくしてもらったのにそこまで…」


と、即座に送ってもらうっていうことを断ろうとするが、


「はい、荷物はここにのせて~…わっ寒っ!風が冷たいね~寒いでしょ?僕のセーターかすよ!はい!」


華麗にスルーされ、無理やり先輩のセーターを着させられた。


「わぷっ…え、で、でも、そしたら先輩が風邪引いちゃいますよ…」


というかできればブレザーのほうがなんとなく先輩の体に密着してる感が少ないし、いろんな意味で着やすいからいいんだけども…


「いいんだよ、子供がそんなこと気にしなくて~子供は大人の厚意には甘えるべきだよ?もーかわいいなぁゆりちゃんは」


…こ!


「子供じゃないです!先輩と年1コしか変わらないです!あとかわいいはやめてください~!かわいくないですから~!」


「ええ?かわいいよ~ちっちゃいのに敬語使ってるとことか…ほら、手をパタパタさせてるとこも…って、ぼくのセーター大きくてちゃんと手出てないし…」


「ちっ、ちっちゃくないです~!!まだ成長期なんですよぉ~!まだまだおっきくなるんです~!」


「くくっ…そ、そうだね…っ!ふふふ…」



先輩は、ほおを若干赤らめて、口を抑えて笑をこらえている。


くっ…この人、ロリコンか…?

って、あ…いや…ロリ…て…

自分がちっちゃいって認めてるようなもんじゃ…

く、くそお~…いつか見返してやる~!



こんな一方的な会話が続き、いくら断ったところで先輩は一歩も引き下がらなかったので、諦めて仕方なく家まで送ってもらうことにした。


というか…本音を言うと、さっきの出来事のせいでまだ腰が抜けていて、全然下半身に力が入らなかったから、送ってもらいたかったんだけどね…



道中は、特にこれと言って特別なアクシデントなどは起こらず、先輩と軽く世間話をしたぐらいで、あっという間にうちまで辿り着いた。


…道中ずっと先輩の体にしっかりと手を回してどさくさに紛れてちゃっかり抱きついていたというのは、内緒の話…


ま、まぁ寒かったし、しっかり掴まってないと危ないからね!

ふ、ふふ…



うちにつくと、ご丁寧に自転車をいつもの定位置まで運んでくれた。


最後まで…あの一連の出来事を抜かせば、最後までとても気の利く優しい好青年だった。


学校じゃ相当もててるんだろうなぁ。


「あ、えっと、相馬先輩、ほんとにありがとうございます。」


先輩に、深々と頭を下げる。


「うん?うん。どういたしまして。気にしないで。」


やはり先輩は、ニコッと笑う。

なんで…

こんなに気持ちのいい笑顔が作れるんだろう。

家系が執事一家とかじゃないだろうな


「気にしますよ…こんな夜中に、しかも相当冷え込んでるのに、こんな遠くまで私なんかのために送ってもらっちゃって…しかも帰りは先輩歩きじゃないですか!あの距離をもう一度帰るんですよね…?」


自転車だったというのに、先輩の家から私の家までつくのに、大体20分はかかったんじゃないかってぐらい、距離があったはずだ。


「あはは、そうだね…でも気にしないでよ、走って帰れば寒さも吹き飛んじゃうしね。それとも、今夜はゆりちゃんの部屋にでも泊めてくれるかい?」


「へっ?えっ、いや!えっと、」


い、いきなりなにを言い出すかこの人は!


え、えっと…!


「…か、構いませんけど、私は…で、でも、そういうのって、なにか、ダメ、ダメだと思うと言うか…」


なんというか…と口ごもってごにょごにょと…って、私までなにを言ってるんだ!構うだろ!

先輩は、ハハハと小さく笑って、


「冗談だよ。ほんとにかわいいね…。じゃぁ、もう帰るけど、いいかな?」


先輩は、半歩後ろに下がりつつ、言った。

あ…帰っちゃ…


まだ聞きたいことが!


「あ…ちょっと…」


無意識に、帰ろうとする先輩を引き止めてしまった。

が、すぐに考え直し、ばっと両手で口を覆う。


「ん?どうしたの?」


先輩は、振り返り、ニコリと笑いかけてくる。


「あ…いや、なんでも…」


これは…聞かなくていい。

聞かない方がいい。

そんな気がした。


「あ、もしかして…」


「え…?」


先輩が、その切れ長の目をさらに細める。

え、なに?

まさか…心が読めるとか言わないよね…


「泊めてくれる気になった?覚悟決まった?」


…は?

…っ!

んな…!


「ち、違いますよ!まさか!っていうか、一体なんの覚悟ですか!」


な、なんだよ!緊張して損した!

全くこの人は…!


「あははは、じゃあ、もうなにもないかな?」


「え…えっと…はい。大丈夫です…。」


いや、大丈夫じゃなかった。

本当は…本当は、聞きたいことがあった。

なぜあんなに私を帰すまいと拒んでいたのに、突然こんなに素直に家に帰してくれたのかが知りたかった。

けど、あの話をぶりかえすのが嫌だった。

せっかく先輩の信用が戻ってきた矢先、その答えによってまたその信用を失ってしまうようになることが怖かった。


……。


「本当に、ありがとうございました。同じ学校ですから、もしかしたらまた会うこともあるかもしれませんね。その時は、またよろしくお願いします。」


まあ…でも、これで多分当分お別れだろうし、学校であった時にもう一度お礼とかを言って…


「え?うん。でも、どうせまた近いうちにまた会うことになるよ。」


「……え?」


え?え?

なにその確証…?

なんで?また何か企んでるの?


そう考えてから先輩の笑顔をみたら、気のせいか、なんとなく黒いものを感じた。


や…やめて…

やだ…やだよ。

これ以上先輩の信用を失いたくないよ…


「どういう…意味…ですか…?」


聞きたくなかったけど、どうしても聞いてしまう。

すると先輩は、こう答えた。


「え?まだこっちの手札はいくつか残ってるって意味。」


さらっと言い切った。

こっちが思っていることなど、我関せずな顔で。


…手札…


「今日はひとまず帰してあげるけど、まだ僕は、ゆりちゃんのこと諦めてないからね、ってこと!それじゃ、また明日ね!」


笑顔で言い切った。


そして、こっちに手を降りながら、先輩は走り去っていった。


なるほど…なぜあそこまで素直に私を帰してくれたのか、理由が今わかった。


つまり、『命の恩人である』という、最大の切り札だと思いこんでいた手札以外にも、私を説得させる切り札はまだ先輩の手中に残っていたのだ…!


たたた…っと、先輩が駆け足で去って行く足音が、薄暗い道路に響く。


「……はあ~…」


…どうやら、どうしても先輩は、私の憧れの先輩、っていうポジションには残ってくれそうにもないみたいだ。


って、え?


明日!?


なんで?

教室に乗り込んでくるとか、校門で待ってるとかはやめてほしいんだけど…

恥ずかしいし…


いやあの人ならやりかねない。


もう一度、はあ…と大きく溜息をつき…ふと、下をみる。

と…


「あぁっ!」


私が今着ているこのセーター。

これ……


「先輩のじゃん!」



第12話、お読みくださりありがとうございます。


はたして、ゆりちゃんは先輩に惚れているのか?

嫌いなのか?

気になってるだけなのか?


…ご想像にお任せします。


では次回、また平和な学校生活に戻ります。

しかし、さすがのゆりちゃんもスルーしがたいアクシデントが…


どうか、13話もよろしくお願い致します。


格孤でした。

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