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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋するリリアンナ

作者: みもこちと

リリアンナはあの美しい人を見た瞬間、恋におちた。


出会いは遠い大国の戴冠式。

リリアンナは、兄と共に数人の護衛と侍女を伴い賓客として参加した。


そこで見たのは、漆黒の髪に翡翠を嵌めたような瞳をもつ若き王フィレオ。


早世した先代の跡を継ぎ、堂々とした姿で冠を戴く姿はリリアンナの心を射止めるには十分だった。



国に帰ったリリアンナは、数えきれない各国からの求婚の手紙の中に、ひっそりと彼の王の側室を求めるものがあるのに気づき、一も二もなく飛びついた。


周りの者は皆、望めばもっと良い縁談がある。側室などやめておけ。と止めたが、リリアンナは聞かなかった。


リリアンナは、自惚れでもなんでもなく美しかった。

美貌を自覚した上で、利用するだけのしたたかさも持っていた。


顔さえ良ければ愛されるという妄想まではしなかったが、悪い扱いを受けない自信はあった。


何より、リリアンナは初めて恋した人の妻になりたかった。


彼の国が大陸でも巨大な勢力を持つ大国であったのも関係し、政略結婚としては良縁と家族はリリアンナの説得を諦め、彼女の意志を尊重した。


婚姻は滞りなくすすめられ、リリアンナは数人の侍女を伴い無事に恋しい人のもとへ嫁いだ。






リリアンナが嫁いで数カ月が経った。


彼女は見事に、フィレオの寵姫の座を手に入れていた。


王の後宮には他にも側室がいたが、いずれもリリアンナの敵ではない。

どんな女性も彼女の美貌に、羨望と嫉妬を見せ、表立って争う気にはならないようだった。


それでもやはり後宮は女の戦場。

影でリリアンナの所には彼女を亡き者とするための刺客が送られてきていた。


リリアンナの目の前で繰り広げられる一対一の剣戟。

しかし長くは続かず、小柄な方が刺客のナイフを弾き、相手の足を剣で刺した。

ついで崩れ落ちた刺客の頭に、近場の花瓶をぶつけ気絶させる。

体を探り隠し持つ暗器を取り上げて、手際良く縄で縛り上げた。


小柄な方、リリアンナの侍女は一仕事終えたとばかりに額を拭う仕草を見せて、こちらを振り返った。


「リリアンナ様!身の程知らずの刺客は私が無事成敗いたしましたのでご安心してください!ご褒美に誉めてください!あ、抱きしめてくださっても結構ですよ?」


さあ!と侍女は、念のため刺客を足で踏みつけながら、右手を右肩にあて、晴れ晴れとした笑顔でリリアンナに左手を広げる。


毎度のことながらリリアンナはひきつった顔しか返せない。


「寝言は寝ていいなさい、テレサ」

「はう、ありがとうございますリリアンナ様!美しいあなた様の口から出たお言葉ならなんでもご褒美です!」

「・・・・・・」


恍惚としているテレサの言葉にまたいつも通りリリアンナはどん引きした。






あっさり刺客を返り討ちにしたこのテレサはリリアンナの腹心の侍女だ。

自国にいた頃からリリアンナの側に仕え、嫁ぎ先にも躊躇いなくついてきた。


テレサは、リリアンナにとっては信頼できる侍女である反面、どうにも頭の痛い相手でもあった。


まず、テレサはリリアンナを好きらしかった。

敬愛とかではなく、まさにリリアンナがフィレオに向ける感情と同じように。

リリアンナは恋愛は人の自由だと思っているため、たいして拒否感はないが、受け入れる気もない。


テレサは、茶色の髪と目のどこにでもいるような女の子だった。

ただし、仕事は人並み以上にできるし、女ながら剣の腕もたつ(なぜなのか聞いてみたら「リリアンナ様のお役にたつため鍛錬しました!」と返された)

興味や妬みから害を受けることの多いリリアンナには助かる侍女であった。


常日頃から愛を捧げてくるうざさを除けば、彼女ほど使える侍女はそういないので、リリアンナはいろいろ諦めている。






ため息をつくリリアンナをよそに、テレサは刺客をつついて考え込み始めた。


「うーん、この刺客、誰からですかね。寵姫の暗殺なんて危ない橋わたりそうなのはカ二ティーア様かシロン様かと思ってるんですが。最近、恨み買うようなまねしましたっけ?」


カ二ティーアもシロンも側室の名前だ。

フィレオからそこそこの寵を得ていて、リリアンナとは盛大に仲が悪い。


「カ二ティーアでしょうね、たぶん」


心当たりがあったリリアンナは腕を組みうなずく。

対して、心当たりがないらしいテレサは不思議そうな顔をした。


「え、リリアンナ様。何か覚えが?」

「別に大したことじゃないのよ?あの人、前々回のお茶会の時間に私の好物のお菓子に紅茶ひっかけてきたでしょう。腹が立ったから一昨日のお茶会の紅茶に下剤を仕込んでやったの。ほら、その日は陛下がカニティーアの所に行く予定だったらしいから丁度良いと思って」

「それは恨まれますってリリアンナ様!でも、やられたら百倍返しするリリアンナ様も素敵です・・・!」


きゃー!抱いて!とわくテレサ。

俄かに部屋の外が騒がしくなる。


「あ、来ましたかね」


数人の慌てたような足音が近づいてきた。

お待ちください、もしやまだ刺客が、先に護衛を、など声も聞こえる。

テレサは一瞬だけ嫌そうに顔をしかめ、リリアンナは急いで髪とドレスを整えた。


「無事か!?」


勢いよくドアを開け飛び込んできたのは、予想通りフィレオだった。


慌てすぎていつもは綺麗に整えられた髪があちこちにはねている。


フィレオはリリアンナとテレサを見た後、テレサの足の下でのびている刺客を見つけて、顔をしかめた。


テレサへ鋭い視線をおくる。


「刺客の対処は女騎士に任せよ、と言ったはずだが」

「申し訳ございません、陛下。緊急事態でしたのでこちらで始末させていただきました。今後は出来る限り庭の外でお休みしている彼女達にお任せするように致します」


テレサは刺客から足を下ろし、深々と頭を下げる。


女騎士が刺客に気絶させられたらしいことに気づき、フィレオは苦虫を噛み潰したような顔をした。


あんまりな自分の侍女の皮肉にリリアンナが取り繕うようにフィレオに話しかける。


「陛下、申し訳ありません。このような騒ぎにお手を煩わせて」

「大した手間ではない」


フィレオはそっけなく言い、背後で入るに入れずにいた別の女騎士達に刺客を牢へ連れて行くよう指示する。

騎士に怪我人はいませんか?と聞かれて、リリアンナを見る。


「怪我はないか?」

「私は何も。テレサは?」

「私も大丈夫です。もう!心配してくださるなんてリリアンナ様優しいですね!」


テレサはリリアンナにだけ、明るい笑みを向けた。

可愛らしく組まれた両手が不自然に肩を隠している。


リリアンナが何か言おうとする前に、フィレオが動いた。

テレサがそのポーズのまま退室しようとしたのを止めて、手首を掴んで肩からどかす。


テレサの肩の小さく破けた服の下から赤い傷口が覗いていた。


リリアンナは息をのむ。

黒い侍女服のためじっくり見なければわからなかったが、テレサの肩から肘にかけて血が流れていたのだ。


リリアンナにはフィレオが強く眉をしかめるのが見えた。


「っいた、いたた。痛いです。手首、手首痛いです陛下!リアンナ様助けて下さい!」


フィレオがはっとしたようにテレサの手をはなす。


テレサは痛みをごまかすように手首をぐるぐる回している。


「手当てを」


フィレオはテレサの怪我をしてない方の腕を掴み、部屋の外へ引っ張った。


リリアンナもついて行こうとする。


だがテレサが押しとどめた。

フィレオの手を無礼にならない程度に触れ、はなさせる。


「大した怪我ではありません。医務室には騎士の方といきますので、大丈夫です」


フィレオには目もくれず、リリアンナの方を見て微笑む。


「すぐ戻ってきますからねリリアンナ様!ついでに刺客を締め上げて犯人もしっかり特定しときます!」

「でも、テレサ、大丈夫なの?」

「それは騎士がや」

「リリアンナ様が心配してくださるだけで幸せですよう!愛してます!では!」


フィレオの言葉を遮り、満面の笑みを浮かべ、リリアンナの返事も待たず、出て行くテレサ。

呆れるリリアンナは侍女の無礼を謝ろうと隣のフィレオを見た。

フィレオはテレサの走っていった先をただ見つめていた。







フィレオの姿に、リリアンナはなんとなしに国を出る前日のことを思い出した。


夕方に兄から呼び出され、二人だけで向かい合って、嫁ぎ先でも王女としての誇りを忘れないように体を大切にするように云々と長々説かれた。

一息ついたあと、兄は言いづらそうにリリアンナに聞いた。


「あー・・・リリアンナ、やっぱりテレサは連れて行くのかい?」

「?ええ、そのつもりですが。どうかしましたのですか兄様。何か不都合でも」

「いや不都合はないよ。ないが・・・いや何でもない。随分と長い付き合いだったからね、二人揃っていなくなってしまうのが寂しいのかもしれない」

「兄様」

「リリアンナ、君があちらへ言っても幸せであることを祈るよ。テレサにも伝えてくれるかな。どうか幸せに、と」

「・・・直接言いなさらないの?」

「うん、明日は忙しいからね。テレサと話をする暇はないだろう」


ならば今ここへ呼びましょうという言葉は飲み込んだ。

自分から伝えればいいだけだと。


あのときの兄が見せた悲しげな笑みがリリアンナは忘れられなかった。






リリアンナの強い視線に気づいたのか、フィレオはこちらを見た。

彼は不審げな表情を浮かべる。


「どうかしたか」

「いえ、ただ見ていただけですわ」

「そうか」


フィレオは、いつもリリアンナが見ている感情の読めない表情に戻った。

さっきまでのおかしなくらい慌てた、人間味のある様子はもう見当たらない。


リリアンナは整った顔を眺める。


リリアンナはフィレオを好きだと思う。

側室となり、彼の人柄を知り、さらに想いは強まった。


リリアンナがフィレオに手を伸ばす。


「陛下」


甘えるように首に腕をまわすと、抱きしめ返された。


「陛下、愛してます」


目をつむり、唇を重ねた。


リリアンナはフィレオを恋しいと思う。

たとえ、振り向いてもらえなくとも。


今の自分の顔は、きっとあの時の兄に似ている。

リリアンナは静かに思った。






後日、この後宮での事件の犯人はカニティーアであることが確定した。


陛下がこのことに酷く怒り、直々に刺客を処刑し、カニティーアを後宮から追い出したことで、人々はリリアンナが寵姫であることを再確認したという。


リリアンナはただ一人、苦い気持ちでそれを聞いていた。





読んでくださりありがとうございます!



書きながら、あれ?コメディ?これ本当にコメディ?となったので恋愛ジャンルになっています。


リリアンナ側から書いたらそりゃ暗くもなりますよね・・・。


テレサはこの段階では「ああもう!使えない王様ですね!寵姫が刺客に襲われたんですよ、侍女の怪我の前にそっちを慰めるでしょう!普通!まあ、リリアンナ様はまったく怖がってなかったですけどね!ああ、そんなリリアンナ様も素敵・・・!」と思ってます。にぶい。




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