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物語の外

夜明け前の空は、灰色だった。


紅月の色はもう消えている。

聖堂の石壁は湿り、粉を吹いていた。


誰も掃除をしていない。


床に落ちた刃は、そのままだった。

白布も、誰かが引き剥がしたのか、端がめくれたまま石に張りついている。


私は裸足で裏口に回った。


石の継ぎ目に染み込んだ血の色は、夜の間に黒く沈んでいた。

供物の位置は空のまま、誰にも片付けられていない。


そのとき、土を掻く音がした。


聖堂の裏庭。

耳を埋める場所だ。


七つの年に削がれた耳は、布に包んでそこへ埋める決まりになっている。

疫病の印を神に見せるため、と教えられた。


犬が一匹、穴を掘り返していた。


白く乾いたものが、朝の薄光を反射する。


耳だ。


私のものか、誰かのものかは分からない。

肉は朽ち、皮膚は灰色に縮み、骨のように硬くなっている。


犬はそれを振り回し、また落とし、匂いを嗅ぎ、すぐに別の場所を掘り始めた。


埋められていた理由を、思い出せないかのように。


背後から、声がした。


司祭ではない。


低い囁き。


「……どうする」


「別の(しるし)を」


「このままでは」


「次は、誰を」


振り返らなくても分かる。

彼らはもう、私を見ていない。


意味の置き場を探している。


私は自分の左耳に触れた。


傷跡は硬く、冷たい。

指でなぞっても、そこにはほとんど感覚がなかった。


供えられた印。

理由として扱われた欠落。


私は一歩踏み出した。


裸足の裏に、小石が食い込む。


「……っ」


鋭い痛みが走り、思わず息を呑む。


足裏の皮膚が裂け、温い血が滲んだ。

砂が貼りつく。


私は足を上げ、その赤を見つめた。


左耳の傷は、何も感じない。


足裏の傷は、まだ痛む。


背後で、誰かが言った。


「まだ間に合う」


だが、足音は近づいてこない。


彼らは、理由を失った供物に、手を伸ばせない。


私はもう一歩、踏み出す。


やがて村人の声は聞こえなくなり、聖堂はただの石の箱に戻る。


痛みは、まだあった。


それは祈りではなかった。


意味でもなかった。


ただ、そこにあるものだった。

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