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WARAU―トラウマ、所により集中拡散  作者: 田中葵
プロローグ
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プロローグ デジタル時代の“笑い”の代償

 岐阜県●市、ごく普通の公立中学校の放課後。静まり返った学習室の隅で、ノートとペンの音だけが小さく響いていた。しかし、その「静けさ」は、見えない炎が燃え盛る前の、不気味な静寂だった。


 机を囲む数人の生徒たちは、言葉を交わさない。ただひたすらに、お互いのノートに筆談でメッセージを記し、確認し合う。


「『あいつ』が、昨日の投稿で〇〇先輩の部活を『〇〇ごっこ』ってバカにした。最低だ」


「私たちのことも、『生きたまま土に埋めてやりたい』って裏アカで書いてた。スクショは?」


「ある。全部集めた。こいつは全部の被害者リスト」


 彼らの間で回覧されるノートの表紙には、殴り書きの文字でこう書かれていた。


「WARAU」


 それは、他人を無差別に嘲笑し、精神的に踏みにじる少年――田辺たなべ 翔太しょうたへの、静かで冷徹な告発状の草稿だった。デジタル空間の陰湿な笑いが、今、現実世界で、予想もしなかった方法でカウンターパンチを受けようとしていた。

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