さらば マキバ
ジャンヌは昨日のカーノセイとの鍛錬を思い出していた。
『エルメストに接近戦を仕掛けるから訓練に付き合って…』とカーノセイを連れ出して、短剣を使った闘いを練習するが、カーノセイには一撃も当たらなかった。
「もー!何で当たらないのよ〜!!」とジャンヌがむくれながら短剣を振るう。
カーノセイが笑いながら「お前の闘い方は顔と同じなんだよ」と軽くいなすと「顔と同じってどう言うことよ!?」とジャンヌが尋ねる。
「素直で綺麗すぎるってことだよ」とカーノセイが答えると「ば、ば、馬鹿言うんじゃないわよ!」とジャンヌが真っ赤な顔でカーノセイに食って掛かる。
「馬鹿言うんじゃないって…俺は間違った事は言わないぞ?」と、なおも続けるカーノセイに「もう、止めて〜」とジャンヌがへたり込んだ。
そんな2人を見ていたアナホルトとヨル、そして切り札になる武器を届けにきたハンマオは、マキバに蹴られないようにそっとその場を離れた。
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勝ち誇るエルメストが「どう、格の違いを思い知ったかしら?」と嘲笑う。
「私達は負けない。ベルゼブブにも…あの三ツ首のケルベロスにも!!」とジャンヌがエルメストを睨む。
「三ツ首のケルベロス?ホホホホ…三ツ首ね!」とエルメストが嫌らしく笑いながら、「さあ無様に散っておしまい」とジャンヌを睨み返した。
『無様…そうね。でも、私は無様でも勝ちを拾う』とジャンヌは地べたを這うように再びエルメストに近づくと、脚を狙って短剣を振るった。
思いがけない足元への攻撃にエルメストの態勢が崩れた。
「今よ!!」とエルメストに短剣を向けると、手元にあるボタンを押した。
それは、アナホルトとハンマオが作り上げた短剣型レールガンだった。
電磁の力で発射された刀身は、狙い違わずエルメストの右肩に突き刺さり、エルメストの右腕が吹き飛んだ。
ジャンヌは、最初の魔法の撃ち合いでエルメストに魔力を奪われて倒れた精霊達を見ながら「ズルいなんて言わないでね。貴女の闘い方は精霊の命を弄ぶ。どんな手段を使っても、私はそれを許さない」と倒れたエルメストに告げた。
「これで勝ったつもりか〜!!」とエルメストが叫び、「闇の精霊共よ妾にその矮小な生命を捧げよ」と残った左手を空に掲げた。
すると、精霊達の生命力が奪われ、エルメストの身体が修復されていく。
だが、ジャンヌは冷静に「女神様、今こそ授かったギフトを使います」と両手を空に掲げた。
【精霊王の怒り】と術を唱えると、エルメストの身体から魔力が光の粒となって抜け出し、周りで倒れていた精霊にその光が降り注ぐ。
すると、今まで倒れていた精霊が元気に飛び回り…エルメストがミイラのように干からびて倒れ込んだ。
「精霊の魔力を奪うなら、私は貴女の魔力を奪い精霊に返す」とギフトの力を行使したジャンヌは、冷静に「エア カッター」でとどめを刺し、エルメストを葬ると、ベルゼブブを封印するために取り決めた地点にジャンヌは向かった。
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「あの作戦をやるのじゃ」とヨルがマキバに告げる。
マキバがヨルを心配して首を振るが、「いくのじゃ、マキバ」とヨルが叫んだ。
「ヒヒーン!!」と一際高くマキバが嘶くと、ケルベロスが驚きマキバを見た。
「今じゃ…!」とヨルがケルベロスに向かって、光の咆哮を浴びせる。
眩い光が辺りに溢れ、誰も目を開けることが困難となる。
その瞬間、マキバがケルベロスに近づき、必殺のレールガンが発射された。
しかし…ケルベロスはレールガンに頭の一つを撃ち抜かれながら、残りの2つの頭からマキバに乗るヨルに向けて火の球を打ち出した。
必殺を狙い至近距離からレールガンを撃ったため、反撃の火の球を躱わすことが出来ず、火の球がマキバに跨るヨルを直撃した。
それを見たケルベロスが、残った2つの頭でニヤリと笑い「オーン」と勝利の雄叫びを上げた。
「所詮はケモノなのじゃ。『龍王の咆哮』を喰らうが良い」と横からヨルの声が聞こえた。
見ると、レールガンはマキバが咥え、ヨルはマキバから飛び降りた衝撃で、腕が違う方向に曲がり、しかも服を着ていなかった。
そう、光の咆哮を放った瞬間に、ヨルはマキバにレールガンを咥えさせながら、鞍に服を残して地面にダイブしていた。
ケルベロスに悟られないよう、マキバに力一杯投げ捨てられた衝撃で片腕が折れていたが、ヨルの放った『龍王の咆哮』はケルベロスの頭を吹き飛ばした。
「マキバよ。やったのじゃ」とケルベロスを見た時…ケルベロスの腹から四ツ目の頭が生えてきた。
思わず身体が固まるヨルに、容赦なく火の球が放たれた。
ヨルは思わず目を閉じてその瞬間(自分の死)を待つ。
だが、永遠とも思える刹那を経ても、その瞬間は訪れなかった。
そして、恐る恐る目を開けたヨルが見たものは、ケルベロスの火の球を受けながらも、ヨルを優しく見つめるマキバの姿だった。
「あのギフトを使うぞ」とヨルが両手を上げ、「【アドバンス ブローイング】」と唱えた。
それは、ヨルがこれからの一年間で溜めるはずだった魔力を前借りするギフトで、この先一年は魔力が溜まらず次に魔法が使えるには最低でも二年掛かると言うギフトだった。
「我が一年間かけて溜めるはずだった魔力を喰らうのじゃ!『龍王の咆哮』」とケルベロスに向けて、龍王ヨルムンガンドの咆哮が炸裂し、ケルベロスは跡形もなく消え去った。
ヨルが「マキバよ、痛かったのう。お陰で助かったのじゃ」とマキバに近づく。
するとマキバがその場に立ったまま、ヨルを取り決めた地点に向かい押し出した。
「どうしたのじゃ?ケルベロスの火の球が当たった所は大丈夫かえ?」と反対側に回ろうとするヨルを『心配いらないから先に行け』と言うように「ヒヒン」と嘶いた。
「マキバを置いては行けないのじゃ」と無理に反対側に回ったヨルが見たものは…ケルベロスの地獄の猛火に焼かれ、内臓までもが焼け爛れたマキバの姿だった。
「何が心配いらないなのじゃ。そうじゃ、アナホルトの【ホーリー】(聖魔法)なら助かるかも知れないのじゃ」とヨルが叫ぶ。
それを咎めるように『皆が自分の役割を果たせ』と言うように首を振った。
「じゃが、我の姿を見よ。このような幼女の身体では、マキバが一緒でないと何処にも行けぬのじゃ!!マキバよ、我を見捨てないで欲しいのじゃ」とヨルがマキバに縋り付いて泣き叫ぶ。
『さぁ、これまでの努力を無駄にしないで…』とマキバがヨルの背中を優しく押した。
「アナホルトをここに呼ぶから、必ずそれまで生きているのじゃ」と、片手は折れ傷だらけの身体を引きずるように、ヨルは取り決めた地点に歩き出した。
その背中に「ヒヒーン」と言う、高らかな嘶きが響き…そして静寂が訪れた。
カーノセイの闘いまで書く予定でしたが、自分で書いていながら感極まってしまい…ちょっと先が書けなくなりましたので今回はここまでにします。




