それぞれの闘い
ジャンヌはエルメストと対峙していた。
エルメストが嫌らしく笑いながら「この前やられたのをもう忘れたのかしら?」とジャンヌに話しかける。
「それに、今回はベルゼブブ様に御力を分けていただいたから…殺り過ぎちゃうかもね〜」
するとジャンヌが短剣を構えて「この命を賭けて…貴女を倒す!」と叫んだ。
「あははは…精霊魔法使いが短剣って何?プライドは無いのかしら。それに、そんな短剣程度で何とかなるとでも思っているのかしら?」とエルメストが笑いながら「さあ、闇の精霊ども…その力を妾に貢ぐが良い」と精霊から無理矢理に魔力を奪い取る。
「精霊さんお願い。私に力を貸して!」とジャンヌも周りの精霊から少しずつの魔力を借り受ける。
「エア スラッシュ」
「エア スラッシュ」
同じ魔法であれば、魔力の多い方が威力は勝る。
そして、威力に勝るのは闇の精霊の力を無理矢理全て奪い取ったエルメストだった。
『エア スラッシュ』がぶつかり合い、ジャンヌの魔法は打ち消されるが、エルメストの魔法はそのままジャンヌに襲いかかる。
しかし、前回の闘いでそれを経験していたジャンヌは、魔法を放つと同時に前方に転がりながらエルメストの魔法を掻い潜り間合いを詰めていた。
「くらえ!!」とジャンヌが短剣を突き出す。
エルメストがそれを躱しながら「魔法で勝てないから、接近戦にするつもりかえ?甘いのぅ」と、蹴りを繰り出し、「ダークエルフの女王たる妾が、肉弾戦に弱いとでも思ったか?」と自ら間合いを詰める。
肉弾戦に於いても、少しずつジャンヌを上回るエルメストに翻弄され、既にジャンヌの身体はボロボロになっていた。
『まさか、肉弾戦でもこんなに強いなんて…』と接近戦に持ち込んで倒す計画が通用しないことにジャンヌは焦っていた。
『何とか、エルメストの体制を崩して隙を作らなくては…』と焦る気持ちを落ち着かせた。
ーーーーーー
「ゴアァー」と3ツ首のケルベロスが唸る。
「躾の悪い犬っころじゃのう」とマキバに跨りヨルが呟く。
「さあマキバよ。我らであの犬っころを始末するのじゃ」とマキバの首筋を優しく撫でると『任せとけ』とばかりに「ヒヒン」とマキバが嘶いた。
『弾丸は6発しか撃てないから、良く狙ってね』とアナホルトに渡された武器を手にする。
それは、アナホルトがハンマオに頼んで作ってもらった、(コイル)と(電磁場)の力で弾丸を打ち出す武器『レールガン』だった。
『威力がありすぎて、銃身が6発しか持たないからね』とハンマオに注意され、『時間が無くて、それ一挺ともう一つの武器しか作れなかったから』と渡されたものだ。
「今の我の魔力では、ファイヤーボール程度の咆哮が撃てても2発が限界なのじゃ。つまり、武器は全部で8発じゃ…」と告げると「充分」とハンマオが答えた。
ケルベロスの3つの口から火の球がマキバとヨルに吐き出され、マキバがそれを軽快に躱しながらケルベロスに近づく。
「今じゃ!」とヨルが『レールガン』の引き金を引いた。
ケルベロスは、その銃身から醸し出された雰囲気に本能的に飛び退いた。
今までケルベロスが居た地面が爆破したかの様に穴が開き、『レールガン』の威力の凄まじさを物語る。
その威力を見たケルベロスは今まで以上に動き回り、ヨルに狙いを付けさせない。
気が付けば、『レールガン』の残弾はあと1発になっていた。
ーーーーーー
「剣神のギフトに敬意を表して、僕も剣で闘ってあげるよ」とベルゼブブが漆黒の剣を取り出した。
「舐めるな!!」とカーノセイが斬りかかるが、ベルゼブブはそれを余裕で躱しながら反撃してくる。
ベルゼブブが笑いながら「神を冠するギフトなら、もう少し頑張ってよね」と攻撃の手を緩めない。
カーノセイは始めの一撃以降は、防戦一方となっていた。
しかし…一見余裕があるように見えるベルゼブブだが、内心では『こいつの防御力どれだけ高いんだ?』と舌を巻いていた。
それは、(不撓不屈)により鍛えられた、決して折れない心が作り出したカーノセイの覚悟の現れであり、『俺には才能は無い。ならば泥臭く、相手が折れるまで俺は決して諦めない』と、どんな時にも鍛錬を絶やさなかったカーノセイの能力だった。
『魔法を使えば簡単なのだが…僕の魔力は蝿に預けているから、アナホルトに(固定)されていて使えない』と、一方的に攻めながらの膠着状態を打開する術がなかった。
そう、アナホルトは直接の闘いに参加はしていないが、そうとは知らずに最も重要な役割を果たしていた。
「坊や、段々手数が減ってきたぞ。この程度で疲れたのかな?」とカーノセイがベルゼブブを挑発する。
「一応は神の名が付くギフトだね。じゃあ、もう少し強めに行くよ」とベルゼブブが一際激しく剣を振るい…
2人の闘いは、果てることなく続くかと思われた。




