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兄は弟のためなら頑張れる(前編)

「グガー!!」と言う雄叫びを上げながら2匹の魔熊が倒れ、「やれば出来るじゃないの」とジャンヌの声が弾む。


すると、茂みの奥に隠れていたもう一頭の魔熊がジャンヌに向けて牙を向いた。

「危ない!」とカーノセイが声を上げるが、「精霊よ、を助けを討て!ウィンド カッター!!」とジャンヌが呪文を唱えると、風のやいばが魔熊を2つに切り裂いた。


「この程度の魔物で、私が危なくなると思った?」とジャンヌがカーノセイを睨みつけ、「人の心配をする暇があったら、もっと精進しなさいよね」とハッパをかけた。

カーノセイが「精霊魔法か…」とジャンヌを眩しそうに見ながら、「それで、次は何処を目指すんだ?」と尋ねた。


「神託では世界樹を目指すことになっているけど…その前に『試練』が待ち受けているらしいの」とジャンヌが周りを見渡しながら答える。

「なるほど。オーガや魔熊では試練にもならないと言う事か」と頷く。


その時、「見つけたぞ、アナホルト」と声が響き渡った。



『アナホルトだと?』と慌てて声のする方を見ると、大蛇の魔物であるサーペントを連れたダークエルフの男がこちらをにらんでいた。

「我はダークエルフ最強の戦士ニグル。エルメスト様のめいにより、貴様はここで排除する」とカーノセイを指差した。


『ターゲットの顔すら確認していない馬鹿みたいだが、勘違いしてくれて良かった。アナホルトの元には行かせん』とニグルに向かい剣を構える。


すると、「闇に落ち、秩序を乱すダークエルフども。ニーベルング様に成り代わり、貴様らを滅する」とジャンヌが叫び、「風よ切り裂け ウィンド カッター!!」とニグルに精霊魔法を仕掛ける。


「ふん、女神の駒に成り果てたエルフの魔法など効かぬわ」と手を振り払いながら「精霊よ、に平伏し力を寄越せ」と精霊の魔力をむしり取り魔法を唱えた。


2つの魔法がぶつかり相殺されるが、ニグルの魔法の方が威力が強く、ジャンヌが吹き飛ばされる。

辛うじて起き上がりながら「精霊様に何という扱いを…」とニグルをにらみつけた。


「所詮は女神の駒。そのようなおめでたい頭では…直ぐに死ぬぞ」と口元を歪め、「まあ良い。ならば貴様は我が相手をしてやろう。アナホルトの相手は…」とサーペントを見た。



ーーーーーー



『シュルシュル』と身をくねらせたサーペントがカーノセイに襲いかかる。

辛うじてその牙を避けながら剣を振るうが、サーペントの固い鱗に阻まれ傷一つ付けることができない。


するとサーペントが口元から二股の舌を出し入れし、『ニヤリ』と笑うような仕草を取る。

その姿に「舐めるな!」とカーノセイが懸命に剣を振るう。

サーペントが巧みにその身をくねらせ、その剣を避けながら、強力なその尻尾をカーノセイに撃ちつける。


カーノセイも、巧みな剣捌きでその尻尾をかわし、再びサーペントに剣を向けた。


自らの攻撃をからし、闘気を失わないカーノセイにイラついたサーペントが、突如空に向かい咆哮をあげた。


すると、魔の森の奥から無数の気配がカーノセイに押し寄せる。

慌てて剣をぎ、その正体を確かめると、それはトカゲの魔物バジリスクの群れだった。


サーペントとバジリスクの攻撃にさらされたカーノセイは絶体絶命のピンチだったが…その口元は笑っていた。

『元々凡人だった私が、この程度の危機にうのは当たり前のこと』と、迫り来る死の予感を無視して愚直に剣を振るう。


『敵が一万いれば、一万回剣を振る。一万回の剣撃で倒せぬ敵なら十万回の剣撃を与えるだけ』と付与された(※不撓不屈ふとうふくつ)の精神を失うことなく剣を振り続ける。

その愚直な剣の前に、いつしかバジリスクは全滅し、残すはサーペントだけとなっていた。


そして、カーノセイの澄み切った心が、遂に剣師の奥義に達する。

サーペントを切り裂く光の道に導かれるように「奥義シャイニング ロード」と剣を振るうと、サーペントが崩れ落ちた。



ーーーーーー



同じ時


「闇の精霊よ、力を寄越せ ウィンド カッター!」

「風の精霊よ、私を助けて ウィンド カッター!」

と、同じ精霊魔法がぶつかり合っていたが、ニグルの魔法は精霊の魔力をむしり取り放たれるが、ジャンヌの精霊魔力は精霊が分けてくれた魔力で放つため、その威力はニグルの精霊魔法が桁違いに強かった。


やがて、ニグルの足元には魔力を根こそぎ奪われ、打ち捨てられた精霊が山のように転がっていた。

「おやおや、貴様が無駄に逆らうから、可哀想な精霊達が増えているぞ。可愛い精霊達の為にも、さっさと殺られた方が良いぞ!」とニタニタと笑っていた。


ジャンヌは、ニグルの足元に横たわる精霊に涙しながらも、ニグルを倒す方法を考えていた。

いや…ジャンヌは既にその方法を知っていた。

そこに必要なのは、ジャンヌの覚悟だけ。

そう、ジャンヌの生命力そのものを魔力に変えた一撃を放つ覚悟を。

それが己が命を捨てることになる覚悟を。


それは、純粋な自己犠牲の魔法であり、闇に落ちたダークエルフでは到達することがない、献身を力とするエルフの奥義だった。



そして…覚悟を決めたジャンヌがニグルをにらみ、『後は任せたわよ、カーノセイ』と旅を続ける内に少しづつ好意を持った何処までも愚直な青年を想う。


「これが私の切り札よ」と両手で己を包み込み…

「生命魔法 セルフ サクリファイス」と唱えた。


その魔力は光の槍となり、ニグルを貫く。

そして、こぼれ落ちる光がニグルの足元の精霊に降り注ぐと、精霊達の魔力がよみがえり、再び宙を舞い出した。






そして、その姿を確認しながらジャンヌはその場に崩れ落ちた。







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