あれがあなたの好きな場所
「知らない天井だ」
あまりにも有名だが、実際に使うことはまず無いであろう言葉を呟き、私は目を覚ました。
「お兄ちゃん」「アナホルト様」「ご主人様」と声が掛かり、皆んなが私に抱きついてきた。
「ん?ご主人様?」の声がした方を見るとアリスが祈りのポーズをしていた。
私はとりあえず見なかったことにして「どのくらい時間が経った?」と尋ねる。
「お兄ちゃんが倒れてから2時間くらい」とリナが答える。
そして周りを見渡すが…居るはずの人影が見えない。
私が倒れる前に目に飛び込んできたのは、ヨルムンガンドの姿が消えて行く光景だった。
私は押し寄せる嫌な想像を振り払い「ヨルは?ヨルはどうなった?」と尋ねる。
するとその場の全員が下を向いた。
嫌な予感が…とその時「何処を見ておるのじゃ。我ならばここにおるじゃろうが」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
しかし、その姿は見えない。
「馬鹿もん!ここじゃ、ここ」とベッドの陰から、小さな角が覗く。
そこには、3歳児くらいのサイズになったヨルがプンスコと私を睨んでいた。
確かにそこは皆が見ていた(下)方向だった。
「あの程度で倒れるとは、修行が足りんのじゃ」と真っ赤に腫れ上がった目で私を睨んだ。
「ヨルも生きていたんだ。でも、随分と可愛くなったな」と笑いかける。
「再び魔力が溜まるまでは、この身体で我慢するしかないのじゃ」と不満げに応えた。
私は「よし、魔国へ急ごう」と小さなヨルを抱っこして、ベッドから立ち上がった。
ーーーーーー
私達が『初号機』の操縦席に着くと、ハンマオが最終点検をしている最中だった。
「ハンマオ、出発準備は整ったかい?」と尋ねると、「ご無事で何よりでした。いつでも出発できますよ」とサムズアップをした。
「よし、魔国に向けて出発するぞ」と私が声を上げる。
するとハンマオが「オーライ キャプテン。初号機形状変化システム稼働します」と告げると、両手を交差させたポーズを決め「チェンジ!リニアモード!!」と大声で叫びながら目の前の赤いボタンを押した。
すると、煙突が格納され、円形だった前面が円錐になり、操縦席が下に沈む。
「ゴー リニアモード! スターツッナゥ!!」と再びハンマオが叫ぶと、『初号機』は矢を放つようにトンネルを突き進んで行った。
そのノリの良さに私は嬉しくなり、ハンマオと2人で「「ゴー ゴー リニア初号機〜」」と歌い出す。
そんな私達を女性陣が冷めた目で見ながら「出発する度に、叫ばないとダメなのかしら?」「ボタン押すのにポーズいる?」「始めから、この型にしておけば良いのに!」と男の浪漫を理解しない呟きが聞こえる。
だが、この無駄な作業が、この無駄な数行が男の浪漫と信じて疑わない、私とハンマオだった。
ーーーーーー
「初号機をリニアに改良したんだな。びっくりしたよ」と上機嫌でハンマオに笑いかける。
「貨物車を引いているので、『流星』ほどの速度は無理ですが、パワーなら負けませんよ』とハンマオも嬉しそうだ。
「これが終わったら『初号機』は何処かの路線で復活させよう」と固く握手をした。
【ホーイ】(方位)で位置を確認し、魔王城の手前で『初号機』を止めると、斜め上にトンネルを掘り直して路線を敷く。
地上に出て【ホーム】(プラットフォーム)で駅を作り、外に出ると魔国の兵士が取り囲んできた。
「皆の者、ご主人様に無礼を働いてははならんぞ。直ぐに兄上を呼んで参れ」とアリスがその姿を見せると、アリスを心配していた兵士達が喜びの声を上げた。
「ご主人様って誰のこと?」と悩んでいると、「アリスよ、無事だったか!」と叫びながら男が近づいてきた。
「兄上、私はこちらのご主人様に助けられ、王国の支援物資を持ち帰る事が叶いました」と報告する。
「「ご主人様??」」と私とその男の声が重なり、その男の手が腰の剣に掛かった。
と、言うお約束を一通りこなして、魔王フレンコと皇女ジョセフィーヌの握手が交わされた。
ーーーーーー
茹だるような暑さが夕方になっても収まらない。
そんな暑さの中、私はこの魔国を確認するため、魔王城を出たところにある丘の上の公園に来ていた。
「海が近いんだな。あれは漁船か」と景色を見ながらこの暑さについて考えていた。
すると「ご主人様、こちらにおいででしたか」とアリスが近づいて来て「この、『港が見下ろせる小高い公園』は私のお気に入りの場所なんですよ」と笑いかける。
「いや、アリスさん。ご主人様って何ですか?」と尋ねると、「我が身は龍王ヨルムンガンド様に捧げました。そのヨルムンガンド様がアナホルト様に私をお渡しした以上、私の全てはアナホルト様の物にございます」と熱く私を見る。
『いや、どちらかと言うと、捕食者の目になってませんか?』との言葉を飲み込み、「そう言うのは忘れて、これからは明るく楽しい魔国に建て直すんでしょ」と笑いかける。
「私もそうしたいけど…この暑さが」と悔しそうに頭を振る。
「じゃあ…これでどうだ!」と私は両手を空に突き上げた。
「【フォール】(秋)」と私が唱えると、一陣の北風が2人の髪を揺らし、どこに居たのか、鈴虫の鳴き声が響き…辺りには『秋の気配』が訪れた。
「あなたはやっぱり私のご主人様です」と抱きつくアリスに、「あー、お兄ちゃんに何するの〜」とリナが叫び、「離れなさい。アナホルト様は私の伴侶になるお方ですよ」と皇女ジョセフィーヌまでが乱入してきた。
その姿見ながら「今回は助けられたみたいだな」とヨルが小さく呟く。
すると『龍王が居なくなると後が大変なので、ほんの少しだけ魔力を渡しただけですよ』と何処からか声がした。
『それに、魔国の状態も気になっていましたから…アナホルトも貴方もご苦労様でした』と言葉を残し、気配がなくなった。
その日、魔国では王国からの支援物資による炊き出しが行われ、久しぶりに魔人達に笑顔が戻っていた。
※現時点のギフト
ホール(穴掘り:空間含む)レベル4
(放る)
(集会所)レベル2
(亜空間倉庫)
※派生ギフト
ホールド(保持)
ボール(球)
ウォール(壁)レベル2
ウール(羊毛:用途)
ポール(柱)
ロール(回転)
(役割)
ファーム(農業)
オール(全て)(操舵)
エール(応援)
ホーリー(聖魔法)
ホーイ(方位)
モール(大型商業施設)
ホーム(拠点)
(家)
(プラットホーム)
レール(軌条)
コール(凍る)
ホーニュウ(豊乳)…注)封印
フォーム(形状)
トール(雷神)…注)使用制限有り
ホーク(鷹の目)
オーム(電気抵抗)(電磁場)
ホーキ(放棄)
フォール(秋)
※レベル特典
二重起動
今更ながら『初号機』に名前を付けておくべきだったと後悔しています。




