【幕間】ドラゴンを釣り上げよう
「にゃ にゃ にゃ」と猫獣人達が歌いながら歩いていると「見つけたのじゃ!」と声が掛かる。
「にゃ、にゃんだ?」と見ると、ヨルが猫獣人達を睨んでいた。
「最近、ドラゴンの塩焼き定食が出ておらぬようじゃが?…」と捕食者の目が猫獣人達に向けられた。
「ドラゴンは滅多に釣れないのにゃ。今シーエンの海に廻ってきている太刀魚は50cmくらいの小物ばかりにゃ」と慌てて説明する。
「小物の太刀魚は旨味が足らんのじゃ。ならば、代わりに貴様らを塩焼きにしてやろうかのう?」と牙を見せた。
その姿を見て「にゃ…にゃらば、船を出すから自分で釣ってみたら良いにゃ」とビビりながらヨルに提案した。
「面白い。その挑戦受けてやるのじゃ」とヨルの目が光った。
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それで、釣り大会になったのか?とヨルとリナが一緒に乗った船上でアナホルトが呆れる。
「あの時のヨルの目は、本気でにゃー達を喰い殺す目だったにゃ」「そうにゃ、せめて一匹はドラゴンを釣らないと生きて帰れないにゃ」と怯え、「この人数で竿を出せば、一人くらいはドラゴンも釣れるにゃ」と周りを見る。
そこにはシーエン村の漁船に乗ったバーモント村長に、ドックス村のドーバル村長にピーグルの姿もある。
反対側の漁船ではハンマオと弟子達に…「何をしているんですか?皇帝陛下と宰相閣下」と思わず二度見すると、「朕達はカツオを釣りに来た」とサムズアップしてくる。
最早嫌な予感しかしない状況で釣り大会が始まった。
猫獣人が「この『テンヤ仕掛け』にイワシを巻きつけて、底まで沈めたら、しゃくりながら上げるだけにゃ。簡単にゃ」と釣り方を教える。
「釣れぬではないか〜」とヨルが叫ぶと、「一回沈めただけで釣れる訳ないにゃー!釣りをなめるにゃ〜」と猫獣人が怒鳴る。
向かいの船では「兎獣人に負けるような犬獣人ではない」と謎の種族間闘争が勃発していた。
反対側では「朕が負けたら皇帝の座は譲ろう」と更に物騒な戦いが繰り広げられていた。
私は船が揺れるたびに抱きついてくるリナを支えながら、何とか竿を出していた。
すると、大きな魚影が私の仕掛けに迫ってくるのが見えた。
「ドラゴンにゃ」とその魚影を見た猫獣人が呟くと、「ドラゴンはどこじゃー」とヨルが大声で叫び、自分の仕掛けを私の横に投げ込んだ。
その勢いに驚いたのかドラゴンは逃げて行く。
私は「アナホルトの下手くそ!!」と叫ぶヨルに冷たい視線を浴びせ、再び仕掛けを沈め直した。
「来たのじゃ!!」とヨルの声が響く。
大きく竿がしなり、大物の気配が漂い、船上を緊迫感が漂う。
そして、その魚影が水面に現れると猫獣人達が騒ぎ出した。
「クエにゃ。大型のクエにゃ、超高級魚にゃ」と興奮が止まらない。
「おりゃ〜」とヨルがクエを釣り上げる。
猫獣人達の興奮がピークに達するが、「我が狙っているのはこれではないのじゃ〜!!」とクエを海に投げ返した。
「もう嫌にゃー、こんな奴らを相手に出来ないにゃー」と猫獣人達が泣き出す。
その時、「何か来たわ」とリナが竿を握った。
先程のクエ以上に曲がる竿先に、アナホルトとヨルが手を貸すと、少しずつだが漁影が見えてきた。
「ドラゴンにゃ」と呟く猫獣人と私達の前に姿を現したのは、正にドラゴンだった。
「お呼びでしょうかヨルムンガンド様」と尋ねる海竜に、「貴様は呼んでないわ〜」とヨルが海竜の頭を掴み、遥か彼方に投げ飛ばした。
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本日の第一回釣り大会の優勝者は…と猫獣人が溜を作り…
「リナの優勝にゃ〜」と発表した。
あの時に釣り上げたドラゴンが、『ヨルムンガンド様への貢物』と言ってドラゴンを100匹献上した上、毎日100匹を持って来ると約束した。
これが、最初にドラゴンを釣り上げたリナのポイントになり、優勝がリナとなったのだ。
私は優勝者のリナにトロフィーを渡しながら、第二回の開催を絶対に阻止すると心に誓っていた。




