やっぱりドラゴンには憧れるよね
その空間は、天井が高く解放的で、壁と天井に移植された光苔により、柔らかな光に包まれていた。
広い通路の両脇に店舗スペースが設けられ、肉屋に八百屋、魚屋はもちろん、ドワーフの鍛冶屋やポーションを置いた薬屋、服屋に雑貨屋などありとあらゆる物が販売され、少し奥まった所には、椅子とテーブルが並べられた飲食スペースに料理店も完備されていた。
「何と…ドワーフの鍛冶屋があるではないか。無造作に刀が積まれているが、王城にある国宝の刀より切れそうでないか?」と皇帝陛下が驚く。
「こちらの薬屋のポーションも、王都では見たことがない品質ですぞ」と宰相閣下も目を向く。
「アナホルトよ。この施設は一体何なのじゃ?」と皇帝陛下が私に問いただしてきた。
私は皇帝陛下をここに連れてきた理由を静かに語り始めた。
「私はノービル辺境伯から追放された時、魔の森の開拓をする様に言われ、ハセースル アナホルト辺境土を名乗るように命じられました」と話を切り出す。
「与えられたギフトは【ホール(穴掘り)】でしたが、この地を開拓するのには最適なギフトでした。恐らくは女神からもそのためにこのギフトを授けていただいたのでしょう」
「ところで・・・」と皇帝陛下に問いかける。
「陛下は、この魔の森の役割をご存じでしょうか」
「魔の森の役割じゃと。魔物に怯え、木々の繁殖を止めるのにも手を焼くこの森にどのような役割があると言うのじゃ?」と皇帝陛下が答える。
「この世界は魔素と魔石によって支えられています。この魔素を作りだしているのが魔の森の木々であり、魔素を吸収して魔石にしてくれるのが魔物です」と答える。
「すなわち、魔の森はこの世界にとってなくてはならない存在なのです」と告げる。
「なんと、魔の森にそのような役割があるとは・・・」と皇帝陛下が唸る。
「かと言って、手つかずに放置すれば、人族を初め獣人達は生存できなくなります」と語り「つまり、バランスを取りながら間引きをすることが必要で、恐らくは女神の差配により、その為に獣人達が魔の森に集落を作っていると考えられます」とこれまでの魔の森での経験からの推測を語る。
「しかし、特に人族の欲望は際限がなく、大きな力を持てば、その力を持って魔の森を侵攻するでしょう」と周りを見渡す。
「そのための備えの拠点、魔の森の獣人達の団結の象徴が、ここ【モール(大型商業施設)】なのです」と力強く宣言した。
「ここでは、魔の森の獣人達が自分の村で作った作物や獲物を持ち寄り、他の村との交易をおこなっています。つまり、ここを拠点とした一つの集落『ハセースル連邦』を形作っていると言えます。魔の森に対して不条理な侵攻があれば・・・獣人族の全てが団結し、それを排除するための備えと言えます」と皇帝陛下の目を見据える。
「それは、朕や王国に対しての脅しかね、ハセースル辺境土?」と皇帝陛下の言葉が氷のようにアナホルトに突き刺さる。
「そうはならないと信じたからこそ、皇帝陛下をここに案内し、私の考えを述べました」とアナホルトが頭を下げる。
『なるほど、正に女神の神子様に相応しいか』と納得した皇帝陛下が「アナホルトよ、そなたを魔の森の統治者として任命する。今後はハセースル魔境伯を名乗るがよい。身分は侯爵とする」と皇帝陛下が笑いかけた。
そこに「にゃ にゃ にゃ」と気の抜けた歌声が響く。
「アナホルト様、今日は『ドラゴン』が大漁にゃ」と満足そうに報告してくる。
「おー、ドラゴンか。塩焼きでも煮付けでも美味しいな」と猫獣人に笑いかける。
すると皇帝陛下と宰相閣下が慌てて「「ドラゴンじゃと~!!」」と声を揃えて叫ぶ。
私は慌てて「陛下、『ドラゴン』と言うのは大型の太刀魚の別称です」と説明するが、しばらくは『ドラゴンが大漁とは…』と騒めきが収まらなかった。
「では、その『ドラゴン』を相伴に与ろうかのう」と皇帝陛下が先頭に立ち、イートインコーナーに向かうと、何やらざわざわと声が聞こえる。
「すげーぜ、あの娘。あんなに小さい身体で『ドラゴンの塩焼定食』を10食もたいらげたぜ」
「いや、まだ御代りするみたいだ・・・」と騒いでいる。
話題になっている女の子を見ると、小さな身体に立派な角が生え、太い尻尾が揺れていた。
「美味い、美味いぞ~。ドラゴンは最高じゃ〜」と叫びながら『ドラゴンの塩焼定食』を貪るように食べていた。
私と皇帝陛下、宰相閣下が近づくと食べるのを止め「且方がアナホルトか。先ほどの言葉、見事であった」と小さな身体を反らせた。
「そして皇帝よ。且方もアナホルトの言を受け止めたこと、褒めて遣わそう」と更に身体を反らせる。
『ちょっと突いたら後ろに倒れそうだな』と考えていると「皇帝陛下に対して無礼な・・・」と宰相閣下が烈火のごとく怒る。
皇帝がそれを手を振って宥め「あなた様は?」と尋ねる。
「我は魔の森の守り神。龍王ヨルムンガンドじゃ」とその赤い眼を光らせた。
その場に控えようとする皇帝に「そのようなことは無用じゃ。それよりも且方達も『ドラゴンの塩焼き定食』を味わおうぞ」と全員を席に座らせた。
『ドラゴンで龍王が釣れるのか』と突っ込みそうになるが、身がホロホロにほぐれ、しょうゆとの相性が抜群の『ドラゴンの塩焼き定食』の前に言葉は出なかった。
※現時点のギフト
ホール(穴掘り:空間含む)レベル3
(放る)
(集会所)レベル2
※派生ギフト
ホールド(保持)
ボール(球)
ウォール(壁)レベル2
ウール(羊毛:用途)
ポール(柱)
ロール(回転)
(役割)
ファーム(農業)
オール(全て)(操舵)
エール(応援)
ホーリー(聖魔法)
ホーイ(方位)
モール(大型商業施設)
ホーム(拠点)
(家)
(プラットホーム)
レール(軌条)
コール(凍る)
ホーニュウ(豊乳)…注)封印
フォーム(形状)
トール(雷神)…注)使用制限有り
ホーク(鷹の目)
※レベル特典
二重起動
まさか、こんな所でドラゴンが出てくるとは?
もはや、制御不能の展開になってきました。
アナホルトがこれからどう動くのか、私にもわからなくなってしまいました。




