北欧神話からやってきました
体長5mの魔熊が立ち上がり手を広げると、ほとんど一軒の家が覆い被さってくる程の迫力がある。
魔熊が私達に向かい手を振る。
私は慌てて【ウォール(壁)】と唱え、目の前に壁を作る。
レベルも上がり、分厚くなった壁を魔熊は一撃で叩き壊す。
『ウソ〜?足止めにすらならないの』と驚きながらも、他に手が無いので【ウォール(壁)】を連発する。
私の後からリナと髭モジャの小さいおじさんが弓を放つが、分厚い毛皮に阻まれ矢は全て弾かれる。
それでも少し隙が出来たのを見て【ホール(穴掘り)】と足元に落とし穴を掘る。
しかし、魔熊は野生の本能か、恐るべき俊敏さで横に飛び落とし穴を避けた。
『オーガも魔熊も…この世界の魔獣は反応良すぎない?』と舌を巻くが、感心している場合ではない。
しかも、【ロール(回転)】を加えた『ファイヤー放る』も『スピア放る』も、魔熊の分厚い毛皮を貫くことは出来ない。
逃げだそうにも、背中を向けた瞬間にあの俊敏さで襲い掛かられたらアウトだ。
正に絶体絶命の状況に冷や汗が止まらない。
『何とかリナだけでも…』と魔熊を牽制しながら考える。
その時『ピコン』と脳内に響く通知音。
『ギフト保持者の生命の危機を感知しました。派生ギフト【トール(雷神)】が限定解放されます』とアナウンスが流れた。
『限定解放?』と疑問が浮かぶと、『ピコン』と通知音が響き『このギフトは絶体絶命の危機に遭遇した場合にのみ解放されます』と説明が流れた。
説明を聞いた私が【トール(雷神)】と唱えると北欧神話の一柱、雷神が私の身体に憑依する。
そして、私に憑依した雷神が魔熊に向かい「我が一撃を喰らうがよい」とミョルニルの槌を振う。すると、槌の先から雷が発生して魔熊を貫いた。
魔熊が倒れ、雷神が私から離れるのを感じながら、リナと髭モジャの小さいおじさんを振り返る。
するとリナが泣きじゃくりながら私に縋りついてきた。
私は泣きじゃくるリナを宥めながら、倒れた魔熊を改めて確認する。
『熊と言うより、最早怪獣のレベルでは?』と思うほど、その魔熊の存在感は大きい。
その隣では髭モジャの小さいおじさんが申し訳なさそうに魔熊を見ながら俯き、「魔熊を押し付けるみたいになって申し訳ない」と土下座してきた。
この髭モジャはカジューシと言う名のドワーフで、鍛治に使う素材を探して魔の森を10人の仲間達と探索していたらしい。
トイレのため、仲間から少し距離を置いたところ、そこに運悪く魔熊が現れ、仲間と逸れて逃げてきたとのことだった。
人影が見えたのを仲間と勘違いし、私とリナの方に逃げてきたとのことで、あの状況ではやむを得ないとも言える。
そもそも、魔の森の奥地に人が居れば仲間と勘違いしても仕方ない。
私は土下座するカジューシを立たせて笑いかけ、「ところで、仲間達と合流は出来そうかな?」と尋ねる。
「いえ、無我夢中で逃げ出したので、仲間の位置はわかりません。村はあの山の麓なので、村への帰り道はわかるのですが、1人でこの森を抜けるのは…」と縋るように私を見る。
カジューシがあの山の麓と指し示す山は、遥か彼方に見えた。
『なるほど、1人であの山まで行くのは無理だな』と納得した。
すると『ピコン』と通知音が流れ、『格上の魔獣を討伐したため派生ギフト【ホーク(鷹の目)】が解放されます』とアナウンスが流れた。
「【ホーク(鷹の目)】」と唱えると、魔の森を上空から眺めた画像が脳内に展開した。
そのまま目を凝らすと…ドワーフの集団が周りを探りながら歩いているのが見えた。
私はカジューシに「こっちにお仲間がいますよ」と仲間のところに案内することにした。
「生きていたか」「心配したぞ」とカジューシの姿を見て、ドワーフの集団が口々に叫ぶ。
そして、カジューシから経緯を聞いたドワーフから礼を言われた。
自己紹介をすませると、ドワーフの集団のリーダーと言うドワンゴから相談を受ける。
「坊ちゃんみたいな子供と、お嬢ちゃんが俺たちの村を目指しているとは、正直言って信じられないが、魔熊を倒せる程強いとはな」と驚く。
「ところで…倒した魔熊の素材だが、少し分けてもらえないだろうか?」と聞いてきた。
「私がドワーフの村を目指しているのは、鉄鉱石を手に入れるためです。鉄鉱石との交換で如何でしょう?」と尋ねると「もちろん大丈夫だが、どうやって持ち帰るつもりだ?」と聞いてきた。
私が亜空間倉庫から魔熊を出して、「この倉庫に入るだけと、トロッコを引いてるのでそれに積んで帰れるだけ欲しい」と答える。
亜空間倉庫に驚きながらも、「トロッコ?」と尋ねるドワーフ達を、掘りかけのトンネルに案内した。
トンネルに入ったドワーフ達が目を瞬かせて驚くが、私がギフトでトンネルを掘ると『俺たちより穴掘りが上手いだと?』と、顎が外れそうになる程驚いていた。
そこからは、光苔の移植をドワーフに任せて、ひたすらトンネルとレールを前に進める。
ドワーフ達の協力もあり、予想よりも遥かに早くドワーフの村の横にトンネルの出入り口を設置することができた。
ーーーーーー
『飲むぞ〜』『火酒を回せ〜』『魔熊の素材は俺が使うぞ〜』『ドワーフより穴掘りが上手い奴が来ただと〜?』と洞窟内の広場に村中のドワーフ達が集まり宴会が始まる。
土産に持ち込んだ魚の干物は、初めての味覚に争奪戦が繰り広げられていた。
そこにドワンゴとこの村の村長のブリンゴがやってきた。
「アナホルト様、この度は仲間を助けて頂きありがとうございました。しかも、魔熊まで頂き…」とブリンゴが恐縮して頭を下げた。
『あんな大きな魔獣を入れたら、肝心の鉄鉱石が入らなくなるから…』と内心で呟き、「いや、気にしないでください」と笑う。
そんな私にブリンゴが、「鉄鉱石をお求めと聞きました。お好きなだけお持ち帰りください」と礼を言い、「ところで…」と話を振る。
「蒸気機関車と言うのは見てみないとわかりませんが、あの馬に引かせたトロッコは素晴らしいです。あれを、炭鉱の奥まで引き込めないでしょうか?」と相談してきた。
「レールを敷くのはギフトで簡単にできる」と答えると、トロッコは自作出来るらしい。
しかも、お礼にドワーフ達が飼っているラマを番で2組と、それに引かせるトロッコを4台作ってくれると言ってきた。
最終的に私の亜空間倉庫に詰め込んだ分と、マキバに加えて、4頭のラマに引かせた計5台のトロッコに鉄鉱石を乗せてアナホルト村に帰ることになった。
また、トンネルの線路がドックス村からアナホルト村まで続いたことから、蒸気機関車が完成するまでの間は、ドワーフ達がトロッコを使えるようにした。
「蒸気機関車が完成したら伝えますので、その時にはトロッコは外してくださいね」と言い残し、ドワーフの村を出発した。
先頭をマキバが歩き、その後ろを4頭のラマがトロッコを引きながらドナドナと続く。
最初の予定よりも沢山の鉄鉱石を持ち帰ることができ、『光2号、光3号…』と夢が広がる。
そしてリナが前方を指差した。
「お兄ちゃん、出口が見えたよ」
トンネルの中から見えるアナホルト村は、まるで光に溢れているように輝いて見えた。
「ただいまアナホルト村」と私はそっと呟いた。
※現時点のギフト
ホール(穴掘り:空間含む)レベル3
(放る)
(集会所)レベル2
※派生ギフト
ホールド(保持)
ボール(球)
ウォール(壁)レベル2
ウール(羊毛:用途)
ポール(柱)
ロール(回転)
(役割)
ファーム(農業)
オール(全て)(操舵)
エール(応援)
ホーリー(聖魔法)
ホーイ(方位)
○ール(※※※※※※)
ホーム(拠点)
(家)
(プラットホーム)
レール(軌条)
コール(凍る)
ホーニュウ(豊乳)…注)封印
フォーム(形状)
トール(雷神)…注)使用制限有り
ホーク(鷹の目)
※レベル特典
二重起動




