第7話 『最初のスタッフ』
「やはり、人手が必要ですね」
市場の一角に設けた簡易事務所で、翔太はため息をつく。説明会から3日、魔法配送会員は20人を超えていた。小規模な商人が中心だが、評判を聞きつけた一般市民の加入も始まっている。
「人手というより」フィリアが魔法で浮かべた配達予定表を見つめる。「魔法を使える助手が欲しいところです。この保存魔法を私一人で全部は...」
「確かに」翔太も頷く。「フィリアさんの魔力にも限界がありますから」
その時、事務所の入り口で小さな物音がした。
「あら?」
振り向いたフィリアの目の前で、青いスライムが跳ねていた。珍しいことに、その背中には小さな荷物が載っている。
「これは...配達中?」
翔太が興味深そうに覗き込む。
「あ、驚いた?」スライムが楽しそうに跳ねる。「僕、ポップっていうんだ!」
「えっ!?」
翔太は思わず後ずさった。スライムが人間の言葉を...?
「え?」今度はスライムが首をかしげる。「当たり前じゃん」
「あ、そうなんです」フィリアは自然な様子で説明を加える。「魔力を持つスライムは人間と同じように会話ができるんですよ」
その時、赤いスライムが入ってきた。
「おい、ポップ!勝手に先行くなよ!」フレアが熱く叫ぶ。「オレたち、ちゃんと仕事欲しくて来たんだぜ!」
続いて緑のスライムが慎重に入ってくる。
「理論的に考えますと」リーフが得意げに。「私たちスライムの体格と機動力は、配達業務との相性が89.7%と非常に高いのです!第一に...」
「もう、うるさいわね」白いスライム、ルナが優雅に割り込む。「要点だけ話せばいいのよ」
「私も、お手伝いさせていただけますか?」紫のスライム、ミストが静かに申し出る。
事務所は突然、賑やかになっていた。
翔太とフィリアは顔を見合わせる。予想外の戦力候補の出現に、二人とも言葉を失う。
「あの」ポップが元気よく。「結衆社って、みんなを結ぶ会社なんでしょ?」
「え? ええ、そうですが」
「だったら」ポップが真剣な表情になる。「僕たちも仲間に入れてよ。人間だけじゃなく、スライムも結んでほしいな」
その言葉に、フィリアの目が輝いた。研究所では異端視されがちだった彼女の魔法研究。それが今、思いがけない形で新たな可能性を見せ始めている。
「実は」ミストが静かに言う。「私たち、フィリアさんの保存魔法に惹かれて来たんです」
「そうだぜ!」フレアが興奮気味に。「オレたち、魔法との相性がすごくいいんだ!」
「理論的には、スライムの体内構造と魔法の波長が...」
「黙りなさい」ルナが遮る。「とにかく、私たちにも何かできるはずよ」
翔太は、仲間たちの様子を見つめていた。異世界でビジネスを始めた時、彼は想像もしていなかった。人と人だけでなく、種族の壁さえも越えていくことになるとは。
「結衆社は、すべての存在を結ぶ場所だ。種族なんて関係ない」
「やったー!」
「熱いぜ!」
「理論的勝利です!」
「まあ、がんばりましょう」
「よろしくお願いします」
こうして、結衆社に最初のスライムスタッフが加わった。
メリッサの警告が頭をよぎる。確かに、これから様々な困難が待ち受けているだろう。
でも、こんな素晴らしい仲間たちとなら——
翔太は、新しい未来への確かな手応えを感じていた。
(続く)