第6話 『市場での説明会』
「本日は、魔法保存実験にご協力いただき、ありがとうございます」
市場の広場で、翔太は集まった商人たちに向かって話し始めた。結衆社の噂は、すでに広がっているようだ。予想以上の人数が集まっていた。
フィリアは翔太の隣で、実演の準備を整えている。新鮮な野菜、魚、果物が並べられ、それぞれに保存魔法がかけられていた。
「まずは、保存効果の実験をご覧ください」
フィリアが杖を振ると、魔法のオーラに包まれた食材が、淡く輝き始める。
「この状態で6時間、鮮度を保てます」
「それって」野菜売りの店主が声を上げる。「朝採れの野菜を、離れた村まで...?」
「はい」翔太は温かな笑みを浮かべる。「そして魔法配送会員になっていただければ、送料無料で配達させていただきます」
「無料だと!?」市場が騒然となる。
翔太は説明を続ける。
「月額銀貨3枚。その代わり、保存魔法付きの配送が使い放題です」
ざわめきが広がる中、突然、人だかりを掻き分けるように商人ギルドの役人たちが割って入ってきた。
しかし今度は、監査官ではなく、もっと位の高そうな女性が前に出る。
「結衆社...」女性が意味ありげに微笑む。「面白い試みですわ」
「あなたは...」
「商人ギルド副総裁、メリッサ・ヴァンドールと申します」
場の空気が一瞬で張りつめる。
「保存魔法による配送。確かに革新的な発想ね」メリッサが品定めするように二人を見る。「でも、そんな小規模な実験で、この世界の物流が変わると?」
「はい」翔太は静かに、しかし確固とした声で答える。「私たちは、必ず変えてみせます」
「人々を結ぶ魔法で」フィリアも杖を強く握る。
メリッサは意外そうな表情を見せた。そして...。
「楽しみですわ」彼女は優雅に言う。「あなたたちに、どこまでできるか」
去り際、彼女は低い声で付け加えた。
「でも、商人ギルドは手加減しませんよ。覚悟はおありで?」
その言葉に、市場は一瞬静まり返る。しかし...。
「私が第1号会員になります!」
野菜売りの店主が手を上げた。
「うちも加入を!」
「私たちの店も!」
次々と声が上がる。
「みんな...」フィリアの目に、涙が光る。
翔太は静かに頷いた。たとえ商人ギルドという大きな壁が立ちはだかろうとも、彼らには確かな味方がいる。
「行きましょう」
「はい。私たちの魔法で、みんなを結んでいきましょう」
朝日が昇る市場に、新しい時代の幕開けを告げるように、保存魔法の光が煌めいていた。
(続く)