第5話 『魔法配送証』
「無許可での配達業は違法です!」
宿の前で、商人ギルドの監査官が声を張り上げていた。背後には数名の役人。翔太とフィリアは、玄関で向き合う形になっていた。
「申し訳ありませんが」翔太は丁寧に答える。「私たち結衆社は、正式な魔法サービス業として...」
「結衆社?聞いたことのない名前だが」
フィリアが一歩前に出て、銀色の杖を掲げた。
「魔法研究所準研究員、フィリアと申します」
杖が淡い光を放つ。魔法使いの身分を示す証印が、空中に浮かび上がる。水晶のような六角形の中に、複雑な魔法陣が描かれている。
「こちらが私の研究許可証。保存魔法の研究と実地応用が認められています」
監査官は資料に目を通し、歯噛みする。
「だとしても、これは明らかな配送業では?」
「いいえ」フィリアの声に迷いはない。「保管した物品の移動実験です。魔法の効果検証のための」
しかし、その時。
「フィリア!」
新たな声。研究所の上級研究員が、厳しい表情で歩み寄ってきた。
「まさか、あなたの保存魔法をこんな用途に...」
「上級研究員様」フィリアが真っ直ぐに答える。「これこそが、魔法の本来あるべき姿だと考えています」
「なんだと?戦闘魔法の研究もせず、これほど非効率な...」
「効率?」今度は翔太が前に出る。「毎日の暮らしを支える魔法は、もっと価値があるはずです」
監査官と上級研究員、二つの圧力の中で、フィリアはゆっくりと杖を構えた。
「私の研究は、人々を結ぶため。それを証明してみせます」
杖から放たれた光が、準備していた荷物を包み込む。これまでより遥かに安定した、美しい保存魔法。
「これが...」上級研究員が目を見開く。
「はい。理論と実践の融合です」
その輝きに、両者とも言葉を失う。
「覚えておきなさい」
去り際、監査官は低い声で告げた。
「商人ギルドは、この程度では諦めませんよ」
上級研究員も、複雑な表情で立ち去っていく。
「私たちも、諦めません」
翔太の声は穏やかだが、強い意志が感じられた。
「結衆社の名の通り、この魔法で人々を結んでみせます」
フィリアは、翔太の横顔を見つめていた。研究費のためと思っていた仕事。その意味が、少しずつ変わり始めている。
「ショウタさん」
「はい?」
「私も...本気でみんなを結びたいです。この魔法で」
彼女の声に、迷いはなかった。
二人の前には、まだ多くの障壁が待っている。しかし、その一つ一つが、新しい可能性を開くはずだ。
(続く)