第2話『運命の出会い』
「すみません、この宿ってまだ空室ありますか?」
夕暮れ時の宿屋で、翔太は店主のグレッグに声をかけた。転移してから丸一日。道案内の手伝いをして得た少額の銀貨を、宿代に充てることにした。
「通貨の価値も、やっと分かってきたところだ」
彼は内心で呟く。昨日から、まずは市場調査として様々な店を回り、配送料金の相場、取引の仕組み、そして何より、この世界の物流の現状を探っていた。
「ああ、あいてるよ。一泊銀貨3枚だ」
「ありがとうございます」
銀貨を支払い、翔太は二階の一室に案内された。小さな部屋だが、窓からは街の様子が見渡せる。何より、商人ギルドの配送取次所が目の前にある。
「よし、まずは...」
手帳を取り出し、これまでの観察結果を書き出す。
『配送システムの問題点:
・高額な送料(一般人の数日分の給料)
・ギルドによる独占
・地域格差
・配送時間の不安定さ
改善案:
・効率化による...』
「うーん…。効率化するには…」
呟きながら宿の外に出ると、一人の若い女性が配送取次所から出てきた。銀色の杖を持ち、同じく銀色の髪をした知的な雰囲気の女性だ。
どうやら何かトラブルがあったようで、彼女は困ったように書類を見つめている。
「この保存魔法では...研究所の基準に」
彼女の独り言が聞こえてくる。書類を見るのに没頭しているのか、周りも見ずに歩き始めた。
その時、彼女の持つ荷物がバランスを崩す。反射的に翔太は走り出した。
「危ない!」
「え? あ...!」
驚いた様子で振り向いた女性の背後から、荷物が落下――その瞬間、銀色の杖が光を放った。
「タイムストップ」
荷物が宙に浮いたまま、静止する。
「これが...魔法?」
「はい。保存魔法の一種です」
魔法使いは優雅な動作で荷物を受け取りながら、研究者らしい探求心に満ちた目で翔太を見つめた。
「私、フィリアと申します。魔法研究所の...」
彼女は少し言葉を濁す。
「あ、今は準研究員ですが。保存魔法の実用化研究をしていまして」
「保存魔法というのは、荷物を保管できる魔法なんですか?」
翔太の物流担当者としての直感が反応する。
「はい。物品の状態を一定時間、保持する魔法です。でも...」
フィリアは諦めたように肩を落とす。
「研究所では、こんな地味な魔法は軽視されて。戦闘魔法や派手な魔法ばかりが評価される中で...」
「いや、それは違う」
翔太の言葉に、フィリアが顔を上げる。
「その魔法は、世界を変えられる可能性がある」
「え?」
「生鮮品の配送、温度管理の問題、配達時間の制約...」
現場での経験が、次々と言葉となって溢れ出る。
「それを魔法で解決できれば...」
フィリアの目が、少しずつ輝きを増していく。
二人の出会いは、偶然ではなかったのかもしれない。




