第1話『異世界の衝撃』
「配送料金は金貨1枚になります」
その言葉に、翔太は思わず計算機を探そうとした。しかし、スーツのポケットには、現場時代から使っていた社員証しかない。
目の前では、山高帽のような帽子を被った男が、にこやかに料金を告げている。周囲を見渡すと、そこは見知らぬ石畳の街。中世ヨーロッパのような建物が立ち並び、行き交う人々は剣や杖を携えている。
(落ち着け...状況を整理しよう)
配達員時代に叩き込まれた冷静な対処。翔太は深いため息をつく。
「金貨1枚というと...?」
「ああ、旅人さんですか。」男が笑みを浮かべる。「一般的な職人さんの5日分の給料ぐらいですよ」
翔太の物流担当者としての職業病が発動した。
(物荷の大きさは段ボール一箱程度、届け先は徒歩30分...これはどう考えても...)
「これが商人ギルド公認の正規料金ですから」
男の言葉に、翔太の中で何かが引っかかる。配達員時代、彼は過疎地域の配達も担当していた。確かに配送コストは高くなる。でも...
「他の配送業者は...?」
「ああ、この地域の配送は全て商人ギルドの管轄下ですよ。独占が認められてるんです」
その瞬間、背後で大きな影が通り過ぎた。振り向くと、空を舞う巨大な翼竜。その背中には、何やら荷物らしきものが積まれている。
「あれは配送用のドラゴンです。魔法で操られているんですよ」
「魔法...ドラゴン...」
現実感の欠片もない言葉に、翔太は深いため息をつく。だが不思議なことに、彼が一番気になっているのは、この世界の物流システムの異常さだった。
過疎地域の配送問題。配達員時代から、彼の頭を離れなかったテーマ。そして今、この世界では...
(独占による高額料金、非効率な配送システム、そして...)
考え込む翔太の前で、また荷物を抱えた人々が行き交う。その表情には、高額な送料に対する諦めが滲んでいた。
ふと、翔太は自分の胸ポケットに手を入れた。そこには、前世で使っていた社員証がある。配送業の最前線で働いてきた証。
「なあ、この世界で商売を始めるには、どうすればいいんだ?」
「え? まあ、基本は商人ギルドに申請して...」
「そうか、ありがとう」
翔太は空を見上げた。ドラゴンが飛び交い、魔法の光が煌めく異世界の空。
(これは、チャンスかもしれない)
物流のプロフェッショナルとして培ってきた知識と経験。それを、この世界で活かせる可能性。
翔太の心に、小さな炎が灯った。まだその時の彼は知らない。この思いつきが、やがて世界を変える物流革命の始まりとなることを。
(続く)
システム室から始まった突然の転移。翔太翔太が最初に目にしたのは、余りにも非効率な配送システムでした。彼の"配送魂"は、この異世界でどんな革命を起こすのでしょうか。物語は、ここから始まります。