プロローグ 『システム室からの旅立ち』
誰もが一度は経験したことのある残業終わりの夜。その日常が、突如として非日常へと変わるとき、あなたならどうしますか? これは、現代の物流を知る一人の男が、異世界で起こす小さな革命の物語です。
「バックアップ、まだ終わらないのかよ...」
佐伯翔太(28)は、暗いシステム室のモニターを見つめながら呟いた。時計は午後11時23分。終電まであと37分。
「今日こそは帰りたかったな...」
画面の進捗バーは、まだ67%で止まったままだ。昨日から続く物流システムの大規模バックアップは、夜間帯でないと実行できない。誰かがやらなければならない作業だった。
「はぁ...」
深いため息をつきながら、翔太はコンビニのサンドイッチを手に取った。先輩から「物流は止めてはいけない」と教わった言葉が、今でも彼の仕事の指針になっている。
だから彼は頑張ってきた。配送データの分析から、ルート最適化まで。顧客の笑顔のために、システムは完璧でなければならない。
「あと3%...」
瞼が重くなってきた時、画面が不自然な青い光を放ち始めた。
「なっ!?」
まるでデータが実体化したかのように、進捗バーから光が溢れ出す。
「ちょ、冗談だろ...システムに光の演出なんてなかったはず...!」
必死でキーボードを叩く。しかし、すでに手の施しようがなかった。
「このバックアップ、絶対バグってる...」
それが、この世界での彼の最後の言葉となった。
* * *
翌朝。
「佐伯くん、佐伯くんはいませんか?」
システム室には、一台の暗いモニターと、途中で止まった進捗バー。そして、机の上には半分だけ食べられたサンドイッチが残されていた。
誰も、青白い光を放つモニターの前で消えた一人の社員が、別の世界で物流革命を起こすことになるとは、想像もしていなかった。
* * *
「配送料金は金貨1枚になります」
その言葉を聞いた時、佐伯翔太は、自分の人生が大きく変わることを、まだ知らなかった。