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13話 最終試験開幕

翌朝、飛行船の甲板には、200人ほどの受験生がずらりと並んでいた。先のダンジョン攻略を勝ち抜き、「第三試験」へ進む資格を掴み取った者たちだ。


ハルは、イオ・ルーク・ヴェルンの三人と共に、甲板の端で風に吹かれながら緊張を噛みしめている。


昨日、過酷な第二試験が終わったばかりだというのに、もう次の試験が始まる。だが、これが名門魔法学院――セイクリッド・ブライトソードの超難関たる所以なのだろう。


「……いったい今度は何をやらされるんだろうな」


ルークが未だにあくびを噛み殺しながら言う。


「どうだろうね。飛行船の中で発表があるって話だけど……」


イオは昨日の迷宮での激闘を思い出してか、腰をさすりながら落ち着かない様子だ。


ヴェルンは相変わらず物静かな表情だが、視線を左右に巡らせて、船上のあちこちを確認している。まるで何か不穏な気配がないか探っているかのようにも見えるが――その理由をハルは知らない。


そのとき、飛行船の上部から魔法拡声器を通したアナウンスが響きわたった。


「私は本校校長のグレゴリ・クラウディスである! ここまで生き残った精鋭たちよ、よくぞ第二試験を突破した。これより、第三試験――最後の関門の内容を発表する!」


アナウンスの主はグレゴリ校長――昨日、ハルたちがダンジョン合格を報告した際にも姿を見せた、長い白髪の壮年紳士だ。彼が壇上に立つと、甲板の上にいる受験生たちが一斉に静まり返る。


「これより我々は飛行船で荒野へ降り立つ。この試験は三日にわたり、伝説の勇者アシュレイの“三人の仲間”にちなんだ三つの砦を巡る“レース”だ!」


一つ目、『ガルヴァン砦』。

“轟剣の猛将”と呼ばれた火属性の戦士、ガルヴァン・デュラスの名を冠した砦。


二つ目、『ルフェリア砦』。

“天空の守護者”と称えられた風魔法の達人、ルフェリア・シルヴァリーフの名を冠した砦。


三つ目、『メイリー砦』。

“聖なる調停者”として回復魔法を極めた僧侶、メイリー・グリッドバードの名を冠した砦。


「諸君には、三日間かけて、以上の三砦を順番に目指してもらう! 道中には強力な魔物が出没し、荒野や砂漠を越える過酷なルートも待ち受けている。日没までに砦へ着けなければ、即、不合格となる!」


その説明を聞いた瞬間、甲板からどよめきが起こる。

グレゴリ校長はそれらの声を受け流すように杖を軽く叩き、続ける。


「さらに、翌日の出発順は“前日の到着順”で決まる! 早くたどり着いた者がより先へ進むに有利というわけだ。自信のある者は先頭を駆け抜けるがいい。慎重派は仲間と助け合ってもよい。もっとも、足を引っぱり合ってどちらも脱落するようなら、それまでの存在ということだ!」


校長の言葉に、ハルは思わず唾を飲み込む。昨夜はイオやルークと一緒に少しはしゃいだものの、まだ身体の傷や疲労は完全に癒えていない。そんな状態で三日連続のレースとは、かなり厳しい。


「三日間――諸君らの体力、魔力、知恵、すべてが問われることになるだろう。さあ、合格を勝ち取りたいのなら、ここからさらに全力を尽くすがいい! ――以上!」


重々しい宣言を最後に、アナウンスが消える。甲板には再びざわめきが走り、受験生たちは顔を見合わせながら次の行動を決めようと動き始めた。


***


やがて飛行船が降下を始め、着陸のために速度を落としていく。窓の外を見ると、そこには茶褐色の荒野がどこまでも広がり、その先に黄色く光る砂丘が連なっていた。真夏の熱気をはらんだ風が吹き荒れ、地表には陽炎がゆらゆらと揺れている。


「はあ……めちゃくちゃ暑そう。水分いっぱい持ってかなきゃヤバいね」


イオが腕まくりして、甲板の柵から身を乗り出すように外を覗き込む。


その隣でルークは「暑いのは勘弁だな……水魔法でどうにかなるかな〜」と気だるそうに呟く。


まもなく船底が地面に着くと、ドスンという衝撃とともに着陸が完了した。


「はいはい、下船して列を作ってくれー!」


何人もの試験官が声を張り上げ、受験生たちを地上へ誘導する。ハルたちもその流れに乗って甲板のタラップを下り、硬い荒野の土を踏みしめた。


外気はやはり熱気が強く、うっかりしていると汗が吹き出しそうだ。試験官たちは手際よく何かの準備をしているようで、ハルはそれを好奇心混じりに見つめる。


「――おい、あれ見ろよ。なんだ、あの大鳥は?」


ルークが指差す先には、二メートルほどの背丈をした鳥のような生物が何十羽も集められている。首は太く、瞳は猛禽類を思わせる鋭さ。背中には簡易な鞍が取り付けられており、まさに乗り物として使うことを想定した造りだ。


「ガロカリス、か……。昔、話に聞いたことあるな。陸上での移動が早いっていう、荒野の走り鳥みたいなモンスターなんだって」


ヴェルンが遠い記憶を辿るように説明し、ハルは思わず感嘆の声を上げる。


「へえ、ありがたいね。こんな荒野を歩いて行くには時間がかかりすぎるし……」


「でも、あいつら気が荒いみたいだぞ? 大丈夫かなあ……」


イオが心配そうに近づくや否や、「かわいい~!」と手を伸ばした瞬間、ガロカリスの一羽がガバッと嘴を開いてイオの腕に噛みつこうとした。


「ぎゃあああああっ! か、噛まないでーっ!」


慌てて腕を引っこめ、周囲から笑いが起こる。ルークなどは「ははっ、イオがエサに見えたんじゃね?」と茶化している。


「試験は開始前だ。ケガ人は出すなよー!」


試験官が注意しながら、一羽ずつガロカリスを受験生に割り振っていく。個体によって性格も違うらしく、甘えん坊の個体もいれば、神経質で怒りっぽいのもいるようだ。


ハルたち四人も各自で騎乗するガロカリスを受け取り、鞍の固定や手綱の扱いをざっと教わる。


「これは……意外と難しそうだな」


ハルは鞍に跨がってみるが、ガロカリスの背は意外と幅広く、脚をうまくホールドしないとグラつく。自分で歩くより早い移動手段がありがたい反面、制御を誤れば転落しかねない。


「大丈夫さ。ほら、こうやって……」


ルークは器用に手綱をさばき、水魔法で少し水滴を作ってガロカリスの喉元を潤してやると、けっこう素直に動いてくれるようになった。


「こういうところは得意なんだよな、オレ。ほらハルも試してみろ」


「う、うん。ありがとう」


先ほどのイオはというと、相手がイラつかないように“雷”の気配を抑え込みつつ、なでなでして機嫌をとっている。ヴェルンはまるで小動物と対話するかのように優しく声をかけている。


***


やがて試験官が合図のラッパを吹き鳴らし、大勢の受験生がスタートラインへと集結した。ざっと数えても200人近い騎乗者が横一列に並んでいる様は、なかなか圧巻の光景だ。


「すごいな……まさに荒野の大行軍って感じだ」


「全員、位置につけー!」


試験官の声が響く。広大な荒野へ向けて、一枚の大きなゲートが用意されており、それがスタートとゴールを仕切るように設置されている。


ガルヴァン砦はこの先数十キロの地点にあり、道中にはまともな整備はない。


大きな魔力式の時計が掲示され、日没時刻も赤い文字で示されている。アナウンスがややガサついた声で告げた。


「第一日目、ガルヴァン砦レース……開始まで、あと10秒……!」


途端に張り詰める空気。ハルはガロカリスの背中にしっかり体重を乗せ、手綱を握り込んだ。


「イオ、ルーク、ヴェルン……みんな気をつけて行こう。砂嵐とか魔物がいるはずだし、もしはぐれたら合流が難しいかもしれない」


「了解! でも、あんまノロノロしてると時間切れになるしね……」


「とりあえず最初は集団で進みながら様子見、かな」


ルークとイオが頷き合い、ヴェルンは少し緊張した顔つきながらも「一歩ずつ確実に」と呟く。


「3……2……1……スタートッ!」


試験官が大きく腕を振り下ろした瞬間、数百羽のガロカリスが一斉に荒野へ飛び出していった。

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