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冬の童話祭2025

海ぶどうの森

作者: 六福亭


 魚のゆららは、海の中をのんびりと泳いでいた。そこへ、友だちのふるるがやってきて、はりきってこう言った。

「海で一番おいしいごちそうを、食べに行こう!」

 ゆららはぽかんとした。

「何だい、それ。どこにあるの?」

「海ぶどうの森の森の中に、光り輝く玉があるんだって。それが、ほんっっとーにすっごくおいしくて、ほっぺが落ちそうで、うろこも輝いちゃうんだって」

「ぼく、いそがしいから……」

 そう言ってゆららが断ろうとすると、ふるるはゆららの前にさっと出てきて、泳ぎはだかった。

「おなかすいてないの?」

「すいてないよ」

 だけどそのとき、ゆららの口から小さなあわがいくつも出た。

「ほら、おなかすいてるんだ!」

 こうしてゆららは、ひっぱられるみたいにして、ふるるにお供することになった。

「海ぶどうの森って、どこにあるの?」

「ウツボの家の向こうにあるんだ」

 それを聞いたゆららは、逃げ出したくなった。

「ウツボだって!?」

「うん。だから、海ぶどうの森の中のごちそうは、誰も食べたことがないんだって」

「あたりまえだよ! ねえ、やめようよ。ぼくらも食べられちゃうよ」

「大丈夫だって。ゆららもおれも、泳ぐのがとっても早いんだから」

 ふるるとゆららは、しっぽをふりふり、泳いでいった。


 ウツボの家は、ごつごつとした岩穴だった。周りはとても暗く、ゆららのひれがぞくぞくと震えた。ゆららは体をちぢめで、こそこそと泳いだ。さっきまでのんきにしていたふるるも、静かだった。


 ゆららは兄弟をウツボに食べられたことがある。あれは本当に恐ろしい出来事だった。

 

 ウツボの穴の前に来た。真っ暗な穴から、あわが1つ出てきた。誰かが、中にいるのだ。

 突然、フルルが尾ひれを動かし、すごい速さで泳ぎだした。ゆららもあわてて追いかけた。

 穴から遠ざかったころ、ゆららはふるるにやっと追いついた。

「どうしたの、あんなにいきなり泳ぎだして」

「いや、怖かったから……」

「ぼくだって、怖かったけどさ」

 ふるるはちょっぴり照れてるようだった。

「でもまあ、ウツボに見つからなくてよかったよな」

「うん」

 しゃべっているうちに、海ぶどうの森が見えてきた。


 数え切れないほどの連なった緑の玉が揺れていた。ゆららとふるるは海ぶどうの中でかくれんぼをして遊んだ。森の中には誰もいない。けれど、玉は静かに揺れていた。海ぶどうの間をすりぬけると、うろこがくすぐったくなった。

「そろそろ、光る玉を探そうか」

「うん!」

 ゆららとふるるははしゃぎながら、森の中をプランクトンつぶしに探し回った。そしてとうとう、ゆららは光る玉をみつけた。近くで見てやっと分かるくらいの、小さな光だったけど。ちょんと口先でつつくと、なんともいえない良い匂いがした。

「ふるる、見つけたよ!」

「おおー! でかした!」

 ふるるもやってきて、大喜びした。

「半分こしよう」

「うん」

 玉は甘くて、口の中でとろけていった。いつまでも味が心に残るのに、後味はさわやかだった。

「おいしかったな」

「うん。……もっと、あるのかな?」

「あるかも!」

 2匹が森の奥に進んでいこうとした時だ。不気味な含み笑いが聞こえてきて、大きなウツボが目の前に姿を現した。

「こんにちは、今日の昼ご飯ちゃんたち」

 ウツボは鋭い歯がびっしり生えた大きな口を開けて、にんまりと笑った。

「うわああああ!」

 海ぶどうの森の中を、2匹は逃げ回った。ウツボの泳ぐスピードはとても速い。ゆららはウツボの口の中にのみこまれそうになって、あわててかわした。ふるるは、ウツボの強いしっぽにはたかれそうになった。

 次第に、ゆららは疲れてきた。

「おい、ゆらら! もっと早く泳がなきゃ、食べられちまうぞ!」

「もう無理だよ……」

 ゆららに向かって、ふるるが言った。

「よし、おれがおとりになる」

「そんなのダメだよ!」

「だって、ゆららを誘ったのはおれだし。その間に逃げるんだ」

「ふるる!」

 ふるるはウツボの近くに泳いでいった。けれど、ゆららは、ふるるを置いていくのはどうしてもイヤだった。

 ゆららは海ぶどうのかげから、ウツボとふるるの追いかけっこをみつめた。だんだんゆららのいるところから遠ざかっていく。

 ゆららも森から抜け出そうとした時__ふと、小さく光る玉が、目に入った。あのおいしい玉だ。今となっては、味わう余裕もないけど。

「そうだ!」

 ふるるは光る玉をくきからとり、ウツボに向かって泳いだ。そして、ふるるをおしのけ、ウツボの口に、光る玉を放り込んだ。ウツボはおどろいて口を閉じた。

「うーん……おいしい!」

「今だ!」

 ゆららとふるるは必死に逃げた。家に帰ってこれてひと安心。

「あー、びっくりした」

「一生分泳いだ気分だな」

「でも、あの玉はおいしかったね……」

 ゆららはうっとりとつぶやいた。

「また行こうね、ふるる」

「うん」

 ふるるはにやりと笑った。ふるるの冒険野郎が、ゆららにもうつったようだった。


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― 新着の感想 ―
命あっての物種! また行こう、って言えてしまうのはすごい(*^^*)
2025/01/19 18:53 退会済み
管理
「ゆらら」と「ふるる」という名前がかわいくて、童話チックでまず惹かれました。 海ぶどうの森とかうつぼの表現もとても素敵で、夢中で拝読しました。 光る玉ってなんだろう?たべてみたいな?なんて子供も思うと…
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