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#4 悪役同盟爆誕

 (まーた胃が痛くなってきたわ。)


 公爵家に戻って一週間が経つ頃、長い渡り廊下の壁に寄りかかりながらヨロヨロと歩く私は、ウレルの執務室に向かっていた。    

 狩場で冷たくあしらわれたあの件以来、同じ邸宅に住んでいるとは思えないくらいウレルとは顔を合わせていなかったから、めっちゃ気が重いわ。

 

 私の記憶の他にシャーロットの記憶も混在しているので、ウレルが私を部屋に呼ぶのは初めてだと知っている。

 マンガを読んでいた時はウレルのことは何とも思っていなかったけど、実際に話してみると分かりやすく自己中心的な俺様発言が多くて、私には苦手なタイプの男性だ。

 最終的にリリィはヘリオスを選ぶのだから、噛ませ犬らしい性格だともいえるけどね。


 でも、大丈夫。

 ディアナの騎士団に正式な入団申請をした時に、こうなるだろうという予測はしていたんだから。

 しかも、すでに手は打ってあるのだ。フフフ・・・。

 

 なんせ、現世ではパワハラ上司相手に365日戦ってきた企業戦士なんだもの。

 見ていなさい、社畜雇われ副店長の世渡り術をね!


 私は執務室の前で意を決すると、ドアを4回ノックした。


「来たな。」


 ウレルは美しい眉間にシワを寄せつつ書机から腰を上げると、縛っていた黒い髪を解き放った。


 ウッ、さすがはメインキャラ!

 浅黒い肌に襟の高い白いシャツと首元のスカーフが良く似合うし、肩までかかる黒髪がセクシーね。

 見えないけど、マンガなら背後に後光か薔薇を背負っているはず。


 その隣の書机に座っていた執事(バトラー)・アトラスもすぐに立ち上がり、私に深々とお辞儀した。

 アンバー色のカツラに濃紺のベスト、ウールのひざ下ズボンに白のストッキングを合わせた宮廷の貴族みたいな出で立ちのイケオジだ。

 そのアトラスが私だけに分かるように目配せしたので、私は少し気持ちが楽になった。


「・・・。」


 ウレルが私を上から下まで見下ろして無言だったので、業を煮やした私から話しかけた。


「どうしました? 私の顔に何かついていますか?」

「いや、公爵夫人が珍しく着飾っていないようだから驚いただけだ。」


 ああ、そういうことね。

 もともとミニマリストの私は、ファッションに関してはシャーロットと対極にいる人間だ。


 家で過ごすだけなのに、朝から二時間もかけてたくさんの侍女に手伝ってもらって支度をするくらいなら、コルセットをつけないシンプルなワンピースに自分でするナチュラルメイクとポニーテールで充分。

 ただ今までのシャーロットとは180度違うから、周りはビックリするみたい。


「やはり、魔物に襲われて頭がおかしくなったという噂は事実だったのだな。」


 誰よ、そんな噂を流したヤツ・・・。

 ていうか、ウレルも本人を前にそんな噂の話を出すんじゃないわよ。

 ホントにこういう男は苦手。

 

「ディアナさまの騎士団に入団を希望したというのは本当なのか?」


 えーと、一週間ぶりに対面した妻に対する言葉がそれですか?

 一瞬、ウレルのセクシーさにときめいた自分にパンチしたいわ。


「本当です。」

「そなたは、どこまで公爵家をかき回せば気が済むのだ?

 しかも、よりによってディアナ様まで巻き込むとは。」


 美しい顔から放たれるウレルの嫌味はなかなかの切れ味があるけど、心には全く響かないわ。

 だって、私は本当のシャーロットじゃないから。


「巻き込むという言葉には悪意を感じます。

 私は個人的な見解よりも、国家の安全を懸念しているだけですわ。」

「どういう意味だ?」


 その言葉を待っていたのよ。

 私は手に持っていた書類の束を、ドンとテーブルの上に置いた。


「こちらは先日、アトラスにお願いしておいた資料です。どうぞご覧ください。」

「アトラスに?」


 慇懃に会釈したアトラスを振り返ると、ウレルは資料の一枚に目を通し、愕然とした。


「なんだこれは⁉」

 

 貪るように資料を読み漁るウレルの表情が興奮して赤くなる。

 私は資料を読み解く邪魔をしないよう、囁くようにウレルに質問した。


「先日、公爵さまが植民地・マルガリテスへの関税と直接税を強化するよう国王陛下に進言されたと聞きましたが、本当でしょうか?」

「ああ。周辺諸国とマルガリテスの占有権を巡る抗争が思ったよりも長引いたので、我がブリリアント王国の財政を補填しなくてはならないからな。」

「そのことが引き金となり、近い将来にマルガリテスに大規模な反乱部隊を作る指導者が立ちあがります。

 そして、独立戦争が起こります。」


 蒼ざめたウレルは、資料から顔を上げて私をにらんだ。


「・・・なんだと!」


 私の予言は、マンガのイベントを利用したものだから間違いないはず。

 食い入るように資料を読んだウレルは、唇を震わせながら執事のアトラスを振り返った。


「これは・・・この資料に書かれていることは真実なのか?

 その・・・マルガリテスに反乱分子が集結しているということが・・・?」

「左様でございます、旦那様。

 正直、わたくしも奥様に調査を依頼された時は眉唾ものでした。

 ですが、このことはわたくし自身が実際にマルガリテスの領地に赴き、導き出した結果なのです。

 奥さまが資料を監修された後にわたくしも目を通しましたが、誇大な表現や虚偽などは一切ございません。」


 さすがA級執事、いい仕事するわね!


 中世において、執事の役割は重要で最も信用性の高いポジションだ。

 日常生活を円滑にするための担い役だけに留まらず、公爵とともに家の運営に関わる絶対的右腕。


 私が異世界で自由に行動するには、この世界のチュートリアルをしてくれるブレインが必要だと思っていた。そしてアトラスを始めから味方につけることにしていたから、公爵家に戻るなり執事室のドアをノックしたのよ。


 つまり私とアトラスは最初からグルってわけ!

 私はわざとらしく、ウレルを上目遣いに見上げながら話をした。 


「私の力は微々たるものですが、頭も体も貧弱な貴族の令嬢が国のために騎士を目指していると聞けば、少なからず国内の平民たちの愛国心に一石を投じられるかもしれません。」

「貴族の夫人ごときが政治に口を出すなんて恐れ多いな。

 しかし、そなたにこんな好戦的な一面があるとは知らなかった。普通の家門であれば離縁のタネになるだろう。」


 離縁? ハイ、喜んで!


「公爵さまも、好戦的な妻は離縁するべきだと思いますか?」

「公爵家ともなると簡単に離縁はできない。どちらかが死ぬまで、この婚姻生活は続けなくてはならないだろう。」


 私はがっかりしてため息を吐いた。


「ならば、口出し無用です。むしろ私が戦場に行って帰らないほうが、あなたにとっては都合が良いのでは?」

「バカな・・・そもそも騎士になるなどと、そなたの両親にはどう説明する気だ?

 公爵家の妻としての職務を果たしもしない娘の、バカげた戯言を家門が認めるわけがない。」

「さあ、どうでしょうね。」


 私はウレルの物言いにカチンときて、行儀悪く腕を組んであごをつき出した。


「そもそも、公爵家の妻としての責務を果たせないように仕向けているのは公爵さまでは?

 それにリリィさまも聖女兼騎士ですが、それを公爵さまはバカげているとお考えですか?」 

「話を曲げるな。今、リリィの話はしていない。」


 ウレルは少し苛立った様子で足を踏み鳴らした。


「嫉妬でもしているのか?

 シャーロット、そなたの話をしているんだぞ。」

「私のことなら、お構いなく。いつものように放置してくださればいいじゃありませんか。

 嫉妬だなんて・・・今さらなんですよ、公爵さま。」


 私が声音をかえて低い声で対応すると、顔を赤くしたウレルは怒って背を向けた。


「・・・なら、勝手にするがいい!」


 勝った!

 私とアトラスだけになった執務室で、私は目を閉じて天高く勝利の拳を突き上げた。


「やりましたね、シャーロットさま。

 同じ男として、ウレルさまに同情するくらいです。」

「・・・それは褒めていると受け取ってもいいかしら?」


 力がぬけて長椅子に倒れ込む私を見たアトラスは、少しニヤッとしながら私に紅茶を淹れてくれた。


「しかし、最初は私も本当に驚きました。

 失礼ながら、シャーロットさまは浪費にしか興味がない頭の中身がお花畑の方と思っておりましたから。」


 ウッ、家臣なのに辛辣すぎ!


 でも、だからこそアトラスは信頼できるのよ。

 右も左も分からない異世界だからこそ、ハッキリと進言してくれるパートナーが必要だもの。


「ありがとう、アトラス。私もあなたのことを誤解していたわ。

 もっと頭の固い公爵家の忠犬かと思っていたけど、とんだ狼だったわね。」

「フフ。

 お互い、鋭い爪は隠しておきましょうね。」


 アトラスと私は紅茶の入ったカップのフチを重ねて乾杯をし、一気に飲み干した。

 悪役同盟、ここに爆誕よ!

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