#33 勇者で聖女は最強でして!(最終話)
「勇者ユイよ。
バッコスの企みを握りつぶし、王国の危機を救ってくれたことに感謝する!」
巨大で荘厳華麗な宮殿の王の間には、中央の玉座にユピテル陛下、その両隣に太陽のしもべのヘリオス殿下と月のしもべのディアナ姫殿下が座している。
陛下に召集された純白のドレス姿の私の背後には、近衛師団や騎士団がズラリと整列していて、ウレルやリリィもその中に控えていた。
(勇者ユイですってーーー⁉)
初対面のユピテル陛下からのお言葉に衝撃を喰らった私は、分かりやすく青ざめた。
この台詞知ってるわ。
RPGの冒頭で散々こすりとられたヤツよな!
ウォォ・・・改編してしまったんだ、きっと!
私が! このマンガをーッ‼
勇者扱いされるってことは・・・もちろん主人公キャラよね?
タイトルも絶対に変わってるやん!
うわーん、私の愛する【騎士で聖女は最強でして】が・・・あの設定は、いったいどこに行ったの⁉
待てよ・・・だからすんなりユイの身体に戻ることができたのかしら⁉
誰かに聞きたい、今すぐに!
焦って後方に控えているウレルを振り返ったけど、ウレルはヘリオスの騎士団の騎士団長として、厳かに美しく佇んでいる。
(ウレル、私の合図に気づいて!)
バチンと片目でウインクしたら、素敵な黒い瞳でウインクを返された。
手までヒラヒラと振っている。
あ、ハイハイ。これはダメなパターンね。
ウレルはアテにできませーん。
私は意を決して陛下に答えた。
「恐れながら陛下に申し上げます。私は勇者ではありません。」
私が答えた途端、周りにいた騎士や近衛兵たちがざわついた。
「どういうことだ?」
陛下の怪訝な声が、王の間に響く。
「私がバッコスを倒せたのは、ウレルやディアナ、それにリリィやアトラスやブラック・・・みんなの協力があったからです!
私だけが特別ではありません‼」
そうよ。
今までの私は、いつも誰かのせいにして生きてきた。
でも、誰かのおかげで生かされているということをこのマンガの中の世界で知ったのよ。
みんなが主役でみんなが尊い!
みんなが勇者よ‼
「よくぞ申した。
そこにおる聖女リリィからも聞いておるが、そなたはやはり勇者の称号に相応しい人物だ。」
ヘリオスの護衛部隊の端にいた甲冑姿のリリィが、45度の正しいお辞儀をしてフワリと微笑んだ。
「その通りです。ユイさま、勇者の称号を陛下からお受け取り下さい。」
神さまは本当に気まぐれだ。
この世界ではモブにしかならない容姿の私を勇者にするなんて。
拍手で私の名前を連呼する人々の声援を受けて、私は照れながら陛下の前に進み出た。
※
「リリィ!」
勇者の授与式を終えて、宮殿の通路にあるバルコニーで風に当たっていた私は、大きな声を出した。
移動するヘリオスの騎士団の中に、白銀の甲冑に身を包んでいるリリィを見かけたの。
私の声に振り返ったリリィは、目を輝かせて列から抜けて歩み寄ってきた。
「ごきげんよう、ユイ。」
艶やかなシルクのような髪をバッサリとショートヘアにしても、リリィの美しさは損なわれることなく、むしろ太陽のように輝いている。
「今日は本当におめでとう。」
私は人目もはばからずに、リリィに思い切り抱きついた。
「リリィ、私・・・ずっと、あなたに会いたかったの!」
リリィは感情がダダ洩れの私を軽く引き離すと、はにかんだ笑顔を見せた。
「君と一緒に居ると思っていたのに、ウレル団長はどこ?
こんなところを見られたら、嫉妬の炎で私が焼かれてしまうかもよ。」
「大丈夫。あなたの婚約者であるヘリオスの部屋で話しているから。」
「なら、いいか。」
リリィは私以上に力強く抱きついてきて、耳に軽くキスをした。
「私も会いたかったよ、推しのユイ。」
相変わらずのスパダリ聖女め!
思わずウレルから貰った結婚指輪を、このバルコニーから投げ捨てようかと悩んでしまったじゃない‼
しかも、この天使に【推し】って俗な言葉を刷り込んだのは、私の罪ね。
「リリィがね、ヘリオスの求愛を受けて婚約者になっても、騎士として振るまっていると聞いたとき、すごくリリィらしいなと思ったの。
まさにこれが、私の神推しバイブル【騎士で聖女は最強でして】の主人公たるものなのよ!」
「それってユイの世界の話だっけ?
私が主役の話なんて恥ずかしいから、あまり大きな声で口にしないでくれ。」
推しが照れ笑いしてくれる世界・元気でいてくれる世界、サイコー!
私は神さまに心から感謝することにした。
「私からも『おめでとう』よ。ウレルから、リリィの聖力が戻ったと聞いたの。」
「それもきっと、君のおかげじゃないかな。」
「神さまのおかげよ!」
「そうかもね。」
リリィはバルコニーの石の手すりに背中を預け、サラサラと風に揺れる私の髪に手を寄せて微笑んだ。
「ユイの瞳と髪は、天然の黒曜石のようだね。」
私は、はにかんで上目遣いにリリィを見上げた。
「日本人は、だいたいこんな感じよ。私もリリィみたいな淡紅色の髪だったら良かったな。」
「それならもう一度、私たちで入れ替わってみるかい?」
リリィの手の平をパチンと叩くと、私は笑顔で叫んだ。
「もう二度と入れ替わりはゴメンよ!」
私たちの弾ける笑い声が風に乗り、ブリリアント王国の空に舞い上がる。
のちにブリリアント王国の人々の間に幾星霜を経て紡がれる物語の主役は、勇者で聖女の異世界転移者だとは、この時の私には知る由もなかった。
〈終〉




