表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夫に愛されない公爵夫人はブラコン姫騎士と王国を守ります!  作者: ゆきんこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/33

#32 おかえり、ユイ

 私がウレルに抱きしめられたのは夢じゃなかった。

 瞼にチラチラと当たる暖かい光と、窓の外から聞こえてくる微かな小鳥のさえずりが気になって、重い目をようやく開けたの。


 そこはウレルと私の寝室だった。


 見慣れた天蓋ベットのカーテンに、シルクのシーツと掛け布団。

 上品なロココ調の調度品に、壁に飾られた色彩豊かな風景画。


 間違いなく、リアルだわ。

 カサカサの目やにを人差し指で剥がした私は、その鋭い痛みに確信を得た。


(やっぱり私、馬ではないみたい!)


 それから目に入ったのは、白い帆布に金のパイプのパーテーション・・・あれ、パーテーションはいつも右にあるのに、何で今日は左側に置いてあるの?

 

 不思議に思いながら反対側に寝返りを打つと、ウレルの美しい顔が目の前に!

 危うく心臓が口から飛び出すかと思ったわ。


 私、ウレルのベットの上で眠っていたのねー!

 夢だけど、夢じゃないのは死ぬほどヤバイッ!!


 慌ててウレルのベットから飛び起きた私は、帆布のパーテーションを力任せに引き倒し、隣の私のベットのマットレスの下を、グイグイ手を入れてまさぐった。


 まさか、まさか()()も夢じゃないっていうの⁉


 その瞬間、背後から聞きなれた声が響いた。


「探し物はコレかな?」


 裸体にラグジュアリーなローブ一枚でベットに横たわるウレル。

 その手が持っているのは、私の黒歴史が描かれた羊皮紙なのよ!


「返して!」


 必死の形相でウレルの腕に飛びついた私。

 ウレルは子どもをあやすように、私の鼻を優しく突いた。


「そうそう、言い忘れていたが、この図は描き間違えているので、訂正しなければならないんだ。」


 ウレルはサイドチェストからペンを取ると、鼻唄混じりに相関図に何かを書きこんでいる。


「何を描いたの?」

「よく見て。」


 ウレルは私の顏のすぐ前に羊皮紙を近づけて、私が顏を近づけるとサッと羊皮紙を上に持ち上げたの。


「ちょ、これじゃ見えな・・・。」


 ウレルが、私の頭を抱えて甘い口づけをした。

 蕩けるような甘美な瞬間に、体じゅうの力が抜けてしまう。


 ウレルは私から唇を離して耳元で囁いた。


「ダメ?」

「・・・ダメじゃないわ。」

「じゃあ、矢印のとおりにしてくれ。」


 ウレルは浅黒い鼻の頭にシワをよせて笑いながら、羊皮紙をもう一度私の目の前に見せた。

 チラリと羊皮紙を見ると、黒くグチャグチャに塗りつぶされ矢印の横に、相互の向きに描き直された矢印が描いてある。


「私は、公爵夫人のシャーロットじゃないし、異世界から来たしがない書店員なんだけど・・・それでも、いいの?」


 羊皮紙を脇に置いて、左薬指を見せたウレルが私の髪をそっと解きほぐした。


「そなたが眠っている間に、シャーロットとは協議離婚が成立している。

 昨夜も話したが、覚えていないのならもう一度、言わせてくれ。」


 私を胸にギュッと抱き寄せたウレルが、力強く言った。

 

「俺はユイのことを愛している。

 愛が何かということを教えてくれたのはユイだから。

 ユイが嫌でなければ、このまま俺と公爵家に居てほしい。」


「私もここに居たい。ウレルとずっと・・・。」


 私はウレルの唇に震える自分の唇を重ねた。


 ※


 ウレルの寝室で目覚めた日のことをもっと詳しく話すと、私の魂はユイの身体の中に戻っていたの。

 着ていた白い開襟シャツにブルージーンズは、酷く汚れている上にあちこち破れてボロボロになっていた。


 うーん、変だわ。

 異世界に、私の身体はなかったハズじゃないの?


 着替えるために寝室から廊下に出た途端、公爵家のみんなが出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、ユイさま!」


 なぜか全員がユイ呼びでの大歓迎!

 ずいぶんと根回しが早すぎない?

 いつもと変わらぬ日常すぎるでしょ!


 戸惑う私に、みんながとびきりの笑顔をプレゼントしてくれた。


「私、もう公爵夫人じゃないのに・・。」 


 でも、なんか、嬉しい。

 現実世界の一人暮らしのアパートに帰っても、誰にもおかえりなんて言われないからね。 

 

 しみじみと公爵家に生還できた喜びを嚙みしめていると、最前列に居たベッキーが不敵な笑みで私を手招きした。


「ユイさま、まずは入浴です! 私にす・べ・て・お任せください!」


 私は思わず、唾をのみこんだ。


「よ、よろしくお願いします。」


 ※


 ベッキーの美容講座にアトラスのキツイ冗談。

 お見舞いに来てくれた優しいサラキアと、姫らしく丁寧な言葉で話すディアナ。

 そして、穏やかでスパダリなウレルとの愛しい日々。


 鏡に映る日本人らしい自分を見るたびに、この世界にそぐわない容姿に違和感を覚えるけど、素敵な人たちとの麗しい日々が、そんな疑問を打ち消してしまう。


 でもある日、ウレルの書庫の整理のお手伝いをしながら、私は思い切ってウレルに疑問をぶつけてみた。


「あの、私の身体のこと、聞いてもいい?

 ユイの身体は、私が暮らしていた異世界にあったはずなんだけど、どうやってここに来たのかしら?」

「ああ・・・知りたい? あまり言わないほうが君のためかと思っていたが・・・。」


 ウレルは手に持っていた書物を机の上に置くと、天井まで届く本棚に立てかけてある梯子に浅く腰かけて、私をジッと見つめた。


「実は、君はシャーロットに憑依していたんじゃなくて、身体ごとこちらの世界に来ていたんだよ。」

「え、そうだったの⁉」

 

 実体がないから憑依したと思い込んでいたけど、私は異世界転移していたのね。

 そして、バッコスの術で魂を入れ替えられていたのか。


「でも、今までどこに・・・?」

「ブラックの魂が君の中に入っていたんだ。」

「エエッ?」

「ブラックは獣だからね。人間の身体になったことを理解できなくて、あちこちをさまよっていたらしい。そのころ丁度、アトラスが領地の不審者情報を集めていて、言葉が通じない東洋の女性の噂を私に報告していたのさ。」

「不審者・・・?」


 急にウレルが腹を抱えて笑いだした。


「野生の馬の群れに紛れて、草原で草を食んでいたらしい。

 胸の辺りに『サヤカ ユイ』と書かれているネームプレートがあるという情報がなかったら、そなたの身体だとは私も疑わなかっただろう。

 それにしても実に愉快ではないか? 大の大人が、草原で草を・・・!

 あ、そなたは草が好きだったな!」


 その時の情景を妄想した私は、恥ずかしさで全身が沸点にまで達したの。

 アトラスの管理能力に感謝するとともに、空気を読まないで死ぬほど笑い続けるウレルに、あふれる感情が爆発した。


「今すぐに帰らせてーーー‼」


 そんなこんなで公爵邸で幸せな一週間を過ごした私に、ついに王室から呼び出しがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ