#27 モブの奇跡
(ハァハァ。ウレルが良すぎてしんどい!!)
絶体絶命のピンチに白馬の王子さまが助けに来るなんて、かなり憧れのシュチエーション・・・!
つい、目がハートマークになっていた私だけど、ウレルの馬に踏み荒らされた祭壇の花を見た途端、一気に血の気が失せたのよ。
「ワワワ! 神殿に武装した上に馬で侵入するなんて、神への冒涜もいいところ! すぐにバチが当たるわよッ!?」
慌ててウレルを馬から引きずり降ろそうと背伸びをした私は、逆にウレルに手を強く引っ張られて馬の背に引き上げられた。
「エエエーッ⁉」
ノウェムバットが音もなく背中スレスレに飛来して、その鉤爪が私のワンピースの布地をビリビリッと縦に引き裂いたのはその直後!
(あぶなッ! 引き上げられるのが少しでも遅かったら、背中の皮がスライスされていたわ!!)
ウレルは肌が露わになった私の背中に手早く自身のマントを掛けると、私の背後から片手をウエストに回して、ギュッと固定してくれた。
「もう、神殿は八割がた魔物に占拠されているんだ。今さら土足で上がったとしても、神さまも文句は言わないさ。」
神殿って、鉄壁の要塞だったんじゃないの!?
「行くぞ!」
ウレルが手綱を強く引いて、馬を急発進させた。
そして長椅子の陰に潜んでいたディアナを見つけると、手に持っていた長剣を彼女目がけて放り投げた。
「姫殿下、受け取ってください!」
弧を描いて宙を飛んだ剣の柄をジャンプして受け止めると、ディアナは牙を剥いて滑空してきたノウェムバットに斬りかかった。
「ハァーッ!」
地上に降り立った瞬間、再度、地面を力強く踏みつけたディアナが、脅威のジャンプ力でノウェムバットの群れを叩き落とす。
「さすがだな!」
ウレルが賞賛の言葉を漏らすと、ディアナは落ちたノウェムバットを力強く踏みつけて灰にした。
ふ、複雑!
ディアナだと思うとさすがなんだけど、リリィの可憐な容姿を思い浮かべると、意外に容赦ないなと思ってしまうのよね・・・。
ディアナはせわしなく上空を見渡すと、焦りの色を濃くした。
「おかしい! ノウェムバットの統制されたこの攻撃は、野生の動きじゃ無理だ・・・誰か、魔物を操る黒幕がいるはずだ‼」
「黒幕? いったい誰が⁉」
私が聖女になったり、キャラ三人が入れ替わっていたり、神殿が魔物に占拠されたりすることで確信を得たけど、もうマンガの展開は当てにならないと思った方がいいみたい。
今まではあらかじめ予想していた展開だったから立ち回れたけど、これから先は一寸闇。
私は必死に、激しく上下して走る馬の手綱に掴まった。
「らちが明かんな。」
馬を駆りながら、両刃の片手剣を振り回してノウェムバットを蹴散らすウレル。
次々に私たちに襲いかかるノウェムバットは、数が多すぎてキリがない。
ディアナが長椅子の背に片足をかけて、鋭く叫んだ。
「ここは私に任せろ! ウレルは司教さまの安否確認を‼」
「エエッ、でもッ・・・!」
私が口を挟もうとしたとき、ディアナの赤い瞳がカッと閃いた。
「奴らに思考や狙いがあるとするなら、神殿のトップ・アスク司教のクビだ!
ブリリアント王国の要塞である神殿の主を叩けば、王国を制するのは容易くなる!
頼む、一刻も早く司教さまの部屋まで走ってくれ‼」
「承知した。ご武運を!」
ウレルは短く声を発すると、迷うことなく馬を逆向きに走らせた。
そんなウレルの姿に、私は胸が引き裂かれそうになった。
だって、ディアナの中にいるのはウレルが愛するリリィなのに!
もし、ウレルがこのことを知ったら、この場に留まってディアナとともに戦うだろう。
知っているのは私だけ。
すぐ後ろのウレルに打ち明けようか、迷う自分が情けない。
胸が早鐘を打ち、頭はパニックでクラクラする。
でも・・・今は言えない。
(リリィ、ごめんなさい!)
私はウレルの馬の手綱と振動に全神経を集中しながら、自分のふがいなさを呪った。
※
ウレルの愛馬は走る度にグングンとスピードに乗り、まるで弾丸のように神殿の通路を駆け抜けた。
いくらシャーロットが乗馬に慣れているとはいえ、魔物から逃げるためのアップダウンの激しい走りは、私のチキンなハートには刺激が強すぎる。
「シャーロット、気分は大丈夫か? 」
ウレルが後ろから声をかけて少し馬の速度を緩めてくれなかったら、きっとゲーゲー吐いていたわ。
ホッとした私は、ウレルを振り返った。
「ありがとう。司教の部屋までもう少しだから、大丈夫よ。」
私を心配するウレルの優しく黒い瞳。
王国の非常事態にまで私の心配をしてくれるなんて、スパダリ夫すぎやろッ!
しつこく追いかけてくるノウェムバットを躱しながら司教の部屋まで来た途端、ウレルは急に警戒の色を濃くして驚きの声を放った。
「何だ、アレは・・・⁉」
私は目を疑った。
司教の部屋の入り口が、おびただしい数のグロテスクな魔物でグチャグチャに埋め尽くされている。
ピンク色の、小腸をぎゅうぎゅうに詰め込んだような外観の魔物は、私たちに気がつくやいなや、突発的に緑色の液体を噴射してきた。
「キャアッ!」
間一髪、馬を後退させたウレルの機転で、飛んできた液体は馬の蹄の手前で跳ねた。
でもその床が、すぐに蒸気を上げて黒く焦げたように変化して、私はゾクッとした。
「床が溶けた・・・?」
「今までに見たことのない種類の魔物だ。
今すぐに馬から降ろすから、そなたはどこかに隠れていろ。」
「いえ、私も戦います!」
そうは言ったものの、武器はウレルの片手剣だけ。
現実的に、遠距離攻撃の魔物に剣だけで太刀打ちするのはかなり厳しい。
私はギュッとワンピースの裾を握りしめた。
(ああ、こんな時にサラキアに貰ったレイピアがあれば!)
ん、待てよ。
私は、握った手のひらをパッと開いて思いついたの。
(そうよ、ここはマンガの世界だもの!
聖女の祝福みたいに心で強く念じれば、あの剣がここに瞬間移動で出現したりするんじゃないの?)
試しに目を閉じて祈った私は、すぐに全身に冷や汗をかいた。
(いや、しないよね! やっぱり私、モブキャラだし!!)
わーん、聖女の祝福なんて力があっても、魔物が倒せないなら意味がないじゃない!
モブは、どこまでもメインキャラにはなれないのね!
そんな時、荒ぶる蹄の音がして、馬の嘶きと共に目の前に私の愛馬・ブラックが現れたの!
「ブ、ブラック⁉」
その鞍に括り付けられているのは、サラキアから貰った私のレイピア。
(やっぱりスゴイわ、ご都合主義‼
原作者さま、私がこのマンガの主人公になったわけじゃないわよね⁉)
興奮してウレルの馬から降りてブラックに駆け寄ると、廊下の向こうから聞きなれた野太い男性の声が辺りに響いた。
「シャーロットさまー、受け取ってくださーい‼」
まさか、まさかのアトラスですってーーー⁉
そうよ、主人公じゃなくても、モブ同士の絆がこの展開を作ったんだわ!
モブの魂が奇跡を起こした!
モブは正義‼
モブバンザーイ‼
「早かったな、アトラス。」
緊張の色を残したまま、アトラスの姿を認めたウレルが馬上から声をかけた。
「急に魔法石からの連絡を受けてまさかとは思いましたが、神殿の不穏な空気を感じたウレルさまの読み通り、武器と馬が必要になりましたね!
間に合って良かったです!」
ガァクゥッ・・・!
魔物の気配に気づいたウレルが、事前にアトラスに連絡してくれていたのね。
さすがメインキャラはひと味違うわね。
モブの奇跡じゃなかったけど・・・まあいいわ!
私はサラキアのレイピアを頭の上まで振りかぶると、魔物目がけて打ち下ろした。
「喰らえッ!」




