#26 悪夢襲来
「ディアナの中身が、リリィ!?」
自分を棚に上げて言うけど、信じられないッ!
私は口をポカンと開けて背後のディアナを見つめた。
ディアナは震えながら私の手を取ると、両手を合わせて金色の光を収納した。
「ごめんね、今まで騙していて。」
懺悔の言葉を吐いたディアナは近くの長椅子に座った。
そして力なくうなだれながら、ポツリポツリと私に語り始めた。
「前に悪魔の森の討伐部隊に、シャーリーが参加したことがあったよね?
君がユニウルフに襲われて、私が一晩付き添った時のことだよ。
寝室で休養を取ったあとに、急に違和感を感じて目が醒めたんだ。
あの日、姿見鏡に映しだされた私はすでにディアナになっていたんだ。」
勝気な赤い瞳に燃える炎はすっかり色をひそめて、手の平を見つめるディアナは全くの別人に見えた。
「最初は信じられないし、夢だと思った。入れ替わった本当のディアナを探さなきゃと焦ったりもした。でも徐々に、騎士として戦いディアナとして生活することの楽しさが罪悪感を上回っていった。
聖女としての期待に応えない生活が、心地よかったんだ。
そして、生まれて初めての女友だちができた。」
絶対的な美貌と才能、そしてイケメンたちに溺愛される物語の主人公に、こんな苦悩があったなんて・・・!
衝撃の事実を包み隠さず話すディアナの後ろに、リリィの魂が透けて見えるような気がする。
ディアナは私に目線を合わせて儚く微笑んだ。
「今までは、なぜか男性たちに囲まれていたから、同世代の女の子と友だちになることがなかったんだ。
だから友だちとしてどう振舞ったらいいのかもわからなくて、シャーリーを惑わせてしまったかもしれないね。」
リリィは溺愛恋愛マンガの主人公で、周囲の男どもは過度の愛情表現ばかりだったから、私への友情のさじ加減が分からなかったのかな?
百合展開じゃなくてひと安心・・・じゃないわ!
それじゃあ私はシャーロットに、シャーロットはリリィに、リリィはディアナに憑依しているってことよね⁉
しかも、私がこの世界に憑依した日に三人が入れ替わったなんて、明らかに偶然の出来事ではないでしょ。
私たちを入れ替わらせて得をする人物は誰なの・・・?
「本当に、申し訳ないと思っている。君にも、ディアナにも。」
今にも泣き出しそうな顔のディアナに、私の胸はキュッと苦しくなった。
私だって、みんなを騙してシャーロットを演じている。
それを誰にも打ち明けないのは、リリィと同じ気持ちだからよ。
毎日が報われなくて苦しかった社畜副店長から、自由きままな異世界ファンタジーの公爵夫人を演じる生活が、刺激的で楽しかったからだ。
私に、リリィを責めるような資格はない。絶対に。
「ダイ・・・いえ、リリィ。私こそあなたに告白しなきゃならないことがあるの・・・!」
覚悟を決めた私が喉の奥から絞り出した震える声を出したとき、大きく礼拝堂の床が、突然グラグラと動き出した。
「伏せろ、シャーリー‼」
ディアナが私の背中に覆いかぶさり、私も慌てて床に臥せた。
(じ、地震⁉)
礼拝堂に飾られた装飾品や燭台が次々と床に落ちていき、地面が割れるような激しい揺れと断続的な怪音が襲う。
やがて揺れが収まると、天井のステンドグラスに亀裂が走り、粉々に砕け散って礼拝堂に降り注いだ。
「イヤッ!!」
「シャーリー!」
間一髪、ディアナが自分のヴェールを私に被せて、雨のように落ちてくるガラスの被弾から防いでくれた。
もし、その対応が一瞬でも遅れていたら・・・全身がガラスの串刺しになる自分を想像して私は身震いした。
「グガガ・・・ギャアアアーーー!!」
鋭い奇声が礼拝堂に響き、青ざめたディアナが天井を見上げた。
「まさか、そんな・・・!」
礼拝堂の天井には、大きな蝙蝠のような魔物が私たちを嘲るように飛び交っていたのだ。
※
「ノウェムバット! 9つの生命を宿す上級魔物だ!!
神殿に入り込むなんて、信じられない! いったいどうなっているんだ!!」
ディアナが急降下して飛来してきた赤い目の蝙蝠に、ヴェールを振り回して応戦した。でもどれだけ振り回したとしても、布の威力では致命傷にはならない。
(剣があったら・・・!)
歯がゆい思いをしながらディアナの陰で成り行きを見守っていると、礼拝堂の祭壇の後ろの壁に、飾り物の剣が見えた。
(あれだ!)
私は思い切ってディアナの背中から飛び出して、通路を走った。
背中に切ないディアナの声が突き刺さる。
「危ない、シャーリー‼」
あと一歩で剣に手が届く寸前、黒い影が目の前を横切り、私の目の前に大きな牙を剥き出した蝙蝠が現れたの。
(ヤバ、終わっ・・た・・⁉)
私は反射的に目を瞑って腕を顔の前に交差させた。
大きな黒い影の冷気が腕を絡め取り、私は死を覚悟した。
「もうダメ!」
その時、思わず頭に浮かんだ名前に、我ながら驚いた。
最後に一目会いたかった・・・!
「ウレルーーー‼」
ウレルの名を叫んだ瞬間、ノウェムバットが縦に引き裂かれて二つに落ち、私はもう一度叫んだ。
「キャアア、何ーーー⁉」
「だからイヤリングを使えと言っただろう!」
突然、私の目に木の葉型の長剣を手に持つ白銀の兜の騎士の姿が飛びこんできた。
兜の奥の黒い瞳が、怯える私に優しく微笑みかける。
ウソ、本当に・・・⁉
「だが、今この瞬間に俺の名を呼んだのは最高だよ、シャーロット。」
ヘリオスの騎士団団長であるウレルが、星の模様の馬を駆って目の前に現れたの。




