#21 私が本物
私が聖女・・・⁉
自分の身体からあふれ出す金色の光。
戸惑いながら振り返るとディアナがゆっくりと私に近づいてきた。
「聖女の祝福を使うのは初めて?」
「この光が聖女の祝福ですって?」
確かにマンガでリリィが怪我人を癒す時は、金色の光で表現していたわ。
そういう名前で呼ばれているなんて、限界ヲタクの私でも知らなかったけど。
「そうだよ。私は幼いときから、リリィを見てきたから分かるんだ。
もう、ウレルは大丈夫だから力をしまった方が良い。」
「そう言われても・・・どうしたらいいのか分からないの!」
「ああ、こうするんだよ。」
そう言うと、ディアナは私の両手首をつかんで手のひら同士を合わせた。
すると、急速に金色の光は私の手の中に吸い込まれるように収まっていき、不思議な高揚感や熱が吸い取られる感覚も落ち着いた。
「わ・・・!」
驚く私に、ディアナは微笑んだ。
「ね、こうすると聖女の力が収束できるんだ。」
「ありがとうダイ。私、本当に何がなんだか・・・ッ!」
足に力が入らなくて崩れ落ちた私を、ディアナが咄嗟に受け止めて、優しく階段に座らせたの。
「聖女の力は使用する人間の体力に比例する。おそらく今日はもう、シャーリーは自力では歩けないよ。」
初めて私がシャーロットに憑依した時に、倒れそうなリリィをウレルが受け止めていたのはそのせいだったのね。
「でも、変ね。どうして私に聖女の力が使えたのかしら?」
「聖女の力は、その器と魂が神に認められた乙女でないと発現しないんだ。
シャーリー、君は神に認められた人だということさ。」
「そんなの嘘よ!」
泣きじゃくっていたリリィが、すごい剣幕で私をにらんだ。
「そいつはニセモノのシャーロットなのに、聖女になったなんてありえないことだわ!」
ニセモノだって、バレた・・・⁉
私が言葉を失うと、ディアナが冷ややかにリリィに言及した。
「この期に及んで世迷言を・・・。今、ニセモノの容疑がかかっているのは君の方だよ、リリィ。」
「私はリリィじゃない・・・ 信じられないと思うけど、中身はシャーロットなの!
ウレル公爵の第一夫人であるシャーロットなのよ‼」
私は鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
リリィの中身がシャーロットですって⁉
そういえば思い当たる節が・・・この世界に来てからのリリィの態度や発言が、頭の中でグルグルして吐きそうになった。
既視感のあったリリィの部屋で飲んだあの紅茶は、いつもベッキーが淹れてくれたシャーロットのお気に入りの茶葉だった!
間違いない。
リリィの顔をしているけど、こっちが本物のシャーロットだ!
「シャーロットが同時に二人いるのはおかしいよね。じゃあ君は、どちらかがニセモノだと主張したいんだね?」
本物のシャーロットの言葉を鵜呑みにはせずに、ディアナは冷静に対応している。
ディアナに思いが通じたと思ったリリィは満足げに頷いた。
「そうよ!」
「それをどうやって証明するんだい? 見た目はリリィで中身はシャーロットさん?」
「本当のシャーロットしか知らないことを、ニセモノは答えられないわ!」
自信満々にリリィが言うと、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
終わった・・・。
私の異世界憑依が、まさかこんな形で終わりを告げるなんて。
安らかな表情で眠るウレルを盗み見て、私は胸が苦しくなった。
せめてちゃんと、ウレルや公爵家の人たちにお別れを言いたかったな。
リリィは動けない私の側に近寄ると、腰に手をあてて挑戦的なまなざしで私を射抜いた。
「シャーロットの生家であるワィンダム侯爵家の家紋は? 何を表現しているかを答えて。」
「・・・盾に星がついているわ。空を照らす星のように、国の安全を守るという意味よ。」
「クッ、実家にスパイでもしたの?
では、公爵夫人にしか分からないことにするわ。ウレル公爵さまの好物は?」
「・・・とうもろこしのスープです。」
「ウウッ、アトラスの入れ知恵かしら?
で、では、私が初めてウレル公爵さまに会った時に言われた屈辱的な言葉は⁉
これこそ公爵さまは覚えていないだろうし、私しか知らないことよ!」
「・・・君と人生を共にしたくない。」
分かりやすく驚愕の色を隠せないリリィに、私は答えられた安心感よりも申しわけの無さが先に立った。
(キャー、ゴメンなさい! 私が限界ヲタクなばっかりに、思わず全問正解してしまったわ‼)
私は慌ててリリィに懇願した。
「もっと、もっと私が答えられないようなマニアックな質問をして! 悔いのないようにしてちょうだい‼」
唖然として絶句するリリィに、ディアナが毅然とした態度で言った。
「気は済んだか?」
「ウソじゃないわ・・・私が本物なのに!」
「話はブリリアント王国の聴聞会議で聞こう。
聞いているだろう、バッコスどの。リリィを捕らえて口を塞げ!」
「姫殿下は人遣いが荒いのぅ。」
現れたバッコスが右手を振ると、逃げようとしたリリィが七色のシャボン玉に閉じ込められた。
シャボン玉はみるみるうちに手のひら大に小さくなり、それを手の中に収めたバッコスは蛇のような目つきでディアナを見上げた。
「勝手にこんなことをして、ヘリオスさまが黙っていないでしょう?」
「疑いが晴れるまではしょうがない。それにリリィは神聖なる聖女の職務を放棄したのだから、神のしもべである私が処罰を下すのは当然の行いだ。」
「なるほど。では、移送後は別邸の部屋に魔法をかけて、聴聞会議まで軟禁するとしましょう。
私はディアナさまに指示されただけですと、ヘリオスさまには伝えますが、よろしいですよね?」
「ああ、全責任は今回の作戦の隊長である私が取る。ヘリオスさまにはそのまま伝えてくれ。」
「御意。」
そうしてバッコスは移送魔法の白い輝きに溶けていった。
私には転送する寸前に見せたバッコスの顔が、不穏にも少し微笑んでいるように見えたのだけど、気のせいかしら?
※
結局、カジノでの魔物襲撃騒動で、精鋭部隊によるマルスの調査は頓挫してしまった。
そもそも、ブリリアント王国の支配下にある国に魔物が出現するということ事態が異常なことで、防御壁が弱まったことなど、もっと違う角度からの調査も必要だというのがディアナが陛下に報告した内容だった。
それに王室会議に参加したウレルから聞いた話だと、リリィの聖女の力の喪失と自分がシャーロットだと主張する問題発言は精査しなくてはならない課題で、近いうちに聴聞会議を開くらしい。
あと、私が聖女の力を発動したということは国家を揺るがす大事件のようで、しばらくは他言無用の重大事項として、口に鍵付きのチャックをしろと珍しく私の部屋に来たウレルに念を押されたのよ。
心配しなくても「知らない間に聖女になりました」なんて、誰にも言いたくないわよ。
って思ったけど、私はにこやかに営業スマイルを浮かべてコクリと頷いた。
「心配されなくても、友だちが少ないので言う相手もいませんわ。」
「プッ・・・そうだな。その点においては心配無用だと信じよう。」
吹き出して笑うウレルの肩をグーパンで叩いて部屋から追い出すと、いつの間にか部屋にいたアトラスがこぼれる涙をそっと拭いてつぶやいた。
「リリィさまのこと以外で、ウレルさまが明るく笑う日がやってくるとは・・・!
やはり貴女さまは海の底に沈んでいる公爵家に波紋をもたらす石・・・いや、ダイヤの原石!」
「わ、アトラス⁉ いつの間に?」
「最初から私はウレルさまと一緒にこちらを訪問していましたが・・・シャーロットさまはもう、旦那さましか目に入らないのですね!」
「ち、違うわよ! もう、早く用件を言いなさいよ。」
図星を突かれて慌てふためく私に、アトラスが慇懃にお辞儀した。
「実は、先ほどウレルさまよりご夫婦の寝室をひとつにしろとのご命令がございまして、お引越しの許可を頂きにまいりました。」
「ウレルが? さっきまでここに居たんだから自分で話せばいいのに・・・って、えええーーー⁉」
し、寝室をひとつにするってどういうこと⁉




