#17 心配無用・・・?
「この部隊の隊長は私だ!
よって、作戦に関わる全ての権限は私にある!!」
ディアナの一喝で私を巡る狂騒曲は終焉を迎え、結局チーム分けはバッコスが単独、私とディアナ、ウレルとリリィという三組に落ち着いた。
(ふぅ、ヘリオスの依頼には背くけど、これがいちばん平和なチームかもね。)
それからは毎日、それぞれが買い物客を装って商店の人から話を聞いたり、怪しい挙動の団体の集まりに潜入したりしてマルスの情報を集めた。
それで分かったのは、マルスは特定のリーダーがいる義勇団だということだ。
武装してはいるけど、無闇に民衆を巻き込んだ戦闘はしないことと理に合わない活動はしないことで多くの支持を得ている。
そして同時に、ブリリアント王国を敵対視していることも分かった。
マルガリテスはブリリアント王国の統治下にあるから、表面的な不満は表に出して言わないものの、踏み込んだ話をすると子供も大人も声をひそめて暗い顔をする。
マンガのストーリー通りね。
ウレルが陛下に提案した重い関税の影響が、少なからずこの表情の原因になっているのは明らかで、私は自分のことのように胸が痛かった。
(このままじゃ、本当に独立戦争が起こっちゃう・・・。
争ったり抑え込んだりする以外に、解決する道はないのかな?)
心配していたリリィとウレルの仲についてはそれ以上発展することはなかった。
目の端に映る姿は、むしろ以前よりもよそよそしい態度に見える。
(ヘリオスの心配は杞憂に終わりそうね。)
私は物陰から二人の姿を盗み見しながら、ホッと胸をなでおろした。
※
「ついに掴んだぞ!」
ある夜、外出していたディアナが興奮ぎみに私の部屋に飛び込んできた。
本を読みながら寝落ちしそうになっていた私は、すぐに立ち上がってディアナに駆け寄った。
「ど、どうしたんですか?」
「マルスがこの街最大のカジノの運営をしていて、幹部たちが裏の賭博場を仕切っていることが分かったんだ。
カジノは合法だが、VIP相手には地下で法外な金額の賭博をする裏の顔があるらしい。
全員で潜入捜査をしてみよう。上手くやれば組織を一網打尽にできるかもしれない!」
ついに、マルスと対決するのね・・・!
私は『マルガリテスの歴史』と書かれた分厚い本を本棚にしまうと深呼吸をした。
「大丈夫、きっと上手くいく。」
原作ではヘリオスとウレルとリリィの活躍でマルスを率いるリーダーを捕らえたはず。ここにヘリオスが居ないのは気になるけど・・・何とかなるでしょ!
いざとなったら主人公であるリリィにしがみついてでも生き残ってやるんだから!
※
カジノに潜入する当日は、晴れているのにボコボコした黒い雲が広がる不思議な天気だった。
「天気が急変する前触れじゃ。」
バッコスはニヤリと笑って透明マントで姿を消した。
あくまでも単独で捜査したいようだ。
(なによ。意味深ぽく言って私を怖がらせようったって、そうはいかないんだからねッ!)
そう思いながらも、私の足はカタカタと分かりやすく震えた。
魔物より、人間相手の方がよっぽど怖いかも・・・!
そんな私の肩を、後ろからウレルが優しくポンと叩いた。
「公爵夫人、これを持っていきなさい。」
ウレルの大きな手のひらには、銀の鎖に丸いアメジストの魔法石を幾つも連ねたイヤリングが輝いていた。
「わぁ、綺麗な石ね。」
私が目を細めて感嘆すると、ウレルが私の髪をすくった。
「な、何するの?」
「イヤリングをつけるだけだ。」
元彼にもつけてもらったことないのに!
耳たぶに触れられるくすぐったさに耐えながら、私はウレルを見上げた。
「ありがとう。けど、高価なモノなんでしょう?」
「通信タイプの魔法石だ。何かあったらこの魔法石に手で触りながら話しかけろ。
20秒くらいの通話が可能だが、位置情報も特定できるから、すぐに駆けつける。」
「これも魔法石・・・!?」
魔法石の件でバッコスに怒られてから、色んな本を見て調べてみたんだけど、特殊な魔法石は採掘できる鉱山が限られている上に流通が少ないから高価なものが多い。
主に魔導士や貴族向けに販売されていて、平民はその存在すら知らない人がいるんだって。
「私なんかに渡していいの?」
「いいに決まっているだろう。俺の妻なんだから。」
当たり前のように答えるウレルの言葉に恥ずかしくなって目線を下にずらすと、ウレルの耳にも同じイヤリングがついているのが見えた。
「公爵さまとおそろいなの?」
「そうだ。決して肌身離さず着けていろよ。」
私の耳たぶから頬に片手を添わせたウレルが、黒目がちの憂いを含んだ瞳で私の顔をのぞきこんだ。
「くれぐれも気をつけて。無茶はするな。」
ウッ・・・ウレルの色気の殺傷能力がハンパない!
毎日見ていても免疫がつかないなんて、もはや人類の敵じゃない‼
でも変ね。
推しでもないのに、本当の夫婦でもないのに、私の心臓はどうしてこんなに高鳴るの?
ウレルがその場を去ったあと、少し離れたところから私たちを見ていたリリィが、ボソッと何かをつぶやいて背中を向けた。
「私のときには、そんなプレゼントはくれなかったクセに・・・!」
と言った気がしたけど、まさか・・・聞き間違いよね。
心配なんかする必要はないじゃない。
だって、ウレルが愛しているのはこの物語の主人公のリリィだもの。
※
マルガリテスの首都パースにあるカジノは大規模な商業施設の一角に立地していて、パースに住んでいる人のほとんどがこの施設で働いているのではないかと思うくらい、たくさんの人々であふれていた。
この中からマルスの関係者を探すのは、なかなかの難易度のミッションね。
「ダイ、作戦はあるの?」
観光客らしく東洋の着物に身を包んだ私とダイは、ルーレットの大テーブルに群がる客に紛れながら声をひそめて話した。ウレルとリリィもあとから賭博場に合流する予定だけど、今は姿が見えない。
ダイはルーレットを転がる白い球から目線を外さずに答えた。
「ゲームに勝ち続けてロイヤリティを上げ、ハイローラーのVIP客として認識させる。
それからカジノのオーナーに会ってマルスの情報を得るんだ。」
「どうやって勝つというの? 私、賭け事は苦手よ。」
ディアナはズルい顔で私の耳元に口を寄せた。
「イカサマをするしかないだろうね。」
イカサマ?
意外だわ。美しいお姫様の口から、そんな不穏な言葉が出るなんて!
「そんな技術、持ってないわ。ダイは経験があるの?」
「私も初めてだ。」
「もう、からかわないで!」
ふてくされてディアナの背中を突き放すと、逆にディアナは私の肩をヒョイと抱き寄せた。
わわ、ドキッとしちゃう!
「からかってなんかない。
セレモニーのときにバッコスから貰った魔法石を、いま持ってきているだろう?」
「ああ、ブラックを大人しくさせた国宝級の・・・って、まさか・・・⁉」
「獣を操ることができれば、人も操ることが可能だと思わないか?」
ディアナはその白い人差し指で宙を描き、ブラックジャックのカードを配るディーラーに向けてピタリと照準を定めた。
「手始めにあのテーブルから荒稼ぎさせてもらおう。」




