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残老害者

わたしは障害者。

年齢は古希である。

要は残老害者です。

老害者であり障害者である。

二重の害を一つの身体で持っている。

障害は高次脳機能障害。障害3級。

脳梗塞が原因で、脳機能が停止し、術後にも残る後遺症。

残っている後遺症は弱視、視野狭窄、動体視力が極低レベル。昼間なら、独りでゆっくり歩ける。

がしかし夜は、足元が心許ない。

行く違う人にぶつかることもある。

妻子はいた。

妻は老々介護は嫌と離婚。

子は親より実子とペットの育成で忙しい。

残老害者のわたしは、自らの寿命と暮らし方が混濁のまま、単独、沖縄へ移住してきた。

40数年暮らした首都圏と20年弱の故郷でなく、沖縄に世話になろうと決めた。

理由は単純、沖縄の人々と沖縄の気候が好きだから

である。乾燥肌で寂しがり屋のわたしは沖縄での永住に舵をきった。

人生初 羽田那覇空港片道航空券。

いつもとおり3時間で、窓の下には、エメラルドグリーンの海が見える。

ただ今回は、羽田へ戻ることはない。

明日は那覇市役所で戸籍、保険、マイナンバーカードなどの行政処置。

わたし固有の事務として、障害手帳、介護認定、の那覇市役所での手続き。さらにもう一つ、那覇市の市営共同墓地の予約手続き。動けない遺骨の納骨処の確保。この予約が永眠を保証してくれる。

生き物は動けなくなる。

誰でも、いつかは、動かなくなる。

どんな立場であろうが、どんなに必要とされ愛されていようが、人はお別れの時がくる。

わたしの寿命は、誰も知らない、わたしも知らない。

それが、わたしには不安定である。

わたしは、わたしの寿命を知りたい。

幾らで教えてくれるのか?

わたしはわたしの寿命を決めて、不安を消し去ろうと考えた。

わたしは他人様に下の世話をお願いしたくない。

わたしは他人様に食事のスプーンの運びをお願いしたくない。

もう古希。

母ちゃん父ちゃんに感謝。

社会に感謝。

周りの人々に感謝。

わたしは、わたしの寿命を決められるくらい長寿である。

子供2人、孫3人、親兄弟とも、楽しませてもらった。残老害者である。

桜坂を登った。

三年坂を登った。

乃木坂もおりた。

御幸坂も降りた。

泣いた、笑った。

わたしはわたしの寿命を決めた。

無意識で、挨拶せずに、おさらば できない。

ちゃんと、感謝の誠を抱き、おさらばしたい。

残老障害者になって、わたしは一日一件の善意に感謝して、三百六十五日が過ぎた。

近所の信号機がない横断歩道。

白杖のわたしを音目にするドライバーは停車してくれる。

右ドライバーが停車すれば左ドライバーも停車してくれる。

わたしは左右のドライバーに頭を下げつつ横断歩道をマイペースで横断する。


今日も感謝一つ。

ファーストフォード店は忙しそうなサラリーマンや楽しそうな学生で混雑。

わたしは最後列に並ぶ。

手際よい定員と客が、手短に注文を処理していく。

わたしの番。

女子高生が丁寧に教えてくれる。

定員はゆっくり訊いてくれる。

支払いはカード。

お釣り小銭処理不要。

「できあがれば、席までお届けします」

「ありがとう」

わたしは空席へ移動。

しばらくすると

「お待たせしました」

「ありがとう」

今日も感謝一つ。

久しぶりに兄姉に会いに、実家へ。

もう70超え兄姉とわたし。

誰も口にせぬが、今生の別れかも?と心の角。

新幹線乗り換え。

JR駅員が

「何かお手伝いを?」

「私鉄切符売り場へ行きたい」

「わたしの肩に手を、ご案内します」混雑の大ターミナル駅。

「ありがとう」

今日も感謝1つ。

一日 一善を体感。

老若男女、みなさんに感謝。

わたしは寝床で回想し涙ぐむ。

残老害者は ありがたい社会にも感謝。






あと、5年。

残老害者は、最後の爪跡をいくつ、

残せるだろうか?

^_残さくても構わない。

人生 悔いなく。

人生 夢も消化して。

人生 を 野性に アップデートして、人生ではできなかったことを

野性になって、やり遂げたい。

人生のような自衛服を脱ぎ捨て、裸の心で裸の生き物として、終活したい。

女でなく男でなく親でなく子でもない。

残老害者に変身した野性を行きたい。


お願いです。

遺骨を 那覇市累識名園の共同墓地まで 運んでください。

大人しく静かにしていますから。

もう わたしは意識なく脚力もない。



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