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クジ引き

私が住んでいる町には、ある噂があった。


満月の夜、午前0時に神社へ行くと、お祭りのように屋台が並んでいるのだという。


私はその噂を同じ小学校に通っている涼太に話し、一緒に神社へ行くことにした。


約束の夜、空には綺麗な満月が浮かんでいた。


私は家族に内緒で家を抜け出し、神社の近くで涼太と落ち合った。


「おーい、陽葵(ひまり)


鳥居の前で涼太が私に手を振る。


私も手を振って涼太の元に駆け寄った。


「ごめん待った?」


「ううん、俺も今来たとこ」


私はスマホを取り出して、今の時刻を確認した。


画面には23時58分と表示された。


「あと2分で0時だよ」


私が伝えると、涼太は懐中電灯で境内を照らして言った。


「でも、なんにも無いぞ。やっぱり嘘だって」


たしかに、境内には屋台など無く、静まり返っている。


「まだ分かんないじゃない。0時にならないと」


私はまたスマホの画面を見た。


23時59分。


じっと見つめていると、表示が0時0分に変わった。


その瞬間、境内が嘘のように明るくなった。


見ると、提灯を付けた屋台がいくつも並んでいる。


「すげぇ……」


涼太は目を丸くして驚いていた。


「突っ立ってないで、早く行きましょ」


私は涼太の手を引いて鳥居をくぐった。


境内には金魚すくいや射的など、いろんな屋台が並んでいる。


私はその中で、おもちゃがたくさん飾られているクジ引きの屋台を選んだ。


屋台の前に立つと、クジ引き屋のおじさんが私に言った。


「やってくかい?」


「うん、やるわ」


私は屋台に置かれた箱の中に手を入れた。


中にはたくさんの紙のクジが入っている。


私は当たりを引くことを祈って、その内の一枚を取り出した。


折られたクジを開くと、『あたり』と書かれていた。


「やった。当たりよ、おじさん」


私は当たりクジをおじさんに渡した。


「おめでとうございまーす」


おじさんがハンドベルを鳴らして言う。


「当たりを引いたから、景品をあげようね。でもその前に、お代を払ってもらわないと。お代は人間だよ」


涼太が驚いて言った。


「人間! どいういうことだよ。金じゃないのか?」


「お金なんていらないよ。人間を払ってもらわないと」


「おい、逃げようぜ」


涼太が私の手を引く。


でも、私はおじさんに言った。


「ここにいる涼太を払います」


「え?」


「ごめんね、涼太」


「お前、最初から知ってて――」


その瞬間、涼太の体はあっという間に小さく縮んで、最後はクジになった。


そして、クジは空中に浮かぶと、箱の中に吸い込まれていった。


それを見届けて、おじさんが言った。


「さて、お代はたしかにいただいたよ。景品をあげよう。何がいい?」


「お父さんを返して」


「分かった。じゃあ、景品として君の父親を返そう」


おじさんがそう言うと、箱の中から一枚のクジが飛び出した。


クジは地面に落ちて、どんどん大きくなり、やがてお父さんの姿になった。


「お父さん」


私は泣きながらお父さんに抱きついた。


「ああ、陽葵」


お父さんは私の頭を撫でながら言った。


「俺、今までどうしてたんだ? たしか、ここで意識が無くなって……」


「お父さんは私の代わりにクジにされっちゃったの。私がクジ引きをしたせいで。しかも、はずれを引いちゃったから、お父さんを取り戻すこともできなかった。でも、今度は当たりを引いたの。だから、お父さんを取り戻せたんだよ」


「そうだったのか。ありがとう陽葵」


「ずっと会いたかったよ、お父さん」


「もうここで遊んじゃいけない。早く帰ろう」


「うん、お母さんも待ってるよ」


私はお父さんと手を繋いで歩いた。


鳥居の外に出た瞬間、境内の明かりが消えた。


後ろを見ると、さっきまで並んでいたはずの屋台は、嘘のように無くなっていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クジ。 はずれていたら、涼太くんは犠牲にならなかったのに……。 涼太くん、小さく縮んでクジになってしまうなんて、何という恐ろしいことに。 ラスト。 「後ろを見ると、さっきまで並んでいたはず…
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