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チート閣下の異世界建国記  作者:
プロローグ
2/2

対面

 その少女は部屋に入ってくると一礼する。

「閣下、ローゼが主要な者を集めておりますので、準備が整い次第大広間までお越しください」

 私は状況が呑み込めずに狼狽えるばかりだった。

「君は…自由に動けるのかっ!?」

 少女…キーシュと名乗るその子はキョトンとした顔でこちらを見る。

「はい。私やローゼ、並びに閣下に仕える者は全員問題無く行動出来ますよっ!」

 フンスと、本を持っていない方の腕を曲げてガッツポーズをする仕草はどこか頼りなさそうだが…いやそうじゃない。

(いや待ってくれ、ユニットが指示も無く動くとか本当にどうなっているんだ…)

 幾つか頭の中で仮説を組み立てるがどれも決定的な要素に欠ける気がする。そもそもこのままテストプレイを続けて良いのだろうか。

(とは言っても、そもそも強制終了も出来ないしな…それなら、もう少しこの状況に流されるのも解決策を思い付く手掛かりになるかもしれないか…)

 そんな中キーシュは、思案に耽る私の顔をジーッと眺めていた。

「ん…済まかったキーシュ、ちょっと考え事をしていてね…」

「いえ、閣下は我々を導いてくださるお方なんですから、様々な智謀知略を巡らすのは当然かと思います!」

 慌てたようにキーシュは首をブンブン振りながら答える。いい匂いだ…いやそうじゃないが。

(なんか、凄い事を言われた気がするが…もしかして)

「そうだ、キーシュ?君の名前を付けた人物って…」

「閣下ですっ!!!」

 即答されてしまった。勢いに少し引く…。

「閣下が私やローゼに名前を付けて…生を与えてくれたので、私達はここで閣下を支える事が出来るんですよ!」

 瞳をキラキラさせながら答えるキーシュであるが、私はその返答から一つの推測を浮かび上がらせる。

(つまり、私が書記官に名前を付けた段階で自我が…少なくとも書記官の2人には芽生えていたのか?)

 そんな話があるか!?とまた頭を抱えたくなるが、懸命に堪える。

「つまり、キーシュや他のユニット達は自我を得てからまだ時間が経っていない…と言う事で良いのかな?」

「はい、私達も気が付いたら領主の館の各所に居りました。幸い閣下の気配がしたので皆を代表して私が参った次第です!」

 気配…最近の自我を持ったユニットはそんな能力まであるのか。そんな話があるかと内心で自分に突っ込みを入れる。

「済まないがもう一つだけ確認したいんだが、この世界は…」


「…閣下…姉さん……皆が待っている…」


 私のキーシュへの問い掛けは、突如割り込んできた声に遮られる。

 視線を向けると、キーシュの入って来たドアの付近にもう一人の少女?が立っていた。キーシュと違い、ローブのフードを被っているが黒髪なのは分かる。一部を除いてキーシュと背格好が同じ…という事は。

「えーと、君がローゼ…で良いんだよね?」

「…うん…閣下…よろしくね……」

(ローゼが手を伸ばして…これは握手を求めているのかな?)

 差し出された手を握って握手をする。

「なっなっなっ~~~!?」

 何やらキーシュがワナワナしてるが、ひとまず置いておく。それよりも気になる事がある為だ。

「皆は、大広間に集まっているんだったよね?」

「……うん…」

 ローゼがコクリと頷くのを確認すると、私は大広間―領主の館の内部構造は把握している―へ向かい歩き出す。

「あっ!?閣下、お待ちくださいーっ!!」

「…姉さん…早くしないと…置いていく……」

 いつの間にか先導する位置に移動していたローゼに付いていく形で大広間を目指す。自然と足が早足になりそうなのを我慢する。待たせてしまっている手前もあるが、自我を持った書記官2人の事もあり、怖さ半分興味半分で他のユニットもどういった思考や行動をするのか、製作者としての血が騒ぐのだ。

(この異常事態に順応し始めているのか…いつもの好奇心が刺激されてるのか…これじゃ分からないな)


 私がローゼに先導されて大広間に入ると、そこには4人の男女が集まっていた。

 全員が跪き、首を垂れて、私が上座の椅子に座るのを待っているようだ。

(思ったよりガチな雰囲気なんですけど…!?)

 内心ちょっと引き気味だったが、取り合えず椅子に腰かける。

「閣下!臣下一同を代表し、各代表者を集合させました!」

「うむ、ご苦労だったキーシュ。皆、集まってもらって感謝する」

 声が上ずってないか心配しながらそれらしい言葉を出してみる。幸い、私の違和感を感じとったユニットは居ないようだ。

 そして、現在の私達が存在するこの世界について何か情報が欲しい私は更に目の前の4人―キーシュとローゼは両隣に立っている―に声を掛ける。

「全員面をあげて欲しい。そして、各自の理解している範囲で現状の報告を行うように」

 私の命令…と言って良いのか分からないが、それを聞き届けると4人は顔をあげる。

(グラフィックも自作とは言え、こうやって自然に動いてるのを見られるとはなぁー)

 過去のMOD製作の苦労をちょっとだけ、そうちょっとだけ思い出して感慨深さを感じていると私から向かって一番左側、黒い甲冑を着た男が良く通る声で発言する。

「閣下、カッツェルであります。先ずは現有兵力について閣下にご報告致したく、発言をお許しください」

「カッツェルか、兵力の把握は領地の防衛にも直結する大事な要素だ。発言を許可する」

「はっ!ありがとうございます、閣下!」

 カッツェルは、メディコン2では戦術パートで主に使用する将軍ユニットとして作成した人物だ。テストプレイで色々な戦闘をこなしてもらう為にHPを始め、命令出来るユニット数に影響する統率力などパラメータをかなり高めに弄っていた。性格も、騎士道+10とどちらかと言えば高潔になるように設定している。

「現在、斥候兵が3騎、重装槍兵が10名、装甲騎兵2騎、騎馬従士8騎が閣下の手足となり直ぐにでも任務に就けます!」

 その報告は要点だけを簡潔に伝えるもので、如何にも武人然とした言い方である。

(作っておいてなんだけど、予想通りって感じで少し安心するな)

 内心で安堵の息を吐きながら、私はカッツェルの報告に応じる。

「報告ご苦労。投射歩兵が居ないのは少し不安要素と感じるが、兵の数が増えても食料や物資の問題もあるから仕方あるまい」

「…閣下を憂慮させてしまい誠に申し訳ございません!」

 カッツェルが深々と頭を下げる。

「いや、初期兵力として防御力の高い重装槍兵と装甲騎兵も居るのでまずは問題無いだろう。面を上げて構わない」

「はっ!」

(思った以上に恐縮してる!?いや、確かに忠誠度のパラメータも最大値まで上げておいてあるけどさぁ…そもそも、初期兵力もテストプレイ時に他勢力の初期ラッシュに耐える最低限度の兵力だから仕方無いんだけどねっ!)

 内心突っ込みたいのを我慢して、今度は命令らしい命令をカッツェルに伝える。

「そうだ、カッツェルよ。我々がこの世界に存在してから、そこまで時間が経っては居ない…と思う。情報が…情報が欲しいのだが、斥候兵3騎を使って周囲の様子を探って欲しい。可能か?」

「承知致しました。直ぐにでも命令を下して閣下の望む情報を持ち帰ると約束致しましょう!」

 カッツェルが力強く宣言する。

「うん、ただし現地で人工物や人などを見掛けた場合は極力隠れてやり過ごすなりして欲しい。相手にこちらの情報を掴ませる訳にもいかないからな」

「流石閣下、自陣営の情報を秘匿させる細かな配慮、このカッツェル感服致しましたぞ」

「あ…うむ、それと重装槍兵は我々の建物周辺を歩哨として警戒に当たらせたいのだがどうだろう?」

「はっ!誠に僭越ながら、重装槍兵並びに騎馬従士2騎には、既に私の独断で歩哨の任に就かせて巡回させております!」

「そうだったか…良い、我々の身の安全を考慮しての行動だ。私自身も、現状把握に混乱していたのもあるし、カッツェルの独断は許す」

「寛大なお言葉を賜り、ただただ敬服するばかりであります閣下!」

「あ、うん…では、早速斥候兵達を送り出してくれ」

「はっ!それでは閣下、失礼致します」

 そう言うとカッツェルは立ち上がり、一礼すると大広間を―早足とは思われないギリギリの早さで―退出する。


「閣下、次はアタイの番でよろしいでしょうか?」

 カッツェルが退出したタイミングで声を発したのは、カッツェルの左側に跪いた女性だ。

 彼女は白いサーコートとマントを羽織って、頭部以外は鎖帷子を装備しており、頭部には大きな犬耳が生えている。となれば…

「うむ、報告を頼むヴルシラ」

 途端にヴルシラは目を輝かせる。

「はい閣下!アタイ…ヴルシラ以下近衛騎士隊5名、カッツェル将軍配下の者とは異なり、いついかなる時でも閣下の手足として動けるように待機しております」

 近衛騎士隊。メディコン2で主に主君、この場合はプレイヤーの率いる勢力の代表が、暗殺されたり戦場で斃れたりする確率を低下させるバフ効果のある従者として私自ら設定したものだ。能力値としては暗殺確率89%低下、戦場での戦死率80%低下と言った効果を持っていた。本来はヴルシラ一人だけで十分なのだが、似た役割の従者を複数作った場合のゲーム挙動を確認する為に、合計5人分のデータと各人の設定を作っている。そのデータと設定を引き継いだまま自我を持った感じだろうか。

「助かるよ。必要な時が来ればヴルシラ達に色々と動いてもらうと思うから、その時はよろしく頼む」

「っ!任せてください閣下!」

 コクコクと頷くヴルシラ。オーバーリアクションという感じもするが、彼女が人狼種であり、主人である私に大恩があるという設定が生きているのならば、色々と納得が出来る。因みに人狼種なのは、作っていたMODに人間以外の様々な種族を出す予定だった為だ。

 この世界がどのような作りになっているかはまだ分からないが、もしかしたらヴルシラど同じ人狼達が生活を営んでいるのかもしれない。

(元の世界に戻る方法を探しつつ、ヴルシラと同種族の仲間を探すのもある意味楽しい…のかな)


「閣下、ヴルシラの次は私が報告を行っても宜しいでしょうか」

 ヴルシラの隣に居る帽子を被った男が声を発する。その恰好は、メディコン2で嫌になる程目にしたので誰だか直ぐに分かる。

「外交官ブルッスス、我々の領地を取り巻く環境について貴官の意見を聞かせて欲しい」

 外交官ブルッスス。メディコン2の外交パートで操作する外交官ユニットで、ゲームがスタートすると各勢力に必ず一人外交官が配置される仕組みとなっている。外交官は他勢力の都市や外交官、軍事ユニットと接触出来る。その際、任意に外交画面を開き様々な交渉を行う事が出来るのだ。テストプレイ勢力の外交官として作られたブルッススは外交値が最大まで引き上げられており、かなり高難易度な外交交渉でも成功する確率が高い「天性の外交官僚」の特性が付与されている。

「はい閣下、現在我々の館と居住地が置かれた環境ですが、森林…と言いましても周囲を見た感じ大森林と言う程ではありませんが…に囲まれています」

「なるほど…ならば、周囲に未知の勢力が居たとしても発見されるまでは暫く時間が掛かるという事か」

 この辺りの返答は、メディコン2プレイ時の記憶を頼りに行っている。

「おっしゃる通りでございます、閣下。周囲に獣道すら無い立地である為、ある程度の時間は稼げるかと思います」

「ふむ、ではその間に我々が成すべき事は何だと考えるか」

「はい。まずは、斥候兵の報告から周囲に他の勢力…出来れば交流が比較的し易い人間の勢力が望ましいですが…の痕跡を探すべきかと。もし、付近に集落や都市がございましたら私が直接出向いて交渉を行い、必ずや閣下のご満足頂ける成果を得られるかと…」

 ブルッススの案は確かに納得のいく物であり、現在の孤立した弱小勢力である我々が取るべき指針であるように感じた。

「良く分かったブルッスス。結果待ちだが周囲に何かしら集落や都市などがあった場合には交渉事を任せたい」

「閣下のお言葉、しかと心に刻みました。必要とあればいつでもご用命ください」

「よろしく頼む」


 ブルッススが頷くのを確認して、最後に向かって一番右側に跪く女性に目を向ける。

 他の3人がそれぞれ将軍、近衛騎士隊長、外交官とくれば残りは…。

「待たせてしまって済まなかったクシュリナ…聖職者として何か思う所はあるか?」

「閣下、このクシュリナ。忠実なる下僕として、いつでも閣下の御拝命をお待ちしております」

 聖職者クシュリナ。メディコン2での聖職者は各地に赴き、自分の勢力の奉ずる神の言葉を流布して宗教的支配を補助するユニットである。特にクシュリナはテストプレイ勢力として作ったため、普通の聖職者ユニットであれば1領地につき1%程度しか上がらない改宗効率を30%くらいまで上がるように弄っている。

 また、特殊能力として戦闘時は相手ユニットを洗脳・改宗して自軍ユニットにしたり、味方ユニットのHPを回復させたりする能力を持つのも特徴として挙げられる。

「そうか、出番はまだ先の事となるが、活躍を期待しているぞ」

「勿論、その時は閣下の一信徒として、閣下の偉業を民たちに伝道していければと思います!」

(……ん?)

 何となく違和感を感じたが、ニコニコと笑顔のクシュリナからは特に変わった様子は受け取れなかった。

「分かった。暫くは待機が続くだろうが、活躍の時までの辛抱だと思っていて耐えて欲しい」

「畏まりました、閣下」


挿絵(By みてみん)


 クシュリナとの会話が一段落した所でカッツェルが戻って来た。無事に斥候兵を送り出したとの報告を受けると、私は一度退出して自室に戻る旨を目の前の4人。そして、両隣に控えていたキーシュとローゼに告げる。

 そのまま自室に戻ると、中で待機したいと言うキーシュとローゼには一旦部屋の外に退室してもらう。考え事がしたい為、一時的に1人になりたいと言うと2人は納得―渋々と言う感じだが―してくれたようだ。

 実際2人には悪いが、1人になって考えを整理したかったのは本当だ。まず、キーシュとローゼ…書記官の2人を含む自我を持ったユニット達についてだ。

(思考はかなりしっかりしている感じだよな…こちらを閣下と呼んで従っているのは、ゲーム内の設定を引きずっている感じだろうか?)

 最初はかなり緊張していたが、話を聞いてみたりするとゲーム内での設定や役割に忠実な所もある為、意思疎通が難しいと言う印象は薄れている感じだ。もしかしたらしゅーる・れでぃんがーさんが作ってくれたAIスクリプトに秘密があるのかもしれないが、現在では確認のしようが無いのが残念だ。

 次に、保持する戦力について。現有戦力としては少ないが、まずはこの勢力である程度地歩を固めつつ、私の最終目的であるこの世界からの脱出を目指していくのが無難なのかもしれない。

 それに自我を持ったユニット達に思う所もある。

(自分で設定や外見含めて作ったユニット達が、自我を持って表情豊かに自分に従ってくれる…これはこれで製作者冥利に尽きるな)

 兎に角、今は情報が欲しい。斥候兵の帰還を待つとして、その間にも色々と動き回っていた方が良いだろう。

「この館と周囲がどのような状態か、一度自分の目で把握しておいた方が良いな」

 私は密かに自分に活を入れると、扉の外に待機しているキーシュとローゼに声を掛けた。


 さて、こちらは現在の大広間。呼び出された4人はまだ退出せず残っていた。

「閣下の斥候へのご指示は完璧だ。慎重かつ、こちらのみが情報を得ると言うのは戦術的にも大変有利な事だからな」

 うんうんと頷いているのはカッツェルだ。

「歩哨の件もお許し頂けたし、閣下はやはり臣下の言葉にも耳を傾けてくださるお方だな…」

「そりゃそうでしょカッツェル将軍。アタイらが亜人であっても近衛騎士隊として傍に置いてくれてるんだしさー」

 横から相槌を打つヴルシラ。

「その御恩に報いる為にも、アタイ達は精一杯閣下の剣となり盾となり戦わせてもらうつもりだよ!」

「うむ、ヴルシラ嬢もそう思うか。微力ながら、私の力で閣下に数々の勝利を献上していきたいものだな」

「そん時は協力するよ将軍。閣下には今のような小さな領地では勿体無いからね…アタイの、アタイ達の閣下には覇道を突き進んでいって欲しいんだ」

「よし、閣下に勝利を!栄光を!!」

「おぉーっ!!!」

「あの、お二方…盛り上がっている所申し訳ないのですが」

 何やら出来上がってるカッツェルとヴルシラに割って入ったのはブルッススだ。

「ブルッスス殿、貴殿も外交官として閣下に仕える大任を果たせて随分と嬉しそうだな」

「ええまあ、私も外交官の端くれではありますからね。閣下と皆の為にこれから先待ち受けるであろう百戦錬磨な他国の外交官との駆け引きに胸が高鳴りますな」

「アタイ達武官はそっち方面はからっきしだからねぇ…」

「そこで相談…と言う名の雑談なのですが…」

 そう言ってブルッススは前置きをする。

「仮に、先ほど送り込んだ斥候が集落など他勢力と接触した場合に、閣下は武力と対話のどちらをお使いになるのかと思いましてね」

 ブルッススの切り出した話にカッツェルは思案顔となる。

「ふうむ、確かにそれは興味があるな。少々の兵力なら現有兵力や私が居れば叩き潰せるとは思うが…」

「アタイ的にはパパッと戦ってガーッと占領統治しちゃった方が早いと思うけどなぁ」

「はぁー…そんなに単純な話じゃないのよ人狼ちゃん?」

 今まで事の成り行きをニコニコと見守っていたクシュリナが声を掛ける。

「うげっ…出たな営業スマイル聖職者…」

「それは酷い言い草じゃないかにゃー?そもそも、占領統治にした所で善政を以て統治するのか。はたまたその逆なのか。と色々決める必要があるのよ?」

 指先で数字の2を表しつつクシュリナは続ける。

「閣下はまだこの世界では名も知られていない…非常に非常に不愉快だけどね…だから、閣下はまず他勢力とは穏便な接触を図ると思うのよね」

 クシュリナは話を続ける。

「その後、閣下が慈悲深い心で相手国と交流し、頃合いを見計らって何かしらの手段を用いて勢力を一気に拡大すると思われるにゃー」

「成程、無用な武力衝突を避けての交渉事も大事ではありますからなぁ」

 クシュリナの話にブルッススも頷く。

「流石ブルちゃんは人狼ちゃんと違って理解が早いにゃ」

「ちょっ!?どういう意味よ営業スマイル聖職者!」

 ガルルッと威嚇するヴルシラとニコニコと笑顔を絶やさないクシュリナ。

「ヴルシラ嬢もクシュリナ嬢も喧嘩は止せ。もし閣下のお耳に入られたら失望されるぞ?」

「うぐっ」

「にゅあー…」

 カッツェルの仲裁に舌戦を始めようとしていた二人は黙る。

「それはそうと、そこまで先読みしているからにはクシュリナ嬢には他にも何か考えがあるのでないか?」

「…と、申しますと?」

 カッツェルの言葉に、首を捻るブルッスス。ヴルシラは頭に「?」を浮かべている。

「流石はカッツェル卿だにゃあ。私の計画は、まず穏便な接触をしつつ相手の信仰対象を分析して徐々にこちらの信仰対象との土着・融合化を目指していく」

 我が意を得たとばかりにクシュリナは話し出す。

「そして気が付けば私達の仰ぐ主神を信仰する同士の出来上がりー♪って感じね」

「あー…前に言ってた『閣下を主神とする新しい信仰形態の共有化』だっけ?ニコニコしながら何考えてるんだか…」

 心底ドン引きした表情でヴルシラが言う。

「くふふ、閣下は私の全てだからねー。この教えは広く広く世界に伝道していくのが私の使命なんだにゃー」

 両手を広げ、高らかに宣言するクシュリナ。

「そもそも、私は―」

「あっ!私は未知の勢力との交渉する場合の準備がありますので、これにて退席させていただきますね」

「あーアタイも!待機してる残りの近衛騎士達に閣下のお話をしないといけないからなー」

「ふむ…こちらも巡回している歩哨達の定時報告を受ける必要があるな」

 何やらクシュリナの話が長くなりそうなので、ブルッススの言葉を皮切りにいそいそとその場を後にしようとする3人。

「ちょっと!?今から私の壮大な計画を話そうと思ってたのにぃー!!?」

 3人を慌てて追いかけるクシュリナである。

 何はともあれ、大広間に呼び出された4人はそのまま各々の役目を果たすべく動き始めたのだった。

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