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赤い幻影 akaigenei ~陰陽師・十六天神将編~      赤再会 akakongi


   赤い幻影 akaigenei ~陰陽師・十六天神将編~



     赤再会 akakongi



信長も同行して、為長たちはサルサロス星の獣人の国、マックラ王国にやってきた。


「…話に聞いていた通り獣人が多いし、

 安土城は瓜二つ…」


為長は安土城を見上げて呟いた。


お目当てのこの星にいた神はすぐにつかまったが、「安いよ安いよ! 今日仕入れたばかりで新鮮だよ!」という、まだ幼い売り子の声に、桔梗、吉蔵、お志摩が一斉に声のする場所を見た。


―― できすぎ… ―― と為長は思い、笑いをこらえるのに必死だった。


「…お前は喜笑星に来いぃー…」と一番の大人の信長が、売り子の女子を脅すようにうなった。


桔梗たちがすぐに信長を追いかけたので、為長たちも走った。


女子は桔梗よりも若年のように見え、年齢は五才程度だろうと判断できた。


「…この売り子を持ち帰りだぁー…」と信長がうなると、法源院屋の店主は大いに苦笑いを浮かべた。


もちろん店主は、この無碍なことを言う相手が織田信長であることは当然わかっている。


「…申し訳ございませんが、僭越ながら私の子でして…」という店主の言葉に、「お前と喜笑星の店主を入れ替える!」という信長の鶴の一声に、店主は大いに目を見開いた。


為長が念話で連絡したので、幻影と蘭丸がすっ飛んでやってきた。


「吉蔵さん、大出世だぜ!」と幻影までもが店主をあおったので、為長は声を出さずに大いに笑った。


「…お父さんって吉蔵っていうの?」と吉蔵が女子に聞くと、「…あはははは、うん! そう!」と元気よく答えると、吉蔵は赤面していたが、「…僕も吉蔵って言うんだ…」と自己紹介をした。


「あたい、吉乃!」と叫ぶと、桔梗が号泣して吉乃を抱きしめた。


「…それほど急がなくてもよかったのかもしれない…」とお志摩は言いながらも涙を流していた。


―― お志摩がなぜ判断できたんだ? ―― と為長は考え、首をひねった。


お志摩には戸惑いはなかった。


しかしまだ詳しい事情を説明していない。


だがお志摩も桔梗や吉蔵と同じように、母親である吉乃の生まれ変わりの吉乃を速やかに発見したのだ。


―― 名も同じ… これはよくある偶然でもある… よって身体的特徴… ―― と為長が考えた瞬間、吉乃の目を見た。


それはあまり見たことがない瞳の色だった。


光が当たっていると茶色に見えるのだが、少し暗がりになると桜色に変化するのだ。


これはなかなか珍しいと為長は思い、―― 認めないわけがない ―― と納得した。


―― 遺伝はしないのか… ―ー


お志摩、吉蔵、桔梗にそのような特徴は確認できていない。


―― やはり、能力者だった… ―ー と為長は吉乃の雰囲気から確信した。


よって、お志摩だけがその恩恵を受けなかったようだが、隠れた何かがあるのかもしれないと、考えを新たにした。


―― あ、まさか、もう覚醒していて、隠されている! ―― と為長が思った瞬間に、お志摩は悪魔に覚醒していた。


と言うよりも、縛りが解かれたといっていい。


母の吉乃はわが娘を不憫に思って、悪魔である事実を隠していたのだろうと推測した。


―ー だが、吉乃はなぜ死んだ? ―― と為長は考え、―― 違う、失踪だ… ―― と考えを新たにした。


お志摩たちは又蔵から、「吉乃はいなくなった」と聞かされていたのだろう。


為長はこの件だけは聞くに聞けなかったので、母親はいないとだけしか知らなかった。


―― お師様と同じように、強制的な転生か… ―― とかなりの高水準の術師であろう、吉乃をあきれた目で見入った。 


「なかなかの急展開だった」と幻影が穏やかに言うと、「吉乃ちゃんはどなたから逃げていると思われますか?」と為長が聞くと、幻影は、「さっすがぁー」と言って為長をほめた。


「…たぶん、今回も魔王だろう…」と幻影は眉を下げて言った。


「ああ、そういえば、勇者ミスティン」


「そう。

 魔王と聞いて体の自由が利かなくなる。

 もちろん、その存在感からも判断できたのだろう。

 御屋形様が魔王に覚醒された時、慌てて逃げたんだろうね。

 だが今世はまだ覚醒していないと思う。

 だから逃げるようにして消えることはないはずだし、

 この件はお蘭が説明したから、理解したはずだからたぶん問題ないだろう。

 琵琶家の実状は元からよく知っているからね」


「…よかった…」と為長は言って、胸をなでおろした。


「おいこら四郎!」と悪魔となったお志摩が為長に向けて叫んで歩いてきたが、吉蔵が笑いながらお志摩に五芒星をかけた。


するとお志摩の動きが止まり、「…へっ?」とつぶやくと、為長たちは愉快そうに腹を抱えて笑った。


「なるほどな、術ではない。

 切欠は術だが、できる部分の封印をかけただけだ」


幻影の言葉に、「…自分自身でも、術などを封印できる、その部分…」と為長はつぶやいた。


「それを見つけても解かない方がいい。

 封印を解いた為長が拒絶すれば、

 自分でできてもできないことと同じだからな。

 その件はこの先の修行にでもすればいいさ」


「…はい、ありがとうございます…」と為長は少し戸惑いながら礼を言った。


確かに幻影の言ったことは正しいと、ようやく判断できた。


為長の場合はそれを開放するとさらに自由を得ることになる。


しかし強烈な歯止め役が二人もいることで、無碍な行動に出ることはない。


「…やだわ、悪魔だったなんて…」と黒装束のお志摩は、今まで通りの感情で言った。



大店の店主の入れ替えは滞りなく終了し、吉蔵の末娘である吉乃は又蔵宅に奉公に出るという表向きの理由をこじつけた。


吉乃としては、奉公先が琵琶家ではなかったことを喜んだようで、しかも神だが同年代が大勢いるこの庄屋の家を大いに気に入っていた。


心中複雑なのは又蔵だが、妻の吉乃ではないと正確に理解して、使用人として接することに決めた。


そして又蔵が家宝のようにしている染井吉野の桜絵皿を見せると、吉乃の笑みが深まり、「きれー…」と言ってつぶやいて、満面の笑みを浮かべた。


「…やっぱりデートしてぇー…」とお志摩がいい始めると、「ああ、いいよ」と為長は即座に答えた。


「能力差を思い知ればいい」という春駒の機嫌がいい言葉に、お志摩も為長も大いに眉を下げた。


そして春駒は、右手の蹄鉄を見て笑みを浮かべた。


「…変わったアクセサリーですぅー…」と吉乃が興味をもって春駒に近づいて蹄鉄の模様を見入った。


「想いを伝えんでも作ってくれた」と春駒がほほを赤らめて言うと、「…神のくせにいいふらすな…」と為長が嘆くように言うと、吉乃は満面の笑みを為長に向けた。


「そんなものでいいの?」と為長が言うと、「…もう思いが伝わった…」と吉乃は感動して言った。


「吉蔵、手袋と襟巻きを編んでやってくれ。

 吉乃にも手伝ってもらうから、指導も込みで。

 桔梗もな」


為長の気の利いた言葉に、「はい! 四郎様!」と二人は陽気に答えて、早速毛糸を編み始めた。


お志摩はこっそりと三人の仲間となった。


まだそれほど寒くはないのだが、信長がこれみよがしに手袋と襟巻きをつけていたので、吉乃は目ざとく見つけて欲しくなったようだ。


大店の娘なので目が肥えているという理由もある。


「…四郎様は誰にお決めになられるのでしょうか…」とお雅が眉を下げて言うと、「三人以外」という無碍な言葉に、お雅は目を見開いた。


「三人が嫁に行くのを見送ってから、おっとり刀で相手を決める。

 それが一番平和だと思ったね。

 だから想い人は、今は誰もいない」


「…ふふふ… 嫁に行け行け…」と春駒が呟くと、「…神が挑発すんな…」と為長は眉を下げて言った。


「人間じゃあねえから別にいい」


「本腰の戦いになったら、手がつけられんだろうがぁー…」と為長がうなると、「はい、ごめんなさい」と春駒はすぐに謝って、涼しい顔をして蹄鉄を見入って穏やかな笑みを浮かべた。


「私とお志摩ちゃんにも作ってくださいませ」とお雅が言葉足らずに言うと、「蹄鉄が必要なのか?」と為長が聞くと、春駒は愉快そうに腹を抱えて笑った。


「言っとくが、蹄鉄は農具のひとつだぞ。

 だから必要な農具なら作ってやるけど?」


「…うう…」と賢いお雅はうなるしか手立てがなかった。


「…うふふ…」と春駒は愛おしいものに触れるように、蹄鉄をなでた。


「…誰もが恐れる、草刈用の大鎌を作ってくださいませぇー…」


まるで地の底からわきあがってくるようなお雅の言葉に、「…怖ええな…」と為長は眉を下げて呟いた。



「…あ、しまった、伝えるのを忘れていた…」と為長は言ってから、「ちょっと出かけてくる!」と叫んで、母屋を飛び出して安土城に向かって走った。


何かが追いかけてきたが、為長は後ろを振り向くことなく、安土城下の工房に駆け込んだ。


今日も勇健は鉄などを相手に奮闘していたので、為長の想いを鍛冶工の師匠の幻影に説明した。


幻影は笑みを浮かべて何度もうなづいて、「桔梗の資質を試してもいいんじゃないのかい?」と穏やかに言った。


「はい、私も不得意なものづくりに挑戦しようと考えてます」


「いや、見込みはあるぜ」と幻影は言って、彫刻刀ひとそろえを為長に見せた。


「まずは道具作りから」


「はっ お師様」と為長は答えて頭を下げて、今回は鉄を使って彫刻刀の刃の部分だけを打ち始めた。


為長は十組ほどの刃を打ち上げ、幻影が用意した柄に刃を押し込んで、機械を使って固定金具を押し込んで締め付けた。


為長は何度もうなづいて、高級彫刻刀一式をみつめて、満足の笑みを浮かべた。


そして場所を移動して試運転とばかり、固い木を削り始めた。


そして作品は簡単に完成して満足だったのか、笑みを浮かべてもう一つ別のものを彫り始めた。


すると勇健がやってきて、為長に追従して、目を見開くほどに素晴らしい作品を二つ作り上げた。


「納得してしまった俺が恥ずかしい」


為長の言葉に、「桔梗ちゃんがどう出るのか楽しみだよ」という勇健の明るい言葉に為長は頭を下げた。


そして為長は修行とばかり、勇健の作品を模写するように、無心でいくつも彫った。


さらには現在確認できている天神将全員の木彫を満足げに見入った。


「さすが高能力者ですね。

 免許皆伝です」


勇健の言葉に、為長は深々と頭を下げた。


「感情からして、商品ではないと思うけど?」


幻影の言葉に、「信仰の一種です」という為長の言葉に、「ああ、それは必要だね」と幻影はすぐさま同意した。


そして為長はすらすらと書を描いて、幻影をさらに納得させた。


十六天神将それぞれの神の特徴などを絵と文字で記したものだ。


「あとは神たちと話を詰めてから、

 現楽涅槃寺に置いていただきたいのです」


「…また名物ができた…」と幻影は大いに感動していた。


為長は有意義な時間を過ごして、多くの作品を抱え込んで外に出ると、春駒がいろんな意味で号泣していた。


「さあ、帰るぜ」と為長が言って走り始めると、春駒は馬に変身して為長を追った。



為長が庄屋宅に戻って神たちに話をすると、すべては為長に託したのだが、神たちは為長の作品をすべて抱え込んでしまった。


「…おまえらぁー… なにやってんだぁー…」と為長が大いに怒ると、「四郎様! ここはこらえてやってください!」と吉蔵が懇願して頭を下げた。


「…ま、まあ、また作ればいいだけなんだが…」と為長が言って軟化すると、吉蔵は満面の笑みを浮かべていた。


「新しい能力が沸いた時や姿が変わった時は逐一報告してくれ。

 それだけでもさらに信仰心が湧き上がることもあるはずだからな。

 特に春駒は天駆ける馬でしかないから、

 それほど信仰心には左右されないはずだ」


為長の厳しい言葉に、「…それでもいいもーん…」と言って、左手の蹄鉄をなでた。


為長は大きなため息をついてから、桔梗に彫刻刀を差し出すとすぐさま眉を下げた。


「まさか、木彫りはしたくない?」と為長が眉を下げていうと、「見るのは好き!」と言われてしまったので、ここは為長が奮起しようと心に決めた。


「…弟子をとらないと、さすがにひとりでは無理だ…」と為長がため息混じりに言うと、神たちが一斉に、「がんばって!」と叫んだ。


為長は色々とがんばることにして、食事を摂ってから大いに奮起した。


現在わかっている神と、為長が認識している神の木彫を彫っていると、「これって竜、だよね?」と吉蔵が聞いてきた。


「俺には竜だけはきちんと見えているからな」という為長の自信が満ちている言葉に、「…そうなんだぁー…」と吉蔵は言って不思議そうな顔をして木彫を箱に戻した。


為長はぞれぞれを百ずつ作り終え、就寝することにした。


「おつかれさまでした」と庄屋家の二人の使用人が静々と頭を下げて言った。


「…悪い… つき合わせてしまったな…」と為長が大いに反省して言うと、「楽しゅうございました」と吉乃が笑みを浮かべて言ったことに、為長の疲れは吹き飛んでいた。


「あ、まん丸、ありがとう」と為長が言うと、小さな角が二本生えている鼠は寝所である小さな祠に身を隠した。


「…まん丸様の術だったぁー…」と吉乃が嘆くと、「いいや、吉乃の言葉もうれしかったぞ」と為長は言って、二人に就寝の挨拶をしてから自室に行ったが、誰かがいる気配を感じた。


「神か… お志摩か…」と為長はつぶやき、今日のところは秘密基地に移動して、のびのびと就寝した。



「…為長はどこかに夜這いにいった…」と春駒が悲しそうに呟いた。


今は早朝訓練が終えたあとの庄屋宅での朝餉の席だ。


「部屋にいたのはお前か?」と為長が聞くと、春駒はそっぽを向いた。


「…まっ ふしだら…」とお志摩が言うと、「なぜだかお前の気配も感じたのだが?」と為長が言うと、お志摩もそっぽを向いたので、為長は愉快そうに笑った。


「異空間を使う転送の術は禁止されている」


為長の言葉に、お志摩は目を見開いた。


「父さん、お志摩を琵琶家に奉公にあがらせます。

 そうしないと、お志摩はそのうちとんでもないことをしでかします」


為長の進言に、「四郎様がそこまでおっしゃるのならば」と又蔵は答えて頭を下げた。


「…ふん! 女悪魔は面倒じゃ…」と信長は言って、庄屋家の朝餉の席に乱入してきた。


「お雅、食ってきたからいいのだが…」と信長は言って、現在味見中の新しい作物料理を見入っていった。


「はい! 自信を持ってお出しできます!」とお雅は気合を入れて言って、大きな膳に朝餉一式を乗せて戻ってきた。


信長は大いに好々爺となって、お雅と吉乃をほめた。


「…実は、四郎様がほとんど手を入れておられるのです…」とお雅が眉を下げて言うと、「…わが息子でもあるので当然…」と穏やかに言ってから破顔して、陽気に大いに笑って、為長の背中を何度も叩いた。


お志摩は逆に萎縮して肩を落としていた。


「新規事業を打ち立てたそうだが?」と信長が為長に聞くと、「いえ、商売ではございません」と為長は言って、神たちの木彫ひとそろえを信長に献上した。


もちろんまだ見つかっていない神の仕切りには、『探索中』という札が入っている。


しかし、竜は見つかっていないのに木彫があることを信長はすぐに気づいたが、何も言わなかった。


「…そうか、配布か…」と信長は機嫌よくうなづいて、箱を懐にしまってから、鋭い視線をお志摩に向けた。


「今日からお前の家は安土城じゃ」


信長の重厚な言葉に逆らえるわけがなく、お志摩はすぐさま頭を下げた。


「あら、ここにいたのね」と言って濃姫が部屋に入ってきてすぐに、お志摩をにらみつけた。


「…ふふふ… 教育の甲斐があるわぁー…」という濃姫の言葉に、お志摩は声を上げずに号泣した。


「為長が悪に身を染めていたかもしれないのだから、

 あんたにはかなりつらい修行を与える必要があるわ。

 もちろん、知らなかったでは済まされないことよ」


濃姫の言葉に、お志摩は迂闊だった自分自身を責めていた。


「四郎様にもお聞きしましたが、一体、お志摩がどのような粗相を…」と又蔵が畏れながらと聞くと、信長がつぶさに説明した。


「確かに…

 知らなかったでは済まされません」


又蔵のさらに厳しい言葉に、お志摩は幼い日を思い出したのか、今度は声に出してに泣いた。


「どうか、琵琶様の思いのまま存分に娘の指導をしてくださいますよう。

 父としてもよろしくお願いいたします」


又蔵の言葉に、「又蔵の想いはきちんと受け取った!」と信長は力強く言って、拳で胸を二回叩いた。 



とはいえ学生なので、学校にはきちんと通うことになるので、お志摩と為長たちが疎遠になることはない。


「…琵琶志摩…

 姓をいただいたのはいいが、微妙だな…」


教師の寅三郎が言うと、お志摩はこれ以上ないほどにうなだれた。


もちろん、『琵琶家奉公人としての仮の姓』と聞かされていた。


よって、家臣以外で琵琶家で働いている者の姓は、家を離れない限り琵琶姓を名乗る。


「本来ならば奥様が養女にでもと言われるはずなのだが…

 ま、何かしでかしたな」


寅三郎の言葉に、お志摩は海よりも深くうなだれた。


お志摩はお雅に慰められながらも一日の授業を終えたが、これで今日の自由時間は終了だった。


そして校門には、悪魔一門を携えた濃姫が待っていたので、逃げることすらできない。


「ほう! 生まれたてのようでかわいいじゃあねえかぁー…」


などと悪魔たちに言われて、お志摩は大いに萎縮している。


「あんたたちもついでにお勉強だから」


濃姫の無碍な言葉に、悪魔たちは一斉に眉を下げた。


為長たちは微妙な笑みを浮かべてお志摩を見送ってから、庄屋宅に戻った。



そして昼餉中に、「…姉ちゃんがいないのに寂しくない…」と吉蔵がつぶやくと、「そんなことを言ってやんな」と為長はすぐさま諌めた。


「吉乃ちゃん! お代わり!」と吉蔵は大いに機嫌がいい。


「今日はどうすんだ?

 俺としては牛の神が大いに使えそうで期待しているのだが」


為長はもうすっかり農民として根付いていて、優秀な農民でしかないことに、又蔵は満面の笑みを浮かべていた。


サルサロス星では風の神を発見できたので、残るは水の神、虎の神、そして牛の神に、竜の神だ。


「四郎様は、配布用のご神体を彫ってあげてよ!」


吉蔵の明るい言葉に、「…その前に弟子を探す…」と為長がつぶやくと、吉蔵が悲しそうな目をした。


「まさか、俺だけに彫らせるつもりか?」と為長が目を見開いて言うと、「…駄目なのぉ?」と桔梗が上目遣いで言ってきたので、「…まあ、急ぐことはないはずだから、それでもいいのだが…」と為長は渋々だが、吉蔵と桔梗の希望に沿うことに決めた。


「吉乃ちゃん、家の仕事が終わったら、若いやつらを呼んできてくれ。

 強制じゃないから、手の空いているやつらだけでいい」


為長は思惑があって伝えると、「はい! 承知いたしました為長様!」と吉乃は笑みを浮かべて元気よく返事をした。


もちろん、新しい庄屋家の使用人の顔見世という意味もある。


「悪いが、お雅も手伝ってやって欲しい」


為長の下手の言葉に、「はい、おおせつかりました」とお雅はいつものように穏やかに言った。


これは仕事なので、公私混同はしないいい性格をしていた。


よって春駒がかなり悔しそうな顔をしてお雅を見入っている。


手抜かりがあれば即座に口を挟むつもりだったが、それがまったくできなかったからだ。



為長は食後に早速納屋に行き、必要な道具などを出して、天気がいいので外で木彫を始めた。


すべてを十組ほど作り上げた時、吉乃とお雅が村の若い衆を連れてきた。


もちろん、為長の手腕の素晴らしさに感嘆の声を上げた。


「興味があるやつは手伝ってくれていいぜ」


為長の言葉に、興味を持ったのは吉乃と同年代の幼児と言っていいほどの子供たちだけで、為長の同年代は大いに尻込みをした。


「…あのぉー… お手伝いしてもいいですかぁー…」と吉乃が申し訳なさそうに聞くと、「ああ、大歓迎さ」と為長は陽気に答えた。


吉乃はまずは掃除から始め、さらに働きやすい環境を作った。


ひと段落着いてから吉乃は机に向かって、じっくりと時間をかけて為長の手本通りの木彫を作り上げて、ほっとため息をついた。


「…小さいのに、大したもんだぁー…」と誰もが吉乃を絶賛した。


少年たちも子供たちも一応は手を出すが、すぐに腰が引けて断念したので、収穫は吉乃だけだった。


「今日はこんなところでいいだろう」と為長が言うと、吉乃は満面の笑みを浮かべて為長を見上げた。



昨晩作ったものを含めて、三百組ほど出来上がったので、丁寧に箱に詰めてから足こぎ人力車に乗った。


そして安土城の工房に行って、幻影に成果物を見せた。


すると待っていたかのように工房の奥の物置から阿国がやってきた。


「なにやってたの?」と幻影が不思議そうな顔をして聞くと、「もちろん、会話を楽しんでいたのです」と阿国はさも当然のように言った。


「ああ、火の妖精、ですか」と為長が確信したように言うと、阿国は笑みを浮かべてうなづいた。


そして阿国は木彫全種類をひとつずつひょいひょいと抜いて懐に入れ、「一日おひとり一個で」と矛盾するようなことを言ったので、幻影と為長は大いに苦笑いを浮かべていた。


よって為長は部数が少ない神の手引書を工房の隅で増刷した。


―― 修行僧のようになってきた… ―― などと思っていたらもう規定数に達したので、為長は箱に丁寧に収めて寺に行った。


寺は大盛況で、「まさか、宣伝でもしたのですか?」と為長は薄笑みを浮かべた阿国に聞くと、「いえ、知っていたようなのです」と表情を変えることなく言った。


「法源院屋さんで言いふらしておけば、

 おのずと全国民が知ることになるはずですから」


「…たぶん、御屋形様…」と為長がつぶやくと、阿国は愉快そうに笑って肯定した。


長蛇の列は何とか引けていったが、神の根付はほとんど残っていなかった。


―― やはり予想通り… ―― と為長は思って、春駒の根付を手にとって、過分なほどのお布施を入れようとしたが、入れる余地がなかったので、本堂の賽銭箱に入れた。


そしてようやく、氏子がお布施箱の交換をしたのだが、箱の容量が数倍になっていたので、為長は苦笑いを浮かべながら、空のお布施箱に銭を入れた。


―― 竜だけがからっぽ… ―― と為長は陳列台を見て思い、拍手を二つ打った。


―― お社でも建立するか… ―― と考えたが、この件は吉蔵に聞く必要があるので保留とした。


為長が思うに、この信仰は神仏一体だと感じていたからだ。


その確証はすべては竜にある。



為長が寺を出ると、戦車が走り去っていく姿が見えたので、為長は慌てることなく人力車に乗り込んだ。


すると信長がやってきて、「大盛況だったな」とにやりと笑って言った。


「はい、幸いにも三千人の方たちが手にされたと思います」


為長の言葉に、「もうしばらく踏ん張ってくれ」という信長の激励の言葉に、「はい! ありがとうございます!」と為長は礼を言って、人力車をゆっくりと走らせた。


すると信長が走って追いかけてきたので、為長は速度を落として、「乗ってください!」と叫ぶと、信長はふわりと浮かんで、「特等席じゃ!」と叫んで機嫌よく荷台に寝転んだ。



農地予定地に行くと、神たちが幼児から少女になっていたことに為長は大いに笑った。


「早速効果が出たな!」と信長の機嫌もいい。


「…なんで僕まで…」と頭ひとつ高身長になった吉蔵が嘆いた。


「みんなの頭目様だからな」という為長の言葉に、吉蔵は大いに眉を下げていた。


さすがに、『竜の根付が完売したから』とは言わなかった。


「おっ! 牛だ牛!」と為長は喜んだが、白と黒のまだら模様の牛だった。


見たことのない姿の牛に、為長は大いに戸惑った。


「ホルスタインっていう乳牛だって」と吉蔵は眉を下げて言った。


「搾乳したの?」と気を取り戻した為長が聞くと、「さすがにまだ飲んでないけど…」と吉蔵は答えて蓋付きの樽を差し出した。


為長は湯飲みに牛乳を注いで一気にあおってすぐに、口から固形物を取り出した。


「…カルシウム、たんぱく質、脂質…」などと言って、錠剤のようなものを机の上に並べた。


「便利な術じゃ!」と信長は叫んで大いに笑った。


そして植物由来のものを飲んで、同じように並べると、「…栄養価が高すぎて、子供だと腹を壊すかなぁー…」とつぶやいた。


「薬のように、わずかならば問題はなかろう」という信長の言葉に、為長は賛同した。


「カルシウム分も高すぎるので、

 結石ができやすくなるかもしれませんので、

 カルシウム分解吸収効果の高い茸類とともに食うことを推奨します。

 栄養価の高いこの牛乳は、少量で数日間は生きていけることでしょう」


「…さすがに保存はきかんか…」と信長が悔しそうに言うと、「生成してたんぱく質、脂質を抜けば、常温保存が可能です」と為長は言ってすぐさま実証した。


そしてたんぱく質と脂質を抜いた牛乳と、数個のタブレットが机の上にある。


「この錠剤を牛乳に入れると元に戻ります」


為長の言葉に、「面白い」と信長は言ってまずは一口牛乳を飲んでから、「味気ない…」と言ってタブレットを入れてかき混ぜて飲むと、笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「チーズは、とんでもなくうまいものとなるはずです」と為長は言って、牛乳を密閉できる茶筒に入れて、猛烈な速度で何度も振った。


茶筒からは湯気のようなものが出始めたがまだ振り続ける。


湯気が出終わってから蓋を開けて、底を叩くと、かなりやわらかく太い棒状のチーズが出てきた。


そして手ですばやく仰いで冷ましてから、切ってから口に入れた。


「子供は食ってはいけません」という為長の言葉に、信長は大いに笑ったが、吉蔵たちは大いに眉を下げた。


そして信長も味見をして、「美味!」と叫んで大いに笑った。


そして為長は子供用におやつチーズを作り上げて、程よく薄めた牛乳とチーズを神たちとともに楽しんだ。


そして為長が牛に向かって拍手を打つと、飛び出してきたようにその姿が鮮明になった。


そして豪華な食事を与えると、丸々と太った人間の幼児となっていた。


「…太りすぎだが、千年ほど前の美人…」


為長の言葉に、お雅だけが愉快そうに笑った。


信長は土産を手にして、機嫌よく安土城に戻っていった。


為長たちは母屋に戻って、夕餉を楽しみ始めた。


「ああそうだ、木彫だが、吉乃が手伝ってくれることになった」


為長が吉蔵に言うと、「…できちゃたんだぁー…」とうらやましそうに言って、吉乃に笑みを向けた。


「随分とゆっくりとしかできませんが、

 わずかばかりですが、お手伝いができてうれしゅうございます」


吉乃は言って、吉蔵と為長を見てほほを桜色に染めた。


「そのわずかばかりでも、簡単には許可を出せないからね。

 だから吉乃が来てくれて、俺としては救われた気分だ。

 ただひとりの製造は、少々寂しいものがあるからな。

 作り続けると周りがよく見えてきて、

 孤独感が沸いてしまうんだ。

 それではいいものは作れないように思う。

 できれば、仲間とともに作り上げることが一番いいと思った」


「…四郎様… ご無理を言って申し訳ございませんでした…」と吉蔵は言って頭を下げた。


「仲間ができたから別にいいんだ。

 それに、見ていてくれるだけでも孤独感は沸かない。

 だから試しに、若い衆にもきてもらったんだよ」


「さすが四郎様です!」と吉蔵は為長を絶賛した。


「…あはは… いや、ありがとう…」と為長は礼を言って、もりもりと食事を摂った。



「…私だけ子供…」と富豊とみとよと名づけた牛の神がつぶやくと、「明日の今頃はみんなと同じになるかな?」と為長が希望になる言葉を述べると、富豊は大いに喜んで、満面の笑みを為長に向けた。


「…お乳… 出すぅー… 出すぅー…」と富豊が言い始めたので、吉蔵が穏やかにとめた。


「こらこらそこ! 勝手に出さない!」と吉蔵が叫ぶと、鶏の神と羊の神は動きが止まった。


「…さっさと製品を作れといわれているようだな…」と為長は眉を下げてつぶやいた。


玉子は食べるので問題はないし、毛糸は腐るものではないので問題はないが、しまう場所にも限界がある。


よってここは、編み物工房でも作ろうかと考えた。


安土城下の商人たちのかみさんたちは家にいることが多いので、働き手があるとはわかっているし、午後からは学生を雇ってもいい。


為長は机に向かって、企画書を書き上げて、神仏一体の社の件を思い出して、この件は吉蔵と桔梗への宿題とした。


そして徐に立ち上がって、夕暮れ迫るなか、安土城に走った。


信長はほろ酔いを超えていたので、幻影と話をして、編み物工房の件は快く受け入れられた。


そして工房の建設場所だが、開け過ぎてしまった安土城下ではなく、竜神城下に構えることに決まった。


もちろん安土城下から工房までの送迎はするので、その分働き手も増えることになる。


手が足りなければ、琵琶家一同が協力することになる。


「工員試験も必要だから、すぐには稼動できないが、

 早く始めれば早く軌道に乗るからな。

 …急いでいるわけではなさそうだが、なにかあったの?」


為長が事情を話すと、「…さすが神…」と、幻影はあきれ返るように言った。


「ついに神同士が競い始めたわけだ。

 吉蔵が成長したとはいえ、

 為長も口を出す必要はあると思う」


「はい、涙を呑んで吉蔵のためになろうと思っています。

 …ですが、春駒だけが成長がない…

 大人として覚醒した理由がやはりあるのか…」


「ま、いろいろと隠しているとしか言いようはないね。

 もちろん、吉蔵もそれを許しているわけさ」


「…まさか、夜這いではなく…」と為長はつぶやいて少し考えてから、「春駒と夜の散策に出かけてきます」という為長の言葉に、幻影は笑みを浮かべてうなづいた。



為長は走って帰ろうかと思ったが、城門の裏で春駒が待っていたので、「ゆっくりと歩いて帰ろうか」と為長が言うと、春駒は笑みを浮かべて為長に倣った。


「言いたいこと、聞いておく必要があること」


為長の先制的な重みのある言葉に、「…実はね…」と春駒が深い事情を語り始めた。


「それで終わり?」と為長が聞くと、春駒は戸惑いながら小さくうなづいた。


「吉蔵も春駒も心を痛めているようだが、

 何も心配は要らない。

 その証拠を春駒も今日確認したはずだ」


「…吉蔵様の急成長…」と春駒はつぶやいて、満面の笑みを浮かべた。


「まだあるが、特に知る必要もない。

 いずれはわかることだからな。

 だがまさか、本当は春駒が頭目だったとはなぁー…

 それはまったく気づかなかった。

 だけど、ひとりだけ大人だったらそれが順当なんだろうけどな!

 迂闊だった!」


為長は叫んで大いに笑った。


「吉蔵様の大きな力と、

 何か関係があるのね?」


「ああ、神仏一体の件だ」という為長の言葉に、春駒は耳を疑った。


「十六天神将は、本来は仏の世界があったころに作られたものだったはずだ。

 だが今になってまた現れた。

 仏の世界がないのに現れるはずがないんだよ。

 よって、神の力も加えて、今までよりも数倍の力を得ることになる。

 今は素材生産争い程度で済んでいるが、

 そのうち殴り合い、術の放ちあいの喧嘩となるだろう。

 それでは不幸しかこなくなる。

 よって、それを押さえつけるとんでもなく強い力が必要だ。

 それが吉蔵なんだよ。

 吉蔵は今までとは違う、本物の竜の仏神。

 …あ、全部言っちまった!」


為長は言って愉快そうに笑った。


「…蜥蜴程度ではなく、あの木彫通りの竜…」と春駒は眼を見開いて言ってから、恍惚とした表情となった。


「古い神の一族という存在だ。

 最近接したのは、八丁畷春之介様。

 そして、真田幻影様」


「…うう… 計り知れないほど大きな力…」と春駒は大いに嘆いた。


「もちろん、古い神の一族にも優劣はある。

 しかし基本性能が高い人が多いし、

 吉蔵はそれに加えて、

 形を変えた仏の力も持っている。

 ま、敵なし?」


為長の言葉に、春駒は涙を流しながら喜んだ。


「俺も転生して助かったといったところだ。

 そうじゃなきゃ今頃は、右往左往しているところだった」


「…あれは、正直びびったぁー…」と春駒は言って背筋を振るわせた。


もちろん、為長が転生前に死んだ件だ。


「お雅もお志摩も平然としていたって言ってたぜ?」


「…そんなもん、腰が抜けていたからだ…」という春駒の言葉に、為長は愉快そうに笑った。


「本来の頭目だったら、

 天駆ける馬程度ではないよな?」


為長のいきなりの質問に、春駒は大いに戸惑った。


「なるほどな…

 馬自身が偽者とはな!」


為長は叫んで大声で笑った。


「馬は馬だっ!」と春駒は大いに憤慨して叫んだ。


「ペガサスや麒麟と比べてどれほどすごい?」


為長の質問に、「…比べたことねえからわかんねー…」と春駒がうなると、「あ、そりゃそうだ!」と為長は言って愉快そうに笑った。


「神獣、ということでいいのか?」


「竜への修行者だ…

 元は小さな雀だった…」


「ほう、そうかい。

 そりゃかわいい」


為長は笑みを浮かべて言ったのだが、春駒は馬鹿にされたのかと少し怒ったが、そうではないとすぐに思い直した。


「今日まで、長かったな」


「…う… うん…」と春駒は答えて、顔を真っ赤にして、右手の蹄鉄を見入って心を落ち着かせた。


「どんな姿であろうとも、その蹄鉄は壊れない」


「うん! それはよくわかってるよ!」と春駒はまるで子供のように言って、子供のような笑みを為長に向けた。


「…時々出てくるかわいらしさは、

 人懐っこい雀なんだろうな…」


為長の穏やかな言葉に、「…うん… たぶん、そうだと思ってる…」と春駒は大いに照れて言った。


「となると、それなり以上の術師でもあるわけだ」


「…自分ではわからないかなぁー…

 冷酷無残な術は持ってないから…

 どんな生物でも持つ弱点を突くものばかりだから…」


春駒の穏やかな言葉に、「一見地味に見える術の方が最強なんじゃないのかい?」と為長が穏やかに言うと、「…うーん… 逃げるのには使えるかなぁー…」と春駒は少し戸惑うように言った。


「仲間がいれば、逃げることはないと思うけど?

 相手は腰が引けるはずだから、

 逆に有利になるはずだ」


「…あ、うん…」と春駒は希望があるような目をしてつぶやいた。


「たとえば目潰し。

 強烈な光を当てれば、誰だって目を覆う」


「えっ?!」と春駒は言って、その場に立ち尽くして、まばゆい光を一瞬放った。


為長は一瞬目を細め、「勝ったも同然じゃないか… しかも昼間でも使えそうだ!」と機嫌よく叫んだ。


「だが、放つ前に仲間に言っておく必要はあるな」


「…そうだぁー…」と春駒はうなってうなだれた。


「まだ実戦の場には出ないだろうが、

 出ると仮定していろいろと考えておいた方がいいぜ」


「…う、うん… きちんと考えておく…」と春駒は言って、手を組んで腰をくねらせた。


「少しからだが冷えてきた。

 軽く走りながら帰るぞ」


為長が言うと、春駒は人型の姿のまま為長に併走した。



「…汗だくになって、何をされていたのでしょう…」


庄屋宅に帰り着いた為長はお雅に開口一番に言われてしまった。


「安土城から走って帰ってきたから?」


為長の言葉に、お雅のこめかみが小刻みに震えていたが、これ以上は何も言わなかった。


「たぶん、御屋形様は見ておられただろうから、

 明日にでもお聞きすれば?」


為長の言葉に、お雅は目を見開いた。


「御屋形様はかなりの部分をお見通しだぜ。

 興味があることはどんなことをしても確認されるから。

 それが魔王の習性らしい。

 特に不安ではないが、

 その不安が極力襲ってこないための前準備のようなものかな?」


為長の言葉に、「…まずいぃー…」と春駒がうなったので、為長は愉快そうに大いに笑って、このまま温泉に行くことにした。



温泉には為長と同年代の若者のたちがいて、すぐさま木彫について詫びを入れ始めた。


そして貴重な情報を耳にすると、為長の瞳が輝いた。


だが、「だったら、竜神木材加工店で働けるんじゃないの?」という為長の素朴な疑問に、「もちろん薦めたんだ」とこの中で一番気さくな作蔵が真剣な目をしていった。


「…ふむ… まあ、会ってから判断するか…」と為長が言うと、「今は中等部の三年だ」と作蔵が言うと、「ほう、飛び級か… 優秀なんだなぁー…」と何度か面識のある睡蓮の寂しそうな顔を思い出していた。


「それにな、勇健様は自主性を尊重されているはずだ。

 よってこの喜笑星では見込みのある人探しはされていないそうだ」


「…ああ、だから姉妹校から、弟子を募ったんだ…」と作蔵は言って納得して、仲間たちとともに何度もうなづいた。


「この数年で、俺たちは大いに変わったはずだ」


為長の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「中等部三年か…

 奇しくも知り合いがいない…

 あ、為吉の妹が三年だったな」


為長の明るい言葉に、「…四郎様にご協力ができるぅー… だけど、妹の方だから微妙…」という為吉の言葉に、仲間たちは愉快そうに笑った。


「顔見知りではあるからな。

 だが、同姓のお花がいた方が穏やかに話はできるだろう。

 もし早起きができるのなら、

 流派の修行からつきあってもらってもいいぜ」


「…おー…」と誰もがうなって、「そりゃあいい!」などと言って、為吉を祝福した。



翌朝、為長たちが母屋から外に出ると、「四郎様ぁ―――!」と叫んで、為吉の妹のお花が走ってやってきた。


「やあ! おはよう、お花!」と為長は叫んで右手を上げると、「…新しい女かぁー…」と春駒がうなった。


「そうではない」とだけ為長は答えて、「悪いなお花」と言って、お花と朝の挨拶を交わして、早速戦車に乗り込んだ。


お花は吉蔵に託したのだが、信長と蘭丸が大いにお花に興味を持っていた。


そしていろいろと聞きまわっているうちに、「訓練、終わりだ!」という幻影の明るい声がしたので、信長は渋々お花を解放した。


為長たちは戦車で庄屋宅に戻って朝餉を取ってからまた戦車で安土城下の学校に登校した。


今日はわずかばかり早く出て、そのご利益が早速やってきた。


お花は出番とばかり、「睡蓮ちゃん! おはよう!」と朝の挨拶をすると、気弱そうな笑みを浮かべて、「おはよう、お花ちゃん」と答えてから為長を見て固まった。


「…ああ、そういうことか…」と為長はすべてに納得して眉を下げた。


「お花、俺の話はいつでもいい。

 まずはお前の願いを叶えることに決めた。

 ちなみに、お前に仲間がいるのなら、

 もちろん聞き入れるぜ」


為長の明るい言葉に、「…いえ、いません…」と睡蓮は答えて首を横に振った。


「…だけど、私だけ… それに…」


「いろいろといいたいことはわかる。

 俺たちの件で、子供たちも巻き込んでしまった。

 だが、琵琶様は俺たちを救ってくださったんだ。

 あのままあっちにいたら、さらなる地獄を体験したことになる。

 その地獄は今世にとどまらず、確実に来世にも影響のある地獄だ。

 よって今世は素晴らしい経験をしたいと、俺は大いに欲張っている。

 それが今を生きる希望なんだ」


睡蓮は大いにうなだれた。


睡蓮には、今の生活に希望などは持っていなかった。


飢饉によって、兄弟のほとんどを亡くした睡蓮にとって、母星にはつらい思いしかなく、生きていることを申し訳ないと感じていた。


しかし、当時の四郎も言った通り、琵琶家に救われ、ひどい戦になる前に、睡蓮たちは喜笑星にやってきた。


だが、救われたからこその悩みも沸いて出て当然なのだ。


「…私… 父や兄や弟、妹たちの分も生きていきます!」と睡蓮は涙を流しながら叫んだ。


「わかった。

 里帰りは今日の午後でいいか?」


「いえ、少しでも四郎様のお役に立ちたいのです!

 私にできることがあれば、何でもおっしゃってください!」


為長は何度もうなづいて、「この件だ」と為長は言って、春駒の木彫りの根付を睡蓮に見せた。


「…じっくり見たら、すごかったぁー…」と睡蓮は言って、二つ拍手を打って頭を下げた。


「ゆっくりでいいんだ。

 共同製作者の吉乃だ」


為長は言って、吉乃を呼んだ。


「一緒にがんばろ! 睡蓮お姉ちゃん!」と吉乃が叫ぶと、睡蓮はワンワンと鳴いて、吉乃を抱きしめた。


亡くしてしまった妹を思い出したのだろうと為長は察した。


「…お姉ちゃんはもう泣かずにがんばる!」と睡蓮は自分自身に気合を入れて立ち上がって、為長に頭を下げた。


「お兄ちゃんと叫んで抱きしめてこい!」と為長が気合を入れて叫ぶと、「さすがにできません! お兄ちゃん!」と睡蓮は叫んで、満面の笑みを浮かべた。


「…よかった、よかった…」と桔梗はつぶやきながら号泣している。


「通いでもいいが住み込みでもいい。

 なんなら、母ちゃんも姉ちゃんも使用人として、

 俺たちの村に来てもらってもいい。

 ま、それは話し合って決めてくれ」


「…絶対行くっていいますぅー…

 あ、それに、編み物工房の試験を受けるって…」


睡蓮の言葉に為長は何度もうなづいて、「しっかり予習してもらって合格してもらおう」と為長は言って、毛糸の襟巻きと手袋を渡した。


「…うわぁー…」と睡蓮は言って幸せそうな顔をして、毛糸製品に頬ずりをして固まった。


「来てもらう契約金。

 だからなんら負い目に思うことはない。

 いずれは、国民全員に行き渡るものだから、

 早いか遅いかだけ。

 なんなら、あとでもらった方ができはいいかもな」


為長の言葉に、「いいえ、これがいいです」と睡蓮は毛糸製品を隠すようにして、慌てて懐に入れて、「あ、暖かい」と言って懐に手のひらを当てた。


「…くっそ、姉もいるのかぁー…」と春駒がうなると、「クラスメイトだったら、お花を誘うことはなかった。睡蓮の姉は俺たちよりもひとつ下の学年だが、年齢は三つ上」と為長は言った。


「…大人の女じゃあねえかぁー…」と春駒はうなったが、付き合いきれないと為長は思ったのか、戦車を校門に入れ始めた。


そして為長が睡蓮にすばやく耳打ちをすると、「えっ」と声を上げてすぐに口をふさいだ。


「ま、出会いは重要だし、まったく知らない仲ではないからな」


「…そ、それはその通りですぅー…」と睡蓮は大いに恐縮してつぶやいた。



「…妹よりも、子供じゃあねえかぁー…」と授業前の教室で春駒がうなった。


「…どこに行ったのかと思っていたら、もう会ってきたんだな…」と為長は言って眉を下げた。


もちろん、睡蓮の姉の件だ。


「きっとな、話を持ちかけていたら、

 さらに面倒になったという理由もあった」


「…うう… わからんでもない…」と春駒はいろいろと察して納得してうなづいた。


「四郎様! 逢引をしてくださいませ!」とお雅がいきなり大声で叫んだ。


「自分自身をそれほどに追い込んだらつらいだろ?」と為長が眉を下げて言うと、お雅は問いには答えずに小さく頭を下げた。


「別にいいんだけどな…

 公然の面前で言われるとな、

 続々と候補者が現れるんだが…」


「蹴散らします!」


「春駒よりもひっで…」と為長があきれ返って言うと、春駒が大いに為長をにらんできた。


しかし、さすがにずうずうしい者はいないようで、このやり取りを面白おかしく見ているだけだったが、もちろん、うらやましくもあった。


為長たちは能力者という仲間でもあるからだ。


そこに普通の人間が立ち入れるわけがないという常識は、琵琶家に接して骨の髄まで知っていた。


「だがしばらくは無理だぜ。

 昨晩の春駒との散歩程度の逢引だ。

 民の要求に応えたいからな」


為長の言葉に、神の根付を手に入れた生徒たちは手にとって為長に見せ付けた。


「ありゃ、やっぱ少ないな…

 もう少しがんばるか…」


為長は言ってから、「俺は春駒だ」と言ってから根付を出した。


「…作ったお前が持ってんじゃねえー…」と春駒は恥ずかしそうに言ったが、「寺でもらったものだぞ」という言葉に、春駒はさらに赤面していた。


「なぜだかお布施二度払いになったが、

 その分、なにかご利益があればと思っていたが、

 もういいことがあった」


為長の言葉に、「…お布施二度払い…」などといい始めたが、「お布施は気持ちだ。欲を持つと悪いものがやってくるぞ」という為長の言葉に、誰もが大いに慎むことにした。



そして三時間目の授業に、慎みのない教師がやってきた。


教室に入って来たとたん、視線を為長に釘付けにして、ずんずんと迫ってきた。


「…なんです? エッちゃん先生…」と為長が大いに眉を下げて言うと、「…あ、あのね…」と桜良はもじもじしながら為長を見た。


そして、「…今日の授業のね、毛糸がないのぉー…」と桜良が言うと、為長はあきれ返っていた。


「今日の授業は縫製ですよね?」


「あ! 気が変わったから編み物なの!

 しかも、この先ずっと!」


為長は腰が砕けそうになったが、編み物工房の話をすると、桜良は生きる希望を失くしたように、一気にうなだれた。


「真田師匠に言いつけますよ?

 胡蝶蘭師匠の方がいいか…

 あっ! そうだっ! 母上にしよう!」


為長の言葉に、桜良は耳をふさいでいた。


「…欲をもっているやつはどこのどいつだぁー…」と名前が出なかった信長が真っ先に教室に入ってきて、この喜笑星の四天王が桜良を囲んだ。


「…授業参観だぁー…」という信長の言葉に、誰もが控えめに大いに笑った。


「そうよ。

 困った時は親に頼ればいいの」


母性満杯の濃姫の言葉に、「はい、ありがとうございます、母上」と為長は笑みを浮かべて礼を言った。


「これが欲しいのなら欲しいといえぇー…」と信長がこれ見よがしに毛糸製品を見せて桜良に言うと、「…ごめんなさい… 欲しいですぅー…」と桜良は涙ながらに言った。


「わしが使ったものだがやる」


信長の言葉に、誰もが感動していた。


殿様から拝領を受けたい想いは、国民全員が持っているからだ。


しかも殿様が身に着けていたのをいただくことなどは稀にしか起こりえない。


桜良は何とか学生たちの想いを感じて、「…ありがとうございます…」と言って毛糸製品を受け取った瞬間、「…すごい…」とつぶやいて、早速手袋と肩掛けをつけて有頂天になった。


「…こんなの、今までにないっ!

 初体験だぁ―――っ!」


誰もが有頂天になって喜んでいる桜良を見ている瞬間、為長はすばやく信長に新しいものを渡した。


「じゃ、またくる」と信長は機嫌よく言って、手袋と肩掛けをつけながら歩いた。


「ん?」とまず気づいたのは春駒だった。


そしてお雅は信長の背中を見つめていた。


「…余分に、渡してないよな?

 いや、渡してないはず」


春駒の確信した言葉に、お雅も我に返って不思議そうな目をして為長を見た。


「手品だ!」と為長は幻影のお得意の言葉を使って、大いに笑った。



授業では散々桜良の自慢話を聞かされたが滞りなく終了して、今日もお志摩を見送ってから庄屋宅に戻った。


そして昼餉を取っていると信長がやってきて、「届け物だ」と言って、睡蓮とその姉と母を置いて、にやりと笑って立ち去った。


「父上! ありがとうございます!

 今日の玉子焼きは絶品ですよ!」


為長が叫ぶと、「おっ そうかそうか」と信長は言いながらすぐさま戻ってきて、お雅があっという間に上座に配膳をした。


そして睡蓮の家族たちにも静々と配膳した。


「…庄屋さんの家ってすごいぃー…」と睡蓮は大いに嘆いたが、この先ここで暮らすと聞いて、その嘆きもあった。


「主だけが普通の人間さ」という又蔵の言葉に、「…だからこそ、さらに素晴らしいですぅー…」と睡蓮は言って、恭しげに頭を下げた。


そしてすでに知り合いではあるが、睡蓮の母のお種と姉のお豊を改めて紹介した。


「編み物工房の件は実力第一だ。

 だから試験の日まで、桔梗にいろいろと教わればいい」


又蔵の言葉に、三人は頭を下げて桔梗を見て頭を下げた。


「…三人とも合格ぅー…」と桔梗が笑みを浮かべて言ったが、「…睡蓮は木彫の方だから…」と為長は眉を下げて言った。


「じゃ両方ね?」と桔梗はかわいらしく言ったが、その内容はかわいらしくなかった。


「お願いです! どうかやらせてください!」と睡蓮が懇願の目を為長に向けると、「…俺と行動をともに…」と渋々言った。


「はい! ありがとうございます!」と睡蓮は生きる希望を持って叫び、為長に頭を下げた。


「お社だよ?」と桔梗が言って、スケッチブックの絵を為長に見せた。


食事中だが、為長は紙と筆を持って、桔梗と吉蔵に様々な質問をして、すべてを理解した。


「社を一番に建立する。

 吉乃と睡蓮の出番もあるから手伝ってくれ」


為長の言葉に、神たちが一斉に拍手をした。


もちろん、神たち個人の社はここにあるので、寺に建立する社はお出かけ用、外聞聴取用ということにもなる。


「…だが、妙に近代的な建造物に見えるよな…

 屋根も壁も金属にする必要があるの?

 まあ、作れるのだが…」


すると神たちが一斉に春駒の手首足首を見入った。


「…わかった…

 社とは別に、いろいろと考える…」


為長の言葉に、神たちは大いに喜んで、もりもりと食事を摂った。


「…やっぱり、装飾品じゃない…」というお雅の呟きは、為長は無視した。


すると吉蔵が目くじらを立て、「文句があるのなら出て行け!」とお雅に向けて叫んだ。


誰もが大いに目を見開いたが、「吉蔵、乱暴すぎる」と為長が諌めると、「もう、我慢の限界でございました」と吉蔵は真剣な目をして為長に言った。


「言葉にせぬともわかること、感じることはあるからな」と為長が言うと、お雅は畳に額を押し付けて、「…ご無礼の数々、本当に申し訳ございませんでした…」と小声で言ってから、部屋を出て行った。


「…みんな、不愉快な思いをさせてごめんなさい…」と吉蔵は言ってみんなに向かって何度も頭を下げた。


「…私もそのうち言われる…」と春駒が小声で言うと、「ま、それはさすがにないだろう」と為長は言って少し笑った。


「その時は俺が拾うから別にいいし」という為長の言葉に、吉蔵は大いに眉を下げていた。


「ん?

 まさか、お雅を放っておくと言うのか?」


春駒の真剣な言葉に、「うん、引く手数多だろうし」という為長の言葉に、「…いいのか悪いのか…」と春駒は呟いて大いに苦笑いを浮かべた。


「予測としては、母星に帰って大暴れして天下を取るとか言い出す」


為長の言葉に、「あー…」と吉蔵は言って、眉を下げて為長を見た。


「…今の、正解だったから、能力消されちゃった…」と吉蔵が呟くと、為長はため息をついてから首を横に振った。


「消したって、やっぱり、自然界の偉い人?」


「…うん、そう…

 大神殿の神殿長のマリーン様…」


「この件とは関係なく、謁見に行こうか。

 先日はお会いできなかったから。

 それに、改心すれば能力は戻るそうだし。

 お雅もそれなり以上に限界だったのかなぁー…

 あまりこんなことが続くと、

 俺は婚姻しないと公言したくなる…」


「…私は… それでもいい…」と春駒は言ってそっぽを向いてほほを赤らめた。


「俺としては、かわいい弟子が二人もいることで、

 もう満足」


為長は言って吉乃と睡蓮を見た。


もちろん、吉蔵が怒りまくったことで、どちらも大いに苦笑いを浮かべていた。


そして家長である又蔵は瞳を閉じたまま何も言わなかった。


「父さんは、義理を立てるかい?」という為長の言葉に、「本家を四郎様に…」と又蔵は言って強く首を横に振り、目を見開いて、「本家を為長に託そうと思っている」と又蔵は堂々と告げた。


「その大役、引き継ぐよ」と為長が笑みを浮かべて言うと、「…断られなくてよかったぁー…」と又蔵は言って、ほっと胸をなでおろした。


「ということで、いろいろと忙しくなったので、

 ものづくりの経営の方で二名ほど雇おうと思う。

 そうしないと俺がつぶれそうだからな。

 俺は村長と製造を受け持って、

 楽しく暮らしていきたいんだ。

 それには、編み物、陶器製造販売業の早期安定が重要だ。

 その業務運営や販売戦略などすべてを、

 少々嫌われている者たちに託そうと思っている」


為長の言葉に、真っ先に吉蔵が眉を下げた。


「だけどとんでもない大物だぞ。

 ま、この先は言わなくてもわかるほどのお方たちだが」


「…キャッシー・ウルフ様と、才神小恋子様…」と吉蔵が眉を下げて言うと、「初等部低学年でも知っているほどだからな」と為長はにやりと笑って言った。


「父さんは、そのお二人のお話し相手でもいいよ。

 何もしないのも退屈だろうから」


「…大役をもらって感謝してるよ…」と又蔵はため息混じりにいった。


「…また女かぁー…」と春駒がうなると、「お前の仲間たちはほぼ女子だぞ?」と為長が落ち着いた口調で言うと、その女子たちが一斉にうなづいたので、春駒は二の句が浮かんでこなかった。


「それほどに、女性の方が優秀なんだよ。

 俺の弟子も二人とも女子だし…」


為長は言って、機嫌よく吉乃と睡蓮の頭をなでた。


「それから、この家の使用人だが、

 吉乃ひとりでは大変だから、俺と睡蓮が手伝う。

 そうすれば俺たち師弟三人は、

 学校以外ではいつでもともにいられるからな。

 安土城下の作物の納品や使いも、若い衆に交代でさせる。

 そうすればさらに時間ができるからな。

 少々甘えた発言だが、

 必要があれば、御屋形様がやってきてくださるのでね」


「明るいな」と信長が言うと、「ええ、それはもう」と為長は言って、かなりある諸事情すべてを語った。


「キャッシーと小恋子に振られたら、

 琵琶家から事務方を出すから心配はいらん」


信長の頼もしい言葉に、「はい、ありがとうございます、父上」と為長は言ってすばやく頭を下げた。


「だがっ! また恋多き女どもなんだぞ?!」と春駒が信長に食って掛かると、「おまえ、そんなに自分自身に自信がないのか?」と信長は怒ることなく穏やかに聞いた。


「自信がないのは、お前がすべてを晒しておらんからじゃ。

 為長にだけは、見せておく必要があるじゃろうて」


信長の言葉を受けて、春駒は燃えるような目をしたまま素早く頭を下げた。


「…いい女だが?」と信長が為長を見て言うと、「いやぁー! あーはっはっは!」と為長は笑ってごまかした。


「春駒がこの家を離れた時、わしが雇う。

 優秀な神獣のポポロンが離れてしまったもんでな」


神獣ポポタールこと竜神菫は、今はこの地の竜神城に住んでいる。


しかも、竜神木材加工店もこの城下にあるので、それなり以上に忙しくしている。


しかしそれ以外には何もないので、為長たちが手広く商売を始めるのだ。


「ふん…

 あんな中途半端なペンギンと一緒にすんな」


春駒の言葉に、「…中途半端なペンギン…」と信長は呟いてから、「言いえて妙じゃ!!」と叫んでから、愉快そうに大いに笑った。


「おひとりではいろいろと問題もありましょう。

 送り迎え程度は、春駒にお申し付けください」


為長の言葉に、「おっ! それはついていた! …あ、女子二名はここに呼ぶからな、待っておれ」と信長は言って、嫌がる春駒を連れて廊下に出た。


「…まったく叱られなかったし、とってもご機嫌だった…」と吉蔵が目を見開いて言うと、「動物には寛大なんだと思う」と為長は笑みを浮かべて言った。


「…あ、そうだ… その事実もある…

 琵琶家は動物たちとともに…」


吉蔵が呟いて笑みを浮かべると、「…軽業興行、見たいよ?」と桔梗がいい始めたので、為長たちは大いに眉を下げていた。



春駒は疾風のごとく戻ってきて、さらにはキャッシー・ゴールドと才神小恋子を連れてきた。


しかし会談が始まる前に、「爺が家の名を決めておけと言っていたぞ」と春駒が言うと、「…爺…」と為長はつぶやいて大声で愉快そうに笑った。


「ああ、それはもう決めてあるんだ。

 姓は天草」


為長の言葉に、一番に吉蔵が大喜びをした。


「…天草… …桔梗…」と桔梗はつぶやいて、満面の笑みを為長に向けた。


「吉蔵は元服の際、天草四郎を名乗るように」


為長の言葉に、吉蔵は目を見開いたが、「畏れ多い恩名でございますが、謹んで拝命いたします」と真剣な目をして答え、為長に頭を下げた。


「だけど俺は織田為長のままだから。

 そうしないと、御屋形様に絶対に叱られるからな」


為長の言葉に、又蔵は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。


よってこの庄屋家は、吉蔵が継いだも同然となったのだ。


そして為長は、女性二人を呼んだ事情を具に語り始めた。


二人は真剣に聞き、そしてそれらの事業の将来性もあると確信した。


さらにはすぐではないが、宇宙の旅にも出ることになるし、十六天神将はこの喜笑星の守りとしても言いつけられていて、二人にとって好条件でもあった。


さらに、その頭目が美男子で独身であることも、簡単に受け入れられる材料にもなった。


「人が足りなければ雇ってもいいけど、

 お二人は優秀と聞いているからたぶんいらんと思う。

 本格的な事業は、編み物工房と陶器工房だからね。

 そのあとに弁当屋と洋菓子店なども開業すると思うから、

 多少は忙しくなるかもしれない。

 問題は慈善事業の部分で、

 この工員にも十分に賃金を出したいんだ」


「お任せあれ」と小恋子は真剣な目をして為長に答えた。


「部屋は、これからこの母屋を増築するから。

 室内の好みについては聞き入れるけど?」


為長の言葉に、二人は少し相談してから、桔梗にその絵を描いてもらった。


なかなかメルヘンチックで、夢見る少女であれば、誰でも暮らしてみたいと思うものだった。


「…私とお兄ちゃんのお部屋もぉー…」と桔梗がねだると、「ああ、いいぞ」と為長は快く同意した。


「神たちも希望があったら、吉蔵にいっておいてくれ。

 値の張るものでも、すべてを用意するから」


為長の気前のいい言葉に、キャッシーと小恋子は顔を見合わせてた。


「さらに二人の給料は二人で決めて欲しい。

 できれば、商品の値を上げる必要がない程度で控えていただきたいけどな」


為長の言葉に、「心得ました」と小恋子は真剣な目をして答えた。


誰でも気軽に商品を手に入れることを第一に思っているので、自分たちの給料のせいで、値を上げてしまうことだけは避けたかったのだ。


為長は話は終わりとして、吉乃と睡蓮を抱え込んで、若い衆を迎えに行った。



もっとも、誰もが大いに働いているので、為長はすべてを手伝って、二十名の人足を集め、早速母屋の増築工事を始めた。


材料などの加工はもう終えていたので、ほぼ組み立てるだけだ。


そして内装も希望通りに仕上げ、編み物工房、陶器工房などの店舗の基礎工事なども終えて、今日は解散することになった。


神たちの希望はまったくなかったので、現状のままとした。


そして夕餉前に、為長たちは早速根付を彫り始め、完成したものは若い衆に寺に届けるように言いつけた。


夕餉が終わってからはまた根付作りに勤しんでから、睡眠前の短い時間は編み物に集中した。


そして夜もふけたので、それぞれの部屋で誰もが就寝した。



翌日の昼餉後に、為長たちは安土城の工房に行って、天神将の社を建立することにした。


吉蔵の指示がなかなか細かいし、からくり仕掛けもあるので、かなりの大作となったが、日が暮れる前に程なく完成した。


「…意味わかんねえけど、すげえな…」と幻影がうなるほどに、かなり面白い社となっていた。


重量はそれなりにあるはずだが、為長は軽々と持ち上げて、現楽涅槃時の基礎工事が終わった場所に持って行き、固定作業を始めた。


工事は程なく終わって、関係者一同で拍手を打って、早速のご開帳になると、誰もがどよめきの声を上げた。


こういった神聖なるものは、社の中を見せないことが通例なのだが、吉蔵の思いは違う。


しかも扉というものがなく、壁ごと一気に開く造りとなっている。


「…おおー…」と誰もがうなり、そして拍手を打った。


さらには、雅楽器の音色が聞こえてきたことに誰もが大いに戸惑った。


正面の壁だった部分の裏手に、からくり仕掛けがあり、しちりき、笙、琴、尺八、鐘、小太鼓、大太鼓、鼓が人の手を解さず演奏しているのだ。


動力源はゼンマイで、一度しっかりと巻いておけば、お天道様が上っている間はずっと演奏をしている。


まさに雅な雰囲気に、誰もが瞳を閉じて、素晴らしい音色を聞き入った。


そして肝心のご神体だが、二層構造になっていて、上段に四天将、下段に十二神将がずらりと並んでいる。


もちろん、まだ見つかっていない神の部分に像はない。


誰もが信じる神の根付を手に持って拍手を打って、願い事をする。


為長はもちろん、春駒の根付を持っているのだが、『何の用?』とめんどくさそうな春駒の声に、為長は思わず笑ってしまった。


「…通信機のようだな…」と為長がつぶやくと、『…まあ、退屈してたからいいけど…』とさらにめんどくさそうな声が返ってきた。


「…まさか、家にいろといったからふてくされてる?」


『…そういうわけじゃないけどぉー…

 でもね、合格者はそれほどいないようで、

 みんな眉を下げてるわよ…

 あ、まん丸がなんか言った』


「吉乃だろう」と為長は言って、もごもごと口ごもっている吉乃を見て笑みを浮かべた。


『あ、今度はチャッピー…

 あ、術を放ったわ!』


「ああ、俺に飛んできた。

 組み立てている最中に工具が手の甲に引っかかって、

 少しだけ切れてな。

 睡蓮に見つかっていたようだ」


『…関係者だけだな…』と春駒が嘆くように言うと、為長は少し笑って、「何もなければこれから帰る」と告げると、『…うん… お疲れ様…』と春駒は妙に恥ずかしそうに言って、通信は切れた。


まん丸の術が飛んできたわけではないが、為長の心は、今の青空のように澄んで晴れていた。


そして、少女が二名、女性が三名、男性二名が涙を流していたので、ご宣託でもあったのだろうと思い、為長は笑みを浮かべて吉乃と睡蓮とともに寺の外に出た。


「ほう! 盛況盛況!」と信長は叫んで、何も言わずに為長の頭をなでてから、天神将の社に向かって歩いていった。


そして阿国も薄笑み浮かべてやってきたのだが、その背後に憔悴しきっているお雅がいた。


もちろん為長を確認したが、何も言わずに頭を下げただけだ。


もちろん為長にも放つ言葉はなく、昔の家臣だった頃のように、しっかりと頭を下げた。



「ほう… これはとんでもなく使える…」


為長たちは天草家に帰り着き、毛糸を手に取っている。


「でしょ? でしょ?」と羊の神の楽は明るく言った。


為長は楽を大いにほめて、「素晴らしいと思ったものには、俺から何か褒美が出るかもしれない」という希望ある言葉に、楽は飛び上がって喜んだ。


そして為長は編み針を手にとって、とんでもない勢いで編み始めると、「…四郎様、すっごぉーいぃ…」と桔梗がつぶやいて、為長の編む手を見入り始めた。


程なくして、フード付きのガウンが完成した。


そして為長が早速袖を通すと、「うっ さっぶっ!」と叫んでガウンを脱いだ。


「夏は農民の必需品だ」と為長は言って満面の笑みを浮かべてうなづいた。


「こりゃ、毛糸製品は年中忙しくなりそうだな…

 夏用のものは、今から作っておく必要があるが、

 その前に冬用だ」


しかしまずは腹ごしらえをすることにして、神たちと陽気に食事を摂った。


腹ごしらえが終わると、為長は根付作りに勤しんで、一時休憩をしていると、信長が眉を下げている春駒とともにやってきた。


為長は姿勢を正して、「いらっしゃいませ、父上」と言って頭を下げた。


「…ふふふ… やはり新製品…」と信長は言って笑みを浮かべて、為長の目の前にある山と積まれている毛糸製品を見入った。


「…おっ 帽子とやらもあるな…」と信長は言いながらも、やけに大きな製品を見入った。


「これさえ着ておけば、冬は寒さ知らずでしょう」と為長は言って、信長に献上した。


「今は少々暑いがな…」と信長は言って眉をしかめた。


「さすれば、こちらなどどうでしょう」と為長は言って、純白ではなく、水色がかった毛糸のガウンを信長に献上した。


「なに?!」と信長は叫んですぐにガウンを羽織ると、「…涼しい…」と言ってから、ご満悦の笑みを浮かべた。


「送風機もよろしいのでしょうけど、

 さすがに持ち歩くのも不便でしょう」


「帰る!」と信長は堂々と言って立ち上がり、「皆の者、大儀であった!」と叫んでから部屋を出て行った。


「…気合、入ってたなぁー…」と為長は言って足を崩して、休憩の続きをしようとしたが、『バンッ!!』と障子が開いて、そこには悪魔たちを携えた濃姫がいた。


「母上、いらっしゃいませ」と為長は言って、早速二枚のガウンを献上して、簡単に説明をした。


「うふふ… 来てよかったわ…」と濃姫は言って、一瞬為長を抱きしめて、「それほど根を詰めないように」と穏やかに言って、部屋を出て行った。


しかしまた障子が開いて、「この子は置いていくわ」と言って、お志摩を部屋に置き去りにして帰っていった。


「やあ、お帰り」と為長が言うと、「…ただいまぁー…」とお志摩は言って、畳にぺたんと腰を落として、大きなため息を付いた。


「ま、いろいろと心の重荷もできただろうけど、

 希望はある」


為長の言葉に、「…うん… 安心した…」とお志摩は言ってから、「…何でもいいから食べさせて…」と懇願の目を向けた。


「ああ、いいぜ」と為長は言ったが、吉乃と睡蓮が競うようにして台所に走って行ったので、為長の出番はなかった。


そしてお志摩は、睡蓮の家族とも挨拶を交わした。


さらには姉のお豊とはかなり懇意だったようで、気さくに話を始めた。


「…へ? 天草?」とお志摩が言うと、「ああ、天草姓を名乗ってもよくなったんだ」と為長が言うと、お志摩は放心していた。


「琵琶家の奉公が終わったのなら、お志摩は天草志摩だ」


為長の言葉に、お志摩はワンワンと泣いて、嬉し涙を流した。


しかし、「奉公が明けたって聞いてないぃーっ!!」と叫んで、今度は悲しみの涙を流し始めた。


「…うるさい姉ちゃんだ…」と為長は言って、少し鼻で笑ってから、優しい目をしてお志摩を見た。


「姉さんは嫁に出します」と吉蔵が言い切ると、「決めておく必要なんて何もないと思うけど?」と為長が言った。


「姉さんに、試験をします」


「長い目で見てやれよ」


すると吉蔵は困惑の目をして為長を見た。


「厳しいのもほどほどだぜ」


為長の言葉に、「はい、四郎様… いえ、為長様、申し訳ございませんでした」と素直に言って、頭を下げた。


「兄ちゃんでいいんだぜ」


為長の言葉に、吉蔵は目を見開いて、「…はい… お兄様… 兄上… 兄ちゃん…」と言って、満面の笑みを浮かべた。


「…お兄ちぁーん… ガウン、編んでぇー…」と桔梗が催促してきたので、「ああ、いいぜ」と為長は言って、子供用のガウンをたんまりと編み上げた。


桔梗は神たちに早速配ってから、自分も着て、「お姫様! お姫様!」などと叫んで喜んでいる。


「…不器用な私にも編んでぇー…」と食事を終えたお志摩が言ったが、「悪魔は暑さ寒さなど簡単にしのげるだろ…」と大いに苦情を言った。


「ファッションよファッション!」とお志摩が叫ぶと、為長は数着の女性用のガウンを編んだ。


お志摩はお豊とお種にもガウンを渡して、室内は白一色となっていた。



すべての軌道が乗ったのは、わずか十日後で、毛糸製品は、現在四万となった全国民にほぼ行き渡った。


神の根付もほぼ行き渡ったので、この間に在庫を抱え込むことにした。


玉子と牛乳に関する商いも上々で、さらには蛇の神のレミーの革製品が高値で売れ始めた。


安価な水仕事用の手袋から、高級なお出かけ用鞄まで、様々なものを作り上げた。


そして乗り合い人力車も無料奉仕ができるようになってすぐに、竜神城の事業に切り替えた。


陽の高いうちは、この乗り合い人力車がひっきりなしに街道を行き来するようになった。


しかも為長の提案で、学校を安土城下と竜神城下の中間に移設することにも決まった。


そして竜神城では、さらにもうひとつ村を興すことになり、安土城下にわずかながらに余裕ができた。


そして神の探索も平行して行っているのだが、見つけ出すことができない。


よって満を持してフリージア星に行くと、「いたぁー…」と吉蔵は言って、満面の笑みを浮かべた。


吉蔵が広大な食卓から南東方面を見ていたので、「水竜の城」と為長は笑みを浮かべてつぶやいた。


「移動できない理由があるようです!」と吉蔵が陽気に言うと、「ああ、行こう」と為長は言って、神たちを全員抱え込んで走った。


道は整備されているので走りやすい。


空を飛べばさらに早いのだが、これは為長の修行なので、吉蔵は何も言わないし、神たちは一生懸命な為長が好きだった。


程なく、石造りで素晴らしい景色の水の城が見えてきて、吉蔵はその中心にある噴水広場に指をさした。


すると、きらりと何かが光った。


為長は全員を素晴らしい石畳に下ろしてから、軍人の持っているタグを拾い上げた。


「…タニア・タリスマン…

 第十三機動部隊第二部隊隊長。

 満足して昇天したのか…」


「兄ちゃん! 帰ろう!」と吉蔵が満面の笑みを浮かべて言ったので、為長はタグを吉蔵に渡して、また神たちを抱え込んで、走りやすい道を猛然たる速度で走った。



程なくして天草家に帰り着いて、早速虎の神の実力を見せてもらったが、「針鼠?」と為長は言って少し笑った。


吉蔵も少々苦笑い気味の笑みを浮かべていた。


そして水の神はさすが四天将で、とんでもない水芸を披露してくれた。


―― これであとは吉蔵だ… ―― と為長は思い気合を入れた。


その切欠は大いなる喜びにある。


その準備は、もう終わっていたのだ。



「虎柄の猫?」と為長が姿を現した虎の神を見て言うと、神たちも賛同するようにうなづいた。


しかもまた女子のようだ。


その反面、水の神は火の神と双璧をなすように堂々としていたが、こちらもまた女子だったので、為長は眉を曇らせた。


「では突然だが、吉蔵の元服の儀を執り行う!

 吉蔵は、今から天草四郎だ!」


為長の言葉に、吉蔵は目を見開いてすぐさま頭を下げたが、大いに感動して涙があふれ、そしてその姿は竜の神となっていた。


「よっし、大成功ぉー…」と為長は陽気に言ってガッツポーズをとった。


そして誰もが、竜の神に頭を垂れた。


「四郎、何も語らずに深呼吸して、元の姿に戻れ」


為長の落ち着いた言葉に、放心していた竜の神は小さくうなづいて、深呼吸をしてしばらくしてから元の姿に戻った。


「…びっくりしたぁー…」と四郎が目を見開いて言うと、為長だけが大声で笑った。


「竜の神の声はな、ある意味武器だ。

 古い神の一族以外は、聞き取ることができないんだ。

 その声は異様に威厳があり、

 悶絶する苦しみとなる。

 そうなったら、俺から指示を与えることも困難だったんだ。

 それに、こうなることを話すわけにもいかなかったからな」


「…よーく、理解できましたぁー…」と四郎は言って、深々と頭を下げた。


「さて、四郎の神の名だが…」と為長は言って、半紙に複雑な記号のようなものを書き始めた。


「古い神の一族には、その肉体に名が刻み込まれる。

 四郎の場合、右の肩の首筋辺りにほくろのように見えるものがある。

 それがこの図形で、神の名だ」


為長の言葉に、四郎は半紙を見て、「…閻魔…」と言って苦笑いを浮かべた。


「仏の世界があったころの、地獄の番人の名だな。

 だが仏の世界が完成したのは、

 古い神の一族が生まれたかなりあとのことだ。

 どうやら四郎の名を勝手に使われていたと考えた方がよさそうだ。

 おいおい、前世のこともよくわかってくるはずだから、

 自分がどんな存在なのかを知っておくことが第一だろう」


「はい、兄上」と四郎は言ってから、笑みを浮かべた。


そして為長は水の神と虎の神のご神体を早々に作り上げ、「よっし! 完成だ!」と機嫌よく言った。


木彫以外には、『竜の神 閻魔』と描かれている札がある。


「人間名は天草四郎、神の名は閻魔だ。

 あ、きちんと書いておこう」


為長は言って、すらすらと書を書いて、四郎に渡した。


「さあ、これからが本番だからな。

 早々にも、御屋形様からお呼びがかかるはずだ。

 その時こそが、十六天神将の本当のお勤めの時だ」


為長の言葉に、神たちが一斉に頭を下げた。



翌朝の早朝訓練の前に、為長たちは現楽涅槃時に行き、神の社を完成させた。


すると阿国がやってきて、開帳している社をまじまじと見入って、「…閻魔様…」とつぶやいて、四郎に手を合わせた。


四郎も手を合わせてから、「仏の世界と僕は無関係です」と四郎は言い切った。


阿国は残念そうに眉を下げた。


「ですが、仏の使う術は伝授されています。

 と言うよりも、僕の術の真似をされたといっていいでしょう。

 たとえば…」


四郎は言って、右の手のひらを上に向けると、ゆっくりと睡蓮の花が咲いて、その中から小人が現れると、誰もが目を見開いた。


そして小人はきょろきょろと辺りを見回して、なんと為長の肩に飛んで座り込んで、からだを揺らしながら、楽しそうに鼻歌を歌い始めた。


「さすが、気まぐれだね。

 阿国様にと思っていたのですが…」


四郎が眉を下げて言うと、「…おほほほほほ…」と阿国は苦笑いを浮かべて空笑いをした。


「何で俺に来るんだよ…

 ご主人様の意思を汲め…」


為長の言葉に、「存分に使ってくださるからよ!」と小人は機嫌よく気さくに言った。


「ま、人使いは荒い方だからな。

 その覚悟があるようだから別にいい」


為長の言葉に、小人はさらに機嫌がよくなった。


そして名前だが、「睡蓮はいるからな…」と為長は言って、足元にいる睡蓮を見た。


「かなり前は、漣って言われてたよ?」と小人が機嫌よく言うと、「気に入っているのなら漣でいいが、その名に俺の想いはないぞ?」という為長の言葉に、小人はかなり慌てた。


「仏にちなんで、妙蓮でいいか…」という為長の言葉に、「…畏れ多いけどそれでいいぃー…」と小人は機嫌よく言って、為長を離れて、まずは桔梗の肩に止まって挨拶を始めた。


「よくわかっている」と為長が言うと、阿国はさらに苦笑いを深めていた。



寺から出ると、「社はまだ完成していない!」と春駒が叫んだ。


「ああ、この先、何度も手を加えるから、完成することはないな。

 だから、十六天神将が全員そろったという意味で言ったんだ」


「…うう…」と春駒はうなって、一気にうなだれた。


「正体を晒すのがそんなに嫌か…

 俺としては追い込んでいるつもりはないから、

 お前の好きな時に見せてくれたらいいさ…

 父上! おはようございます!」


為長は信長を見つけてすぐさま挨拶をした。


そして十六天神将が勢ぞろいしたことを報告すると、信長は機嫌よく四郎に寄り添った。


「神の姿を見せてくれ」という信長の言葉に、四郎を始め、神全員が本来の姿を晒した。


「…木像、ほぼ全部作り直し…」と為長は言って眉をひそめた。


すべての神の心がひとつになったせいか、それぞれの神が今までの姿と微妙に違っている。


唯一変わっていないのはもちろん春駒だ。


「うむ! もうよいぞ!」と信長は機嫌よく叫んで、「為長、でかした!」とまずは息子を褒めた。


「はっ ありがとうございます」と為長はかなり冷静になって礼を言って頭を下げた。


「為長には更なる試練を与えようと思っておる」


信長の言葉に、十六天神将全員が、為長を守るように寄り添った。


「人気者で申し訳ございません」と為長が言って頭を下げると、「まあ、よいよい!」と信長は機嫌よく叫んで大いに笑った。


「あら? 駄々をこねないのね?」と濃姫が言うと、「さすがに多勢に無勢じゃ」と信長は大いに眉を下げて言った。


「ですが、その試練をお聞かせ願いたく」


為長の言葉に、信長は機嫌よくうなづいて、「ノスビレ部隊で武者修行」と言うと、「はい、行きます」と為長は即答した。


「ほう! まさか考えることなく承諾するとはな」と信長は機嫌よく言った。


「もちろん、十六天神将も同行しますので。

 今日は旅立たれるのでしょうか?」


すると信長は、「…学校… は休みか…」とつぶやいて何度もうなづいた。


「あっちの飯もうまいから、早々に行ってこい!」


「御意!」と為長は気持ちいいほどの返事をして、天照大神に誘われてノスビレ村に出た。



「あ、為長君」と素早くゲイルが為長たちを見つけて、全員一斉に挨拶を交わした。


「あ、事情は信長様から今聞いたところだ。

 まさか、初戦が我らとともにとは」


ゲイルの感動している言葉に、「いえ、光栄でございます」と為長は言ってすぐさま頭を下げて、「四郎」と名を呼ぶと、神全員が本来の姿を晒した。


「…竜が、半端ねえ…」と無敵の無竜のゲイルが嘆くほどに、四郎に気合が入っていた。


「頭目ですので。

 ですが戦場に出れば落ち着くでしょう。

 竜の名は閻魔です」


「…神仏一体、恐るべし…」とゲイルは眉を下げて言った。


すると八丁畷春之介と優夏もやってきて、挨拶を交わしてから、優夏はまん丸を機嫌よく抱きしめた。


「…角があるぅー… 鬼っ子なんだぁー…」と優夏は機嫌よく言った。


ここからは穏やかに朝食の時間となって、食後の運動とばかり、大勢の神たちを乗せた宇宙船は、ノスビレ村から消えた。



『ドーン!! ドーン!!』と多くの大砲の音が大気を揺らす。


するとまるで天と地がひっくり返えるかのように大地が大海のように波打ち、物理的に戦場の大地がひっくり返り、瞬時にして見晴らしのいい土地となった。


「…はい、終了ー…」とゲイルは言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「最短記録更新だね」とゲッタは機嫌よく言って、戦場だった場所に飛んだ。


もちろんすべては土の神の五芒の仕業で、生き埋めになった兵士たちを術で地面から引きずり出し始めた。


まるでゾンビとして蘇ってきているようにも見えるが、命は絶たれておらず、ほとんどが軽症だ。


「これからが本来の俺たちの出番だ。

 極力多くを救いたいから、気合を入れてもいいぞ」


為長の言葉に、「はい! 為長様!」と神たちが一斉に叫んだ。


そしてゲイルから指示をもらって、あっという間に復興の手助けを終えた。


農作業だけについては、丁寧にすばやく終わらせられる自信があった。


「…すっげ…」とゲイルはつぶやいて、満面の笑みを浮かべて、十六天神将たちを大いに褒めた。


戦闘での出番はもうなかったのだが、復興は大いに手助けをして、いつもよりも多くの星を回り、いつもよりも多くの人を救い、いつもの時間の昼餉前にノスビレ村に帰還した。


ノスビレ村では信長が仁王立ちで出迎えて、為長を大いに褒めた。


「…いやぁー、お恥ずかしい…

 私はまったく手を出せませんでした…」


為長は本当のことを言ったのだが、「すべては普段の心構えじゃ」と信長は機嫌よく言う。


「お前がいるからこその出来栄えじゃった」


まるでこじつけのような信長の言葉だったが、ここはひたすら礼を言った。


「褒めすぎでもなんでもない!」と春駒が堂々と言うと、「その通りじゃ!」と信長も賛同して、機嫌よく大声で笑った。


「しかも、四郎が戸惑うほどに、お前は厳しかった」


信長の言葉に、為長は大いに考え込み、あることに思い当たった。


「…俺の思考を現実化したのか…」と為長はつぶやいて、満面の笑みの四郎を見た。


「はい! そうです、兄上!」と四郎は上機嫌で叫んで、為長に抱きついた。


すると神たちもマネをしたが、春駒とレミーは出遅れてしまって、大いに眉を下げていた。


「おまえらがいれば、恐れるものは何もない!」と信長は叫び、「飯じゃ飯!」とさらに機嫌よく叫んだ。


為長は宇宙の旅に同行していた吉乃と睡蓮とともに厨房に走って、調理補助を行った。


そして配膳では十六天神将が大いに手を出して、あっという間にうまい昼餉にありついた。


「…お兄ちゃんたちもここに住むの?!」と、ひとりの竜人の女子が聞くと、「いや、経験を積みに来ただけなんだ」と為長は申し訳なさそうに答えた。


「…そう… ざんねぇーん…」と女子は寂しそうな目をして言った。


「それよりも君は喜笑星に来ないの?」と為長が言うと、「…おまえ、また女かぁー…」と春駒が大いにうなった。


「ようやく自主性を出したんだ、

 覚醒に一番遠いんだから、

 その機会を無碍にするのは、

 とんでもなくもったいないじゃないか…」


為長の言葉に、ゲイルたちは眉を下げながらも、賛同するように何度もうなづいた。


「ピルケット、為長様のお世話になりなさい」とライジンが薄笑みを浮かべて言うと、「はい! お母様!」と竜人の少女ピルケットは満面の笑みを浮かべて答えた。


「だけど、色々と厳しいから。

 吉乃と睡蓮を見ていればよくわかると思う」


「そんなに厳しいの?」とピルケットが眉を下げて吉乃と睡蓮を見て聞くと、「…あー… 今になって思えば、厳しかったのかなぁー…」と睡蓮が答えて吉乃を見ると、「毎日楽しかったよ?」と笑みを浮かべて答えた。


「…それぞれの資質の差もあるから…」と為長は眉を下げて言った。


「だけど、今までだってちょっと勇気を出せば、

 外での修行もできたはずだよ?」


為長の言葉に、ピルケットは大いに照れて下を向いたのだが、上目遣いで為長を見入った。


そして為長がピルケットに、「変身して?」と言われて、「いや、何に?!」と為長は叫んでから大いに笑った。


「…なかなかの不思議少女だったぁー…」という為長の言葉に、ほとんどの者が賛同していた。


すると、角を持っている鼠の神のまん丸がピルケットに近づくと、ピルケットは満面の笑みを浮かべてまん丸を手にとって、「この子!」と陽気に言って、為長に両手を差し出した。


為長は大いに苦笑いを浮かべたが、「万が一もあるから確認してみる」という為長の言葉に、誰もが目を見開いた。


為長は右手の中指をまん丸の角の先に置き、軽く力を入れると、指先から血の玉が湧き出た。


為長はすかざず右のほほに絵のようなものを書くと、なんと、まん丸とそっくりの鼠に変身したのだ。


「…これは知らなかったぁー…」と為長だった方の鼠が言うと、ピルケットは拍手をしていた。


「…また変わった術じゃ… 昔返り…」と信長は言って苦笑いを浮かべた。


「ですが兄上、一体、どのような血文字を書いたのですか?」と四郎が興味深々に聞くと、鼠は大いに困惑して、為長に戻ってから、顔に和紙を当てて筆ですらりと書いた。


「…真… 真実の意味です」と四郎が言うと、「俺は古い神の一族じゃないし、読めん…」と為長は和紙を見て言った。


「…読めんものを書ける… 誰かに教わった…」と信長が言うと、「…調べてみます…」と為長は言って、瞳を閉じてすぐに目を開いた。


「親切な女悪魔で、どこの誰なのかはわかりませんし、

 瀕死の状態で、結局は救えなかったのです…」


為長が眉を下げて言うと、「かなり複雑な事態のようじゃ」という信長の言葉に、為長は、「そもそもは…」と言って、順序立てて説明をすると、時系列がおかしいように思えて、誰もが頭を抱え込み始めたが、咲笑が出来事を取りまとめた映像を出して、誰もが理解を終えた。


「為長は角のある鼠として、肉体と魂を初めて授かり生を受けた。

 そしてかなりあとに、悪竜と遭遇し、倒したのはいいが、

 辺りで生きていたのはひとりの女悪魔のみ。

 その悪魔に、昔返りの術を伝授され、悪魔はその姿を灰にした…

 か…」


「その女悪魔はほぼ確実に古い神の一族でしょうが、

 まだ出会っておりません」


為長の言葉に、信長は何度もうなづいてから、「その女悪魔と出会った時の種族は?」と聞くと、「動物で狼でした」という為長の言葉に、「…うーん…」と信長は大いにうなった。


「神獣でしかないだろうな」と信長は確信したように言うと、「ええ、そのようですね。空も飛べていましたし」と為長はごく自然に答えた。


「…為長も、動物だったぁー…」と春駒が感動してうなると、「人間も動物だぞ」というつれれない言葉に舌打ちをして悪態をついた。


「ですがこの術は、同種族がいないと実現できない、

 ピンポイントの術です」


為長の言葉に、「…あ…」と誰もが言って、ピルケットを見た。


「…なぜわかっていたんだぁー…」と信長がうなると、「…一緒の子がふたりいるって、思って…」とピルケットは今にも泣きそうな目をしてつぶやいた。


「俺自身が興味があるから、ピルケットも俺に同行するように」


為長の言葉に、吉乃と睡蓮、そして竜の家族たちが大いに拍手をすると、ピルケットは手のひらを合わせて喜んだ。


「ところで、ほかにはいない?」と試しに為長が聞くと、「…キャッシーお姉ちゃん…」という言葉に、まったくいい予感がしなかった為長は大いに苦笑いを浮かべた。


「…確認、しなくていいかぁー…」と為長が大いに戸惑いながら言うと、「危うきには近寄らず」と幻影は言って、にやりと笑った。


「…悟られますね…」と為長は観念してつぶやいた。


「もう、暇なんじゃろ?」と信長もにやりと笑って言うと、「毛糸商品は喜笑星中にいきわたりましたから」と為長は笑みを浮かべて言った。


「現在は貿易の準備で、

 最低必要数の商品の完成待ち状態です」


為長の言葉に、「呼んでやる」と信長は言って、キャッシーと小恋子をこの場に引き寄せた。


キャッシーは信長を見ながら、「…温泉、入りたかったぁー…」と大いに嘆いた。


「そりゃ、すまんかったな」と信長は言って、為長の事情をかなり詳しく話すと、キャッシーは薄笑みを浮かべて為長を見た。


そして、「…恋の予感…」と手を胸の前で組んで軟体動物となった。


「いや、俺には戦闘の予感に感じるが?」と為長は言って苦笑いを浮かべた。


「そのためには、キャッシーに狼に変身してもらう必要があるが、

 今までに見たことがない。

 変身したくない理由ってあるの?」


「…みんなの顔と感情…」とすぐさまキャッシーは苦笑いを浮かべて答えた。


「ま、普通の狼でもなかなかの威厳はあるからな」と為長は言って、長春の背後にいるかなり大人しい才牙を見た。


「でも、ここだったら遠慮することはないけど…」とキャッシーは言って、為長を見て弱々しい笑みを浮かべた。


「キャッシーを落胆させることはないと思う」


為長が言ったとたん、キャッシーの肉体は消え、為長の身長の倍ほどの体高の狼が現れた。


まさにその威厳は目にあり、今にも為長を喰らわんとばかり見入っている。


「…ふむ…」と為長は言って、少し下がってキャッシーを見て、総毛立っている才牙を見た。


「でかいだけ」という為長のこ言葉に、大狼が一瞬目を見開いてから、『…グルルルル…』と少し牙をむいてうなった。


すると為長はすかさず、牙の先端に右手の中指を当て押し付けてから、頬に血文字を書いた。


すると為長はキャッシーよりも少し小さいが、後光を放っているような狼に変身すると、『キャイッ!!』とキャッシーは鳴き、頭を抱えるようにしてうずくまった。


「…おー… 翼があったぁー…」と狼の為長は少し陽気に言って、翼を広げてふわりと浮いた。


「長春様無駄です。

 俺の精神は動物ではありませんから。

 元は動物でしたが、ほとんどの野生を捨てています」


為長の言葉に、長春と桃源は悲しそうに眉を下げた。


「ま、流暢に話し過ぎだからな。

 じゃが、その道もありじゃ」


信長の明るい言葉に、「父上、ありがとうございます」と為長は言って変身を解いた。


そして為長は大いに戸惑っている春駒を見た。


「俺もなかなかの化け物だろ?」と為長が自信を持って言うと、「…まずは、ふたりっきりで…」と春駒はつぶやいて、キャッシーのまねをして軟体動物になった。


「その時は、四郎と頭目争いになりそうだ。

 それは必要なことだと思う」


為長の言葉に、「威厳次第で、従ってもかまわないのです」という四郎の明るい言葉に、「ああ、それもひとつの道だ」と為長は機嫌よく言って、四郎の頭をなでた。


「もしも春駒が頭目となった場合、

 俺も春駒に従って亭主となってもかまわない。

 今の四郎を越えるには、

 それ相応の威厳が必要だからな。

 だが、まずは食事を済ませてしまおう」


為長の言葉に、誰もがようやく我に返って、少し冷めたが料理を楽しんだ。


大いに落ち込んでいるキャッシーと、眉を下げている小恋子も竜人たちに誘われて、食事の席に着いた。



「ほかに心当たりない?

 なんだか、狼が最後じゃなさそうだけど、

 調べるにはかなり時間がかかるんでね」


為長がピルケットに聞くと、「…今だと…」とピルケットは呟いて、獅子丸に抱きついた。


しかし空振りだったようで、「…たぶん、近くにはいないと思うぅー…」とピルケットは眉を下げて言った。


「もしも同種がいない場合、

 その事実がわかっても、術が使えないからね。

 運よく昔帰りをしてくれるのを待つのみだ。

 修行の途中なら、沸いて出る可能性もあるが、

 その気配はまるでない」


「鼠と狼は、また契約が必要なのか?」と信長が聞くと、為長は少し黙り込んで、「いえ、もう私のものになっています」と笑みを浮かべて答えると、信長は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「ですので今は、まん丸の視線が痛いです」


為長の言葉に、今は人型で少女のまん丸が大いに苦笑いを浮かべていた。


「…お前も参戦かぁー…」と春駒がまん丸を見てうなると、「そうじゃない… 同種の親しさだ」という為長の戒めるような口調に、「大人気なかった!」と春駒は叫んで、まん丸に謝った。


「おまえにゃあ、頭目は無理だな」という為長の言葉に、「…うー…」と春駒が上目遣いで為長を見てうなると、信長は愉快そうに大いに笑った。



小恋子はまだ落ち込んでいるキャッシーを慰めながらも、「…私は参戦しない… キャッシーに全面協力するから、がんばって欲しい」と小恋子は誠実な気持ちを持ってキャッシーに言った。


キャッシーは目を見開いて、「…今回は、かぶらなかったぁー…」とキャッシーは明るく言って笑みを浮かべた。


「…基本的に、悪魔は受け付けないから…」という小恋子の言葉に、「…そうだった… だけど、どうやって抑えてるの?」とキャッシーは眉を下げて聞いた。


「悪魔がまず封印しない、悪魔の威厳を封印しているの。

 だから何もかも人間としか思えないの。

 もしも自分で封印したのなら、かなりの本物で、

 悪魔の欠点がなくなったにも等しいの。

 男悪魔ということもあって、まさに魔王相当だわ」


「…魔王、相当…」とキャッシーは目を見開いてから、薄笑みを浮かべた。


「ちょっとは元気になったようね」と小恋子が明るく言うと、「今は食べるわ!」と明るく叫んでから、もりもりと目の前の膳を空っぽにしてから、狼に変身して、調理人たちにドドンガの実のステーキをご馳走になった。


まさに狼は動物で、誰もが異様な食事風景に眉を下げている。


「…なるほどな… 迷いがあったから中途半端だったんだ…」


為長の呟きに、春駒は大いに背筋を震わせたが、もう迷わないことに決めた。



この日の就寝前に、為長は春駒を夜の散歩に誘った。


その顔は気軽な散歩ではなく、まるで戦いに行くような厳しいものだった。


そして歩き出してすぐに、「…逆に気が引けてきた…」と春駒は言ってうなだれた。


「本来の姿になると、その性格も重厚なものになると思う」


為長の言葉に、春駒は黙り込んでしまってしばらくは無言だった。


そして田畑のない空き地に出て、春駒は歩みを止めて街道を外れた。


そして草原をゆっくりと歩いて、程なくして立ち止まって振り返った。


「…嫌いに、ならないで…」と春駒は言って涙を流し、そして意味不明の黒い物体がその姿をさらした。


どうやら体毛が黒いようで、星明りだけではその姿を確認できない。


だがその巨大さはよく理解できた。


為長は目を高精度の暗視用に変更して、「…素晴らしい…」と笑みを浮かべて賞賛した。


すると、今度は少し明るくなって、冬なのに桜の花びらが舞い始めた。


「…素晴らしくきれいだ、春駒…」


「…ああ、よかったぁー…」とまるで小さな女の子のような声に、為長は大いに笑った。


「…もう… 笑わないでよぉー…」とふてくされたような声で言うと、「俺の気持ち次第で、春駒の姿も性格も決められていたようだな」という為長の言葉に、大きな物体の頭部の部分が縦に揺れた。


「第一は、桜柄の着物…

 為長がきっと似合うと言って買ってくれた…」


「ああ、そうだったな」と為長は笑みを浮かべてつぶやいた。


「それに、決定的だったのはこの蹄鉄」と春駒は言って、足踏みをするように大地を踏んだ。


「火の妖精の力も宿っているからな。

 どこにもない素晴らしいものさ」


すると春駒は人型に戻って、今までとは違う美人となっていた。


「…ここまでは見えていなかった…

 俺は、決意を曲げる必要がある…

 …だが、まさかだった…」


「…今世では、息子じゃないよ?」


春駒の言葉に、「俺だって、その感情はないさ」と為長は言って、春駒をやさしく抱きしめた。


「そうか…

 俺の母だったという事実が、最大の障害だったんだな…」


「…力のある人はね、

 それを嫌う人もいるの…」


「ああ、知っている。

 しかし、四郎と吉乃はたぶん婚姻するだろう」


「…そうね、よかった…」と春駒が言って歩き始めると、為長も歩を進めて、明るく見える天草御殿に向けて歩いた。



ふたりが家に帰ると、真っ先に神たちがすがるように春駒にしがみついた。


「…手下の方が絶対楽ぅー…」という四郎の言葉に、為長は大いに笑った。


「…見たことあるぅー…」とお志摩が呆然として言うと、「第三章第五話から第三十三話」と為長が言うと、「…そうだ、それだぁー…」とお志摩は感動して言った。


「俺も春駒も、絵本に出ているぞ」


為長の言葉に、学生たちは一斉に目を見開いた。


「だけど、春駒様が神官だったわよ?!」とお志摩が叫ぶと、「俺は、騎士リンデンの下僕だった」と為長は答えた。


「…あの、寡黙な少年…」


「神官デテュースは当時の俺の母だった」


為長の言葉に、お志摩は固まって、頭を抱え込み始めた。


「現世と前世を混同して考えるな…」と為長は大いに眉を下げて言った。


「…絵本には、いつも桜の花びらが舞っていた…」と四郎が希望を持ってつぶやくと、「さっき、見たぞ」と為長は機嫌よく言った。


「ま、春駒は生まれ変わったようなものだというか、

 魂は偽装されていたから、まったくの別人。

 そして俺も春駒も一目ぼれした。

 そして恋に落ちて婚姻することに決まった」


為長の言葉に真っ先に四郎が、「おめでとうございます兄上! 春駒様!」と叫ぶと、誰もが追従した。


「頭目は四郎でいいの。

 今までと何も変えないで」


春駒の優しい言葉に、「はい、承知しました、春駒様!」と四郎は機嫌よく答えて、為長に満面の笑みを向けた。


「そして、私と為長様の想いを現実にしてくださいね」


春駒の優しい言葉に、「はっ 仏陀様!」と四郎が叫んで満面の笑みを浮かべると、為長は目を見開いた。


「…そんなこともやっていたんだね…

 大きな存在のはずだ…」


為長があきれ返って言うと、「残りかすのような残った恩恵ですらも、大きなものだったわ」と春駒は穏やかに言った。


「…下手に竜にならない方が得策…」


「…それは大いにいえるわ…

 自由を望まなければ、ずっとこのままだから」


「…そうか、よかった…」と為長が大いに苦笑いを浮かべて言うと、「祝言じゃ!」と信長が叫んで部屋に乱入してきた。


「いえ父上。

 春駒があまりにも大きい存在だったことに戸惑っている最中なのです」


為長が眉を下げて言うと、「気にすんな」と信長が鼻で笑って言って、さっさと上座に歩いて行って、為長と春駒に手招きをした。


「私も、織田信長に賛成するわ」と春駒は言って、為長を立たせて信長が気に入るように振舞った。


為長は生まれて初めてと言っていいほどに気が引けていた。


大きな存在ふたりが気にすんなと言ってくれたのだが、気にしない方が絶対におかしい。


そして幻影が酒を持ってきて、為長と春駒に祝辞を述べた。


まさに本番の祝言の様相に、為長はさらに戸惑ったが、その想いは、あるかすかな香りによって打ち消された。


「…桜…」と為長は言って、ひらひらと舞い散る桜の花びらを見入った。


―ー 母ちゃんの機嫌がいい時… ―ー と為長はようやく思い出し、春駒に一点の曇りもないことが自信となった。


「…母ちゃんは、余計です…」と春駒が唇を尖らせて少し怒ったように言うと、「…想いを探るからだ…」と為長は言い返した。


「おっ?! なんじゃ?! もう夫婦喧嘩か?!

 仲がよくて結構結構!!」


信長は最高潮に機嫌がよかった。



仮の披露宴を終えて、片付けも終えて、為長と春駒は室内にふたりきりになった。


「夕涼みに行かないか?」


為長の誘いを断ることなく、春駒は為長の左腕にぶら下がるようにして、両腕で抱きついた。


為長は足こぎ人力車を西に向けて走らせ、獣王城の街道舗装路の限界地までやってきて、二人は人力車を降りた。


そして荷台に腰掛けて、ふたりで夜空を見上げた。


「いろんな星の夜空を見てきたけど、

 この夜空が一番好き」


春駒がわずかに桜の花びらを舞い上がらせながら言うと、「ああ、俺もだ」と為長は言って笑みを浮かべた。


「あのね、子供の件だけど」と春駒が恥ずかしがらずに言ってきたことを為長は怪訝に思って、いろいろと思い起こした。


「…まさかだが、神たちの連れ合いを生むのかい?」


為長の言葉に、「ほんと、察しがよくて好きよ」と春駒は夜空から為長に視線を移して笑みを浮かべた。


「だが、四天将はどうするんだい?」


「あの四人の相手はもちろん召還するわ。

 宇宙の妖精をね」


「…そうなるよな…」と為長は答えて何度もうなづいた。


「一番甘えん坊のまん丸の相手」と春駒は言って、まん丸にそっくりな角のある鼠を手のひらに浮かび上がらせた。


「…生むと言うか、これも召還に近いな…」と為長は言って、鼠の頭を優しくなでた。


「この子もそのうち神の手伝いができるの。

 これが、頭目の仕事でもあるから。

 もちろん、天神将の中で連れ合いを見つけてもいいけど、

 やっぱり諍いが起こっちゃうものなの」


「ああ、ありえるな」と為長は考えることなく答えた。


「成長しきっていない今が最後の機会のようなものだから。

 やっぱりね、今の子供のうちは、同種を好むの」


為長は感慨深くうなづいた。


そして春駒は次々と神たちの連れ合いを生み、そして召還を終えた。


「十六天神将のそっくりさん集団だな」と為長は言って、少し笑った。


もちろん、竜の神の連れ合いはいない。


為長と春駒で最終確認をしていると、「君はどんな役目を持ってここにいるんだ?」と為長が言うと、春駒は目を見開いた。


そして、「…もう、やだわ、為長さん…」と春駒は大いに照れて言った。


「…そうか、やっぱり…」と為長はすべてを察して笑みを浮かべて、人型で額に角が三本生えている赤子に近い幼児の頭をなでてから、春駒に渡した。


「特に鬼っ子を望んだわけではないが、

 どのような種族でもいいと思っていた。

 もっとも、鬼っ子の場合は、

 体力的には何の心配もないから、

 一番よかったのかもしれない」


「そうね…

 たくさん人を雇うことも考えたけど、

 私たちだけでも、人助けの旅に出られそう」


春駒の明るい言葉に、桜の花びらが舞い散ると、鬼っ子はいくつも花びらを手にとって、「キャッキャッ!」と声を上げて喜んだ。



「…倍増したなぁー…」と又蔵は朝餉の席で神たちを見回して言った。


特に困ったわけではないが、苦笑い気味の笑みを浮かべていた。


昨夜召還した神たちは、早速本来の神たちの力で、人型を取ることに成功していた。


よって、普通の庄屋宅を御殿の巨大な部屋に改築しておいてよかったといったところだ。


四郎は桔梗と吉乃がいるだけでよかったようだが、お志摩が少々気に入らないらしい。


「…お志摩ちゃんは誰にでも愛想がいいから、

 すぐにでも見つけられるよ…」


お豊の言葉に、「…喜笑星には能力者はまだ少ないからなぁー…」とお志摩は現実的なことを言って眉を下げた。


「…でも、琵琶様に仕官された方だったら、

 すっごく見み込みはあるじゃない…

 普通に人間なのに、能力者以上だって聞いたよ?

 あ、池田君から…

 池田健五郎君…」


「…健五郎様を紹介してぇー…」と、お志摩は手のひらを返すように懇願した。


安土城での修行中や食事の席などで顔を合わせることはあったが、まだひと言も言葉を交わしていない。


さすがに、濃姫は厳しいので、興味をわかせること自体を禁止されていた。


だが晴れて天草志摩となったお志摩は、今は自由の身だが、強制的に濃姫の部隊に組み込まれてしまった。


しかし集合がかからない限り、拘束されることはないし、学校での自由時間は短いが、健五郎と言葉を交わす程度の時間はある。


「…うん、ぜんぜんいいよ…

 …今日の放課後でも…

 …池田君たちも、お仲間たちと集合して一緒に登城するから…」


「…ああ、新しい出会い…

 お豊ちゃん、ありがと」


お志摩は満面の笑みを浮かべて、お豊に礼を言った。



「…おお…」と高等部三年一組の教室は静かに沸きあがった。


まさにどこぞの姫が為長に連れられて教室に入ってきたからだ。


そして、わずかながらに桜の花びらがひらひらと舞っている。


「…素敵ぃー…」と女子たちも羨望のまなざしで春駒を見入った。


そして誰もが春駒の手首を見て、「春駒様?!」と大声を上げた。


「みなさん、ごきげんよう。

 間違いなく、春駒です」


春駒は言って少し頭を下げてから、自慢げに右手を上げて、蹄鉄を見入った。


「あ、そうだ。

 神たちの根付だけど、

 一新する必要があったけど、

 今までのものと効能は何も変わらないから。

 このクラスには、五名ほど、

 神とお話ができた人もいるそうだが、

 古いものでも何も問題ないから」


為長の言葉に、「…また毎日もらいにいくうぅー…」と特に女子たちが言った。


「新しい根付は、たぶん、春駒のものが一番人気になると思う。

 今までとかなり変わったからな。

 だが、手にできればいいが…」


為長の言葉に、誰もが大いに戸惑った。


「根付を手にできないというのは、

 品切れで根付がないという意味ではなく、

 少々厳しい資格が必要と言っても過言じゃないものなんだ。

 それが、十六天神将の頭目の威厳なんだよ。

 だが、お社のご神体はもう入れ替えてあるから、

 そのお姿を見ることはできるから」


為長の言葉に、誰もが一斉に春駒に拍手を打って、目ざとい女子学生たちは花びらを拾い始めた。


すると教師の寅三郎がやってきて、「…春駒様はまだ学生をやられるのですか?」と敬語で聞いてきた。


「はい、学校は初体験ですので、

 卒業までお世話になります」


春駒はしとやかに言ってゆっくりと頭を下げた。


ほとんどのことに戸惑わない寅三郎の心が乱れていることで、誰もが、―― それほどなんだぁー… ―― と正しく理解した。


そして春駒と同じ教室で勉強ができることを幸運に思った。


そして授業を終えた休憩時間。


「ないっ! ないわっ!」と数名の女子学生たちが騒ぎ始めた。


「桜の花びらも、自然に返るということだ」というさも当然のように言った為長に向けて、誰もが大いにうなだれた。


しかし数名の生徒の手ぬぐいにはしっかりと花びらはある。


だがそういう生徒ほど自慢することはなく、何も言わずに丁寧に手ぬぐいを折って、心の中で柏手を打った。



短い時間だが、お志摩は高等部二年の階に移動して、お豊の紹介で池田健五郎と挨拶を交わした。


すべてを察していた為長がふたりを引き合わせていたのだが、知り合いにいてもらったほうが落ち着くので、まずはお豊に声をかけていたのだ。


「織田為長様のご紹介でもあるので、できることはなんでもいたしますから」


健五郎の気さくな言葉に、「…さすが為長様ぁー…」と笑みを浮かべてお志摩は言った。


「…為長様よりは、ずいぶんと格下ですが…」と健五郎は苦笑いを浮かべて言うと、「…あのお方は神以上でしたから…」とお志摩はほほを赤らめて答えた。


「予鈴、鳴るよ」というお豊の言葉に、お志摩と健五郎は丁寧に別れの挨拶をして、お豊にも丁寧に礼を言って別れた。


「…ふむ… 悪魔っぽくないが…」と健五郎がつぶやくと、「四郎様が五芒星をかけたって言ってたよ?」とお豊が答えると、「…ああ、為長様と同じように、か…」と健五郎は言って何度もうなづいて納得していた。


「五芒星は陰陽師という術者の術なんだ」


健五郎の言葉に、「…そうなんだぁー…」とお豊は感心しながら言って、健五郎とともに教室に入った。



「さあっ! みんなできたかなっ?!」


初等部と幼年部の教師は比較的若く、誰からも姉として慕われている。


この女性教師のミルリー・モーガンは、フリージア星で教師をしていた。


この喜笑星に分校ができると知って、自分自身の修行として手を上げて即採用されたのだ。


年齢は三百五十才で決して若くはないが、見た目は十代でしかない。


もちろん、死後の世界の住人の死神という種族なので、学校では当然認知されている。


「あら?」とミルリーは言って、ひときわ輝いている桔梗の画用紙を見た。


そして数歩近づいて見入ってから目を見開いた。


「…天草、桔梗ちゃん… 一万点…」とミルリーがつぶやくと、桔梗は満面の笑みを浮かべて大いに喜んだ。



低学年が落ち合う玄関の下駄箱前で、「さすが桔梗ちゃんだ! 素晴らしい!」と四郎が手放しで褒めると、「…えへへへ… ありがとぉー…」と桔梗は言って、画用紙を抱きしめた。


「…芸術的才能は、神も必要よね…」とレミーが嘆くと、「レミーさんは大人にしか見えないんだから、いろいろとかなりがんばってください」という四郎の真剣な言葉に、「…今までで一番つらくて厳しい修行だわ…」と泣き出しそうな表情でいった。


四郎たち一行は外に出て走り出した。


もちろん、今日も為長たちが待っているからだ。


「為長お兄ちゃん!」と桔梗が叫んで、画用紙を為長に差し出した。


そして為長は桔梗の作品を見入って、「…これは…」と嘆くように言うと、「あら、素晴らしいわ!」と春駒が叫んだと同時に、桜吹雪が当たりに舞い始めた。


「イエテちゃん! お願い!」と桔梗が叫ぶと、猿の神のイエテが巨大で目の細かい網を何度も振って、桜の花びらを袋に詰めて桔梗に渡した。


「…あー、たっくさんだぁー…

 イエテちゃん、ありがと!」


桔梗は礼を言って、人型に戻ったイエテを抱きしめた。


桔梗が作った絵は貼り絵で、すべて桜の花びらで、馬の神の春駒を表現していた。


どこからどう見ても満開の桜の木なのだが、木の部分は少々おどろおどろしい馬だ。


極力それがわからないように、桜の花びらを駆使して、表現していた。


よって、満開の桜の木と認識する者がほとんどだろう。


「…これは、非の打ち所がなく、春駒だなぁー…」と為長は大いに感心しながら言った。


「桔梗ちゃん、私にも作ってくれないかしら?」という春駒の言葉に、「もっちろん!」と桔梗は機嫌よく言って、桜の花びらが入っている袋を持ち上げた。


「…よくあんなにも取れたものね…」と春駒は眉を下げて言って、自慢げな顔をしている人型のイエテを見て笑みを浮かべた。


もちろん多くの桜の花びらは校庭に散ったのだが、もうすでに花びらはどこにも存在していなかった。


「素晴らしいぞ、桔梗」と為長は大いに褒めてから、画用紙を桔梗に返すと、「…えへへへ…」と照れくさそうに笑った。


「…いや、もともと素晴らしいのに素晴らしいという感想では心もとないな…」


為長はがつぶやくと、桔梗は満面の笑みを浮かべて期待した。


「天草桔梗画伯」という為長の言葉に、桔梗は大いに戸惑ったが、為長は半紙を出して丁寧に説明すると、「…絵の、大先生…」と少し放心するように言って、満面の笑みを浮かべて涙を流して、為長に礼を言った。


「お師様!」と為長が叫ぶと、「おっ! なんだなんだ?」と幻影は一瞬にしてやってきて、桔梗が差し出した絵を見入った。


「…こりゃ、奇跡としか言いようがないな…」と幻影は感心しながら言って、かなり立派な額を作り上げて、絵を入れた。


「家宝にしてもいいほどだ」という幻影の最高の褒め言葉に、為長は大いに礼を言った。


「桔梗は免許皆伝。

 そして俺の好敵手となった」


幻影の重厚な言葉に、「先生! ありがとうございます!」と桔梗は満面の笑みを浮かべて幻影に抱きついた。


「それでね、先生…」と桔梗はあることを提案すると、「ああ、やってみな。俺の美術館にも伯がつきそうだ」と幻影は快く言って、桔梗の頭をなでた。


「桔梗画伯の第一歩だな」という為長の言葉に、「うん! お兄ちゃん!」と桔梗は満面の笑みを浮かべて叫んだ。



「…わが子ながら、もとんでもない才能を持っていた…」と又蔵は立派な額に入っている春駒の絵を見入って、うなるように言った。


「お師様が好敵手といわれましたので、

 肩を並べたといっていいのでしょう」


為長の言葉に、「…それほどなんだなぁー…」と、まだ現実味を帯びていない又蔵は言って、何度もうなづいた。


昼餉の席は大勢神たちがよくしゃべる。


しかも四十人もいれば、騒がしくて当然だろう。


その楽しい昼餉を終えると、キャッシーと小恋子がやってきて、これから昼餉を摂るようだ。


そしてキャッシーが眉を下げて、「…がんばりましたが、サルサロスへの商品の貿易は見送ることに決めました…」と申し訳なさそうに言って、頭を下げた。


為長は何度もうなづいて、「…だよなぁー…」とすぐさま同意して肩を落とした。


もちろん、サルサロスにも毛糸商品があるのだが、かなりお高いもので、しかも質が悪い。


よって、安価で神の毛糸製品を販売すると、現地の商品が売れなくなってしまう。


サルサロスの経済を乱すわけには行かないので、断念しても仕方のないことだった。


しかしフリージアでは競合相手がいないことで、簡単に折り合いがついたので、大量に毛糸製品や革製品を売りに出すことに決まった。


「延び延びになっていたが、マリーン様に謁見を願おう。

 そのついでに、毛糸製品の話もするか…」


「…まさか、私たちも?」と小恋子が大いに眉を下げて聞くと、「いてもらった方が話が早いこともあるんだけど?」という為長の言葉に、「…同行しますぅー…」と小恋子は眉を下げて答えた。


「…子犬扱いされそうで嫌だなぁー…」とキャッシーが言うと、為長は愉快そうに笑って、

「そのままなついてやればいい」という為長の破天荒な言葉に、キャッシーは眉を下げていた。


そして為長はピルケットを見て、「出番、あるかもな」という希望がある言葉に、ピルケットは満面の笑みを浮かべた。



膳は急げと言うことで、為長は信長に相談して、出立する人員を確定した。


十六天神将に為長を加え、為長の都合でキャッシーと小恋子、そして国の代表として、竜神勇健と美麗で出かけることになった。


もちろんほとんどが学生なので、学校が休みの日に決まった。


そしてその旅姿は、どう見ても子供たちの遠足だった。


話はつつがなく通っていたので、為長たちがサルサロス星の大神殿に行くと、マリーンがもろ手を挙げて歓迎した。


そして側近の煌極と閃光燕に加え、ジャック・ガイとその相棒のフランクが警備に当たる。


「…あー… ああ?」とピルケットが妙な声を上げた。


「獣人のフランクさん?」と為長が聞くと、「…そうなんだけど、ちょっとおしいのぉー…」とピルケットは眉を下げて言った。


「あとで星の散策に行った方がよさそうだ」


為長の言葉に、子供に見える神たちが喜んだので、まさに遠足の団体そのものだった。


為長とマリーンは挨拶を交わし、おざなりの内容の話をしてから、今回訪れた本題の話を始めた。


まずは、自然界が拒否する不適合能力者の件だ。


マリーンは眉を下げながらもその条件を語った。


もちろん、為長は精査して、為長の常識と一致したので納得はした。


しかし、「能力を消すことはm不適合者への甘やかしになる場合もあるように思うのです」という為長の言葉に、マリーンはかすかに動揺した。


「能力を留めず、完膚なきまで打ち倒した方が、

 本人のためになるような気もするのです。

 私の場合だと、流派の件もありさすがに殺しはしません。

 ですが、能力を使いたくなくなるまで攻め立てるでしょう。

 もちろん、様々な条件が必要なのはよくわかっています。

 ですが、喜笑星においては、その心配はないと自負しているのです」


「…信長様とお話しする機会を設けます…」とマリーンは言って頭を下げた。


すると、桜の花びらがちらほらと舞い始めた。


為長の男らしさに春駒が惚れ直した喜びといったところだ。


「…お母様…」とマリーンが眉を下げて燕を見ると、「…こしゃくな…」と燕は言って、薄笑みを浮かべている春駒をにらんだ。


「戦うことはないだろうが、

 どう考えても俺たちの負け」


極が眉を下げて言うと、燕はぷいとそっぽを向いた。


次の話題は毛糸商品の件で、この地で手に入れた毛糸製の手袋の詳細を、為長は極に質問した。


それと同時に天草家で作り上げた毛糸商品を出すと、「…はあ…」と極は深いため息をついた。


そしてマリーンが手袋を手に取ると、「…ああ、くださいぃー…」と眉を下げて言った。


「それはできかねるのです。

 不幸の第一歩につながるように思っています」


為長の重厚な言葉に、「その通りだから駄目」と極は言って、マリーンから手袋を奪った。


「こちらでもいろいろと検討したのですが、

 まずは工員の質が悪すぎること。

 器用な工員はほかの職についているのでしょう。

 よって、材料はまずまずなのに粗悪品にしてしまっている。

 これが、我らの商品の倍の値段なので、

 貿易を踏み止まったのです。

 ですが獣人たちともさらに懇意となりたいので、

 できれば販売をしたいのです。

 さらには、獣人たちの中には器用な者もいるとお聞きしているのです。

 もしも、この地の編み物工房をつぶしてもいいとおっしゃるのなら、

 貿易に踏み込みます。

 ですができれば早々に廃業してもらって、

 別の事業を立ち上げていただきたいと思っているのです」


「…いやいや作ってるよな…」と極は粗悪品の手袋を手にとってつぶやいた。


「いろいろと示唆するけど、即答はできない。

 だけど、明日の朝までには回答するから」


極の言葉に、為長は笑みを浮かべて頭を下げた。


「…偽善者にしか見えないのに、そうじゃないところがこしゃくだわ…」


燕の言葉に、「十代前半の頃はみんなによく言われていました」という為長の言葉に、「…真田幻影を超えてるわよ?」と燕は極を見ていった。


「一部分はな。

 幻影さんとはまた違う猛者でもあるし、

 その仲間が幻影さんの取り巻き以上だ。

 …春駒さんの存在感が信じられんといったところだ…」


極の言葉が燕は気に入らないようで何も答えなかった。


「…愚問でしょうけど、

 天草家はこのサルサロスで生活してみませんか?」


マリーンの少々気が引けている言葉に、「申し訳ありませんが、ありえないお話です」と為長は堂々といった。


「わが父と、わがお師様あっての私ですから」


為長の言葉に、極は何度もうなづいた。


「…やっぱり、喜笑星に住むぅー…」とマリーンがいい始めたので、為長は愉快そうに大声で笑った。


「その件ですが、別荘地としてお勧めも場所があるのです」


為長の言葉に、マリーンが大いに食いついた。


「妖精の幸運の地」


為長の言葉に、マリーンは恍惚とした表情をした。


「ですが、帰りたくないというのはなしです。

 最大でも一泊二日。

 それを守らない場合は、

 閃光様が引きずってでも連れ帰ってくださいますように」


「…この子の様子を見て、よーく理解できたと思うわ…」と燕はため息混じりに答えた。


「ある意味、閃光様も危ういので、その時は煌様が」


「ああ、確実に連れ帰るから。

 どうせ毎週とか言い出すから、半年に一回」


極の言葉に為長は深くうなづいて同意の意を示したが、「…期日を決めないでぇー…」とマリーンは大いに嘆いた。


「そのご恩に報いるためにも、

 早々にかたをつけますので。

 では」


極は言って、その姿が消えた。


「では、私たちもこれで。

 少々所用ができましたので」


為長の言葉に、「…あんた、とんでもないわね… そんな人、会ったことないわよ…」と燕が敵対するように言うと、「私は幸運だったのでしょう」と為長は言って頭を下げて、マリーンに丁寧に挨拶をしてから、全員を抱え込んで、安土城を目指して飛んだ。



安土城の広場に出て、「どうだい?」と為長がピルケットに聞くと、「…うわぁー… 何人もいたぁー…」と言って、為長に笑みを向けた。


「こりゃ、忙しくなりそうだ」と為長は明るく言って、目的の獣人たちや動物たちと接触して、様々な動物に変身した。


そして極め付けが、マックラ国王だった。


マックラは羆の獣人なのだが、為長は動物の羆に変身した。


「…巌剛様の気持ちがわかってきたような気がする…」とつぶやいてから変身を解いた。


そして厨房を借りて、為長たちが料理を作り上げて、協力者たちに振舞った。


まさに祭りの様相となり、一般人までも巻き込んだ。


そして為長はマックラだけに、サルサロスにやってきた商売の事情を話した。


「…マリーン様にご協力したいところだ…」とマックラは言って、乱暴に為長と肩を組んだ。


為長はマックラという最大の友を得て、気分よく喜笑星に帰還した。



為長たちは報告のために安土城に登城して謁見間に入ったが、座るや否や、「よくやった、為長」と信長は笑みを浮かべて言った。


「はっ ありがたき幸せ」と為長は言って頭を下げた。


「戦でいえば、無血開城の完全勝利といったところじゃ。

 お前と十六天神将の力、思い知った」


信長は言って愉快そうに高笑いをすると、為長たちは一斉に頭を下げた。


「サルサロスとの貿易は、早速明日から開始じゃ」


「御意!」と為長はすぐさま答えて、満面の笑みを浮かべた。


「マリーン殿の別荘の件は、寅三郎に託す。

 マリーン殿の希望を聞き入れよ」


「はっ ご命令ありがたく」と寅三郎は答えて笑みを浮かべた。


「そのご希望ですが、建設は為長様に依頼されると予想します」という春駒の言葉に、「…そうくるか…」と信長は真剣な目をして言って腕組みをした。


「寅三郎、申し訳ないが、マリーン殿の希望に沿うように話をしてくれ。

 この件の埋め合わせは必ずする」


「御意」と寅三郎は言って笑みを浮かべて為長を見た。


「で? どれほど仕入れた?」と信長が為長ににやりと笑って聞くと、「獣人十五名と動物三匹と一頭です」と為長が答えると、「…それは大量じゃったな… まさかの数じゃ…」とさすがの信長も目を白黒とさせていた。


「人間にも転生はしているようですが、

 本気で生きていたのは、動物系の方だったと推測します。

 ですが、納得できる決定的な存在はまだございません」


「いや、それでいいのじゃとわしは思う」と信長が機嫌よく言うと、「はっ 私もそう思っておりました」と為長は言って笑みを浮かべた。


「それにすべては、ピルケットの手柄ですので」


「おう! そうじゃったそうじゃった!」と信長は機嫌よく言って、「為長に何をねだっても叱られはせんぞ」と信長は機嫌よく言った。


「はい! ありがとうございます! 御屋形様!」とピルケットは笑みを浮かべて叫んだ。


「私には、父はおりません!」


ピルケットの心からの叫びに、為長は薄笑みを浮かべて一度だけうなづいた。


「私は竜にはなりたくありません!」


更なる心からの叫びに、「協力は惜しまない。何も心配することはない」と為長が言うと、ピルケットは満面の笑みを浮かべ、そして春駒がピルケットに寄り添ったとたんに、ピルケットは獣に変身した。


「簡単でしたわ」と春駒は言って、まるでピルケットを祝福するように、桜の花びらを噴出した。


『ケケケケケケ』と、獣となったピルケットは鳴いて、目を見開いてから、徐に人型に戻った。


「…神獣までは経験者じゃからな…」と信長は感慨深げに言った。


「神獣を極めるのもかなり骨だぞ」という為長の少し厳しい言葉に、「はい! お父様!」とピルケットは叫んで、為長をしっかりと抱きしめて泣いた。


「…ま、ピルケットが二十ほど年上だけどな…」と為長が言うと、「ずっと、子供の姿のままだよ?」とピルケットは笑みを浮かべて言った。


「あ、竜に覚醒しなきゃ、

 人間の姿もそれほど変わらんわけか…

 納得…

 だが、寿命は…

 あ、やはり底なしだ…」


「…よかったぁー…」とピルケットは安心して言ってから、「お母様!」と叫んで、春駒に抱きついた。


「ライジン様に叱られそう」と春駒は言ったが、それほど心に負担はなかった。


今日は早々に休息せよという信長の命令が出たので、為長はその思いを汲んで、安土城を後にした。


そして為長にとっては、温泉がまさに極楽で、神たちの伴侶の大勢の男子がいる。


混浴の方は気が向けば行く程度なので、男同士の裸の付き合いは心地よい。


しかも全員が為長を、「お父さん」と呼んでくることも好んでいたが、まさにその通りなので為長に何のこだわりもない。


そして鬼っ子だが、今日はお世話係のお香に預け、安土城を立ち去る前にお香から受け取った。


名前は為長の思い付きで、『菩童』としたのだが、春駒が大いに喜んだ。


仏由来の名でもあるので、多少は喜んでも当たり前だった。


「…菩童ちゃん! こっちこっち!…」と桔梗の明るい声が聞こえる。


菩童の姉として面倒を見ようと張り切っているのだ。


「…壁を登っちゃだめっ!…」


桔梗の嘆きに、為長は少し笑って、壁際に歩いていくと、かすかに頭が見えた菩童が為長に飛びついてきた。


「受け取ったぞ!」という為長の言葉に、「…あーあ…」と大勢の女性たちの嘆きの声が聞こえた。


女風呂では腕白振りを発揮したようだが、ここに来て落ち着いたようで、為長に抱かれて大人しくしている。


「鬼だが猫かぶりか?」


為長の言葉に、誰もが陽気に笑った。


すると今度は出入り口から巌剛がやってきたので、為長が羆に変身すると、巌剛はその場でしりもちをついて、首を振って大いに嫌がっている。


しかし羆に抱かれている菩童は機嫌よく、「キャッキャ!」と笑っている。


「巌剛、嫌がらずに来いよ」


羆の言葉に、巌剛は大いに眉を下げながらやってきて、巌剛の倍ほどある羆の隣に陣取って、湯船に浸かった。


「だーだー」と菩童は機嫌よく言って、巌剛に両手を伸ばしたので、羆が巌剛に抱かせると、巌剛は大いに眉を下げていたが、わが子小春を抱くようにして落ち着きの表情をしていた。


その小春は動物用温泉でのぼせたようで、床に寝そべって体を冷やしている。


すると菩童が力をなくしたので、羆は為長に戻り、「寝たけどどうする?」と為長が聞くと、「こちらへ」と春駒の上品な声が聞こえた。


為長は術で菩童を浮かべて、正確に春駒に抱かせて術を切った。


菩童が寝てからこそ母の出番と春駒が言うので、為長は気を使ったのだ。


「…あーかわいいぃー…」と桔梗を筆頭にして女子たちが大いに声を上げた。


「楽しそうだ」と獣人の月の輪熊が言うと、「こんな時間もないとな」と為長は言って鼻で笑った。


「悪いが雇ってくれ」


巌剛の言葉に、為長は一瞬目を見開いたが、少し笑ってから、「お師様には?」と聞くと、巌剛はそっぽを向いた。


「きちんと挨拶をしてからにしてくれ。

 俺が引き抜いたように思われるのも困るんだ。

 それにお前も、萬幻武流に接した方がいいはずだ」


為長の言葉に、やぶへびだったようで巌剛は熊に戻って、小春を起こしてから、そそくさと浴室を出て行った。



「…フオー… フォフォフォフォーフゥォー…」


桔梗が上機嫌で、雅楽の口真似をしながら桜の花びらの貼り絵をしている。


「…チンドドコココン、コーン!」とどんどん声が大きくなる。


すると神たちが全員消えた。


もちろん春駒もいない。


全員、寝所にこもったようで、眠ってしまったと為長は察した。


その中で唯一起きているのは、まだ人間の肉体思ったままの四郎だけで、今は機嫌よく吉乃と編み物に興じている。


「…ピーヒョロドドドドドォーン!!!」と桔梗が叫ぶと、「できたぁー!!!」と大声で叫んで高揚感を上げて、貼り絵を見入った。


今回の作品は、十六天神将の動物の姿で勢ぞろいしているもので、かなりの大作だ。


そして、この前に仕上げた作品は、随分と過去の、春駒と為長の母子の風景。


一体どうやって知ったのかが、為長は大いに気になった。


すると桔梗はいきなり眠そうな顔をして、隣で見ていたお豊にもたれかかって眠ってしまった。


お豊はなにも言わずに、すでに用意してあった額に貼り絵をしまいこんで、きらびやかな風呂敷に包んで、竜の寝所の大きな台の上に置いて、控えめに拍手を打って、桔梗を抱いて部屋を出た。


「…神の巫女?」と為長がつぶやくと、「睡蓮ちゃんじゃなかったみたいだね」と四郎が言って、編み物に集中している睡蓮を笑みを浮かべて見た。


「あの雅楽の伴奏だが、まさか決めたのは桔梗?」


為長の素朴な質問に、「うん、そうなんだ… 何か記号のようなものをいきなり書き出してね… その記号通りに、厚紙に穴を開けたんだよ…」と四郎が眉を下げて言った。


その厚紙を基にして、神の社の楽器が自動演奏するのだ。


「…どんな神だろ…」と為長がつぶやくと、「天照大神」と四郎は言って目を見開いた。


四郎は自分が言ったとは信じられないような顔をしていたのだ。


「天照大神は三人目だから珍しくない」と為長は言って少し笑った。


「しかし、同じ名前の神なのだが、

 全員随分と能力差もあって、役割も違うようだ」


「…三位、一体…」と言った四郎が目を見開いた。


本来ならば嫌な予感しかしないはずだが、為長は笑みを浮かべていた。


「神に自己犠牲の考えはない。

 都合のいい時に合体して、

 役目が終われば分裂する。

 その機会がまだないんじゃないのかなぁー…」


為長の言葉に、四郎は肩を落として、小さくほっとため息をついてから、満面の笑みを浮かべた。



翌朝の早朝訓練中に、桔梗は機嫌よく幻影に寄り添って、風呂敷に包んだ大きな額を幻影に渡した。


「きちんと預かったからね。

 ひとつはよくわかったけど、もうひとつの題名は?」


幻影の言葉に、「あっ!」と桔梗は叫んで、いきなり半紙を出して幻影に渡して頭を下げた。


「…ほう… これは面白い…

 聞いてはいたが、本題とは別に、穏やかな時間があったようだね」


「はい! 先生!」と桔梗は満面の笑みを浮かべて答えた。



学校が終わり為長たちが戦車に乗り込んでいると、街道がやけに騒がしい。


為長は戦車を引いてゆっくりと街道を移動していると、琵琶高願美術館が大盛況になっていた。


ほとんどが大人で、下校中の学生も巻き込んでいた。


為長たちは戦車を広場に置いてから、大人数で美術館前に並んだ。


もっとも、この事情がわかっていないのは、お志摩だけで、「…一体、なんだろー…」と興味深々につぶやいた。


「あっ! 神様!」とひとりが叫ぶと、為長たちの前に道ができた。


「順番は守るぞ! 神だからこそな!」


為長の言葉に、誰もが一斉に頭を下げて、道は消えていた。


大勢並んでいるのだが、立ち止まることは厳禁のようで、ゆっくりと人の波は流れ、そして見終わった者たちはまた最後尾に並ぶ。


そして為長たちの番が来て、桔梗の素晴らしい作品に感嘆してから、美術館を出た。


「きちんと陳列すると、さらに立派に見えた」と為長が手放しで桔梗を褒めると、「…えへへへ…」と桔梗は照れくさそうに笑った。


さらには現楽涅槃寺も大盛況なのだが、参拝者の顔色が冴えない。


「…為長様ぁー… 厳しすぎるのでは…」と四郎が戸惑いながら言うと、「俺の力なんて何もないさ」と為長がさらりと言うと、「あはははは!」と春駒が豪胆に愉快そうに笑って、桜の花びらを撒き散らした。


「はーい! 速やかに移動してくださぁーい!」と社務所の氏子が指示を促す。


十六天神将の根付をもらいたいのだが、掴めないのだ。


「もらってくる」と為長は言って、すぐに順番が来たので、春駒の根付をもらって戻ってきた。


大勢いる参拝客は、「…取れるんだぁー…」と大いに嘆いた。


もちろん、取れるのは為長だけではないのだが、取れた者は目立たず隠すようにして立ち去るので、為長しか手にしていないと思っている、


もっとも、氏子は敬虔な神の信者なので、毎日一体ずつ根付を手にしていた。


「改めて見るとすげえな…

 作ったのは俺だが…」


為長の言葉に、春駒はしとやかに笑って、穏やかに桜の花びらを散らした。


そして為長と、根付を手にできずに落ち込んでいるお志摩は、神の社に拍手を打って、寺を出た。


そして睡蓮とお豊は取った根付を見せ合って喜んでいる。


睡蓮はまん丸で、お豊は閻魔だった。


もちろん、ふたりとも春駒の根付はもうすでに手に入れている。


桔梗に至っては、為長たちが根付を作っている最中に、大いに悩んで選んでからすべてを手にしているので、寺でもらう必要はなかった。


根付を手にできなかった参拝客は神たちに懇願の目を向けるが、その視線は神たちに届いていなかった。


それは簡単なことで、為長、お志摩、桔梗、睡蓮、お豊以外に誰もいないようにしか見えなかったからだ。


しかし為長の周りにやけに人垣の間隔があるので、『神は坐す』と誰もが感じているからだ。


よって苦情を言うわけにもいかないので、誰もが眉を下げるばかりだった。


「今日は富豊じゃ!」と信長は叫んで、難なく根付を手にするので、誰もがうらやましく思ってた。


「今ひとつ、自分の心に問うてみよ」


信長の言葉に、誰もが大いに躊躇して頭を下げた。


「…欲張りのあんたが手にできることに納得できませんわ…」と濃姫は言って、猛の根付を手にとって、ごろごろとお布施箱に銭を入れた。


「…為長の勇ましい根付も欲しいわぁー…」と濃姫が言うと、「それはまた別口じゃろうて」と信長は機嫌よく言って、為長たちに挨拶して安土城に戻っていった。


―― 別口、か… ―― と為長は思い、桔梗を見ると満面の笑みを浮かべて為長を見ていた。


「…ちょっとした遠足に行きたいなぁー…」と桔梗がねだると、「食事をしてから行くかい?」という為長の言葉に、桔梗は手のひらを合わせて喜んで、全員を戦車に押し込んだ。



昼餉を終えて、為長と桔梗のふたりだけで安土城に登城して、ちょっとした旅の説明をすると、信長は間髪入れずに許可した。


そしてお付きとして幻影と蘭丸を指定した。


「…ああ、知らない地の物見遊山…」と蘭丸は大いに喜んでいたが、「…羽目を外すなよ…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「言っとくが、幻武丸は持ち込めないからな」


幻影の言葉に、お蘭は目を見開いたが、渋々幻武丸を異空間ポケットに収めた。


まず第一に、社の案内人の天照大神も仲間に加えて、目的地ではないサルサロス星の安土城に移動して、松崎拓生を連れ出した。


「…あ、これは…」と拓生は言って、天照大神と桔梗を交互に見入った。


「…面白いことになりそうだ…」と拓生は言ってから、為長に頭を下げた。



拓生の案内で、拓生の母星の地球にやってきた。


そしてここはどこからどう見ても島だった。


すると、ひとりの白装束の女性がやってきて、為長たちと挨拶を交わした。


「まったく気づかないほど、お前は低能力者」


拓生の厳しい言葉に、この島を管理している天照大神は大いにうなだれた。


「ぜんぜん大丈夫大丈夫!」と桔梗は明るく叫んで、桜の花びらを撒くと、「こういうことかっ!」と為長は叫んで、いきなり現れた三面観音を見上げた。


しかも手足が六本あるので、その威厳は次元解をはるかに超えていた。


桔梗であろうひとつの顔は満面の笑みで、ここで出会った天照大神は号泣、春之介の娘の天照大神は怒っているように見えた。


「じゃ、解くね!」と桔梗が機嫌よく叫ぶと、三位一体の術は解けて、三人に戻っていた。


「…生まれ変わった気分…」とこの地の高身長の天照大神が清々しい笑みを浮かべてつぶやいた。


「…自然に引き上げてもらえたな…」と拓生は穏やかに言った。


「…桔梗ちゃんに負けて悔しいぃー…」とちびっ子の天照大神が言うと、―― それで怒っていたのか… ―― と為長は思って、心の中で大いに笑っていた。


「呼んだら来てね!

 その時はお仕事だから!」


桔梗の明るい言葉に、「従いましょうぞ!」と高身長の天照大神は気合を入れて叫び、「…はぁーい…」とちびっ子の天照大神は渋々返事をした。


「…こんな態度でいいの?」と為長がちびっ子に指を差して聞くと、「ぜんぜんいいよ?」と桔梗に疑問形で返されたので、為長は大いに苦笑いを浮かべていた。


しかし、「…あ、喜怒哀楽…」と為長がつぶやくと、「うふふ」と桔梗は意味ありげに笑って、為長に抱きついた。


「…となると、楽はどうするんだ?

 …楽…」


為長の言葉に、「うふふ」と桔梗はまた意味ありげに笑った。


「人助けのお手伝いの時に協力してもらうよ?」


「ああ、わかった」と為長は言って笑みを浮かべた。


戦闘の場合は、楽はいらないと言ったに等しかった。


「…多くの人々の手助けができそうだ…」と為長は機嫌よくつぶやいた。


「…あー…」と桔梗は言って、超近代的な遊園地に目を釘付けにしていた。


「御屋形様が嫌っておられる」という為長の言葉に、「…お兄ちゃんが作ってぇー…」と桔梗に懇願されてしまった。


「…叱られるのを覚悟して、御屋形様に進言する…」と為長は腹をくくって言ってから、すべての遊具類を具に見て回った。


「…安全第一だから、ここのものよりも楽しくないかもしれんぞ…」


為長の言葉に、「きっとね、みんなは怖いだろうから、それでいいよ?」という桔梗の言葉に、為長は納得していた。


もちろん、桔梗とともに春駒に乗って空を飛んだ時のことを思い出していたのだ。


「セルラ星の遊園地、知ってる?」と拓生が聞くと、「はい、情報は仕入れていますので、あの遊園地のこじんまりしたものを建てるつもりです」と為長が答えると、拓生は笑みを浮かべてうなづいた。


「…ここは、才英様にも協力を願うか…」という為長の言葉に、桔梗は飛び上がって喜んでいた。



為長は天草御殿に戻って早々に遊園地建設の企画書と、詳しい設計書を書き上げて、安土城に登城した。


信長は満面の笑みを浮かべて為長と謁見したが、冊子の表題を見た瞬間に鬼の顔となり、『バンッ!』と音を立てて冊子を畳に投げ捨てた。


―ー やっぱ怒った… ―― と為長は思ったが、平静を装った顔で信長を見ている。


濃姫が信長の顔と冊子の表題を見て、冊子を拾い上げようとしたが、信長は不機嫌な顔のまま冊子を取り上げて、ページをめくっていく。


読み終わることには笑みを浮かべてうなづいていて、機嫌よく幻影に手渡すほどだった。


幻影は普段の顔ではなく、まさに無表情で冊子を受け取って、わずか一瞬で冊子を読み切って、笑みを浮かべ、「われらはサボっておりました」と信長に言ってから、為長に頭を下げた。


「いやいや、なかなかなかなか…」と信長は機嫌よく言って、わが息子に笑みを向けた。


「だが、いつまで経っても

 遊園地が建たん事態に陥る場合もあると思うのじゃが?」


「そこは我ら高等部の生徒も尽力して、

 目標を達成いたしますので」


「…高等部三年一組であれば、比較的簡単か…」と信長は機嫌よく言って何度もうなづいた。


「才英」と幻影は言って、冊子を手渡した。


才英もすばやく読み終えて、「…はぁー… すごいなぁー… 為長様…」と大いに感心した。


「才英、その冊子を複写して、八丁畷春之介総学長に送りつけろ」と信長が命令すると、「御意」と才英はすぐさま答えて、冊子を持って謁見の間を出た。


その足取りはスキップを踏むようだったので、誰もが少し笑っていた。


「才英もやはりまだ子供じゃった」と信長は機嫌よく言った。


「自分自身の学業に自信があれば、

 次は人に教えることが重要だと思っています。

 しかしそれを早期に行おうと思っても、最短でも半年はかかるでしょう。

 よってここは神の力を使って、

 最適なペアを構築しようと思っているのです。

 そうすれば比較的簡単に目標は達成できるでしょうし、

 神にも勉強を教えさせますので。

 わが校程度の生徒数であれば、

 五日後の中間試験には間に合うかもしれないのです」


「おう! それでよいよい!

 早速校長と話し合って、

 すべてを迅速に遂行せよ!」


信長の満面の笑みを浮かべて言葉に、「御意!」と為長は叫んで立ち上がって、急ぎ足で謁見の間を出た。


「…いやぁー… やられた…

 幻影の言った通り、われらはサボっておって、

 見たくないものにふたをしておった…」


「学生だからこその発案でしょう。

 ですが、かなり悔しいですね」


幻影はこう言ったが、満面の笑みを浮かべていた。


「勉強がきちんとできないと、遊園地を建ててやらない」


濃姫の言葉に、「それが大筋じゃな」と信長は言って愉快そうに笑った。


「建った後じゃが、ここからも仕掛けがあってな。

 まさに才英の出番なんじゃよ。

 基本的には、毎日は遊園地で遊べんようになっておる」


「あら? なるほど」と濃姫は手を打って笑みを浮かべた。


「そんなことを許せば、成績が下降の一途をたどる者も出るはずじゃ。

 どんなことでも満遍なくほどほどに、じゃろうて。

 よって、大人もそれに付き合ってもらう。

 大人も子供返りして遊び呆けるやつがでんとは限らんからな」


「…私に言ったわね…」と濃姫は信長をにらんで愉快そうに笑った。


「いいや」と信長は言って、涙を流している長春を見た。


濃姫はやれやれといった表情で首を横に振っていた。


「お前は働く方じゃ。

 動物たちの芸も披露することになっておるからな。

 もちろん毎日ではなく、学校の休日限定と書いておった」


「休日は働いて、平日は遊ぶよ?」という長春の明るい言葉に、大人たちは大いに眉を下げていた。


「しかも、この喜笑星に住んでいること自体を大前提としての遊園地とは」


幻影が感心して言うと、「…ああ、まさに有意義な遊園地でしかないわぁ!」と信長の機嫌は最高潮だった。


「それに、感心して納得したのは積極性についてじゃったな…

 まさに、遊園地のような場所が、

 積極性を促すような気になった」


「はい、全員とは言いませんが、

 頭角を現すものが多く出ると思います。

 しかも、学生の高学年を募って働かせるところもいいことだと思います。

 本雇いはわずかでよいようです」


「…キャッシーは、まさに蛙の子は蛙といったところか…」


「御意」と幻影は満面の笑みを浮かべて同意した。



為長は企画書を持って好調と面会して、校長も即動き、教師たちに周知した。


善は急げで、為長たちはこの時から、成績下位の学生たちの家庭訪問を実施して、家庭教師と化していった。


ある程度落ち着いたところで、為長は担当の生徒のところに言って、「…絵もほどほどだぁー…」とうなるように言った。


「…先生は… やっぱり別の人がいいかなぁー…」と桔梗は大いに戸惑っていった。


「…何を言うかぁー…

 俺は、四郎と春駒の指示を受けてここにいるんだぁー…」


為長の言葉に桔梗は逆らえなくなって、スケッチブックを片付けて、涙を浮かべながら勉強に励んだ。


この翌日の授業からは、全クラスで最後の十分間で小テストが行われるようになった。


できればその効果を毎日確認したいからだ。


特に優秀になれといっているわけではなく、普通よりも少し成績を上げろといっているだけなのだ。


よってその都度教師から指示が出て、為長たちが家庭教師として働く。


もちろん慈善事業ではないので給金は出る。


その給金目当てで家庭教師と化している学生も多いが、優秀なので誰も文句は言わない。


教師たちは自信を持って中間試験に挑み、そして全生徒合格のうれしい結果を見て大いに喜んだ。


「…ちょっとがんばればできるんじゃないか…」と為長が桔梗の成績表を見て言うと、「あはは!」と桔梗は苦笑いを浮かべながら笑っていた。


「だが、アヒルが耳になった程度だからな。

 お前だけは継続してまだまだ教え込んでやる」


「…はぁーい…」と桔梗は渋々答えて、スケッチブックを片付けた。



よって約束通りに、学校の隣で遊園地の建設が始まった。


請け負ったのは琵琶家で、まさに働き甲斐のある、生き生きとした顔になっている。


総学長の春之介も視察に来て、様々な資料を見て何度もうなづいている。


「…こりゃ、全校統一は難しいなぁー…

 一番の問題は、マンモス校のフリージアだ…

 今まで許していたことを禁止する必要があるし…」


「天使の甘さですな」と校長の大吉はさも当然のような顔をして言った。


春之介は何度もうなづいて、「…大勢いる優秀な高等部の学生に期待するか…」とため息混じりに言った。


「…はあ… すごいわぁー…」とアニマール校の校長の八丁畷夏樹が、夢見る少女のような顔をして建設現場を見入った。


「今日中に完成するはずだよ」と春之介は苦笑いを浮かべて建設現場を見入った。


「…ああ、すごいぃー… すごいぃー…」と特別相談役兼教師の桜良が号泣して言った。


そしてこの遊園地で販売するぬいぐるみ類を抱きしめている。


春之介は桜良を見入って、「…ネタが多くていいね…」とかなりうらやましがっている。


「…全生徒が一丸になって手に入れる遊園地は、

 値打ちがあるわぁー…」


協力者の一人になった八丁畷春菜が笑みを浮かべて言った。


この春菜も遊園地運営に一役買うことに決まっている。


同じようにフル回転なのが、キャッシーと小恋子だ。


特にキャッシーは感慨深く思って、遊園地の建設現場を笑みを浮かべてみている。


「春菜さん! 機器の調整、付き合って!」と才英が声を上げると、「すぐに行くわ!」と陽気に言って、「あてにされるのっていいわぁー…」とつぶやいてから、才英の元に走った。


「…はあ… すっかり喜笑星の一員だ…」と春之介は言って春菜の後姿を見てから、キャッシーと小恋子を見た。


「やっと、私たちの永住の地が見つかったわ」とキャッシーは明るく言って、小恋子は満面の笑みを浮かべていた。


「…遠足ありだったから助かったってところだね…」と春之介は言ってから、真剣な目をキャッシーに向けた。


「すべてを企画した織田為長君は?」


「もちろん、働いてるわ。

 私たちはお呼びがあれば手伝うことになってるの。

 この喜笑星で一番忙しいのは、今は為長様よ」


キャッシーの言葉に、「…十六天神将の頭目、か…」という春之介の言葉に、「非公式ではそうなるわ」と小恋子が笑みを浮かべて言った。


「だけど、本人にその意思はないわ。

 男悪魔なのに普通に人間でしかないし。

 人間当時から魅力のあるお方だったと話に聞いてるわ。

 そして大人を含め、三万の人たちを統率していた事実もあるから。

 それほどの大物は、どこの世界にもいない。

 少数精鋭もいいけど、一般人たちを統率することはさらに難しいと思うの」


「…琵琶家批判?」と春之介が聞くと、キャッシーと小恋子は勢いよく首を横に振ったが、「…だけど御屋形様も幻影様も大反省されたって、奥様にお聞きしたわ…」と小恋子が小声で言った。


「この一大事業は、誰だってそう思うだろう。

 学業と遊びの融合企画…

 そして文明文化を超越しない施設は、

 まさに目からうろこだし、

 先端技術を持った施設の必要がまったくないところがいい。

 工夫すれば、どの世代の星でも再現は可能だからな。

 まさに、応用力がとんでもない施設だ」


すると、低年齢層の子供たちもやってきて、あれやこれやと相談を始めた。


毎日遊べないことは聞いているので、これからの予定を楽しそうにして語り合っている。


「…喜笑星への転校要求がなければいいけど…」と夏樹が眉を下げて言うと、「…ありそうで嫌だが、織田様はそれを許されないから、それほど心配はしていない…」と春之介は言って苦笑いを浮かべた。


「あ、聞いてる?

 翼のある狼の話」


小恋子の言葉に、キャッシーは大いに落ち込み、春之介は目を見開いた。


「その昔、悪竜を倒したそうよ」


「…そんな勇ましい話は耳にしたことがない…」と春之介は大いに戸惑っていた。


今の春之介の赤い猫なら可能だろうが、小恋子の感情からかなり昔の話だと認識していた。


「昔返りの術を伝授した悪魔がいたそうなの」


小恋子の言葉に、春之介は大いに興味を持っていた。


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