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赤い幻影 akaigenei ~新天地編~      赤菓子 akakashi


   赤い幻影 akaigenei ~新天地編~



     赤菓子 akakashi



ナンシーは、寅三郎の家臣の女性たちと寝所をともにした。


誰もが大歓迎で、教師としても、人間としても、手放しで大いにナンシーを認めた。


そして女性ということで、酒井三姉妹もここにいるが、三人は動物の姿に戻って、寅三郎特製の寝所ですやすやと眠っていた。


同室人は前回と同様に、勇者ミスティンと能力者マデリーンのふたりだったので、まさに気の合う三人だった。


「私、ちょっとしたことを考えたのよねぇー…」とミスティンはナンシーを見て意味ありげに言った。


「あら、怖いわね、何かしら?」とナンシーが言葉とは違い自然に明るく聞くと、「酒井様ではなく、ナンシーの騎士になろうと思ったの」というミスティンの言葉に、ナンシーはすぐに否定しようと思った。


だが思い直し、「それでもいいんだけど、命令系統の遅延が起こらない?」とナンシーは仕事の件について心配した。


「私の直属の上司はマッドスタックよ。

 というよりも、今までは逆だったけど」


「あら? それほどのあなたが、魔王様には過剰に怯えていたわよ?」


喜笑星で行った、寅三郎との組み手の件だ。


ナンシーの核心をついた言葉に、ミスティンは大いに眉を下げた。


「幼児体験…」とミスティンは言ってすぐに頭を振って、「前世体験の恐怖からよ」と眉を下げていった。


ナンシーとマデリーンはミスティンの短い昔話を聞いた。


『ああ、おったな。

 今は腑抜けとなった』


マロの言葉に、「今は腑抜け?」とナンシーはついつい口にして、さらにマロが知っていた情報をふたりに伝えた。


「…魔王サンダイスはもういない…」とミスティンは笑みを浮かべて言って、涙を流した。


「…御屋形様によって、

 ランス・セイントの肉体を占領していた

 魔王サンダイスから取り戻した…

 …御屋形様の実力は計り知れないわ…

 …だけどそれは恐怖じゃない…

 …ある意味本当の意味の慈愛…」


ナンシーの言葉に、ミスティンは流していた涙をぬぐい、「もう大丈夫」と笑みを浮かべて言った。


「次は勝つっ!」とミスティンは大いに気合を入れて叫ぶと、『ニャンッ!』と首を起こしている真珠が鋭く鳴いた。


「…騒いでごめんなさい…」とミスティンはすぐに謝って頭を下げて眉も下げた。


「ごめんね…」とナンシーは言って、真珠の喉をやさしくさすると、すぐに機嫌を直してごろりと寝転がると、「…怖いお姫様だわぁー…」とミスティンは嘆いた。


「真田幻影様の家臣ですもの。

 この程度の威厳があって当然よ」


ナンシーは言って、真珠、栗鼠、そして急激に大きくなった、今は手のひらサイズの猫の体をやさしくなでた。


「お杏ちゃんが一番強くなるかも」とナンシーがつぶやくと、ミスティンとマデリーンは眉を下げていた。


「お杏ちゃんはお凛ちゃんの妹になる道を選んだの。

 お凜ちゃんはひとりだけ栗鼠なんだけど、

 この姿でもなかなか強いわ」


ナンシーが娘自慢のように言うと、「…クルミの硬い殻はまだしも、石をかみ砕いてた…」とマデリーンは言って背筋を震わせた。


「そう… もう何かが宿ったのね」とナンシーは言って、栗鼠の体をやさしくなでて笑みを浮かべた。


マロが確信したことをナンシーに語ったが、全く顔色を変えず、そして何も話さなかった。


女性たち三人は床に潜り込んでからも小声で語り合い、いつの間にか眠りについていた。



ナンシーが目覚めると、いつものように人型になっている三姉妹がナンシーに抱きついて眠っていたので、やさしく起こしてから、ミスティンとマデリーンを起こさないように、こっそりと部屋を出て身支度を終えると、社の前で寅三郎と出会った。


「朝練だけは行くことに決めた」という寅三郎の言葉に、「皆さんお寝坊さんだから」とナンシーは笑みを浮かべて言った。


そして喜笑星の社から寅三郎たちが姿を見せると、「ようよう、家族そろってご出勤か?」と蘭丸がゴロツキのように言って絡んできた。


「普通、その役は下っ端のすることです」と寅三郎が眉を下げて言うと、「…俺の楽しみを譲るわけがねえぇー…」と蘭丸がうなると、ナンシーは愉快そうに笑った。


そのナンシーが一転して真剣な目をして、「お師匠様、ご指導を」と言って頭を下げて懇願すると、「おっ! そうかっ! 一番の注目株のナンシーの指導かっ!!」と蘭丸はこれ見よがしに叫んでから、組み手場に誘った。


「…蘭丸お母さん、超ごっきげぇーん…」とお凛は眉を下げて言ってから、真珠とお杏を連れて、ナンシーに向かって走って行った。


「…ん? どういうことだ?」と寅三郎はつぶやいて、三姉妹の後ろ姿を見送っていると、「強者はお凛」と歩きながらやってきた幻影が言った。


寅三郎は朝の挨拶をしてから、「お凛には栗鼠の方に何かあると思っていました」と寅三郎が言うと、「人型の方は姫の威厳だよ」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


「マロに、自信がつくことを何か言われたのかもな。

 さらにはナンシー殿の急成長。

 特に無理をしているわけでもないから、

 睡眠時にでもマロに修行を受けてるんじゃないの?」


「…天使の夢見のようなものでしょうか?」と寅三郎は目を丸くして聞いた。


「ここからは俺の希望でしかないが…」と幻影は前置きをしてから、この先のお凛について考えを述べると、寅三郎は目を見開いた。


「その、ちょっとした証拠」と幻影が指をさすと、そこには勇健がいて肩に鼫の高願を乗せている。


「…む? 不自然すぎる…」と寅三郎はすぐさまうなった。


「高願は興味深々なんだ。

 できればお凛に寄り添いたいほどだが、

 自分自身の修行もある。

 だから勇健から離れることはほとんどない。

 だから見るだけならと今のような妙な行動になっているんだ」


勇健は修行のために動き捲るが、高願はずっとお凛を観察しているようにしか見えないので、師範代たちもこの奇行に注目し始めていた。


「お凛をここにある動物の遊園地で遊ばせたら、

 高願はすぐにでも寄り添うだろう。

 お凛も遊園地には興味はあるが、寅三郎かナンシーにべったりだから」


「お凛たちの修行として、午前中だけでも」と寅三郎は言って頭を下げた。


「ああ、時間を決めれば素直に従うさ」と幻影は気さくに言って、門下生たちに檄を飛ばし始めた。


「となれば、あとは土か…」と、いつの間にかここにいた信長がつぶやくと、寅三郎はすぐさま朝の挨拶をして、「…土が好きな土竜でもいればよかったんでしょうが…」という寅三郎の返答に、信長は大いに笑った。


「実はな、地底人の存在を知っておるんじゃ」


信長の言葉に、寅三郎は目を見開いた。


「その種はもう芽吹いているやもしれぬ。

 ここに連れてくれば、会話を始めるかもな。

 仲間が出入りしていることも簡単に気づくことじゃろう。

 できれば使える自然界の属性四種を、

 我が琵琶家に抱え込みたいものじゃ。

 …宇宙の妖精が使えれば問題のないことじゃったがな…

 巨大で大まかなものづくりはうまいが、

 修復が不得手には参った…」


「…乱暴すぎてごめんなさい…」と水素の妖精のスーサラーが信長から出てきて頭を下げた。


「お前はここぞという時に使えるから気にせずともよい」


スーサラーは安堵の笑みを浮かべて、「…あー… 嫌われてなくてよかったぁー…」と言って、ゆっくりと消えていった。



信長が朝餉時に、早速地底人について幻影に話しをすると、「そちらの件、皇源次郎殿に託しますか?」と幻影はすぐさま言ってきた。


皇源次郎はその地底人が住むドズ星の情報に明るいからだ。


「いや、里帰りついでに萩千代に行かせよう。

 問題はそのお付きだが…」


萩千代こと火竜ベティーは元々ドズ星の神なので、誰を引き抜いても何の問題も起こらない。


よって、幻影は笑みを浮かべて何度もうなづいて納得した。


「…ここは外注して、親睦を深めるか…」と信長が言うと、「エカテリーナ様と影達殿ですね?」と幻影は笑みを浮かべて言った。


信長は笑みを浮かべて何度もうなづき、今日の午後に早速行ってもらうことに決めた。


だが、萩千代が影達たちのお付きを拒否して、酒井三姉妹を指名したのだ。


「…高願は、お凛に縁がないかもしれない…」と幻影は大いに嘆いた。


「え? どーしてぇー?」と萩千代が聞いてきたので、幻影が事情を説明すると、高願も連れて行くことに決まった。


「…見た目は頼りない…」と信長は萩千代たちちびっ子軍団を見て眉を下げて言った。


「うふふ、みんな強いよ?」と萩千代は機嫌よく言った。


「…萩千代ちゃんは旅行に行くんだぁー…」とついには阿利渚がうらやましげに言い始めたので、萩千代は子供たちを全員抱え込むことにして、引率係は阿国が担当することになった。


よって、天使たちも同行するので、まさに遠足の様相となった。


「…むむ… 集合させると、とんでもない大隊…」と信長がうなると、「とても頼もしいですね」と幻影は笑みを浮かべて言った。


まだ子供であるだけで、琵琶家の未来を担う若い力なので、威厳がないわけがなかった。


子供たちの高揚感が上がったことで、門下生たちはこの気に当てられて朦朧とし始めた。


「ここではいいけど、ほかのところで、はしゃいじゃダメよ?」


萩千代の穏やかな言葉に、「はーい!」と子供たちと天使たちはすぐに陽気に返事をした。


「…ここでも、少し弱めた方がいいよ?」と源次が穏やかに言って、門下生たちを眉を下げて見て回った。


「しゅぎょー! しゅぎょー!」とお杏が陽気に叫ぶと、重鎮だけしか起きていなかったことに、信長たちは大いに眉を下げていた。


「…かわいい子には旅をさせるって、お母さんに言われちゃって…」とお凛が眉を下げて萩千代に報告した。


「ううん! いいのいいの!」と萩千代は陽気に答えて、早速頼りになる大隊を引き連れて部屋を出て行った。


「…琵琶家、恐るべし…」と寅三郎が眉を下げてつぶやくと、ナンシーはくすくすと愉快そうに笑った。



萩千代と阿国は、各星の管理者や重鎮たちに挨拶をしながらもドズ星にたどり着いた。


その途端、猛獣除けの高い壁の天辺にひとりの人間らしき者の姿が浮かんだ。


「あ、もう来ちゃった」と萩千代は言って、壁の頂上に向かって手を振ると、その人影は壁から飛び降りてふわりと地面に足をつけた。


「…術じゃないのにどうやって…」とお凛は目を見開いて、変わった装束の少女を見て言った。


硬そうな鎧を頭の先から足の先まで着込んでいるように見えるのだが、実はそうではない。


「ああ、携帯の落下傘」と少女が言って振り返ると、確かに折りたたんだ傘のようなものを腰にぶら下げていた。


「塀の外は猛獣だらけなんだけど、

 高いところから飛び降りれば確実に逃げられるから」


少女は笑みを浮かべて言ってから自己紹介をすると、子供たち全員が自己紹介を始めたので、ムングと名乗った少女は大いに眉を下げていた。


ムングが子供たちの中で興味が湧いたのは、お凛だけだった。


しかしまずは、「神様は萩千代っていうお名前になったんだ」とムングが言うと、「…色々と事情があってね…」と萩千代は大いに眉を下げて答えた。


「だけど、ムングちゃんは前とは随分と変わったね?

 なにがあったの?」


萩千代が聞くと、「…言っちゃダメって言われたぁー…」とムングは大いに嘆いた。


「…これも言っちゃダメって…」とムングが言うと、子供たちは大いに苦笑いを浮かべていた。


「じゃ、私たちの仲間になって、別の星に移住しない?」


萩千代の言葉に、「うん! いくいく!」とムングは叫んで、すぐさまお凛に寄り添った。


あまりにもあっけなく遠足が終わったので、一行はセルラ星に渡ってメリスンの店で、軽食を大いに楽しんだ。


子供たちはあまり知らない場所に行ったことだけに満足して、喜笑星に戻った時はまだ昼餉前だった。



「ほう、変わった子じゃ」とくつろぎの間で信長は言って、ムングに笑みを向けた。


ムングは少し怯えて、自分よりもかなり身長が低いお凛の影に隠れるようにして頭を下げた。


「全然怖くないよ?」とお凛は言って、お杏とともに信長に抱きついた。


「…やっぱ、あんたの言った通りだったぁー…」とムングは心の中に住む神に言った。


『得意不得意があるからな。

 我の場合、ドズ星が好条件だと案内を受けて、

 あんたにすぐに出会った』


『…ここにいるの?』


『いや、おらんぞ。

 親切な土の妖精じゃった。

 ま、頭が上がらんかったがな』


土の神は、全く威厳がないことを堂々と言った。


『お凛ちゃんにもいるのに、

 話をしていないみたい…』


『時期を待っておるのじゃ。

 間もなくだろう』


土の神の言葉に、ムングは笑みを浮かべた。


「…そうか、ムングか…」と信長はお凛から少女の名を知った。


「ムングは、お凛とともにいるのか?」と信長が聞くと、「…はいぃー… 神様、いいですよね?」とムングが萩千代に聞くと、「好きに過ごせばよい!」と萩千代が信長の真似をして叫ぶと、子供たちは大いに陽気に笑って、「似てる似てる!」などともてはやして拍手をした。


「…そうか、萩千代が神か…

 ま、ここは仕方ないか…」


信長は言ってうなだれたが、「毎日来るよ?」というお凛の言葉にすぐに復活した。


「お母さんにもいるよ!

 知り合いの叔母ちゃんにも!」


お凛の陽気な言葉に、「…そんなにいるんだぁー…」とムングが嘆くと、土の神も同じような感情でうなっていた。


早速酒井三姉妹は四姉妹となって、昼餉は戻って摂るとお凛は伝えて、信長と子供たちに別れを告げて社に入った。



そしてナンシーとムングは見つめあったまま固まった。


「…帰りが早いはずだ…」と寅三郎は言って苦笑いを浮かべた。


そしてナンシーもムングも金縛りのようなものは解けて、「お洋服じゃなくて皮膚だったのね」とナンシーは言って、ムングの体に触れ捲った。


「あ、ちょっとした変身のようなものです。

 地底人解除モードの場合は、服を着なくても恥ずかしくないので」


ムングは言葉とは裏腹に恥ずかしそうに言った。


「…変身種族だったのか…」と寅三郎は言って、ムングをまじまじと見た。


体中に濃い灰色のうろこのようなものが張り付いているように見え、皮膚と言われるものはすべて覆われていて、人間と確認できるのは目だけだった。


しかもその目、鼻、口の部分だけがかなり精巧にできているようで、ロボットのように見えなくもない。


「…神も、高水準な種族に喜んだことでしょうね…」とナンシーは眉を下げていった。


ここは早速、家族総出でムングの服を買う相談を始めたが、まずは昼餉を摂ることにした。


六人は陽気に語り合って、五人家族が六人家族になっていた。


服を買いに出て、ムングは大いに迷ったが、お凛とお杏の好みの服に決めて、地底人解除モードを解くと、まさに可憐な少女が現れたことに、「…すてきぃー…」と真っ先にお凛があこがれるように言った。


「…あはは、ありがと…」とムングは恥ずかしそうに礼を言った。


「…なんだか、知っている人と同じのような…」とナンシーがつぶやくと、「マリリン・スプラッシュ様」と寅三郎はすぐに言った。


「…そうそう!

 あ、でも、人魚じゃないけど、

 普通の人間じゃないから…」


「全く別の同じような存在。

 海と地底を代表する特殊生物と言った方がいいか」


寅三郎の言葉に、ナンシーは大いに納得した。


「陸にいる特殊生物は勇者だろう…

 人間でもなれる、最高の術者だからな」


「…ええ、そうですわ…」とナンシーは答えて、長かった今日までの人生を一瞬にして振り返った。



酒井一家はマッドスタックたちと合流して、街道づくりに勤しんだ。


長い間、どこもかしこも戦場でしかなく、さらには草木に覆われているので、基本的には比較的平坦な道を整地していく。


それぞれの地の村長とはもうすでに挨拶だけは済ませているので、問題は何もないはずだった。


しかし、一番近い村に来た途端に門前払いを食らった。


もちろん寅三郎はこの程度の仕打ちがあることはわかっていたので、何も言わずに立ち去ったが、「…村の乗っ取り…」とつぶやいた。


すると真珠がすぐさま猫に戻って草むらの中を走って行った。


一行は村からかなり離れて、「しばし待つ」と寅三郎が言うと、家臣たちに緊張が走っていた。


「ナンシーはそこの小川で待機しておいて欲しい。

 出番があるかもしれない」


寅三郎の言葉に、ナンシーは頭を下げて、すぐさま速やかに移動した。


そして予習は忘れない。


今、どれほどの力を出せるのか確認をした。


流れの早くない川だったので、大きな石などを積んで、ちょっとしたダムを作り上げ、満足げに笑みを浮かべてからしゃがんだ。


すると、村の方でちょっとした騒ぎが起こり、真珠が急いで戻ってきている。


―― 囮だろうけど無謀だわ… ―― とナンシーは思って、早速水鉄砲を放つと、飛んできた多くの矢がその場で止まったように見えた。


そして寅三郎たちの出番はなく、捕まっていた者たちが村を牛耳ていた者たちを動けなくした。


『ナンシー、ありがとう、来てくれ』


寅三郎の念話を聞いて、ナンシーはすぐさま村に向けて走った。


「…平和じゃないけど、気持ちはわかるわ…

 殺さないと殺される…」


ナンシーの言葉には誰も答えられなかった。


この村は元々勢力が二分していたこともあった。


ゾンビ騒ぎを終えた後、寅三郎がまず会った村長は穏健派だった。


そして敵対してた側が、村長の親族を人質に取って、実権を握っていたのだ。


真珠はこの村に入ってすぐにその事実を知って、簡単に人質を逃がして、「人質はもういない!」と村の中央で騒いだのだ。


そしてそのまま村を出て、矢で射られそうになったのだが、その矢は変身した猫には間単には届かなかったし、すべて水鉄砲により阻止された。


そうこうしているうちに、元の村長が、実権を取り戻したのだ。


だが、この村はそれほど栄えないと、ナンシーは思って眉を下げた。


寅三郎たちは村長の礼を聞いてから、街道に戻った。


「…村までは繋げなくていいか…

 気になったら聞きに来るだろうし…」


寅三郎の言葉に、誰もが同意して、黙々と作業を再開した。



陽が傾きかけてきたので、今日の作業は終了することにした。


村に向かって戻っていると、助けた村の数名の村民が、整備された街道を歩いていた。


そして寅三郎たちを見つけて、懇願の目をした。


事情を聞くと、ナンシーの言った通りで、穏健派の村長が暴君となってしまったそうだ。


バンド村の村長の許可が下りればという条件付で、十数名の者たちを村に誘ってから、寅三郎たちは街道に門と塀を築き始めた。


ちょっとした関所のようなものだ。


まずその任にマッドスタックとマデリーンが付き、寅三郎たちは非難民を引き連れて村長の屋敷に戻った。


村内には数軒の空き家があるので、避難民たちはそこで過ごしてもらうことにしたが、面談をした村長の様子がいぶかしげな顔をしている。


「偵察だろう」という寅三郎の言葉に、「やはりそうかっ!」と村長は頭から角が出そうになるほどに、怒りが爆発寸前となっていた。


「何かやらかしたらひっとらえて元いた村に返し、

 交流はしない。

 あっちの村は大いに戸惑うだろう。

 だがこっち側も、その程度のことはあると思っていたからな。

 すべてのことを考慮して準備をしておいてよかった」


寅三郎の言葉に、村長は怒りを鎮めて、寅三郎に頭を下げた。


「うちの子供たちに見張らせているから、

 何かあればすぐにでも」


寅三郎が言ったとたんに、お凛が血相を変えて走ってやってきた。


それと入れ替わるようにして、ミスティンが空を飛んですっ飛んで行った。


お凛は、「お姉ちゃんが喧嘩を始めちゃった!」と報告すると、「ああ、もう収まった」と寅三郎は言って、ナンシーにはここに待機を言い渡して、残った家臣を連れてすっ飛んで行った。


「どうして喧嘩になったの?」とナンシーがお凛に聞くと、「お姉ちゃんが出歩いちゃダメって言ったら、すっごい怖い顔をして怒り始めたの!」とお凛は少し興奮気味に言った。


「みんな、悪い人だよ?」とお凛の懐から顔を出してお杏が言った。


「悪いことをするという証拠が欲しかったの。

 そうすれば、そう簡単にここには攻めてこられないから。

 さっき行った村とは、交流はしないでしょう。

 せっかく平和になったのに、また不幸を呼びたいのかしら…」


ナンシーの言葉に、「…ワシらは贅沢だ…」と村長は言って、ナンシーとお凛たちにまで頭を下げた。


「私どもはこちらに住まわせていただいていますから、

 私たちもこの村の村民です。

 ですから、村を守ることは当たり前のことなのです」


ナンシーが胸を張って言うと、「ありがとうございます、奥様」と村長が言って頭を下げると、ナンシーは大いにホホを赤らめていた。


「お母さんね、さっきね、お水をビューって飛ばしてね、

 飛んでくる矢を撃ち落としたのよ!」


お凛がついさっきのナンシーの武勇伝を自慢げに語ると、「それは勇ましい!」と村長は言って、ナンシーを大いに褒めた。


「真珠お姉ちゃんはね、ここでもね、ケンカを売ったのよ!」とお凛がさらに言うと、大人二人は大いに眉を下げていた。



騒ぎは一段落したが、村の警備隊が昼夜を問わずに村の監視に立つことに決まった。


相手側の村長は大いに慌てていて、「恩を仇で返すとはな」という寅三郎の言葉に、言い返す言葉もなかった。


そして、交流断絶の説明事項をすべて述べて、寅三郎たちは村に戻った。


夕餉までは時間があったので、ナンシーと子供たちは部屋に行って寛いでいると、いきなりお凛が座布団を持って来て、ナンシーの目の前に置いた。


そしてお凛は栗鼠に変身して、ナンシーに甘えてから、手のひらの中に納まってすべての足に力を入れた。


「あら、修行なのね」とナンシーは言って、栗鼠を座布団の真ん中にふわりと投げた。


栗鼠は鼫になった気分で、座布団に収まってからすぐにナンシーの手のひらに戻った。


真珠とお杏は目を見開いて、ふたりの修行のようなものを見入っていたが、お杏は猫になって仲間になった。


「…楽しいのかしら…」と真珠が眉を下げて言うと、「修行って言ったわよ」というナンシーの言葉に、「…言ってたわね…」と真珠は眉を下げて言った。


「お凛ちゃんが鼫になる修行」というナンシーの言葉に、真珠は目を見開いた。


「運よく、翼でも生えてくれたらいいんだけど」というナンシーの言葉に、真珠も猫に戻って仲間になった。


「…何を始めたんだ?」と廊下から寅三郎が聞くと、「修行ですわ」というナンシーは笑みを浮かべて答えた。


「…ほう…」と寅三郎は言って、三匹の動物たちを見入っている。


そして寅三郎も投げる方で協力を始めた。


ムングは仲間になれないことを少し悲しんだが、投げる方では協力して、この儀式は夕餉前まで続いた。


夕餉の席で、「…変わったことをされておった…」とマッドスタックが大いに気になって言った。


「信じれば叶う、かもな。

 だが、風を受けることはできる。

 そういった修行をやれとでも、誰かに言われたんだろう。

 家族としては協力せんとな。

 あ、そうだ」


寅三郎は言って、夕餉が終わったら散歩に行くと、家族たちに告げた。



夜の修行は空を飛ぶことだった。


寅三郎は大きな籠に家族たちを詰め込んで、籠を持ち上げて、まずは遊覧飛行をした。


お凛はすでに栗鼠に戻っていて、籠の一番先頭に立っていて、風を受けている。


そして時々、前足二本を広げる動作をする。


まさに鼫のように滑空している気分を味わっているのだろう。


「…これは、私たちにも必要なのかもしれないわ…」とナンシーがムングに言うと、「…そのようです…」とムングは笑みを浮かべて答えた。


「あ、だったら」とちょっとした発明家のムングが説明すると、「ああ、それもいいな」と寅三郎は賛成した。


「あははっ! 想像しただけでもかわいいわぁー!」とナンシーは陽気に笑った。



村長の屋敷に戻って、お凛たちはムングの作業をまじまじと見ている。


それはそれほど難しいことではなく、四角い布の角に、柔らかいリングがついているだけのものだった。


ムングが、「栗鼠ちゃんになって」とお凛に言うと、すぐに栗鼠に戻って、前足後ろ足にリングを取り付けた。


まるで正義のヒーローものの主人公のマントを背負っているような姿だった。


「ほら、お父さんの肩に昇って飛んでみて。

 手足をいっぱいに広げるのよ」


ムングが手ぶりで説明すると、栗鼠は寅三郎にすっ飛んで行って肩に乗ったが、少々恐れをなしたようで躊躇を始めた。


「ムングを信じろ」


寅三郎の言葉に、栗鼠は後ろ足に力を入れて飛び上がり、全ての足を大きく広げた。


飛んだ瞬間は落下するだけだったのだが、畳に降りる瞬間に、まるで宙に浮いたような感覚になり、畳に足をつけた時は自分の体重しか感じられなかった。


栗鼠は要領がわかったようで、今度は寅三郎の頭の上から飛び降りて、方向を微妙に変えて滑空することができたので、何度も繰り返し、ついには天井近くまである高さのある箪笥から飛び降りて、滑空の楽しさと風を受けることが好きになっていた。


お杏も強請ってきたが、「お姉ちゃんのようにはならないと思うわ。それは覚悟しておいて」とムングに言われてお杏は、「修行だもん!」と気合を入れて言った。


栗鼠は滑空するのだが、猫はふわりと畳に降りるだけで、同じものを担いでいても結果が全然違った。


それは骨格の違いで、猫は足をそれほど横には広げられなかったからだ。


ナンシーはこの二匹を見て、あまりの愛らしさに腹を抱えて笑っているだけだった。


「…それでこの寝相…」とマデリーンが寝所で眠りについた二匹を見て言うと、「ええ、すっごくかわいらしかったわ」とナンシーはまた大声で笑いそうになりそうだったが、ここは我慢した。


栗鼠と小さな猫は夢の中でも特訓しているのか、上向きで足を広げて眠っているのだ。


真珠は丸くなっていて、愛らしい二匹を見ているだけだった。



翌日の自由時間に、ムングはお杏の背負い幕の改良をして、まずは口頭で説明すると、お杏は真剣な目をして聞いていて、人型の姿のまま飛んでいるイメージをして、少しだけ体を横に揺らしている。


そして猫となり、新しくなった幕を背負って、箪笥の上から飛び降りて、降下しながらも滑空していることを体感して、何度も繰り返す。


「…ムングちゃん、私もぉ―…」とついに真珠が言い始めたが、「重いと思うから、覚悟しておいてよ」とムングが言うと、「…なんとなく、その意味が分かったぁー…」と真珠は眉を下げていった。


ムングは、真珠の再現力を期待して、お杏とは違う滑空幕を作り上げた。


「扱いは繊細よ」とムングは言って、かなりの長い時間説明をした。


「パラグライダーというやつだな。

 それを手足で扱うのは人間でも度胸がいる」


寅三郎はうなった。


「真珠ちゃんの体重だと、

 かなり高い場所から飛び降りないと墜落するだけだと思うから」


ムングは眉を下げて言った。


真珠はその身体能力を生かし、一発で滑空に成功して、栗鼠と小さな猫とともに訓練を繰り返した。


ついには外の木の枝から飛び降りて、三匹は大いに風を受け、この訓練を好きになって行った。


三匹は決められている仕事の時間以外はほとんどを動物の姿で過ごした。



そんなある日、「お前ら! 何をする?!」と蘭丸は安土城のくつろぎの間の窓に向かって叫ぶと、栗鼠と猫二匹は窓から飛び降りて、空の旅を楽しむように滑空して行った。


「慣れたものだなぁー…」と幻影が穏やかに言うと、「…久しぶりに驚かされた…」と蘭丸は大いに嘆いた。


三匹は、この数日間の修行の積み重ねを、信長と幻影に見せたかったのだ。


「まさかここまでやるとは…

 しかも、わずか五日間で…」


信長が外を見下ろして嘆くと、「お凛ちゃんの修行に付き合っただけですわ」とナンシーは穏やかに言った。


「すべてはムングの手柄でございます」と寅三郎が言うと、「いいや、酒井家の手柄じゃ」と信長が堂々と言うと、寅三郎、ナンシー、ムングはすぐさま頭を下げた。


「特に真珠は、本来の仕事でも活用できるはず。

 今のように、高い場所から飛び降りられれば、

 簡単に逃げ戻って来られるでしょう。

 強い風雨の土地に、せがまれて行ったほどですので。

 お凛とお杏はさすがに辞退しておりました」


「…意地っ張りな人間のようだな…」と信長は眉を下げて言った。


幻影は腕を組んで瞳を閉じて何度もうなづいている。


喜ばしいことでもあるが、動物らしさが消えかけているのではないかと考えているのだ。


悪天候の場合、万が一を考えて動物が外に出ることはないのだ。


しかし、負けん気が強い性格は動物の中にもいることは事実だ。


その真珠が戻ってきたので、幻影が手招きして呼んで抱き上げた。


「あ、問題なし」と幻影は言って、真珠を床に戻した。


「動物には違いなくてなによりじゃ」と信長は笑みを浮かべて言った。


「地面を走るのにも問題ないな。

 どうやって翼を広げるの?」


幻影がムングに聞くと、「首を縦に大きく振って、翼の出し入れが可能です」とムングが答えると、真珠がそれを何度もやってみせた。


「ムングを少々貸してくれないか?

 才英と話をさせたい」


幻影の言葉に、「それは光栄なこと」と寅三郎は笑みを浮かべて答え、ムングの背中を軽く押した。


「…ああ… 恋の予感…」とムングが言い始めたので、誰もが陽気に笑った。


会ってみると才英は子供でしかなかったので、ムングは大いにうなだれたが、いざ話を始めると、子供にしか見えない大人だったことにムングは驚いた。


そして早速才英は自分の知識とムングの知恵を合わせた翼飛行装置の設計をして、早速作り上げることにした。


「…帰ってくるのだろうか…」と寅三郎が眉を下げると、「お姉ちゃんだから!」とお凛が明るく叫んだので、一気に解決した。


「…お姉ちゃんには頭が上がらないわ…」と真珠は笑みを浮かべてつぶやいた。



唯一サラマンダーに変身できるミサは、この光景を眉を下げて見ているしかなかった。


完成品だからこそ、修行はそれほど必要ないと自分自身に言い聞かせたが、やはり積み重ねは重要だと、元勇者は考え悲しくなった。


しかし、萬幻武流の修行は厳しく、勇者になった時の比ではない程だった。


そして必ず、何かが背中を押すのだ。


それが何なのか、勇者だったミサでもわからなかった。


そして酒井家の中心にいるナンシーをうらやましく思った。


さらに功績を上げたことも聞いていた。


飛んでくる矢を簡単に次々と撃ち落とすなど、それほど楽にできることではないのだ。


『人は人じゃ』と火の神が言ったが、その程度のことはミサでもわかっていることだ。


『極めた方がいいことを教えて』とミサが言うと、火の神は長い話を始めた。



ナンシーはムングから新しくなった翼装置をもらって、早速背負ってふわりと宙に浮かんで大いに喜んだ。


短時間であれば問題はなさそうだが、上昇を続けると、さすがに疲労がたまるので滑空に切り替える。


その疲労は短時間では抜けないので、長時間の修練には不向きだ。


―― 持久力 ―― という結果がナンシーの頭に浮かんだので、心肺能力と粘りのある腕力を鍛え上げることに決めた。


『空の場合、大地の力の神通力が途切れるでおじゃる。

 よって、多くを吸収してから飛び上がる必要があるでおじゃる』


『そういえばそうね…

 空を飛びながら水芸は出せないわね…

 空気中の水分は十分に感じるのに残念だわ…』


『雲に近づくだけで、湖が空にあるように感じるでおじゃるからなぁー…

 なんともったいない…』


『雨が降らない場所に雨を降らせる。

 どの星でも乾燥地帯はあって、

 砂漠化現象が止まらないそうだから。

 地形を変える必要があるのはわかるけど、

 今すぐの決定的な処置ができない…』


ふたりはしばし黙り込んだ。


『神通力をため込む力を上げたいけど、

 どうすればいいの?』


『大地に寝転んで知る』


マロの無碍な言葉に、『地味だけど、必要だわ』とナンシーは言って、新築した酒井家の広大な庭の芝生の上に寝転んだが、『ここはダメ、敷き詰めた基礎の岩が邪魔してる』というナンシーの言葉に、『よい修行を多く積んだでおじゃるな』とマロは機嫌よく言った。


『じゃが、しばしは寝転んでおいた方がよい。

 そして行く場所行く場所で、

 詳細にその地を知る。

 時間はかかるが、必ずや目標の達成はできるでおじゃる』


ナンシーはマロの言葉を信じ、急がず修行を積むことに決めた。



『最大に感じられるのはここ』


ナンシーはマロに誘われて、翼装置を使って屋敷からかなり離れた場所まで飛んできた。


今も羽ばたいたまま宙に浮かんでいて景色を堪能している。


『ここでも、神通力を感じる』とナンシーは言って、神通力の寝所にいるような錯覚を覚えた。


ここはわずか一キロ先に、火山がある場所だ。


火山は穏やかに噴煙を上げている。


『あら、地下にたくさんの水源…』


『…敏感でおじゃるな…』とマロは困惑気に答えた。


ナンシーは修行がてらに、条件がいい場所に温泉を掘り当て、この喜びも糧にした。


『人はおらんが動物はおるから、

 入浴するのなら用心した方がよい』


『あら、怖いわね』とナンシーはなんでもないことのように言った。


そして堂々と服を脱いで、湯加減を確かめてから、素晴らしい湯を体感した。


何者にも邪魔をされることなく入浴を終えて、最大級の神通力を堪能してから、ナンシーは屋敷に戻った。



この日は穏やかな時を過ごしたのだが、翌朝の訓練の際に、獣人の巖剛が猛然たる勢いでナンシーに迫ってきた。


そして、「どこの温泉だ?!」といきなり叫んだのだ。


―― 温泉には敏感だわぁー… ―― とナンシーは驚いたり嘆くよりも、大いに呆れていた。


「温泉旅行に行く!」という信長の鶴の一声で、今日の琵琶家の行動は決まった。


よってほぼ休養日に決まって、大人数で社に入った。


幻影は大きい飛行船を三機出して、家人たちは乗り込んで、火山を目指して飛んだ。


すると温泉場には動物が肩を寄せ合っていたが、異様な気配を察知してすべてが逃げて行った。


「…私たちの温泉ー…」と真珠がうなっていたからだ。


「…もう、近づいてこないかもぉー…」とお凛は眉を下げて言った。


ここからは幻影たちが手を入れて、簡素だが温泉宿が出来上がっていた。


「人がいないところがいい」と幻影は機嫌よく言って、温泉を楽しんだ。


ここに来ることを言い出した巖剛は、熊の姿に戻って、多くの動物たちに囲まれてご満悦の表情をして入浴を楽しんでいる。


「必要があったわけじゃな?」と信長がかなり言葉を省略して寅三郎に聞くと、「神通力の扱いについての修行中のようです」という明るい言葉に、信長は何度もうなづいた。


「術の燃料じゃからな。

 確かに必要じゃし、この温泉はその一部にしかすぎんか…」


「空から確認して、豊富な地下水があると確信して、

 一番浅い場所を掘ったそうです。

 ほとんどが川の水として、幾重にも流れ出ていたようで、

 それが一気にここに沸いたも同然とのこと」


寅三郎の説明に、「…水の神にしかできない芸当だよ…」と幻影は明るく言って、手に湯を救って顔を浸した。


すると巖剛が幻影に寄り添って懇願したので、幻影は春之介に連絡を取った。


事情は説明したので、幻影からは春之介だけが飛び出してきて、優夏は蘭丸から飛び出してきた。


「ありゃ、これは…」と春之介は言って、赤い猫に変身して湯に浸って、温泉を満喫し始めた。


「…巖剛が強請ったはずです…」と幻影が眉を下げていうと、「こういう日もなくてはならぬ」と信長は穏やかに言った。



ここまでは、まさに穏やかだったのだが、ここから風紀を乱す者が現れることとなった。


「萩千代様、この場の神通力の成分ですが、

 再現できそうですね?」


寅三郎の言葉に、「できるできる!」と萩千代は陽気に叫んだ。


「…ここに来ずとも、萩千代の沸かし湯で再現できるとな…」と信長は目を見開いて言った。


「…一応、竜だもの…」と萩千代は恥ずかしそうに言った。


「ファイガでもできそうか?」と寅三郎が聞くと、「…チャンス、来たぁー…」とファイガがうなると、琵琶家一同は大いに眉を下げていた。


「修行じゃ修行!」と信長は機嫌よく言って高笑いをした。


「竜が一柱いれば、何かと役に立ちますので」と寅三郎は言って信長に頭を下げた。


「私だってできるわよ!」とミサが叫ぶと、「…あーあ…」とお凛が真っ先に眉を下げて嘆くと、「ミサ殿は破門だ」と幻影の厳しい言葉が飛んだ。


「…お前… 俺の顔によくも泥を塗ってくれたなぁー…」と蘭丸がミサをにらみつけてうなると、ミサは大いに動揺した。


そして、自分が何をしたのか、考えたのか、大いに後悔した。


「こういう日が来ることはわかっていた。

 しかも、認めていない者を雇うとこうなるという

 結果を知ったことだけがいいことだった」


幻影の冷淡な言葉に、ミサは大いにうなだれた。


「…わがままを言って、申し訳ありませんでした…」と寅三郎が言って幻影に頭を下げると、「いや、全く構わない」と幻影はお堅く言った。


言葉も感情も全く自然で、確執は何もない。


そしてミサはついに、最後の砦だった、「火の神など信じない!」と叫んだのだ。


「…あーあ…」とお凛がまた嘆いて、空を見上げて手を振った。


「…あ、勇者に戻ったな…

 死なんで済んで、後味が悪くなることもなかった」


信長の言葉に、ミサはうなだれたままだった。


勇者が戻ってきていたことは幸いだったが、少し前の状態に戻っただけだった。


―― 縁がなかった… 私のこの血が… ―― とミサは考えたが、進化はナンシーも同じで恐竜人だ。


よってこれはミサ自身のものと、その生い立ちにだけあると思い、「…お世話になりました…」とミサは何とか言って、天照大神に連れられて飛んで行った。


「はっきり言って、今のミサ殿の気持ちがわかる家人はおらぬだろう。

 ワシたちは心底認めた者しか家人にはせぬ。

 これも、我が琵琶家の試練だったと思っておけ」


信長の厳しい言葉に、全員が一斉に頭を下げた。


「…さて、火の神がどこに行ったのか楽しみじゃわい…」という信長の言葉に、―― 火が大好き! ―― と誰もが考え始めたので、幻影は大いに陽気に笑った。


その中でも、常に火と付き合っていた者に、こっそりと宿っていたことは、お凛しか知らないことだった。


しかし、水の神と土の神が知ったことで、ナンシーとムングも知ることになった。


「…ありゃ、そうなったの?」と幻影がすぐさま察して三人を見回して言うと、「…どうなったんだぁー…」と蘭丸が真っ先にうなった。


「俺の信頼できる弟子だから問題ない」


「大勢いるだろうがぁ―――っ!」と蘭丸は門下生に指を突きつけて大いに怒っていた。


「焦るでない」という信長の戒めの言葉に、「申し訳ござらん!」と蘭丸は言ってすぐさま矛を収めた。


「よほどのことがない限り手放さんが、

 ま、お凛が変えそうじゃな…」


信長が眉を下げて言うと、お凛は笑みを浮かべているだけだった。



「で? どうなったの?」


夕餉が終わった酒井家の食卓で、寅三郎が大いに興味を持ってお凛に聞いた。


「しゅぎょー! しゅぎょー!」とお杏に陽気に言われてしまったので、寅三郎は大いに眉を下げた。


「…でもね、知っておいてもらった方がいいのかなぁー…」とお凛がつぶやくと、「知らなくても問題はないわ」というナンシーの言葉に、「うん、だったら言わないぃー」とお凛は言って、ナンシーに抱きついた。


「…すぐにでも発覚する、か…」という寅三郎の言葉に、「もちろんですわ」とナンシーは陽気に答えた。


「それに、簡単に想像もできるはずです。

 つねに火と接していて繊細な方」


「わかった」と寅三郎は自信を持って言った。


「…そうね、きっとそうだわ…」


ひとりだけ蚊帳の外になりそうだったが、真珠は自信を持ってつぶやいた。


「だが、ファイガに来てもらって助かった」と寅三郎が言うと、「いえ、ようやくお役に立てそうで、本当にうれしいのです!」とファイガは明るく言った。


「早速だが、こういう構想がある」と寅三郎は言って、その図面を広げると、子供たちは大いに喜んだ。


「今まで通り、目立った場所には建てん。

 この村の裏の山裾の一部に建てる。

 あとは、動物用に山の中腹の平坦な場所にもうひとつ。

 人間はそれほど立ち入らん場所だから問題はないだろう」


すると動物を持つ者たちは大いに喜んだ。


寅三郎は立ち上がり、「村長に話してくる」と言って部屋を出た。



沸かし湯銭湯の建設は翌日に始まり、夕餉時には営業が始まり、多くの村人たちが利用し始めた。


そして誰もが働き者になったが、例外もいた。


ポリックとヒトミが眉を下げて酒井御殿にやって来て、ナンシーが顔を出すと、「…先生、戻っておられたのですね?」とポリックが眉を下げて言ったが、内心は喜んでいた。


「…命令でね…」とナンシーが眉を下げて言ったので、ここに住み着くわけではないと、ポリックとヒトミは思って残念に感じた。


「…あ、今日お伺いさせていただいたのは、

 例の老人のガンマさんについてです」


礼の老人とは、村長選挙に敗れた餌やり爺さんのことだ。


「ボケちゃった?」とナンシーが聞くと、ポリックとヒトミは目を見開いた。


「…は、はい… 親族の方々が何か祟りでも、

 などと噂を始めていたので心配になって…」


「ところで、野生動物を最近見かけた?」


「…そういえば… 小鳥のさえずりは今まで以上に聞こえるのに…」とヒトミがつぶやくと、「姿を見ていません」とポリックは胸を張って答えた。


「危険を冒してまで里に下りる必要がなくなったの。

 だからガンマさんは優越感に浸れないどころか、

 不義理だ、などと思ってかなり怒ったはずなの。

 そして動物たちに嫌われたとでも思ったのか、

 同じことを堂々巡りのように考え込むことが多くなって、

 ついには痴呆がやってきたようね…

 年齢的にそうあって当然でしょうから、

 自然の摂理と思っておいてもいいし、

 本人の心構えがなっていない罰と思っておいてもいいわ」


ナンシーの無碍な言葉に、「…はい… きちんと理解できたと思います…」とポリックは悲しそうな目をして言った。


「今日できた銭湯には行ったのかしら?

 奇跡が起きるかもしれないわよ」


ナンシーの希望がある言葉に、「進言してきます!」とポリックは叫んで、ヒトミとともに走って屋敷を出て行った。


「…今が平和だと思うが?」と寅三郎が聞くと、「いいえ、改心させることが重要で、一番平和です」というナンシーの堂々とした言葉に、「さすがだ」と寅三郎は言って頭を下げた。


すると村長が血相を変えてやってきたのだが、寅三郎が頭を下げている姿を見て大いに躊躇すると、寅三郎が村長に顔を向けた。


「村長選以外で、ご老人と何かあったようだ」


「…実は…」と村長は眉を下げて言って、老人ガンマとの確執を話し始めた。


話を聞き終えた寅三郎は、「ポリックが面倒なことになったのはガンマさんのせいだと?」と聞くと、「…はあ… まあ… 何とも言えないところなのですがぁー…」と村長は大いに眉を下げて言った。


「ボケが治ったら話していただきますわ。

 遠回しに息子さんご夫婦の縁談破棄を狙っていたとしても、

 きちんと婚姻されておられました。

 それにポリックはガンマさんとは顔見知り程度で、

 それほど親しい仲ではないように思うのです」


ナンシーの確信をついた言葉に、「…えっ?」と村長は言って目を見開いた。


「村長を唆そうとしている者がまだいるということだろうな」


寅三郎の言葉に、「…信じていたワシが馬鹿だった…」と村長は決定的な結末を知って大いにうなだれた。


「共倒れを狙っていて、今もなお狙っているのかもしれん」という寅三郎の言葉に、村長は頭を下げて踵を返して走って帰って行った。


表面で明るみになっていないことが多すぎるのだが、それをいいことに真実ではないことを吹聴して回っている者がいると寅三郎は言ったのだ。


そして最終的にはポリックを盾にして、自分自身が村長にでもなろうと画策していたと寅三郎もナンシーも考えていた。


「…だけど、この村の村長になって、何かいいことってあるのかしら?

 ただのリーダーシップであればいいと思ったけど、根は深そう…」


「ほかの村とのなれ合いや確執などもあるのかもな。

 まだまだ平和には程遠いだろう…」


寅三郎は大いに眉を下げて言った。


「ひとつずつ正していくので、何も問題はありません」


ナンシーの堂々とした言葉に、寅三郎はまた頭を下げていた。


「…まああとは、大勢いたゾンビがらみか…

 …悪意を纏っている者は皆無だが…」


「試さないとそれが真実なのかはわかりません」


ナンシーが真剣な目で言うと、「わかった」と寅三郎は堂々と言って魔王に変身した。


そして大きく胸を膨らませ、「はぁ―――っ!!!」と今までで最高に大きな声と気合いをもって叫ぶと、辺りの空気が妙に澄んだように感じた。


「もう解決したかもしれませんわ」とナンシーは陽気に言って、魔王を見上げた。


「知らんやつがうろうろしておった」と魔王は言って術を放って、意識を断たれている六名の男女をこの場に連れてきた。


「爆弾を隠し持っておる」と魔王は言って、術を使って三人の懐から妙なものを取り出した。


おどろおどろしげに見える、黒い球だ。


「…爆弾よりもたちが悪いと、マロが言いました…」とナンシーは言って眉間にしわを寄せた。


魔王は三つの物体をひとまとめにして結界を張り、一気に凝縮させ、内部で爆発させた。


「…あら眩しい… 太陽のよう…」とナンシーは言って袖に目を当てて、直視しないようにした。


「…こんなものを持っておったかぁー…」と魔王はうなってから、「出かけてくる!」と叫んで、一瞬にしてこの場からいなくなった。


『…本気の怒りでおじゃるぅー…』とマロが大いに嘆くと、「それほどに誠実なの」とナンシーは薄笑みを浮かべてつぶやいた。


「…お父さん、すっごく怒ってたぁー…」とお凛が母屋から出てきて、今にも泣きそうな顔をしていた。


「悪い人の成敗に行ったのよ」とナンシーは優しく言って、お凛とお杏を抱き上げた。


「…レアメタル…」と真珠はつぶやいて、ほとんど地面に埋まっている黒い塊を見入った。


「何かの兵器を一気に圧縮したの。

 結界の中で核融合でも起こったようだったわ。

 その副産物のようね」


「…お父さんも、重力制御魔法が使えるのね…」と真珠は嘆くように言ったが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「それって、使える人はそれほどいないって聞いてるわ」


「本格的な術者は、万有源一様が妹にした、悪魔万有このみ様だけだって聞いてるわ」


「ええ、その子のことは知ってるわ。

 いつも天使たちと一緒にいるし、白い衣を着ているから、

 てっきり天使だって思っちゃってたわ」


「源一様の特製の服だって。

 悪魔には少々厳しい、

 天使たちの癒しが通用しないものなんだって。

 肉体的には悪魔だけど、天使が大好きだから、

 天使たちの中で穏やかに過ごしているそうなの」


ナンシーは少し思い起こして、「…仲のいいお友達もそうなのね… 万有… 紫陽花っていう名前の子…」とナンシーが言うと、「うん、悪魔っ子」と真珠が答えると、ナンシーは愉快そうに笑った。


「…色々とお勉強もしないと…」とムングは眉を下げて言った。



ナンシーたちが話をしていると、魔王は大いに憤慨して戻ってきた。


そして重い球をいくつも地面に落としてから、大きなため息をついて寅三郎に戻った。


「何か食わせてくれ」と寅三郎が真顔で言うと、「はい、準備はできています」とナンシーは答えた。


「…え? いつ準備したの?」と真珠が目を見開いて聞いた。


魔王が飛んで行ってから、ナンシーはずっとここにいて、真珠と話をしていたのだ。


「お庭でお食事にしましょう」とナンシーが明るく言うと、庭にその準備ができていて、誰もが目を見開いていた。


「味見まではしていませんので、苦情は受け付けません」


ナンシーは言ってから椅子に座って、早速一口食べると、笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「食べられるわ!」とナンシーは陽気に叫んで大いに笑った。


寅三郎は一口食べて目を見開いて、猛然たる勢いで食らい始めた。


そして子供たちも食べ始めてすぐに幸せそうな顔をして、楽しく食事を始めた。


「…ずっとお話ししてただけなのに、どうやって作ったのよぉー…」


真珠が興味津々に聞くと、「ちょっとした手抜きでさぼりのようなものだから話さないわ」とナンシーは明るく答えた。


「お師様には、美味い料理が湧いて出たとでも報告しておけ」


機嫌のいい寅三郎の言葉に、「…はぁーいぃー…」と真珠は眉を下げて答えた。


『…神扱いの荒い宿主でおじゃる…』とマロが嘆いたが、ナンシーは笑みを浮かべていただけだった。


「だが、うますぎるんだが…

 片手間で作ったものではない…」


寅三郎の言葉に、「もちろん、私が作っても同じものができますわ」とナンシーは笑みを浮かべて言った。


「でも次に機会があれば、家族全員で作った方が、

 もっとおいしいかもしれません」


「…料理は、マデリーンに任せっきりだからなぁー…」と寅三郎は眉を下げて言った。


「…厨房に入れてくれないんですもの…

 奥様は座って待ってろって…」


ナンシーは嬉しいのだが、できれば寅三郎に手料理を食べてもらいたいのだ。


「強制排除は解除だ」と寅三郎は言ってから、笑みを浮かべて食事を再開した。



この日の夕餉は、マデリーンとナンシーのふたりで料理を作ったのだが、マデリーンは大いに苦笑いを浮かべていた。


厨房にはふたりしかいないはずなのだが、メインシェフとしてもうひとりいたのだ。


「…琵琶家の食事と何が違うというのだぁー…」とマッドスタックが小声で感動しながら言った。


「…女として、これでいいのかって思っちゃうぅー…」とミスティンは大いに嘆きながらももりもりと食べる。


「それよりも、出来上がりまでが異様に早かったのだが…」と寅三郎の言葉に、子供たちも一斉にうなづいた。


「三人いたのです」とナンシーが言うと、マデリーンは真剣な目をして何度もうなづいた。


寅三郎は頭を振って、「…難解なことをやってのけていたということか…」と言いながらも、しっかりと食事を摂っている。


「解析が得意で、とっても手が早いのです。

 ですので、琵琶様の厨房と何ら変わりなく、

 さらに早く調理を終えられるのです。

 しかも今回は微調整をしていますから、

 人によっては、琵琶様のお料理よりも

 美味しいと感じられている方もおられるかも…」


「…はい、僕はこの料理の方がうまいと思っています…」とパトリックは手を上げて言った。


そしてもうひとり、言葉を発することがない獣人も手を上げた。


寅三郎の家臣の中で、ナンシーが一番気に入っているのが、この大蜥蜴の獣人のミズッタだ。


まさにナンシーのご先祖と言わんばかりの存在感を持っている。


言葉は発しないが念話が使えるので、必要がある時は話しかけるそうだが、ナンシーはまだ声を聞いたことがなかった。


だがここでようやく、『奥様、本当においしゅうございます』と始めてミズッタがナンシーに話しかけてきた。


『私は声に出してもいいかしら?』


『…いや… あ、いえ、構いません…』とミズッタは戸惑いながらも答えた。


「ミズッタさん、ありがとう」とナンシーは声に出して礼を言った。


寅三郎は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


もちろん、寅三郎とは何度も念話で話している。


しかし見た目とは裏腹に、かなりの引っ込み思案で照れ屋でもあるので、無理に話すことはないと伝えていたのだ。


「…早い方ね…

 私なんて、三年ほどかかったもの…」


マデリーンが眉を下げて言うと、「あんたの正体が怖いだけなの」とミスティンに言われて、マデリーンは眉を下げた。


「本当にみなさん個性的だわ」とナンシーは機嫌よく言って、寅三郎の家臣たちを見まわした。


『奥様の隣におられた透明な方が神ですか?』とミズッタが聞くと、「ええ、そうよ」とナンシーは声に出して答えた。


『まさか、出てこられるとは思ってもいなくて、驚いているのです』


「そうね、それが普通だけど、

 本人が、問題ないでおじゃる、

 って言ったから任せたの」


ミズッタは肩を揺らしていただけだが、念話では笑っていた。


「あら、声を出さない理由があったのね」


ミズッタは何も言っていないのだが、ナンシーはマロ経由で知った。


『金属質の声に、誰もが卒倒するので…』


「え?

 それって、あなたって、古い神の一族なんじゃないの?」


ナンシーの言葉に、誰もが一斉にミズッタを見入った。


『…古い神の一族…』とミズッタがつぶやいた。


詳しい話は知らないようで、ナンシーは事細かに説明してから、ふたつの絵を描いて、ミズッタに向けた。


『…真実…』とミズッタが答えると、「…古い神の一族にほぼ決まりだわ…」とナンシーは言って寅三郎を見た。


「…そうか、気になっていたのは、これのことか…」と寅三郎は言って魔王に変身してから、呪いらしきものを安全に燃やした。


するとミズッタは身長が縮み、十五才程度の一般的な人間の少年になっていた。


「…いい男だったぁー…」とマデリーンが目を見開いて言うと、「…やっと普通に話せる…」とミズッタは言ってから、「魔王様、奥様、本当にありがとうございました」とミズッタは言って素早く頭を下げて満面の笑みを浮かべた。


「…お姉さんが、彼女になってあげようか?」とミスティンが女を出して言うと、「いやです」とミズッタは一瞬にして拒絶した。


「はっきりしている性格でよい!」と寅三郎は言って大いに笑った。


「大蜥蜴の獣人の姿が、本来の古い神の一族の姿だと聞いていたが、

 多分、多少の偽装の術もかかっていたはずだ。

 ミズッタ、変身してみろ」


ミズッタは寅三郎の言葉通りに変身した。


「威厳が全然違うし、今の方が自然だわ」とナンシーは笑みを浮かべて言った。


まさに見た目は人型の竜そのものだった。


そしてその体表は漆黒で、大いに威厳がある。


ミズッタは変身を解いて、「…これが、自由なんですね…」と言って、涙を流した。


「…物心ついた時から、さっきまでの姿だったのね…」とナンシーが嘆くと、ミズッタは何度もうなづいた。


寅三郎はガウンを出して、「まずはこれでも着ておけ」とにやりと笑って言うと、ミズッタは大いに照れて、裸の体にタオル地のガウンを羽織った。


「…ミスティンさんは、下を見てたよ?」とお凛が暴露すると、誰もが大いに眉を下げていた。


「…まさかだったぁー…」とマッドスタックがうなると、「兄貴だけが普通でした!」とミズッタが満面の笑みを浮かべて叫ぶと、ほかの三人は大いに眉を下げていた。


「…そういう教育を受けてきたと言っていいからな…」とマッドスタックは言って、寅三郎に頭を下げた。


「色々と解放されたはずだから、

 落ち着いた時にでも確認しておいた方がいい」


寅三郎の言葉に、ミズッタは素早く頭を下げて、「ズーリという人が僕を生んだ親らしいです」と早速探った結果を報告した。


「現在は、次元解のデヴィラというお人だ。

 確実にこの世で十本の指に入る猛者中の猛者だ」


寅三郎の言葉に、「…えー…」とミズッタは大いに嘆いた。


「古い神の一族では一番の猛者だろう。

 しかも、知らないことはないはずだ。

 なかなか不器用だけどな」


「…それほど優秀な人が親だったら生きづらいです…」とミズッタが嘆くと、「…それは言えるわね…」とナンシーは眉を下げて同意した。


「確実に注目されるからな。

 しかも、兄弟もいるそうだ。

 種族はデヴィラ様と同じ次元解で、万有ローレル。

 旧姓、ローレル・ミストガン。

 次元解という種族もかなり不思議な生物だから。

 ミズッタも同じかもしれないぞ」


寅三郎が脅すように言うと、「…今の僕で十分です…」とミズッタは眉を下げて言った。


「だけど、パトリック君も変なの?」とナンシーが聞くと、「…すっごく変です…」とミズッタは言って眉をひそめた。


そのパトリックは何かをつぶやいている。


「酒井様、わざわざ旧姓を言われたのは、

 もちろん意味があるからですよね?」


パトリックが聞くと、「何かに長けた天才集団の総称だよ」と寅三郎は答えた。


「…婆ちゃんの旧姓がミストガンなんですけど…」とパトリックが言うと、「それは面白い」と寅三郎はにやりと笑って言って、ミズッタを見た。


「パトリックは変身できる。

 その姿は腕が四本、足が四本。

 そして目が八つ」


寅三郎の言葉にパトリックだけではなくマッドスタックたちも目を見開いた。


「さっき言ったデヴィラ様、ローレル様の次元解という種族がその姿なんだ」


「…同族がいたぁー…」とパトリックは大いに苦笑いを浮かべてうなった。


「…まさに、その通りです…」とマッドスタックが言って頭を下げた。


寅三郎に代わってナンシーが種族の説明をすると、「…弊害が何もなかった方が不思議…」とパトリックは言って苦笑いを浮かべた。


「次元解の特徴は、ひと口で言うと怒りっぽく見えること。

 だがパトリックにはそれはない。

 進化の過程で、それなり以上の何かをやったのだろうな。

 普通、三次元に住む我らの体は、四次元用にはできていない。

 パトリックはその逆だが、

 何も弊害がない方がおかしいと思う。

 変身した時の視力はどうだ?

 デヴィラ様はかなりの近視だったそうだ」


「いえ、今と同じようによく見えます。

 三百六十度…」


「おいおい知って行こう」と寅三郎が笑みを浮かべて言うと、パトリックは少し歪んだ笑みを浮かべて頭を下げた。


「なかなか特殊なやつらを仲間にしたようだな」


寅三郎がミスティンを見て言うと、「みんなひとりでしたので、勧誘しやすかったのです」と笑みを浮かべて言った。


「そしてこの地に来て、パトリックと出会った。

 そして普通だと思っていたが、

 とんでもない化け物だったというわけか…」


「…あはははは!」とミスティンは空笑いをしてごまかした。


「そんなことよりも、婚姻されないのですか?」とミスティンはごまかしついでに攻撃に出た。


「するぞ、近い将来」という寅三郎の言葉に、ナンシーは笑みを浮かべただけだった。


「魔王様の近い将来は百年単位だと思うのですが?」


「今の俺は人間だ」と寅三郎が胸を張って答えると、「…じゃあ、一二年で…」とミスティンは言って、ナンシーに笑みを向けた。


「友人想いで何よりだ」


「いえ、私はナンシー様の家臣として働きたいのです。

 我が主の幸せは私の幸せ」


寅三郎は何度もうなづいて、「わかった、俺は構わんが、ナンシーの今の気持ちを聞いておく」という言葉に、「今は甘えたくありません」とすぐさまナンシーは自分自身に対して厳しい言葉を放った。


「そうだな、今を変えないことが一番いいだろう」という寅三郎の言葉に、ナンシーは頭を下げた。


「…ちやほやするのも罪…」とミスティンが言うと、マッドスタックたちはすぐさまうなづいた。


「…私たち、罰が下っちゃうぅー…」とお凛が嘆き始めると、「そんなことにはならないわ」とナンシーがやさしい言葉をかけると、お凛とお杏は笑みを浮かべあった。


「あなたたちの母でいられるのなら、結婚しなくてもいいほどだから」


ナンシーの言葉に、ここにいる全員が眉を下げていた。


「…そうね、子を産んだら、愛情は子の方に向かっちゃうものだもんね…」


ミスティンの言葉に、「そうね、それは言えるわ」とナンシーは明るく答えた。


そしてマデリーンも加えて、男どもが大いに眉を下げるほど、三人はまさに姦しくなっていた。



すると、落ち着いた雰囲気のポリックとヒトミがやってきた。


食事がまだということで、ナンシーが腕によりをかけて食事を作ってふたりに振舞った。


「…先生… うまいです…」とポリックは感動が度を越して涙声で言った。


ヒトミの場合は、食べながらも号泣するほどにうまい料理だった。


ポリックは落ち付いたので、老人ガンマについて報告をした。


ガンマは入浴中に目を覚ましたように痴呆から逃れ、付き添っていたポリックにすべてを語った。


村長選には三つ巴の戦いがあり、村長側についていた後援会長が悪の根源だと説明したのだ。


さらには魂の循環システムについて、多くの村が思惑を持って付き合っていたそうだ。


その爆弾は魔王がすべて処分したのだが、安心はできない。


心の中にその爆弾を抱えている者がいれば、村同士の戦争も考えられるからだ。


「…どちらにしても油断はできないな…」と寅三郎がうなるように言うと、「あら、そうかしら?」とナンシーが反論があるように言った。


「私たちの魔王様の心の叫びには、悲しみが含まれていましたわ。

 大勢の人たちが、その気持ちに感動を覚えたはずです」


ナンシーは言ってヒトミを見た。


「…まだ、感動が収まらないのですぅー…」とヒトミは泣きながら言った。


「…ちょっと、やりすぎたかぁー…」と寅三郎は嘆いて眉を下げて、ヒトミの背中を指で軽く押した。


「…あ…」とヒトミは言って涙をぬぐってからすぐに、「魔王様に触れていただいたぁ――っ!」と感動して叫んで号泣を始めたので、誰もが眉を下げていた。


しかしこれは一時的なもので、ヒトミはすぐに泣き止んだ。



寅三郎たちは村中を、物理的ではなく子細に気配を探り、悪いものは感じないと胸を張った。


家臣たちが高能力者ぞろいなので、この確認の結果には信憑性があった。


一段落ついて、ナンシーと子供たちは個人的な修行に就いたが、ともに林にいる。


さらに修行者がひとり増えていて、水の塊は小さなパラグライダーを担いで木の枝から飛び降りて、修行というよりも遊んでいた。


「…神様のマロマロは出てこられるなんて…」とムングがつぶやくと、ナンシーが愉快そうに笑った。


『…どうやったのか聞いてぇー…』と土の神が嘆くと、「…ご本人ができるって言って外に出てるんじゃない…」とムングが眉を下げて言うと、『…うう… そうだった…』と土の神が嘆いた。


「ありえなさそうに感じるだろうけど、

 きちんとつながっているわ」


ナンシーの言葉に、ムングも土の神も大いに戸惑った。


「…繋がっているから、外に出ているように見せかけているだけ…」


「知っていることを教えてもいいの。

 だけど、自分で見つけて理解することが重要だって思うの」


ナンシーの言葉は優しいが、内容が厳しい言葉に、「…頑張って、自分で見つけますぅー…」とムングは眉を下げて言った。


すると栗鼠がお凛に変身して、「マロマロちゃんから全部聞いちゃったっ!」と目を見開いて叫んだ。


「お凛ちゃんはいいのでおじゃる。

 特別待遇でおじゃる」


水の塊が少々高い声で言うと、「あら、話せたのね」とナンシーは言って笑みを浮かべた。


「…こっそりと、練習したでおじゃる…

 呼吸法と生体に似た器官の構築でおじゃる…」


「あら? そういうことも知っていたのね?」とナンシーが聞くと、「宿主様の知識からでおじゃる」と水の塊は胸を張って言った。


「…ムングちゃん、色々とハードルが高くなっちゃったわよ?」


ナンシーの言葉に、ムングは頭を抱え込み始めた。


「…まずは、とんでもなく、すっごく勉強しなくちゃいけない…」とムングはつぶやいて嘆いた。


「いえ、その前に簡単なことがあるの」


ナンシーはここはヒントを出した。


「人間であれば必要なことなの。

 マロがお凛ちゃんが特別って言った意味もここにあるのよ。

 お凛ちゃんは見た目人間なだけで基本的には栗鼠だから。

 人間のように考えさせないことが、

 お凛ちゃんにとって一番いいことなのよ。

 やり過ぎると、

 動物の野生を失うことにもなりかねないから。

 それに風の神は、人間ではない動物のお凛ちゃんをなぜか選んだの。

 その理由はあると思うけど聞いてないわ。

 だけど、なんとなく察しはついたんだけどね」


「…ヒントをたくさんありがとうー…」とムングは言って、全てを分解して子細に考え始め、「…そうだ、神様の名前だぁー…」とつぶやくと、ナンシーは笑みを浮かべた。


「私の神様はトンビ君!」とお凛は陽気に言った。


「…うふふ… 神の名前が決まれば、

 ムングちゃん自身の修行と勉強を頑張るだけだわ」


ナンシーが陽気に言うと、「…地道に努力しますぅー…」と勉強が嫌いなムングは大いに嘆いた。


「楽しそうだな」と仕事から戻ってきた寅三郎が気さくに言うと、「…それほど楽しくないぃー…」とムングがうなった。


「だったら余計に楽しめ」と寅三郎は言って、ムングの頭をなでると、「…はいぃー… 頑張って、楽しみますぅー…」とムングは何とか答えた。


『ピー ヒョロロロロー』とトンビのような鳴き声が聞こえたが、鳥はどこにもいない。


「トンビ君! 上手上手!」とお凛が満面の笑みを浮かべて空に向けて叫ぶと、「…神様の声だったのね…」とムングは大いに眉を下げて言った。


『風だからね… 今の表現は簡単だよ』と土の神は嘆いた。


「…あんたの名前ぇー…」とムングがうなると、『…本当にお世話になります…』と土の神は恐縮して言った。



楽しそうなナンシーたちを横目で見ながら、寅三郎はシビアでリアルな話を家臣たちの前で始めた。


「宇宙船は隠してあるのか?」と寅三郎が今回はミスティンをリーダーとして聞くと、「はい、ここに」とミスティンは言って胸を押さえた。


もちろん、異空間ポケットに収めてあるという意志表示だ。


「ここに立ち寄って、それなり以上に滞在している理由は?

 もちろんゾンビの件で多勢に無勢だったことはよくわかっているが、

 それなりの以上の理由があってここにいたと思う」


「マデリーンの希望です。

 必ずいいことがあると。

 もちろん、仲間にしたパトリックを放っては置けませんでしたので、

 この件も重要な理由です」


寅三郎は何度もうなづいて、マデリーンを見た。


「いいことについて聞かせてくれないか?」


「…実はただの予感です…

 もしもあのまま宇宙を旅していたら、

 命はなかったかも、と…」


マデリーンの告白に、ミスティンたちは目を見開いた。


「容易に考えられることだ。

 無法者は陸地だけではなく宇宙にも大勢いるからな。

 そしてその危機が迫っていたと、

 動物を持っているマデリーンは本能で悟ったようだ」


「…ああ… わかっていただけた…」とマデリーンは安堵の笑みを浮かべて言った。


「我が琵琶家は動物と共存を望んでいる。

 もちろん、マデリーンのような危機回避の機会もあると思ってのことだ。

 ミスティンだって同じだと思うが?」


「…いえ、私の場合はファッションのようなものです…

 勇者は、逞しい獣を連れていることが普通だとずっと思って、

 厳しい修行を積んできました」


「その普通の部分を聞かせて欲しい」


寅三郎の言葉に、「…私だけの常識的部分…」とミスティンは言って、笑みを浮かべた。


「…結局は、危機回避に繋がっていたと確信しました…」とミスティンは言って頭を下げた。


「マッドスタックも賛同したはず。

 きっと、本来の不安と、

 マデリーンの不安のふたつを感じたはずだからな」


寅三郎の言葉に、マッドスタックは素早く頭を下げた。


「となれば、この星は安全地帯とは言えないが、どう思う?」


この寅三郎の言葉に、五人は一斉に目を見開いた。


するとマデリーンが手を上げて、「…できれば、喜笑星に行きたいですぅー…」と嘆くように言った。


「…一難去ってまた一難だが、

 今度はこの星を守り抜くために戦う。

 これも、ちょっとした修行だ。

 ナンシーたちとそれほど変わらんけどな」


あまりにもほのぼのとしている修行風景と、自分たちに迫っている危機が同じだと言われ、五人は一気に奮起して、「…簡単に蹴散らしましょうぞ…」とミスティンは気合を入れてうなった。


「では、ちょいと調べる。

 お凛!」


寅三郎が叫ぶと、栗鼠は滑空してきて寅三郎に抱きついた。


「このままでよい」と寅三郎は言って瞳を閉じた。


そしてそのままの姿で、「…五年後?」とつぶやいて鼻で笑った。


「…どうやら、それなりの装備を備えている宇宙海賊のようだ。

 今は、母星探しに勤しんでいるようだが、

 宇宙船が第五世代というかなり古いものだから、

 ここに来るまでに早くても五年ほどはかかる。

 と、いったところだな」


寅三郎は言って瞳を開いて、「お凛、ありがとう、もういいぞ」と寅三郎は言って、栗鼠の頭を指でやさしくなでた。


栗鼠は少し寅三郎に甘えてから、マントを翻して修行に戻って行った。


「簡単に優位に立つには、最新の宇宙船が必要だが、

 早速作ってもらうか。

 だがな、事情を話すと、

 御屋形様が出張って来られて、俺たちの出番はほぼなしだ」


寅三郎の言葉に、誰もが大いに眉を下げて、「…貴重な経験ができない…」とミスティンは言ってうなだれた。


「見ることも修行だが、できれば俺たちだけで戦いたいのだ。

 …仕方ない… ここは欲を出して進言するか…

 だが、その前にだ。

 宇宙空間で戦える者が、俺とミスティン、

 そして修行次第だが、ミズッタの三人だけというのも問題だ」


寅三郎の言葉に、マッドスタック、パトリック、マデリーンは大いに眉を下げた。


「よって、使える仲間を迎え入れ、

 星の外でも戦えるように修行を積もうと思う。

 あとは、御屋形様のご気分次第か…」


すると幻影が社からやって来て、獣王城が完成したと言ってから、足漕ぎ宇宙戦艦を出した。


寅三郎が大いに礼を言っていると、ナンシーたちが興味津々でやってきた。


「…鬼もいるから飛べるだろう…」と幻影が眉を下げて言うと、「できれば仲間を倍増しようと考えております」と寅三郎は言って頭を下げると、幻影は笑みを浮かべてうなづいた。


早速宇宙戦艦の飛行訓練が始まり、難なく宙を飛び、宇宙空間にも飛び出して、様々な経験を積んで、早々に星に戻った。


素晴らしい経験を積んだミスティンたちは素晴らしい笑みを浮かべていたが、村長たちが大いに眉を下げていた。


もちろん、寅三郎たちがこの地を去るという、いらぬ心配を始めたからだ。


「ここを出るのならば社を使うが?」


寅三郎の説明に、「…そうでした…」と村長は言って、うらやまし気な目をして社を見た。


「欲を持ったからこその、二百年も続いたゾンビ騒ぎだったことを忘れるな」


寅三郎の核心をついた言葉に、村長は無条件で頭を下げた。


「あまりくどいと、パトリックだけを置き去りにして、

 我らは別の地に行くが?」


ここからはパトリックからの親族への指導が始まったので、寅三郎たちはこっそりと愉快そうに笑った。


「実は、宇宙海賊の件だけど」と幻影が言い始めると寅三郎たちは目を見開いた。


「…御屋形様が独自に調べられたんだよ…」と幻影は苦笑い浮かべて言った。


「今のところは大海原を漂う木の葉だが、

 半年後に生物のいる星にたどり着く。

 狩猟範囲内にいる酒井家の部隊に処置執行の優先権があるから、

 それまでに何とかすれば手は出さぬと、

 かなり我慢されて言われたんだ」


幻影の言葉に、寅三郎は大いに喜んで、早速会議が始まった。


やはり古い体質はいいことも悪いこともあるが、寅三郎としては戦国時代だった当時を思い出して奮起していた。



そして会議は終わって、全ての段取りを整えることにした。


「…お城いくぅー…」とついにお凛が言い始めたので、酒井家一同で入城することに決めた。


寅三郎は入城してから仕事に取り掛かることにして、正式な仲間として悪魔カトレアを加えた。


城を設計したのは寅三郎だが、カトレアはすべてを案内した。


そして動物たちは遊園地のような城に熱中していた。


会議で決定した面倒なものをカトレアが半分ほど請け負った。


ここは知り合いがいないと話が通じないこともあるので、ミスティンたちは戸惑いながらもカトレアに頭を下げた。


カトレアは寅三郎の第一の家臣たちよりかなり格下だが、同じ悪魔の種族がいないことで正確な比較ができない。


一長一短は必ずあると、誰もが考えていた。


できれば寅三郎もカトレアとともに行きたかったのだが、カトレアに、「寛いでいろ、主よ」と言われてしまったので、ここは家臣の言葉に甘えることにして、城の見学をしたり、無邪気な動物たちを見て回っていた。


カトレアがすぐさま戻ってきたのはいいのだが、まるで中隊ほどの大人数を引き連れて戻ってきた。


「…これほどに顔が広いとは聞いていなかったが…」と寅三郎が嘆くと、カトレアは素早く頭を下げて、「準備をしておいただけだ」と堂々と言った。


もちろん、信長の検閲は終わっていて、しかも大いに悔しそうだったので、―― してやったり! ―― と、カトレアは出し抜いてやったと喜んでいるほどだ。


連れてきた者たちはすべてが能力者で、死神、悪魔、天使がほとんどだった。


質も重要だが、今の酒井家には量も必要だ。


早速謁見の間で、総勢五十名の顔合わせが始まり、寅三郎は真剣な目をして新規採用者をゆっくりと見まわした。


「狐の子よ、ここにきて本当に良いのか?」と寅三郎はまず、かなりの高能力者に向けて聞いた。


「…お母さんがあんただけでも雇ってもらえって…」と姿は透き通っているように感じる水色の狐が眉を下げて言った。


人語を話したことで、酒井家一同は目を見開いたが、もうすでにお凛たちのお気に入りとなっていた。


「お母さんとは、デヴィラ殿だな?」と寅三郎が言うと、「…うん、そう… ひょっとして、もうクビなの?」と狐が悲しそうに言うと、「絶対に役に立つもん!」とお凛は狐に向かって叫んで、寅三郎に懇願の眼を向けた。


お凛がこれほどに本気になることはまずないので、寅三郎は笑みを浮かべて何度もうなづいて、お凜の頭を優しくなでた。。


「あまりにも高能力者だからだ。

 もちろんいてもらえれば助かるが、

 元いた部署との兼ね合いもあるのだ」


「あ、それは王様の許可を取ったから大丈夫だし、

 王様もお殿様に興味津々だった!」


狐はすぐさま答えた。


「…王様とは、万有爽太様だな?」


「うん! そうだよ!」と狐は陽気に叫んで、「僕、疾風のコロネだよ!」と名を名乗った。


「…お凛と気が合うはずだ… 風使い、だよな?」


「うん! そう!」とコロネは陽気に叫んだ。


「神にしか見えんが、悪魔の眷属でもあるようだな?」


寅三郎はかなり機嫌よく聞いた。


この疾風のコロネが、寅三郎の家臣たちの教官となるのだ。


「虫と動物の神だよ!」というコロネの明るい言葉に、「…ふむ…」と寅三郎はうなって、コロネを見てからお凛を見た。


「お凛、栗鼠」と寅三郎が言うと、お凛は満面の笑みを浮かべて、マントを纏った栗鼠が素早く寅三郎の右手の中に収まった。


寅三郎は魔王に変身して、左手の指先でコロネの頭に触れた途端、「えー…」と栗鼠が人間の声を発した。


「人間が勝ったのではない。

 鳴き声を人間の言葉に変換しただけだ。

 お凛の野生をそぐわけにはいかんからな。

 まずは俺とともに仕事をするぞ」


魔王の力強い言葉に、「はい! お父さん!」と人型のお凛よりも高くかわいらしい声で栗鼠が叫ぶと、この場にいる全員が宙に浮いた。


「ふむ… 随分と楽にできたな」と魔王の機嫌がかなり良くなった。


そしてお杏にも同じことをしようとしたが考え直して、別の能力の構築を行った。


最後に真珠にも似たようなことをして、魔王は両手のひらに三匹を乗せて、家臣たちを持ち上げると、「…私たちがやってるぅー…」と異様にお淑やかな声の猫の真珠が言った。


「自分たちの修行も大事だが、

 今からはすべてのことを見極めよ。

 そうすれば、お前たちの修行にもなるはずなのだ」


「はい! お父さん!」と三匹は叫んで、人型になって魔王に抱きついた。


「…あ、ああ… このパターンは… 僕はいらない…」とコロネは言ってうなだれた。


「そのつもりだったが、それでは情がなさすぎる。

 飛び道具の指導を、短時間でやってのけろ。

 よって、資質のある者だけを一気に育て上げることが最優先だ。

 最終的な審査は俺がやる」


寅三郎の堂々とした言葉に、コロネは素早く頭を下げ、上げた顔には笑みが浮かんでいて、お凛たちに、「よかったね!」などと祝福されてから、もみくちゃにされた。


「…あのー… 魔王様…」とナンシーが控えめにつぶやくと、「ナンシーとムングには別の事を考えた」と寅三郎が言うと、ふたりは顔を見合わせて安堵の笑みを向けあった。


「ここは人間と動物の差別化だ。

 全ては動物たちの野生を守るためだが、

 最終的には全員で協力してもらうことになる。

 その果てしない修行のようなものを、

 ごく短時間で習得してもらおう。

 ワシの家族のお前たちが中心となり、

 全てを救うのだ」


魔王の雄々しき言葉に、ナンシーを筆頭にして娘たちが一斉に頭を下げた。


「…ワシが正したのでは、当たり前すぎるからな…」


魔王がにやりと笑って言うと、「…おお…」と誰もが小さくうなってから、一斉に頭を下げた。


「…あのぉー…」とついにファイガが声を上げると、酒井三姉妹がファイガに抱きついた。


「…うっ これは…

 僕は、エネルギー貯蔵庫…」


ファイガが大いに眉を下げて言うと、「不服か?」と魔王がにやりと笑って聞いた。


「とんでもありません!

 まさに、光栄の極みです!

 それに、僕自身の修行の方針も見えてきました!

 ありがとうございました!」


「それは何より。

 そうだ、お前もいたな…」


魔王がうなって、懇願の目で見上げている、鎧犬を見入った。


「しばらくは俺に同行せよ。

 さすれば成長も早いじゃろうて」


魔王の言葉に、『アンッ!』と子犬は威勢よく鳴いて、お凛に報告するように寄り添った。


「言っておくが、術などは全く使っておらん。

 それぞれの能力を見極めて、

 都合よく役割を与えただけじゃ。

 術を使うと、能力が伸びんことはわかっているからな。

 しいて言えば、お前たち一人ひとりの潜在能力が術の一部。

 そして協力し合うことで術として完成する、

 今までにそれほどない試みじゃ。

 よって、ひとりでも欠けると術は発動せんから、

 ワシがその中に入ることになる。

 真珠が抜けることになるかもしれんからな」


「正式に、きちんと幻影様にお暇をいただきます」


真珠が真剣な目で言うと、「わかった」と魔王は答えて、寅三郎に戻った。


「そもそも、配下になった記憶はございません」と真珠が言うと、「そうか」と寅三郎は言っただけだ。


「真珠の自由を奪わんことにした。

 それが、真珠にとって唯一の野生だと感じたからな。

 よって、無理強いはせず、娘にもせんし、配下でもない。

 だが、周りの空気を読んで、多少は気を使って生活して欲しい」


寅三郎の言葉に、「そのようなことまで、どなたも言ってくださいませんでした」と真珠は笑みを浮かべて頭を下げた。


「だか、これは俺の考えだ。

 お凛たちはそうではないと思うが?」


「…お姉ちゃんだよ?」とお凛が言うと、真珠はお凛とお杏を抱きしめた。


「…さらに、過ごしやすくなったわ…」と真珠は機嫌よく言った。


―― 家族にしてしまうことだけが結末ではない ―― とナンシーが笑みを浮かべて考えていると、『きっと、今までにはない、家族になるでおじゃろう』とマロが機嫌よく言ってきた。



ここからは、寅三郎がひとりひとり面接を始めると、カトレアは大いに緊張した。


人事担当としては、肝がつぶされる思いだったが、脱落者が誰もいなかったことに、カトレアは大いに機嫌がよくなった。


「ほら、褒美だ」と寅三郎は言って、最高級品の悪魔用の魂饅頭を渡すと、カトレアはさらに陽気になって、悪魔仲間たちと陽気に魂饅頭を食らい始めた。


ここからは、獣王城の新しい家臣たちの歓迎会を行った。


この席でも寅三郎は気を抜かず、一人ひとり丁寧に対応する。


その結果が見え、「…ほう、三日後か…」とつぶやいて笑みを浮かべた。


マッドスタックは目を見開き、「…それはいささか早いのでは…」と眉を下げて言うと、「三日間で結果が出ると、この場の雰囲気が語っただけで、ワシの望みや願いではない」と寅三郎が答えると、「…それは楽しみです…」とマッドスタックは笑みを浮かべて言った。


「お前だって、飛び道具の修練だぞ。

 それを三日でやってしまうんだ。

 いい時間を過ごせると思うのだが?」


「…さらに、奮起いたしましょうぞ…」


マッドスタックは穏やかに笑み浮かべて答えた。



宴は程々にして、寅三郎は魔王に変身して、何もない空き地に射撃訓練場を一瞬にして浮かび上がらせた。


「ここは真の意味の術の訓練だけに使う。

 本格的で最終確認の訓練は宇宙に出てから自信をつける。

 そこに任命されるよう、

 各個人奮起して欲しい」


「絶対に間違いが起こらない方法だ!」と疾風のコロネは大いに喜んで、指名した者から順に訓練が始まった。


そして、術が使える者たちは早速個人練習として的を狙って、体内から光線兵器を放つ。


今できるすべての力を使って、自分自身を試していくのだが、いつもよりもかなり調子がいいことに気付いた。


「退屈ではないか?」と寅三郎はナンシーと火竜ファイガを見て聞いた。


「いえ、気合がみなぎっていて、本当に良い家臣たちですわ。

 それに、お話相手になっていただければ、退屈ではございません」


「…あとで、あっちの火山に行くぅー…」と火竜ファイガが少し気合を入れて言った。


「自由時間も十分に与えるからな。

 今日のところはもう訓練を終えてもいい」


寅三郎の言葉が聞こえていたかのように、疾風のコロネは死神をひとり連れてやってきた。


「完成したよ!」とコロネは陽気に叫んで、別の弟子を取るために走って戻って行った。


「一番手おめでとう」と寅三郎が祝うと、「…まさかでしたぁー…」と死神レミ・カップは嘆くように言った。


「あとは休養という修行を積んで、

 本番に臨むだけだ」


寅三郎は言って一瞬魔王に変身して、「問題なく合格」と伝えると、レミは安堵の笑みを浮かべて頭を下げた。


「今までも、それなり以上に働いていたようだな」


「はい… ですが、今の私は今までの私ではありません。

 …あ、変わってしまったと言いたいので、

 自慢しているわけではないのですぅー…」


レミの自信なさげな言葉に、寅三郎は大いに笑った。


「今日のところは訓練を終えるか」と寅三郎が言うと、レミは大いに眉を下げた。


「ナンシー、ファイガ、終わりだ」と寅三郎が言うと、ファイガは人型に戻った。


すると、訓練場で一斉に嘆き声が聞こえた。


「…うっ! エネルギーを供給されていた!」とレミは叫んで、その元になっていた、ファイガとナンシーに素早く頭を下げた。


「本番でも使うからこれでいいんだ。

 実戦まで三日間というのは、

 このふたりのおかげでもあるからな」


「マロが、早々に終わらせてと嘆いていました」とナンシーが愉快そうに言うと、「では、くつろぎに行こうか」と寅三郎は言って、家臣たちを引き連れて、まずは安土城に登城した。



「…むむむ…」と信長は大いにうなって、「…琵琶家、転覆の危機…」などとうなり始めた。


「大いなる感謝しか私にはございません」と寅三郎は言って、信長に頭を下げた。


「…この男、ちっこいわぁー…」と濃姫が信長を見て悪態をつくと、「普通の殿なら、腰が引けて当然じゃろ?」と信長は言って鼻で笑った。


「寅三郎の本気はしかと見せてもらった!

 本日は早々に休養せよ!」


信長の堂々とした言葉に、寅三郎は笑みを浮かべて頭を下げて、大広間から退席した。


幻影が眉を下げて、「…真珠が我が手から離れました…」と信長に報告した。


信長は何度もうなづいて、「それも覚悟の上」という返答に、幻影は素早く頭を下げた。


「…ファイガ君、いいなぁー…」と萩千代が大いにうらやましがり始めた。


「それにはつなぎが必要じゃ…

 まさかナンシーを使うとは…」


「そちらの方が驚きでした。

 誰もが自信が付き、

 そして傲慢にならずに、修行を積めます」


幻影の言葉に、信長は機嫌よく何度もうなづいた。


「その通り。

 補助があるからこそ傲慢になれぬところがみそじゃな。

 一時的な大きな力の貸与は確かに必要じゃ。

 よって、ファイガとナンシーのために、十分な休養が必要じゃ」


「…やけに解散が早いと思ったら、そういう理由でしたか…」と濃姫は笑みを浮かべて言った。


「三日後か四日後に、宇宙海賊退治に行くそうじゃからな」


信長の言葉に、濃姫は目を見開いた。


「…言うべきではないが、すっかりと忘れておった…」と信長は言って、機嫌のいい幻影を見ている。


幻影は鳩の獣人の子供のポッポをひざの上に乗せている。


「寅三郎殿は忘れておられるようでした」


「…ふふ…」と信長は短く笑って、鼫の獣人のポッタを呼んで抱きしめると、「…ぬお… ぴりっと来た…」と信長は機嫌よく言って、ポッタの頭をなでた。



厨房では、せっかく宴の準備を終えていたのだが、それほど困ることはない。


全ては琵琶家家人の腹に収まることは決まっているからだ。


ハイネは落ちこむことなく竈を見つめて体を椅子にゆだねた。


「…学校、やだなぁー…」とつぶやくと、『行くことに決めておったのだろ?』と火の神が聞いてきた。


「…私の場合は、本来のお勉強が必要…」とハイネが嘆くと、『わしが教える』と火の神は胸を張るように言った。


「…そんなに、物知りなんだぁー…」とハイネが驚いて聞くと、『前の宿主たちの知識』と堂々と言った。


『だが、ハイネの道はそれほどたやすくない。

 ハイネの嫌いな、お勉強の時間を大いに取る必要があるからな。

 異空間部屋を使って勉強して、

 今の仕事もこなすには、少々幼すぎる。

 あまり急がず成長した方がよいはずだ』


「…うん、そうする… よかったぁー…

 …でも…」


ハイネは一旦は喜んだのだが、お凛たちを少しうらやましく思ってしまったのだ。


『御屋形様を誘って行くがいい』という火の神の言葉に、「うん! 決めた!」とハイネは陽気に叫んで立ち上がって、厨房を出て、くつろぎの間にいる信長の前に座って頭を下げた。


「…無駄になったな…」と信長が眉を下げて言うと、「いえ、皆様のおやつで構いません」とハイネが答えると、信長は陽気に笑った。


「実は、お願いに参りました」


ハイネの真剣な顔とその言葉に、「言ってみよ」と信長は色々と隠して、神妙な声で答えた。


「モルト星に連れて行ってくださいませんか?」


ハイネの言葉に、信長はわずかばかりに考え、「お凛たちと接触するためじゃな?」と聞くと、「今のままでは、落ち着かないのです」とハイネはすぐさま答えた。


信長は立ち上がって、「わかった、行くぞ!」と叫んで、ハイネをひょいと抱き上げて肩に乗せてから歩き始めた。


全く事情がわからない蘭丸と高虎は、ここはすぐさま立ち上がって、信長に駆け寄った。


「ハイネに本来の神が宿った。

 もちろん火の神だ」


幻影の言葉に、琵琶家家人たちは一瞬目を見開いたが、納得もできて素早く頭を下げた。


「現状に不満はないが納得していないことが多々あるようだ。

 よって、ほかの風、土、水の神たちとの接触を図りたいようだ。

 ハイネの代わりに、その上の存在のファイガが行ったようなものだからな。

 ハイネのこれからの修行に必要なことだから、

 御屋形様の許可を取ったのだ。

 そしてともに感じてもらいたいと、純粋に思っていると感じた。

 ハイネがモルト星に移り住むことは今は考えられないが、

 実は移り住むことが一番いいことだと、

 俺は考えている。

 そして全ては、御屋形様の想いひとつにかかっているだろう」


「だが、兄者はそれでいいのですか?!」と弁慶が真剣な目をして、兄を叱る勢いで聞いた。


「立派な弟子が出奔することを喜ばぬ師匠はおらん」


まさにその通りで、もう数名が立派に出奔を果たしている。


ハイネもそのうちのひとりだと言ったのだ。


しかしハイネはまだ十一才で、幼すぎるという想いもある。


「…厨房、どうしよう…」と幻影がころりと感情を変えて眉を下げて嘆くと、「…一番の杞憂だね…」と源次が大いに同情して眉を下げて言った。



「…ここ、やっぱり好きぃー…」とハイネは機嫌よく言った。


「そうだな」と信長は言って、ハイネを地面に下して、寅三郎とあいさつを交わした。


もちろん、ここに来た理由を述べたのだ。


現在は、モルト星の酒井家の別荘にした、火山の麓の温泉場にいる。


ハイネはお凛の気配を察知して、早速入浴することにして、小屋に駆け込んで行った。


「…ハイネはさすがに痛い…」と信長がうなだれて言うと、「お凛を差し出せと言われたことと同等でございます」と寅三郎も眉を下げて嘆いた。


ここは心が通じ合う父親たちが穏やかに言葉を交わし始めた。



「あら、ハイネちゃん」とナンシーが言うと、ハイネはすぐさまあいさつをしてから、まずはナンシーに抱きついた。


「…うう… 覚えられないぃー…」とハイネは嘆いてから、ナンシーから離れた。


「修行に来たようね?」というナンシーの穏やかな言葉に、「はい! そうです!」と叫ぶと、お凛たちもやって来て、「…無理は言えないぃー…」とお凛が真っ先に嘆くと、「…あははは…」とハイネは気まずそうに空笑いをした。


そしてムングとも挨拶を交わして、四人とそれぞれの神たちは言葉を重ねていった。


「…四人全員がともにいた方がよさそうね…」とナンシーが眉を下げて言うと、「…今までになかったって…」とお凛も嘆くように言った。


「火の神とは以前に出会ったそうだけど、

 喧嘩ばかりしてたって…

 今はそんな気持ちは全く沸かないって…」


ムングの言葉に、誰もが一斉にうなづいた。


「ハイネちゃんの杞憂の簡単な解決方法があるわ」というナンシーの言葉に、誰もが興味津々となった。


ナンシーは念話をして、八丁畷優夏と連絡を取って計画を話した。


『もうやっちゃったって!』と優夏が陽気に返事をすると、「春之介様にお礼を言っておいてください。改めてご挨拶に伺いますから」とナンシーは眉を下げて言った。


『もういいって。

 直接信長さんと寅三郎さんに話をしたって!』


「…そうですか… 本当にありがとうございました…」とナンシーは大いに気後れして念話を切った。


「解決したわ」というナンシーの言葉に、子供たちが一斉にナンシーを抱きしめた。



「…納得しなければ、ただの駄々っ子…」と信長がうなると、「…あははは… それは言えますね」と春之介は眉を下げて言った。


「部屋を渡り歩くだけですから。

 ですが今までのように自由に、

 というわけにはいきませんが、

 ハイネちゃんのためでもありますし、

 幻影様まで奪うわけではありません」


「…うう…」と信長は眉を下げてうなった。


ハイネの代わりは幻影でも十分にできるからだ。


簡単なこととは、このモルド星の寅三郎の屋敷の厨房と、安土城の厨房に社を建てただけだ。


今までは全て外に建てていたのだが、今回は室内に建てたので、隣の部屋に行き来する感覚になる。


それぞれの星には多少の時差があるので、どちらかが多少譲り合って、同時に食事の準備をすれば、それほど問題は起こらない。


よって、二カ所の別の家の厨房がひとつとなった感覚だ。


作物も違うことで、さらに興味深い多彩な料理を味わうことも可能だ。


「だが、幻影が許さぬのではないのか?!」と蘭丸が目くじらを立てて春之介に聞くと、「厨房だけが杞憂だったそうだよ」と春之介に簡単に答えられてしまったので、母として蘭丸も認めざるをえなかった。



―― あー… 天国… ―― と、山頂の火口近くにいる火竜ファイガはくつろぎの時間をむさぼっていた。


―― ハイネちゃんがついに来ちゃったけど、仕方ないかぁー… ―― とファイガは思ったが、まだまだ出番はある。


ハイネは修行に来ただけで、すぐさま火のサラマンダーになれるわけではないのだ。


現在、完全体はひとりもいないので、少々長い修行の日々だろうとファイガは思っていたが、ナンシーだけは違う。


一番うまく神を操っているようなので、今までにないサラマンダーになると確信していた。


さらには勇者相当の力も持っていて、今はその力を使っているとしか思えなかった。


遥か眼下に見える露天風呂で、ナンシーが水芸を披露し始めたので、ファイガは心穏やかにして素晴らしい景色を堪能した。


『ファイガ君、覗き?』とナンシーから念話が飛んでくると、「そんな気持ちは毛頭ありませんよ」と言葉にして答えた。


『やっぱり、人間の男どもとは違うわ…

 ファイガ君に好きな子っていないの?』


「もしそこにいたとしたら、きっと背中を向けていたでしょうね」


ファイガの回答に、『それはそうだわ!』とナンシーは陽気に答えて笑った。


「今は神が子供たちを眺めて、穏やかな境地に浸っているようなものです」


『そう… でも、それも少し寂しいわね…』


「いえ、あとで温泉にも浸かりますから」


すると点でしかないお凛たちがファイガに向けて手を振り始めると、女性たちが全員気付いて慌てふためいた。


『堂々とした覗きだって思われちゃったわよ』とナンシーが愉快そうに言うと、「はは… それでもかまいません。では僕も、ひとつ芸をお見せしましょう」とファイガは言って雄々しく羽ばたいて、空高く舞い上がった。


そして火口をめがけて突っ込んだのだ。


女性たちは目を見開いて驚いたのだが、ほどなくして金色の光を放つように、ファイガが現れたので、大きな拍手を贈った。


「入浴後の上がり湯のようなものです」


ファイガの言葉に、『さすが竜… さすが神…』とナンシーはつぶやいていた。


「体が冷えたら降りますから」


『ええ、今夜の食事は期待しておいていいわよ』


ナンシーの気さくな言葉に、ファイガは心までも温かくなった。


「よし、決めた。

 ここは竜の自由性を尊重しよう」


ファイガは言って、また雄々しく羽ばたいて、少々空高く飛んで完全に体を冷やしてから、地面に近づいて人型に変身して地面に足をつけてから、信長に頭を下げた。


そして、「ナンシーさんを母とします」と告白すると、「…ワシはそれで構わん…」と信長が渋々答えると、「蘭丸様も母には違いありませんので」というファイガの言葉に、「しっかりとお勤めを果たせ!」と蘭丸は厳しい母の言葉を送った。


「…出番は多ければ多い方がいいからね…

 宇宙空間でも戦えるし…

 海賊程度だったら、ファイガ君だけでも簡単に終わるよ…」


春之介の言葉に、「…そうだったのかぁー… あ、俺もそうだが、移動はできても戦う武器がないぃー…」と蘭丸は悔しそうにうなった。


「それが神獣の欠点のようなものだからね。

 だけど、物理攻撃だったらどうだろうか。

 幻影様に進言すれば、何か作ってくれるかも。

 その方が簡単に、さらに正確に、武器の破壊程度ならできそうだ」


「…帰ったら、すぐに話すぅー…」と蘭丸は言って信長を見て頭を下げた。


「…あの虎も、宇宙で戦えるとはな…」と信長は言って、大いに苦笑いを浮かべた。


「はっ 結界を張って飛びますで、

 無限ではありませんが、

 すぐさま命が終わることはありません」


「出番があれば、その雄姿に期待しておこう」


「はっ! ありがたきお言葉!」と蘭丸は答えて素早く頭を下げてから、寅三郎をにらみつけた。


「出番ありと思えば、すぐに指示をお出ししましょう」と寅三郎が大いに眉を下げて言うと、「…かたじけねえなぁー…」と蘭丸は悪態をつくように礼を言った。


「盾を担いでおいた方が、ずいぶんと役に立つと思う…」


春之介の言葉に、「…まずはそれをするぅー…」と蘭丸がさらにうなり始めると、「…悪いが、使ってやってくれ…」と信長は寅三郎に懇願した。


「はっ さらに安全にすべてを終わらせましょうぞ」と寅三郎は言って頭を下げた。



早速両家は別の場所で同じ料理に舌鼓を打ち始めた。


そして厨房ではハイネのたっての希望で、酒井家全員に手伝いに入ってもらった。


できれば片時も離れない方がいいという、ハイネの火の神の言葉だったので、みんなも協力してその通りにした。


―― そうだ、神様のお名前は、なんて… ―― とハイネが考えると、『名はないぞ、だから決めてくれ』と火の神が言った。


『でも、私が決めてもいいのですか?』


『お主は宿主。我の親も同然なんじゃよ』


『あー、でしたら、チャンプで…』


『お?! 強そうな名じゃ!』


火の神は上機嫌になった。


『…幻影様の母星の方言で、炎を意味する言葉らしいのです。

 あとは王者、支配者という意味もあるそうです』


『…おおおー… そうかぁー…』と、火の神に大いに気合が入っていた。



多彩でうまい料理を堪能した寅三郎は、―― 何か重要なことを忘れていないか… ―― と、ただただ漠然と頭に浮かんだ。


特に危険があるわけでもなく、悪いことではない。


そして幸せそうなお凜たちを見回したが、全く思い浮かばないが、きっといいことのはずなのだ。


「どうされたのです?」と気になったナンシーが寅三郎に聞くと、「重要でいいことを失念しているようなんだ」と寅三郎が言ったとたん、「ポッポちゃんたち!」とお凜が陽気に叫んだので、寅三郎は満面の笑みを浮かべて、「そうだ、それだ!」と叫んで、ナンシーとお凜に丁寧に礼を言った。


「資格が必要だが、今持つ自分自身の力が上がったり、

 超常現象を制御する力を得ることが可能になるはずだ。

 しかし、適合する者を見つけることが大変だし、

 場合によっては苦痛を伴うんだ。

 だが、それも修行にしようと思う」


「…サルサロス星に行くぅー…」とお凜が言うと、「ああ、行こう!」と寅三郎は言って、手早く後片付けをして、まずは寅三郎の家族だけで行くことに決め、後のことはマッドスタックに任せた。


そしてまずは、安土城にいる信長に謁見すると、「…気づいたか…」とつぶやいて苦笑いを浮かべた。


「…今は、その繋がりがはっきりと見えます…」


寅三郎の朗らかな言葉に、「…それはわしも同じじゃ…」と信長は渋々言った。


「あちらにも協力できそうですので、

 まずは行って参ります」


「おう、わかった」と信長は機嫌よく言って許可を出した。


同じ魔王なので余計にこの行為は重要となる。


サルサロス星と懇意にしているのは琵琶家で、しかも安土城まで維持して管理をしているほどだ。


よって寅三郎が勝手なことをすることは許されず、思い付いたままに行動すれば、確実と言っていいほど確執が残る。


しかし寅三郎は家老職もこなせるので、すべてにおいて安全に歩むことが可能だ。


「…まずは勝虎のヤツに連絡しておいた。

 あっちはもうすでに、お祭り騒ぎじゃろうて」


信長の言葉に、「ありがたき幸せ」と寅三郎は言って丁寧に頭を下げて、家族たちとともに一斉に立ち上がった。



寅三郎は久しぶりにサルサロス星の安土城を見上げた。


「…一緒だぁー…」とお凜は言って、安土城を見上げた。


「だが、城下町の商売はいろいろと違うところもある。

 あとで観光がてら見て回るか」


寅三郎の言葉に、家族たちは大いに喜んだ。


寅三郎たちは酒井勝虎、純葉夫妻に付き添われて、タルタロス軍の城に行くと、広場には大勢の獣人たちが待機していて、その先頭に満面の笑みのマックラがいた。


寅三郎は丁寧に挨拶をして、マックラは寅三郎の大出世を大いに褒め称えた。


すると閃光燕がすっ飛んでやってきて、寅三郎と挨拶を交わした。


燕にとってもこの試験はうれしいことでもあるのだ。


約一名にとってはまさに試験だったのだが、そのひとりを除いて全員が相棒を得て、満面の笑みを浮かべて接した。


中でも少々不思議だったのはお杏で、能力的には人間に変身できる動物なのだが、これも能力者として認定されるようで、お杏は満面の笑みを浮かべて同年代に見える牛の獣人の女の子に笑みを向けている。


そして神を持つ四人は、ナンシーを除いて全員が神を相棒としたようだ。


だがその人選は宿主の希望が大いに考慮されていた。


「…なんだか、わけのわからない力が…」とムングは洗熊の獣人を見て機嫌よくうなった。


そしてひとり取り残された真珠は大いに眉を下げている。


「先に言っておくが、死にたいと思うほどの苦痛が襲うはずだ。

 それでも相棒が欲しいか?」


少々厳しいともいえる寅三郎の言葉に、真珠は真剣な眼をして、「何も問題ありませんわ」と堂々と言った。


もちろんやせ我慢なのは誰もがわかっている。


真珠は幻影たちの試練を見て知っていたからだ。


さらにはこの件も本来であれば真珠が進言したいほどだった。


自分は動物としてもまだまだだと思い、大いに恥じていたからだ。


「まずは動物的勘で選定せよ」


寅三郎の言葉に、真珠は迷うことなく、ネズミの獣人の男子に歩いていって、「…食ってやろうかぁー…」とけんかを売るようにうなった。


しかし男子は、「できるものならやってみな!」と堂々と歯をむいて叫んだ。


真珠はすぐさま男子を抱きしめ、そして大いに抵抗されるように、体中がしびれまくった。


「こんなもん、なんでもねえ!」


真珠には幻影が乗り移っていると寅三郎は思い、笑みを浮かべて何度もうなづいている。


お凜は一瞬心配したが、寅三郎の感情を察して笑みを浮かべたので、ナンシーたちにも安堵の笑みが浮かんだ。


「…絶対にあきらめるもんかぁー…」と真珠がうなると、「…そういう問題じゃねえだろ… おまえだって知っているはずだ…」と男子は真珠の気迫に気圧されなからつぶやいた。


「おまえを食らう未来は変わらねえっ!」と真珠が叫んだとたん、ふっと軽くなった。


―― 意識を断たれるなっ! ――


真珠はさらに気合を入れた。


「…ああ… 信じられない…」と燕はつぶやいて、笑みを浮かべて真珠を見ている。


「…お、おい…」と男子はついには真珠の心配を始めた。


―― 何の問題もねえ… ―― と真珠は言葉にしたはずだったが、声は出ていなかった。


「…そうか、よかった…」と真珠の心の声が聞こえた男子が安堵した瞬間に、「…やったぁー…」と真珠はつぶやいて、男子の能力を体感して猫の姿に戻って地面に倒れた。


「…お姉ちゃん、やっぱりすごいぃー…」とお凜は言って、猫の体を宙に浮かべて、男子に渡すように浮かべると、男子は大いに照れながらも猫をやさしく抱きしめた。


『ピー… ヒョロヒョロヒョロ…』と、この地にはいないトンビが素晴らしい声で鳴いた。



酒井家一家は全員が相棒を手に入れたが、家臣たちはそう簡単ではなかった。


五十人のうち相棒を得たのはわずか三名で、マッドスタック、ミズッタ、パトリックの男子三名だけだったのだ。


この結果に、もう体が動かないミスティンは大いに悔しがった。


能力者で勇者だからこそ、相棒が必要になる意味が一番よくわかっていたからだ。


「相性の問題がほとんどだ。

 今はあきらめておけ」


寅三郎の言葉に、ミスティンは、「…うー…」とうなるしかなかった。


「実はな、ミスティンの運命の獣人はいるんだ」


寅三郎の言葉に、ミスティンは目を見開いた。


「その対象が王様だからな、あえて言わなかっただけ」


「…なんて不運な…」とミスティンは何とかつぶやいて笑みを浮かべて意識を断たれた。


マックラもこの話を聞いていて目を見開いていた。


「いることがわかっただけでよかったようです」という寅三郎の言葉に、「…子供たちに感化され、無意識に奮起していたか…」とマックラはつぶやくように言った。


そして改めて自分自身を探り、パートナー資質があることを認識して笑みを浮かべた。


「行けばいいのよ」という燕の気さくな言葉に、マックラは大いに眉を下げた。


「ずっとともにいろなんて言ってないわ。

 必要な時に寄り添えばいいの」


燕の言葉に、「…そういたしましょう…」とマックラは笑みを浮かべて答えて、獣人たちの神に恭しく頭を下げた。



疾風のコロネはわずか三日で、酒井家家臣全員を能力者として使えるようにした。


そして宇宙海賊との戦いで想定される宇宙での戦いの本格的な演習も全く問題はなかった。


よってこの翌日に、早速宇宙を飛び、宇宙海賊のいる宇宙空間に到着して、遥か彼方の先にその機影を確認できた。


ここまでくればもう勝ったも同然だ。


幻之丞と咲笑が海賊船を乗っ取れば簡単に終わる。


だがそれでは酒井家家臣の成長はないし、幻之丞と咲笑は琵琶家の家臣という事情もある。


今回、先頭に立っているのは酒井家の宇宙戦艦で、その背後に琵琶家。


さらにその後ろにはロストソウル軍の旗艦と機動部隊が五部隊同行した。


もちろん、捕らえた海賊船をそれなりの場所に移動させるためだ。


そして琵琶家の宇宙戦艦から、武装した巨大な虎が飛び出してきた。


虎の目の前には巨大な盾と矛が、その動きに合わせて移動する。


蘭丸は特殊な訓練の末に、結界を二重に張り、外側の結界に挟み込んだ、武器と防具を操ることに成功した。


もちろん盾と太刀は幻影が宇宙用に新たに打った業物だ。


そして作戦通り、虎は酒井家の宇宙戦艦の前に出て、盾を高く掲げた。


寅三郎としては子供たちは星においてきたかったのだが、「いつも一緒だよ?」とお凜に穏やかに言われてしまったので、今はナンシーの管理下にある。


そのナンシーが、「あら?」と言ってお凜に笑みを向けると、「うふふ」とお凜は意味ありげに笑った。


「通信をつなげろ」と寅三郎は穏やかに言った。


適材適所で、宇宙戦艦に携わる経験者も重要で、今回は五名を専任者として任命している。


海賊船側は大いに驚いていたが、出てきた第一声は、『なんだ?』という虚勢を張った声だった。


映像で見る限りでは、海賊船に乗っている者たちはごく一般の人間だった。


「おまえらのやっている悪行は確認済みだ。

 それよりもエネルギー反応が大きすぎる。

 すぐにとめろ。

 攻撃した時点で、宣戦布告とみなし容赦せん」


『ふん! ぬかせ! 主砲発射!』


寅三郎の言葉は無視して敵艦長が叫ぶと、先頭にある宇宙船の下部から強大な光の帯が発射された。


距離はあるが何とか届きそうだったが、その光は虎の持つ盾によって消え去った。


『なんだと?!』と敵館長が叫んだとたん、虎がとんでもない速度で前進し、先頭の戦艦にぶら下がっている主砲をいとも簡単に斬り落とした。


その主砲は、今は海賊船の旗艦の艦橋辺りに浮かんでいるので、どうなったのかはかなりわかりやすい。


虎は素早く元いた場所に戻って、また盾を構えた。


敵船長は大いに慌てたが、攻撃をやめる意志はなく攻撃続行を告げたが、「攻撃開始」という寅三郎の落ち着いた声に、家臣たちは一斉に訓練を積んだハイビームを放った。


だがそれは一瞬で、訓練の時よりも簡単にすべてを終えてしまった。


「…武器が、すべて消失しましたぁー…」と、海賊船の情報管理官が嘆くと、『…ぬぬ… 撤退だ! 急速後退!』と敵船長は叫んだが、もう咲笑と幻之丞が宇宙船の自由を奪っていたので動けなかった。


すぐさま機動部隊がすべての海賊船をビームワイヤーで拿捕して、次々と消えていった。


「よくやった!

 我が軍の勝利だ!」


寅三郎が始めて声を張って勝利宣言をすると、「ウォ―――ッ!!」と家臣たちは喜びの雄たけびを上げた。


『どうなってんだ?!』と虎が幻影に念話を飛ばしてきたので、「…俺も驚いた…」と幻影はつぶやくと同時に念話を返した。


すると虎は素早く飛んで反転して、その姿は見えなくなった。


「…怒って帰った…」と幻影が眉を下げて言うと、「…何があったのか…」と信長も気に入らないようで、少しうなるように言った。


標的は海賊船十隻で砲門が五万にも達していたので、これほどの短時間では終わる戦いではなかったはずなのだ。


よって何らかの術によって早められたとしか考えるほかなかった。


訓練の想定としては実戦と全く同じものもあったので、虎の蘭丸の出番はまだまだあったはずなのだ。


そして司令官の寅三郎にすら、思い当たる節がなかった。


しかし勝ちは勝ちなので、寅三郎は機嫌よく、「モルトに向け帰還せよ」と指示を出した。


しかし帰りは子供たちの願いを聞き入れゆっくりと飛んで、宇宙観光を楽しんでからモルト星に帰還した。



「…むー…」と蘭丸はずっとうなっていて、幻影も信長も大いに眉を下げている。


関係者は全員、もうすでにモルト星の酒井家の屋敷に戻ってきている。


蘭丸としては、更なる活躍の雄姿を子供たちに見せ付けたかったのだ。


そして、「この母のようになれっ!」という、決め台詞まで用意していた。


しかしここは、まずは戦勝の祝いとして酒などを威勢よく飲み干してから、寅三郎は幻之丞と咲笑と三人で密談を始めた。


もちろん、今後のための試練と、今回の功績を称えるための話し合いだ。


「僕と咲笑ちゃんの共通した評価結果です」と幻之丞は眉を下げて報告した。


寅三郎は一瞬戸惑ったが、その報告の詳細を読んで、「…証人がいるから、余計に信憑性が上がるよなぁー…」という言葉に、幻之丞も咲笑も笑みを浮かべてうなづいた。


「でも、末端にはわからないところがすごいとしか言いようがないですし、

 高能力者の方々も不思議に思っておられます」


幻之丞の言葉に、「…早々に公表しないとどやされそうだ…」という寅三郎に言葉に、ふたりは声を殺して愉快そうに笑った。



「皆の者、良くぞわずか四日間でここまで成長してくれた。

 礼を言う」


寅三郎は言って頭を下げた。


「では早速だが、今回の最大の功労者を知らしめ、

 今後の糧としてもらうのだが、

 皆もわかっているように、実戦では想定外の事態が起き、

 あっけなく勝ってしまった。

 だがな、普段の鍛錬と心がけがあってこその今回の勝利だ。

 まさに誰もが、自分自身の持つ実力を倍増して戦ったに等しいのだ」


寅三郎の言葉に、誰もが大きくうなづいた。


ほんの一瞬だが、自分自身が今までにないほどに強くなったと感じたのだ。


だが、いつものように、ナンシーとの接点が切れた時、誰もが大いに眉を下げたことは言うまでもなかった。


よって、ナンシーが何か特別なことをしたのだろうと思っていた者が大半だが、ほんのわずかにそうではないと察知した者もいる。


「今回の最大の功労者は、酒井於凜」


寅三郎の言葉に、「やったやったぁー!」とお凜は無邪気に喜ぶと、誰もが盛大な拍手をお凜に送った。


「そうかっ! お凜かっ!」と蘭丸は叫んで復活を果たしてお凜を抱き上げて、「俺の子だ!」とお決まりのせりふを言ってから、ナンシーに頭を下げてから、お凜を抱かせた。


「ナンシー、詳しい解説を頼む」


寅三郎の言葉に、ナンシーは笑みを浮かべて、「俺の子だ!」と叫んでお凜を抱きしめた。


蘭丸とそれほど変わらない威厳に、ナンシーの正体を知らなかった者たちは目を丸くした。


「まず第一に、お凜ちゃんは普段の訓練のように、

 落ち着かせるような気を放ったのです。

 もうこの時点で、皆さんは訓練通りの実力を発揮できると確信しました。

 そのあとに、私経由ではなく、お凜ちゃんの神の協力を得て、

 緩やかな風を起こしたのです。

 それがまさに自然で、まずはファイガ君が大いに慌てました。

 本来の出力の三倍ほどのエネルギー量の放出を始めたからです。

 もちろんその力は私が制御して抑えましたが、

 一瞬流れ出てしまったのです。

 ですがそれは一瞬のことで、幸運だったのか必然だったのか、

 皆さんの実力が倍ほどに膨れ上がったのです。

 お凜ちゃんの流した風は、神通力を含んだ風だったのです。

 よって、皆さんの実力が今まで以上に跳ね上がり、

 多くの経験を積んだ方から順に功績を残したと推測します」


ナンシーが語り終わると、「…へー… そうなんだぁー…」とお凜が感心して言ったことで、誰もが大いに笑った。


「ナンシーの言った通りで、

 攻撃手の功績の一番手は胡蝶蘭様、二番手は刀川美咲だった」


寅三郎の言葉に、美咲は大いに目を見開いていた。


もちろん、実力以上の力がみなぎっていたことはよくわかったし、自分自身本番に弱く、成績にムラがあることもわかっていた。


だが今回の戦いだけは今までとまるで違い、実戦という意識はなく、ただの訓練の感情しか持ち合わせていなかった。


美咲は千年以上生きてきて、今日ほどに満足したことはなかった。


すると美咲の背中を何かが強く叩いた。


「昇天するにはまだ早い」と美咲の正面にいる寅三郎が言うと、美咲は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。


「…お父さんもすごいぃー…」とお凜は眉を下げて言った。


「あら? 納得して昇天しないように活を入れたのね」とナンシーは笑みを浮かべて言った。


ここからは幻之丞と咲笑が詳細な情報を公表して、誰もが称えあい、そして祝賀会が始まった。



「…僕がいたからだって思ってたのにぃー…」とコロネが嘆くと、美咲はコロネをにらんでから、「…ここは今までの場所とは違うわ…」とつぶやいた。


「…ふーん…」とコロネは言って、心の中で首をひねった。


今までの美咲とはずいぶんと変わったと思い、あまり余計なことは言わないことに決めた。


ふたりは千年ほど前に出会い、一時期は気の合う相棒でもあった。


しかし美咲からコロネを敬遠するようになって、顔は合わせていたが、ほぼ他人のようにして過ごしていた。


今回の結果も、美咲自身の実力の成果ではないことはわかっている。


しかし、全員の条件は同じというところが今までとは違う。


よって素直には喜べないのだが、怒ったり嘆いたりする気も起こらない。


しかも、経験が長ければ長いほど功績が上がったという診断だった。


確かに、その手ごたえを感じたことは否めない。


「…あ、お礼、言っておかなきゃ…」と美咲は言って席を立って寅三郎の席に向かって歩いた。


「酒井様、失礼いたします」と美咲が寅三郎の背後から声をかけると、寅三郎は振り返って、「少しは喜べ」と言って苦笑いを浮かべた。


「…はい、その件で…

 無駄死にをしなくて済みました。

 ありがとうございました」


「優秀な家臣をむざむざ手放すものか」


寅三郎の言葉は、美咲の胸に突き刺さっていた。


しかし、寅三郎には子供も、さらには恋愛のパートナーもいることは、この席を見ればよくわかることだった。


「第一機動部隊がよく手放したものだわ」とわずかながらに美咲と知り合いのナンシーが言うと、「…濃姫様のお口添えがあったから…」と小声で答えた。


「…なんだ、カトレアの手柄ではないのか…」と寅三郎が眉を下げて言うと、カトレアは地団太を踏むようにして悔しがった。


「…いいえ…

 いろいろと見破っていたのはカトレアでした」


美咲の言葉に、寅三郎は笑みを浮かべてうなづいた。


「もしも暇だったら、ミズッタと付き合ってやって欲しい。

 知っての通り、古い神の一族だが、

 まだまだいろいろとひよっこなものでな。

 知っての通り、今回の成績は散々だった。

 もちろん、気が向いたらでいいぞ」


寅三郎の気さくな言葉に、美咲は小さく会釈をした。


そのミズッタを見ると、この世の終わりのような顔をしているが、やけ食いなのか食事にだけ集中していた。


しかしそのミズッタに美咲は好感を抱いた。


約千年間、パートナーとしてそばにいた黒田満にその面差しも性格も似ているところがあったからだ。


―― 私と同じ… ―― と考えると、少し愉快な気持ちになった。


さらにはほろ苦い昔の記憶もよみがえってきた。


それはもちろん、初恋の相手だ。


しかし同席している勇者ミスティンが意味ありげな笑みを浮かべていたことが気に入らなかった。


―― くっそ… 熟練勇者… ――


ミスティンは勇者のその上を目指せそうなほどの実力の持ち主だと、その存在感だけで理解できた。


今回の成績は射撃だけのものだ。


総合的に見れば、今の美咲では太刀打ちできないと感じていた。


―― 死神の上… ―― と美咲は考え、眠らせている潜在能力を開花させることに決め、今はミズッタに関わらないことにして、きびすを返して元いた席に戻った。


「…ふむ、残念…」と寅三郎がつぶやくと、「…けんかにならなきゃいいけど…」とナンシーは眉を下げて言った。


「その時は固めて、組み手場で戦わせるから別にいい」と寅三郎は言って鼻で笑った。


「ミズッタ」と寅三郎が名を呼ぶと、「はいっ!!」とミズッタは大いに緊張して答えた。


「我が軍の射撃の名手と付き合うつもりはないか?」


寅三郎の言葉に、「ありません!!」とミズッタはすぐさま胸を張って答えた。


「おや? その勢いだと、気になる女性がいるのか?」


寅三郎がにやりと笑って言うと、「…はは… います…」とミズッタは大いに照れて下を向いて頭をかいた。


そして、「もう忘れました」というミズッタの言葉に、それを探ろうとした者たちの眉が一気に下がった。


「それは素晴らしい能力だな」と寅三郎は言って笑みを浮かべてうなづいた。


「妙ないざこざが起きないのでいいのですが、

 お相手にいい方が現れた場合、

 手遅れになることもあるので、

 すべていいとは言えません。

 もちろん、その時はきっぱりとあきらめます。

 縁がなかったと思うしかないので。

 特に仲間だと、奪い合いはあまりよくないように思うので余計に…」


「そうか、わかった」と寅三郎は笑みを浮かべて言った。


「…ミスティンと刀川以外の誰かなのは確実…」と寅三郎がつぶやくと、そのミスティンは大に眉を下げていた。


「…じゃあ、その手下の私…」とマデリーンが言うと、「さあ、どうだろうね」とミズッタは少し陽気に答えた。


するとお凜とお杏が大いに興味を持ってミズッタに甘えにいくと、ミズッタは大いに照れていて、「両手に花!」などと叫んで、陽気に食事を食べ始めた。


「…うふふ… 暗号がわかったぁー…」とお凜がつぶやくと、ミズッタは大いに眉を下げて、「…やめてぇー…」と懇願の眼をお凜に向けた。


「ああ、なるほど。

 隠すことを暗号化しておくわけか。

 必要な時に解けば記憶が戻る。

 なるほど… いいな、その術」


寅三郎は大いにうらやましく思っていた。


「…あのね、ミスティン・フォン・タリスマン・テグラシルだってぇー…」


お凜の言葉に、「私のフルネームを鍵にするんじゃないわよ!」とミスティンが大いに怒って叫ぶと、「まず、口にすることはないので」とミズッタは答えて、にやりと笑った。


「なるほど…

 ミズッタが言葉にしなければ錠は解けないわけだ」


寅三郎の言葉に、お凜は残念そうな顔をしてうなだれた。


「…鍵がわかったのに解けないのはずるいぃー…」とお凜は言ってさらにミズッタに懐いた。


「…お凜、あまりやってると、動物ではいられなくなるぞ…」


寅三郎が戒めると、「…はぁーい…」とお凜は眉を下げて言って、お杏とともに席に戻った。


「もちろん、動物から進化して人間となることはごく普通のことだ。

 しかし、お凜としてはそれを拒んだ。

 今もそうかい?」


寅三郎の優しい言葉に、「…栗鼠がいいですぅー…」とお凜は上目使いで寅三郎を見て言った。


「一度失くしたものを取り戻すにはとんでもない努力が必要となる。

 ここはトンビとよく話をして、

 きちんと聞いておく方がいいと思うな」


するとお凜は考え込むようにして黙ったが、「…トンビ君もずるいぃー…」とお凜が嘆くと、寅三郎は大いに眉を下げた。


さすが神だけあって、わずか一瞬でミズッタの感情を読んだのだ。


もちろん、ほかの神たちもわかっていて黙っているだけだ。


「…大丈夫かしら…」とナンシーが眉を下げていろんな意味で言うと、お凜はナンシーに抱きついて、「嫌いにならないで!」と叫んだ。


「ならないわ…

 たとえ動物でなくなったとしてもね」


ナンシーの優しい言葉に、お凜は満面の笑みを浮かべて栗鼠に変身してナンシーの首筋を撫でまくった。


「ほら、お杏ちゃんも」とナンシーが催促をすると、栗鼠よりも大きくなってしまった猫がナンシーの腕の中で甘えた。


「あら? 変ね…」とナンシーは言って、猫の右前足に触れた。


「妙に足先が大きいわね…

 猫じゃなくて獅子じゃないのかしら…」


ナンシーの言葉に、巌剛が近づいてきて、「そのようだ」と言った。


「お杏ちゃんはずいぶんと大きく育ちそうね」とナンシーがいうと、『ナァーン…』とお杏は甘える声を出して鳴いた。


「…まさかだが…

 キャッシーの狼に妙に興味があると思っていたが…」


寅三郎が眉を下げていうと、「…大きく育ちそうですわ…」とナンシーは笑みを浮かべて穏やかに言った。


「…しかも、お凜が長春様の支配下にあることも妙だ…

 よって、お凜はそう簡単には人間にはならないはずだが…」


寅三郎がつぶやくと、「なんないよ!」と話を聞いていた長春が陽気に言った。


「トンビ君! 誰なのか教えて!」とお凜が叫ぶと、『ビー』とトンビは一声鳴いただけだった。


「…教えないってぇー…」とお凜が悲しそうな顔をして嘆くと、寅三郎とナンシーは愉快そうに笑った。


「…じゃ、マロマロ…」とお凜はナンシーの胸を見透かすように言ったが、お凜は玉砕してうなだれた。


「…ふむ… そう言えばなかったな…」


寅三郎がつぶやくと、「…どのようなことも隠すことなく教えてきたから…」とナンシーがつぶやくと、寅三郎は何度もうなづいた。


「隠されると気になるわけだ。

 危険がないとは言えんからな…」


寅三郎の言葉に、ミズッタは気を利かせたようで、錠を一瞬だけ開いた。


よって、要領のいい高能力者だけは、察することができたようだった。


「…あー… 解決ぅー…」とお凜は言って笑みを浮かべた。


しかしそれだけで、もう興味がなくなったようで、お凜は栗鼠になって小さな獅子とともに丸くなって眠ってしまった。


「…ふむ… 人間のようだがそうではないな…」


寅三郎がうなると、ナンシーは穏やかに愉快そうに笑うと、寅三郎は寝所を出して二匹をそっと寝かせてから、寅三郎とナンシーは穏やかに食事を再開した。


「…動物もいろいろだな…」と幻影は苦笑いを浮かべて言った。


「…お凜ちゃんには隠し事ができないけど、それが普通だわ…」とナンシーは穏やかに言って、時折細かく体を震わせている愛らしい二匹を見つめた。



ミスティンは俯瞰の眼で、ミズッタが好意を持っている相手を見ていた。


今回の成績はミズッタと変わらず好調だったとはいえない。


しかし、訓練時の倍ほどの成績なので、それなり以上の実力者ではある。


年のころならまさにミズッタと同年代で十五才程度だが、死神なのでそれ以上の年齢なのは確実だ。


さらにこの少女は、濃姫がこの星にあった優秀な魂から選び抜いた五人の中のひとりで、濃姫の命により、寅三郎の家臣として過ごすように言いつけられていた。


大勢の仲間の中にいるのだが、付き合い始めてまだほんの数日で、しかも生まれ変わったばかりだし、それほど気さくに話す相手がいないとミスティンが思っていると、ナンシーがその隣に座った。


ここぞとばかりに、ミスティンはマデリーンを伴って、ナンシーの隣に座った。


「親しい仲間がいないんだったら私たちの仲間に入らない?」


ナンシーの言葉に、死神ロマン・トーダは大いに戸惑った。


「普通、断れないと思うけど?」とマデリーンが眉を下げていうと、「…それもそうね…」とナンシーは眉を下げて言った。


「だけど私たちだって自然に寝所が一緒になっただけよ?」


ナンシーの言葉に、「…ナンシーがあっという間に頂点まで駆け上るなんて、初めての夜は想像もできなかったわ…」とミスティンが眉を下げていうと、「今までの苦労が日々身になったって感じた瞬間ばかりだったわ」とナンシーは笑みを浮かべて言った。


「…あのー…」とロマンは眼を躍らせて言ったが、「…どうか、おそばにおいてやってください…」と丁寧に言った。


「あー、よかった。

 よろしくね、ロマンちゃん」


ナンシーが陽気に気さくに言うと、ロマンは、「うれしいです、ナンシー様」と言って頭を下げた。


「様はいらないわ」とナンシーが言うと、「はい、ナンシーさん」とロマンは素直に言い直した。


「…まあ、悪魔様もそうだけど、とんでもなく働かされたもんねー…」とマデリーンが同情して言うと、「あ、でも、お仕事でしたし…」とロマンは戸惑いながら言った。


「しかも、ロマンだけ酒井家の家臣になったというのも、

 実力があるからって思うのよね」


ミスティンの言葉に、「…実は、毎日毎日戸惑ってばかりで…」とロマンは大いに照れながら言った。


「できれば、しばらくは穏やかな日が続いて欲しいわ。

 今の生活に慣れることも重要だから」


「そういうナンシーだって、全然落ち着いてないじゃない」


ミスティンの言葉に、「阿国様にご指導いただいたおかげよ」とナンシーは笑みを浮かべて答えた。


「…まさかの巨人族だなんてね…」とミスティンが眉を下げて言った。


すると、ロマンが眼を見開いて、「…あの子たち…」と言ってから心配そうな眼に変わった。


「…あの子たち?」とナンシーがすぐさま聞くと、「…小人たちが…」というロマンの言葉に、ナンシーはすぐさまロマンに言い聞かせて寅三郎に話をした。


「…この星に小人族がいるのか…」と寅三郎はうなって、すぐに信長たちと会議となった。


本来は明日は完全休養だったが、三つの家の上層部だけは、ロマンが住んでいた土地に行くことになった。


ちなみにパトリックは小人族の話は聞いたことがないと断言した。


もちろん、ロマンを含め五人の死神に話しを聞いたが、出会ったことがあったのはロマンが唯一だったし、言いふらすこともなかったそうだ。


話しをあまり広げない方がいいので、聞き取りはここまでにした。


そして一番の問題はロマンの正確な年齢で、なんとほぼ二百年もゾンビとして生きていたと幻影は眉を下げて言った。


もちろん人間の時に出会っていた小人族の存在も確認していて、その人数は三人だった。


そして住んでいた村も確認を終え、ダイゾが殻だけになっていた海岸近くにあった村だった。


しかし今は村はなく、草原と森だけになっている。


どうやら僻地から順に人体実験が行われたのだろうと推測された。


「早々に解決する」と信長は言って、才神小恋子に念話を入れた。


すると、小人族とは思えないほどの巨体の男が天照大神に引率されてやってきた。


「アレキサンダー・ビン・マキシマム・ジョーです」と巨体の男は信長に挨拶をして頭を下げた。


そして孫娘の小恋子の粗相を大いに詫びると、信長と寅三郎は大いに眉を下げていた。


早速マキシマムが探ると、「動いていないようです」と言って、咲笑が出している地図に指を差した。


そこは海岸近くにある森で、新たなダイゾを発見した森だったことに、「…別に探さずともよいか…」と信長は眉を下げて言った。


「言い聞かせだけしてまいりましょう」とマキシマムは言って消えた。


「…さすが、小人族の王だ…」と信長はつぶやいて苦笑いを浮かべた。


「術で、普通の人間に見えるように、ですか…」と幻影が感心しながら言うと、信長は小さくうなづいて、「人間の部分もまだ持ってる」と言った。


するとマキシマムはもう戻ってきて、信長に手のひらを差し出した。


そこには三人の小人族が眉を下げて立っていた。


「この地の人間が迷惑をかけたようだ」と信長は言って三人に頭を下げた。


「…ああ… すごい人だぁー…」とひとりの小人が言うと、蘭丸は我がことのように満面の笑みを浮かべて胸を張った。


「…でも、今は平和になったよ?」と別の小人が言って、寅三郎に笑みを浮かべて手を振った。


「見つけられなくて申し訳なかったな」と寅三郎が言うと、「…あはは… すっごく怒ってたから…」と小人は眉を下げて言った。


寅三郎が危険な兵器を没収して破壊して回った時のことだ。


そして寅三郎がロマンの背中を軽く押すと、「…ピポン、ペクチ、パトル…」と笑みを浮かべてつぶやくと、小人三人は眉を下げて、「…また会えたね、ロマン…」

と声を合わせてつぶやいた。


「…この記憶が、二百年も前のことだなんて…」とロマンがつぶやくと、「普通だったら再会できてないから!」というピポンの明るい言葉に、ロマンは満面の笑みを浮かべた。


ここからは自然にロマンと小人たち三人は寄り添うようになったので、ロマンの相棒たちとして寅三郎が雇うことになった。


「ほら、契約金だ」と寅三郎は言って、圧縮した凶悪兵器の粒のようなレアメタルを小人たちに渡すと、「…ずっと、一緒にいるぅー…」と小人たちは一斉につぶやいた。


そして寅三郎は信長と幻影にも粒を渡すと、「…重いな…」と信長は言った。


「…こりゃ金よりも貴重だ…」と幻影は眉を下げて言って、寅三郎に頭を下げた。


「普通の金がいるのなら、遠慮なく言ってくれたらいい。

 作ってもらいたいものもあるからな」


寅三郎の言葉に、小人たちは一斉に天使たちを見て眉を下げた。


「得意の製造は癒し系か?」


寅三郎の言葉に、三人は大いに眉を下げてうなづいた。


「では、こういうのはどうだ?」と寅三郎が言うと、小人たちは目を見開いてから、三人で相談を始めて、「…確かに癒し系だけど…」などと小声で相談を始め、三人で協力して小さな玉を造り上げた。


そして小人はナンシーを指名して玉を渡して、「イメージして天に押し上げるだけでいいよ?」という言葉に、ナンシーは神妙な眼をしてからイメージして、「ふんっ!」と鼻息荒く気合を入れて手のひらに乗せている玉を押し上げた。


すると、『ヒュー…』と風きり音が鳴ってから、『パパパパパアァ―――ンッ!!!』と、黄昏空に多くの大輪の花火の花が咲いた。


子供たちはあまりのことに眼を見開いたがすぐに、「すごいすごい!」と叫んで、ナンシーと小人たちを褒め称えた。


「…超安全な花火…」と幻影が眉を下げて言うと、「…ひとつふたつ仕事が減った分、ほかに力を入れられるから別によいよい…」と信長は空を見上げて笑みを浮かべていた。


ここから打ち上げ役の審査が始まったのだが、ナンシーを含めてわずか五人しかまともなものが打ち上がらなかった。


だが子供たちは出来損ないも楽しく堪能して、誰が見ても失敗でしかない出来栄えなのだが、蘭丸が大人気となっていた。


「…皆の修行の度合いや性格が具体的によくわかってよい…」とすべての者たちに認められた打ち上げ花火免許皆伝者の信長は言って、眉を下げた。


張り切りすぎて、しかも陽気に騒ぎすぎたようで、小人たちはロマンの手のひらの中で眠ってしまった。


寅三郎が寝所を出すと、ロマンは大いに恐縮してから礼を言い、三人をベッドに寝かせて笑みを浮かべた。



ナンシーは集まってきた村人の中にポリックとヒトミを見つけて、手招きをして呼んだ。


「ふたりを現地協力者として雇いたいのです」とナンシーが寅三郎に進言すると、「ああ、それでかまわん」と寅三郎は気さくに言って、ふたりに笑みを向けた。


「これで、現地協力者としては七人となった。

 この七人が協力し合って、この星でよき政治を行ってもらいたいものだ」


寅三郎の言葉に、ポリックとヒトミは眉を下げていたが、すぐさま頭を下げた。


「…七人?」とパトリックが怪訝そうな顔をして言ってから、指を差して数え、自分自身もだったとようやく気づいて苦笑いを浮かべた。


ふたりはナンシーとともに仕事ができると大いに陽気になったが、まずは食べる修行に専念し始めた。


「あの花火って、どうなっているんですか?」とポリックが素朴な質問をナンシーに問いかけると、「私の打ち上げ花火のイメージなの」という言葉に、ポリックは大いに納得した。


「…あれほど完全に再現できないって思うぅー…

 ひとつだけじゃなかったしぃー…」


ヒトミが眉を下げて言うと、「まずは子供たちの心の復興からだ」と堂々とした寅三郎の言葉に、ポリックとヒトミはすぐさま頭を下げた。


「ですが作る方がグロッキーじゃ、先が思いやられますわ…」


ナンシーの口調は優しいが、内容の厳しい言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「…さすが先生… とっても厳しいですね…」とポリックが何とか言っただけだった。


「…ま、まあここは、小人たちの機嫌を取りながら接して欲しい…」


寅三郎が大いに苦笑いを浮かべて言うと、ナンシーは笑みを浮かべてうなづいた。


「男の方でやさしく指導しますわ」


やはり仕事のこととなるとナンシーは厳しいと、誰もが思い知った瞬間だった。



その合格者の中に刀川美咲もいた。


やはり優秀な戦士はイメージング能力も高いのだ。


そして誰よりも拍手をもらっていたので、その工夫は素晴らしいものだった。


―― 変わらなきゃいけない! ―― と美咲が心に決め歩き始めると、コロネが笑みを浮かべてついて行った。


そしてナンシーの正面に立って、「私も」と美咲が言ったとたん、顔が真っ赤になって声が出なくなっていた。


この感覚はもう何百年も味わっていなかった。


これは心の病気と言っていいものだが、変えようがないものなのだ。


「本能と本質に、恥じらいが三つもあるんだよ」とコロネが解説すると、ナンシーは笑みを浮かべてうなづいて、「よろしくね、美咲」とやさしく言った。


「…は、はいぃー…」と美咲は何とか答えて、ナンシーに勧められるままに席に座った。


「性格的なものだから、

 まず更正はできないから。

 ここは私たちの修行として、

 美咲の立場に立って接してあげて欲しい。

 美咲だって、千年も生きていれば様々なことがあって、

 自分自身をごまかしていたんだと思うの。

 それがここに来て、一気に噴出してしまった。

 それほどに、美咲にとって、

 ここはリラックスできる場所になったのよ」


「…あー…」と美咲はつぶやいてから、何度も首を縦に振った。


「…女の子にとってはすっごい武器だわぁー…」とミスティンが嘆くように言った。


「だけど、有名な話は聞いているわよ」というナンシーの言葉に、美咲は頭を下げながら、顔の前で手のひらを激しく振った。


「…カノンちゃんは転生して、ロストソウル軍の重鎮になっちゃったから…

 ここに来られないことを悔しがってましたぁー…」


「…そう…

 必要があると思えば話してくれたらいいわ。

 私の場合は教育の一環として聞いた話しだから、

 もちろん率先して言いふらすことはしないわ」


ナンシーの言葉に、美咲は安堵の笑みを浮かべると、ミスティンとマデリーンは大いに眉を下げた。


もちろん、この先仲良くなれば、どのようなことも話すだろうとナンシーは思って笑みを浮かべていた。


「あのさ、僕って、もうすることってないから、

 そばにいていいかな?」


コロネがナンシーに聞くと、「私が決められるわけないじゃない」とナンシーは眉を下げて言って寅三郎を見た。


「必要な時は呼ぶから別にいい」と寅三郎が言うと、ナンシーは笑みを浮かべて頭を下げた。


「でもさ、僕が今まで出会った人で、

 ナンシーさんの様な人ってひとりもいなかったよ?」


コロネの親近感あふれる言葉に、「…俺を甘やかしてるんじゃあねえぇー…」とナンシーが畏れを垂れ流しながらうなると、「…う… うん… ごめんなさい…」とコロネは眉を下げて謝った。


「さすが我が主」とミスティンはナンシーの威厳に笑みを浮かべて言って頭を下げた。



酒井家はしばらくは穏やかな日々を過ごし、そしてここ数日は琵琶家ゆかりの地を巡って祭りに従事した。


忙しくも楽しい日々を過ごした三日後に、「明日、行くぞ」と信長は寅三郎に声をかけた。


「それは何より」と寅三郎は笑みを浮かべて答え、大いに武者震いをした。


もちろん、救済の宇宙の旅に出るのだ。


酒井家の役どころとしては、陸戦であれば後方支援となる。


前衛の琵琶家が戦いやすいように戦場を変えることが使命となる。


もしも宇宙での戦いがあるのであれば、ここでは前衛を担う。


このような決め事は家臣たちに周知徹底されていた。


そして翌日、酒井家はまずは後衛となったが、「…ぐぬぬ…」と信長はうなった。


戦場の一角で火の手が上がり、そこには大勢の現地住人たちが炎に巻かれ始めたのだ。


「酒井家はまずは人命救助だ!」と信長が叫ぶと、「ナンシー! 一気に救出せよ!」と寅三郎が叫んだ。


言うが早いか、ナンシーは巨大な水のベールを作り出して、大勢の人たちを天使の目の前に誘ってすぐに消火を施し、黒焦げになっている物体をやさしく寅三郎の部隊の前に連れてきた。


ここは気功術師軍団が、すぐさま正常化の棺を出して、大勢の蘇生を施した。


もちろん、すべてを救えたわけではなかったが、誰も落ち込まない。


ナンシーが炎を蹴散らすように放水すると、戦場では蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。


「真田軍!! 突撃ぃ―――っ!!!」という信長の気合が入った裏返った叫び声に、幻影と蘭丸は阿修羅となって、戦場に駆け込んで行き、多くを蹴散らし始めた。


「うおぉ―――っ!!!」と門下生たちも雄たけびを上げて阿修羅に続いた。


「遠方の武器から破壊だ!」と寅三郎が叫んで一瞬にして遠くにいる敵兵士から順に撤退を始め、阿修羅はさらに深く攻め込んで、逃げの一手の敵軍の砦を一刀両断にして破壊した。


「…終わってしまった…」と信長が眉を下げて言うと、寅三郎は笑みを浮かべてうなづいた。


「大きな破壊兵器はありません」と寅三郎が言うと、『ピー ヒョロロロロ…』とヒバリが機嫌よく鳴いた。


「幻之丞と咲笑の出番がなかったかぁー…」と信長はうなってにやりと笑って、上機嫌で笑った。


武器すべての破壊を終え、大地の復興と住人たちの心のケアを行った。


戦場となっていた近隣のみに大勢の人が住んでいたようで、その他の地域は痩せた土地が多かった。


その土地土地に移動して恩恵を与えると、信長は納得して、喜笑星への帰還を告げた。



それはいきなり訪れた。


ナンシーが安土城を見上げ笑みを浮かべたまま、その場に倒れこみ意識を失ったのだ。


寅三郎は大いに心配して思わず地面に倒れたナンシーを抱き締めると、その姿は水色のサラマンダーとなり、寅三郎の足は膝まで地面に埋まった。


だがそのようなことなど気にすることなく、「ナンシー! ナンシー!」と何度も必死になって叫んだ。


ナンシーは何とか意識を取り戻し、自分自身が倒れたことに気づいて、「…ああ、寅三郎様…」とつぶやいた。


その声はまるで子供のようで、ナンシーでもある水のサラマンダーは眼を見開いた。


『抱かれたままでもよいでおじゃる』


マロの嘲笑するような言葉に、「…そうは言ってられないわ…」とサラマンダーはつぶやいてから、「お杏ちゃん、大丈夫よ」と言うと、お杏は大いに泣いてサラマンダーを抱きしめた。


「…びっくりしたぁー…」とお凜は眼を見開いて言ってから満面の笑みを浮かべてサラマンダーとお杏を抱きしめた。


「今覚醒させる必要があったの?」とサラマンダーが責めるように言うと、水の神のマロはサラマンダーから出てきて、「あ、問題ない、って思ったからでおじゃる」と堂々と答えると、誰もが大いに眉を下げていた。


「…さすが、神だわぁー…」とサラマンダーは呆れるように言ってから変身をといて人型に戻ったが、その姿は十才程度の少女でしかなかった。


ナンシーがまずは自分の指先や足、そして衣服を確認してからムングと真珠を見上げて、「お姉ちゃん?」と言うと、「…身長は関係ないわよぉー…」とムングは眉を下げて答えた。


「でも得したわ!」とナンシーは明るく言って笑みを浮かべて、眉を下げている寅三郎を見上げた。


寅三郎は大いにバツが悪そうな顔をして大いに照れていた。


そして、「…祝言をする…」と寅三郎がつぶやくと、今度はナンシーが固まった。


「…着物… 大きすぎるぅー…」とナンシーが今着ている衣服を見ながら大いになげくと、「元の体にも戻れるでおじゃる」というマロの言葉に、ナンシーはすぐに体を大人に戻したが、「…頼りないわね…」と大いに文句を言った。


「少女の姿が適正なんだろうな。

 今の姿の時は、ミスティンとマデリーンに守ってもらえばいい」


寅三郎の言葉にふたりはすぐさまナンシーに寄り添って満面の笑みを浮かべた。


「そうね、そうするわ」とナンシーはすぐに認めて、この場が大いに姦しくなった。



そして大注目の反省会で。


「…ふっふっふ… ワシも知らなんだ…」と信長は機嫌よくつぶやいて、お杏に笑みを向けた。


「これがお杏の功績じゃ!」と信長が機嫌よく陽気に叫んで、咲笑がその映像を出すと、「おおっ!」と誰もが大きな声を上げた。


戦場に、炎の獅子が何頭も現れていたのだ。


ちなみに、信長たちがいた場所からでは、炎が立ち上がっていたのでまるっきり見えなかったが、敵兵たちはその恐ろしい姿を目の当たりにしていた。


よって敵兵が怯んだ事情はわからないが、信長はここぞとばかりに幻影たちに攻め込ませたのだ。


まさか、炎が獅子の姿をしているとは、誰も気づいていなかった。


「…吼えただけだよ?」とお杏がかわいらしく言うと、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


「吼えただけじゃ、こうはならないのよ」とナンシーが優しく言うと、「…悪いやつらって思ったからかなぁー…」とお杏は考えながら言った。


「お杏ちゃんはね、まずは炎の中にいた人たちを助けたかったの。

 炎の獅子は誰にも近寄らせないために出した脅しだったの」


ナンシーの優しい言葉に、「…そうだったんだぁー…」とお杏だけではなく、誰もが大いに感心してつぶやいた。


「…じゃが…」と信長はつぶやいてハイネを見た。


「…残念ですが、火の神は動いていません…」とナンシーは申し訳なさそうに言って頭を下げた。


その対象のハイネは眉を下げて、顔の前で手のひらを振って拒絶している。


幻影は眉を下げてハイネを見ながら、「…操りやすい現象を利用しただけ…」と呟くと、「…はい、その通りかと…」とナンシーはすぐさま答えた。


「炎の勢いも三分の二ほどに収まりましたので、

 あとは水の神と風の神とで中にいた人たちを救いました。

 そのおかげもあってか、

 助からなかったはずの三つの命が助かったようなのです」


ナンシーの言葉に、信長も幻影も笑みを浮かべてうなづいた。


「…今度はお杏かぁー…」と蘭丸はうなってお杏を抱き上げて、「俺の子だ!」とお決まりのせりふを叫んだ。


「…蘭丸様はおばちゃんだよ?」とお杏に陽気に言われてしまった蘭丸は大いに眉を下げていた。


そしてお杏は満面の笑みをナンシーに向けて両腕を伸ばし、ナンシーに抱かれた。


「…もう… 親離れしちゃったって思ってたのに…」とナンシーは感動して少し涙声で言うと、「ずっとお母さんだよ」とお杏は母親がほろりと来るようなことを言った。


「…あんまり、大きくなりたくないんだけどね…

 でもそれは贅沢だって、ファイガ兄ちゃんが言ってたぁー…」


お杏の言葉に、ファイガが大注目されて大いに戸惑った。


「そうね、使えるものはきちんと使わないとね。

 今のお杏ちゃんも大きくなったお杏ちゃんも、

 私のかわいい娘よ」


ナンシーの優しい言葉に、「よかったっ!」とお杏は陽気に叫んで、長身のナンシーよりも大きな獅子に変身して、ナンシーに甘えた。


「もっと大きいのかって思ってたわ」とナンシーは言って、軽がると獅子を抱き上げると、雌獅子は大いに眉を下げてお杏に戻った。


「…お母さんの方がすっごく大きかったぁー…」とお杏は嘆くように言ったが、機嫌よくナンシーに甘えた。


「ファイガ君はお兄ちゃんなの?」とナンシーがお杏に聞くと、「うん! そう!」とお杏は陽気に答えて、ファイガを見た。


「…恋愛感情は全くないようね…」とナンシーは眉を下げて言った。


ナンシーとしてはできれば、お杏かお凜がファイガの伴侶となってもらいたいと思っているようだ。


お凜はふたりのそばにいて笑みを浮かべているだけなので、お凜にもその気はないらしいとナンシーは思って眉を下げた。


「伴侶を決めるほど、長い時間をともにしてないから」


ファイガの言葉に、「…そうね… それが正解かもしれないわ…」とナンシーは感情を込めて言った。


「…ファイガは長い眼で見る必要がありそうじゃ…」と信長は大いに眉を下げ、さも残念そうに言った。



信長からたんまりと褒美をもらった酒井家は、獣王城に登城してくつろぎの時間を満喫した。


特にナンシーとファイガにとって、この土地は条件がいいようで、ふたりとも完全復活を果たしていた。


火山や温泉などは皆無なのだが、地面から神通力があふれているように感じるのだ。


マロ以外のほかの神もそれを認めていて、その宿主たちも早期の回復を終えていた。


「…火山も温泉もないのに…」とナンシーが何気なくつぶやくと、「なに?」とミスティンか不思議そうな顔をして聞いてきた。


ナンシーがその理由を告げると、「…そういえばそうね…」とミスティンは言って、今は猫のように寝転がっているマデリーンを見た。


「…ここ、それほど気持ちいいの?」とミスティンがマデリーンに聞くと、「…温泉気分ー…」とマデリーンは答えて笑みを浮かべた。


「…あ…」とナンシーはあることに気づいて声をあげると、ミスティンはナンシーの言葉を待った。


「…地下室の岩か、ほかに何か…」


「地下室があったのね…」とミスティンは大いに眉を下げて言った。


「まずは酒井様が地下室を作り上げてから、

 御屋形様にお城を建てていただいたの。

 だけど、今はまだ何も入れていないから、

 地下室の岩に何か恩恵でもあるのかなぁー…」


ナンシーの言葉に、ミスティンは大いに興味を持って何度もうなづいた。


「地下に降りてもいいけど、岩を切り出した場所はここから見える北の山よ。

 そこにも興味があるわ」


「散歩がてら行きましょう」とミスティンは笑みを浮かべて言って、嫌がるマデリーンの首根っこを持って立たせた。



ナンシーたちは廊下などで遊んでいた栗鼠なども仲間にして、ゆっくり歩いて二十分ほどの山にやってきた。


すると、動物を持つ者たちが自由気ままに行動を始めたので、ナンシーとミスティンは大いに眉を下げた。


そして寅三郎が気になったようでやってきてから、自由奔放な栗鼠たちを見て、苦笑いを浮かべた。


ナンシーが寅三郎に事情を説明してから、「マロだったら理由がわかるんじゃないの?」と、栗鼠たちと遊び呆けている透明の塊に向けて聞いた。


「…あー… これは…」と、声をあげたのはファイガで、少しかがんで地面の土を握った。


「…妖精の幸運…」とファイガはつぶやいて笑みを浮かべた。


「…妖精の幸運?」と寅三郎が復唱すると、「…話しでしか聞いたことがなかったわ…」とミスティンは眉を下げて言ったが、すぐに笑みを浮かべた。


「…半分はいい話ではありませんけどね…」とファイガは言って苦笑いを浮かべた。


「ここで、妖精が死んだの」というミスティンの言葉に、寅三郎とナンシーは眼を見開いた。


寅三郎がセイレーヌに念話を送ると、『…あー… そこで転生しちゃったのね…』と悲しげな声で返答があった。


セイレーヌの妖精というわけではなく、ふらりとやってきた妖精で、この星が気に入ったようで、穏形ではなく正体を晒して住んでもいいのかと聞いて来たので、セイレーヌは快く許可した。


この話はもう数百万年ほど前の出来事だった。


そしてセイレーヌを抱き抱えた信長が猛然たる速度で走ってやってきて、「…面妖な…」とつぶやいて動物たちを見入った。


「…そこから始めよるか、リザーリ・リン…」


信長のつぶやきに誰もが目を見開いて、栗鼠のお凜とそっくりの栗鼠を見入った。


ナンシーは笑みを浮かべてしゃがんで、「…あなたもリンちゃんなのね…」と、お凛のとなりにいる栗鼠に言った。


動物なりのしぐさなのか、人間っぽく照れているのか、栗鼠は顔を洗うようなしぐさをしている。


「…さすが、お母さんだぁー…」ともう一匹の栗鼠が言って、ナンシーの指に頭をこすりつけた。


「見た目は一緒よ。

 だけど、存在感がぜんぜん違うから。

 お凛ちゃんは神でもあるもの。

 だけど、トンビが判断がつかなかったみたいね」


『…ピー…』とトンビが心細げな声をあげてから、お凜と同化した。


「…お凛の体をそのまま複写したようだな…」と寅三郎は言って大いに眉を下げた。


「ここにいる動物たちの中で一番動物で一番幸運だからだと思います」


ファイガが笑みを浮かべて言うと、誰もが何度もうなづいた。


お凜は人型をとって栗鼠を両手で抱き上げて笑みを浮かべた。


栗鼠はお凜を見て目を見開いている。


さすがに人間には変身できないようで、栗鼠は少しうなだれていた。


「御屋形様のお知り合いなの?」とお凜が聞いて栗鼠を差し出すと、「知ってはおるが、この子はワシのことは知らんようじゃ」と答えて苦笑いを浮かべた。


「でもね、御屋形様に興味があるよ?」というお凛の言葉に、信長は大いに喜んだ。


すると栗鼠は信長に飛びついてから、肩まで登って大人しく座っている。


「…珍しいこともあるもんじゃ…」と信長は機嫌よく言って、お付きの欄丸たちとともに走って安土城に向かって帰って行った。



ナンシーは少し考え、なぜだか少女の姿になって寅三郎を見上げた。


普段の倍以上の角度で見上げるので、まるで小山のように大きいし、魔王の姿だとさらに見上げることになり、顔が違って見えるだろう。


「…なに?」と寅三郎が大いに眉を下げてナンシーに聞くと、「…祝言、って…」と大いに照れながら答えた。


大人のナンシーだと、この言葉すら出なかったと、ナンシーは確信していた。


「…ガッツ村に行こう…」と寅三郎は大いに照れながら言って、額の辺りを指でかいていた。


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