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赤い幻影 akaigenei ~修行の旅編~      赤陥没 akakanbotu


   赤い幻影 akaigenei ~修行の旅編~



     赤陥没 akakanbotu



翌朝、家忠とお凛は朝食を済ませてから、いかだに乗って西を目指した。


すると、巨大な穴倉でまだ作業をしていると感じて、まずは西の海岸にいかだを上げてから、目的だった村を横断して、観光地でもある穴の様子を見に行くことにした。


ゼンドラドは地上から指示をしているようだが、すぐに家忠の存在に気付いて、朝の挨拶を交わした。


「まさか、昨晩からずっとですか?」と家忠が聞くと、「探知できない、何かを隠しているようなんだ」とゼンドラドは眉を下げて言った。


「例の箱の中に手紙が入っていたのだが、

 そこに、マスクメロンという名詞が書いてあった」


それを埋めたようなのだが、そんなものを埋めてどうするということとなり、掘った形跡のある場所だけを探しているわけだ。


「なぜか無数にあってね…

 しかもかなり昔の話だから、その判断もあいまいなんだ…

 とんだ置き土産を残してくれたものだよ、全く…」


ゼンドラドは呆れると同時に憤慨していた。


「…危険物でないことだけを祈るしかなさそうですね…」と家忠が眉を下げて言うと、『…わかる、かもぉー…』と栗鼠が自身なさ気に言ったのだが、ここは藁を持つかむということもあり、家忠はゼンドラドに許可を取って、穴の底に降りた。


そして家忠は栗鼠に誘導されるがまま、南の端の岩盤の前に立った。


「…掘った形跡なんてないぞ…」と家忠が地面を見回しながら言うと、『…その岩が多分そうだって思うぅー…』という頼りなげな栗鼠の言葉に、「…始めからここに鎮座していたか…」と家忠は目の前にる巨大な岩を見入って、すぐさまゼンドラドを呼んで調べてもらうことにした。


「埋めたいうよりも立てかけて塗り込んだといったところか…」と家忠は周りの様子から判断して言った。


長い年月で、塗った土などははがれてしまったようだった。


ゼンドラドはすぐにやって来て、そして大山勇気を大声で呼んで岩を入念に調べてもらうと、「…人工物です…」と勇気は眉を下げて言った。


「だが、どうしてわかったんだ?」と家忠が聞くと、『たぶん、この星の物じゃないから?』と栗鼠が答えた。


「…なるほどな、俺では見当もつかんからな…」と家忠が言うと、「誰よりも使える栗鼠だ」とゼンドラドは眉を下げて言って、栗鼠に頭を下げた。


「良かったな、就職先がもう見つかったぞ」と家忠が機嫌よく言うと、栗鼠はすぐさま家忠の懐の中に入って行った。


「…残念、逃げられた…」とゼンドラドは言ってから、愉快そうに笑った。


「…中身は人間です…

 しかもこの岩は生命維持装置のようで、

 生体反応があります…」


勇気が眉を下げて言うと、「ここから持ち出して、エラルレラ山のトンネルで作業だ!」とゼンドラドは叫んだ。


勇者たちは協力して巨大な岩を持ち上げて地上に上げた。


家忠も地上に戻ってから、ゼンドラドたちに別れを告げた。


「…エラルレラ山って知ってる?」と家忠が聞くと、『…メリスン・ランダ町の東の端の海沿いにある山だよ…』と栗鼠が答えた。


『そこには本当のジゴクがあったんだ。

 ここに何度も来た真田幻影様が、

 悪を全部消しちゃったんだ』


―― そんなこともあったんだ… ―― と家忠は思って、大いに苦笑いを浮かべた。



家忠は予定通りに旅を再開して、近場の村を今度は縦断して、南の町に宿を取った。


ここには権力者が住んでいたこともあり、その名残で住人は多い。


やはり農産物もかなりうまいものが多く、動物が町に降りてこないように、山の方にもその恩恵を与えているようで、山や鳥獣保護区も土地が大いに肥えている。


さらに歴史的遺産も数々あって、一日では回り切れなかった。


まさに歴史的産物は長い時間をかけて作られているようで、芸術品でしかないと恐れ入っていた。


家忠が宿の茶屋でコーヒーを飲んでいると、その一角の端の方で、祭りの会議をしていると感じた。


一番の問題はやはりご神体で、問題の多いグレラスは神と認めないという意見が多いようだった。


―― それでは神として機能しないのだが… ―― と家忠が考えていると、「どういうことなの?」とお凛が聞いてきたので、家忠は声に出さずに思考だけで説明した。


「…あー… 神様としては必要なことなんだぁー…」


「…神とつく種族はみんなそれが必要だと思っている…

 …信仰してもらえないと、本来の神の力は発揮できないように思う…

 我がお師様は神ではないが、

 勇者という種族以上の力を持っておられる。

 よって崇められることで、

 さらに力を上げられていたことが最近分かったんだ。

 お師様としてはできればそれを拒絶したいところだが、

 修行として甘んじているところも多いんだ…」


「…胡蝶蘭様も?」とお凛が聞くと、「…最低でも、我らや子にした者たちは神と崇めているようなものだ…」と家忠は答えた。


すると、家忠に向かって座っていた者がそれなりの有名人の家忠に気付いて、仲間には何も言わずに立ち上がって、走ってやってきた。


「酒井家忠様ですね?!」と名指しで問われてしまったので、「ああそうだ」と家忠は答えるしかなかった。


「我が町に来られているとは、本当に光栄です!」と家忠よりも少し年少と思える男が叫んだ。


「このセルラ星の全てを回ることにしているからな」


男は祭りについて話をしているのだが、どうしてもご神体を決められないと、うなだれて言ったので、有効な候補として考えられることを並べた。


もちろん、この地の観光地を回って知った歴史上の人物についても語ると、目を見開いていた。


「…それは、真っ先に候補から外していたのですが…」


「問題は天上の神が喧嘩をすることだけにあるから、

 あとは城が決めることだ。

 できれば、その者が天上の神と接触していない方がいい。

 満場一致であれば、城にお伺いを立てればいい。

 あとは王が天上の神にお伺いを立てて調べるはずだからな」


家忠の助言に、男はすぐさま礼を言って、この地出身の偉人たちの名を並べてすぐに、記録が残っているかなり前の王を神とすることに決まった。


そして肝心の神との接触だが、『灰色』として誰もが眉を下げていた。


その伝記の中に、どう考えても神らしき者が出てくるからだ。


しかしまずはお伺いを立てることにして、全員が立ち上がり、家忠に礼を言ってから、城の出張所に向かった。



「…ああ、これか…」と家忠は言って、短いが大いに参考になる、観光地で配っていた冊子の文章を見つけた。


「…偉大な王の傍らには、赤い髪赤い目の杖を突いている配下が寄り添い、

 王に的確な指示を与えた…」


家忠が大いに眉を下げて言うと、「…グレラス様だよぉー…」とお凛は確信したように言った。


もちろん家忠も眉を下げながらも賛同した。


この王は女性で、マルーン・センタルアという名前だった。


「…だが、火竜グレラスの前世だとすれば、

 相当に前の話だな…

 数百年前では済まない程だろう…

 最低でも三千万年ほど前の悠久の昔だ…

 この地の力が大きかった所以だろうな…

 …まあ、グレラスは覚えちゃいないだろうが…」


「…ちょっと、ざんねぇーん…」とお凛は眉を下げて言った。


「だが、魂を読める者だったらできない話ではない。

 セイラ殿やメリスン様、ゼンドラド様ならできると感じる」



家忠の言葉通りに、調査が行われていて、この町にグレラスがいたことも確認できた。


その理由はグレラスがマルーン・センタルアが運命の女性だと疑っていないことだけにあった。


さらにその前の、グレラス・ドラグニル一世のころに、愛した女性がセンタルアだった。


その生まれ変わりだと思っていたそうだが、マルーンは一般的な年齢で崩御して、グレラスを大いに落胆させたという話だった。


城からはすべてを公表して、マルーンを崇める対象にしてもいいという話となり、さらにはその従者がグレラス・ドラグニルであることまで、事情とともに話した。


村の代表者は大いに微妙だったが、グレラスも神の一部として、祭りを行うことに決まった。


ちなみに、イルニー家とは今までに一度も直接には戦っていなかったことも、許可を出した理由のひとつだった。


今でこそグレラスとイルニー家の関係は深いが、当時は近くにいても一線を引いていた事実もあったからだ。


この件は早速王室から報道があり、自他ともに認められた祭りとなった。


家忠たちが部屋で眠っている時には、町を上げてお祭り騒ぎとなっていた。



翌朝の朝餉の際、従業員たちは大いに眠そうだったが、仕事はきちんとこなしていたので、家忠はごく普通に飯を食らってから宿を引き払って、まだ見ていない場所に移動した。


昼になる前にすべてを見終えて、町を離れて北の村に移動した。


そして海岸に行くと、いかだに村人たちがたむろしていた。


「すまん、俺のだ」と家忠が言って軽々と担ぎ上げると、「おー…」と誰もが言って、子供たちは拍手をしていた。


そしていかだを海岸に浮かべてから、岬を回りこんで力強く漕いでから南下した。


するとすぐに涼しくなってきたので、すぐに旋回して北上した。


「さすがにかなり冷えそうだ」と家忠が言うと、『よかったぁー…』と栗鼠は言って、家忠の懐から出てきて、機嫌よく肩に座った。



グレラスの居城のある山が見える対岸の大陸の砂浜にいかだを上陸させていると、二頭の巨大な影が見えた。


「やあ!」と家忠が気さくに声をかけると、二頭は人型に変身して家忠に頭を下げた。


「この地を離れる決心をしました」とゼロスが言って頭を下げると、ポピーも追従した。


「そうか…

 そうなれば、あっちの世界ではまた顔を合わせることになりそうだな」


家忠の気さくな言葉に、ふたりは大いに喜んでから、巨大な鯱に変身して、潮を噴き上げながら対岸に戻って行った。


近くの村の茶店でコーヒー片手に軽食を摂っていると、ここでも祭りの件について眉を下げて話をしていた。


やはりどこも同じで、ご神体候補は天上の神の場合が多いようなので、かなり苦悩しているようだ。


ここでは名指しで呼ばれることはなく、家忠とお凛はくつろぎの時間を満喫して店を出た。


お凛はすぐにその体を栗鼠に戻して、機嫌よく家忠の肩に座った。


この地は見て回る名所などはなく、近くに巨大な囲いがある場所だ。


南東に街道を歩いていると早速その塀が見えてきたが、獣がいるようには見えない。


何しろ広大な敷地なので、見える範囲にはいないだけだろうと感じて、家忠は高い木に登り始めた。


「おっ いたいた」と家忠が控えめな声で言うと、栗鼠は慌てて家忠の懐に隠れた。


「…首長竜だが、牙がすごいな…」と家忠が眉をひそめて言うと、栗鼠は懐の中で体を震わせていた。


そしてここに登って、柵が二重になっていることにも気づいた。


もしも恐竜が近づいても、人間程度であれば塀に隠れてしまうので、近くでは見ることはできなくなっている。


これは恐竜に対しての配慮の意味が大きい。


『来るよ!』と栗鼠が叫ぶと、家忠はすぐに木を降りた。


しばらくはこちらに向かって走っていたが、今は動いていないと察知した。


「気配を察知する能力に長けているな」と家忠は大いに眉を下げて言った。


栗鼠の心音がかなり早くなったことに気づき、「大丈夫だ、何があっても俺が守る」という家忠の力強い言葉に、栗鼠はすぐさま落ち着きを取り戻した。


家忠はこの檻に沿っている細い街道を走って回り、修行の代わりにした。


一周四百キロほどある道なので、それなり以上にいい運動になったし、なぜだか動物になっていくような気がしていた。


しかし栗鼠は大いに怯えていたのだが、南北の大陸の境にある村の茶店では大いに気を抜いていて、まさに幸せそうな顔をして、店での飲食を楽しんだ。


ここまでくれば、メリスン・ランダ町に戻ったも同然の場所だった。


この辺りは自然だけが観光名所のような場所で、それほど見て回る場所はない。


一度メリスンの店に顔を出してから、南の大陸を南下する予定を立ててから店を出た。



あっという間にメリスン・ランダ町に到着して、早速メリスンの店に行くと、二人は大歓迎された。


残念ながらほかには知り合いの顔はなく、誰もが大いに働いているようだった。


「セイラの名を不幸ちゃんに変えたわ」とメリスンが陽気に言うと、家忠は少し笑って何度もうなづいた。


「ところで、ロストソウル軍の軍人も雇っているのですか?」


家忠が宿の茶店で見かけた軍人を思い出して聞くと、「…伸び悩み… 環境を変えれば何とかなるかもという事情よ…」とメリスンがため息交じりに言うと、家忠は大いに納得してうなづいた。


「ここで働くとなると出入り口に近すぎる」


「そうね、それは大いにあるわ。

 だからこそ、ここからかなり遠い場所だけに行ってもらっているの。

 もっとも、空を飛べばすぐにここに戻ってこられるけど、

 飛んでいる間に気が変わるかもしれないから、

 この距離感は必要なの」


メリスンは言い切ってから、お凛に笑みを向けた。


「なににする?」とメリスンがお凛にやさしく聞くと、「お食事が先ぃー…」とお凛は言って、家忠に笑みを向けた。


「ああ、そうだな」と家忠は笑みを浮かべて応えて、メリスンのお勧めの料理を注文した。


「…じゃ、お金に糸目はつけない料理を…」とメリスンは腕まくりをして言って、次々とうまい料理を作り上げて行った。


もちろん、家忠は冒険者やハンターの中では有名人だし、メリスンは神の代行業としてジゴクに関しての様々な管理もしているので、家忠の懐事情を知らないわけはない。


よって普段は出すことのない豪華料理を次々とテーブルの上に並べると、家忠とお凛は笑みを浮かべてもりもりと食べ始めた。


お凛は家忠に似てしまったようで、幼児なのにかなりの量を食べるようになっていた。


大人一人前など当り前のように、ぺろりと食べ切った。


そしてデザートもテーブル一杯に並べると、お凛がほとんどを食べてしまったことに、メリスンは眉を下げていた。


お凛は食べ切ってから、「美味し過ぎてまだ食べてないみたい」などと言ってメリスンを大いに喜ばせた。



一段落ついて、家忠は美味いコーヒーを飲みながら、「ゼンドラド様はエラルレラ山ですか?」と興味を持って聞いた。


メリスンは眉を下げて、「…さすがに生きている生物が入っているから慎重なの…」と言った。


よって、外からは開けづらい構造になっていると家忠は察した。


家忠はさらに興味を持って、お凛を連れて散歩がてらにエラルレラ山に向けて歩いた。



中央公園を左手に見て、右に術で石化した恐竜を見ながら街道をまっすぐに進むと、田園風景が見事な開けた場所に出て、この街道の中ほどに露店が出ていた。


「…美人村名物、魂饅頭…」と家忠は幟を見て苦笑いを浮かべた。


「だんなぁー… 今日はからっきしなんだぁー… 買ってくれよぉー…」


まさに美人の悪魔に言われてひと箱買うと、「好きにしてくれ!」と叫ばれたが辞退して銭を支払った。


「…欲のないヤツめぇー…」と悪魔はうなってホホを赤らめていた。


うまい饅頭を大いに食らってから東に向かって歩いていくと、学校地区に入った。


今は授業中のようで、左手に見える校舎の中にだけ人の気配がする。


先に進むと少し距離があり高台になっていてる場所に妙に近代的な児童公園を発見したので、少しだけお凛を遊ばせた。


そしてはっきりとエラルレラ山を確認できる広場に出ると、整備されている広大な敷地内で、子供たちが自転車をこいでいた。


どうやら学校の運動の授業だろうと察しながら、山の麓に行くと、巨大な隧道があった。


人の気配はあるので家忠は声を出すことはせず慎重に進んで、眉を下げているゼンドラドを発見した。


そしてすぐさまあいさつを交わして、「どうして岩を立てたままにしているんです?」と家忠が素朴な質問をすると、「…うっ まさか…」とゼンドラドは言って術を使って岩を寝かせた途端に、からくりが動き出したような音が聞こえ始めた。


「結界、張ったわ!」と不幸ちゃんが真剣な顔をして叫ぶと、『プッシュー…』という音が聞こえて、三重になっている扉が開き、着飾った女性が眠っている姿を見せた。


「大丈夫、きちんと生きているし、

 悪霊は皆無だ」


セイルが笑みを浮かべて言うと、誰もがほっと胸をなでおろしていた。


家忠はゼンドラドの影に隠れるようにして身を引いた。


無性に嫌な予感がしたからだ。


『…外に出た方がいいのかもぉー…』という栗鼠の助言に、家忠は音を立てることなく、逃げるようにして隧道を出た。


家忠は栗鼠に礼として、小さな遊園地で心行くまで遊ばせた。


遊具が幼児用で、家忠は体が大きいため、一緒に遊べないことにお凜が眉を下げていると、幼児に近い子供たちがやって来て、早速お凛と友達になって、一緒に遊び始めた。


教師のひとりが家忠を知っていたようで、笑みを浮かべて頭を下げてきたので、家忠も倣った。


「教師も天使修行のひとつですか?」と家忠が聞くと、女性は慌てた顔をして頭の上を腕で覆った。


「残念ながら天使の輪は私には見えません。

 あなたの雰囲気から天使だろうと察しただけです」


「…酒井様は、本当に能力者ではないんですね…」と教師はゆっくりと腕を下ろしながら眉を下げて言った。


女性は山本麻美と名乗って、フリージアから出向できていると語った。


ほかの教師も同じで、デヴィラとハンナの代わりに来たと語った。


デヴィラは知っていたが、ハンナについて聞くと、ゴールド星で刑務所の所長をしていると聞いて、両極端な職に大いに眉を下げた。


しかしよくよく考えれば、人を管理教育するという意味では似たような職でもある。


家忠は一度ゴールド星に行っているので、確かに遊園地の遥か彼方の場所にそれらしき建物はあったと思い起した。


「酒井様のお子様ですか?」と麻美が気さくに聞くと、「いえ、旅の途中で知り合った栗鼠です」という家忠の言葉に、「…栗鼠…」と麻美は目を見開いて言って、お凛にすぐさま寄り添った。


そしてお凛が栗鼠に戻ると、誰もが大いに驚いたが、さらに幼児たちと仲良くなっていた。


家忠とお凛は幼児たちと天使たちに別れの挨拶をして、メリスンの店に行ってからここでも別れの挨拶をしてから、いかだを取りに西に歩を進めた。


エラルレラ山の南側に小さいが海岸があったので、そこからいかだを出すことにしたのだ。



家忠はいかだを担ぎ上げて、町の南側のあまり整備されていない岩場の道を歩いた。


左手に街並みや学校の建物を見ながら砂浜に到着した時に、ゼンドラドがすっ飛んでやってきた。


「いい予感がしないので、早々に旅立ちます」という家忠の先制攻撃に、「…なかなか鋭い…」とゼンドラドは言って眉を下げた。


「…目覚めたお姫様がな、もうひとりここにいたと言ってな…

 あんたが消えていたから、

 何か事情でもあったのかと思っていたんだが…」


「もちろん知り合いではありませんよ…

 随分と過去の人のようですから」


家忠の言葉に、ゼンドラドは、「そりゃそうだ…」と眉を下げて言った。


「ひとり旅なので、探すと嫌われるなどと言って説得しておいてください。

 今までの功績は帳消しでも構いません」


ゼンドラドは何度もうなづいて、「…あんたの予感は悪いことばかりではない…」と予言するように言うと、家忠は大いに戸惑った。


「一目で、恋に落ちることだってあるからな」とゼンドラドが言って気さくに家忠の肩を叩くと、「…旅を続けられなくなる嫌な予感だったのか…」と家忠は大いに納得した。


「だが問題はあるぞ。

 あんたの村の祭りはもう五日後だ。

 そろそろ、フリル村に行った方がいいと思うんだが?

 頼りにされているんだろ?」


家忠はそれを思い出し、いかだを見た。


―― また担ごう… ―― と眉を下げて考えた。


そしてガイドブックを開いて地図を確認すると、距離はあるが海伝いに行ける距離だったので、北上してから西に航路を取ることに決めた。


気候についてゼンドラドに聞くと、北上しても大陸沿いであればそれほど寒くないと返答があったので、家忠とお凛はゼンドラドに礼を言って、波打ち際に浮かべたいかだに飛び乗った。



距離はあったが海流のおかげなのか、それほど時間がかからずに、前に来た橋の真下に近い砂浜にたどり着いて、いかだをまた木に立てかけて、露店の果物売りの店の前に出た。


売り子の女子はまた驚いたが大いに歓迎して、早速売れ残りの果実などを家忠に売りつけた。


そして家忠とお凛はぺろりと食べつくして、店じまいをした女子とともに旅館に歩を進めた。


宿に着いた時、辺りは濃い黄昏時となっていた。


家忠は宿の女将に大歓迎されて、早速部屋に誘われた。


そして本格的に食事を摂ってから、寝る前のひと仕事として、菓子などを大量に作り上げた。


材料は村がふんだんに準備してあったので、まさに作り放題だった。


後は祭りの日まで、菓子を作り続けるだけだ。



家忠は菓子づくり以外にも様々な手伝いして、祭り前日にこぎつけた。


村中の飾りつけを終えて、村人全員で作り上げた神の像も完成した。


まさに写真通りに出来上がり、誰もが大いに満足気な顔をして納得の笑みを浮かべた。


午前中は最後の菓子作りを行って、昼の間は穏やかに過ごし、夜になる前に前夜祭と称して村人たちだけで食事会が始まった。


酒は厳禁で、体調を万全にという村長の言葉通りに、大いにうまい飯を食らった。


すると信長から連絡があり、先乗りするというので、家忠は広い場所に出た。


家忠から琵琶一家が飛び出してきたので、近くにいた村人たちは大いに驚いていた。


「よく考えたら陸路でもよかった」という今更ながらの幻影の言葉に、信長も家忠も大いに眉を下げていた。


「…帰りは物見遊山がてら歩く…」と信長は苦笑いを浮かべて言った。


そして長春が陽気に小さな花火大会を始めると、村人たちは誰もが拝み始めた。


畏れ多いというよりも感謝の気持ちがほとんどだった。


琵琶一家は大荷物を持ってきたいたが、今はお披露目はしないようで、宿の庭に小屋を造って仕舞い込んだ。


「…少々まずいことが発生しました…」と家忠が幻影に大昔の姫様らしい人物について告白すると、「…今は平常心だけど?」という幻影の素朴な疑問に答えられなかった。


「…何か、からくりでも…」と家忠は大いに疑い始めた。


「結果は間違いなくそうなったのかもしれない。

 だが、そうなる過程が術にあったとすれば?」


幻影の言葉に、「…私はやはり、まだまだでした…」と家忠は胸を張って言って、幻影に素早く頭を下げた。


「憶測だが、二重の不安があったと思ってもいい。

 だから会わないことは吉だろうが、

 寅三郎さんが術にかかるとは限らない」


「はっ! 自信を持てました!」と家忠はさらに胸を張って叫んだ。


「…気合で、ふっとばすぅー…」と家忠がうなると、周りにいた村人たちが大いに怯えた。


「寅三郎さんが神でもいいんじゃないの?」と幻影は気さくに言って、村人たちの手作りのご神体を見上げて笑みを浮かべた。


「…今頃は、捕らえられて縛り付けられているかも…」と家忠が苦笑いを浮かべて言うと、栗鼠は家忠の首筋を頭でなで捲っていた。


「まさか、もう手下になったのか?」と家忠が少し心配して栗鼠に聞くと、『うん、なったけど、今まで通りでいいって!』と栗鼠の声は今まで以上に元気だった。


もちろん長春に狙われた動物で手下にならないものの方がはるかに少ない。


長春はもちろんそのつもりでここにやってきたにも等しかった。


しかし、今まで通り放任なので、生活を変える必要はなかった。


「そうか…

 変わった動物でなくて助かったってところだな…」


家忠の言葉は栗鼠にとって気に入らなかったようだが、ぬいぐるみ代わりの耳の長い兎には同情していた。


もちろん、兎には拒否権があるし手下ではないのだが、心根がやさしいので、興味を引くことがなければ、ある程度はいいなりになるようだ。



すると城の出張所から役人が走って来て、家忠に、「ゼンドラド様からお電話です!」と叫んだのですっ飛んで出張所に行って電話を取った。


『…やられたよ…』と気落ちした言葉でゼンドラドは言った。


「まさかですが、逃がしたのですか?」と家忠が聞くと、『いや、最悪のケースはメリスンが食い止めた』という言葉に、家忠はほっと胸をなでおろした。


『女はリンと名乗っているのだが、

 あんた、魔王なのかい?』


ゼンドラドの言葉に、家忠は固まった。



家忠は丁寧に礼を言って、電話を切った。


もちろん、魔王という問いかけには驚いたが、今はその結果を見ないと宣言した。


よって姫はまさにその通りだが、魔王も長い旅をしていたのだろうと他人事のように考えた。


『魔王様の姫は私ぃー♪』と栗鼠が陽気に歌い始めたので、家忠は愉快そうに笑った。


能力者としての覚醒もそうだが、魔王となると性格まで変わってしまうことを家忠は大いに恐れたのだ。


しかし信長はそれほど変わらなかったこともあり、できれば家忠もそうでありたいと思ってやまなかった。


よってさらなる精神修行が必要という想いも大きくなっていた。


「前の魔王の姫で、魔王が消えて長い旅に出たと言ったところか…

 そうなった経緯を知りたいが、

 ま、星ごと吹っ飛ばせば、魔王も生きちゃいないだろう」


『…すっごく悪い人は時々いるって、神様も言ったよ?』と栗鼠が答えると、「…神を便利道具のように使うなよ…」と家忠が注意を促すと、『…兎ちゃんのようになっちゃうぅー…』と栗鼠は大いに嘆いて、程々にすることに決めた。


「俺の呪縛を解く。

 このままではきっとよくない」


家忠の言葉に、『え? 何もないよ?』と栗鼠が答えると、「俺の名だ」と家忠は短く言った。


「お師様はあえて俺を寅三郎と呼んでくれた。

 俺は父の意思を継いで父の名の家忠をもらったんだが、

 それはあまり良くないと、お師様は思われたと感じたんだ。

 よって俺はまた寅三郎に戻る」


寅三郎が宣言するように穏やかに言うと、寅三郎は風のような何かに身を包まれて、その体が巨大になっていた。


そして眼下では村人たちは一斉に地面に膝をつけてひれ伏した。


『俺はその行為は好まぬ』と世にも恐ろし気な魔王がうなると、村人たちは立ち上がって笑みを浮かべた。


すると信長も魔王となったが、寅三郎の魔王の方が倍以上にでかいことに、第六天魔王は大いにうなっている。


「第八天は旅立て」という第六天の言葉に、「言われずとも」と第八天は答えてにやりと笑った。


「…俺が一番の小者じゃないだろうな…」と第六天がうなると、「肉体の大きさなど関係はない」と第八天は言って変身を解いた。


「…あー… 元に戻れたぁー…」と寅三郎がほっと胸を撫でおろして言うと、『…驚いたぁー…』と栗鼠は言って、いつものように寅三郎の首筋を頭でなで回った。


「…家忠…

 寅三郎を手放すことになろうとは…」


信長に戻って眉を下げて大いにうなると、「あんたが暇を出したのです」と濃姫は目を吊り上げて言った。


「喜笑星に城を構えたく」という家忠の言葉に、「…よきに計らえぇー…」と信長は眉を下げて言った。


「しばらくは家臣集めで時間を費やしますので。

 それなりに揃えば、喜笑星から出奔いたします。

 わがままを言って申し訳ございません」


寅三郎が丁重に謝ると、「それでまったく構わん。じゃが、時には仕事を手伝ってもらうことにもなろうて」という信長の言葉に、寅三郎は笑みを浮かべて頭を下げた。


「御屋形様!」と信幻が真剣な目をして信長を見て叫んだ。


「家臣を主とするか…」という信長の言葉に、信幻は笑みを浮かべて、「わがままを言って申し訳ございません」と言った。


「いえ、認めません」という寅三郎の言葉に、信幻は大いに眉を下げた。


「俺の家臣は俺が選定します。

 殿は今まで通り、最終的な成長を待たれた方がいい。

 変えない方が吉の場合も多いはずでござる」


「…何も変わってないのね…」という濃姫の言葉に、寅三郎は大いに喜んで頭を下げた。


「それに…」と寅三郎は言って、足元にいて腕を伸ばしている阿利渚とハイネを見て、栗鼠を阿利渚に手渡した。


「嫁婿問題もございますれば」という寅三郎の言葉に、信幻は感情に任せた迂闊な行動だったと大いに反省した。


そして夕暮れが迫ると前夜祭が始まった。


これも祭りの一部なのだが、露店販売はせず、村人たちが食って飲んで踊るだけの催しだが、ここは阿国が歌舞伎踊りを披露して、大いに盛り上げた。



祭り当日は朝っぱらからのお祭り騒ぎなのだが、露店販売はまだ行われていない。


まずは御神体の紹介という演劇が始まったのだ。


特に若い者たちへの言い聞かせと言ってもいい出し物で、誰もが真剣な面持ちで演技をする。


この練習をするために、祭りの日にまでに時間を設けた面もある。


この村に伝わる伝記に基づいた二作と、御神体の晩年について語られた。


「…御神体は死しておらぬとは…」と寅三郎はうなって幻影を見た。


幻影はいつものように笑みを浮かべているだけで、演技を終えた演者たちに拍手を送っている。


「…じいちゃんは消えたんだ…」と寅三郎がつぶやくと、「…そう聞いてるわ…」と女将は苦笑い気味の笑みを浮かべて答えた。


御神体は何の前触れもなく忽然と姿を消して、この村に戻ってくることはなかった。


それもそのはずで、何らかの理由があって、今の幻影に転生していたからだ。


よって魂は同一なので、神として崇める気持ちはすべて幻影の糧となっている。


もしも証拠があり、村民たちが認めた場合、幻影には更なる糧が与えられるはずだ。


しかしその証明は難しいし、率先することでもないので、信長は笑みを浮かべているだけで何も言わなかった。



露店販売が始まると、このドレス村の村人たちが琵琶家の露店に大集合して、さまざまな商品を買っていった。


もっとも、材料費を差し引いた売上金のほとんどを村に寄付することはわかっているので、村長たち村の重鎮や役人たちは満面の笑みを浮かべていた。


平和には更なる平和を、という琵琶家の方針を、村長は快く感謝したのだ。


もっとも、酒井家忠という旅人が現れなければ、村長がこれほどに穏やかになることはなかった。


このセルラ星に住む者で、疑い深い者はそれほどにいるのだ。


まさに家族のように接した寅三郎の信用があってこそ、村長は琵琶家も快く認めた。


さらには祭りを盛り上げるうまい菓子や民芸品などにも眼を奪われていた。


ここでは勇健が大いに奮起して、根付の実演販売をしている。


その隣で美麗が組み紐を編んでいる姿を見て、「将来は夫婦に?」などと冷やかされて、ふたりとも大いに照れている。


祭りは滞りなく執り行われ、暗くなり始めると、琵琶家主催の花火大会が始まった。


まさにどこにもない祭りに、誰もが大いに感動して、騒いだからこその寂しさも伴いながら、大勢の者たちに感動を与えた祭りはつつがなく終わった。


琵琶家一同は寅三郎の邪魔にならないように、後片付けが終わるとそそくさと帰っていった。


もちろん寅三郎とお凜も寂しさを感じたが、まだ旅の途中として気を緩めることはなく、この日は早々に就寝した。



翌朝、朝餉を大いに食べた後、寅三郎は女将に別れを告げて宿を出た。


もちろん役人たちが見張っていて、村長がすっ飛んでやってきて、寅三郎に心からの感謝の意を述べた。


「また旅の続きに戻るだけだよ」


寅三郎の明るい言葉に、村長は満面の笑みを浮かべてふたりを送り出した。


「…引き止める要素が何もないぃー…」と女将が嘆くと、「全くないな!」と村長は言って愉快そうに笑った。


もしも、『村民ではない』などと言おうものなら対策もあったのだろうが、その部分を認められてしまうと、残るは寅三郎を最悪怒らせてしまうことにもつながるからだ。


寅三郎がある程度譲歩をしているのだから、村側も譲歩することが当然なのだ。


そうしないと、村の宝と完全に縁を切ってしまうことになる。


それだけは避けたいので、村長は村民たちに言い聞かせてある。


よって、信長や寅三郎とは少々異なる仲間意識はある。


このようなことはその場その場で変わることでもあるので、寅三郎たちは最低限受け入れられる部分は受け入れることにしているわけだ。


そうすれば、長期に円滑な人付き合いも可能となるはずだからだ。



寅三郎とお凜はもうすでに次の地のことを考えていて、いかだに乗って大陸を南下した。


そしてわずかに東に、そしてその先は南に航路を取って、まだ訪れたことがない大陸が見えてきた。


「…ふむ… 少々ほかの地とは違うな…」と寅三郎は不安を口にしたが、栗鼠は機嫌よく寅三郎の肩の上で甘えている。


ついには小さな砂浜が見えてきたので、寅三郎は人がいないことを確認して、勢いよくいかだを砂浜に乗り上げさせた。


この砂浜のわずか右手は漁港となっていて、船乗りたちがいかだを見て眼を見開いている。


まさかいかだごと一気に上陸するとは思わなかったのだろう。


寅三郎は海とは逆側の正面に見える山々を見渡して、「…閉鎖されている地か…」とつぶやいた。


「…おなかすいたよ?」とすでに人型になっているお凜にせかされて、寅三郎はいかだを邪魔にならない場所に安全に立てかけてから、茶店に見える場所に向けて歩き始めた。


この地は田舎のせいなのか、茶店はあるが品数が少ない。


よってコーヒーがなかったので、寅三郎はお凜に付き合って、この地特産の葡萄ジュースを頼んだ。


そして葡萄の菓子があるということで頼むと、葡萄が丸ごと入った寒天冷やし菓子で、寅三郎もお凜も大喜びをして食らった。


さすがに五皿も追加注文すると品切れになってしまったので、ここは腹一分目にして、食事を注文した。


その食事も、この店にある食材すべてを食いきって、店主を嬉々とさせた。


まさに上客で、店主は大いに機嫌がよくなり、寅三郎の質問になんでも答えた。


しかしこの店主ですら、『閉鎖している土地』という文言には敏感に反応したのか、いきなり口が重くなった。


「悪いことを聞いたようだな」と寅三郎が言うと、店主は目を見開き、「いえいえっ! とんでもねえです!」と、店主は勢いを取り戻して機嫌よく答えた。


寅三郎はかなりの金を支払って、お凜とともに店を出てすぐに、「おっ パンダ勇者」と山側を見て言って笑みを浮かべた。


しかしあっというまにこの地を去ったので、お凜には確認できなかったようで、大いに残念がった。


寅三郎はしばしこの場にとどまっていたのだが、特に騒ぎにはならないようで、助けられた者がどういった者なのかは全くわからなかった。


だが、観光名所を目指して歩き始めると、様々な感情が入り乱れている家があった。


寅三郎はそれを重要視せず、散策するように観光名所を目指した。


この閉鎖された地には二箇所しか名所の記載はないので、どちらも見終えて海岸に戻ると、大人や子供が岩の横に立てかけてあるいかだを見入っている。


「すまんな、俺のだ」と寅三郎が言って軽々と持ち上げると、「おお…」と「ああ…」という声がしたが、いつものことなので寅三郎は気にせずにいかだを波打ち際に浮かべ、波が引くと同時に蹴り飛ばして、いかだめがけて跳躍した。


いかだに足をつけた瞬間に、いかだは一瞬だが勢いよく沖に進み、寅三郎は仕掛けを一気に踏み込んだ。


こうすればかなり簡単に素早くいかだを沖に出すことが可能なのだ。


『…みんなの感情、ばらばらでいろいろ…』


栗鼠の言葉に、寅三郎は小さくうなづいた。


「お凜もこの先知っていくことになる。

 人間社会には差別というものが必ずついてくるものなんだ。

 だがお凜は野生動物だ。

 見ていればどういうことなのかはわかるだろうし、

 それほど気にしない方がいい。

 あまり考えすぎると、

 最終的に動物に戻れなくなるかもしれんからな」


寅三郎の言葉に、お凜は一瞬震え、『…それ… たぶん、すっごくいや…』と呟くと、寅三郎は笑みを浮かべて何度もうなづいただけだった。



いかだを東に向けて走らせたが、なかなか平地が確認できず、右手には断崖絶壁に近い高い山しか確認できない。


しかしようやく前方に平地らしきものが見え始め、寅三郎はほっと胸をなでおろしてからガイドブックを見入った。


「…ほう… ガッツ村はそれなりに見てまわるところはあるようだ…」


寅三郎は笑みを浮かべて呟いて、軽く漕ぐと、頃合いのいい砂浜を発見したので、勢いよくこいでいかだを砂浜に乗り上げた。


ここには都合のいい林があったので、いかだを木々に立てかけて、幟が上がっている茶屋を目指した。


町が近くにあることは海から確認できたので、繁華街らしき場所まで、辺りを見回しながら歩いた。


閉鎖された村とはかなり違い、この村にはそれなり以上に活気がある。


どうやら祭りの話でもあったのか、行きかう人々は自然な笑みを浮かべている。


寅三郎とお凜はしっかりと食事もできそうな茶店に入って、カウンター席に座った。


ここでも、どうやら祭りの会議中のようで、ボックス席に行くことを断念したからだ。


寅三郎は、ここではまずコーヒーを注文した。


お凜は少々迷ってから、ミックスジュースを注文して、その後に寅三郎は食事を注文した。


あまりにもとんでもない量を注文したので、寅三郎が必要以上の銭をカウンターに置くと、「毎度ありぃー!!」とほぼ老人の店主は陽気に叫んで、銭をレジにしまいこんだ。


ここからはまるでコース料理のように料理が運ばれてきて、寅三郎とお凜は満足げな笑みを浮かべた。


「邪魔するぜ」と言って店内に男が入ってきて、店内を見回すことなくすぐさま寅三郎に身分証明を求めた。


「これでいいか?」と寅三郎は言って、ジゴクの通行証を出すと、「ああ、一番いい身分証だ」と言ってから、「…ふーん… サカイ・トラサブロウか… おしいな…」と男は言って、寅三郎に許可証を返した。


寅三郎は気にもしていなかったのだが、お凜の勧めで、ここでは唯一の身分証になる許可証の名前を変えておくべきかも、と言われていたので、寅三郎はそれに従ってドレス村の宿で変更していた。


今回のように正確な身分証がないと、少々面倒だったことも起こっていたかもしれないからだ。


「あんたは役所の役人とは思えんが?」と寅三郎が男に聞くと、「出向だ」と言って眉を下げた。


この男はどこからどう見ても種族は勇者で、戦人のにおいがしていたからだ。


そして、「邪魔したな」と男は言って店を出て行った。


「モルドは軍人だ」と老店主が言うと、寅三郎は納得して何度もうなづいた。


「勇者のようだから、それは大いにあると思っていた。

 それに、使える役人不足もあると、実感して知っている」


寅三郎の言葉に、老店主は何度もうなづいた。


寅三郎とお凜がすべてを食べつくして席を立つと、「ありがとうございましたぁーっ!」と学生風の女性店員が笑みを浮かべて言って、レジに走った。


もうすでに精算金の集計は終わっていたようで、寅三郎は釣り銭をもらって外に出た。



寅三郎と栗鼠は大自然の不思議と古い家屋などを見学して大いに堪能して村の中心部に戻ると、街道の中央に先ほどの勇者が立っていて、「おい」と少々乱暴な言葉で寅三郎を呼び止めた。


「なんだ」と寅三郎が対抗するように答えると、「お前、酒井家忠だろうがぁー…」と親の敵のような顔をしてうなった。


「今は酒井寅三郎に間違いない。

 その証拠を見せただろ?

 もう一度見るか?

 なんだったら、城に問い合わせろよ。

 王様が喜んですっ飛んでやってくるぜ」


寅三郎の言葉に、肩の上にいる栗鼠が愉快そうに、『あはははは!』と笑った。


一方勇者は、「くっ」と悔しそうにうなっただけだ。


「さっさと用件を言ってみろ」と寅三郎がせかすと、やはり祭りの件で、そしてこの勇者の名をモルド・ガッツと知った。


「なんだ、お前、この村の王子様か?」と寅三郎が鼻で笑って言うと、「…そんなんじゃねえ…」とつぶやいて眉を下げた。


「ほう… なるほどな…

 何か理由があって、王子様なのに認めてもらえない、か…

 その話し言葉も、何か理由がありそうだな」


寅三郎の言葉に、「そんなことはどうでもいいんだ!」とモルドは虚勢を張って叫んだ。


「いや、よくないと思うが?

 もしも祭りの件で、あんたが俺を顎で扱った場合、

 祭りが行われることはないだろう。

 違うか?」


「…そんなこと…」とモルドは自信なさげにつぶやいてから、肩を落としてうなだれた。


「俺を村長の家に案内するだけでも、

 祭りは行われない。

 それは、王族の下っ端が直接やってはならないことだ。

 こうやって公然の面前で会っていることで、

 俺が関係する祭りはないと思っておいた方がいい。

 俺が元いた星など、

 こんな面倒で回りくどい話はざらにあったからな」


「そうなのか…」とモルドは嘆くように言ってうなだれた。


「下っ端が持ってきたいい話はすべて否定するという典型。

 手柄は本来の殿様とその取り巻きのためだけにあるべきなのだ」


モルドは悔しそうにして、拳を握り締めた。


「村長に近い一族に勇者は?」


「…いねえ…」


「だったら、強者はお前の家じゃないか。

 何を困ることがあるというんだ。

 ここは奮起して抗ってみな。

 だがまずは家族と話し合っておくことがお勧めだな」


寅三郎は言いたいことを言ってから、今日の宿の選定を始めた。



何かがおかしいことは、この宿の選定でよくわかった。


豪華でもそうでなくても、宿代はほとんど変わらない。


よって誰もが豪華な宿を取るのだが、お凜が嫌がったのだ。


「見えない部分に何かあるんだな」と寅三郎は確信して、俯瞰の眼を使って、目の前にある宿を見入った。


「宿代以外に何かと取るわけか…

 追剥ぎ宿だな…」


寅三郎は大いにあきれ返っていた。


そしてごく一般的な宿を見つけて事情を聞いたのだが、異様に口が重い。


あまり聞くと追い出しかねなかったのだが、宿がなくてもそれほど困らないので、寅三郎は踏み込んで聞いた。


「…祟りか…」と寅三郎は言って鼻で笑った。


もちろん、祟りと銘打った暴力行為があるといったまでだ。


「祟りを作り出しているやつがいるわけだ。

 それが村長一族。

 あ、独り言だから気にすることはない」


宿屋の主人は何も言わずに頭を下げただけだ。


「モルド・ガッツをどう思う?」


寅三郎の言葉に、「…強者は姉のナンシー…」と主人は小声で言って苦笑いを浮かべた。


「モルドはその姉に鍛えられたか…

 だが、その強者の姉も村長には逆らわない。

 そうか、家族を守るために手を出さないわけか…」


主人は何も言わずに頭を下げた。


「村長は叩けばほこりが出そうだから、

 それほど強敵ではない。

 関係者全員をふんじばってしまえば、

 誰かに害を与えることもないだろう。

 もちろん、村長の手下として働いているヤツも多いようだがな」


「…村長を引退されたお方が、茶店を経営しています…」


主人の言葉に、寅三郎は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「…あの好々爺の老人が悪の総元締めではないことを祈っておくか…」


寅三郎は言って、宿の女中の案内で部屋に移動した。



まずは一時でもくつろぐことにして、窓の外から村の様子を見ていると、『…きたぁー…』と栗鼠が嘆くように言った。


眼下には高身長の女子が辺りを見回しながら何かを探しているように見えた。


確実に眼があうと確信したので、寅三郎は頭を引っ込めて、俯瞰の眼を発動した。


「…宿屋に聞き込みに行った…」と寅三郎が言うと、『悪い人じゃないよ?』と栗鼠は機嫌よく言った。


「あの役人、モルド・ガッツの姉だろうな。

 その姉も勇者気質はあるのだが、少々おかしい。

 何かが邪魔をしているように感じる」


しかし寅三郎は魔王に変身しなかった。


何でもかんでも知ってしまうほど、面白くないものはないからだ。



ついには寅三郎たちが泊まっている宿に勇ましい女子がやってきて、店主を通すことなく、「酒井寅三郎! 出て来い!」と下階から叫んだのだ。


「…ナンシー様、おやめください…」という宿屋の店主の頼りなさげな声も聞こえた。


「…なかなか勇ましい…」と寅三郎が言うと、『…迷惑、なのはわかってるけどぉー…』と栗鼠の歯切れが悪い。


「…行くか…」と寅三郎は言って重い腰を上げた。



受付まで行くと、寅三郎の顔は知っていたようで、勇ましい女子は寅三郎に駆け寄った。


「ふん、強そうだ」とナンシー・ガッツが言うと、「そりゃどうも」と寅三郎は愛想笑いを浮かべて言った。


「村長一家の悪事を暴くから手伝え!」


「何のために?

 俺には関係のないことだが?」


寅三郎の言葉に、「…うー…」とナンシーはうなった。


ナンシーは何もかも蘭丸によく似ていた。


腕っ節も相当のものだろうということも、その存在感から把握できた。


「姉ちゃん! やめてくれ!」とモルドが宿に入ってきて眉を下げて叫んだ。


「正義の味方は弱きを助けるものと決まっているんだ!」


ナンシーの言葉に、寅三郎は愉快そうに笑った。


「不思議なことがひとつある」と寅三郎が言うと、「誰も彼もあきらめてんだよ!」とナンシーが叫ぶと、「いや、そうではない。動物で言う、ボスと手下の関係だ」という寅三郎の言葉に、『…そうだったんだぁー…』と栗鼠は大いに関心してつぶやいた。


「だからこの村は平和にしか見えない。

 ボスがきちんと眼を光らせて見ているようだからな。

 だから、あんたの家族はこの村から放り出されるだろうが、

 さて、どうなるのかは様子を見させてもらおう。

 ボスが馬鹿ではない限り、俺には手も口も出さないだろう。

 俺はただの旅人だから、いずれはこの地を去ることになるから、

 という理由もある。

 それに、今の段階ではあんたら家族につく気もない。

 正義の味方は、余計な手出しもしないものだからな」


寅三郎の言葉に、ナンシーはこれ見よがしに地団太を踏むと、眉を下げているモルドに腕をとられて外に出ていった。


「…脅されているはずなのに…」と宿の店主がつぶやいた。


「それほどの悲壮感は流れていないし、

 諦めも感じられない。

 今を変えなければ、ボスは何も言うことはない。

 よって、村民にとって居心地がいいはずなんだ」


寅三郎の言葉に、「…ようやく、自覚できたような気がします…」と店主は言って、真剣な眼を寅三郎に向けて頭を下げた。


「恐竜人の本来の習性かもしれないが、

 まさに人間らしいのはモルドとナンシーだ、

 と、俺は思うな」


寅三郎は言って、部屋に戻る階段を上っていった。


そして踊場で立ち止まると、『えー…』と栗鼠が言って大いに戸惑った。


「寝所に入っておけ。

 そこは安全地帯だからな」


寅三郎の言葉を聞いてすぐに、栗鼠は懐にある寝所にこもって安心して丸くなった。


寅三郎は部屋に戻って、部屋の入り口で魔王となった。


―― 標的は五人… ―― と考えると同時に術を放った。


しかし本来の標的は寅三郎の方だ。


すると外で、『バンバンッ!! ドンドンッ!!』とまるで祭りの合図のように、盛大な火薬の爆裂音がした。


するとすぐさま、「手前らっ! 何をやっているっ?!」というモルドの叫び声を聞いたと同時に、魔王は寅三郎に戻って窓の外を見た。


武装している五人はもうすでにモルドが拘束していた。


「お凜、もう終わった」と寅三郎が比較的明るい声で言うと、『…早かったぁー…』と栗鼠は言って、寅三郎の肩に駆け上って愛情表現を示した。


モルドは公開取調べのように、村の中心部の噴水公園で強制的な事情聴取を行い、村長の依頼で酒井寅三郎を暗殺するように言われたと口をそろえて自白すると、「あーはっはっは!」とナンシーが鬼の首を取ったように笑っていた。


この件はすぐさまイルニー城に通報され、イルニー王配下の兵たちに、村長一家は拘束された。


暴力行為で、銃以上の武器を使った場合、イルニー国の法律により死刑と決まっている。


さらにはこの武器に関係した者すべてが拘束されることも決まっている。


もちろん、更なる悲劇を生まないためのものなので、この件はシビアに取り扱われている。


「…親父と同じことをやっただけなのに…」と村長はつぶやいてうなだれた。


これだけには留まらず、ガッツという姓を持つ者は一蓮托生として厳しい取調べを受けたが、モルドの家族たちは無罪を申告して、即受理された。


城としてもガッツ村の村長一家は危険として詳しく状況を把握していたようだ。


「危険な考えを持ちすぎだ」とすべてを見ていた寅三郎は宿を出て茶店に行った。


「…どうなるのでしょう…」と学生風の女子店員が挨拶代わりに眉を下げて言うと、「賃金は俺が払うから、旅立つまでは店を開けておいてくれ」と寅三郎が笑みを浮かべていうと、女子は笑みを浮かべてうなづいて注文を聞いた。


「…強敵ぃー…」とお凜がつぶやくと、「なんの?」と寅三郎が聞いたが、お凜は答えず、配膳された飲み物に笑みを浮かべた。


事件はモルドの手を離れたので、モルドは父母と姉をつれて店にやってきた。


「祭り」とモルドがひと言言うと、「いいぞ、手伝ってやる」という寅三郎の言葉に、モルドは眼を見開いて、「…断られると思って、いろいろと予習しておいたのにぃー…」と大いに嘆いた。


「…いい男じゃあねえかぁー…」と姉が言うのはまだしもその母までもが言ったので、寅三郎は大いに眉を下げていた。


「他力本願で申し訳ありません」と父が言って寅三郎に頭を下げた。


見た目にも穏やかそうで、勤勉実直そうなモルドの父と寅三郎は改めて挨拶を交わした。


「証拠を残したことがなかったようだから、

 手の出しようがなかったことはよくわかっていました。

 イルニー王室も状況証拠は握っていたようですからね。

 早期解決で何よりです」


寅三郎の明るい言葉に父のガンドは、「…ようやく奴隷から解放された気分です…」と言ってから満面の笑みを浮かべて、モルドとナンシーを見た。


「ふたりはこの村の住人ではないように感じていたのです。

 何か特別な教育でも?」


寅三郎の言葉に、「…いえいえ、親の教育ではなく、本人たちの意思です…」とガンドが答えると、寅三郎は笑みを浮かべてうなづいた。



まずは母親のメルシーが早速村長に就任して、まずは村民の志気が上がる祭りを行うことに決まり、寅三郎の進言通り、グレラスを神とすることも早々に決まり、早速祭りの準備が行われた。


寅三郎とお凜は笑みを浮かべあいながら菓子を作っていると、「えっ?! なになに?!」といきなりお凜が叫んだと同時に、『ドドドドドドドド!!!』ととんでもない音と振動が海側から伝わってきた。


地震には違いないだろうが、少々様子がおかしい。


寅三郎はお凜を抱きかかえて、その場に走ると、モルドが空を飛んでやってきて、「…こりゃひでえ…」と眉をしかめて言った。


寅三郎は魔王に変身して、「人間はおらんから、動物を助ける」と言って素早く飛んだ。


モルドもすぐさま寅三郎に倣って、閉じ込められた動物や怪我や瀕死となった動物たちの多くの命を救った。


人間が住めないし立ち入らない場所であったことで、人的なものや建造物の被害は皆無だった。


ガッツ村の北西の海岸側の山並みが一気に崩れ落ち、海岸線は幅のある広い道のようになっていたのだ。


「沈下したんだな」と魔王がうなるように言うと、モルドも認めた。


閉鎖されていた村はガッツ村との道が開けたことになる。


後は自然に街道が出来上がるのだろうが、起伏が激しく荒れ放題なのでかなり危険だ。


そしてまだ時々小さな沈下が起こってる。


魔王はすべての杞憂を払拭するように、気合を入れて両手のひらで地面を叩くと、『ドドォーン!』という大きな音とともに、二十間ほど離れた場所が直径十間分ほど陥没した。


「これで終わりのはずだ」という魔王の言葉に、「…すげえ…」とモルドは言って、魔王の馬鹿力ぶりにあきれていた。


魔王は寅三郎に戻り、閉鎖された村に行って村長と面会した。


そして、街道を整備しても構わないかと聞くというと、なんと大いに戸惑ったのだ。


「外の世界を見たい村民も大勢いるようだが?」


まさに確信をついている寅三郎の言葉に、村長は寅三郎に頭を下げた。


「言い出したのは俺だから、整備費用は取らん。

 その逆に手伝いたい者はそれなりの賃金を出してやろう。

 それに、ガッツ村はまもなく祭りだからな。

 祭りを十分に楽しめるほどの銭は稼げるぞ。

 村の活性化にはつながると思うが?」


寅三郎の言葉に、村長はすべてを寅三郎に託すとに決めた。


何かを始めなければ何も変わらないのだ。


もちろん閉塞感の維持を望んでいるのなら無理は言わないが、村民がまるで出奔するようにこの地を出ようとしていることも事実だ。


船を使えば出られるのだが、ここは人がいいようで、人のものを奪ってまで外に出ようとは思っていないようだ。


となれば山を越えなければならないが、もちろん猛獣たちが行く手を阻むので、この村から自力で外に出た者は皆無と言っていいほどだ。


ちなみに、ガッツ村側はモルドが村民たちに声をかけて、徐々に整地を始めていた。


ガッツ村の祭りの期日は近いので、寅三郎はその身を魔王に変えて、生物重機となり整地をしていく姿を見て、手伝いに来た者たちは眼を見開いていた。


そして魔王をまさに神として崇めて、ともに働いた。


整地は完了して、土砂の流れ出し防止のために、波打ち際に岩や石で堤防を作り、その脇に盛り土をしてから巨大なローラー車を引っ張ぱり、地面をさらに固める。


素晴らしい街道が出来上がっていく様子に、誰もが大いに喜びながら作業に従事する。


もちろん、崩れ去った山並みの整備も忘れていない。


木を植樹して、山津波があったことは遠い過去の話しのように、風光明媚な素晴らしい景色に生まれ変わっていく。


街道が完成したのは三日後で、誰もが大いに喜びあった。


閉鎖されていた村からガッツ村までは歩くと半日ほどかかってしまうため、ここは新しい事業として、人力車が行き来するようになった。


発案者は寅三郎で、いかだのからくりをそのまま人力車に利用しただけだ。


さらには村の力自慢でないと動かせないことに、この運搬業は名誉職として重宝されることになった。


どんなことでも考え出し、しかもそのものを出すわけではなく指導をすることで、寅三郎はさらに誰もから神と崇められ、なんとグレラスは神として別に必要ないという、寅三郎にとって少々不本意な結果となってしまった。


もちろん無理強いはできないので、寅三郎は村長たちの意見を尊重した。


神だとわかっていても、何もしない神は人間たちにとって神などではないのだ。


神と認めたとしても、信仰心や敬う心は生まれない。


まさに神でしかない魔王を誰もが心底敬い、そして気さくに声をかける。



「…こんなんでいいのかぁー…」とナンシーは大いに悔しそうにうなった。


「姉ちゃんも会ってると思うけど、ゼンドラド様やセイラ様もあんな感じだ」


モルドは笑みを浮かべて寅三郎の威厳に関して簡単に説明した。


「…あいつが村長…」とナンシーが言うと、「ダメダメ、それには正当な理由がある」と、モルドは聞いている限りの事情を話した。


「くっ! そうだ! ドレス村!」とナンシーは叫んで、大いに悔しがった。


「ミサ・ハウトとは面識はないが、

 戦時中はほとんどひとりで村を守り抜いたそうだ。

 勇者には間違いないし、ランクとしてはかなりの上位だと思う。

 だから戦後に、

 このセルラ星で一番に安定したのはドレス村だった。

 というか、戦中も戦後も、生活を変えていないというところがすごいな。

 失ったのは戦後の祭りだけだと聞いた」


「…今よりも、もっと強くならなければ…」とナンシーが決意の眼をして言うと、「俺も賛成だ」とモルドは言って立ち上がって、宿屋に向けて走った。


「…あんたはお嫁に行くことが先だと思うんだけどねぇー…」と母親のメルシーが眉を下げて言うと、ナンシーは泣き出しそうな顔をして母親と、そして父親を見た。


「…なんとか、もらってくれんかなぁー…」と父親のガンドは笑みを浮かべて言った。



モルドは宿屋に行ったが寅三郎は留守で、よってすぐさま茶店に顔を出した。


「…こっちの方が近かったか…」とモルドは眉を下げてつぶやいて、寅三郎とお凜に挨拶をした。


「願いがあってきた」とモルドが真剣な眼をして言うと、「ああ、いいぞ」と寅三郎がすぐに答えると、「…姉ちゃんを嫁に…」と別件の話をすると、寅三郎は愉快そうに笑った。


「お前と約束を交わして、ナンシー殿が心底喜ぶと思うのか?」


「…うう…」とモルドはうなって、ここは答えずに頭を下げた。


「手合わせを願いたい」とモルドは言ってから、さらに頭を下げた。


「…複雑ぅー…」とお凜は言って、カウンターの中にいる女子店員を見て言った。


「公園の隅なら問題ないだろう」と寅三郎は言って立ち上がって支払いを済ませた。



寅三郎たちは、村の中心から少し離れている公園に行って、それほど目立たない場所に陣取って向き合った。


そしてふたりとも同時に間合いを詰めたが、モルドはまさかと思い驚いてしまったことに反応が遅れ、簡単に後方に吹っ飛ばされた。


そして、どうして地面に転がったのか全く理解ができなかった。


体に痛みが全くない。


やさしい攻撃だと感じたが、そうではないことは、後で身に染みて判ることになる。


すると、お凜がナンシーの手を引っ張って連れて来た。


「…攻撃は当たっていなかった…」とナンシーはつぶやいて、寅三郎を見入った。


モルドは跳ね起きてから、すぐさま間合いを詰め、―― くっそっ! これかぁ―――っ!! ―― と大いに嘆いたが、その時にはもう後方に吹っ飛ばされていた。


寅三郎は何も言わず、モルドを見ているだけだ。


モルドは何度も寅三郎に立ち向かったが、攻撃を全くかいくぐることができず、最終的には立ち上がれなくなっていた。


―― …なんてこった… ―― とモルドは考えてから笑みを浮かべて、そのまま眠ってしまった。


寅三郎はモルドの腕を取って、ナンシーの足元に投げて転がした。


「弟は死んだ」と寅三郎が言ってにやりと笑うと、「…そのようだわ…」とナンシーはつぶやいて、その屍を乗り越えて寅三郎の前に立った。


「モルドのようにはいかないわよ」とナンシーは真剣な眼をして言って、我流の構えを見せた。


やけに前傾で、前に出している左足に全体重が乗っている。


そして両腕、両肩の力が見事に抜けている。


「モルドは浮き足立っていたようだな。

 その構えを一度も見せなかった」


「あの子には不向き」とナンシーは言って、力の限り右足を踏み込んだ。


まさに地を這うようにしてナンシーが迫ってきたので、寅三郎は軽く地面を蹴って、ナンシーをやり過ごし、その背中に向けて、右の掌底を放った。


するとナンシーは地面に墜落したように圧迫され、その勢いのまま前方に飛んでから転がった。


しかしナンシーには何のダメージもなく、すぐさま起き上がって寅三郎に迫る。


手を変え品を変え、ナンシーは何度も迫ったが、寅三郎を正確に捉えることができない。


もう何度も攻め込んでいるのだが、ナンシーも寅三郎も息ひとつ上がっていない。


この組み手は長時間に渡り、ナンシーが意識を断たれた時、辺りは暗くなり始めていた。


「おなかすいたよ?」とお凜が言うと、「…異様にタフだった…」と寅三郎は眉を下げてナンシーを見て言うと、「うふふ」とお凜はナンシーの寝顔を見て笑った。


モルドは放っておいてもいいのだが、ナンシーをどうしようかと思っていると、暗闇の中から三人の悪魔が上空に現れた。


「夜にどうした?」と寅三郎が聞くと、「ずいぶんと前からそこにいた」とひとりが背後を指差して眉を下げて答えた。


「だったらナンシーを風呂に入れて起こしてやってくれ。

 モルドは俺が運ぶ」


寅三郎の言葉に、「…男の方も任せろやぁー…」とひとりの悪魔が舌なめずりをして言うと、「ああ、いいぞ」と寅三郎はさも当然のように言うと、三人はすぐさまケンカを始めたが、力の差を見せ付けたひとりがモルドを抱き上げて、「…ああ、いいにおいだぁー…」と機嫌よく言って、近くにある銭湯に運んでいった。


「…弱い俺が情けねえー…」とひとりの悪魔が言って、ナンシーをなぜかふたりがかりで持ち上げて銭湯に向けて歩いた。


「…ナンシーさんってすっごく重いの?」とお凜が小首を傾げて聞くと、「ああ、普通ではないほどにな」と寅三郎は言って、お凜とともに悪魔たちの後を追った。



モルドとナンシーは家の自室で目覚め、母のメルシーに事情を聞いて、姉弟ともにうなだれた。


人間の寅三郎に対して完敗だったことに、ふたりはひどく落ち込んだのだ。


せめて相手が魔王であれば、自分自身に言い訳もできたのだが、寅三郎に神がかっている強さなどは、今思い起こしてもないと判断できた。


魔王であれば何もできなかったと二人は考えてさらに落ち込んだ。


「祭りの日まで、今日と同じ時間に、だって」とメルシーが寅三郎の言葉を伝えると、「…よっし!」とまずはモルドが気合を入れた。


「…強くならなきゃ、認められない…」とナンシーは決意の眼をしてつぶやくと、父母は目を細めて小さくうなづいた。



寅三郎は菓子を作りながらも、モルドとナンシーを萬幻武流門下生として鍛え上げる。


よって組み手だけではなく剣術や忍術までも教え込むが、まずはモルドが根を上げた。


しかしナンシーは記憶術の達人のようで、日々猛者に変貌していく。


その理由は世間話として聞いたので、寅三郎は師匠として大いに納得した。


だが、これほどの実力者に勇者が沸いてこないことがおかしい。


これはナンシーの体重とも関係がある。


魔王に変身してしまうと、きっとそれを探ると寅三郎は思ったので、さらに意思を固めて探らないと心に決めた。


そんな中、イルニー城のカレン王が爆弾発言をした。


力のある者を王とし、この星の最大権力者として、ほとんどを譲渡するという。


しかし、イルニー城下はカレンの支配の地ということもあって、カレン自身もその候補のひとりでもある。


よって野望を持つ村や町は活気付いたが、イルニー城を居城として監視はされるので、ただの名誉職のようなものとなる。


しかし恐竜人の性格上、これは必要だったようで、星の空気が変わったと寅三郎は判断して笑みを浮かべた。


「ガッツ村の代表者は?」と寅三郎が興味を持ってモルドに聞くと、「俺は出ねえ」と、鼻で笑うように言ってナンシーを見た。


「私だって出ないわよ」という無碍な返答に、メルシーが大いに眉を下げた。


村長としても母親としても、どちらかに出てもらいたかったようだ。


「母上様はどうなのです?」と寅三郎が興味を持って聞くと、メルシーは顔の前で平手を振って拒絶した。


「…となると、ほかにはめぼしい者はいないな…

 少々残念だ…」


寅三郎が嘆くように言うと、「…お師匠様の奥さんになるんだもぉーん…」とナンシーが大いに頬を赤らめて告白した。


ここはガッツ家の三人が大いに盛り上がって、ナンシーの背中ををした。


だが、「弟子には手を出さんが?」と寅三郎が言うと、「破門にしろ!!」とナンシーはすぐに叫んだ。


「ああ、それでもいいぞ」と寅三郎があっさりと言うと、「なんだか微妙だぁー…」とナンシーはうなった。



寅三郎は悪魔の願いを聞き入れ、あるものを開発中だ。


それと平行して、子供たちに笑みをと思い、まさに幻影の後を追うように、ものづくりにいそしみ始める。


村の真ん中で試すわけには行かないので、村長のメルシーにだけは詳細に事情を説明して、辺鄙な場所にひっそりと作業場を造り上げて、時間があればお凜とふたりして篭る。


始めは失敗の連続だったが、丁寧に作業を積み上げた結果、お凜に今までにない笑顔にさせたことによって、作業にいっそう力が入り始めた。


これは山が崩れた恩恵でもあって、山を少し削っては修復して手に入れ続けているものだ。


大きなものは少々厳しいが、小さなものはそれほど手間ではないと、修行を積んだ今こそ理解できるようになった。


この作業はこの程度にして、温度湿度管理をする小屋を造り上げて、大量の成果物を運び込んだ。


「楽しみぃー…」とお凜は満面の笑みを浮かべて言った。



そんな中、テレビの報道でバルト島の祭りの予告が流れたので、寅三郎は村長のメルシーにだけ事情を話して、お凜とふたりしてガッツ村を離れた。


観光案内もまだ途中だったので、ちょうどよかったのだ。


よって寅三郎がいきなりいなくなったことに、ナンシーが怒り狂ったが、もちろんメルシーが説明したので何とか落ち着いた。


「…また別のライバルがぁー…」とナンシーはうなってモルドを睨みつけた。


「気になるのなら行けば?」


「お前は気にならねえのかっ?!」とナンシーはまだ怒っている。


「気にならなくなったら本物だって思う」というモルドの平常心の言葉に、ナンシーは、「…うう…」とうなるしか発する言葉はなかった。



寅三郎とお凜はバルト島の村長に大歓迎され、早速菓子などを作り始めたことに大いに恐縮した。


祭りの直近ということで、現在は観光客は皆無だ。


ふたりの製造作業は徐々に村人たちに受け継がれていき、寅三郎とお凜はすぐに手を引いた。


そして村長の案内で島巡りを堪能した。


圧巻は黄色の洞窟で、まさにその通りなのだが、赤い洞窟も青い洞窟もあって、ふたりを不思議な世界に誘った。


さらには漁も解禁となっているので、寅三郎は海産物の調理や保存食作りに専念すると、また村人たちが興味を持ったので、教えるだけ教えてすぐに手を引いた。


機械の扱いは簡単なので、手順さえ守れば誰でも同じものを作ることは可能だ。


中でも村長はノシ烏賊が好みのようで、造り上げた尻から食っている。


しかし村民たちから早々に注意を受けて、バツが悪そうな顔をした。


「装飾船はあのままの展示かい?」


寅三郎の何気ない言葉に、「…忘れとった…」と村長はまたバツが悪そうな顔をして、寅三郎を博物館に連れて行った。


寅三郎は村長の依頼を受けて、装飾船の解体作業を行った。


まさにご開帳で、さらに素晴らしいものだったと、三人は笑みを浮かべて、宝物類を見回した。


祭り当日は多くの観光客を受け入れて、古い民俗芸能の披露が基本となっていた。


祭りがなかったことで、楽器などの修練も大いにやったようで、かなり様になっていて、観光客を大いに感心させた。


祭りは大盛況のうちに終わったが、その翌日は村民たちは本来の観光業務に戻るので、寅三郎とお凜は村長にだけ挨拶をして、ガッツ村に戻った。



「するめ、おいしいよ?」とお凜が言って土産のするめをナンシーに手渡すと、「…お嬢様、ありがとうございますぅー…」と眉を下げて答えてするめをかむと眼を見開いた。


「…うめえ…」とナンシーは大いに感動して、お凜に満面の笑みを向けると、「うふふ」とお凜は機嫌よく笑った。


やはり子供の反応は重要で、お凜はナンシーを気に入りかけていると寅三郎は感じた。


やはり何か決定的なことが必要なようで、それ以上の好意をお凜が向けることはなかった。


だが、モルドには顔すら向けないので、「お凜」と寅三郎が言ってモルドを見ると、「…困ってるよ?」とお凜が言ったので、寅三郎は大いに笑った。


もしも粗相などをしたら、などとモルドは考えていたようだ。


「普通に子供だから…」と寅三郎が眉を下げて言うと、モルドもナンシーもそれほど緊張することなくお凜と接し始めた。



寅三郎は、「やり残しがあるから、メリスン・ランダ町にいく」とモルドに伝えた。


「あ、俺も同行していいか?」とモルドが言うと、寅三郎は気さくに承諾した。


もちろんナンシーが黙っていなかったが、ここは村長命令でナンシーは村に残ることになった。


面倒なことになった時には、ナンシーの武力と頭脳は大いに役に立つからだ。


寅三郎たちはいかだに乗って、半分はモルドを鍛え上げながらメリスン・ランダ町にたどり着き、早速銭湯に行って完全復活を果たした。


目当てのセイラと、リンと名乗ったコールドスリープ装置に入っていた女はメリスンの店で働いていた。


寅三郎を見つけたメリスンは大いに歓迎して席を勧めた。


セイラとリンも言いたいことが山ほどあったのだが、メリスンには逆らえないようで、今は何も言わない。


「術を飛ばしても無駄だ」と寅三郎が言うと、リンは眼を見開いて、メリスンを見た。


「私は何もやってないわよ」とメリスンは笑みを浮かべて言った。


「お前が俺よりも大物だったら、術にもかかっただろうけどな」


寅三郎の言葉に、リンはこれ見よがしにうなだれた。


「…これで納得できたはずだわ…」とセイラはため息混じりに言った。


「ですが、この極悪人をどうするのです?」と寅三郎がメリスンに聞くと、セイラは眼を見開いてリンを見た。


「強大な武器はないし、何とか改心させるつもりよ」とメリスンは笑みを浮かべて言うと、寅三郎は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「セイラ殿に頼みがある」と寅三郎は言ってモルドを見た。


「…知らない相手じゃないから引き受けるわ…」とセイラは眉を下げて言った。


「モルド、かりそめの師匠を超えろ、いいな?」


寅三郎の厳しい言葉に、「おう!」とモルドは威勢よく答えた。


「…そう… 私はただの当て馬なのね…」とセイラは眉を下げて言った。


「わずかばかり弱い方がよかったが、

 モルドのためには問題はないはずだ。

 今までに知らなかったことをすべて引き出し、

 すべてを糧にせよ」


寅三郎の厳しい指導に、モルドは真剣な眼をして頭を下げた。


「早速セイラが役に立つようでよかったわ」とメリスンは陽気に言って、カネに糸目をつけない料理を運んできた。



すると、寅三郎に厳しい視線が飛んできた。


寅三郎は振り返り、「あんたとは挨拶はまだだったな」と言うと、対象者の隣にいたセイルが眉を下げて、「…反抗心が半端ないマキシミリアンだよ…」と眉を下げて紹介した。


「それほどよくないな」と寅三郎が真剣な眼をしてマキシミリアンに言うと、怒りに任せて立ち上がろうとしたその瞬間、「はっ!」と地の底から沸きあがるような低い声で寅三郎がうなった。


マキシミリアンは中腰の姿勢のまま固まった。


「今程度の気合で飛んでいくとはな」と寅三郎は言ってにやりと笑ってセイルを見た。


「…自由になった…」とマキシミリアンは笑みを浮かべて言って、寅三郎に頭を下げて椅子に座った。


「…やっぱり、無理があったんだなぁー…」とセイルは言って大いに苦笑いを浮かべた。


「メリスンさん、ジゴクにとんでもない悪が沸いて出ると思います。

 できれば情報を横流ししてください。

 責任を持って成敗に行きますから」


寅三郎の言葉に、「わかったわ」とメリスンはごく普通に笑みを浮かべてゼンドラドを見てからカウンターの奥の部屋に入っていった。


「…あの程度の気合で…」とゼンドラドはつぶやいて、大いに苦笑いを浮かべた。


寅三郎はまたセイルを見て、「志の違いです」と笑みを浮かべて言った。


「あー… 僕だって消えていたかもしれない…」とセイルは大いに苦笑いを浮かべて言うと、「強さによりけりでしょうが、不幸ちゃんの魂の方が先に吹っ飛ぶものと」と言うと、セイラは大いに苦笑いを浮かべていたが、「…もう地に足が着いたもぉーん…」と眉を下げて言った。


「あ、そうだ。

 北東部の山間部の閉鎖された村で、

 パンダ勇者を見かけたけど?」


寅三郎が聞くと、「…変身したとたんに助けていたわ…」と安堵の笑みを浮かべて言った。


「それはよかった」と寅三郎は笑みを浮かべて言って、何度もうなづいた。


するとメリスンが小部屋から顔だけを出して、「イルニー城の近くのジゴクに出たようだわ!」と叫んだ。


寅三郎は急いで食事を終えて、栗鼠に変身したお凜とともに店を出た。


そして魔王に変身して、一瞬にしてジゴクの入り口の前に飛んでから、寅三郎に戻った。


ジゴクに入ると、ひとつのトンネルから悲壮感が流れてきたので、寅三郎は駆け込み、荒れ狂っている黒い影に向かって、覇王の剣の構えを取り、「ドォーッ!」と叫んで腕を振った瞬間に、『パァ―――ンッ!!!』と破裂音がトンネル内に響いたとたん、『チンチンチンチン!!!』ととんでもない量のメダルやコインの音がした。


『…またお金もちぃー…』と栗鼠がつぶやくと、寅三郎は愉快そうに笑った。


寅三郎は選別をして、ゼンドラドの悪のメダルだけを手に取り、それ以外は倒れこんでいる冒険者たちの近くに集めて放置してジゴクを出て、メリスン・ランダ町に戻った。


そして、とんでもない量のメダルをゼンドラドの目の前に積むと、「個人的に支払います」とゼンドラドは言って、寅三郎に頭を下げた。


「これは、必要だったはずなのです」と寅三郎は言ってセイラを見た。


「…きちんと改心しなくては…」とゼンドラドは静かに言って、一枚ずつ丁寧にメダルを吸収して行った。


「…武器として使えたのにぃー…」とセイラは眉を下げて言った。


「神のお戯れだ。

 まあ、それだけではないだろうが、今は旅を続ける」


寅三郎の意味ありげな言葉に、「…ここってやな星だわ…」とメリスンは眉を下げてつぶやいた。


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