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赤い幻影 akaigenei ~覚醒編~      赤試練 akasiren


   赤い幻影 akaigenei ~覚醒編~



     赤試練 akasiren



琵琶家は係わりを持つ星が四つになったことにより、それなり以上に忙しい日々を過ごしているが、基本的には喜笑星で生活をしている。


ノスビレ部隊には少人数がまるで手伝いのようにして参加している。


もちろん幻影も参加したのだが、それほど働いているという手ごたえを感じない。


星に残って海に出たり、製造に従事している方が充実しているとどうしても思ってしまう。


しかしさすがに戦場なので気を抜くことなく、それなり以上に真摯に従事する。


そして、仕事を終えてノスビレ村に戻った時、天使たちが幻影に向けて大いに眉を下げている。


「汚れてないって?」と幻影が眉を下げて聞くと、「あはははは!」と天使たちは大いに空笑いをした。


「…何事においても隙がない…

 しかも、ピリピリした緊張感も感じない…

 …まあ、言っちゃいけないのだが、

 幻影はまさに完璧だな…」


ゲイルが大いに眉を下げて言うと、「結果的にそうなっただけのことですよ」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


「…完璧さんの次はいつなのぉー…」とベサーニが大いに眉を下げて聞くと、「…予定通りだと三十日後?」と幻影が答えると、「…はぁー…」とベサーニは大きなため息をついてうなだれた。


「喜笑星を中心にして、色々と考えることも多いからね。

 こういっちゃなんだけど、宇宙の旅の手伝いは、

 いい気分転換にもなっているんだ。

 だけどそろそろ、御屋形様の命令で、

 琵琶家も宇宙に旅立つ日が近いかもね」


この幻影の言葉は現実にはならなかった。


信長の行動としては、喜笑星の国民に寄り添ってコミュニケーションをとっているからだ。


さすがに三万人もいれば、全ての者と納得いくまで語り合うには一年ほどはかかるはずだ。


よって信長は頼りになる気さくなお殿様として、国民の絶大なる支持を得ていた。



今日のノスビレ部隊の手伝いは、重胤と草太が信長から指示を受けて旅立った。


よって今日の琵琶家の出陣がないことは確実だ。


午前中は信長も流派の修行に参加する。


もちろん国民たちも理解をしていて、それぞれの仕事に従事する。


昼餉のあとは様々で、気になったことがあれば国民に寄り添うし、そうでなければ製造などに従事する。


幻影の今日の製造の仕事は、品薄になったおもちゃ作りで、母星とサルサロス星が主なお得意様だ。


幻影はいつものように笑みを浮かべて作業をしていると、一瞬だが不安を感じた。


その途端、信長からの強制的な術が飛んできたので、幻影はすぐさま咲笑に伝えて、宇宙戦艦を始動させて、仲間たちを戦艦に放り込んだ。


「…急いだのだが、ワシの出番はなさそうじゃ…」と信長が眉を下げて言うと、幻影たちは大いに苦笑いを浮かべた。


今回は幻影も言い知れぬ不安を感じたのだが、それはそのはずで、同じ宇宙内での不幸だったからだ。


よってその不幸が今いきなり沸いたのだ。


望遠の映像によると、星の住人たちは宙に浮かんでいる悪魔たちを見入っている。


その悪魔は続々と増えていく。


その間に、宇宙戦艦は星の大気圏に飛び込んで、悪魔たちを迎え撃つ準備をした。


「例の野生の悪魔が湧いて出るというやつじゃ。

 まさか早速、この事態に直面するとは、大いについている!」


生物が生息する星が出来上がって約五十億年経つと、このようにして悪魔が沸いて出る。


これは例外なく起ることで、自然界の掟のようなものだ。


星の寿命の折り返しとなった時、生物はそれなり以上に増える。


それを間引くために、悪魔が現れて、特に人間の魂を食らうのだ。


ほとんどの場合、抗う術はなく、人間はほぼ全滅してしまう。


千年前まではまさにその通りだったのだが、数々の強い力が現れ、悪魔たちを撃退することに成功するようになってきた。


もちろん、その星に住む強い力が立ち向かうこともある。


「あやつらは、元いた暗黒宇宙に強制送還するから

 殺さず捕えろ!」


信長の雄々しき命令に、「はっ!」と誰もが短く答えて、幻影の念話によってその陣形を整えた。


「終わりました!」と幻影が叫ぶと、「…結界を張りよったか…」と信長は言って大いに眉を下げた。


「あやつらは賢くないので、

 エネルギー弾を撃ちまくりますから」


幻影が叫ぶと、悪魔たちが幻影たちめがけて一斉に黒いエネルギ弾を撃ってきた。


もちろんすべてが結界に阻まれ、空中で爆発を起こし、結界内では蜂の巣をつついたように大騒ぎとなっていた。


「…滑稽な…」と信長は言って、鼻で笑って、数名ずつ、結界内から消えていく。


「続きは、生まれた地でやれ!」と信長が叫ぶと、悪魔はすべて消えていた。


「首領らしい者がまだ来ていません!」と幻影が叫ぶと、信長は辺りを見まわしたが、気配はない。


「しばし待機じゃ!

 気を抜くでないぞ!」


信長は叫んで、さらに広範囲を探ったが、一向に現れる気配がない。


だが結界内にそれなりに威厳を持った悪魔が浮き出てきた。


そして目を見開き、結界が張られていることをすぐさま知って、結界を壊そうとしたとたんに消えた。


「なかなかのやつでした!

 奥様といい勝負だったかもしれません!」


幻影の言葉に、信長は愉快そうに笑った。


信長は念のため、さらに監視を続けたが、「結界を解け!」と信長は命令した。


「やつら、母星に戻って小競り合いを始めよった!」と信長は大いに叫んで大声で笑い始めた。


「…一度飛ぶともう飛べん…」と信長がうなった。


信長は最後に現れた悪魔の言葉を言っただけだ。


「よっし! 集合じゃ!」と信長が叫ぶと、手下たちはすぐさま戻ってきた。


するとこの地の防衛組織らしき者たちの飛行艇がやってくる気配を感じたので、「まずは乗り込め!」と信長が叫ぶと、家人たちは一斉に宇宙戦艦に乗り込んだ。


そして一気に大気圏を離脱して、宇宙空間から監視を始めた。


この星は宇宙船を所有していないので、星の外に飛び出せば安全となる。


「それなりの武力はあったようじゃな」と信長が幻之丞に聞くと、「それなり以上に抵抗はできたと推測します」と笑みを浮かべて答えた。


「じゃが相手は動く砲台のようなものじゃ。

 まずは面倒な武器を破壊したことじゃろうて。

 そうなれば抗う手はないようじゃが、

 どうじゃ?」


信長は言って幻之丞を見た。


「能力者らしき者の情報はございません」と幻之丞が答えると、「…大きな戦いになったな…」と幻影は眉を下げて嘆くように言った。


「誰か、雇ってやってくんないの?」とセイレーヌが懇願の目を信長に向けると、「気が向いたらまた来てやろう、引き上げじゃ!」と信長が叫ぶと同時に、喜笑星の大気圏内にいた。


「…宇宙の旅じゃないぃー…」と長春が大いに苦情を言ったが、信長は高笑いをしているだけだ。


あまりにも素早い帰還に、誰だってこう思うことだろう。


「喜笑星を気楽に離れられるまでの我慢じゃ」


「はぁーい…」と長春を筆頭に子供たちと天使たちが返事をした。


喜笑星には防衛軍がないので、現在は唯一の杞憂となっている。


しかし幸いなことに、この宇宙には宇宙船を保有している星はないので、高確率で宇宙船が飛んでくる事態には陥らない。


よって低確率だが、宇宙を隔ててやってくる者がいるかもしれないのだが、セイレーヌは今までに一度もなかったと言った。


「星の創造神をしてた時は、

 毎日が宇宙大戦争だった…」


セイレーヌが嘆くと、「それなりの経験も積んでおったんじゃな」と信長は笑みを浮かべて言って、セイレーヌの頭をなでた。


「お師匠様…

 八丁畷春之介様に出会ってから、

 すっごく楽になりましたぁー…」


セイレーヌが幸せそうな顔をして言うと、「たまには遊びに行けばよい」という信長の気さくな言葉に、セイレーヌは笑みを浮かべて頭を下げた。


「となると、別の宇宙にいたの?」と幻影が疑問に思ったので気さくに聞くと、セイレーヌは咲笑を抱きしめた。


すると宇宙地図が出て、その場所がよく理解できた。


「…普通の宇宙船じゃと、ちと遠いか…」と信長はうなるように言った。


「新しくできたこの宇宙にお引越ししてきましたぁー…」とセイレーヌは笑みを浮かべて答えた。


「星の創造神から宇宙の創造神に出世したか…」と信長は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「一般的な宇宙船で、

 約十万年程かかる距離です」


幻之丞の言葉に、「そりゃ、来られんな…」と信長は言って鼻で笑った。


宇宙は広いと、琵琶家一同は誰もが思い知っていた。


「だけど、みんなすごい!」とセイレーヌは言って、家人たちを見渡して笑みを浮かべた。


もちろん、足漕ぎ宇宙船など、どこの世界にもないものだからだ。


緊急発進の際には、高能力者がその力を大いに発揮していたことも、セイレーヌはよく知っている。


「…時には、補助原動機も使うとしようか…

 何事もなければ、十日後にこの宇宙の物見遊山じゃ」


信長の言葉に、まずは長春が大いに喜び、子供たちと天使たちがそれに倣った。


そして二名いる喜笑星防衛隊が眉を下げていた。


信長はノスビレ部隊に合流していた重胤と草太に緊急出動したと話し、咲笑がその一部始終をダイジェストで放映した。


「この不幸は、今回のような偶然でもない限り、無傷では救えん」という信長の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「察知できたのは、宇宙の創造神がここにおるからじゃ。

 本来ならば感じることすらなかったじゃろうて」


信長の言葉に、「…生活の邪魔をしてごめんなさいぃー…」とセイレーヌは謝ったが、「気にすることなど何もない」という信長の雄々しき言葉に、セイレーヌは笑みを浮かべた。


「…ああ、それで…

 だから俺も感じたわけだ…」


幻影がつぶやくと、「…ふん、さすがじゃ…」と信長は言って鼻で笑って、幻影の頭をなでた。


「咲笑への情報伝達の早さも納得できたわい」と信長は言ってから愉快そうに笑った。


「いい経験になりました」と幻影は笑みを浮かべて言って頭を下げた。


「飯じゃ飯!」と信長は陽気に叫んで、安土城に向かって歩いて行った。



夕餉が終わってすぐに、幻影はまずはやりかけの仕事を済ませてから、様々なことを考慮して、幻影ひとりでまずはサルサロス星に行って、法源院屋に出向いた。


おもちゃ類はほぼ品切れ状態だったので、番頭は大いに喜んだ。


菓子類も品薄のものだけを卸してから店を出ると、マリーンが待ち構えていた。


「まさか、野良悪魔の件?」と幻影が眉を下げて聞くと、「…詳しい内容を知りたくて…」とマリーンは困惑の目をして言うと、幻影は言葉少なめに説明した。


もちろん簡単に説明できることだったので、偶然の幸運だったことは、マリーンはすぐに理解できた。


「…セイレーヌ様も優秀ですわ…」とマリーンはうらやましそうに言った。


「ではこれにて。

 まだ配達の途中ですので」


幻影の言葉に、マリーンはすぐさま詫びを言って道を開けた。


幻影は逃げるように走って安土城に飛び込んでからすぐに出てきて社に駆け込んで、生実の法源院屋から順に御殿巡りをした。


各地に移動している際にも不幸がないかと探っていたが、手助けの必要はほとんどなく、街道から脱輪した馬車を持ち上げた程度の手助けをしてから、喜笑星に戻った。



幻影はマリーンとの接触の件を信長に話すと、「誰かを伝令に出せばよいのに」と眉を下げて言った。


「その指示をする前に、私がサルサロスにいることを知ったのでしょう」という幻影の言葉に、「…さもありなん…」と信長は言って何度もうなづいた。


「それに、喜笑星にいる琵琶家の誰かと接触を望んだのかもしれません。

 今回の件を踏まえて、城代には常に報告しておくことにしましょう」


「おう、ワシがする」と信長は言って、今回の担当の光秀に念話を送った。


「…ありえん?

 いや、実際に処置をしたことじゃ。

 マリーン殿は納得したそうじゃぞ?」


信長の言葉に、―― 拓生が異議を申し立てたか… ―― と幻影は思って何度もうなづいた。


「面倒じゃから、幻之丞の記憶を送ってやるから、確認すればよい」


信長は言って念話を切った。


「松崎様たちは力不足とうなだれたそうです」という幻之丞の言葉に、信長は鼻で笑って幻之丞の頭をなでた。


「自然界の神が疑問に思うことですので、

 それ以外の者が疑問に思っても仕方のないことでしょう。

 ですがこの件が曲がって伝わると、少々面倒な事態にも陥ります」


幻影の言葉に、「条件付きで救えたのじゃからな」と信長は言って何度もうなづいた。


「その時はその時じゃ。

 きちんと説明してやればよい。

 ま、逆恨みはしてくるじゃろうが、

 元凶は自然界じゃ。

 よって恨むのならマリーン殿を恨んでもらおう。

 それも、自然界の掟のようなものじゃ」


「御意」と幻影は笑みを浮かべて言って頭を下げた。



すると、大人の姿の悪魔ベサーニが友人の悪魔とともにやって来て、まずは信長に丁重にあいさつをしてすぐに阿利渚に寄り添った。


「…感情的には幻影に向いとったが?」と信長が言うと、「…私はうんこたれなので嫌われておりますから…」と幻影が無表情で言うと、信長、濃姫、蘭丸が愉快そうに笑った。


「…まあ、売り込みというか、その逆に近いな…」と信長は言って大いに眉を下げた。


幻影が阿利渚に念話を送ると、ベサーニはすぐさま顔色を変えてうなだれた。


「善意の上の強欲は悪」と阿利渚が眉を下げて言うと、ベサーニは大いにうなだれた。


そしてベサーニは阿利渚に謝ってから、大いに憤慨して幻影に駆け寄ってきた。


「なんだ、嫌ってなかったのかよ」と幻影が友人のノリで言うと、「…あんたがほとんどの実権を握っていることはよーくわかってるわよぉー…」とベサーニは美しい顔をゆがめて言った。


「その通りじゃから反論はない」と信長がにやりと笑って言うと、幻影の武器の大半が使えなくなっていた。


「だが、善意を盾に取って、自分の欲を押しつけるのはどうかと思うね」


幻影のひと言に、「…さっき、聞いたぁー…」とベサーニは威厳を持ってうなったが、一気にうなだれた。


ここはベサーニの善人の心が大いに抗ったと言ったところだ。


「ちなみに、琵琶家が宇宙の旅に出るのは、十日後の観光旅行だよ?」


幻影の言葉に、「…うう…」とベサーニはうなるしかなかった。


「さらに言えばだ。

 ノスビレ部隊と合流する前の生活に戻せば?」


「そんなこと!!」とベサーニは勢いよく叫んでからまたうなだれた。


「救い方は三者三様あっていいと思うんだ。

 その結果が同じであればね」


「…同じ、じゃないぃー…」とベサーニは大いに嘆いた。


「琵琶家とノスビレ部隊の結果はほぼ同じだと思う。

 ベサーニひとりの場合は、そこまで良心的にできないわけだ。

 だったら、長いものに巻かれるしかないじゃないか。

 それから、我が琵琶家ではそれほどベサーニを必要としていない事実はある。

 さらに言えばだ、

 ベサーニはベサーニの部隊を作り上げるべきだと思うんだけど?」


するとベサーニの友人の厳つい悪魔が不気味な笑みを浮かべてうなづいた。


「あ、あなたはミミ様でしたね。

 ご挨拶がまだでした」


幻影は厳つい悪魔に言って頭を下げた。


「…母ちゃんが駄々をこねちゃってね…」と恐ろし気な顔に困惑の顔を浮かべた。


「…ふむ…」と信長がうなると幻影は目を見開いて、「…なんてこった…」とつぶやいた。


信長が幻影に目配せをすると、「ミミ様は悪魔ではございません」と断言した。


するとベサーニは目を見開いてミミを見た。


「…いつ言おうかって思っていたけど、今になっちゃったわ…」とミミは言って、本当の姿をさらすと、信長も第六天魔王に変身した。


「…おまえ、いいやつを手下に持ったな…」と魔王ミミがうなると、「…姉ちゃんだって、素晴らしい友人がおるではないか…」と魔王信長は言って鼻で笑った。


「第三天魔王の姉ちゃん」と魔王信長が気さくに紹介すると、琵琶家一同は一斉に頭を下げた。


ベサーニは、今までで一番雄々しいミミを目を見開いて見上げた。


「手下はすぐにでも見つかるさ。

 第三天魔王軍として、別の部隊を作ればいいじゃん」


幻影の言葉にベサーニは目覚めたような目をして、第三天魔王に抱きついた。


「…兵士はロストソウル軍から調達するわ…

 お母さんにも同行してもらえればいいんだけど…」


第三天魔王のやさしい言葉に、ベサーニは、「うんうん!」と機嫌よく叫んでから体を放して、「…お騒がせしましたぁー…」と琵琶家一同に丁重に謝ってから、魔王の姿のままのミミとともに社に向かって歩いて行った。


「さらに急がなくてよくなった」と魔王は言って信長に戻って、大いに眉を下げていた。


「我らも動けるようになれば、世界は急速によくなることでしょう。

 ですがそれも少々問題かもしれないのです」


幻影の言葉に、信長は何度もうなづいて、「大神殿のことじゃな?」と言った。


「今の存在のない大神殿のように、

 完全に姿を消すことになってしまうように感じます」


「それが自然じゃから、それでもよい」と信長は堂々と言った。


「そうなればなったで、

 マリーン殿にも外に出て戦ってもらえばよいだけのことじゃ。

 何の問題もあるものか」


「御意」と幻影は笑みを浮かべて言って頭を下げた。


「…それなりに平和になれば、自然界の神はお役御免…」


濃姫が眉を下げてつぶやくと、理解できていなかった者たちも理解ができていた。


「強制的に作り上げた組織ですが、

 自然界は抗わなかったのでしょう。

 ですが比較的平和と自然界が判断した場合、

 不純物は除外するように思います。

 実はマリーン様の杞憂はここにもあったように思うのです。

 極端に言えば、崇められる女王でいた方が楽」


幻影の言葉に、真っ先に信長が膝を打って、「あるある! 大いにある!」と叫んで大いに笑った。


「よって、マリーン様の能力はかなり下がることでしょう。

 極様も、それに守山殿も覚悟しておいた方がいいかもな」


幻影の言葉に、「過ぎたる力は嫌われる」と守山が言うと、幻影は大いに眉を下げていた。


「お前は自然界に無関係なのに、

 どうしてそこまでになったと問いたいほどだ」


守山の反撃に、「…まあ… 信仰心…」と幻影は答えてうなだれた。


「…なかなか厳しいな…」と信長が眉を下げて言うと、「ご尽力、感謝しております」と幻影は言って頭を下げた。


「…ああ、そういうこともされておられたわけか…」と守山は言ってようやく納得していた。


「あんたたちだけで納得しない!」と濃姫が大いに叫ぶと、ここは幻影が穏やかに説明した。


「…何を狙っているのかと思っていれば…」と濃姫は言って信長をにらんだ。


「信仰心よりも忠誠心の方を誘いたかっただけじゃ。

 じゃが、幻影は神としての力を見せつけておるからな。

 そう簡単には信仰心を薄れさせることはできんのじゃ。

 まあ、幻影以外を神として崇めている国民もおる」


信長の言葉に、「…ま、まあね…」と濃姫は言って、一瞬だけ長春を見た。


まさに動物の神でしかないので、特に子供たちからの崇拝の対象でもある。


「魚を大量に獲ってきた。

 さすが神だと言って崇める。

 今日はそれほどでもなかったと誰が言うと、

 まだまだ信仰心が足りないとしてさらに崇める」


信長の言葉に、「…どう転んでも崇められるわけね…」と濃姫は言って、幻影に向けて柏手を打った。


「これも修行よ」という濃姫の言葉に、「はい、そういたしましょう」と幻影は真剣な目をして言って頭を下げた。


「…もっとも、魚にとっては迷惑のように思うのですけどね…

 まあ、酔って釣られる方が悪いとでも思っておきましょう…」


「…今までよりも、さらに感謝いたしましょう…」と濃姫が言ってまた柏手を打つと、誰もが一斉にその真似をした。


―― …これも修行… ―― と幻影は思い、大いに眉を下げていたが、すぐさまハイネが駆け寄って来て、幻影を抱きしめて、「漁に行きましょう!」と叫んで誘った。



保存食はもう十分なので、できれば大物のうまい魚を、国民たちにも食べてもらいたいというハイネの希望に答えて、幻影は網や竿ではなく、手づかみで巨大な魚の尾ひれをつかんで、その場で血抜きをした。


幻影の身長よりも大きな鮪のような魚を三十匹も獲れば、国民全体に行き渡るとして、城に戻って、さっそく工房で巨大な魚を切り身に変えていった。


「二匹ほど余ってよかった」


幻影は言って、この二匹は別にさばいて、サルサロス星の法源院屋と麺屋に卸した。


さらには大量の切れ端をさらに安価で卸して、大勢の人たちに食べてもらえるようにと願った。


法源院屋では切れ端の安い切り身が即完売になったが、形のいい切り身の方もそれほど遅れることなく売り切れた。


幻影は店主の喜びの声を聴くことなく、喜笑星の安土城のくつろぎの間にいて、大飯を食らっていた。


「城代らは?」と信長が気にして幻影に聞くと、「料理番に渡してきました」とすぐさま答えたので、信長は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「…進化が早まった?

 遅くなった?」


セイレーヌが自問していると、「危機を察知して逃げた魚もいたから、そいつらは進化組だろうな」という幻影の言葉に、セイレーヌは笑みを浮かべて納得していた。


「…ふむ… 

 この先は、これほどに豪勢な食事は期待しない方がいいと言ったところか…」


信長の言葉に、「年に一度程度の行事にしましょうか」と明るい幻影の言葉に、信長は機嫌よくうなづいた。


「半年に一度の方がよさそうです」と幻之丞が言って、その詳しい情報を宙に浮かべて説明した。


「…多いな…」と幻影は言って大いに眉を下げた。


「…今は獲り過ぎたと思うほど獲って、丁度いいと思いますぅー…」と咲笑は言ってから、うまい握り寿司を口いっぱいにほおばった。


「…天敵は鳥だと思うが、みんな小鳥だからな…」と幻影は眉を下げて言って、もうすでに数羽を手下にしている長春を見て言った。


「…オカメ…」と信長が眉を下げてつぶやくと、「あ、別の子」と長春はすぐに言って、小鳥たちにも粟ほどに小さく切った刺身を与えた。


「…オカメインコに知り合いでも?」とセイレーヌが聞いてきたので、幻影が説明しようとしたが、ここは胸を張って咲笑が図解入りで説明した。


「…あの子もあっちにいるんだぁー…」とセイレーヌは笑みを浮かべて言って、ここからだと小さく見える社を見ていた。


「あ、春之介様とは別の星だよ」と咲笑が補足説明をした。


「…ピーチちゃんも元気そうでよかった…」とセイレーヌが笑みを浮かべて言うと、「…名付け親発見…」と幻影が言うと、誰もが大いに笑った。


神獣ポポタールにも緑竜にもなったので元気すぎるほどだが、セイレーヌとしてはそれほど気にならないようで、いい思い出として思い起こしているだけだ。


「…ピーチちゃんも呼ぶぅー…」と長春がうなると、そのオカメインコが空を飛んでくつろぎの間に入ってきた。


そしてすぐにセイレーヌを見つけて、頭を下げながら近づいてくる滑稽な姿を見て、誰もが大いに笑った。


「…こっちに住むぅー…」とオカメインコのピーチが言い始めたが、自分自身の使命を思い出して頭を垂れた。


「…マリーンから、さらに眼を離せなくなったからなぁー…」というピーチの嘆きに、「スイジンちゃんに監視させておけばいいじゃん」と幻影が気さくに言った。


半分ほどは胸の支えが降りたようで、ピーチはこの喜笑星にも遠慮なく来ることに決めた。



すると、なぜだか忍び足でやってきた桜良を誰もが注目していた。


本人としては、それほど堂々と来ることを控えようと思っただけの行為だが、誰もが大いに笑い転げた。


早速ハイネが桜良とレスターのために膳を用意してから口上を述べた。


「…高級旅館に来たようだわ…」と桜良は言って、今日は味わうようにゆっくりと食べ始めた。


「極君こそ完璧だって思ってたのになぁー…」と桜良が嘆くと、「彼もまた、万有源一と同じく子供です」という幻影の言葉に、桜良は眉を下げて、「…現世の経験値…」とつぶやいた。


「魂の記録を読めることは落とし穴でもあるはずです。

 その程度のことはわかっていたはずなのに、

 それに胡坐をかいていた。

 現世での経験こそが、本来の糧となることはわかっていたはずだし、

 指導もされていたはずです」


「はい、源一様の場合は、その話をされていたことをこの目で見ております」とレスターがお堅く答えた。


幻影は何度もうなづいて、「指導をしたのは、俺のように老人だよね?」と若々しい幻影が言うと、「そうですね、その当時は同年代だったと記憶しています」とレスターは答えた。


「しかも、源一様の前世の父の言葉でしたが…」とレスターは言って眉を下げると、「何も変えなくてもよさそうだ」と幻影は笑みを浮かべて言った。


「年長者として、指導は怠らんと誓おう」


信長の雄々しき言葉に、琵琶家一同はすぐさま頭を下げた。


濃姫は機嫌よくうなづいていた。


魔王として覚醒してからは、厳しさにも優しさにも拍車がかかっていると改めて認めたからだ。


さらには殿様としての威厳が、人間だった頃よりも破格に上がっていることがうれしかった。


「ですが、変わってしまったこともあるのです」という幻影の言葉に、誰もが箸を止めた。


「一人旅が本当につまらないものになってしまったのです」


幻影の言葉を聞いてすぐに、「いつでも付き合うよ!」と長春が満面の笑みを浮かべて言った。


信長は横目で長春をにらんでから、「また新たな第一歩だと思っておけばよい」という言葉に、幻影は笑みを浮かべて頭を下げ、箸を取って陽気に食べ始めた。


―― 琵琶家は、どの家族よりも誰よりも、経験が濃い ―― とレスターは思って、笑みを浮かべて何度もうなづいて、今日はきちんと味わおうと思って、鮪の刺身に箸を延ばした。


「では、同行者を連れ、修行の旅などいかがなものか?」と重胤が大いに期待して幻影に聞くと、「あ、子供たち同伴で行ってもいいかなぁー…」という明るい言葉に、大人の弟子たちは大いにうなだれた。


信長は大いに笑い、「気が向けば、大人たちも連れて行ってやればよい」という信長の言葉に、「御意」と幻影は答えて頭を下げた。



夕餉のあとの自由時間は、長春が企画したかわいい動物探しに幻影も子供たちとともに参加した。


城下町を離れると、そこには自然しかないので、小動物がわんさかといる。


毒を持つような危険な爬虫類などはいないので、夕暮れ時だが子供たちは元気に林を駆けまわる。


「おや?」と幻影はつぶやいて、林のかなり先にある森を見入った。


そしてすぐにセイレーヌを呼んだ。


「…いつ来てたんだろ…」とセイレーヌは言って、森に向かって走った行った。


「…動物だけどかわいくないぃー…」と長春が嘆くと、子供たちは一斉に眉を下げて森を見入った。


「だけど、なかなか頼もしいぞ」と幻影は言って、森に向かって笑みを向けた。


すると森からセイレーヌの姿が見えて、振り返って手招きをしている。


その背後の森がまるで移動するようにして夕日を浴びた。


しばらくすると、森がふたつになったような錯覚を覚え、森にいた動物の正体が判明した。


「…でかい亀だ…」という幻影の言葉に、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


すると巨大な亀は動かず、じっと、幻影を見入った。


「いなくなった統括地の創造神を探して旅をしているんだって」とセイレーヌが眉を下げて言った。


「…またそれは、とんでもない旅だな…」と幻影は言って大いに眉を下げた。


すると巨大な亀が人型を取った。


身長は阿利渚とそれほど変わらず、なんとなく幻影に似ている。


人型を取ることはあるようで、幻影の知っている洋装の服を着ていた。


「…お師様… 探しましたぁー…」と男子は言って、幻影に駆け寄ってきて涙を流した。


「俺かい?!」と幻影は叫んで大いに笑った。


「確認するからちょっと待ってくれ」と幻影は言って、魂を探ってようやく理解できた。


そして咲笑がその証拠映像を出した。


大きな湖に巨大な亀がいて、湖面に人間の大人相当の大きさの鼫が写っていた。


「やあ、トータス、久しぶり!」と幻影が笑みを浮かべて今更ながらにあいさつをすると、トータスと呼ばれた男子は幻影に抱きついた。


するといつの間にかここにいた蘭丸がトータスを抱き上げて、「あなたの母よ」とやさしく言ったので、幻影は大いに眉を下げた。


「またとんでもない大物じゃったな」と信長が眉を下げて言った。


「これほど近くにいたのに、気配すら感じさせませんでした。

 近づいてようやくその存在感に気付いたほどですので。

 なかなかの逸材でしょうし、

 この喜笑星の守り神として雇おうかと思っています」


「海で過ごせば、素晴らしい築山となろう」という信長の言葉に、トータスは大いに眉を下げていた。


「…すごい人しかいないぃー…」とトータスは嘆いて、今は味方の蘭丸を強く抱きしめた。


「幻影様によく似ているから、

 子供を産む手間が省けたわ」


蘭丸の陽気な言葉に、幻影は大いに眉を下げて、信長は大いに笑った。


「当時は、能力者の端くれしかいなかったからな…

 だが、今回は当時とは違うぞ」


幻影の自信を持った言葉に、トータスは笑みを浮かべてうなづいた。


「改めて紹介します。

 神獣仲間のトータスです」


「…そういう関係性か…」と信長は言って自己紹介をした。


「当時の我が師匠の名をつけました。

 師匠は亀の獣人で、

 現在はゲイル・コリスナーさんです」


幻影の言葉に信長たちは目を見開いて、「…そっち側の関係もあったか…」とつぶやいて、大いに納得して笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「確認は今終えたところです。

 まさに伝説の統括地の創造神となっていて、名を刻んでいます。

 その師匠に私が後を託されて、

 今は私の弟子があとを継いでいるはずです」


「…もう問題ないから、星を出てきたんだ…」とトータスは言って笑みを浮かべた。


「そうか。

 見守ってくれてありがとう」


幻影は誠心誠意礼を言った。


「修行って、もう終わったの?」とトータスが幻影に聞くと、「ああ、ようやく、俺の呪縛から解放されたぞ」と答えた。


「…そうか…

 我ら弟子の修行の件か…」


信長が言って何度もうなづいた。


「まずは拓生さんが織田信長となりましたから。

 その時点で強制的に、彼のいた星に飛ばされたのです。

 この事実はトータスに話してありましたので、

 私が消えたら、後を頼むと願っておいたのです」


「…とんでもねえことしてんじゃあねえぞぉー…」と蘭丸が大いに眉を下げて言った。


「もう何の呪縛もないから、勝手に消えることはない」という幻影の言葉に、誰もがほっと胸をなでおろした。


「…煌極が嫉妬せぬはずがない…」という信長の言葉に、幻影は大いに眉を下げていた。


「…竜にはなれたの?」とトータスが聞くと、「…この先の修行としては、それが残ってるな…」と幻影は眉を下げて言った。


「…僕は、なんとなくだけど、緑竜かなぁーって…」とトータスが言うと、「…まあ、見た目、そういえなくはないな…」と幻影は眉を下げて言った。


「…ふむ…」と信長はうなって、トータスを見た。


「フォレストとの入れ替わりも考えられます」という幻影の言葉に、「…さもありなん…」と信長はつぶやいて何度もうなづいた。


「明日ですが」と幻影が言うと、信長は、「竜の村に行く」と断言した。


「…竜の、村…」とトータスはつぶやいて、幻影を見た。


「竜に関しては、まさに神の国のような場所さ」


幻影の気さくな言葉に、トータスは笑みを浮かべていた。


「…お話、終わった?」とセイレーヌが意味ありげに聞くと、「…もう、お婿に行くのね…」と蘭丸は眉を下げて言って、トータスを地面に下した。


「私、セイレーヌ!」とトータスに向けて、元気よく自己紹介をした。


「…トータス、ですぅー…

 畏れ多い名前ですけどぉー…」


トータスの自信なさげな言葉も、控えめなところが気に入ったようで、セイレーヌは機嫌よくトータスに寄り添った。


秀忠と久松にとって、とんでもない好敵手の出現に、さらに気合が入っていた。



翌日は朝早くから右京和馬星に移動して、早速別荘近くで朝練を開始すると、ゲイルたちはすぐに気づいて琵琶家に寄り添って修行に付き合った。


落ち着いて話ができるようになったのは朝餉の時で、過去の師匠と弟子、そして孫弟子は挨拶を交わした。


この深い絆に一番喜んだのはライジンとエカテリーナで、琵琶家との関係は盤石と信じて疑わなかった。


春之介と優夏もやって来て、今度はセイレーヌが春之介に寄り添って、婿候補のトータスを紹介した。


「…少々嫌がってるようだけど?」という春之介の言葉に、「ガーン!!」とセイレーヌが叫ぶと、誰もが愉快そうに笑った。



「そういえば、ベサーニは早速旅立ったの?」と幻影が気さくにゲイルに聞くと、「…魔王の実力、恐るべし、だよ…」とゲイルは大いに眉を下げて答えた。


「今は新規隊員たちの試験の最中で、休む間もなく不幸を探して飛んでいるそうだ」


「…試験だとしても付き合わせれる方はたまったものじゃないね…」と幻影は言って大いに眉を下げた。


「魔王イカロスも重い腰を上げかけているそうで、

 ここにも来たよ。

 例の悪ガキたちも連れてね」


「だけど、魔王イカロスは不器用だって聞いたけど…」


幻影の言葉に、ゲイルは愉快そうに笑って、「ベサーニや優夏さんの代わりができる者がふたりほどいるらしい」と言った。


「…とんでもなく優秀な悪ガキだな…」と幻影は言って少し笑った。


「…だけど、イカロスが眉を下げててね…

 …何か問題があるようなんだ…」


ゲイルは一気に声の勢いを下げて言った。


「…捜索範囲が狭い、とか…」


「…それは大いにありそうだけど、

 近隣が平和になるから、それでもいいと思うけどね…」


「…悪ガキたちはそれを納得できないってところかなぁー…

 あまり欲張ってると、能力自体を消されるはずだが…」


「…マリーン様は、暇になったはずだからね…」とゲイルは大いに眉を下げて言った。


「おっと」と幻影は言って黙り込んだ。


そして、「いい教訓になったことでしょう」と幻影は言って、念話先の拓生に礼を言ってから念話を切った。


「…リーダー格の松崎源拓の能力が消えたそうです…」という幻影の言葉に、話を聞いていたレスターが大いに眉を下げた。


「…何を焦っているのか…

 …だが、いい薬にはなっただろう…」


「万有源一、煌極と同じ病気ですから、

 それほど気にしなくていいと思います。

 命はあるのだから、この先どうとでもなるでしょう。

 さらには仲間にとっていい見せしめでしょう。

 となると、魔王イカロスはできる範囲で行動を起こすように思います。

 問題は残されるはずの、

 万有源拓の処遇です」


すると、大屋京馬が妻の大屋楓とともに飛んできて、ゲイルと幻影に頭を下げた。


事後報告で、源拓がやってきたので追い返したそうだ。


さらには社と黒い扉の出入り禁止も言い渡され、宇宙船に乗ってでしか、星の移動ができないという制限を受けた。


「…師匠を見失ったからこそか…

 これは大いなる不幸でしかないな…

 面倒だけど、師匠にでもなってやるかぁー…」


幻影の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


「三日で目途をつけよ」という信長の厳しい言葉に、「御意」と幻影は言って、すぐさま頭を下げた。


「もっとも、あのガキの方で拒絶してくれたら助かる」


幻影の言葉に、信長だけが大いに笑った。


「その前に、今は幼児でしかない万有源一と話をします。

 …なんだか、スイジンちゃんに操られているようにも思うのですけどね…」


幻影は言って、鼫の神獣に姿を変えた。


「こっちの方はそれほど知られていないので好都合です」と鼫が言うと、「…心配のひとつが消えたぁー…」と蘭丸がつぶやいて笑みを浮かべた。


「気が向いたら、お蘭もくればいい」と鼫は言って、四肢を伸ばして空高く飛び、滑空して高台を目指した。


「…出番はなさそうですので、ここにおります…」と蘭丸は言って、信長に頭を下げた。


「いや、意外と早く片が付くやもしれんぞ?

 例の、フローラという獣」


蘭丸は信長に背中を押されたこともあり、フローラに変身して信長に頭を下げて、すぐさま鼫を追って飛んだ。


すると何を思ったのか、阿国が飼っている鼫の高願が大いに慌て始めた。


信長は笑みを浮かべてから、フローラを呼び戻して、背中に鼫を乗せて、「修行じゃ」と言った。


鼫は姿勢を低くして空を飛ぶ気満々でいるが、フローラが飛び上がった瞬間に体を硬直させて、空を飛ぶことは断念した。


「かわいい子には旅をさせろ」と信長が言うと、今にも泣き出しそうな阿国は、仕方なさそうにうなづいた。



フリージア星でまず鼫たち三人を出迎えたのは、メイド長のフィルだった。


よって騒ぎは全く起こらず、鼫の思い通りに万有源一との面会が叶った。


「…ふーん…」と鼫が言うと、「…ぼく、ようじだからなんにもわかんなぁーい…」と源一が答えたので、「ま、手を出したかったらいつでも出せばいい」と鼫は無表情で言って、源一ではなく花蓮の頭をなでた。


花蓮は鼫に笑みを向けてから源一を見て、「褒めてもらったよ!」と陽気に言った。


源一としてはもうすべての修行を終えていて、現在を維持することを修行にしていると幻影は察した。


そうすることで、後継者を多く育てることは可能だ。


そしてフリージアの仲間たちが分裂したとしても放っておく決意もあった。


だが、フリージアが不幸に見舞われたとした時だけ、手を出そうと決めていると察した。


よって幻影は心が軽くなり、大いにふくれっ面をして魔王イカロスをにらんでいる万有源拓を見入った。


すでに反応していたのは万有聖源で、気を抜くことなく鼫を見入っている。


鼫は聖源の頭をなでてから、源拓を見入った。


「能力を消されたとんでもないやつ。

 お前は暗黒宇宙に飛ばして、

 再教育の刑に処してもよさそうだな」


鼫の言葉に、源拓は大いに心細くなったようで、驚愕の表情に変えていた。


魔王イカロスはもうすでに鼫の正体を見抜いていて、大いに眉を下げていた。


すると源拓の視線が下がり、鼫の足元にいる、小さな鼫を背に乗せたフローラを発見して一目散に逃げた。


魔王イカロスはようやくフローラの存在に気付いて、「…おいおい…」と嘆いた。


「最強の教育係」と鼫が言うと、「…恐れ入ったよ…」と魔王イカロスは呆れたように言った。


「…ちなみに、その子の情報はないよ?」と魔王イカロスは小さな鼫を見て言うと、「俺の弟」と鼫は答えた。


「…そういう間柄なんだね…」と魔王は言って、鼫の系図を正確に頭に思い描いた。


鼫はこの場に座って、大屋桃花を見て、「源拓の心が荒れた原因ってなんだい?」と穏やかに聞いた。


「…源一様の後継者になれなかったから…」と桃花は眉を下げて言った。


「だけど、後継者はいないように思うけど?」と鼫が聞くと、桃花は、「…ビジョン君だったはずなんだけど…」と眉を下げて言った。


「仏の道は間違いだらけだからな」という鼫の言葉に、誰もが目を見開いた。


「それに、仏の世界は簡単に破壊できるぞ。

 やってもいいが、悪者になるからやめておく」


鼫の言葉に、「…すごいね、鼫さん…」と桃花は言って大いに眉を下げて、鼫が幻影だと見抜いた。


「では、仏の世界が間違っていないという証拠に、

 悪の根源である万有源拓を更生させてみろ」


鼫がビジョンに向けて言うと、すぐさまうなだれた。


「こんなにヘタレの仏はいない」と鼫が言うと、仏の世界が消え去った。


「言っとくが俺ではない。

 しかも、自然界でもない。

 きっと、先代王の万有源一の幽霊の仕業だろうな」


鼫の言葉に、「…きっとそう…」と桃花が落ち着き払って言うと、ビジョンは一瞬顔を上げたがすぐにうなだれた。


「さらにだ。

 万有源拓を結果的にそそのかしたやつがいる」


鼫の言葉に、「…爛爛様…」と桃花がつぶやいた。


「ああ、天使の高職の人だね。

 天使すらはく奪されるかも…」


すると、鼫がいる場所の遥か左手で、悲壮な声が上がった。


「ほう、白竜だったのに、一気に堕天使…

 辛うじて、命を絶たれることはなかったようだね。

 権力を持つと、誰もがああなるものなのかなぁー…」


鼫の言葉に、「…パパもそうだった…」と桃花は言ってうなだれた。


「今は、普通にいい人さ」という鼫の言葉に、桃花は救われたように笑みを浮かべた。


「言っとくが、第六天魔王様が何かの術をかけたわけじゃないんだ。

 切欠は与えたが、それを決めたのは、

 君のパパ自身だから」


「…うん… 聞いてたけど信じられなかった…

 だけど、今信じたよ?」


桃花の言葉に鼫は不気味な笑みを浮かべてうなづいた。


「ま、こんなところでいいだろう。

 悪ガキには違いないが悪ではない。

 それに子供でもないんだから、

 そろそろ自立して正しい道を歩んでもらいたいものだ」


鼫の言葉に、「…随分とマシになったと思う…」と魔王イカロスは言って、鼫に頭を下げた。


ほとんど出番がなかったフローラは大いに眉を下げていたが、背中に乗っている鼫には何か感じたことがあったようで、それほど気にしないことにした。


「大事なことを思い出したから帰る。

 じゃ、またな」


鼫は言って、フローラとともに社に向かって歩いた。



鼫は行き先をごまかすために、一旦セルラ星に移動して、幻影に戻ると、フローラも蘭丸に戻った。


そして鼫を抱きしめて笑みを浮かべてから辺りを見回した。


社の外は石づくりの公園で、目の前には素晴らしい噴水がある。


そして、「…逢引…」と蘭丸は言って大いに赤面した。


「お茶でもしていこう」と幻影が言って歩き始めると、蘭丸はホホを赤らめて幻影について行った。


メリスンの平和を願う店に入って、幻影はメリスンとセイラとあいさつを交わして、蘭丸とともにカウンター席に座った。


テーブル席はほぼ埋まっていたので、気を利かせたのだ。


「…ここにも数名の悪ガキ…」と蘭丸が素早く察知すると、「権力者は何人もいるから問題ないさ」と幻影は言って笑みを浮かべた。


「だからね、この宇宙がなかなか平定できないわ…」とメリスンが幻影に愚痴を言うと、「このセルラ星が平和なら、全く問題ないでしょう」と幻影はすぐさま答えた。


「先に言っとくが、

 我が琵琶家は星を手に入れて、国民を抱え込んだ。

 だからそれほど暇じゃない」


幻影がセイラに釘をさすと、「…うう…」とセイラはうなって、言いたいことを言えなくなっていた。


「あら、おいしい」と蘭丸はマダムのお任せの飲み物をひと口飲んで、笑みを浮かべて言った。


「特製のブレンドミルクよ。

 この店ではどんなメニューよりも高級品なの」


メリスンが胸を張って言うと、「あ、これで足ります?」と幻影が言って金塊を出すと、「…千分の一でいい…」とメリスンは大いに眉を下げて言った。


幻影が喜笑星の金の硬貨を出すと、「これでも貰いすぎだから…」とメリスンは言って、軽食と新しい飲み物を持ってきた。


「やっぱ、誰かと一緒に来ないとほんと面白くないよ」という幻影の言葉に、「…私じゃなくてもいいような口ぶり…」と蘭丸が少し拗ねてうと、「あ、悪い悪い… 今のは気が利いてなかったな」と幻影は言って頭を下げて、笑みを浮かべた。


「…ううん… 今は、ふたりっきりだから…」と蘭丸は大いに照れて、鼫をやさしく抱きしめた。


「あら、かわいいわね。

 ペット?」


メリスンが鼫を見て言うと、「いえ、俺の弟です」という幻影の言葉に、メリスンとセイラが目を見開くと、蘭丸は愉快そうに笑った。


「…どういう関係なのよぉー…」とセイラは大いに頭を抱え込んで言った。


「高願とは親が同じ」という幻影の言葉に、メリスンとセイラはさらに頭を抱え込んでいた。


「俺が先に生まれたから、俺が兄」と幻影が言うと、「なんとなく、わかってきたわぁー…」とメリスンは言って、鼫の高願を見入って、「…だけど普通に動物なんだけど…」とつぶやいてさらに困惑した。


「でも、今日は普通じゃなかったの」と蘭丸が言って、ここに来るまでの簡単な経緯を話すと、「…一緒に行きたいとせがんだ…」とセイラがつぶやいた。


「空を飛ぶ気満々だったわ!

 すっごく勇ましかったけど、

 さすがに自力では飛べないから」


蘭丸は言って、高願をやさしくなでた。


「あら、大きな栗鼠と思っていたけど、鼫だったのね」とメリスンは笑みを浮かべて言った。


蘭丸が高願の前足を広げてその証拠を見せると、「…かわいい…」とメリスンもセイラも高願に夢中になっていた。


「…だけど、何かが妙ね…

 怒ってる?」


メリスンが言うと、幻影も蘭丸も大いに笑い転げた。


「…全然怒ってないわ…

 機嫌はいい方だと思う。

 ただただ、表情が不愛想」


セイラの言葉に、「フローラに変身できるんだって?」と幻影が聞くと、「…隠してたのにぃー…」とセイラは少し悔しそうに言った。


「翼の生えているフローラに会ったことがあるんだ」


幻影の言葉に、メリスンもセイラも石化したように固まった。


「きっと、神獣の領域だと思うけど、

 空を飛べることしか能力は見ていない。

 だけど、あの存在感は人間でも大いに怯えるからね。

 心にダメージを負わないのは、天使くらいなものだと思う」


「…そういえばそうだったわね…

 天使の習性として、全ての生物に寛容なことは当たり前のこと…」


蘭丸の言葉に、幻影は笑みを浮かべてうなづいた。


「…まさか、そんな子がフリージアにいるの?」とセイラが聞くと、「いや、別の星だろう」と幻影はごく普通に答えた。


「大きな鼫と鼫を背中に乗せた翼の生えたフローラ?!」とメリスンが叫んだ。


すると、メリスンが言った通りの鼫とフローラが椅子に座っていたので、メリスンもセイラも腰を抜かした。


「…ありがとう… 発見したわ…」とメリスンは言って、フィルとの念話を切った。


「ごちそう様、では今日は帰ります」と鼫は言って、フローラとともに店の外に出てから変身を解いて、ふたりして大いに笑いあって、中央公園までゆっくりと歩いて行った。



「…逢引して、おいしいものを食べてた…」と長春が幻影と蘭丸をにらみつけて言うと、「…再現するから…」と幻影は大いに眉を下げて言うと、ハイネは咲笑に寄り添って、その調理方法の指導を受け始めた。


「材料はあると思うけど?」と幻影がハイネに言うと、「はい! すぐにできます!」と陽気に答えて、部屋をすっ飛んで出て行った。


「…長春を叱ろうと思ったが、ハイネの機嫌がすこぶるいいから、

 それほど問題はない…」


信長の言葉に、長春は大いに眉を下げていた。


「ひとりだと、お茶をして帰ろうだなんて考えもしませんでした」


幻影の言葉に、「…得したわぁー… 面白かったしぃー…」と蘭丸は機嫌よく言った。


そして、「お手伝いするわ」と蘭丸は言って立ち上がって、高願を阿国に返してから、厨房に入った。


すると、「うぉ―――っ!!」という蘭丸の叫び声が聞こえた。


「氷菓子ではありませんが、冷やす必要があるのです」


幻影の言葉に、琵琶家一同は大いに期待していた。


ハイネと咲笑が大荷物を抱えて戻ってきたので、幻影も手伝って厨房に入った。


しばらくすると、「すごいすごい!」というハイネの陽気な叫び声が聞こえると、誰もが生唾を飲んでいた。


そしてほどなくして、配膳が始まって、見たことのない菓子三品と、白い粘り気のある飲み物が配られた。


「さあ! まずは召し上がれ!」というハイネの明るい言葉に誰もが口にして、「…ん―――っ!!」と大いにうなって、菓子と飲み物を代わる代わる味わった。


見た目も味も贅沢な菓子に、誰もが満足げにうなづいている。


ハイネがここで口上をすると、「…今回が一番手が込んでおるな…」と信長は機嫌よく言って、濃厚みぞれ牛乳を飲み干した。


「そういえば、この飲料は、

 アニマールのファストフードにあったな」


幻影の言葉に、「…連れて行ってくださいぃー…」とハイネに懇願されると断わるわけにはいかないので、幻影はハイネだけを連れてアニマールに行こうと思ったのだが、長春たち子供もついてきた。


さすがに天使たちは阿国の許可が下りなかったので、今回は断念した。


幻影はまたハンバーガーショップでフルセットを注文して、それに輪をかけて洋菓子店などの甘い菓子などをひとつずつ注文した。


まさにハイネの修行の時で、ひとつひとつを入念に吟味してから食する。


吟味を終えたものから順に、長春たちの腹に収まるシステムになっていた。


よく似たものもあるのだが、その微妙な違いも理解しながらメモをしていく。


特に疑問が多かったのはクレープ屋の商品で、ハイネは店に足を運んで次々と質問をした。


そしてハイネの思う、一番うまいメニューを作り上げてしまったのだ。


自由性の高い菓子であるからこそ、即興のような調理も通用する菓子の一種だった。


店長はこの商品を即採用して、『ハイネスペシャル』という名前を付けて、商売に流用した。


ハイネとしては満足だったので、逆に礼を言って、席に戻ってきた。


ハイネはまた別の商品も作っていて、堂々とやってきた信長に献上した。


「ほう… これは数回食ったことがあるぞ」と信長は言ってうまそうにして満面の笑みを浮かべて、生姜の効いた生八つ橋を食った。


「京の菓子は一般人には手が届かぬ。

 しかもこれは子供よりも老人が好む味じゃ。

 この八つ橋をさらに改良すれば、

 老人はさらに納得することじゃろう。

 長春たちが食っておるくれーぷとやらのようにしてもよいじゃろうて」


信長の言葉に、ハイネはこの場で素早くメモを取ってスケッチをした。


ハイネの画力も師匠譲りでそれなり以上となっていて、子供たちが歓声を上げるほどに素晴らしいものだった。


信長はこの共同食堂の老人たちにも振舞うと、誰もが目を見開いて、「…高級菓子じゃ…」と目を見開いて言った。


異様な高揚感をかぎつけた春之介がやって来て、外のオープンスペースにハイネ用の店を作り上げて、早速創作活動をしてもらうと、この星に住む全員が興味を持ってやってきて、ハイネの店に並んだ。


今日はアニマール王の善意の出店なので、全ての菓子を無料で配った。


それほど大きいものではなくひと口サイズで、幻影と長春たちも手伝ったので、苦も無く全員に行き渡った。


二巡目になると、人気投票のようになって、万人が好む味がよくわかってきた。


すると客の中に桜良を見つけたのだが、そうではないことを幻影は素早く察知して、桜良に何もかもそっくりな三井悦子の前に立ってあいさつを交わした。


「ついつい、ふらふらと来ちゃったわ!」と悦子は陽気に笑って、また列に並んだ。


三井悦子は高能力者なのだが、実は実益としては、宇宙中に知れ渡っているスイーツショップのオーナー兼パティシエだった。


桜良との唯一の違いは、レスターのような伴侶が寄り添っていないことだが、既婚者ではある。


夫はフリージアの持つ戦力である、白竜部隊の一員として働いている男悪魔だ。


白竜部隊はロストソウル軍と同様に、人助けにおいては後手に回るが、多くの人々を救い出している、万有源一が作り上げた超優秀部隊だ。


もちろん、不幸があった地での人材育成や強い仲間を抱え込むことも任務のひとつとなっている。


フリージアの巨大食堂は、白竜部隊に所属する戦士たちのための食堂だった。


幻影は接待のようにして、様々な菓子などを悦子に振舞うと、悦子は初めは嬉々としていたが、すぐさまうなだれたことで、幻影は大いに自信を持った。


「…素朴な骨せんべいが一番好きぃー…」と悦子は言って、バリバリと音を立てて骨せんべいを食って、満面の笑みを浮かべた。


ハイネはこの店の引継ぎを春之介と優夏、そしてこの場で雇った五名の現地人に託して、満足の笑みを幻影に向けた。


「じゃ、帰ろうか!」と幻影が叫ぶと、誰もが満足の笑みを浮かべて幻影に従った。


もちろん悦子もついてきて、信長に丁重にあいさつをしたが、その信長はずっと笑っていた。


あまりにも桜良に似ていることで自然に笑いが襲ってくるのだ。


そして信長の許可を得て、この喜笑星にも悦子のスイーツショップの店を開店させた。


また新たな職業でもあるので、子供から大人まで店員として採用して、部下として働かせた。


新しい菓子については、稀にハイネが作っていたので、初めて見るものはそれほどなく、元から持つものづくりの資質もあって、それほど苦労することなく、店は悦子の手を離れたが、悦子はここに家を構えることになった。


さらには食事にも招待して、悦子は一瞬にしてこの喜笑星に根を張ることになった。


「…同じメニューの日がない…」という驚愕の事実にも悦子は大いに気に入っていた。


「我が家にとって、ハイネも強力な武器のひとつじゃからな」と信長が機嫌よく言うと、「…それほどじゃなきゃ、人助けなんてできないから…」と悦子は言って満面の笑みをハイネに向けた。


余裕ができた悦子は、次は住居にも目が行き、さらには衣服にも興味を持って見入った。


ハイネの食の神に加えて、衣の神の秀忠と、住の神の火竜ライアが大いなる威厳を持っていることに感動して、当人たちと両手で握手を交わして喜んでいる。


秀忠はすでに接触があったことで、ごく普通にあいさつを交わしていた。


「有名人じゃなくて、気になっている人っていない?」と幻影が秀忠に聞くと、秀忠は長くて短かった生活を思い出し、「…そこまで人を見る余裕がなかった…」と言ったが、生まれ変わった秀忠は一味違っていて、フリージアに戻って人探しをすると進言した。


信長は快く許可して、秀忠はひとり旅立った。


「…話す間もなく、旅立っちゃった…」と静香は少し寂しそうにつぶやいた。


もちろん、生まれ変わった秀忠に興味を持ったのは静香だけではないし、一番の有力候補はもちろん春菜だ。


その春菜は眉は下げたものの、それほど後ろ髪惹かれることはなく、日常に戻っている。


「…伴侶候補者は…」と幻影はつぶやいて、その資格がある者たちに顔を向けると、信長は機嫌よく同意して、何度もうなづいた。



翌日は源次と志乃がノスビレ部隊に同行したのだが、いつもの時間になっても戻ってこない。


よほどの災難に見舞われたのだろうと、幻影は思っていただけだが、幻影が動く前に信長がライジンに向けて念話を放って苦情を申し立てた。


「…素直に手伝えと言えぇー…」と信長がうなると、琵琶一家はすぐさま信長に寄り添った。


もちろん意味が解っていなくても、異様な雰囲気を信長が持っていることは緊急事態なので、集合することは当然のことだ。


「場所が判明しました!

 すぐに飛べます!」


咲笑の明るい言葉に、琵琶一族はすぐさま宇宙戦艦に乗り込んで、あっという間に目的の星にたどり着いた。


「…ワシの術が使えんとはしゃらくさい…」と信長は気に入らないようで大いにうなったが、「お任せを」と幻影が頭を下げて言うと、「…修行にはならぬが… まあ、ここは、幻影が出張った方がよさそうじゃし、その先の考察も大いに必要じゃろう…」と信長は渋々承諾した。


信長はライジンに念話を送って、現状を打破する最終兵器を投入すると伝えると、間髪入れずに同意の意を得た。


「…くっそぉー… 最終兵器…」と蘭丸は言って、怒ってはいるが自慢げに幻影を見た。


「今回に限ってだけさ」と幻影は言って、宇宙戦艦が大気圏に突入してすぐに戦艦を飛び出して術を放つと、面妖な獣のような者たちはその場で立ち尽くしてからばったり倒れ、そして消え去った。


「天使の術?!」とゲイルは宙に浮かんでいる幻影を見て叫んだ。


「いや、悪滅の術だから」という幻影の明るい言葉に、「…さすがに今回ばかりは焦ったよ…」とゲイルはようやく笑みを浮かべて幻影を歓迎した。


しかも、ノスビレ部隊の数名も、幻影の術に当てられて意識を断たれていた。


「悪の感染があったんだな」とゲイルが言うと、「…あったようね…」とメルティーが言って、仲間たちに気付けを行った。


「…源一さんだけが持っていた術じゃなかったんだ…」とゲッタは笑みを浮かべて言って、幻影に頭を下げた。


「セルラ星で効果は試していたので」と幻影が照れ臭そうに言うと、「…そうか、あそこには悪が住むトンネルがあったな…」とゲイルは言ってさらに納得していた。



ここからが大変で、悪に感染していた現住人たちの処置を急いだ。


誰もが体に深い傷を負っていたからだ。


ここからは天使たちが大活躍して、ほとんどの命を助けられたことに誰もが喜んだ。


「…あれが悪意…

 触れなくて助かった…」


源次が大いに嘆くと、「空気感染もするんだぜ」という幻影の言葉に、源次も志乃も大いに背筋を震わせた。


しかし、「…倒れた者は、もう使えんかもしれん…」と幻影が悲しそうに嘆くと、「頑張るもん!」と桜良が叫んで、被害者に向かってすっ飛んで行った。


「…メンタルケアが最重要だからね…」と幻影は言って眉を下げた。



ここは阿国が威厳を大いに発揮して、荒れ地を浄化してから、エカテリーナとフォレストが雄々しき緑竜に変身して、緑濃い大地に生まれ変わらせてから、まずは食事会が行われた。


休息することにより、体力と精神力の復活が最優先だったからだ。


よって火起こしは火竜たちが受け持って、誰もが勢いよく復活した。


天使たちが異様というほどに陽気で、阿国に咎められたが、今のこの環境と状況で陽気にならない天使はいない。


よって自然に睡魔に誘われた者が大勢いたが、ここは何も言わずに寝かせておいた。


潜在的な疲労も考えられたからだ。


一段落着いたところで、幻之丞が宙に映像を浮かべた。


「この隧道が怪しいです」と幻之丞が言うと、「…ここから十里か…」と信長はつぶやいて何度もうなづいた。


「…ふむ…」と幻影は言って、徐に立ち上がり、俯瞰の目をその隧道に飛ばして、また悪滅の術を放った。


「不穏ではなくなりました!」と咲笑が叫んで満面の笑みを幻影に向けた。


「…自然現象で助かったというところですね…」と幻影はほっとして言って、すぐさま座って、ハイネの食事の接待を受け始めた。


そして復活した誰もが、これ以上ないほどの緑のオーラを流して、この星自体の正常化を図り始めた。


そしてすぐに腹が減るのでまた食べてからまた術を放つ。


「星の裏で、不穏な動きありです!」と幻之丞が叫んでその映像を出すと、「…妖怪か…」と信長はうなった。


「…厄災というやつです…」とゲイルが眉を下げて言ってから、徐に大地に両手をつけて、「幻影、いいぞ!」と叫ぶと、幻影は悪滅の術を放った。


術はゲイルを通過して、星の裏にまで届き、異様に黒い巨大な鯨のような塊は消えて、数十名の人間だけが残った。


「エカテリーナ! 引き寄せろ!」とゲイルが叫ぶと、映像では人間は消えて、天使たちが待ち構えていた場所に姿を現した。


「…ひとまず終了…」とゲイルは汗をぬぐってから、完全復活できる食事を摂り始めた。


「…うぬ、見事じゃ!」という信長の叫びに、ゲイルたちは背筋を伸ばして礼を言った。


「同じようなことがあれば、

 また手助け下さいませ」


ライジンが穏やかに言うと、「もちろんじゃ!」と信長は胸を張って言った。


「…色々と自慢できるぅー…」とエカテリーナは大いに喜んだが、「あ」とつぶやいてから、動揺の目をゲイルに向けた。


「ここにいる者しかまだ誰も知らんはずだ」とゲイルが言ったが、桜良が挙動不審になったので、誰もが眉を下げていた。


「…もう、大騒ぎ?」とゲイルが桜良に聞くと、「…はいぃー…」と桜良は大いに眉を下げて答えた。


「いずれは知られることでもあろう。

 黙っておくことの方が罪じゃ」


信長の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「来たぁ―――っ!」とエカテリーナが叫ぶと、ミミとベサーニ率いる部隊が一斉に姿を現した。


「…とんでもないことを、この少人数で、あっという間にやっちゃったのね…」とベサーニは悲しそうに言ってから、幻影をにらみつけて、「現場を体験できなかったじゃない!」と怒りをあらわにして叫んだ。


「ふん、知ったこっちゃない」という幻影の投げやりな言葉に、信長とライジンが大いに笑った。


「…あなた、仲がよろしいですわね…」と蘭丸は抜き身の幻武丸を幻影の首筋に当てて言うと、ベサーニが白目をむいて倒れた。


「…やり過ぎだ…」と幻影が言うと、「あら、申し訳ないことをしちゃったわ」と蘭丸は明るく言って、機嫌よく幻武丸を鞘に納めた。


「…威厳、あるぅー…」とゲッタが大いに嘆いた。


「…威厳はね、幻影様から出ているのぉー…」と蘭丸が恥ずかしそうに言うと、「ほう!」と信長が感心したようにうなった。


「…幻武丸を抜くだけでいいんだよ…」という幻影の言葉に、「…うふふ、叱られちゃったわ…」と蘭丸は嬉しそうに言って、機嫌よく阿利渚に報告した。


―― …胡蝶蘭様、機嫌よすぎ… ―― と琵琶家一同は様々なことをかなり考えて赤面した。


もちろん、蘭丸が機嫌がいいのは、セルラ星で幻影とデートをしたことに尽きる。


幻影は勘違いされていることがわかっていたが、言い訳することなく、あられもない姿のベサーニを見入ってからミミを見た。


「ちょっと変わってきたね」と幻影がミミに聞くと、「…倒れちゃった理由に正比例してるわ…」とミミが眉を下げて答えた。


「でもね、恋愛というよりも、ケンカ友達?」というミミの言葉に、「…めんどくさそうだから、できるだけ言葉を交わさないことにしたよ…」と幻影はあきれ返って言った。


「さらに、めんどくさい人が出て来そうよ?」とミミが意味ありげに言うと、「ああ、デヴィラさんだったら問題ないさ」と幻影は気さくに答えた。


ミミはすぐに察知してその対象者を一瞬見てから、「…どうなっちゃうのかしら…」と言ってから影達を見た。


「じっくりと育ってくれてるよ」と幻影が明るく言うと、「…こっちにも回して…」とミミは今度は魔王の威厳を持ってうなった。


「…俺に言わないでくれ…」と幻影が眉を下げて言うと、「あら、そうだったわ!」とミミは明るく言って、「毎日、ひとりだせぇー…」と大いに口調を変えて信長に直談判した。


「…それなりの者が揃っておるからいいではないか…」と信長が眉を下げて言うと、「今回の一部始終がわかってないとでも思ってるの?」とミミがうなると、信長は大いに眉を下げた。


「我が琵琶家の者が係わっていなくても、

 ライジン殿には確認を入れたはずじゃ。

 我が家臣を人質として出しているわけではない。

 このようなことが増えると、

 ノスビレ部隊の手伝いも辞退することになるが?」


信長の言葉に、今度はライジンとミミの言い争いに発展した。


ここはゲイルが口を挟んで、琵琶家からの手伝いを停止すると決めた。


これがまさに平等だったからだ。


よって、ライジンとミミ、そしてエカテリーナは大いに眉を下げていた。


「…じゃ、じゃあ、影達さんは?」とエカテリーナが恐る恐るゲイルに聞くと、「影達さんの意志に任せるよ」とゲイルは大いに眉を下げて言った。


「…私かベサーニの夫を琵琶家から…」とミミが言い始めたので、琵琶家の家人たちは一斉に眉を下げた。


「…国盗り合戦のようになってきおったな…」と信長が機嫌よく言って鼻で笑うと、「十分に精査して政治的部分がないのなら、悪くはない話だと思います」と幻影は答えて頭を下げた。


「おう、それは大いにあるな」と信長は笑みを浮かべて言って、家人たちを見まわした。


「悟道、宗矩、武蔵、偉人たちがよりどりみどりじゃぞ?」と信長がにやりと笑って言った。


三人ともすでに免許皆伝を受けているので、影達と同じように外に出しても恥ずかしくない家人でもある。


「見た目が気に入ったわぁー…」と魔王ミミの眼鏡に叶ったのは武蔵だった。


「残念ですが、伴侶はごく一般的な人間と決めております」という武蔵の言葉に、信長も幻影も笑みを浮かべてうなづいたが、ミミは大いに眉を下げていた。


しかし武蔵は一歩前に出て、信長に頭を下げた。


「どうか、配属替えを」と武蔵が言って頭を下げると、「信幻、よいのか?」と信長が進言に聞くと、「はい、ここはさらなる修行として」と信幻は歓迎して答えると、武蔵は笑みを浮かべて信幻に頭を下げた。


「となれば、武蔵は自然にノスビレ部隊に異動じゃ。

 その力、さらに上げるがよいわぁー!」


信長が機嫌よく叫ぶと、「ご厚意、ありがたく!」と武蔵は叫んで、すぐさまライジンに挨拶をした。


もう二度ほどノスビレ部隊に参加しているので、知らない仲ではないので、ライジンだけでなく、ゲイルもゲッタもエカテリーナも大歓迎していた。


「…人間が、ひとりもいなかったぁー…」とミミは大いに嘆いてうなだれて仲間たちを見まわした。


ノスビレ部隊には、竜の子も含め、まだ人間の者は大勢いるのだ。


「…ともに成長するのはいいわぁー…」と蘭丸は言って幻影に熱い視線を送った。


「あ、そういえばそうだったな。

 まずはお蘭が能力者になったようなものだったからな」


幻影の明るい言葉に、―― そうだったのか… ―― と琵琶家家人の半数がこの事実を初めて知った。


「…うふふ…」と蘭丸は意味ありげに笑って、幻武丸の鞘にほおずりをした。


―― 人間が、扱えるわけがない… ―― と誰もがその神髄を思い知っていた。


そして悟道と宗矩は丁重に断って、武蔵以外は琵琶家から出奔することはなかった。


すると、かなり控えめな文章で、ロストソウル軍の主宰の万有爽太から咲笑に激励の文が届いたので、信長直筆の文章を幻之丞が返信した。



その頃、秀忠は知り合いのアーノルドとともに、ロストソウル軍の施設を渡り歩いていた。


現在使えない者を雇うには、アーノルドに寄り添っていれば簡単に見つけ出すことができる。


しかも中には高能力者もいるのだが、心などに深い傷を負っているので、桜良すら保留にしている者たちばかりなのだ。


アーノルドは万有源一が作り出したハードアーマーヒューマノイドだが、基本的にはロボットといった位置付けになる。


影のような高度な計算はせず、生物には大いに肝要だ。


「今回の患者です」とアーノルドが言うと、その人物は街道の中央にあるテーブル付きの椅子に座って、ぼんやりと空を見上げていた。


秀忠は辺りを見回して、児童公園にいる数名の子供たちの中で、ブランコに座ってうつむいている男子に興味を持った。


「…さあ、罵られてくるよ…」と秀忠は眉を下げて言って、アーノルドと別れると、なんと、椅子に座っていた少女素早く立ち上がって、秀忠の後ろを歩き始めたのだ。


アーノルドは何も言わずに、ターゲットのレイラ・トマソンを観察することにした。


―― ターゲットが徳川秀忠様に興味を持ちました ―― とアーノルドが神に通信を送ると、―― 危険回避だけで構わないよ ―― と神からの返答がすぐさまあった。


よってアーノルドはレイラに全神経を集中させて、細かい情報を得て、―― 危険は皆無 ―― と診断した。


すると秀忠はゆっくりと振り返って、「…僕、彼女がいるんだよね…」と言うと、レイラは、「あ、そ」と興味がないような口ぶりで言って、少しだけうなだれた。


―― 洞察力が半端ではない… ―― というアーノルドの計算結果が出た。


秀忠の言葉に、ブランコに座っていた男子が興味の目を秀忠とレイラ、そしてアーノルドに向けた。


秀忠は男子に、「こんにちは」とだけ言って、隣の空いているブランコに座って、ゆっくりと漕ぎ始めた。


「ブランコ、初体験だ!」と秀忠が陽気に言うと、患者の男子のダニエル・ホフマンは大いに興味を持った。


「子供の時に乗らなかったの?」とダニエルが聞くと、「ブランコという存在自体を最近知ったんだよ」と秀忠は陽気に答えた。


「このフリージアと比べて、すっごい田舎に住んでいたからね。

 こんな遊具施設なんてひとつもなかった。

 色々と覚えることがたくさんあって苦労したよ」


「…うう… 随分と田舎だったんだね…」とダニエルは大いに眉を下げて言った。


「電車も車も、走ってなかった。

 電気すらない星だからね。

 この説明で、どんな世界なのかはすぐに理解できたと思う」


「うん、よくわかったよ」とダニエルは答えて、ブランコを漕ぎ始めた。


秀忠は漕ぐのをやめて振り返ってレイラを見て立ち上がった。


「交代だ」と言って、目の前にあるベンチに座った。


するとダニエルもブランコを降りて、秀忠の隣に座った。


「私の診察に来たんでしょ!?」とレイラが叫ぶと、「いや、僕は更生施設の職員じゃないから」と秀忠は構えることなく気さくに答えた。


「だけど許可をもらってここにいるから、悪者じゃないよ」と秀忠は言って、少し笑った。


「それに、君に用があるのはアーノルドさんだから」


秀忠の言葉に、ダニエルは眉を下げていて、レイラは気に入らないのかさらに目を吊り上げた。


しかし、この場を立ち去らない。


見えないはずなのだが、秀忠に何かが見えていたからだ。


秀忠が全てを察して兎の神獣に姿を変えると、ダニエルもレイラも目を見開いた。


そして兎は秀忠に戻って、「手品さ」と言って腹の底から笑った。


そして、「一度言ってみたかったぁ―――っ!!」と高揚感を上げて叫んだ。


「…手品じゃないと思う…」とダニエルは目を見開いて言うと、レイラも何度もうなづいていた。


「君たちも能力者だからね。

 人間のように、冗談では済まないことはわかっているさ。

 あえて正体を晒して、信用を得ると言ったところだね」


すると、秀忠の回りに円陣が組まれていた。


興味を持った子供たちが、自然に足を運ばせたのだ。


「みんなで座れる場所に行こうか」と秀忠が言って立ち上がると、レイラは、「こっち!」と声を張って言って、レイラが座っていた場所に誘った。


秀忠は足りない椅子を二客出して、「これも手品」と言って、子供たちをさらに陽気にさせた。


「…異空間ポケットって、すごい人しか使えないことは知ってるぅー…」とダニエルが言うと、「そうじゃないよ」と秀忠は言って、元あった椅子に今出した椅子を並べて置いた。


全く同じ椅子だったことに、「…混沌、使えるんだぁー…」とダニエルは陽気に言って、秀忠を尊敬の目をして見た。


「もちろん、ずいぶんと修行を積んださ」と秀忠は陽気に言って、子供たちとアーノルドを椅子に誘った。


「おいおい! お前らだけ、ずいぶんと楽しそうだな?!」と大いに悪びれた悪魔がやってきて悪態をついた。


秀忠はまた椅子を出して、「気が向けば座れば?」と言って椅子を置くと、「…お、おう…」と悪魔は大人しく言って、素直に椅子に座った。


「…普通、ケンカになってたと思う…」とダニエルがつぶやくと、悪魔は大いに罰が悪そうな顔をしたが何も言わなかった。


「これは人間だった時に得た知恵さ。

 極力、来る者は拒まない。

 人間の当時は、拒んでいる暇もなかったんだけどね。

 人間での生活も、今となってはすごい修行だったと、

 自分を褒めたさ」


「そういやあ、なんだかすごいことをやった部隊が出たそうだぜ?」


悪魔の言葉に、「琵琶家とノスビレ部隊が、数時間で星中の悪を撃退したそうです」というアーノルドの言葉に、秀忠は目を見開いた。


「…僕の、貴重な積み重ねが…」と秀忠は大いに嘆いてうなだれた。


ここは秀忠がアーノルドに懇願して、その映像を見せてもらった。


「…能力者としても普通じゃないな…」と秀忠は大いにあきれ返って言った。


「終結に尽力したのはわずか三名でしたので。

 考えられないことを、琵琶家とノスビレ部隊はやってのけたのです」


「…帰りづらくなくてよかった…」と秀忠が言うと、アーノルドは愉快そうに笑った。


「幻影のやつは、ずっと無愛想だった」と秀忠が言って少し笑うと、「…まさかその人って、真田幻影様?」とダニエルが聞くと、「ヤツのおかげで、僕はここにいるんだ」と秀忠は誇らしげに言った。


「あ、映画の、神獣たちの果てしない冒険って知ってる?」と秀忠が聞くと、「知ってる知ってる!」と子供たちは高揚感を上げてから、秀忠を見入った。


「…役立たずの僕が、兎の神獣…」と言って秀忠がうなだれると、子供たちは大いに同情して秀忠を慰め始めた。


「…でも、今も昔も、幻影様と友達なんだぁー…」とダニエルがうらやましそうに言うと、「…今世は危なかったぁー…」と秀忠が言うと、子供たちは怪訝そうな顔をしたので、秀忠はその事情を話すと、子供たちは人の縁を重んじるように考え始めた。


もちろん、今のこの瞬間もそうだと、心に強く刻んだ。


「…随分と長居しちゃったね…」と秀忠は言って、兎の神獣に変身して術を放った。


「少しでも、心が軽くなればいいね」と神獣は言って、秀忠に戻った。


子供たちはその理由がわからなかったが、「…背中が…」と悪魔が言って号泣を始めた。


「…呪いの深い傷が消えた…」とアーノルドがつぶやくと、「じゃ、またね」と秀忠は気さくに本心を言って、すたすたと歩き始めると、アーノルドが護衛するようにすぐさま追ってきた。


「…天使の癒しは感じましたが、それだけではない…」とアーノルドがつぶやくと、「それは半分だと思う」と秀忠は笑みを浮かべて答えた。


「詳しいことは僕にもわかっていないんだけど、

 気功術に関係していると思う」


「…正常化の棺の効力…」とアーノルドはつぶやいて、笑みを浮かべてうなづいた。


「…だけど、あの呪いは何とでもなったはずなんだけど…

 本人には落ち度がなかったし…

 ただの逆恨みのようだった…」


秀忠の言葉に、アーノルドは無意識で立ち止まった。


そして矛盾が発生して機能を停止したが、すぐさま再起動がかかって、矛盾が起こらないように、深く追求しないことに決めた。


今あった事実だけをそのまま受け止めることにしたのだ。


アーノルドは急いで秀忠を追って、「我が主、万有源一様では手の施しようがないと言われていたのです」とアーノルドが問いかけるように言うと、「それはリバウンドを恐れたんだよ、多分…」という秀忠の回答に、アーノルドはようやく謎が解け、矛盾が起こらなくなった。


「大いに勉強になりました」とアーノルドはいろんな意味で礼を言った。


「高い位の天使になればなるほど、人を恨まない。

 だから術者にリバウンドがあることだけが、頭痛の種になるんだよ。

 だけど僕は天使じゃないし、

 悪いのは呪いをかけた方だ。

 だから呪いを解かれて罰が下っても、

 自業自得だと僕は考えるからね。

 あまりにも几帳面に考えすぎると、

 苦しむ人が増えるばかりだから。

 …おっと、追ってきた…」


秀忠は言って笑みを浮かべて振り返ると、悪魔が猛然たるスピードで走って来て、秀忠の目の前で立ち止まって胸を張った。


「…す… 好きにしろ…」と悪魔は言って秀忠から視線を外して赤面した。


「僕、彼女がいるって言わなかった?」と秀忠が聞くと、悪魔は目を見開いて、「…言ってたぁー…」とうなって、さらに赤面した。


「琵琶家って、強烈な悪魔がふたりもいるけど、

 もしよかったら来るかい?

 あ、知ってるかもしれないけど、

 お殿様の種族は魔王だよ」


悪魔はこの情報を知らなかったようで目を見開いたが、「…ここで腰を引いてたんじゃ、何も変わらん…」と小声で言って、秀忠に頭を下げた。


「あ… 勝手に連れて行っちゃダメだよね?」と秀忠が聞くと、「いえ、あちらから来られました」とアーノルドは言って、猛然たるスピードで走ってきた爽太とお付きのゼウスに向かって頭を下げると、秀忠もそれに倣った。


「…秀忠って、幻影様とは別の意味で厳しいよね?」と爽太が眉を下げて言うと、「僕なんて優しい方ですから」と秀忠は大いに照れて答えた。


「…ま、まあ… ある意味そうかも…

 琵琶家はほとんどが人間なのに、普通じゃない人たちばかりだ…」


「厳しい生活を四十年以上も続けていますから。

 しかも、僕の記憶によれば、脱落者はひとりもいないはずです。

 まさに、幻影と御屋形様は素晴らしい目を持っておられるようです」


「…だからこその、少数精鋭…

 ノスビレ部隊と同じだ…

 だけどノスビレ部隊はある意味レールが敷かれているけど、

 琵琶家にはそれはない…」


爽太が嘆くように言うと、「帰ってから、大活躍だった今日の土産話を聞くことにします」と秀忠は言って、悪魔カトレア・ボッズを琵琶家家人候補として連れて行く許可を取った。


もし琵琶家に雇われれば、ロストソウル軍の軍籍から抜くことを爽太は確約した。


よって、カトレアは大いに大人しくなって、秀忠の影に隠れるようにして寄り添った。


「なんだったら、アーノルド君も来るかい?」という秀忠の言葉に、「この地を離れる許可を得ました」とアーノルドはお堅く言って秀忠に頭を下げた。


「…色々と厳しそうだ…」と秀忠が言って、アーノルドの背中を軽く叩くと、なぜだかアーノルドの背筋が伸びていた。


「…神の力か…」とアーノルドが目を見開いて言うと、「新品になった?」と秀忠が愉快そうに聞いた。


その答えを聞くことなく、秀忠は爽太とゼウスに挨拶をして、巨大な食堂を目指して歩いた。



カトレアは災難に見舞われた。


前からは濃姫、後ろには蘭丸がかなり威厳を上げてカトレアを挟み打ちにしている。


「…何の儀式だ…」と信長は言って鼻で笑った。


カトレアは流れる汗を拭くこともできずに、ただただ立ちすくんでいる。


「…人がいい悪魔もいるもんだね…」と幻影がつぶやくと、「弱っちいやつに、呪いをかけられてんじゃあねえぞぉー…」と蘭丸が大いにうなった。


カトレアは、「…悪かったな…」と小声だが何とか答えた。


「秀忠の彼女にするの?」と濃姫はカトレアから視線を外さずに聞くと、「僕にはもったいないほどの女性がおりますので」と秀忠は春菜を示唆して濃姫に向かって答えた。


その春菜は笑みを浮かべて秀忠を見ている。


「ほかの子はどうなの?」と濃姫が聞くと、「五人とも、大いに期待できると思っています」と秀忠は自信を持って答えた。


「…指導することはたくさんありそうだけど、

 問題なさそうだわ…」


濃姫は言って、蘭丸とともに席に座ると、「…助かったぁー…」とうなって少しだけ肩の力を抜いた。


するとハイネがカトレアを席に誘って、とんでもない量の魂まんじゅうを膳の上に置いた。


「全部食べてね?」とハイネがかわいらしく言うと、―― これも試験か… ―― とカトレアは思いながらも魂まんじゅうをひたすら食らった。


―― これはうまい! ―― とカトレアは思い、さらに高揚感を上げて、高らかに笑いながら喰らい始めた。


「かなりいい人です」という幻影の言葉に、「…なにも文句はなかったのじゃがな…」と信長は大いに眉を下げてつぶやいた。


「…置いてけぼりを食らったけど、いい出会いがあってよかったよ…」と秀忠が眉を下げて幻影に言うと、「秀忠は居残り組に任命したいんだけど?」という幻影の言葉に、秀忠は大いに眉を下げていた。


「留守居役は、それなり以上の実力者が数名必要じゃ。

 秀忠もその候補のひとりじゃが、

 旅に連れて行かんとはいっとらん。

 ある程度人員が揃えば、

 交代で旅にも連れて行くことになるじゃろう。

 数回宇宙に飛んだが、今の家臣たちを外すのは心づらいのじゃ。

 はっきり言って、まだまだ戦力不足じゃ」


「…はい、理解できました。

 留守居役の件、お受けいたします」


秀忠は答えて頭を下げると、「…大いに助かった…」と信長は言って、何度もうなづいた。


「今のところはトータスが相棒じゃ」という信長の言葉に、「はい、心強いです」と秀忠は笑みを浮かべて答えた。


「トータスも今のところは留守番を頼むよ」


幻影の気さくな言葉に、「お留守番は慣れてるよ」とトータスが唇を尖らせて答えると、幻影は大いに眉を下げ、信長は愉快そうに笑った。



「だけどゲイル様との連携は素晴らしいね。

 打ち合わせも何もなかったのに…」


秀忠が少し唇を尖らせて言うと、「道が見えていたからわかりやすかった」という幻影の返答に、「…やっぱ、その場にいないと意味ないよ…」と嘆いた。


「…それはある…

 映像では見えないものが見えていることもあるからな…」


信長は言って、家人たちを見まわした。


「…いや…

 留守居役も能力者は必要じゃ…

 やはり、旅に出るにはまだ早いか…」


「ここは雇いますか?」という幻影の言葉に、「おう、それもいい」と信長は言って何度もうなづいた。


信長はカトレアを雇い入れた令状とともに、警護専門の部隊の期間を決めた借り受けの嘆願書も添えて、アーノルド経由で爽太に送った。


爽太からの返信は早く、三つの部隊を連れて行くので面接をして欲しいと願った。


いずれの部隊も、要人警護などを受け持っている、防御に長けた部隊だ。


大きな組織なので、部隊のバリエーションは数え切れないほど細かくあるようで、信長の機嫌はかなり良くなった。


面接は信長自身が明日の昼にロストソウル軍に足を運ぶことになった。


「部隊もじゃが、秀忠の眼力にも興味があるものでな」と信長が言うと、秀忠は大いに喜んで頭を下げた。


「さらにじゃ」と信長は言ってアーノルドを見入った。


アーノルドは先読みして、「期日限定で出向せよと命令がありました」と言って頭を下げた。


「うむ… ほかのふたりとも会って決めよう」という信長の言葉に、秀忠は目を見開いて、アーノルドを見た。


「同型の俺はあとふたりいて、そっくりさんです」というアーノルドの冗談めいた言葉に、誰もが大いに笑った。


「なかなか素晴らしい」と信長は言って、咲笑、政江、才英を順に見た。


「才英が独自に開発した自動人形がございます。

 咲笑が驚くほどの出来栄えとなっております。

 実は公表する機会を待っていたのです」


政江の言葉に、「…なんとなく、察しておったからな…」と信長は機嫌よく言って何度もうなづくと、才英が懐から小さな自動人形を出して、誰もを驚かせた。


「小人の幻影がおるわぁ―――っ!!!」と信長は機嫌よく叫んで、何度も手を叩いた。


「御屋形様にはご機嫌麗しく」と小人は言って頭を下げた。


「おう! 今日は麗しい日じゃ!」と信長は機嫌よく叫んだ。


「…小さくなったと、さらに神扱い…」と幻影が大いに嘆くと、「修行だ修行!」と蘭丸は笑いながら機嫌よく叫んだ。


「幻影、この小人が乗り込む自動人形を作れ。

 見た目はアーノルド」


信長の言葉に、「御意」と答えた瞬間に、アーノルドが増殖したので、誰もが目を見開いた。


「アーノルドさんの強化版となっているはずです」という幻影の言葉に、信長は何度もうなづいて、「幻武、乗り込んで試せ」と信長は小人に命名すると同時に命令をすると、「御意」と幻武は答えて、自動人形に乗り込んだ。


「背が高くなったぁー…」とアーノルドのそっくりさんが言うと、誰もが大いに笑い転げた。


「アーノルドとの違いが分かりやすくてよい」と信長は機嫌よく言った。


すると幻武がアーノルドから出てきて、肩の上に座ったが、自動人形は動いている。


「ほう、遠隔操作もできるのじゃな」と信長が機嫌よく言うと、「御意」と幻武は答えた。


「…ますます、神扱い決定だぁー…」と幻影は大いに嘆いた。


「同時に姿を見せれば、問題はない」と信長が言うと、幻影は眉を下げていたが頭を下げた。


「幻武には喜笑星防衛隊頭目を言い渡す!」という信長の気持ちいいほどの叫びに、「ありがたき幸せ」と幻武とアーノルドが頭を下げた。


政江と才英が手を取り合って大いに喜んでいたことを、幻影は大いに喜んだ。


「これでしばらくは安泰じゃし、

 防衛隊は借り受ける続けることも視野に入れておくか」


信長は機嫌よく言った。


「十分すぎるほどの人材の獲得は、

 かなり先になりそうですので」


幻影の言葉に、信長は機嫌よくうなづいた。


「アーノルドを雇うつもり満々じゃったが、許せ」と信長が言って頭を下げると、「いえ、一向に問題はございません」とアーノルドは大いに恐縮して頭を下げた。


城代はタルタロス星と同様に、交代で家老に託すことに決まった。


「…秀忠を家老に就かせることをほぼ決めておったが、

 また見つけ出さぬとな…」


「信幻でも家忠殿でも与助でも構いませぬ」という幻影の進言に、「うむ、考えておく」と信長が答えると、信幻、家忠、与助はすぐさま頭を下げた。


「家老職は殿様気質がないと務まらんからな。

 幻影はよいのじゃろうが、

 弁慶と源次、それに旅立った武蔵には足かせに感じるじゃろうて」


信長の言葉に、弁慶と源次は大いに眉を下げて、同意するように頭を下げた。


「私も性にはあいませぬ。

 もって三日、いえ二日かと」


幻影の言葉に、信長は大いに笑った。


「では、今からこの城の城代を」と信長が言うと、家老たちは大いに眉を下げていた。



翌日、琵琶家一行はいつも通りに昼餉までは済ませて、信長は幻影、蘭丸、秀忠、光秀を従えて、フリージア星に渡って、早速爽太と面会した。


そしてまさに守備隊といえる重装備部隊の紹介を受けた。


「専属にせぬことに決めた。

 三つの部隊を交代で頼む」


信長の言葉に、爽太は笑みを浮かべて同意した。


「幻影、採用特典として、我らが鎧を渡しておけ」


「はっ すぐさま」と幻影は答えて、わらわらと形違いの赤い鎧を噴出させて、雇った三部隊全員に渡した。


幻之丞が鎧の基本性能の説明をすると、「…すごい…」と爽太はうなって目を見開いた。


そして鎧を手に取っている数名が宙に浮かんで、大いに戸惑った。


「不良品じゃ」という信長の言葉に、「…今、不良品になっちゃったんだね…」と爽太は眉を下げて言った。


まさに無敵の鎧なので、よからぬことを考えつく者もいると信長は言ったに等しい。


しかもひとりは隊長だったので、爽太は大いに恐縮していた。


「じゃが、予想外に残って、結構結構!」と信長は機嫌よく叫んだ。


隊長が抜けた穴は、部隊の副官が務めることになった。


日雇いとしても、信長が認めた者たちなので、琵琶家の一員に加えてもいいほどの猛者たちだった。


「無限組み手には全員おらなんだな」と信長が言うと、「…審判役に回ってもらってました…」と爽太が答えると、信長は納得の笑みを浮かべた。


「ほかに不参加者は?」と信長が聞くと、「第一から第十機動部隊の約半数です」と爽太が答えると、「…そこにだけ逸材がおったわけか…」と信長がうなると、爽太は大いに恐縮していた。


「ま、そやつらも、考えていることはあるじゃろうて」と信長は言って鼻で笑った。



防衛部隊は今から任務に就いてもらうことになって、堅朗第三部隊が許可を得て社をくぐって行った。


案内役は天照大神に頼んだので何も問題はないが、意味ありげな笑みを浮かべていたので、何か見返りが必要だと幻影は覚えておくことにした。


信長たちは今度は興味を持って、秀忠とアーノルドの後ろを歩いた。


信長たちはもうすでに有名人なので、行きかう者たちの八割が二度見をして目を見開く。


だが、アーノルドの存在自体に抑止効果があるので、近づいてくる者はいない。


すると、昨日語り合った街道の真ん中に鎮座しているテーブルに、五人の子供たちがいた。


まさに、秀忠を待っていたようだ。


本当に来るとは思っていなかったのか、レイラだけは金縛りにあったように体が動かなくなっていた。


しかしダニエルが、「秀忠さぁーん!」と陽気な声を上げてもろ手を振ったと同時に、レイラの拘束は解けていた。


「次に来る時は日時を決めておこう!」という秀忠の陽気な言葉に、子供たちは大いに笑った。


「…ふむ…

 秀忠が特効薬となっておるだけで、

 離れると元に戻る…」


信長がつぶやくと、「ですが、ひとりを除いて希望は持っているようです」と幻影が言うと、信長は笑みを浮かべてうなづいた。


「…都合よく今日は現れたなどと考えておるが、

 根が深いというよりも、元からの性格が噴出しておるようじゃ…

 それを盾にして、何とか生きる希望だけは捨てておらんようじゃな…」


「…優秀な医師でも、匙を投げることはよくわかりますが、

 秀忠はなかなか人望が厚いようです…」


幻影の言葉に、信長は小声で機嫌よく笑った。


「いつまでもひねくれているんじゃあねえ!」と幻影が止める間もなく、蘭丸はすでにレイラの背後にいて叫んでいた。


「…忍者以上の動きだ…」と幻影が大いに嘆くと、「…いい方に転がったようじゃぞ…」と信長は言って笑みを深めた。


レイラは目を見開いて、「…はい、お母さん…」とつぶやいて涙を流したのだ。


「…あら? いい子になったわ」と蘭丸は陽気に言って、レイラを抱きしめた。


「…あんたの母じゃなかったけど、今なったわ…」


蘭丸の母の心に触れて、レイラはワンワンと泣いて蘭丸を強く抱きしめた。


「だけど」と蘭丸は言って、レイラの体をやさしく遠のけた。


「私の子だったら、この子たちを更生できるはずだわ」


蘭丸の言葉にレイラは笑みを浮かべて、「はい! お母さん!」とレイラは機嫌よく叫んで、蘭丸に笑みを向けてから、レイラの持つリーダーシップを大いに発揮し始めた。


「…強くたくましい母を目の前で蹂躙され殺された衝撃…」と幻影がつぶやくと、「それに相違ない」と信長は言って何度もうなづいた。


「…幻武丸の琵琶胡蝶蘭様が、レイラちゃんのお母さんになっちゃったぁー…」とダニエルが大いに嘆くようにつぶやいた。


「おや? やけに物知りだね?」と秀忠がダニエルに聞くと、ダニエルははにかんだ笑みを浮かべて、「…昨日、別のアーノルドさんに聞いたんだ…」と答えた。


「…お母さんは、琵琶胡蝶蘭様…」とレイラがつぶやいたことに、幻影は背中を向けて笑い始めた。


「…自己紹介はすっ飛ばしたからな…」と蘭丸は自慢げに言って鼻で笑った。


信長たちも椅子に座って、秀忠の手腕にただただ感心した。


現在は聞き上手になっていて、肯定できる部分は誇張して褒める。


しかし黒い部分が出て来そうになった時は、優しい幕を張って包み込んで諭していく。


子供たちは秀忠に反抗することなく、笑みを浮かべてうなづいている。


信長たちは修行と言ってもいい時間を過ごし、蘭丸はレイラをここに残すことにしたが、大いに眉を下げていたことに、「もう大丈夫だもん!」とレイラは本来の持ち前の明るさをもって蘭丸に向けて叫んだ。


「…明日も来るから…

 今日と同じ時間に…」


蘭丸が大いに眉を下げて言うと、「うん! 待ってるから!」というレイラの明るい言葉に、後ろ髪を引かれるようにして、幻影の隣を歩いた。


そして姿が見えなくなるまで、蘭丸とレイラは手を振って別れを惜しんだ。


「…最終兵器は連れてこない方がいいはずだが…」と幻影が不愛想な顔をして言うと、「…そうね… きっと更生も一時的なものになっちゃうかも…」と蘭丸は眉を下げて答えた。


「阿利渚か?」と信長が聞くと、「もちろん、阿利渚の取り巻きもです」と幻影は眉を下げて答えた。


「今は、大人として接した方がいいはずなのです」


「…子供に見えても、彼らは我ら以上に生きておるからな…」と信長は言って何度もうなづいた。


「帰ってから、言い聞かせが必要です。

 阿利渚はお蘭からすべてを知るでしょうから」


「だったら大丈夫よ」と蘭丸は胸を張って言った。


「今の言葉も、阿利渚に伝わるからな」と信長は鼻で笑って言った。


「阿利渚の百面相が楽しみです」という幻影の明るい言葉に、誰もが大いに笑った。



阿利渚は百面相を披露してからうなだれた。


まだ六才の阿利渚でも、今手を出すと元の木阿弥になる可能性があることを理解したからだ。


今回の件は、四人とも均等に救う必要があるので、阿利渚には荷が重いと考えたのだ。


「ひどいことにはならないと思うが、

 殻に閉じこもることが怖いんだ。

 この期間も、子供たちは苦しむことになるからね。

 それに、阿利渚も確実に傷つくと思う。

 何の不自由のない琵琶家にいて贅沢だ、などと言われてね」


幻影のやさしいが厳しい言葉に、阿利渚はさらにうなだれて考え込んだ。


「…興味を、持たないことにしますぅー…」と阿利渚は言って、幻影に頭を下げた。


「ここに連れてきた時は、仲良くしてやって欲しい」


幻影が言って阿利渚の頭をなでると、阿利渚は弱々しい笑みを浮かべた。


「少々急いでも問題はなさそうだがな」と幻影は言って笑みを浮かべた。


「秀忠の功績は動かぬものじゃ。

 ここは幻影が仕上げをせよ」


信長の言葉に、「御意」と答えた幻影は、「我は神」といきなり太い声で言い始めたので、誰もが大いに笑い始めた。


咲笑が相手側の言葉の代弁を始めたので、何を話しているのかはよくわかる。


そして相手の不幸も痛いほど伝わってくる。


一番時間がかかったのはダニエルで、会った時とは真逆の感情で語ってきたのだ。


いい子であればあるほど、黒い沼は深いものになると誰もが理解していた。


そして最後の仕上げに、幻影は神としてレイラに念話を送った。


そして四人の不幸の全てを話して、「お前の考えで四人を救え」と厳しい言葉を言ったのだが、「はい! わかりました!」とレイラの代弁者の咲笑は明るい声で返してきたのだ。


幻影は念話を切って、ほっと胸をなでおろして、ハイネの準備していた甘い菓子をたらふく食った。


「レイラは二百五十才。

 それなり以上の経験を積んでいたから楽だった」


幻影の言葉に、蘭丸だけが目を見開て、「…ひいお婆ちゃん…」とつぶやいたので、幻影は腹を抱えて笑った。


「死後の世界の住人はな、

 死んだ時点で時が止まるんだ。

 経験は積めるが、姿も思考も子供のままなんだよ。

 さらなる覚醒をしない限り、

 それ以上の成長は望めないが、

 希望を持って生きているからね。

 あの施設に大勢いるということは、

 どれほど不幸な目にあっても死にたくないと考えている証拠でもあるんだ。

 もっとも、その覚悟がない限り、死後の世界の住人にはなれないからね。

 誰もが均等に、優秀な人ばかりなんだよ」


「…五人とも雇いたかったが、過ぎたる欲か…」と信長は渋い顔をして言った。


すると、「あ、通りがかりの神ですが」と幻影が女性の声色を使って話し始めると、また誰もが笑った。


相手は爽太で、咲笑は感情を正確に声にして伝えた。


念話が終わると、「…気づいていたではないか…」と信長は言って、大いに笑った。


「ですが、確信はしていませんでした。

 側近のゼウス様だったら、見極めたかもしれません」


「なかなか鋭い眼力を持っておったからな。

 その割には朗らかに対応していたことには感心した。

 それなり以上の側近でないと務まらん証拠じゃろうて。

 あやつらの仲間もひとり手に入れてくれ」


信長は命令ではなく幻影に願い事をした。


「万有源一がほとんどの者を開放したはずですが…」と幻影が言うと、咲笑がその候補三名を映像として出した。


「…全員が千才以上か…

 これは頼もしい…」


信長は上機嫌で言って何度もうなづいた。


「…まず、サンディーちゃんを救ってあげて欲しい…」と桜良が誰に言うとでもなくつぶやくと、琵琶家一同は大いに興味を持った。


「…魔王でも突っかかっているのでしょうか…」と幻影がつぶやくと、「いや、それ以外じゃと感じる」と信長ははっきりと答えた。


爽太、ゼウス、そしてサンディーは悪魔の眷属という特殊な種族で、悪魔などの種族に術で作り上げられた種族だ。


その呪縛を自力で解いたのは、桜良の眷属だったツヨシだけだ。


そのツヨシは白竜フォーサの伴侶として、常にともにいて、現在の種族は神だ。


万有源一は尽力して、当人たちの希望を叶えて、呪縛を解いたり再教育したりとほとんどを救っていた。


その残りが、映像に出ている三名だ。


「…このワンちゃん、かわいそー…」と長春が眉を下げて言うと、「高能力者だっただけあって、その上に胡坐をかいて能力を落としたという典型的な落伍者だ」と幻影が解説すると、誰もが苦笑いを浮かべていた。


「…素晴らしい勉強会じゃ…」と信長は渋い顔をして言った。


「ですが、雇い主が放棄していないので、

 この犬は雇えないでしょう」


「…ふん…」と信長は機嫌が悪そうにして鼻息を荒くした。


「雇い主はガイ・サラント。

 古い神の一族です。

 その姉のヴァン・ゴーゲルグが元の雇い主です。

 もちろんこちらも、古い神の一族です」


咲笑がその映像出すと、「序盤で吹っ飛んでおったが?」と信長がにやりと笑って言うと、まずは幻影が笑い転げた。


もちろん、例の一千万を相手にした無限組み手の件だ。


「めんどくさそうだったので、

 たわけの術に巻き込まれて飛んだあと、

 体制を整える前に、空拳を当てておきました」


幻影の言葉に、信長は機嫌よく膝を打って笑った。


「…俺の正面だったのにー…」と蘭丸が大いにうなったが、羨望の眼差しを幻影に向けた。


「…いや、なかなかの実力者もいたことも自信となった…」と信長は感慨深気に言った。


「現在、ガイ・サラントは白竜部隊の統括総隊長ですので、

 フリージアでは一番手に近いの実力者かと」


「…そうか、巻き込まれたのは不幸じゃったが、

 迂闊者じゃ…」


信長は言ってにやりと笑った。


「まさか人が大波の巨大な壁となって迫ってくるとは思わなかったのでしょう」と幻影はその時の状況を思い出して愉快そうに笑った。


「…ふん… となれば、ガイ・サラントの意志ではなく、

 姉のヴァン・ゴーゲルグの指示でもあったか…」


「はい、そちらの方が迂闊者かと」と幻影が答えた。


「何が起こるのかわからない初手に、

 先頭近くにいたことは迂闊じゃが、

 悪魔ではないのじゃな?」


「ヴァン・ゴーゲルグの種族は勇者ですが、

 育ての親が悪魔です。

 その性格はまさに悪魔のようですね」


「…お祭り騒ぎにはしゃぎすぎて、

 ここに来るのも気が引けると言ったところじゃな…」


信長が鼻で笑って言うと、「多少なりとはあるやもしれませんし、戦闘場以外では出会っていません」と幻影が答えると、信長は笑みを浮かべてうなづいた。


するといつの間に現れたのか、幼児の姿の天照大神が信長を見上げていた。


「まずは望みを言ってみるがいい」という信長の言葉が意外だったようで、天照大神は大いに戸惑った。


「…お婿さん、選んでいい?」と天照大神が大いに恥ずかし気に言うと、「気に入った相手と話し合って、同意があれば好きにすればよい」という信長の返答に、「…政治的の方が気が楽ぅー…」という天照大神の言葉に、琵琶家一同は大いに笑った。


「それじゃと平和ではないからな」と信長が言って鼻で笑うと、「…だよねぇー…」と天照大神は言って、まずは仕事の話を始めた。


「いや、特に呼ぶ必要はない」という信長の無碍の言葉に、「…余計なお世話だったわ…」と天照大神は大いに嘆いた。


もちろん、ガイとヴァンの件の話だ。


「それに…」と信長は言って桜良を見た。


「…そうだった… 仲のいい知り合いだった…」と天照大神は言ってうなだれた。


「まずは桜良殿に探ってもらうことが先じゃろう。

 じゃが、特に問題はない。

 やつらには、魂の積み重ねがないに等しい」


信長の言葉に、琵琶家家人のほとんどが目を見開いた。


「すっからかんですね。

 純粋に現世だけの経験値しかありませんが、

 さすが古い神の一族だけあって、

 非常に優秀だと感じます」


「じゃがな、年寄りから言わせてもらえば、それほど興味がわかんのじゃ」


信長の言葉に、天照大神は眉を下げて頭を下げた。


「…それもあってね、遠慮したのぉー…」と桜良は眉を下げて言った。


「…ヴァンちゃんにもう少し向上心があったら、

 もっとよかったはずなんだけどぉー…」


「…年の差七百才で、弟に頼っているというのもどうかと思うね…」


幻影が情報を見て言うと、「…口出しはすっごくするんだけどね…」と桜良は眉を下げて言った。


「ところで、桜良様の直近の子供たちは武者修行させないの?」


幻影が聞くと、「ギクッ!!」と桜良は叫んで愉快そうに笑った。


「…あのね、それなり以上に優秀に育っちゃったからね、

 ゲッタ君にもゲイル君にも迷惑がかかちゃうかなぁーって思ってね、

 言い出せないのぉー…」


桜良の言葉に、幻影は大いに苦笑いを浮かべていた。


しかし長春たちには桜良の感情まで正確に伝わっているようで、感心したようにうなづいていたので、幼児口調の指摘をすることは控えた。


「これこそ余計なお世話ですが…」と幻影が眉を下げて言うと、「確認してやる」と信長は言って、指導力も統率力も実力も高い、神として覚醒を終えている万有剛毅に念話を送った。


「織田信長じゃ!」と信長が堂々と叫んで、同時に剛毅にも念話を送った。


「…いや、特に怒ってはおらん…

 ワシの気合の表れのようなものじゃ…」


家族たちは信長と通訳の幻之丞を交互に見て眉を下げている。


信長が要件を語ると、剛毅は独断では決められないと言って、保留にしたことで、信長の機嫌が大いによくなった。


念話を切ってから、「琵琶家に合流する意思はある」という信長の言葉に、幻影たちは笑みを浮かべてすぐさま頭を下げた。


「もしも話が決まった時、

 代わりとして私、弁慶、源次で、

 必要に応じて手助けをさせていただきます」


幻影の進言に、「ゲイル殿は安心されることじゃろうて」と信長は笑みを浮かべて言って何度もうなづいた。


「…俺も混ぜろぉー…」と蘭丸が目を吊り上げて言うと、「わかったわかった…」と幻影はめんどくさそうに言った。


「では、本題に戻って悪魔の眷属の件ですが」


幻影の言葉に、「…それが本題じゃった…」と信長は眉を下げてつぶやいてから、愉快そうに笑った。



今回も幻影と蘭丸のふたりが担当することになり、まさに逢引気分でフリージアまでやってきた。


話は爽太に通してあったので、巨大な食卓で、まずはサンディーとあいさつを交わした。


幻影はサンディーを見入って、「もったいない」と幻影と蘭丸が同時に言った。


すると爽太とサンディーがふたりとも目を見開いて、驚愕の顔をした。


「じゃ、お蘭が伝えてあげて…」と幻影がこの場は譲ると、「…あん、あなたが言ってぇー…」と熱々カップルぶりを大いに発揮した。


ここは幻影が核心を突いた話をすると、ふたりはさらに驚きの顔をして、蘭丸は何度もうなづいた。


「私でもお蘭でもできますが、

 安全策を取って、我ら二人で眷属の縛りを解きます。

 ですがそのあと、サンディーさんには覚悟が必要ですので。

 悪の心を持つと、高能力者であってもすぐさま去勢されますから」


幻影の言葉に、サンディーは大いに戸惑って爽太を見入った。


「…ですが、なぜ、このような無体なことを…」と爽太は嘆くように言ってサンディーを見た。


「サンディーさんの意思だったような気がします」という幻影の言葉に、サンディーは首を横に振った。


そのような記憶はないと言わんばかりだった。


すると咲笑が、サンディーの生涯の年表を宙に浮かべると、サンディーも爽太も目を見開いた。


「…空白…」と爽太は目を見開いてつぶやいた。


「隠されていると言っていいでしょう。

 サンディーさんの記憶は、

 眷属になってからしかないはずです。

 しかも、魔法の杖として自覚を持った時からしか、

 正確な記憶は思い出せないはずです。

 それが悪魔の眷属となるために必要だったことだと感じます。

 ちなみに前世は…」


幻影が言うと、咲笑が映像を変えた。


「…悪魔で、十万年ほど生きていたようですぅー…」


この事実に、「…悪魔、いやぁー…」とサンディーは大いに嘆いた。


「いえ、今世のサンディーさんは悪魔ではありません」と幻影が言うと、咲笑はまた映像を戻して、空白の部分を埋めた。


サンディーは年表を順番に見入って、この事実に衝撃はあったのだが、笑みを浮かべて納得していた。


「さらに細かい部分もお見せできますが、

 さすがにプライバシーの侵害に当たるのですが…」


幻影が控えめに言うと、「いえ! 今、見ておきたいのです!」とサンディーは声を張って言った。


そして咲笑が、ダイジェストとしてサンディーだけに映像を見せると、「…なにやってんだろ…」とサンディーは自分を卑下してから、涙を流した。


「覚悟はできました」とサンディーが言ったとたんに、ぷつりと何かが切れたように感じた。


「おお…」と爽太は言って、のけぞるようにして変わり果てた姿のサンディーを見入った。


そして、「…功太、お父さん…」と爽太がつぶやくと、「俺は男じゃあねえ!」とサンディーは叫んで陽気にけらけらと笑った。


そして鏡を出して、「…これじゃ、男に振られて当然だわぁー…」と嘆いたが、全く心の重荷を感じられなかった。


「術とかはどうです?」と幻影が聞くと、サンディーはまずは礼を言ってから、咲笑を使ってすべての術を表として出した。


「…優秀だぁー…」と爽太が嘆くように言うと、「…ほんと、私って馬鹿だわ…」とサンディーは言って、幻影と蘭丸に頭を下げた。


「…エッちゃんと、いけない道に走ったことも、

 杖になる前の事実を知ってよく理解できたわぁー…」


ホホを朱に染めたサンディーの言葉に、幻影たちは大いに赤面していた。


「解決したようですので、

 サンディーさんは落ち着いて今後のことをよく考えておいてください」


幻影のやさしい言葉に、「いえ! もう決めました!」とサンディーは言って幻影を見入った。


そして頭を下げて、「どうか、琵琶家で雇ってください!」と叫ぶと、「うん、いいよ」と幻影はいきなり気さくに言うと、蘭丸は大いに笑った。


「…そんなぁー… 何とか引き留めてよぉー…」と爽太が大いに眉を下げて幻影に懇願した。


「いいえ、幻影様に諫められたとしても、

 私は単身喜笑星に向かい、

 織田信長様に直談判いたします」


サンディーの決意は固かった。


「…御屋形様は優しくなられたから、

 さて、どうだろうなぁー…」


幻影の言葉に、蘭丸が大いにうなづくと、「…今雇ってっ!」とサンディーはすぐさま言い換えた。


「じゃ、ロストソウル軍に対して、

 ある程度以上の恩返しをしたと思ったら、

 いつでも喜笑星に来てくれていいから」


幻影の言葉に、「たやすいこと!」とサンディーは叫んでから、「爽太様、仕事」と威厳をもって言って、爽太の尻を叩くようにして、比較的困難な仕事を与えられて喜んでいる。


サンディーは休日をむさぼっている戦士たちを雇って、Sクラス任務の依頼書をもって、宇宙に向けて旅立った。


「…素晴らしい行動力だなぁー…」と幻影は大いに納得してから、咲笑に今の一部始終を幻之丞に報告するように言った。



「じゃ、次は使えない犬」という幻影の言葉に、「…カイルも更生しちゃうんだね…」と爽太は言って眉を下げたが、すぐにダルメシアン犬のカイルを呼んだ。


まさに不愛想で、幻影と不愛想合戦ができるほどだった。


「僕は偉いんだ!

 どうして誰もわかってくれないんだ!

 四次元の世界だって、

 僕だからこそ解明できたんだ!」


幻影が叫ぶと、爽太たちは目を見開いていた。


「なるほどね、そりゃ優秀だ」と幻影が言うと、「ふんっ!」とカイルは言ってそっぽを向いた。


「だからこそ気づけよ。

 なぜこうなったのか」


幻影の少し厳しい言葉に、カイルは目を見開いて幻影を見た。


「三次元に住む俺たちが、四次元を完全に理解できるわけないじゃないか。

 だけど、ある程度以上の気功術師はそれが可能だ。

 だが君には無理なはずだった」


幻影の言葉に、この場の時が止まった。


「咲笑、カイルの透過写真」と幻影が言うと、咲笑はすぐにカイルを探って、「えっ!」と叫んだ。


そしてレントゲン写真を出して、「…脳が、ありませんー…」と咲笑は嘆いた。


「カイルの脳は、精神空間にあるんだ。

 正確には、魂の中に入り込んでいる。

 だからこそ、能力を発揮できなくなったんだよ。

 生物の能力は、精神空間の外にあって初めて本領を発揮するからだ。

 これが、四次元の世界を見過ぎた者のなれの果てさ」


幻影の言葉に、カイルは発狂するように騒ぎ始めたが、蘭丸が抱きしめると大人しくなった。


「…暴れたって、何かが変わるわけじゃないわ…」と蘭丸が穏やかに言うと、「…う、うん…」とカイルは言って落ち着いた。


「…こりゃ、完全な不老不死だな…

 肉体を消し去っても、脳だけは保護されているから、

 妙な幽霊になってしまうだろうな…

 しかも誰も気づいてくれないが、

 まあ、気功術師にはわかるだろうが…」


「何とかならないの?」と蘭丸が眉を下げて聞くと、「そんなもの簡単だよ」と幻影は言ってにやりと笑った。


「だけどその前にだ。

 また四次元の世界を観たら同じことが起こるぞ。

 もしくは、簡単に命を絶たれるかのどちらかだろう。

 こうなったのは、君が動物で人間の知識を持っているせいでもある。

 君は確かに優秀だろうが、

 それ以上を望めば、次はさらに恐ろしいことが起こる可能性は否めない」


幻影の言葉に、「…もう、四次元の世界は見ない…」とカイルは言って頭を下げた。


「ま、色々と弊害はあるが」と幻影は言って、正常化の棺を出すと、「…簡単だったぁー…」と爽太はようやく理解して笑みを浮かべた。


「術は使えるが、肉体は鍛え直しだ。

 それでもいいのなら入れ」


幻影の言葉に、「…あ、ありがと…」とカイルは蘭丸に礼を言ってから、その腕を逃れて正常化の棺に入った。


カイルはすぐに棺から出てきて、「…脳、ありますぅー…」と咲笑は言って涙を流した。


カイルは幻影と蘭丸の前に座って、「お世話になりましたぁー…」と礼を言ってうなだれた。


「なんだよ… 今度はなんだ?」という幻影の言葉に、カイルは爽太を見て、「…琵琶家に、お世話になってもいいですかぁー…」と聞いた。


「…そうなるよね…」と爽太は言って大いにうなだれた。


「だけど君の主はガイ・サラント様だろ?

 そのけじめはきちんとつけないとな」


幻影の言葉に、カイルはその件を思い出して、「…だけど、ほったらかしだった…」と嘆いた。


「君のその気持ちもわかる。

 だが、主たちとの厳しい戦いや楽しい時もあったんじゃないの?」


幻影の言葉に、「…余計なことを言うなぁー…」と蘭丸は大いに怒ってうなった。


「元のさやの戻るのが一番いいことなんだ。

 それこそ平和さ。

 だけど、カイルがまた四次元の世界を見ないとは限らない。

 だからそれを絶対にさせない方法がある」


幻影の言葉に、「それは、どうすればいのですか?!」とカイルが勢い勇んで聞くと、「あ、納得」と蘭丸は短くって、幻影に羨望の眼差しを向けた。


「動物使いに操られたらいいだけ」という幻影の言葉に、カイルは大いに眉を下げた。


「姿を見ただけで縛られて、思考まで読まれるから。

 とんでもない動物の神だけど、

 無謀なことは命令しない平和な姫だよ」


幻影の言葉に、咲笑がその関連映像を出した。


「…あー… すっごく安らいでるぅー…」とカイルは言って、笑みを浮かべた。


幻影は天照大神に頼んで、長春だけを連れてくるように願った。


天照大神は一瞬にして長春だけを連れてきて、そしてもういなくなった。


「…四次元の世界は見ちゃダメ…」とカイルが目を見開いてつぶやくと、「成功ぉー…」と幻影は言って笑みを浮かべた。


「今度長春に会ったら、礼だけ言っておけばいいから」


幻影の気さくな言葉に、「はい、これで安心して生きて行けます」とカイルは笑みを浮かべて言った。


そしてガイの居場所を探って走って行った。



「あとひとりいるようですけど、どうします?」と幻影が爽太に聞くと、「…生きる希望を与えてやってください…」と爽太は願って頭を下げてから、その対象者を連れてきた。


「…なんてこと…」と蘭丸は言って、両手両足のない子を抱きしめた。


「あ、やさしい人だ、ありがと!」と少年は笑みを浮かべて言った。


「正常化の棺が使えない特殊体質。

 ロボのスーツも拒絶ですか?」


「…うん、すぐに壊れちゃうんだ…」と爽太は言ってうなだれた。


「なかなかひねくれたやつだ」と幻影が言うと、「この子はひねくれてなんて!」と蘭丸は叫んでから顔色を変え、「…もうひとり、いやがるのかぁー…」とうなって、幻武丸をすらりと抜いた。


『ギャッ!』という断末魔の声が幻影には聞こえたような気がした。


「…ふむ… 悪じゃない…

 恨みつらみの怨念か…

 …まあいい…」


幻影は言って悪滅の術を放ってから、正常化の棺を出して、少年を五体満足の姿にした。


「まずは歩行訓練からだね」という幻影のやさしい言葉に、「…連れて帰るぅー…」と蘭丸が少年を抱きしめてうなると、「今回はもちろん許可します。どうか、よろしくお願いします」と爽太は清々しい笑みを浮かべて頭を下げて言った。


「問題は、今までに誰も手を出せなかったことにあります。

 私たちが特に優秀だ、などとは思えないのですが?」


幻影の厳しい言葉に、「…おふたりのように、心の底から親身になっていなかった…」と爽太は言ってうなだれた。


「…できるやつはいたはずなのに、

 本気で考えてやらなかった…」


蘭丸は大いにうなって、大勢いる戦士たちを見回すと、誰もが視線をそらした。


「もちろん、その中に万有源一も含まれます。

 半分は天使という事情。

 半分は経験不足」


さらに厳しい幻影の言葉に、この状況見守っていた幼児の万有源一は肩をすくめて目尻を下げた。


今のこの状況で、否定する言葉は源一には何もなかった。



手足がない子は、呪いのようなもののせいで名がなかった。


その呪縛が解けても名を思い出さなかった。


「…まさか封印か…」と幻影がつぶやくと、「桜丸はいい子だもん!」と蘭丸はもう名を決めていて、男子を強く抱きしめた。


「…その桜丸が、目の上の瘤だったに決まってる…

 正義の味方が邪魔だったんだろう。

 だけど結果的には悪は滅びたが、

 桜丸の呪縛は解けなかったと推測した」


「…サクラマル…」と男子はつぶやいて、請われた人形のようになって目を見開いた。


そして薄桃色の竜にその姿を変えていた。


「…おー… ついてたぁー…」と幻影は言って、竜に向けて笑みを向けた。


蘭丸は涙を流して喜んで、竜にほおずりをした。


「…はあ… ひどい目にあっちゃった…」と竜は嘆いてから、幻影と蘭丸を交互に見て口角を上げた。


「緑竜によく似ているね」という幻影の言葉に、「僕はカリュウ。草花の花の竜だよ」と桜丸は穏やかに言った。


幻影は何度もうなづいて、「まさに、平和な竜だと思う」と言った。


「僕は、心を穏やかにする効果があるけど、

 肉体を穏やかにする花竜もいるんだよ。

 通称は濃い紫の毒竜」


桜丸の言葉に、「その人は今はさらなる修業中さ」と幻影は気さくに言った。


「…竜をふたつも持っているとは贅沢な…」と蘭丸は大いに憤慨した。


「それほどに基本性能は高いんだ。

 だからこそ、カイルのようになるんだよ」


ゲイルの言葉に、今度は幼児の姿の万有花蓮が首をすくめると、万有源一は花蓮に指を差して陽気に笑った。


幻影たちは爽太に礼を言って、天照大神に誘われて喜笑星に戻った。



「…呆れるほどにすごかった…」と信長は言って、幻影と蘭丸を大いに褒めて、桜丸を抱き上げて上機嫌になっていた。


「サンディーさんと同様に、桜丸も悪魔の眷属の縛りが解けましたが、

 カイルはまだ悪魔の眷属です」


幻影の言葉に、「いや、もうこだわらん」と信長は言って、機嫌よく桜丸の頭をなでた。


「…お爺ちゃん… 視線が痛いんだけど…」と桜丸が眉を下げて言うと、「…ここは仕方ない…」と信長は言って桜丸を畳の上に立たせた。


桜丸はすぐさま阿利渚に挨拶に行って、花竜に変身してその能力を披露した。


まさに子供たちは、鉢の中に咲き乱れた花に、心の底から癒された。



すると安土城に、ゲッタを先頭にして剛毅の兄妹ふたりがやって来て、桜丸を見て目を見開いた。


「…とんでもない唯一がここにいたぁー…」とゲッタが大いに嘆いた。


「あ、兄弟さん」という桜丸の言葉に、誰もが目を見開いた。


「…まさか君も、母さん…

 メロディー…

 いや、青竜メルティーの子かい?」


ゲッタが目を見開いたまま言うと、「あ、そういえば、フリージア星にいたね」と桜丸は今更ながらに言った。


「…万有源一と花蓮の目付け役か…」と信長はうなった。


「母の一番得意な能力は監視ですので」とゲッタはようやく平常心に戻って、信長に言って頭を下げた。


「僕は、もうずいぶんと前のことだから、もう夢のようだよ」と桜丸は言った。


「…また私の方が子か孫…」と蘭丸が嘆くと、桜丸はすぐさま蘭丸に甘えに行った。


「僕って、生まれてからずっと子供なんだよ」という桜丸の言葉に、蘭丸は笑みを浮かべて抱きしめた。



ゲッタたちの登城はもちろん修行の件で、幻影がさっそく提案をして了承された。


今回は、ゲッタとメルティー、幻影と蘭丸が入れ替わることになり、城にはゲッタとメルティーが残された。


「…なんだか新鮮じゃ…」と信長は笑みを浮かべてゲッタとメルティーを見入っている。


「極力、幻影先生の代わりが務まるよう、

 奮起いたします」


ゲッタが堂々と言って頭を下げると、「何も心配しておらぬ」と信長は機嫌よく言った。


「あ、そうじゃ。

 幻影から魔剣はもらっておらぬのか?」


信長が興味を持って聞くと、「私の場合は手甲と足甲です」とゲッタは言って、幻影の鍛えた神器を披露した。


「…殴られたくないな…」と信長は言って眉をひそめた。


「私の守り神、ダアク姫です」とゲッタは誇らしげに言って、メルティーを見て笑みを浮かべた。


「戦場で威厳を放つと、嫌われ者になります」という言葉に、信長は大いに笑った。


「いや、とんでもない戦場でも楽なものじゃな」と信長は言って何度もうなづいた。


「私は、こちらをいただきました」とメルティーは言って、真っ赤な巻いている鞭を出すと、「…亭主の尻を叩く…」と信長は言って眉をひそめた。


「そうですね。

 そのような使い方も有効かと存じます」


メルティーの言葉に、ゲッタは大いに眉を下げて、信長は大いに笑った。


「この気功神を手足のように扱えと」とメルティーは言って、まさに魔法のようにして音もなく鞭を操って、様々な小物などを音もなく移動させた。


子供たちは目を見開いて、大いに拍手をした。


「…うむ! 素晴らしい技じゃ!」と信長は機嫌よく叫んだ。


「間合いがどんな武器よりも長いので、

 術を有効に発揮できるようになりました」


メルティーの明るい声に、信長は機嫌よくうなづいた。



「…まさか、ゲッタとメルティーと入れ替わるとは…」とゲイルは予想していなかった現状に、目を見開いて言った。


もちろん、内心は大いに喜んでいる。


「明日の昼餉の後に交代だから」という幻影の言葉に、「いや、贅沢すぎるほどだ」とゲイルは言って、幻影と蘭丸に頭を下げた。


「明後日からは三日間休みだそうだから、

 剛毅様と弁慶を四日後の昼餉まで入れ替えるから」


「…それもまた一興…」とゲイルは言って、恭し気に頭を下げた。


「桜良様も気にしていたようだからね。

 言いたいけど言えなかったそうなんだ。

 我が子の本来の成長がどれほどなのか、

 見極めたかったんじゃない?」


幻影の言葉に、ゲイルは剛毅たち三兄妹の紅一点のパルラを見た。


「パルラちゃんの交代要員も用意したから。

 今日家族になったばかリだけど、

 大いに使える花の竜の桜丸」


「…やっぱ、いたんだ…」とゲイルは大いに眉を下げて言った。


緑の竜と毒の竜がいれば、また別の植物擁護の竜もいてもおかしくないと考えていたようだ。


咲笑から一部始終の事実を知って、「…俺たちにも罪はあったな…」とゲイルは言ってうなだれた。


ノスビレ部隊は桜丸と直接関与することはなかったが、できれば少しでも早く救ってやりたかったと思ったようだ。


「偶然にも源次は源次君と交代してもらうから」


「…その方が、声掛けに困らないから丁度良かった…」とゲイルは眉を下げて言って、幻影に頭を下げた。



この万有源次が一番の曲者で、全宇宙の王であった御座成功太の生まれ変わりのようなもので、転生ではなく退化をした。


本来であれば、命を落としてもおかしくなかったのだが、自然界からの罰を受け、記憶は消え、約千年の生涯を終えて、人間の赤ん坊からやり直すことになった。


まさに異例中の異例で、今までには誰もいなかったという話だ。


全ては万有源一の威光があってこそこうなったのだろうと推測するしかなかった。


しかし今世の源次には、血は繋がっていないが剛毅、パルラという兄妹と成長することになり、御座成功太であるはずなのだが、その兆候は全く見られない。


さらには少し遅れて、ゲッタ、メルティーも赤ん坊としてともに成長した。


五人は生を受けてまだ十年ほどしか経っていないのだが、大人顔負けの成長を遂げた。


そして剛毅は神、パルラは天使、源次は勇者として覚醒も果たしている。



「源次君は名前が悪いんじゃない?」という幻影の破天荒な言葉に、誰もが大いに眉を下げた。


「…今世は控え目な方がいいと、一応は納得していたんだけど…」とゲイルが眉を下げて言った。


「監督者だった万有源一が転生したんだから、

 縁起物としてはよくないと思うんだけど?」


まさに幻影の言った通りで、戸惑っていた源次は大いに前のめりになった。


「さすがに、母ちゃんと父ちゃんに相談してからだから」という幻影の言葉に、「聞いてきます!」と源次は勢い勇んで叫んで、社に走り込んだ。


「…名前についてはひと悶着あってね…

 御座成功太という名前自体に、

 呪いがかかっていたんだよ…

 それを解いてから、桜良さんが願って源一さんが命名したんだよ…」


ゲイルの言葉に、幻影は納得したように何度もうなづいた。


「…できればここは…」と幻影は言って笑みを浮かべた。


「なにに期待してるの?」と蘭丸が幻影に聞くと、「もうすぐわかるさ」と幻影は答えて社を見入った。


すると源次はまた走って社から飛び出してきて、満面の笑みを浮かべていた。


「父ちゃんがすっごく喜んで、ゲンエイってつけてくれたんだ!」と源次は言って、レスターが書いた書を広げた。


そこには、『命名 源瑛』と書かれていた。


「…いい名前だと胸を張って言えない…」と同じ読みの幻影が大いに戸惑うと、源瑛は強く首を振って、「僕も幻影先生のように強くなりたい!」と高揚感を上げて叫んだ。


「俺の実力なんてたかが知れてるさ」と幻影が笑みを浮かべて答えると、「…すごいって、いつも思ってるんだけど… 違うの?」と源瑛は大いに不安になって聞いた。


「俺は神として信仰の対象なんだよ。

 その強さが大いに含まれていてね…

 もっとも、きちんと確認はしてないけど…」


幻影が眉を下げて言うと、「…初めて知ったぁー…」と剛毅が目を見開いて言った。


そして剛毅は神の目で幻影を見て、「約三千万人です」と言って頭を下げると、幻影は大いに目を見開いて、「…えー…」と大いに眉を下げて嘆いた。


「多いな!」とゲイルは叫んで陽気に笑った。


「…三万じゃなくて?」と幻影が喜笑星に抱えた国民の数を言って聞くと、「その千倍です」と剛毅は背筋を伸ばして答えて頭を下げた。


「…日の国の半数じゃないかぁー…」と幻影は大いに嘆いた。


「蘭丸様も同じです」という剛毅の言葉に、「よっしゃぁ―――っ!!」と大いに高揚感を上げて叫んで高笑いした。


「…天狗と阿修羅が、すでに根付いていたかぁー…」と幻影は嘆くように言った。


「遠い方が念が強いですね。

 きっと、離れているからこそだと思います」


「…ま、得したとでも思っておこう…」と幻影はにやりと笑って仕方なさそうに言った。


「…ちなみに、漁に出て常に大漁なのも?」と幻影が恐る恐る聞くと、「…下等生物は特に、神の食事でしかありません…」と剛毅が答えると、「…魚だけは、今まで通り、ありがたくいただこう…」と幻影は答えて剛毅に礼を言った。


「竜も、多かれ少なかれ同じことがあるのです。

 ゲイル叔父さんは、百万ほどの信仰を受けています」


「…仕事、行かない方がいいか…」とゲイルは言って眉を下げた。


「…引きこもれば、増えることはないでしょう…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「それは大いにあります。

 奇跡を体験した人々は、

 確実に信じていますから、

 星を出なければ信者数に変動はないと推測します。

 神の威厳としては上がりますが、

 個人的な修行としては、

 ふたりのお考えの通り、

 本来の能力に上乗せがあるものと、

 きちんと理解しておいた方がよさそうです。

 しかし、それに胡坐をかいていないおふたり…

 いえ、蘭丸様を含め、

 お三方のような方はどこにもおられないでしょう。

 いたとしても、

 確実にリバウンドのようなものを食らっているはずです」


剛毅が語ると、「…フリージア星の天使爛爛様…」と幻影がつぶやくと、「…悪しき例です…」と剛毅は言って頭を下げた。


「…堕天使まで落とされたからね…

 …はっきりさせておいてよかった…

 さすがにこの件だけは、

 俺自身では理解不能な事象だったから」


「自然界からの試練でしょう」という剛毅の言葉に、幻影たちはさらに理解を深めた。


「…長春様が剛毅様ほどに物知りであればさらに安心して過ごせそうだけど、

 動物限定の神だからなぁー…」


「いえ、理解していておっしゃらないだけなのでは?」


剛毅の言葉に、幻影も蘭丸も目を見開いて、「…それは大いにあるはずだ…」と幻影はつぶやいて何度もうなづいた。


「…では、時々欲のようなものを噴出させるのは…」


「欲や嫉妬心以外で考えると、

 大勢の信者たちに対する敬意、かと…」


「…結果的に、そこにつながることも何度もあった…」と幻影は言ってさらに納得した。


「…長春様がさらにあおった?」と蘭丸が幻影に聞くと、「…ああ、確実に長春様を超えるようにとでも願ってるんじゃない?」と少し投げやりに言った。


「能力的にも、幻影様は万物が対象ですから。

 その控えめな神の信仰をしましょう」


剛毅が言って頭を下げると、「…さらにあおらないでくれ…」と幻影は言って大いに眉を下げた。


「さらに、神は優しくありません」


剛毅の決定的な言葉に、幻影は冷酷的な部分を語ると、剛毅たちはさらに納得していた。


「それが一般的に言われている、

 神の畏れに繋がるのです。

 聖人君子というだけでは、

 本来の信仰神としては弱い者ものとなるでしょうし、

 信者は離れやすいように感じます。

 強制的に冷酷な気持ちを抑え込むことが、

 さらにいっそう、

 神の畏れを上げているものかと」


「…ずっと神修行をしているようなものだけど、

 今を変えない」


幻影の堂々とした言葉に、剛毅は笑みを浮かべて頭を下げた。



幻影は蘭丸と、厨房担当の八名の竜の子たちとともに、五人乗りの戦艦に乗って、南半球の海に出た。


「…うっ 嫌な予感…」と幻影は言って、まるで幻影を誘っているような潮の流れを発見した。


咲笑が出てきてみんなに映像を交えて説明してから、「…竜宮城があるのかもぉー…」と言ったことが決定的となって、幻影は反転して別の海原を眺めた。


「おっ! 何も感じない!」と幻影は喜んで言って、戦艦をゆっくりと海面に降ろした。


何も感じないということは、強大な怪獣のようなものもいないということだ。


よってすぐさま魚影を発見して、全員で釣りに勤しんでから、早々に宙に浮かんだ。


「やっぱ、来やがった」と幻影は海面を見て、巨大な魚影を確認した。


そして魚影は潮を噴き上げながら追ってくる。


「…戦ったら、手下になるかもな…」と蘭丸がにやりと笑って言うと、「…控えめなエカテリーナさんほどあるだろ…」と幻影が眉を下げて言うと、竜の子たちは大いに陽気に笑った。


「今は食らってやるという感情しか感じない。

 だから戦えば、その感情はころりと変わる可能性はある。

 だけど、今はいい」


幻影は言って、ノスビレ村に向けて舵を取った。



少々獲り過ぎたようなので、幻影は単身で喜笑星に戻ったが、もうすでにハイネが法源院屋に魚を売ったあとだった。


しかし、売り切れ間際だったので、幻影は少量だけ魚を卸してから、サルサロス星に移動すると、うまい魚目当てに長蛇の列が出来上がったので、大いに眉を下げて、持ってきた魚をすべて卸した。


「ギリギリ足りるかな?」と幻影が言うと、「まずは、ひとり一枚で」と店主は笑みを浮かべて言って、幻影に礼を言った。


幻影が店から出ると、まずは獣人の子供たちが気さくにあいさつをする。


「お使いかい?

 みんな偉いぞ!」


幻影が大いに褒めると、子供たちは一斉に幻影に礼を言った。


すると、猛然たる勢いでマックラが走ってやってきて、幻影とあいさつを交わした。


「…お仕事のお手伝いをできなことが心苦しいのです…」というマックラの善意の言葉に、「余裕ができてからでいいよ」と幻影が気さくに言った。


「…うう、後継者だぁー…」とマックラは言って、今更ながらにならに悩み始めた。


「雄々しくて穏やかな人は少ないからなぁー…

 もしもその候補がいたら連れて来るけど、

 マックラさんも探しておいて欲しい。

 一時的になら、ここに巖剛を据えてもいいはずだから」


「はい、彼ならば何も問題はございません」とマックラは笑みを浮かべて言って頭を下げた。



幻影は安土城に登城して、獲物を料理番に渡して、今日の留守居役の勝虎と城代のスイジンに気さくにあいさつをしてから、社をくぐって、ノスビレ村に戻った。


「…浮気はしなかったようだな…」と蘭丸は咲笑の頭をなでながら言った。


「…したことがあるような口ぶりでいうな…」と幻影は眉を下げて言うと、ゲイルが愉快そうに笑った。


「…幻影の邪魔をするやつは許さんー…」と蘭丸がうなると、「…それもそうだ…

 今回のように、いつも速やかに目的だけを達成したいものだね」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


「…高台に行って、デートしない?」と蘭丸が恥ずかしそうにして言うと、「ああ、夕餉が終わってからな」と幻影は気さくに答えて、かわいいウェイトレスたちの給仕を受けて、うまい料理に舌鼓を打った。


しっかりと夕餉を堪能して、幻影と蘭丸は高台を目指して飛び、京馬とその家族とあいさつをしたのち、ここに一軒だけある茶屋に入った。


店主は幻影と蘭丸のことを知っていたようで、破顔して接客した。


そして幻影は、この店のお勧めの飲料と軽食を注文すると、店主は腕まくりをして調理を始めた。


「…おっ この地独特の素晴らしい香りだなぁー…」と幻影が感心して言うと、「この地も、いい人しかいないようで、落ち着けるわ」と蘭丸は穏やかに言った。


「…その中に、決まって無粋なやつもいるものだ…」と蘭丸は言って立ち上がり、幻武丸を出して床に立てると、店の扉は開いたのだが誰もいなかった。


「なかなか素早い撃退だ」と幻影は振り向くことなく言うと、蘭丸は満足そうに幻武丸を異空間ポケットに収めてから静々と座った。


「存在感からしてデヴィラさん?」と幻影が聞くと、「切羽詰まった要件ではない」と蘭丸はお堅く言って鼻で笑った。


「家忠はどうするんだろ…

 接触は一度もないんだが…」


「あら? もうなにかに覚醒するのかしら?」と蘭丸は穏やかに言った。


「接触はないが、その存在感は感じていて、

 咲笑がその情報を見せたからな。

 大体のことは察しがついたはずだ。

 お見合い写真を確認して、

 デヴィラさんの自己紹介を受けたといったところだ」


すると、美味そうな飲料と軽食が運ばれてきたので、ここは咲笑も姿をみせて、幻影に甘えて食べさせてもらっている。


「…また別の場所で、今度は阿利渚たちも連れて行きたいわ…」と蘭丸が眉を下げて言うと、「…家族だけの時間…」と幻影は言って何度もうなづいた。


「幻之丞は?」と幻影が咲笑に短く聞くと、「絶賛放映中」と答えると、幻影と蘭丸は大いに笑った。


「…御屋形様が切れと命令されましたぁー…」と咲笑が眉を下げて言うと、「特に変わったことはしてないんだけどな…」と幻影は眉を下げて言った。


「食後の軽食は、アニマールのフードコートでいいそうですぅー…」と咲笑が言うと、「ああ、そうしよう」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


幻影と蘭丸は穏やかな時を過ごして店を出て、京馬に挨拶をしてから砂浜の村に戻った。


ふたりはものづくりの手伝いをしてから、琵琶御殿に行って、ここでようやくふたりっきりだったと意識してしまった。


布団を敷き終わって、「幻影様、よろしくお願いたします」と蘭丸が三つ指をついて言うと、「ああ、近こう寄れ」と言ってから、噴き出して大いに笑った。


ふたりはごく自然に夫婦の営みを終えてから眠りについた。



翌朝は、早速琵琶家と合流して早朝訓練に付き合って、美味い朝餉を大いに食らってから、幻影と蘭丸は、ゲッタとメルティーの代役として、先行部隊の隊長として、早速戦場に立った。


「人質を出す前に急襲する!

 お蘭! 阿修羅だ!

 剛毅たちは指示と後始末を頼む!」


幻影の指示に、阿修羅は風のように戦場を駆け巡り、生物以外はすべて斬り捨てた。


「…すげぇー…」と源次から名を変えた源瑛は笑みを浮かべて感心していた。


「よっし! 人質救出成功だ!」と幻影からの念話を受けた剛毅が叫ぶと、ノスビレ部隊は戦場になだれ込んで、あっという間に戦闘は終了した。


片付けや救済なども簡単に終わってしまったので、異例のふたつ目の星に飛び、ここでも幻影と蘭丸が力を見せつけて、「まだ早いが今日は終わりだ!」と叫んだエカテリーナの指示に従って、ノスビレ部隊は清々しい表情で、右京和馬星に戻った。


「…見ることも修行…」と砂浜の村に戻った幻影と蘭丸は、この信長の言葉に頭を下げた。


「…お疲れ様…

 今日だけだし、いい経験になったと思う…」


ゲッタが大いに眉を下げて言ってから、ノスビレ部隊を褒めたたえた。


「ゲッタとメルティーも阿修羅となれ」というゲイルの言葉に、「…うう…」とふたりは大いに苦笑いを浮かべてうなって、顔を見合わせた。


「ノスビレ部隊が休みの間に一度行くか…」という信長の言葉に、琵琶家家人は大いに高揚感を上げた。



幻影は休日のパパとなって、十人乗りの戦艦に、蘭丸が子にした子供たちを全員乗せて、大海原に出た。


「ほらほら、間抜けなデカ物よ!」と蘭丸は明るく言って、巨大な潮を噴き上げている怪物を見下ろして言うと、「…すっごぉーいぃー…」と阿利渚が眼下を見て明るく言った。


ほかの子供たちもそれに倣う。


漕ぎ手は幻影、蘭丸、源次、志乃の四人で、まさに幻影に近い家族限定で漁に出たのだ。


弁慶と沙織は、製造などの手伝いをするために砂浜の村に残った。


大型戦艦は黒い巨体を引き離すように高速で飛び、あっという間に星を半周して、生物の気配を感じられない場所に出た。


しかし着水したと同時に、わんさかと魚影が現れて、『釣ってくれ!』と言わんばかりに魚たちは飛び跳ねた。


「おっ! ここは、蟹と海老の宝庫だ!」と幻影はよだれを垂れ流している咲笑が出した映像を観て叫んで、今夜は豪勢な食事にしようと思い、釣りの方は子供たちに託して、大人たちは網を打って、甲殻種をたくさん水揚げした。


「…今日は蛸もいるぅー…」と蘭丸は言って、大きな蛸の足をつかんで、船の外で何度も振り回した。


蛸はたまらず墨を海面に吐き散らして目を回している。


今日は多くの種類を獲った巨大戦艦は、難なく宙に浮かんで高度を上げた。


すると、水平線のかなたに、巨大な魚影が見えた。


「やはりでかいだけあってなかなか速いな」と幻影が眼下を見て言うと、「面接だけでもした方がよさそうだわ」と蘭丸が言った。


「…感情的には、嘆いているように感じる…」と幻影は言ったが、戦艦は留まることなく北に向かって飛んだ。



豪華な夕餉の際に、幻影はマリリンに巨大な魚影の話をすると、咲笑がその映像を出した。


「…覚えはないわ…」とマリリンは眉を下げて言って首を横に振った。


「だけど、神獣というわけでもなさそうなんだ。

 神の威厳は感じないし、

 行動は動物でしかないと思う。

 あ、そもそも、マリリン様が南半球に行かなかった理由ってあるの?」


幻影の素朴な質問に、「知っての通り、海路を使って、南半球に行くのは至難の業なの…」と眉を下げて言うと、咲笑はこの右京和馬星の球体地図を出した。


「…あ、なるほど…

 今ようやく理解できた…」


地図によると、北と南は繋がっているのだが、全てが狭い海峡となっていて、流れが速いことは理解できる。


よって、南半球に渡ったが最後、北側に戻れなくなるかもしれないのだ。


咲笑がわかりやすく潮の流れを地図に書き込むと、「…入口出口は決まっていて、すべてが二百里ほど離れている…」と幻影が眉を下げて言うと、「…ようやく嫌な予感の理解ができたわ…」とマリリンも眉を下げて言った。


「海峡は狭くて浅いので、あのでっかい魚は通り抜けられないようです」という咲笑の言葉に、「…納得…」と誰もがつぶやいた。


「唯一抜けられそうな海峡は、流れが北から南なので、

 巨体のせいで渡ってこられないようなのです」


咲笑の言葉に、「…そこで鍛えているのかも…」と幻影がつぶやくと、「…やってるかもしれないわ…」とマリリンは同意して言った。


「…日没まで、観察に行くか…」と幻影が言うと、琵琶家とコリスナー家全員が同意したので、短い時間だが大人数で遠足に行くことになった。



両家は宇宙戦艦に乗り込んで、短い空の旅を楽しんで、海峡の近くの陸地に戦艦を降ろすと、猛獣たちが一斉に逃げ去った。


蘭丸は脅しとばかりに、幻武丸を抜いて、辺りを走り回った。


小動物以外は四散してすぐに見えなくなった。


そして小動物たちは、長春に雇われていた。


「…小さいのに、みんな強そうだ…」と幻影が笑みを浮かべて言うと、「…強くないと生きて行けない…」と長春は涙を流しながら言って、小動物たちを抱きしめた。


「…救世主だって!」と阿利渚は言って、蘭丸を見上げると、蘭丸はこれ見よがしに胸を張って、阿利渚に笑みを向けた。


陸地で楽しんでいる間に、巨大な海洋生物が現れたのだが、妙に大人しい。


すると、ゲイルの友人の鯱に変身できるバッカスと、首長竜の翡翠が海に入ると、巨大生物の姿が消えた。


「確実に動物だ」と幻影は言い切った。


「…新しい仲間と喜んだんだが、ただの怪獣だったか…」とゲイルは眉を下げて言った。


「もう、姿を見せんかもしれんな」と信長が言うと、幻影もゲイルも同意した。


「…嫌われちゃったわ…」と人型に戻っている翡翠が嘆くと、「翡翠さんの魅力をわからんとは…」と守山が怒ったので、翡翠はホホを赤らめて守山に大いに礼を言った。


「…お兄ちゃん… お嫁に行っていい?」とパトリシアが逞しい人型のバッカスを見てつぶやくと、「…急展開じゃな…」と信長は眉を下げて言ったが、快く許可した。


ライジンとエカテリーナは大いに歓迎して、バッカスとパトリシアを祝福したが、肝心のバッカスにその気がないように見えた。


「無理強いはやめてくれよ」とここは友人としてゲイルが口を出した。


「…マリリン様以上ではないですか…」というバッカスの言葉に、「えっ?」と誰もがつぶやいて、目を見開いてパトリシアを見た。


「…見破られたからには…」とパトリシアは少し陽気に言って、浜辺に近づいて人魚に変身して姿を消した。


そしてあっという間に、巨大な魚影がその半身を海面に上げ、頭の辺りに人魚が座っていた。


「大人しものだわ!」と人魚のパトリシアが叫ぶと、「そう思うのはお前だけじゃ!」と信長は叫んで大いに笑った。


「…まだまだ修行してね…」とパトリシアは悲しそうに言って、海に飛び込んでから人型を取った。


そして手を振ると、黒い巨体は踵を返して、大海原に消えた。


「…お市…

 パトリシアの嫁の貰い手がないことを確認しに来ただけとなったか…」


信長の言葉に、琵琶家一同は後ろを向いて笑っていた。


パトリシアはファイガを抱き上げて、「…大きくなるまで待つわ…」と言ったが、蘭丸がすぐに取り戻していた。


「…だったら、あと百万年ほど待ってね…」とファイガが眉を下げて言うと、「…うう…」とパトリシアがうなったので、幻影は我慢しきれずに大声で笑った。


なかなか楽しい遠足になったと誰もが思い、宇宙戦艦に乗り込んで、夕暮れ迫る空を飛んで、砂浜の村に戻った。



琵琶家一同は喜楽星に戻り、風呂に入ってあとは寝るだけとなった。


幻影は琵琶御殿に向けひと通り念話を送ったが、どこにも問題はなく平和だと返答を受けた。


そしてただ唯一残った権力者の家光に念話を送ると、『…忘れられてなかったぁー…』と大いに感動して念話を返してきた。


家光の日々は確かに多忙だが、諍いなどはほとんどなく、平和と言っていいものだった。


琵琶家の各御殿からも同じ返答があったと幻影が伝えると、家光はさらに安心していた。


「あと、めんどくさくなるのは、

 お前のお世継ぎ候補選定の時だけだな。

 その前に、正室の選定もある。

 お前自身が不幸の中心となることも視野に入れておいた方がいいぜ」


『…うう…』と家光はうなるだけにとどめたが、大いに困惑しているようだ。


「家柄ではなく、

 強く正しく聡明で、

 殺しても死なないほどの健康な姫を推奨しておこう」


『…具体的に紹介してよぉー…』と家光は甘えてきた。


「こっちには大勢いるが、お前には見合わないから推薦はでき兼ねる」


幻影の厳しい言葉に、『…さらに鍛えるよぉー…』という家光の嘆きの言葉を聞いて、幻影は念話を切った。


「…元気そうでよかった…」と秀忠は笑みを浮かべて言って、幻影に頭を下げて退室した。


「…秀忠は、春菜と付き合ってるんだよな?」と幻影がその本人に聞くと、「…デートはしてないし、毎日あいさつ程度…」と春菜はホホを赤らめて何とか答えた。


「余計なお世話だろうが、あまりのんびり構えていると、かっさわれるぜ」と幻影は言って、蘭丸と大勢の子供たちとともに退室した。


幻影はまさに今経験したばかりのパトリシアの威厳について言ったはずだと、春菜は確信した。


そのパトリシアはもう寝室に行ったようでここにはいない。


「…婿取り合戦に巻き込まれなくて助かったわ…」と志乃が眉を下げて言うと、「…自分自身の心のままに…」と春菜は明るく言って笑みを浮かべて、阿国、沙織、志乃に就寝の挨拶をして退室した。


「…旅に行かないのならと逢引の予定を考えてたけど、

 今は無理なようだわ…」


阿国は眉を下げて言って、沙織と志乃に挨拶をして退室した。



秀忠は自室に籠ろうと思っていたのだが、誰かがまだ修行を積んでいると思い、興味を持って廊下から工房近くを見入った。


照明設備は充実していて、真夜中でも暗闇にならないように工夫されているので、離れていても工房周りの視界はよく確認ができた。


工房の隣にある組み手場では、パトリシアが相棒に何かを言いながら竹刀を振っていた。


―― そうだ、相棒だ… ―― と秀忠は考え、パトリシアの相棒の小さな鼫をうらやましく思っていた。



早朝稽古の前に、ちょっとした… というよりもかなりの騒ぎがあり、阿国が泣き喚いたのだ。


「高願がいない?」と幻影は言って秀忠を見た。


もちろん、秀忠の背後に鼫の高願の魂があることがわかったからだ。


阿国はすぐさま慌てふためいたことをこの場にいる全員に詫びてから、「…勝手に出て行かないでぇー…」と秀忠に向けて言った。


秀忠は全く身に覚えがないが、振り返ると何かの重みから解放された。


もちろん、阿国が高願をつかんで抱きしめたからだ。


しかし高願は大いに暴れまくって、阿国の腕から逃れて秀忠の肩に飛び乗ってからその姿を消した。


「…あ…」と秀忠はつぶやいて、昨夜の相棒の件を思い出した。


「別に君を欲したわけじゃないさ」という秀忠の言葉に、高願は秀忠の背中から這い上がって来て、頭を上下に振って秀忠の首筋をなで回った。


「別にいいんじゃないの?

 親離れということで」


幻影の軽い言葉に、阿国は幻影をにらみつけた。


「動物の親離れは早いから…」と幻影は眉を下げて言うと、阿国は反論の言葉もなくうなだれた。


秀忠が昨夜の事情を説明すると、「なかなか気の利くやつじゃ」と信長は機嫌よく言って、高願の小さな頭を指でなでた。


「相棒としても良いのじゃが、

 その術はあるのか?」


信長が秀忠に聞くと、「はい、考えていることがわかるようになりました」とすぐさま答えると、阿国は大いに悔しがっている。


「使えると判断できれば、雇ってやればよい」と信長は言って、訓練を開始した。


「…ほんのわずかな母親としての生活だったわ…」と阿国が嘆くと、秀忠は大いに眉を下げた。


―― 伝えられないことを言うなよぉー… ―― と秀忠は大いに嘆いた。


『…猫じゃないのに猫っかわいがりなんだもん…』という高願の言葉に、秀忠はさらに眉を下げていた。


―― 君、やっぱ、幻影に似てるよね? ――


『…あー…』と高願がつぶやくと、すぐに機嫌がよくなって、秀忠の肩の上を右往左往し始めた。


「…喜んでるな… 理由はなんとなくわかったが…」と幻影が眉を下げて言うと、「すべて教えて!」と阿国が叫んだ。


ここは秀忠が悪者になって、秀忠の考察も交えて高願の言葉を阿国に伝えた。


『全然間違ってない!』


「すべて相違ないそうです」と秀忠は大いに眉を下げて、高願の意思を伝えた。


「咲笑ちゃん!」と阿国が叫ぶと、「間違いありませぇーん!」と明るく答えられてしまったので、阿国は立ち直れないほどうなだれた。


「ですが、お母さんとしての感謝はしていますぅー…

 言葉や感情や、

 特に威厳の吸収について」


「…早かった親離れは私のせい?」と阿国は大いに嘆くと、「…そうとも言えますぅー…」と咲笑は眉を下げて答えた。


―― そうか、威厳の吸収… ―― と秀忠は考えて、兎の獣人の雪美を見た。


まだ何の能力もないが、その肉体は大いに鍛え上げられていて、まさに頼もしいほどだ。


よってこの先、雪美も高願も能力者の道は開いていると秀忠は考えた。


「高願、よろしく頼むよ」と秀忠は言って、高願をなでると、「…うー…」と阿国がうなってにらみつけたので、秀忠は首をすくめた。


『叱られ慣れるのも修行のうちさ』と高願が言うと、秀忠はその言葉通りを阿国に伝えた。


「たまには里帰りするように伝えておいてくださいませ!」と阿国は叫んで、女子たちと合流した。


「…さすが巨人族…」と秀忠は苦笑いを浮かべて言った。


『たまには媚びを売りに行くさ』という高願の言葉に、「…頼んだよ…」と秀忠は眉を下げて言って、早速二人三脚の修行に取り掛かった。



朝餉のあとは趣向を変えて、琵琶一家はアニマール星に顔を出した。


主な戦力としてはすべて仕事に出ているので、黒い蝙蝠のゼルダとヤマとあいさつを交わした途端、幻影に信長からの指示が飛んできた。


幻影は宇宙戦艦を出して、「乗り込め!」と叫んで、咲笑がすぐさま向かう星の断定をした。


「宇宙船に結界を張って戦場に飛び込め!」という信長の指示で、宇宙戦艦は火の玉となり、戦場にいる全ての者たちをひっくり返させた。


もちろんこうすることが、一番生存率を上げることだったからだ。


そして信長は外に出て、「この! たわけどもがぁ―――っ!!!」と大いに叫んだ。


幻影は今の地表の状況を何とかしようと、ベティーを抱いたまま地面に両手をつけ、火山弾を浴びながらもなんとか火口の口をふさぐことに成功した。


しかし、火口は一カ所だけではない。


まるで、今産まれたばかりの星のように、至る所でマグマが噴出しているのだ。


幻影は有効となる考えられることをすべて行い、大雨の中、全ての処置を終えて、その場に倒れ込んだ。


「幻影、よくやった」と信長は笑みを浮かべて言って、涙を流している天使たちを抱いて幻影に触れた。


「泣かずともよい」と信長が言うと、幻影はぱっちりを目を開けて、半身を起こした。


「…御屋形様、ありがとうございます。

 咲笑もありがとう」


幻影のやさしい言葉に、咲笑は笑みを浮かべて停止した。


「なにっ?!」と信長が叫んだが、「問題ありません」と才英が言って、咲笑の服を脱がせて簡単に処置をして目を覚まさせた。


「…才英様のエッチィー…」と咲笑が言うと、「…よかった…」と信長と幻影が眉を下げてつぶやいた。


しかし応急処置なので、才英と咲笑は宇宙船に戻って、本格的な修理に尽力した。


人類で生きていたのはほんのわずかで、ほとんど人間の姿はなかった。


辛うじて原形をとどめていたのは、金属製の大型ロボット数十台だ。


星が崩壊するとわかっていても戦っていた戦闘馬鹿でしかなかった。


すると、ロストソウル軍の宇宙船がやって来て、信長とあいさつを交わしたのち、ロボットに乗っていた者たちに対して罪状を読み上げて、牢獄に入れて運んで行った。



天候はまさに世界の終わりのように荒れ狂っていたが、幻影はこれを幸いとして、何度も緑のオーラを流した。


今回は準備万端で、ベティーとハイネがタッグを組んで食事を作っている。


幻影だけでなく、家人たちも食事を摂りながら大いに働いている。


幻之丞の診断で、酸素濃度が正常化したので、幻影は小休止して、ここからは存在する魂に向かって飛んだ。


幸運にも生きている生物がいるのだ。


幻影は動物を三百、人間を百ほど蘇生させた。


ほとんどの者たちを正常化の棺によって復活させた。


五体満足な者が、わずか五人しかいなかったからだ。


幻影は食事を摂りながら、「この地も、しばらくは管理した方がいいようですね」という幻影の言葉に、「ああ、見捨ててはおけん」と信長はすぐさま答えて、春之介に念話をした。


春之介たちは右京和馬星に戻っていて、心配していた信長の問いかけに、精神間転送で飛んできた。


そして事情を察し社を建てて、ノスビレ部隊とアニマール部隊を招き入れて、大人数でこの星の復興を行った。


「よし! 祭りじゃ!」という信長の陽気な言葉に、現地住人たちはあまりの展開に目を見開いていただけだ。


不幸な話などは今はせず、ただただ楽しいことだけを積み重ねた。


「…咲笑ちゃんが壊れるほどにひどい状態の星だった…」とエカテリーナはぼう然としてつぶやいた。


「幻影すらも壊れかけたからな」と信長は眉を下げて言ったが、「じゃが、得るものは多かったはずじゃ」と今度は笑みを浮かべて言った。


その幻影は祭りの仕事の受け持ちは終わったので、ベティーを抱いて様々な場所に飛んだ。


全ての仕事を終え、「経験は重要だよ」と幻影は明るく言って、ベティーとともに祭りの会場に戻った。


暗くなって花火大会が始まると、現地住人たちは全員眠った。


琵琶家、コリスナー家、アニマール部隊は、社を使ってそれぞれの星に戻った。



その翌朝、春之介と優夏、ゲイルとゲッタは、早くから喜笑星にやってきた。


すぐさま信長に面会して挨拶をした後、「何故いきなり飛ばれたのです?」と春之介が昨日あった一番の疑問を聞いた。


「術を使わずとも見えたんじゃ」と信長が眉を下げて言うと、春之介は何度もうなづいて、「…ヤマは、宇宙のアンテナ… 遠見ですからね…」と言って大いに眉を下げた。


「おう、そういうことじゃったのか…

 意識してアニマール星にはいかぬ方がよさそうじゃな…

 ワシも不思議に思っておったのじゃが、

 謎が解けて何よりじゃった。

 …となるとじゃな…」


信長は言って優夏を見ると大いにバツが悪そうな顔をした。


しかし、「仲間の安全が最優先」と優夏は厳しい表情で言った。


信長はここはすぐさま反省して、家人たち全員に謝って回った。


「…俺たちは優夏さんに守られてもいたわけだ…」とゲイルは言って、優夏に頭を下げた。


「自己犠牲に繋がる可能性が高いと、

 何が起こるかわからないから、

 さすがに近づきたくないし、

 目をつぶって見過ごしたことを話すこともないわ」


春之介たちは大いに納得して何度もうなづいた。



「いや、しばらくは休んだ方がよいはずじゃ!」と信長が声を荒げた。


春之介たちは信長と幻影を見入って、「…幻影さんがさらに成長を遂げた…」と春之介はつぶやいて笑みを浮かべた。


「いえ、体調は万全ですし、

 できれば早い方がいいと思うのです」


幻影が落ち着き払って言ったが、「…うー…」と信長は大いにうなっていた。


「本当に万全です!」と咲笑が胸を張って言うと、「お前はまだ壊れているかもしれんだろうが」という信長の言葉に、咲笑は反論できずに眉を下げた。


「いえ、問題なく万全です」と春之介が口を挟むと、信長は納得するしかなかった。


「それに我らも付き合わせてください。

 新しく仲間になった幻影さんの術を見てみたいのです」


春之介の堂々とした言葉に、「…皆が来てくれるというのなら…」と信長はつぶやて頭を下げた。


春之介たちを加えた琵琶家一同は、生実の琵琶御殿に移動した。


そしてまずは江戸城に登城して、これから行う施術について説明をすると、家光は目を見開いた。


「…地震が、起らぬようになるというのか…」とつぶやくと、「小さいものから大きなものまでね」と幻影はごく自然に言った。


「それから、この件は公表してもらいたくないんだ。

 その理由は簡単で、

 あまり安心させない方がいいということ。

 過度の安心感は不幸を生むことがある。

 災害としては、

 地震は起こらないが、火事や嵐は起こるからな」


「…うう… その通りじゃ…」と家光は言って眉を下げた。


「見た目では何をやったのかわからんし、

 安全は保障する」


「…もちろん、その部分は信じてるさ…」と家光は笑みを浮かべて言った。



咲笑の判断により、本州の二カ所だけで術を放てば、確実に大きな地震は来ない確証を得たので、まずは仙台に飛んだ。


いきなりやってきた幻影たちに、政宗は歓迎したが、来て早々に帰るという。


「やることはやったからな」と幻影が言うと、「…かがんで、地面に手のひらをつけただけですが…」と政宗は言って、火竜ベティーを見て背筋を震わせた。


次は指宿の琵琶御殿に飛んで、整備されている庭の地面に手を付けた。


「よっし、完了」と幻影は明るく言って、美味い握り飯をたらふく食った。


「念のため、富士山ろくに飛んで確認します」


幻影の言葉に、誰もが懐かしそうな顔をして笑みを浮かべた。


幻影は佐竹家の宿屋の庭の地面に手をついて、「問題なし」と笑みを浮かべて言った。


もちろん三カ所とも、春之介とゲッタが確認をしているので、何の問題ないことは十分に理解できていた。


「この日の国は、この先陸地が無くなるはずだったけど、

 最短でも数千万年は現状のままだろう」


春之介の言葉に、「…うう… そういえばその通りだ…」と幻影は今理解して大いに眉を下げた。


咲笑がその説明をすると、「…聞いたことのある話じゃな…」と信長は言って眉を下げた。


大量の蟹が獲れた浅瀬の、サルサロス星にあったはずの、消えた大陸の件だ。


「隆起する場所もあれば、その分沈み込む場所もできるからね。

 そのどちらも起こりにくくする、

 物理的に均等に整地をする大きな術なので」


ゲッタの言葉に、「さらに安心できるのは、星全てに施術を施すことです」という春之介の言葉に、「…均衡が保てんかもしれぬからな…」と信長はうなった。


作業は幻影、春之介、ゲッタの三人で、わずか一時ほどですべてを終え、安心して喜笑星に戻った。



「…咲笑が壊れ、兄者が死にかけた…」


もう顔は合わせていたのだが、弁慶が今更ながらに言い始めた。


もちろん落ち着けたからこそ言い始めたのだ。


「…どう転んでも、あの状況では傷つかん方がおかしい…」という信長の言葉に、弁慶は反論があったが、信長が何もしていないはずがないと思い、深く反省して頭を下げた。


「…わかればよい…

 じゃが、ワシも相当に疲れておったが、

 家長である以上、そのような顔は見せられんかったからな」


「…はっ! 申し訳ございませんでした!」と弁慶は深々と頭を下げて謝った。


その現場にいなかったことを悔しく思ったのだが、今の弁慶には信長ほどに守る力はないと、力不足を思い知ったのだ。


信長は姿勢を正し、「ここで言っておく」と威厳を放って言うと、誰もが一斉に緊張した。


「琵琶家を抜けたい者がおるはずじゃ」


信長の言葉に、数名が目を伏せた。


「もちろん、責めておるわけではない。

 あのこの世の終わりの地獄を目の当たりにして、

 腰が引けん者などおらぬからじゃ。

 この先、ふいにあのような状況に陥るような星に飛ぶ可能性もあるのじゃ。

 一度本気で死にかけるとな、

 それを脅威に思う心が出来上がってしまうものなのじゃ。

 今すぐにとは言わん。

 よくよく考え、各々結論を聞かせてもらうことにした。

 もちろん、今の家人の人員の状況から察して、

 内勤者は大歓迎じゃ」


信長の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「…うちにもいるはずだ…」とゲイルが苦笑いを浮かべて言うと、「…僕は麻痺していると思う…」とゲッタは大いに眉を下げて言った。


「いや、ゲッタ殿は冷静に自分自身を見ておるから、

 まるで問題を感じん」


信長の堂々とした言葉に、ゲッタは笑みを浮かべて頭を下げた。


「ゲッタ殿の生い立ちを観させてもらった。

 我らは肉体的に恐怖を感じたが、

 ゲッタ殿はさらに厳しい精神的な地獄を長い時間経験し見ておった。

 その両方を知った我らには、

 心が折れる者が少なからずいると感じたのじゃ。

 …ま、幻影だけは、またワシに反抗しようとしておるがな…」


信長が言って鼻で笑うと、「いえ、私自身を不甲斐なく思っている最中でございますれば」という幻影の言葉に、誰もが背筋を伸ばして涙を流し始めた。


「お師様! ずっとお側に!」と弁慶が真っ先に言うと、門下生たちは一斉に叫んで幻影に頭を下げた。


「無謀な者がひとりもいなくて、ようやく安心できました」


幻影の穏やかな言葉に、「…さすがお師様…」と信長は真剣な目をして幻影に頭を下げた。


「さらに用心深くなって、

 素晴らしい経験を積めたと感じます」


幻影の言葉に、「…お、おう…」と信長は言って、また幻影に頭を下げた。


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