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赤相棒 akaaibou


     赤相棒 akaaibou



当初からの予定通り、阿利渚の元服の儀が各地で執り行われた。


阿利渚は子供口調だが、大人としての別れの言葉を各地の子供たちにして回った。


よって各地の大名が大いに騒ぎ始めたが、信長の意思により、天雲大名の肩書を返上し、官位をすべて後水尾に返上した。


まさに琵琶家はよそ者扱いとなったのだが、御殿はあるので、近隣住人の生活は何も変わらなかった。


もちろん、ここぞとばかりに各地の法源院屋に、今まで以上に輪をかけた新商品を含めた数々の商品が出回り、琵琶家の恐ろしさをさらに思い知っていた。


法源院屋は一店舗残らず、わずか数日で巨万の富を得ていた。


諸外国でも琵琶家の名は轟いていて、ここぞとばかり琵琶家との面会を幕府に掛け合うのだが、家光は首を縦に振らない。


「かまわぬ、阿利渚の元服の記念の物見遊山として、こちらから出向いてやる」


信長の言葉だけは遮れないので、家光は渋々ながらも頭を下げた。


銀色に輝く船体の宇宙戦艦は、諸外国数国をわずか一日で飛び回って、その力を知らしめた。


実際に争いのある場所は、その武器を粉砕して回ったので、かなりわかりやすかった。


『黄金の国の琵琶家には逆らうな』


この言葉が、全世界共通の合言葉となっていた。


そんな中、幻影は二名を琵琶家に加えることを信長に進言した。


ひとりは佐田与助で、もうひとりは大いに鍛え上げていた大君後水尾だ。


「…おまえ、とんでもなく厳しい性格だったんだな…」


幻影があきれ返って言うと、「日ノ本にはもう未練はない」と後水尾は真顔で言い切った。


「我が萬幻武流派は常に朗らかにが合言葉だ」という言葉に、後水尾は幻影の教え通りに、両方の口角を上げて、微笑んでいるように見せかけた。


「…うん、それでいいさ…」と幻影は言って、後水尾と肩を組んだ。


よって大君の座はほぼ自動的に正子の手の内となり、徳川家康の悲願がついに叶うことになった。



問題があるのは秀忠で、一切何も変わっていない。


よって変わり果てた姿の後水尾の威厳に、大いにうなだれた。


そしてここでも秀忠に衝撃が走る出来事があった。


「あ、俺も連れてって」と守山が満を持してだが、気さくに言った。


幻影に断わる言葉はなく、「ああ、いいぜ」と明るく答えただけだ。


もう下見は終わっているので、守山としては何も不安がなかった。


「仕事に関しては何人かには付き合わせたから、

 思い残すことはなくなったからな」


守山の言葉に、「これからがお前の本当の人生だ」と幻影は明るく言った。


「最後の方は馬も使わないようにしたからな。

 それなりに鍛えたつもりでいるが、

 厳しいだろうなぁー…」


守山は幻影ではなく弁慶を見て言ったが、弁慶は笑みを浮かべて首を横に振っていた。


「だけど、戦艦には乗ったんだろ?」


幻影の言葉に、「ああ、ひとりで自由に飛ばせるようになった日は感動したよ」と守山は遠い目をして言って薄笑みを浮かべていた。


「それだけでも、特殊能力者のようなものだから合格だ」と幻影は笑みを浮かべて言った。


「それがひとつの指標だと理解していた」と守山は感慨深げに言った。


「主要な国を見て回ったが、

 我らの眼鏡にかなう者は誰もいなかったからな。

 最近は漁業に力を入れているから、

 しばらくは専用の動力源を引き受けてくれ」


「ああ、精一杯頑張らせてもらう」と守山は誓いを立てるような顔をして幻影に頭を下げた。


後水尾は大いに焦っていた。


それほど逞しいとは思えない守山のどこにその力があるのか全く分からなかったのだ。


「食う方は?」と幻影が聞くと、「売り上げの低い麺屋から順に貢献したさ」と明るく言うと、幻影は大いに笑った。


江戸近辺に麺屋は二十ほどあるので、少し足を延ばすだけで腹いっぱい食うことができる。


後水尾はさらに焦ったが、ここは積み上げていくことに決めた。


「秀忠はさらに頑張ってくれ。

 次に会う時が、お前のお見送りでないことだけを祈っておこう」


幻影の言葉に、秀忠は今にも泣きそうな顔になっていた。


琵琶家一同は一瞬にしてこの場から消えて、満面の笑みを浮かべているマックラに出迎えられた。


「なかなか追い込むな」と信長が鼻で笑って言うと、「今の秀忠では今世は琵琶家の一員にはなれません」と幻影は真顔で答えた。


「ああ、なれんな」と信長はすぐに答えた。


しかし幻影には考えがあると信長は見抜いて、笑みを浮かべて小さくうなづいた。



「…欲を持つな、ね…」と守山はつぶやきながらも、力強く戦艦を漕いでいる。


今日の本格的な漕ぎ手は守山と幻影、そしてエカテリーナだ。


そのエカテリーナは興味津々で守山を見入っている。


それほど逞しくもない体のどこにこれほどの力があるのか理解不能だった。


「何だ余裕じゃないか」と幻影は言って漕ぐのをやめたが、戦艦の飛行には何の支障もなかった。


「さぼってんじゃねえ」と守山が鼻で笑って言うと、「大丈夫だ、ここに降りるから」と幻影は答えて操舵に集中した。


「…蘭丸とふたりでも、これほど楽ではなかったはずだ…」とエカテリーナは目を見開いてつぶやいたと同時に、五人乗りの戦艦は緩やかに着水した。


その蘭丸は今日も利益に付き添って、武術修行に打ち込んでいる。


「…どんなお魚釣れるかなぁー…」とコロナは陽気に歌うようにつぶやいている。


「釣ってもいいが、今日は投網の方がよさそうだ」と幻影は言って、投網を構えた。


そして投げた瞬間、素晴らしい傘が開いて、コロナは陽気に手を叩いた。


「おい、魚が逃げずに網に寄ってきたぞ!」と守山が叫ぶと、「ああ、そのようだな」と幻影はなんでもないことのように言った。


「…これが当然と理解しておくか…」という守山の言葉に、「結婚してくれ!」とエカテリーナが守山に向かって叫んだ。


守山は魅力的で雄々しきエカテリーナを見入ってから幻影を見た。


「気に入ってくださったんだ、言葉通りにお付き合いだけでもすれば?」


幻影が笑いをこらえながら言うと、「…お断りする言葉はございませんが、しばらくはお付き合いを重ねるということでよろしいか?」と守山は言葉を選んで慎重に言った。


「…うん… それが当たり前だからぁー…」とエカテリーナはこう言いながら、蛸のように身をくねらせて言った。


「知ってるかもしれないが、

 雄々しき火竜様でもエカテリーナさんは気に入らなかったそうだ」


幻影の言葉に、「ある程度は咲笑ちゃんに教わったから、意味は分かっているさ」と全く動じない守山に、エカテリーナはさらに好意をもって顔を真っ赤にしていた。


「…みんな、私のことを怖がるんですぅー…」とエカテリーナが言いつけるように言うと、「…どこが?」と守山がごく普通に聞くと、エカテリーナはついに号泣を始めた。


もちろん幻影は確認を終えていて、守山は何かに覚醒することを信していた。


コロナは満面の笑みを浮かべて、エカテリーナに拍手を送っていた。


「…あ、また失敗したらね、私がもらっちゃうぅー…」というコロナの非情な言葉に、守山は大いに眉を下げたが、幻影は大いに笑っていた。


「…失敗などするわけがねえ!」とエカテリーナは男言葉で叫んですぐに我に返って、また軟体動物になって顔を赤らめた。


「普通で構いませんよ。

 お蘭さんの言動で慣れていますから」


守山の言葉に、幻影だけはさらに笑い転げていた。


「…おー… 普通でいいと真顔で返したやつは誰もいなかったぁー…」とエカテリーナはまだ顔を赤らめたまま雄々しく言うと、「そりゃ光栄です」と守山は言って少しだけ頭を下げた。


「…もう帰ってデートするぅー…」とエカテリーナが言い始めたが、「もう少し手伝って」と幻影は言って、魚の選別を始めた。



投網はもうやめて、釣竿を使って釣っていると、「あなたはダメ!」とコロナが叫んで、タモを使ってやさしく目的の魚を持ち上げて、口から針を素早く抜いて、海に返した。


「…金色だったな…」と守山が落ち着き払って言うと、「この群れを制御している組長、っていったところかな?」と幻影が答えた。


「だが、食って欲しいとは思ってなかったはずだ」と守山が言うと、「また現れると思う」と幻影は言って海面を見たが、もう金色の魚はいなかった。


「…ふむ… 雰囲気はあったな…」とエカテリーナが何かに気付いてつぶやくと、「おや? お知り合いにでも?」と守山が聞くと、「…お兄ちゃんのお嫁さんの人魚…」とエカテリーナは簡単に事実を述べた。


「…竜と人魚、どっちがいいかなぁー…」と守山がつぶやくと、エカテリーナは悲しそうな目をしてからワンワンと泣きだし始めたので、「冷酷過ぎるやつでごめん!」と幻影が叫んでエカテリーナをなだめ始めた。


「欲張るわけじゃないが、

 エカテリーナ様ほどのお人が惚れてくれたんだ。

 人魚に惚れられないとは限らないだろ?

 ほら…」


守山の言葉に、わんさかと魚影が見え始めたので、「…退却だ…」と幻影は言って戦艦を宙に浮かべた。


大人の漕ぎ手はすぐに席に座って雄々しく漕ぎ始めた。



「幸運もありましたが、守山殿のおかげもあったかと」


幻影が信長に報告すると、「…ふむ…」と信長は言って珍しく考え込んだ。


今まで魚が釣れ続けていたのは、守山への貢ぎ物ではないのかと幻影は言ったのだ。


もちろん結果的にこうなったわけだが、遅かれ早かれ守山が琵琶家に合流することは決まっていたようなものだ。


何かを切欠にして、魚たちの親玉が守山を望んでいたことではないかと推測していた。


「最後の魚影は少々怖いものがありました。

 下手をすると、海に引きずり込まれていたかもしれません」


「守山を連れて来いなどと命令でもあったのかもな」と信長が鼻で笑って言うと、「竜宮城には興味ありますね」と守山が言ったので、信長と幻影は大いに笑った。


心中穏やかではないエカテリーナは蘭丸に慰められていた。


「手足を切り落として動けなくしてやってもいいんだ」


蘭丸の過激な発言に、「…さすがにそれは嫌われちゃうぅー…」とエカテリーナは少女のように言った。


「…むむ、竜宮城… 竜の宮… まさか水竜か…」と蘭丸がうなると、「ああ、あり得る話だ」と幻影は答えた。


「…お婆様以外の水竜は大したことないぃー…」とエカテリーナが少女のように言うと、「ですが、大いに興味はあります」と守山が言うと、エカテリーナはすぐさまうなだれた。


「マリーン様でしたらご存じでしょう」


幻影の言葉に、「呼ばれましたわね?」と言って、マリーンが廊下に姿を見せて、素早く歩いてお茶うけを食べ始めた。


ハイネがすぐに最高級のお茶を出すと、「あら、ごめんなさい、ありがとうございます」と礼を言ってから香りを味わって口に運んだ。


「…竜じゃないってぇー…」と咲笑が報告すると、マリーンが勢いよくお茶を噴き出した。


「…どんな欲をお持ちなんですか…」と幻影が眉を下げてマリーンに聞くと、「…お刺身食べたぁーい…」と世間の一般的な欲を言ったので、幻影は愉快そうに笑った。


よってマリーンを夕餉に招待することに決まって、マリーンは海の主について話をした。


「…デルラード… 怪獣の名のようですが…

 …あ、ポポタール…」


幻影の言葉に、「神獣ですわ」とマリーンは薄笑みを浮かべて答えた。


「順当にいけば水竜に属する竜となるでしょう。

 ですが神獣も竜が侮れないほどの強さや、

 多彩な術を持っている場合もあるのです。

 ポポタールなどその代表格ですわ。

 デルラードはへそを曲げていたので、

 こちらからは接触しなかったのです。

 彼女はこの星の生まれではありませんが、

 この星の大昔の海を愛していたようです。

 そしてご存じのように海を汚されて魚たちに知恵を授けました。

 ですが琵琶家の方々の出現に、

 今度はデルラードが出現するようですわ」


マリーンの駄洒落のような話し方は無視して、「騒ぎになる前に会いに行った方がよさそうですね」と幻影が真剣な目をして言うと、マリーンは薄笑みを浮かべてうなづいた。


「…彼女… 女性、ですか…」と守山がつぶやくと、「彼女の声が聞こえるのでは?」とマリーンが守山に聞くと、「…はあ、なんとなくなのですが…」と守山は言ってから、姿勢を正してから瞳を閉じて集中した。


そして一瞬眉間にしわを寄せて、「…わかりました…」とつぶやいて瞳を開いた。


「海に引きずり込んでやるから水辺にこい、だそうです」


守山の言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「指示はされなかったがひとりで行ってくる。

 一番小さい船を貸してくれ」


守山の言葉に、「悪いが立ち会う」と幻影が言って立ち上がると、「…嫌がりそうだが、それも一興…」と守山は言って笑みを浮かべて立ち上がった。


「…こんなに度胸のあって、豪胆な人は知らないぃー…」とエカテリーナは懇願の眼を守山に向けていた。


「…幻影に仕込まれたようなものだ…

 その期間は四十年だからな。

 普通の鍛え方ではない。

 もっとも、出会った頃は心の内も普通の人間だった」


蘭丸の言葉に、エカテリーナはさらにうなだれていた。


これほどに大切に育てられた例を知らなかったからだ。


「弁慶、我らも行くぞ」と信長が言って立ち上がると、琵琶家一同も素早く立ち上がって笑みを浮かべた。


信長は家臣たちを見回して、「楽しそうで何より」と笑みを浮かべて言って、堂々と廊下に向かって歩いた。



「…予想外にも笑みを浮かべて手を振っていたな…」と守山は言って、指示された場所の岩場を見て言った。


そこには遠目で見てもごく一般的な人間の女性がいる。


「…感情としては、俺を嫌がっている程度で普通だ…」


幻影の言葉に、「…そこまで細かくわかるものなんだな…」と守山はうらやましそうに言って、岩場の近くの平らな場所に操舵して、戦艦を降ろした。


守山はすぐさま外に出たが、幻影は戦艦内に留まった。


どう考えても、相手は守山を抹殺しようなどとは考えてもいなかったからだ。


「あら? やっぱり琵琶高願はすごいわね!」と女性が言うと、「珍しく緊張していました、守山兵衛と申す」と守山は言って素早く頭を下げた。


「…残念ながら私には名前がないの…

 種族の種類としては神獣で、デルラードと呼ばれているわ…

 名前じゃなくてよかったって感じ…

 宇宙の創造神って知ってる?」


「ええ、その程度の知識は昨日のうちに。

 この星に住まわせてもらうので、

 常識として必要ですから」


「お勉強もできそうだわ。

 …私、あなたに興味があってついふらふらと…

 あの女の子もすごいわ…」


守山はコロナが釣った金色の魚が彼女だろうと常識的に考えたが、わずかばかりに疑っている。


「あなたはそれほど迂闊ではない。

 あの魚は、我らの存在に酔っていたはずだ」


守山の言葉に、「…ほんと、普通の人間でこれほどの人がいるだなんて…」と女性は言って悲しそうな目をした。


「能力者はたくさん見てきたけど、

 私には魅力はなかった。

 …ああ、煌極さんは別だけど、

 私なんかよりもすごい人がお嫁さんになっちゃったからなぁー…」


女性は言って大いにうなだれた。


「ほかにも求愛してくれる女子がいます」


「…知ってるぅー…」と女性は顔を上げて言ったが、その眉は大いに下がっていた。


「できればまずは私自身がどこまでできるのかを見極めたいのです。

 伴侶探しは二の次にしたいのです。

 それが私がここにやってきた最大の理由です」


守山が言うと、「…女にうつつを抜かしている暇はないって言わないのね?」と女性が愉快そうに言うと、「そのような言葉は持ち合わせていませんでした」と守山が答えると、女性は大いにホホを赤らめて、腰をねじって恥ずかしそうに守山を見た。


「…また逢って下さる?

 都合がいい女でも構わないの…」


女性の言葉に、守山は大いに笑った。


「そんなことをすれば、私は確実に抹殺されるでしょう!」と愉快そうに叫んだ。


「時間はかかるかもしれませんが、

 誠実な対応をもって決めさせていただきます。

 できればこれ以上は増えないでいただきたいのですが…」


守山は眉を下げて、銀色に輝いている宇宙戦艦を見上げた。


「…強烈な人がふたり…」と女性はつぶやいて大いに眉を下げていた。


「…そのうちのひとりが、朝餉の際に大いに甘えて来ました…」と守山は眉を下げて言った。


「…子供の姿の方がよかったのかも…」と女性は言って眉を下げた。


「連絡方法を教えていただきたい」


「安土城に日が差したら念話をするわ」と女性が答えると、守山は笑みを浮かべてうなづいた。


「あなたもいろいろとご存じのようですね。

 相当に琵琶家のことも調べ上げたようだ」


「…鳥たちってね、みんな物知りなの…」と女性は笑みを浮かべて答えると、守山は納得して何度もうなづいた。


「あなたを何とお呼びすればいいのでしょうか?」


「決めて!」と女性はこの問いかけを待っていたようで、すぐさま叫んだ。


「いえ、それはしない方がいいでしょう。

 あなたの名を決めると、

 強制的にあなたの伴侶となるような気がするのですが?」


「…うう… それはないけど、なかなか手ごわい… さすがだわ…」と女性はつぶやいた。


「では、本来の姿をお見せ願いたい。

 まずは見た目で、あなたのあだ名を決めたいので」


「…さらに物知りだったわ…」と女性は言ったが、明るい笑みを浮かべて、振り返ってから海に飛び込んだ。


もちろんその姿は見えなくなったが、すぐに何かが浮かんでいると思い、守山は三歩近づいて笑みを浮かべた。


「首長竜ですか…」と笑みを浮かべて言うと、『ギャオゴワッ!!』と頭だけが確認できた海獣が、意味不明の鳴き声を上げた。


守山に首長竜の知識まであるとは思いもよらなかったようだ。


この件については、恐竜の化石についての知識があったからで、それほど不思議なことではない。


「だけど、海と一体化しているように鮮やかな色ですね」


首長竜の体色は濃い水色に薄い緑を混ぜたような色だった。


「今の段階で、私があなたの伴侶にふさわしいとは思えない」


守山の言葉に、また首長竜は鳴いたが、すぐに人型に戻って岩場に姿を見せた。


まさに自力で宙に浮かんだといっていい。


「もちろん、私に求愛してくださった女性もあなたと同様のことが言えます。

 ますます、この先の私を見てみたくなった」


守山は明るい笑みを浮かべて言ったが、「…ずっと、近くにいたいのに…」と女性は言ってうなだれた。


「焦っても徳はないでしょう。

 あなた方の足元に及ぶようになれば、

 分け隔てなく精査させていただきますから。

 気長に、首長竜のように首を長くして待っていてください」


守山の少し冗談めいた言葉に、女性は愉快そうに笑った。


「…あ、あだ名だ…」と守山は言って考え込んで、「…翡翠、などいかがでしょうか… あなたの体の色から連想しただけですが…」と守山が言うと、「ヒスイを本名にする!」と女性は叫んだが、守山が大いに苦笑いを浮かべていたので、「…あだ名でいいですぅー…」と大いに眉を下げて言った。


「…琵琶高願様が、すっごく怒りだしそうでしたのでぇー…」


翡翠が大いに嘆くと、「あいつは怖いやつなので気を付けた方がいいです」と守山は言って鼻で笑った。


「だけどあいつのおかげで俺はここまで来られた。

 そして、大いに格上の女性にまで好意を持ってもらえた。

 あいつには感謝しかないのです」


「…そのお言葉だけでも、すっごく理解できましたぁー…」と翡翠は眉を下げて言って頭を下げた。


「幻影! これからの予定は?!」と守山が叫ぶと、「夕餉の食材集め!」と幻影は叫び返した。


「では、仕事に行きます」と守山は言って翡翠に頭を下げた。


「朝に!! …念話、するから…」と翡翠は消え入りそうな声で言ったが、「はい、待っています」と守山は堂々と言って頭を下げて、戦艦に乗り込んだ。


「…首長竜だったぁー…」と守山が今更ながらに大いに嘆くと、幻影は愉快そうに笑って、雄々しく漕いで、戦艦を宙に浮かべた。


守山も漕ぎ始めると、宇宙戦艦も移動を開始して、安土城に向かって飛んだ。



「…俺が先に見つけたのにぃー…」とエカテリーナが悔しそうにうなると、「早いもん勝ちだったら、確かに、俺はエカテリーナ様のものだね」という守山の明るい言葉に、「…お兄ちゃんも」とエカテリーナは言って口をふさいだ。


「ふーん… 聞かれちゃまずいことをついつい言っちゃったわけだ」


守山の言葉に、「仕事だ仕事!」とエカテリーナは叫んで、守山と幻影を急かせて、戦艦に乗せようと迫ってきた。


「…今日は釣りに行くってぇー…」と蘭丸が言って利益とともにやってきた。


「今日は居残りでいいぜ」という幻影の言葉に、守山は、「そりゃ残念」と言って、弁慶に頭を下げながら歩いて行った。


「…乗れるじゃあねえかぁー…」とエカテリーナが大いに叫ぶと、「収穫物をそれほど乗せられなくなるからな」と幻影は常識的見解を述べると、「…ううう…」とエカテリーナはうなるしかなかった。


「…じゃ、じゃあ、俺たちも居残りでぇー…」と言ったが、「守山を呼び戻すだけ」という幻影の言葉に、「…意地悪なやつだぁー…」とエカテリーナがうなると、幻影と蘭丸は愉快そうに笑った。



今回は近場はやめて、まだ行ったことがない、安土城の真裏に飛んだ。


もちろん、いい予感がしないからだ。


「へー… こっち方面はかなり田舎だなぁー…」と幻影は機嫌よく言って、適当な海面に戦艦を降ろした。


「…やはり、寄ってくるんだね…」と幻影は言って、戦艦が魚影に包囲されているように感じて、ゆっくりと北に進路を取って移動を始めた。


さすがに寒い場所が苦手な魚も多いようなので、魚影が半分に減った。


「じゃ、釣るぜ!」と幻影は威勢よく言って、釣竿を手に取って糸を投げ入れた瞬間に食いついてきた。


釣り上げると、「お! 初めて見た!」と幻影は大いに喜んで、咲笑に分析を頼んだが、また糸を垂らした。


「…おいしそうな鰤ですぅー…」と咲笑はよだれを垂らす勢いで言った。


「じゃあ、刺身でいいな!

 仕上げは出汁茶漬けだ!」


幻影は陽気に言って、それなりの量の鰤を吊り上げて、必要量は十分に釣れた。


すると、とんでもない魚影が見えたが、それほど速力は早くない。


「…やっぱ、首長竜が来た…」と幻影が眉を下げて言うと、エカテリーナがすぐさま緑竜に変身して、かなり離れた場所で、竜と神獣の怪獣大戦争が勃発した。


「怪我させるなよ!」と幻影が叫ぶと、双方の動きが止まった。


ここは痛み分けとしたのか、緑竜はエカテリーナに戻って、空を飛んで戦艦に足をつけた。


「…燕さんに引けを取らないね…」と幻影が眉を下げて言うと、「…お、おう…」とエカテリーナは答えて大いに照れていた。


「守山が戸惑って当然だよ。

 詳しい話を聞くと後々の楽しみが減るけど、

 度が過ぎれば口出しさせてもらうから」


「…お、おう… わかった…」とエカテリーナは少しうなだれ気味に答えた。


「守山は来てないぞ!」と幻影が叫ぶと、首長竜はその体の半分を晒し、翼があることまでは確認できた。


そして長い首を天に向け伸ばして目を見開いて幻影たちを見ている。


しかしすぐにうなだれるように首をもたげて、そのまま体を海に沈めて行って、大きな影が消えた。


「…なんだかかわいそうに思えたな…」


「…俺にも同情してくれぇー…」とエカテリーナは言ったが、「陸で共に暮らせるんだから、それは贅沢だろ?」という幻影の言葉に、もっともなことだったので、エカテリーナに返す言葉はなかった。


「人型をとっても、陸では暮らせないんだろうな。

 安土城の庭園の池をでかくすれば来るかも…」


幻影の言葉に、エカテリーナは目を見開いて、両耳を両手のひらでふさいだ。


「だけど、母ちゃんも守山をまた狙い始めたからな。

 こっちの方がさらに強敵だぞ」


「…ヤマとは、うまくいかなかったのか…」とエカテリーナが嘆くと、「二股」と幻影は眉を下げて答えた。


「…妙栄尼様はおいたが過ぎる…」とエカテリーナが何とか言うと、「いい相手がふたりも現れたら目移りするのも当然だ」と幻影が答えると、「…もう帰るぅー…」とエカテリーナが言い始めたので、船内を手早く片付けてから、安土城に戻った。



工房前の広場では、大勢の女性たちが正座をさせられていたので、幻影は指を差して大いに笑った。


確実に弁慶の言いつけのはずで、守山の修行の邪魔をしたのだろう。


信長もここにいて、大いに眉を下げていたからだ。


守山は男性たちに守られるようにして工房から出てきたので、「首長竜が出たぞ!」と幻影が叫ぶと、守山は眉を下げて頭を下げた。


「だが、夕餉はまた豪勢なものになるはずだ!

 さあ! 仕込みをしようか!」


幻影は陽気に言って、戦艦から廿楽を五つ下ろした。


正座組が立ち上がらないので、弁慶の厳しい沙汰があったのだろう。


「…だから、ダメって言ったのにぃ…」と阿利渚が眉を下げて言うと、「…私も気をつけなきゃ…」と桃源は眉を下げて言って、利益を見てホホを赤らめた。


「守山さん、ほんとに決めてないよ?」と阿利渚が幻影に報告すると、「まずは自分自身を鍛え上げて成果が出てからの話だ」という幻影の言葉に、「…そうだよねぇー…」と阿利渚は眉を下げて言った。


「…何も聞かれていないのに、親子で俺の恋愛診断をしないで欲しいものだ…」と守山が眉を下げて言うと、幻影と阿利渚は愉快そうに笑った。



鰤はかなりうまいもので、法源院屋がかなりの高値で仕入れたことで、琵琶家はまたひとつ金持ちになった。


とはいえ、値段はキングの百分の一ほどなので、それほど高いわけではないが、今回は量が多い。


もちろん麺屋では早速話題になっていて、今日だけの特別奉仕品となっていて、店内は観光客と現地住民でごった返した。


ここでは寿司として出したので、誰もが手の届く料金となっていて、うまい鰤の寿司に大いに舌鼓を打った。


この情報が全世界に広がるのは一瞬だった。


情報網の伝達速度にも長けているこの世界は、通信機などを使っての交流や情報収集がたやすい。


よって安土城下を目指して大挙してやってきたのだが、門前払いが続出した。


この件だけは理解をしていないと、末端の警護の者や警察官は眉を下げていた。


欲に目が血走っていては、騒ぎの引き金になりかねないので、城下への立ち入りの許可は下りない。


よってわずかに物見遊山の者たちが増えた程度で、安土城下は平穏そのものだった。


西の町の法源院屋にも鰤は出ていないので、騒ぎが起きそうだったが、タルタロス軍が目を光らせていたので、騒ぎが起こることはなかった。


そして酷なことに、琵琶家の監修で放送局が生放送を企画して、全世界に鰤のうまさが伝えられた。


放送局としては多くの人に番組を見てもらえればそれでいいので、番組の運営提供者のホホが緩んだだけに留まった。


漁業の協会関係者が報道の矢面に立ったのだが、「…あのような素晴らしい魚は、キングよりも見たことがない…」と嘆くばかりだ。


この星は海産物に大いに注目したが、全くといって手に入らない代物なので、この報道は絵に描いた餅のようなものになってしまった。


欲をもって漁に出るわけなので、魚影を確認することすらできないのだ。


撒き餌を使っても効果はなく、ほとんど収穫を上げることなく港に戻るしかなかった。



「…面白い進化をさせたものだね…」と守山は報道を見ながら眉を下げ、うまい鰤の刺身を口に運んだ。


「…このままでは翡翠に負けてしまうぅー…」とエカテリーナがうなると、「美的感覚的にはエカテリーナ様の勝ちです。本来の姿も、今の姿も」という守山の希望ある言葉に、エカテリーナは大いに喜んで全身に気合を入れて、「よっしゃぁ―――っ!」と機嫌よく叫んだ。


「…あ、あとは女の武器を使ってぇー…」とエカテリーナが大いに照れながら言い始めると、「その部分は俺の修行です」と守山に言われてうなだれた。


「…守山様ぁー… お刺身食べさせてぇー…」という甘い声の誘惑に、守山は笑みを浮かべてまるで餌付けのように、天使たちに食べさせて回った。


まさに無垢な気持ちで守山に好感を持っているだけなので、誰も何も言えなかった。


もちろん怒ることも厳禁なので、見て見ぬ振りをするしかなかった。


「…ここは仕方ないぃー…」とエカテリーナはうなり声を上げてある服を着て、天使たちの仲間入りを果たした。


だが、「黒いものが渦巻いている天使は天使じゃない」と守山に言われて、幼児の肉体となっていたエカテリーナは大いにうなだれた。


「だが服は脱げないから、

 守山の許容範囲の方が問題なんじゃねえの?」


幻影の言葉に、「…ふむ… ここは詫びとして…」と守山は言って、幼児のエカテリーナに刺身を食わせると、「おいち!」と叫んで夢見心地となって眠ってしまった。


天使たちが眉を下げて、エカテリーナを拝み始めたので、「死んでないぞー」と幻影は言って愉快そうに笑った。


エカテリーナはぱっちりと目を開いて、「幸せぇー…」と言って手を組んで自然界に感謝した。


「…今の感謝の念は、お母様に叱られたようでした…」とお呼ばれできていたマリーンは大いに眉を下げて言った。



いつもに増して陽気で穏やかな夕餉を終えた琵琶一家は、自由時間に突入した。


しかし守山は真摯な気持ちで修練に打ち込み始めたので、邪魔をすることはできない。


守山は武術は不得意だが覚えることはたやすい。


よって萬幻武流の基本の型を簡単に覚えて表現していく。


忍び資質はないのだが、覚え込んで体を動かすことで、まるで忍びのように動きが軽やかに変わる。


まさに自在型の素晴らしい資質に、信長は笑みを浮かべてうなづいている。


馬術はもちろんのこと、武器術には元から長けていたので、現時点でも師範代に近い存在となっていた。


「もう私の手を離れました」という弁慶の言葉に、「…早かったな…」と信長は眉を下げて言った。


「我が萬幻武流では最短ですが、

 基礎基盤が仕上がっていたといっていいほどですので。

 あとは師範代試験に合格すればいいだけです。

 ですがこれほどに均整の取れた猛者は初めてだと思います。

 しいて言えば、信幻に近いものがあります」


弁慶の言葉に、「…ああそうじゃ、知っている者を見てる気分になっていたが、信幻じゃったか…」と信長は納得して言って、何度もうなづいた。


まさに貴重な自在型で、源次もこれに近いものがある。


萬幻武流の神髄は、均整がとれていることが重要な流派でもあるのだ。


弁慶は偏りが多いのだが、全てにおいて群を抜いているので全く問題はなく、特殊な猛者の部類に入る。


免許皆伝をもらった者は、得意分野を延ばすことがこの先の自分自身の修行となる。


よって均整がとれている場合はすべてを延ばしていくので、成長は遅いのだが、土台がさらに安定することにもつながる。


守山は大いに手ごたえを感じて、笑みを浮かべて付き合った仲間たちとともに銭湯に行った。


「…俺も、萬幻武流に…」とエカテリーナがうなると、「それでいいはずだぜ」と蘭丸がすぐに答えた。


「…覚えるのが大変だが…」とエカテリーナが眉を下げて言うと、「体に覚え込ませればいいだけだ」と、その道を歩んだ蘭丸が堂々と言った。


「毎日やっていたら、

 一年もしないうちに体に浸透して型が浮かぶように変わった。

 ひとつひとつしっかりと反復することが重要だ」


蘭丸はその言葉を証明するように、型番号を叫びながら、長木刀を振り回した。


まさにこの動きが芸術品で、エカテリーナは大いに感動していた。


しかしエカテリーナはその木刀自体に目を奪われていた。


「練習用の木刀だよな?」とエカテリーナが長木刀を見入って言うと、「これは彫りものではない」と蘭丸は言って、エカテリーナを専用の一角に連れて行って、巨大な四角い岩を準備した。


そして蘭丸は彫り物がない長木刀を手に取って、岩の前で身構えた。


「…そこでは届かない…」とエカテリーナがつぶやいた瞬間に、「キエェ―――ッ!!!」と蘭丸は気合の奇声を発して、木刀を上段からまっすぐに振り下ろした。


すると、『バフ』という音がして、岩の板が地面に倒れた。


エカテリーナが目を見開いていると、蘭丸が木刀を見せた。


「…そういうことか…」とエカテリーナは言って、剣風が木刀の刀身を削ったと理解した。


「二回目からはさらに振りやすくなるが、

 何度もやってると木刀が折れる」


蘭丸は言って、わらわらと長木刀を出して、今までの成果を披露した。


「…剣風で刻んだ彫刻だったのか…」とエカテリーナは言って真剣な目をして新しい長木刀を手に取って、岩に体を向けて上段に大きく振りかぶった。


そして、「キエェ―――ッ!!!」と気合とともに振り下ろしたが、岩は切れなかった。


「いや、十分だ」と蘭丸は言って岩に近づいて、エカテリーナに手招きした。


エカテリーナが岩に目を凝らすと、「…斬れている…」とつぶやいて大いに眉を下げてから木刀を見ると、かすかに彫刻が浮かび上がっていた。


「この奥義ができるのは俺と幻影だけ。

 エカテリーナはもうすでに免許皆伝だ」


蘭丸の言葉にエカテリーナは大いに喜んだが、「基本から教えてくれ!」と叫んで頭を下げた。


「ああ、明日からな」と蘭丸は言って、切れかかっている岩を完全に斬り落としてから、工房に持って入った。


「土木作業の材料でもあるからな。

 これが俺の仕事でもある」


蘭丸の言葉に、「…ああそうだ、排水用の溝の蓋だ…」とエカテリーナは思い出して、とんでもない量の岩を斬っているとすぐさま察して、「さすがお師匠様」と言ってにやりと笑うと、「今では退屈な仕事だ」と蘭丸は答えてにやりと笑った。



「…あの岩、斬ったの?」と守山が目を見開いてエカテリーナに聞くと、「…女の子らしくなくてごめんなさいぃー…」と大いに照れて言うと、蘭丸だけが愉快そうに笑っていた。


「面白くないからもう帰ってもいいよ?」と幻影がにやりと笑ってエカテリーナに言うと、「…まだ免許皆伝じゃあねえー…」と大いにうなった。


「…修行を逆から熟すとは、恐ろしいやつじゃ…」と信長は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「修行の度合いにもよるだろうけど、

 エカテリーナさんはゲイルさんの一歩前に出たと思う。

 免許皆伝となれば、どれほど急いでもゲイルさんは追いつけないはずだ。

 目標としては重要なことだから、

 ここは真摯に修行に明け暮れて欲しい」


幻影の師匠らしい言葉に、エカテリーナは真剣な目をして頭を下げた。


「…初めて、ゲイルに勝てるぅー…」とエカテリーナがうなり声を上げて大いに喜ぶと、「…真摯にと言われたよな?」と蘭丸が現実に引き戻すと、「…しまったぁー…」とエカテリーナは言って守山を見た。


「いや、本当にすごいと思ってるよ」という守山の気さくな言葉に、「…結婚してぇー…」と大いに眉を下げてつぶやくと、守山は愉快そうに笑った。


「俺たちがいた世界ではそれはありだけど、

 今は目標があるからね。

 それが終わってから返事をするよ」


「…あ、強引に手籠めに…」とエカテリーナがホホを赤らめて言うと、「家同士が決める婚姻がほとんどだから、結婚する者同士の同意は滅多にない風習だ」と守山が答えると、「…それを発動したいほどだぁー…」とエカテリーナは悔しそうにうなった。



「…おや?」と幻影が南の空を見ると、誰もが一斉に同じ方向を見た。


ひとりの女性が空を飛んできて、そして墜落するように素晴らしい庭園の池の中央に突っ込んだ。


そして申し訳なさそうな顔をしている水色を基調とした鮮やかな首長竜が、その巨体の半分ほどを晒している。


「…素晴らしい築山じゃ…」と信長が感慨深く言うと、幻影は腹を抱えて笑っていた。


「おまえはずっとそこにいろ!」と幻影が叫ぶと、首長竜は首を伸ばして超高速で首を横に振った。


「あれが神獣デルラード。

 あだ名は翡翠です」


幻影の言葉に、「…なかなかのものだ…」と信長はうなづきながら穏やかに言った。


そして信長の鶴の一声で、庭園をさらに広げることに決まった。


さらにはマリーン、極、燕も眉を下げてすっ飛んでやってきた。


しかし、翡翠のために造園工事を始めたので、マリーンが口出しをすることはなかった。


そして観光客たちは一斉に逃げたのだが、悪いものではないらしいと思い戻って来て、現在は工事中の庭園の中央にいる首長竜を見入っている。


圧倒的に水量が少ないので、池を掘り下げた。


その土砂を利用して、平地の空き地だった部分に山に近い丘を作って、水を含ませるように工夫をして、幻影が試しに雨を降らせると、いい塩梅に巨大な池に雨水が溜まっていく。


井戸を使っている場所も多いので、その状況を確認したが、ほとんど問題はなかった。


庭園は少し大きな運河も景色の中に溶け込んで、さらに素晴らしいものに変わっていた。


南側には農地があるので、これでさらに水不足の心配をしなくても済むようになる。


エカテリーナは蘭丸の雄々しさをさらに知って、側溝の蓋を効率よく運んで行く。


蘭丸がふたりになったようなものなので、作業は今までにないほど円滑に終えることができそうだ。


よって女性たちが少々疲労過多になったが、信長がすぐに察して、名指しで銭湯に行かせた。


よって、名前が上がる順に修行不足だと言われたようなものだ。


もちろん男子もその洗礼を受け始めたが、新参者の守山は余裕の笑みを浮かべて、出来上がった丘の植林作業に従事している。


信長はゆっくりと辺りを見回して、「全員! 風呂に行くぞ!」と叫んだ。


すると守山は大いに全身に力を入れて気合を入れ、大いに喜んだ。


そしていきなりふらふらになったが、歩くことには支障はないようで、自分自身の力で銭湯にたどり着いて、復活を果たしてさらに喜んだ。



風呂から出ると、女性だけの人だかりができていて、その中心には人型を取って眉を下げている翡翠がいた。


もちろん、挨拶の最中だったわけだが、守山を見つけた翡翠はさらに眉を下げて守山をみつめた。


「…ふーん…」と守山は言って幻影を見たが、その視線を信長に移した。


その信長はにやりと笑ってからすぐに翡翠を見て、「迷惑をかけてくれたもんだ」と言うと、翡翠は大いに慌ててひたすら頭を下げて謝った。


「言っとくが、俺も叱られたも同然なんだぜ」という守山の言葉に、「…本当に反省してますぅー…」と翡翠はついに涙を流してさらに反省しきりとなっていた。


「…ま、それほど叱ったという意識はないんだがな…

 巨大な築山が、この地の平和の象徴にもなりそうじゃからな」


信長が翡翠を景色の一部として言うと、「…あまりうろつかないようにして、景色の一部としても過ごしますぅー…」と翡翠は大いに眉を下げて言って、深々と頭を下げた。


「…なんだか、後れを取った気分だぁー…」とエカテリーナがうなると、「緑竜は出来上がった丘の上にでもいればいい」と信長が機嫌よく言うと、エカテリーナは緑竜に変身して、信長の言葉通りにした。


「…おお… 溶け込んだなぁー…」と信長は機嫌よく言ってから、「もうよいぞ!」と叫ぶと、緑竜はエカテリーナに戻って、「…助かったぁー…」とうなりながら戻ってきた。


「この近隣はさらに平和になることは間違いないでしょう」


幻影の言葉に、信長は何度もうなづいてから、「夕餉じゃ!」と陽気に叫んで、本丸に向かって歩いて行った。



翡翠は半日ほどなら人型を取っていられるようだが、できれば水辺にいた方が安心すると語った。


翡翠の世話係は、阿利渚たち子供が受け持っているが、女性たちも大いに世話を焼く。


まさかこれほどの歓迎されるとは思っていなかったのか、翡翠は戸惑ってもいたがいい時間を過ごしていた。


「海の平和は守らなくてもいいのかい?」


幻影の言葉に、誰もが翡翠に注目した。


「彼ら自身の本能で生活していますし、

 人間たちは無謀なことをもうどこもやっていませんから」


翡翠は眉を下げて答えた。


「あんたほどの力があるのなら、

 多少は力的に抵抗してもよかったように思うんだけど?」


「この星は私の星ではありません。

 ですが、黙ってもいませんでした」


「それが、人間の欲を大いに察知する海洋生物の進化」


「はい、そうですぅー…」と翡翠はほっと胸をなでおろすように答えた。


「だったら、この星から旅立ってもよかったと思うけど?

 それに、マリーン様やタルタロス軍の誰かと話をすることもできたはずだ」


「私の星ではありませんが、

 故郷ではあるのですぅー…

 そして今回こそは、

 誰にも頼らずにひとりで生きて行こうと決めてましたぁー…」


「…ふむ…」と幻影はうなって、様々なことを考え始めた。


翡翠の話の内容と現在に矛盾していることが多いし、翡翠の過去を詳しくじっくりと知ることが必要だ。


「結果的に人前に姿を見せたのは、

 頼らずに生きてきたことで、

 そのご褒美がもらえることになったわけかい?」


幻影の色々と説明をすっ飛ばした言葉に、誰もが目を見開いていた。


「…はい… そうですぅー…」と翡翠は恥ずかしそうに言って、守山を見てすぐに視線を幻影に戻した。


「それが結論じゃったわけだ。

 ここにいないと褒美は出ない。

 ここでしか、有益になるものを得られない。

 それは、マリーン殿に関係することじゃな?」


信長の言葉に、「…はい、そうですぅー… 教えてくださったのは、ポポタールですぅー…」と翡翠が答えると、大いに納得はできたが、誰もが眉を下げていた。


「翡翠は宇宙の創造神と話しができるほどの人だというわけだ。

 我らの世界に例えると、

 農家の大いに見込みがある幼児に将軍が話しかけるようなものだ」


考えが不器用な者でも、こう言われるとよく理解できる。


その証拠に、蘭丸とエカテリーナが大いにうなづいていた。


「…マリーン様の過去の関係者が現れると、

 私だったらすぐにわかるって言われてぇー…」


翡翠は言って、守山を見入った。


「…この守山に何が見えるのか教えてくれないか?」


幻影が聞くと、誰もが固唾をのんだ。


その中で、守山は真剣な目をして翡翠を見ている。


「マリーン様の紋章を施した盾ですぅー…」


翡翠が答えると、「あーあ…」と幻影が大いに嘆いた。


守山はひと言苦情を言いたかったが、幻影にあたってもどうしようもないと思ってうなだれた。


「…となると、鉾は煌極様?」と幻影が聞くと、「…はい、そうですぅー…」と翡翠は答えた。


「鉾と盾には台座があって、

 鉾には閃光燕、盾には私が…」


「…その証拠が見えるからこそ、翡翠も自然界を守る神側の存在ということか…」


幻影はつぶやいて何度もうなづいた。


「…となると、一番肝心なことだ…」と幻影が小声で言うと、翡翠はすぐに手のひらで耳をふさいだ。


「…なぜ拒む?」と信長が怪訝そうに言うと、「婚姻とは何ら係わりのない話だからです」という幻影の言葉に、「そういうことかっ!」と信長は叫んで大いに笑った。


「となると、だな…」と幻影は今度はエカテリーナを見ると、エカテリーナも手のひらで耳をふさいでいた。


「この物語の筋書きに従うとして、

 守山はマリーン様の盾として、大神殿で暮らすことになる。

 だからほかの星に婿には行けない。

 もちろん、エカテリーナはこの星に移住をするわけにはいかない。

 だが、遠距離結婚でもいいのなら、できないわけではない」


幻影の言葉に、「…さらに、いい方法を考えるぅー…」とエカテリーナは大いにうなった。


「…どちらにしても、その自覚が沸いた時に決める…」


守山の言葉に、「それがいいし、できれば断わってくれ」という幻影の言葉に、守山は目を見開いてから、笑みを浮かべて幻影と信長に頭を下げた。


「…あ、今のは俺の欲だから、

 都合のいいように逃げ道を考えてくれ」


幻影が言いかえると、守山は大いに眉を下げて、「…一緒に考えて…」と懇願した。


「…魂はひとつだから、マリーン様の信頼できる部下という位置だろうなぁー…

 …従わせることができる術をマリーン様が持っている、とか…」


幻影の言葉に、今度は守山が耳をふさいだ。


「…マリーン殿が何も言わんのは、

 まだ守山が覚醒しておらんから…

 だが覚醒すれば、忠誠心にあふれるのであろうなぁー…」


「守山の今までの仕事に大いに関係はあるようです。

 どんなものでもまず疑ってかかり、真実を見抜く思考と行動力と知識」


「…さもありなん…」と信長は言って何度もうなづいた。


「…俺は覚醒するまでが、俺なんだな…」と守山は大いに嘆いた。


「問題は覚醒の方法だ。

 生のまま覚醒すれば人生は引き継がれるから、

 抗う手はあるはずだ。

 しかし転生の場合は、

 記憶は残っても死を迎えることになるから、

 現在は一代前の記憶になる。

 よって、マリーン様に従いたいという意思が大いに沸くと思う」


「…似ているようで違う… 納得した…」と守山は言って幻影に頭を下げた。


翡翠は心の中で大いに嘆いていた。


幻影の言ったことはすべてが真だ。


燕は婚姻する相手を極だけと決め、猛烈に存在感を知らしめて、伴侶という地位を獲得したに過ぎなかった。


燕はマリーンの母として数万年前からここに住んでいる。


そのマリーンも、極を伴侶として狙っていたのだが、これには制約がありできなかった。


マリーンと極は、赤の他人だが姉弟という事実を知ったからだ。


さらにはお互いの中にもうひとりいて、全てを監視してる。


一番安寧に暮らせる伴侶は、きちんと存在していたわけだ。


その道を作ったのが、前の自然界の神のスイジンだ。


まずは資質のある男女二名ずつを選定して育て上げ、同性同士の魂を融合させた。


もちろん、こうする意味はあるのだ。


最終的にはマリーンの盾という守山を育て上げて、こちらの場合は仕事仲間として、最低でも神獣となれるよう翡翠を育て上げた。


これで守りは盤石として、スイジンはその時を穏やかに待った。


マリーンの中にいるガイアとともに大神殿の天使長として正常に機能し始めたと同時に、スイジンは安心して自分の住処を見つけ、さらにはライジンという強い仲間も得て、ふたりの楽園を作った。


翡翠はこの話をポポタールに聞いていた。


「…言っておくけど、できれば、盾を好きにならない方がいいわ…」


ポポタールの言葉を聞いても、相手がただの人間なので、当時の翡翠には興味はなかった。


しかし、日に日にまだ見ぬ相手に興味を持ち始めた時、強烈な存在の極が現れて、あっという間に燕と婚姻を果たした。


―― 相手は、煌極ほどのすごい人間… ―― と翡翠は考えると、盾の台座ではなく婚姻相手として興味を持ってしまったのだ。


幸い時間はいくらでもあったので、人型を取って、人と接することはできるようになっていたので何も問題はなかった。


その手本としては、マリーンの母の存在だった燕の修行を見て知っていたからだ。


―― 何にも興味を示さないあの緑竜が… ――


雄々しき緑竜としては、自分自身が安寧な生活を送れたらそれでよかったわけで、人間の営みなどには興味はなかった。


しかし、この地に飛ばされてきた愛らしいマリーンを見て、ついつい母心が沸いてしまったのだ。


ここにはまた別の運命があり、燕とこの宇宙の創造神の神獣ポポタールは、大昔に初めて生を受けた時、双子として生まれた姉妹だった。


マリーンの強さを知っていた燕とポポタールは、スイジンがやった真似をして、魂の融合を果たした。


そして同じ資質を持つ極との婚姻を果たせたのだ


このような事情もあり、翡翠が初めて守山を確認できた時、人間を敵だと思っていた翡翠はがらりと性格が変わって、守山を好きになってしまった。


翡翠には人間としての守山、マリーンの盾としての紋章以外に、もうひとつ見えていたからだ。


それは予知と言ってもいいほどのものだったが、決して話すことはできない。


確実にいい結果にならないと翡翠にはわかっていたからだ。


しかし、今の守山になら、全てを話しても構わないとも感じていた。


そうすれば、それがわかる翡翠は今すぐにでも守山に寄り添えると考えた。


しかしどうしても一歩踏み込むことができない。


万が一の不幸があると婚姻どころではなくなってしまう。


そして翡翠は現在の堂々巡りの不幸に、純な涙を流した。


「…な、泣いたって駄目だぁー…」と守山が眉を下げて大いに戸惑って言うと、翡翠は大いに慌てて涙を拭いて、「…何のことかしら?」と冷たく言ってそっぽを向いてから大いに後悔してうなだれた。


「…まあ、全部見えたけど、見せて欲しくなかったね…」と幻影が眉を下げて言うと、翡翠はまた大いに慌てふためいた。


「どちらにしても守山が全てを決めるから何も問題はない」


幻影の言葉に、「…成り行きに任せることが自然じゃろうて…」と信長は穏やかに言った。


「…うう…」と守山は少しうなってから、一瞬だけ翡翠を見た。


もちろん幻影は守山を観察していて、「女の涙は常套手段」と冷たく言うと、「…わかってる…」と守山はつぶやいた。


翡翠には大いに反論があったが、ここは何も言わずにホホを膨らませた。


「…翡翠さんの方がいいのかもぉー…」と阿利渚が眉を下げてつぶやくと、「…余計なことを言わないでぇー…」とエカテリーナは大いに嘆いた。


「だって、想いが全然違うよ?

 リーナお姉ちゃんはまだまだお相手がいるもん…

 影達様はお勧めよ?」


阿利渚の言葉に、エカテリーナはゆっくりと影達を見て、「…そういえばいたな…」とつぶやくと、信長は膝を打って大いに笑った。


守山が大いに眉を下げていると、「助言は重要だし、それを精査して守山が決めればいいだけのことさ」という極の言葉に、守山は救われた気分になって、阿利渚に頭を下げた。


「…だけど、翡翠にだってほかにいい人がいるかもしれないじゃない…」


エカテリーナが穏やかに阿利渚に聞くと、「…たぶんいない、と思うぅー…」と眉を下げて答えた。


阿利渚が咲笑を抱きしめると、その証明のような映像が流れた。


この映像は阿利渚が感じたものと咲笑が調べた、翡翠の想い以外の情報だった。


「…なんという、面倒な体質… いや、人魚と同じだ…」とエカテリーナは嘆きながらも憤慨していた。


「…だけど悲しいのは、守山様に気に入ってもらえなかった時だなぁー…」


阿利渚の言葉に、守山も翡翠も目を見開いていた。


「…ここは、政略結婚に持ち込んでもいいか…」と幻影がつぶやくと、「…それもあり、じゃな…」と信長は眉を下げてつぶやいた。


「…うう…」と守山はうなるしかなく、言葉を発することができなかった。


しかし翡翠は咲笑の流した映像を盾に取ろうとはせずに、こちらも何も言えなかった。


「…ほら、全然悪い子じゃないぜ?」という幻影の言葉に、「…手のひらを翻したようにあっせんを始めるなぁー…」と守山は大いにうなって、幻影をにらみつけた。


「…私… できる限り誠実に働きます…

 どうか、よろしくお願いします…」


翡翠は決意の眼をして信長に言って頭を下げると、「うむ! もう婚姻の儀をやってしまえ!」と信長は叫んで、大いに陽気に笑った。


信長が真剣な目をして翡翠を見て、「ひとつ、聞いておきたいことがある」と言うと、「はい、なんなりと」と翡翠は躊躇することなくすぐさま言った。


「人魚には永遠の命を得る術があるとうわさに聞く。

 これは真実か?」


「一名にだけ効果がございます」と翡翠はすぐさま答えた。


「…なるほどな… それがこの変化じゃったわけだ…」と信長は映像を観て何度もうなづた。


翡翠もようやく納得ができて、ホホを赤らめて守山を見てからすぐに視線を外した。


「…ほらほら、けなげじゃないか…」と幻影がさらにあおると、「…俺の決意がぁー…」と守山は大いに嘆いた。


「この程度で揺らぐ決意などはねえ」


幻影の厳しい言葉に、「それは言える」と信長は真剣な目をして守山を見た。


「この先、揺るがないと確信した決意だけをしろ。

 それ以外は成り行き任せでよい。

 その方が、色々とよく見えてくるものじゃ」


信長の助言に、「はっ ご指導ありがたく」と守山は言って頭を下げた。


「…あーあ… うまくいきそうだったのにぃー…」と阿利渚が眉を下げて嘆くと、幻影と信長が大いに笑った。


「…急ぐことはないの…

 だけど…」


蘭丸は言ってエカテリーナを見て、「あんたはさらに気合を入れないと、いい男を逃がすわよ」と厳しい言葉を投げかけると、「わかった」と胸を張って答えた。


「エカテリーナは美人だけど、翡翠は美人には変身できないの?」


幻影のかなり失礼な質問に、「…えー…」と翡翠は大いに嘆いた。


しかし翡翠もそれなり以上に整った顔立ちをしているので、美人の領域にはいるのだが、エカテリーナの美しさには遠く及ばない。


「…形は変えられません…」と翡翠が嘆くと、「いいや、変えられる」と幻影は自信を持って行った。


「心の底から解放すれば、別人に生まれ変わることも可能なはずだ。

 それは今ある形すらも変えられる効果があるものだ。

 今の翡翠にはその資格ができたはずだ」


幻影の言葉は難し過ぎて、翡翠は大いに戸惑った。


「翡翠の武器は、初心ともいえる心にある。

 その心に素直になって、笑みを浮かべただけで男は落ちる」


信長の言葉に、誰もが翡翠を見入った。


翡翠はどうすればいいのか全くわからず、ついつい守山にすがる目を向けた。


すると、「やったぁ―――っ!!」と真っ先に阿利渚が喜びの声を上げた。


守山は翡翠を見入ったまま固まっていた。


「…ほんに、心の底から良い子じゃな…」と信長はあきれ返るように言った。


信長の言葉には翡翠にとって矛盾があった。


よって翡翠はどうすればいいのか大いに戸惑ったのだ。


今の守山は翡翠が愛しくて、胸が張り裂けそうだった。


「…俺が、できることであれば、

 どんなことでも、協力しよう…」


守山は言葉を絞り出すように言った。


「…明日でいいので、この村の案内をお願いしますぅー…」という翡翠の言葉に、「心得た!」と守山はいつもはそれほど張らない大声で答えて、真剣な目をして翡翠を見ている。


「…ああ、よかったぁー…」と翡翠が笑みを浮かべると、守山は大いに顔を赤らめて、「そうか」とだけ言って、笑みを浮かべていた。


「…俺が、先だったのにぃー…」とエカテリーナが嘆くと、「守山様以外だったら、政略結婚でもいいよ?」と阿利渚が明るく言うと、エカテリーナはさらにうなだれた。


「…ある意味、幻影と同じか…」と信長が言うと、「ええ、その通りです」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


幻影が打ち上げた幻武丸が、本来の蘭丸を隠していた。


守山の決意や猜疑心が、本来の翡翠を隠していたと言っていい。



「宴じゃ!」と信長が叫ぶと、守山と翡翠の疑似披露宴が始まった。


信長としては、何かの理由をつけて、家族たちと飲みたかっただけだ。


幻影たち給仕班はあまりものなどを利用して、膳の上を華やかにした。


「…食材は夕餉と同じじゃが、全く違う料理じゃな…」とハイネの口上を聞き終えた信長は機嫌よく言って、ハイネのお酌で宴が始まった。


宴が始まって早々に、「エカテリーナは間違っておる」という信長の落ち着いた言葉に、エカテリーナは大いに慌てた。


「兵衛を一番に見初めたのは、エカテリーナではない」と信長は言って、家族たちを見まわした。


エカテリーナはすぐにその意味を知ってうなだれた。


「さらに言えばだ。

 能力を考慮して、兵衛をこのサルサロスに連れて来てすぐに、

 翡翠は気付いておったはずじゃ。

 それが目的で、この星に住みついたんじゃからな」


信長の言葉に、エカテリーナはさらに落ち込んだが、「…だから順番なんて関係ないって守山が言ったぞ…」と幻影が言うと、エカテリーナは、「うー…」とうなって、目を吊り上げてからワイングラスのワインを一気に飲み干した。


今は飲みたい気分なんだろうと誰もが思ったが、エカテリーナは一瞬にして、いびきをかいて眠ってしまった。


「…こんな嫁でもいい人はもらってやってくれ…」と幻影が眉を下げて言うと、「…ここは遠距離恋愛も覚悟のうえで…」と影達は真剣な目をして言った。


「…ふむ…

 影達は名残惜しいが、送別会も兼ねるか…」


信長の言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「…ふふふ…

 半分ほどは冗談じゃ」


信長の言葉に、誰もが半分の部分が大いに気になった。


「我が琵琶家家老として、

 コリスナー家の仕事の内情を身をもって探ってこい。

 お前にとっても大いになる修行となるはずじゃ」


信長の言葉に、子供たちはなぜだか拍手をしていた。


子供たちなりの敬愛の行動でもあるようだ。


「…仕事の内容はご説明できたのですがぁー…」と姿を現した咲笑が眉を下げて言うと、「それは影達の体験の報告を聞いてから、じっくりと観させてもらう」という信長の言葉に、咲笑は満面の笑みを浮かべた。


「…さらに鍛え上げ、その日に備えます…」と影達は真剣な目をして言って頭を下げた。


「それは明日になるやもしれんぞ」という信長の言葉に、さすがに自信がないようで、影達は大いに眉を下げた。


「どれほどまでに逞しくなるのか見ものじゃ」


信長の明るい言葉に、「はっ!」と影達は堂々と答えて頭を下げた。



そして肝心の主役のふたりはまさにお見合いで、ほとんど何も話さない。


話すとすればうまい料理のことばかりで、お互いのことは何ひとつ話していない。


「…ここじゃ話が弾まないから、花火しない?」と長春が言うと、「…お前が花火をしたいだけだろ…」と幻影は言って、この地で販売を始めた、『よいこの花火セット』をわんさかと出した。


すると長春を筆頭にして、主役二人を連れ出したが、信長は何も言わない。


家人は三分の二ほど残ったので、酒をついで回って大いに喜んでいるだけだ。


「お蘭、エカテリーナを起こせ」と信長が命令すると、蘭丸はエカテリーナに寄り添って、握りこぶしを顔に近づけた。


すると、「うっ」とエカテリーナはうなって目を覚ました。


今の行為は一般的な気付けに当たるが、蘭丸の悪魔が持っている術だ。


「今度はお前らの祝言じゃ」という信長の言葉に、影達はすぐさま頭を下げて上座に移動した。


事情を何とか察したエカテリーナは、「…エスコートくらいしろぉー…」と影達に苦言を述べると、「そこからここまで歩くだけのことだ、立ったばかりの赤子でもできる」という影達の言葉に、「…なかなか口の立つやつだぁー…」とエカテリーナは異様に機嫌よく言って、大股で歩いて影達の隣に座った。


「…兵衛とは随分と違うが、エカテリーナは気に入っておるようじゃな…」


信長は大いに眉を下げて言った。


「おまえ、酒が弱すぎるが、

 それもある意味弱点だぞ」


影達の言葉に、「そんなもの」とエカテリーナは言ってよくよく考えて、影達の言葉は正しいと察した。


「これからはお前が付き合え」


「ああ、そうしてやろう」と影達は言って、猪口にわずか数滴の酒を垂らしてエカテリーナに突き出した。


「…うう…」とエカテリーナはこの量でも自信がないようだが、何とか受け取ってなめるようにして酒を飲みほした。


「…お、うまい…」とエカテリーナは言って笑みを浮かべた。


「徐々に慣らしていけばよい」と今まで仏頂面だった影達が笑みを浮かべて言うと、エカテリーナは顔を真っ赤にして、「…お、おう…」とつぶやいて下を向いたしまったが、その顔は大いににやけていた。


エカテリーナは信長の許可を得てゲイルに念話を入れると、「…お前、どれほど期待してるんだ?」という言葉に、影達は大いに気合を入れた。


「…あ、やっぱ問題なさそうだ…」とエカテリーナは明るく言って念話を切って、「…今すぐにでも帰って来いと言われました…」と大いに眉を下げて報告した。


「そんなもの、エカテリーナが一番わかっていたことじゃろ?」


信長の言葉に、「…なぜ兵衛をあれほど好きだったのか、よくわからなくなってきました…」とエカテリーナは眉を下げて言った。


「…まあ、そうじゃな…

 光り輝くまがい物と、まだ磨いていない本物」


信長の言葉に、「…偽物…」とエカテリーナは言って、工房方面を見た。


「もちろん、その偽物も厚い鎧を脱げば本物となるという代物じゃが、

 今は見えぬというわけじゃ。

 それが見えているのが、翡翠だけということになろうて」


「…意地にならなくてよかったと、心から思っています…」とエカテリーナは言って、素晴らしい笑みを影達に向けると、影達は居場所がなくなったようなしぐさをして大いに照れていた。


ここはエカテリーナが持っていた素晴らしい美貌が功を奏していた。


「…今あっちは修行中だが、やはり今日は一旦寝た方がいいよな?」


エカテリーナの言葉に、影達は考え込んだのだが、「耐えられなくなったら、断りを入れて眠る」と堂々と言った。


「一日程度眠らずとも問題ない」という信長の言葉に、影達はすぐさま頭を下げた。


人助けとして、そのような日は幾度もあったからだ。


「…今すぐに、影達の実力を見せつけられるぅー…」とエカテリーナが大いに喜んで言うと、信長が陽気に笑って、「行け」と命令した。


影達はすぐさま頭を下げてエカテリーナに寄り添って、「また戻ってきます」とエカテリーナは穏やかに言って、影達とともに消えた。


「…コロナは置いて行かれたけど…」と幻影が外を見て言うと、「もうなじんでおるから問題ない」と信長は機嫌よく言った。



二日後の朝餉時に、蘭丸からエカテリーナと影達が飛び出してきた。


その影達の肉体が、大いに引き締まっているように見えた。


エカテリーナが大いに眉を下げて、「…正式に婿としてもらって来いって言われてやってきましたぁー…」と言って信長に頭を下げた。


「話はあとでよい。

 今は仕事帰りのはずじゃ。

 まずは食え」


信長の言葉に、影達とエカテリーナは膳の準備ができた上座に仲睦まじく座った。


土産話はあと回しになって、本来の披露宴が始まっていた。


「…やっぱり、こっちの方がおいしい…」とエカテリーナは笑みを浮かべて言って、その顔のまま影達を見た。


「あちらはあちらで最高級のものだ。

 その差は星の特性と言ってもいいはずだ。

 あまり言いふらすと、みなさんやってこられるぞ」


「…ゲッタがついてこようと画策してたわ…」とエカテリーナは自然な笑みを浮かべて言うと、「…猫かぶってんじゃあねえー…」と蘭丸が我慢し切れずにうなった。


しかし、エカテリーナは、「うふふ」と笑うだけにとどめて、また影達に笑みを向けた。


「特に問題は見当たらんが?」と信長が言うと、「…御意…」と蘭丸は悔しそうに答えた。



食後の茶の一服の時間から、影達の報告が始まった。


まさに性格通りに細かいもので、全ての仕組みやその時々の光景が思い浮かぶような報告だった。


「しかし問題があります」


円滑に話は終わりそうだったのだが、影達自身が問題定義をした。


「新参者の私が、その中核に組み込まれていたことです。

 自ら話すのもおこがましいのですが、

 戦闘では前衛に組み込まれ、

 癒す間もなく怪我人の救助と農地づくりや家づくり。

 全てを円滑にこなせる者がゲイル様とゲッタ様だけのように見受けられたのです。

 よって私は生き神扱い…」


影達が話し終えてうなだれると、「…わかるわぁー…」とまず言ったのが長春だったので、説得力はあった。


「…手下が使えなくてごめんなさい…」とエカテリーナは大いに眉を下げて謝った。


「使えないわけではない、休息が必要なだけだ。

 だが、一二を争う事態が幾度もあった。

 いくら鍛え上げられていて短時間とはいえ、

 このままではその手下すらいなくなるぞ」


「…ゲイル殿は相当に厳しいようじゃな…」と信長は機嫌よく言って何度もうなづいている。


「…昔、覚醒する前に、毎日泣かされて修行してましたぁー…」とエカテリーナがまさに泣き顔で信長の報告すると、「…人材不足は否めんか…」と信長は言って、「源次! お志乃!」と信長が叫んだ。


「…援軍として行ってくるがいいわぁー…」と信長が大いに畏れを垂れ流しながら言うと、誰もが一斉に頭を下げていた。


「次回は弁慶と沙織に交代じゃ。

 甘い汁も程々じゃからな。

 次の帰還はいつになる?」


信長が影達に聞くと、「はっ 二日後の昼餉時かと」とすぐさま答えた。


「…その翌日から三日間のお休みですぅー…」とエカテリーナが報告すると、信長は機嫌よくうなづいた。


「控え目にできそうで胸をなでおろしております」


影達の言葉に、「…精神修行もさらに必要なようじゃが?」と信長がエカテリーナに聞くと、「…こちらのご家族以上はどこを探してもいません…」とエカテリーナは大いに眉を下げて答えた。


このあとは咲笑が編集した短い映像を観て、さすがの琵琶家でもその半数以上が大いに眉を下げていた。


「咲笑、両家の個別の分析」と信長が雄々しく言うと、咲笑はわかりやすい戦力表を出して、「…ふむ… 大いに手伝えそうじゃな…」と信長は機嫌よく言って何度もうなづいた。


「じゃが、急ぐことは何もない。

 我らは交代制で、経験を積ませてもらうことにする。

 もっとも、まずは源次とお志乃が帰ってこられるかどうかが問題じゃがな」


信長の言葉に、「必ず阻止します! 次期女王の名において!」とエカテリーナが堂々と叫ぶと、「…ふむ…」と信長は言ってエカテリーナを見ていたのだが幻影を見た。


「今のリーナの言葉だけを引き出したかったと推測します」


幻影の言葉に、「やはりか」と信長は言って大いに笑った。


しかし画策めいたものは全くなく、両家の実力差は咲笑が示した通りだ。


「あちらの参謀は…」と信長は言って、その顔写真と名前をにらみつけた。


「…参謀というよりも、ゲイル殿の親衛隊、か…」


信長の言葉に、「友人と言わないと、機嫌が悪くなりますぅー… 全然怒らないですけど…」とエカテリーナは報告した。


「やはり、獣人の家族は必要じゃ」と信長は言って、今は人型を取っている巖剛と獅子丸を見て言った。


「ふたりに命ずる。

 タルタロス軍に所属していない使える獣人を探してこい。

 非力でも構わん。

 そんなもの鍛えれば手に入るものじゃ。

 まずは性格第一じゃ」


信長の言葉に、巖剛と獅子丸は頭を下げて廊下に出た。


そして巖剛だけが戻って来て、マックラを連れてきたことに、誰もが大いに眉を下げていた。


「現在、軍事会議の最中じゃ」と信長が言うと、マックラは大いに眉を下げて、勧められた場所に座って眉を下げた。


話を聞き終えたマックラは、「…村のことは妻に託しておきますが…」と答えると、誰もが目を見開いて、「いたのか?!」と信長ですら大いに叫んで聞いたほどだった。


「…程は教え込んでいますから、お城を壊すことはないと…」


「…とんでもない妻のようじゃ…」と信長は大いに眉を下げて言った。


「私の前では羆の獣人に。

 それ以外では人型を取っていますので、

 誰にも悟られていないのです…

 穴倉生活にも大いに喜んでおります」


マックラは言って、深々と頭を下げた。


「いや、気に入っていただいたのなら結構結構」と信長は機嫌よく答えた。


「一部の方とはもう面識がございます」


マックラの言葉に、「…お菊さんだぁー…」と幻影がうなると、「…うまく化けていたものじゃ…」と信長は眉を下げて言った。


美術館で騒ぎがあった時にマックラとともにいた、手伝いの女中のお菊だ。


今も美術館などで働いていて、重宝している使用人でもある。


「彼女は火竜です」


マックラの言葉に、信長と幻影は大いに笑った。


「いや、あの威厳を抑え込めるとは大したもんじゃ。

 まるで閃光殿」


信長はここまで言って言葉を止めた。


「彼女はオカメ様と同じ修行を積んで、火竜となったそうです。

 今はさらに緑深き場所となった、

 北西の山の洞窟に住んでいたのです。

 極様やオカメ様に興味をもってこの村にやってきたのですが、

 その時は異様な雰囲気を持っていたので、

 ワシが立ちふさがりました。

 見た目もワシと同じ羆の獣人でしたので、

 更に怪訝に思ったのです」


マックラが懐かしそうな顔をして言うと、「じゃあ、村長に化けることも可能なんだ」と幻影が言うと、「勝手に決めてやろう」と信長は言って大いに笑った。


信長が勝手に話を始めると、「…私よりもお菊の方が使えると思うのですが…」とマックラが眉を下げて言うと、「交代でもよい」という信長の言葉に、マックラは笑みを浮かべて頭を下げた。


「それに、マックラが我が一家と合流する際は、

 火竜ベティーも連れて来い。

 彼女も、外の世界を観たいようじゃからな。

 それだけで、マックラとお菊の基本性能は同じということになろうて」


「…引け目に思うことがなくなって幸いです…」とマックラは役に立てることだけを大いに喜んでいた。



今すぐという話ではなく、琵琶家とともにあることが重要なので、マックラは妙に嫌がっているお菊を連れて来た。


今はマックラと同じ羆の獣人の姿になっていた。


「お菊、よくも謀ってくれたな」


信長の第一声はこれだった。


マックラではない獣人がすぐさま人型を取って、「申し訳ございませんでした!」と慌てて謝って頭を下げたが、信長は大いに笑っていた。


そしてこの先の琵琶家の予定を話すと、お菊は落ち着いていて、全面的に琵琶家とともにあることを宣言した。


「断られるかと思っておったが、

 もしも今後の我らの行動を知っておったとすれば、

 自己主張をしても問題はなかったように思うのじゃが?」


「それは私が控えろと」というマックラの言葉に、「うむ、納得じゃ!」と信長は笑みを浮かべて言った。


すると、小さな火竜のベティーが飛んできて、謁見の間におりて人型を取り、マックラの膝の上に座ったので、琵琶家一同は大いに笑った。


「黒豹のやつは何か言っておらんかったか?」


信長の言葉に、「いいなぁー… って、うらやましがってたよ?」とベティーは機嫌よく言った。


「それほど毎日のようには呼ばぬからな。

 それにすぐのことではない。

 そうだな…

 早くても二十日後に一度試しとして家族総出で行くことにしよう。

 各々、納得できるように仕上げておけ」


「はっ!」という勇ましい返事と、「はぁーい!」という少々気の抜けた両極端な返事が返ってきたが、信長は笑みを浮かべてうなづいていた。


「三名は琵琶家の一員として加える。

 よって、城への出入りは自由じゃ。

 気兼ねなく立ち入っても構わぬ。

 もう通達は終わっておるから、

 今から自由に過ごせばよい」


するとベティーがマックラの膝から降りて、信長の目の前まで走って行って、「うふふ」と笑ってからその膝に座って満面の笑みを浮かべた。


「…おお、めんこいのぉー…」と信長は好々爺となって、ベティーの頭をなでた。


しかしそれはわずかな時間で、すぐに阿利渚たちがベティーを連れ去って行ったので、信長は大いに眉を下げていた。


「これから、琵琶家の子供としての教育の時間でしょう」


幻影の言葉に、「…掟のようなものじゃからな…」と信長は眉を下げて言った。


「…できれば、優夏様やベサーニ様のような、

 大きな不幸を察知する能力があれば、

 我らも単独行動がとれるのですが…」


幻影の言葉に、「任せておけ」という自信満々の信長の言葉に、「さすが御屋形様!」と幻影は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。


「ワシの持っておる術は少々難解でな。

 ワシが術を発するのじゃが、探知するのは別人じゃ。

 どうやら、改良を施したようで、

 意識的に術を発しないとその場所を特定できんようにしたようなんじゃ。

 もしもワシ自身がその術を発した場合、

 すぐにでもそこに行って正したいと思うのでな。

 ワシにとっての保険のようなものじゃ。

 始めは術ではなく能力として持っておったようで、

 大いに困っておったようじゃぞ」


「…それは確かに…」と幻影はその当時の魔王に同情した。


「じゃがそれも、人間と共存できるようになった試練のようなものじゃった。

 魔王は誰もが同じ道を歩んでおるようじゃ。

 さらに、魔王は欲をもってはならぬ。

 それは弱点となり、

 我が手で我が身を拘束するにも等しいこととなる。

 欲を持って見破られると、弱みを握られたも同然。

 よって、強い欲は持たぬと決めた」


「我らも援護いたしますのでご安心の程を」


幻影の言葉に、「何も心配などしておらぬわ!」と信長は大いに陽気に言って、大声で笑った。


「…晩酌、ずっと抜き…」と濃姫がつぶやくと、「なっ?!」と信長は叫んで、大いに眉を下げたので、幻影と蘭丸は後ろを向いて笑っていた。



「…ところで、ベティーはどなたが親御様なのかしら…」と濃姫がつぶやくと、「このサルサロスに誘ったのは煌様ご夫妻で、そのまま親となっていると思いますが、確認しておりません」と幻影は答えてから、念話でベティーに真意を聞いた。


「大人に甘えるので、親は必要ないそうで、決めていないそうです」


幻影の言葉に、信長と濃姫は大いに笑った。


すると、廊下に気配を感じて、そこには顔を半分だけ障子からのぞかせているベティーがいた。


信長たちは大いに笑って手招きをすると機嫌よく走って来て、すぐさま信長の膝の上に座った。


―― 親は決まったも同然! ―― と信長は確信していた。


「…幻影様と蘭丸様が親がいいなぁー…」とベティーが大いに甘えて言ったが、信長は大いに眉を下げていた。


「必要ないって、今言ったばっかじゃん」と幻影がかなり気さくに言うと、「…あ、考えが変わったからね、来たのぉー…」とベティーは眉を下げて言った。


「お蘭は少々甘いが、俺はそれほど甘い親じゃないぞ」


「…うん、知ってるぅー…

 でもね、弱い私を絶対強くしてくれるって、

 阿利渚ちゃんに聞いたのぉー…」


「だったら、師匠と弟子の方が付き合いやすいんだけど?」


「あー…」とベティーは言って少しうつむいて小首をかしげて考え始めた。


「…甘えられる?」


「程はわきまえているつもりだから、多少の甘えは認める」


幻影とベティーの言葉に、信長と濃姫の眼が血走っていた。


「ベティーの場合は誰かに任せることはあまりできそうにないから、

 俺かお蘭で直接面倒を見ることになるだろう。

 もちろん、師範代たちにも頼むことはあるけどな」


「…あー…」とベティーは言って、信長の膝から降りてかわいらしく頭を下げてから、幻影と蘭丸の前に正座をして、「お師匠様方、どうか、よろしくお願いしますぅー…」と言って頭を下げた。


「…今の作法、阿利渚に聞いたの?」と幻影が眉を下げて聞くと、ベティーはすぐに顔を上げて、「うん! 念話で!」と陽気に答えた。


「…ああ、かわいいわぁー…」と蘭丸が言うと、濃姫の眼がさらに血走っていた。


「さらに甘えられる親もいてもいいと思うのだが?」


幻影の言葉に、信長と濃姫はころりと感情を変えて笑みを浮かべて何度もうなづいていた。


「お師匠様に少しでも甘えられるんだったら、

 甘えん坊になりそうだから、親はいりません」


ベティーの死刑執行の言葉に、信長も濃姫も大いにうなだれた。


「…はあ… なるほどな…

 その道もありだ…

 自分をそれほど甘やかさない気概は、

 猛者にも値する。

 だがな、親になりたい人がいるとしたらどう思う?」


幻影の言葉に、「…えー…」とベティーは大いに戸惑った。


「それは、御屋形様と奥様だ」という幻影の言葉に、「…えー…」とベティーは言って、信長と濃姫を見た。


そして、「…私、お姫様…」とベティーがつぶやくと、幻影と蘭丸が大いに笑った。


「お姫様となれば、修行はさらに厳しいことになる。

 今のような作法などもあるからな。

 だが両親がいるのなら、心強いと思う」


「あ、お姫様になれるよ!」とベティーはかわいらしく言って、髪飾りを頭につけて、二の腕ほどの長さの短いが妙に派手な棒を出して、「お姫様!」と叫ぶと、ベティーは西欧風の姫様となっていた。


もう我慢の限界になったようで、濃姫はベティーを抱きしめていた。


「…はは様、よろしくお願いしますぅー…」とベティーが言うと、「…ずっと母でいるわ…」と濃姫が言った途端、その体は黒装束に変わっていた。


「…ああ、そういうこと…」と幻影はようやく理解を終えて、何度もうなづいていた。


超現実的な濃姫に心からの感動を抱くことはほとんどない。


よって今のように大いに追い込んで、大いなる感動が必要だったのだ。


「…俺の子だ!」と濃姫は叫んで、ベティーを抱き上げた。


「ささ、ほかにも天使という我が子もいるので、挨拶に参ります」と女悪魔は穏やかに言って、ベティーを抱いたまま廊下に出て行った。


「…生き別れはほぼなくなったな…」と信長は感慨深く言って笑みを浮かべて何度もうなづいていた。


「今でなければ、それは死の間際だったかもしれません。

 ですが今回の件は、我ら琵琶家にとって、

 大いなる希望となったはずです」


「お濃でも、覚醒できるんじゃからな」と信長は言って鼻で笑った。


「生き別れがあったのですね?」と幻影が核心を突いた質問をした。


「…ワシとお濃の初めての子じゃ…

 萩千代と名付けた…」


信長は目頭が熱くなったのだが、涙をぬぐうことなくつぶやいた。


「ベティーに会ってすぐに気づいた。

 じゃが、それはおかしい…

 ベティーはもう、数十億年間も火竜として生きておるからじゃ」


「死因を教えててください」と幻影が真剣なまなざしをして聞くと、「…矛盾がほどけるのか…」と信長は大いに期待していた。


「実は、特殊な例を小耳に挟みました。

 万有源一様の配下にマサカリ・ウェポンという方がおられます…」


そのマサカリには姉がいたのだが、ある朝ベッドで冷たくなっていた。


死因は不明で、心の臓が止まってしまったとしかわからなかった。


この時点で信長は号泣していた。


そしてその姉は動物としてマサカリの目の前に現れ、呪いを解くと人型となり、どう見てもマサカリの姉だったのだ。


唯一の疑問点は、その動物は仮死状態であった部分だ。


その仮死状態中に、魂だけが肉体を抜け出して、別の生物に、マサカリの姉に転生したのではないかという仮説だ。


そして凍り付いていて仮死状態だった動物が蘇ったと同時に、マサカリの姉が死を迎えた。


それと同じことがベティーにもあったはずだと、幻影は語った。


「…六十年前、ベティーは、仮死状態にあったのか?」と信長が涙声で聞くと、「竜の正式な転生である、卵の状態だったようです」と幻影が言うと、その時系列を表にして、大いに涙を流している咲笑が宙に浮かべた。


「…萩千代が死んだと同時に、ベティーは火竜としての再転生を果たした…」と信長は涙を流しながら笑みを浮かべていた。


「…死因は不明じゃった…

 朝、起きてこなかった…

 初めての子じゃったから、

 男でも女でも関係なくかわいいものじゃ…

 その子が動かなくなっていた時の衝撃は、

 ワシと濃姫の性格を捻じ曲げるほどの衝撃があったのじゃ…

 じゃが、幸運にも永遠の命を授かった。

 いずれ萩千代に会えると信じておったが、

 まさかここにおるとはな!」


信長は叫んで、大いに笑った。


「その正体は火竜でした。

 姫君のご復活、おめでとうございます」


「おう! 礼を言う!」と信長は叫んで廊下に出たが、ベティーを抱いた濃姫が戻ってきた。


「萩千代!」と信長は叫んで、ベティーを抱き上げて抱きしめた。


「…あはは… 死んじゃってごめんなさい…」とベティーは照れくさそう言った。


濃姫も新たな涙を流してベティーを抱きしめた。


濃姫は、始めは愛らしいベティーの仕草が、目に焼き付いていた萩千代の仕草にあまりにも似ているので、養女として召し抱えようと考えていた。


しかし、極の配下であることはわかっていたので、何とか真相を知りたかったのだが、ベティーはとんでもないほど長い年月を生きていることを知った。


よって、萩千代ではないと思い直したものの、今ここでの見た愛らしい姿はどう考えても萩千代だった。


そしてベティーが濃姫を母とした瞬間に、濃姫の止まっていた時間が動き始めたのだ。


幻影が詳しい話をすると、「…わかるわけないわぁー…」と濃姫は言って愉快そうに笑った。


「実例があったからこそ、判明しましたし、

 ベティーは知っていたようですが」


幻影の言葉に、「わかっていたのなら言わぬかっ!」と叫んで、ベティーを抱きしめた。


「…よくない夢だって思ってたんだもぉーん…」とベティーが眉を下げて言うと、「いいのいいの」と濃姫は明るく言って、ベティーを奪い返して、「何して遊ぶ?」と濃姫はベティーに、今までに一度もなかった、母の明るい声で言った。


「…うう… 奪われてしまった…」と信長は言ってうなだれた。


ここで喧嘩にでもなれば、城を壊してしまいそうなので、今は大いに我慢した。


「とと様も一緒に!」とベティーが言うと、「そうかそうか」と信長はすぐに機嫌を直して、「萩千代は西洋かるたを所望しておる」と幻影に言った。


幻影はすぐさまトランプを出して信長に渡した。


「…長春、色々と覚悟しておいた方がいいぞ…」


幻影の言葉に、「…わがまま言ったら許してもらえないぃー…」と長春は大いに嘆いた。


「雄々しきおばさまに、改めてきちんと挨拶しておけよ」


幻影の助言に、長春は大いに目を見開いてベティーに寄り添った。


「…お前が甘くなるんだから、それほど変わらん…」と涙を流している蘭丸がうなると、「…ああ、そうなるだろうな…」と幻影は笑みを浮かべて答えて、幸せそうな四人家族を見つめた。


「あ、そうだ、よくない夢とは逆夢のことか?」と蘭丸が涙を拭きながら幻影に聞くと、「夢とは前世の記憶が漏れたものらしいんだけどね…」と幻影が言うと、蘭丸が大いにホホを赤らめてそっぽを向いた。


幻影は見て見ぬ振りをして、「ベティーは夢を見たことがなかったのかもしれない」と言うと、「そんなやつもいるし、見たとしても全く覚えていないとかもあるな…」と蘭丸はうなるように言った。


「例えば誰かが介在して夢を観させたという仮説も考えられる。

 慎重な竜ならではの考えで、

 逆夢を誰かに見せられたなどと考えたのかもな。

 あとは、その夢に自分自身が見えた場合は、

 確実にそれに符合するように思う。

 御屋形様がベティーに触れた時、

 六十年前の御屋形様の記憶が流れ込んだ、とかな」


「…だが、もうどうでもいいことだ…」と蘭丸は言って、かわいらしい笑みを浮かべてトランプを楽しんでいるベティーに笑みを向けた。



もちろん問題はあったので、幻影はマリーンに念話をすると、お付きを引きずってすっ飛んでやってきた。


「…幻影様の仮説に相違ありません…」とマリーンは素晴らしい笑みを浮かべて言って何度もうなづいた。


そしてハイネの軽食の接待を受けて大いに喜んでいる。


「ベティーちゃんは銭湯の湯沸かし担当というお仕事がありますが、

 お菊さんでも構いません。

 琵琶家は長期でここを開けることはなさそうですから、

 その点だけを気に留めておいていただきたいのです」


「はい、了承しました」と幻影は笑みを浮かべて頭を下げた。


ボイラーの火入れは五日間に一度でいいという優れものなので、もしも長期で留守にする可能性がある時は火入れをしてから出かければいいだけだし、ふたりを同時に連れ出さなければ問題はない。


「マサカリ様の姉君のフィル様の件は異例中の異例でしたが、

 調べるとわんさかと出てきたのです。

 それにこの件は、

 竜と神獣に関してのみ確認を終えているのです。

 それ以外では、万有源一様が前世で分魂した時に発生しています。

 同じ魂がふたつあるという、イレギュラーなことも起こっていたのです。

 かなり優秀な古い神の関係者には起るようですの。

 ですので、万有源一様だけに起こった奇跡ではないのです」


「…ですが、古い神の関係者といえどもすごいものです…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「現在までの魂の積み重ね…

 多くの経験と正しい認識が重要ですわ。

 先日お会いになった大屋京馬様もゲイル・コリスナー様も、

 八丁畷春之介様も古い神の一族です。

 ですが皆様が同じ高い能力を持ってるというわけではございません」


確かにマリーンの言ったことはもっともで、それぞれに千差万別あっても当り前だと幻影は感じていた。


しかも、この世で一番の権力者と誰もが認めていた万有源一が必要があって転生するほどなので、まだまだ修行不足は否めないようだ。


もっともそれを強制的に承諾させたのはスイジンで、やはり欲の部分にほころびが見えたのだ。


さらにはその妻の万有花蓮は半強制的にスイジンが転生させた。


こちらの方は自由奔放が度を過ぎて、状態は源一よりもひどい有様だった。


「…もうひとりのお母さんにも、まだまだお世話になっていますわ…」とマリーンは恥ずかしそうに言ったのだが、茶菓子をもりもりと食べているので、―― 食い気の方が恥ずかしいわけだ… ―― と幻影はごく自然な笑みを浮かべて、マリーンに丁寧に礼を言った。


「…帰れと言われるのですか?」とマリーンが悲しそうな顔をして言うと、「どうか、想いのままに召し上がって行ってください!」とハイネが明るい声で言って、茶菓子の追加とお茶のお代わりを持ってきた。


―― ハイネを絶対にかわいがること! ―― と幻影は思って、ハイネに笑みを向けた。


「なんじゃ、居座るつもりか?」と散々ベティーと遊んだ信長がマリーンに言うと、「…ハイネちゃんの好意を無碍にできませんので…」とマリーンはまた恥ずかしそうに言って、茶菓子を手にした。


「あんた、夜遅くに出歩くんじゃないわよ」とかなり怒っている燕がやって来てマリーンをにらんだ。


もちろん幻影が大いに言い訳をしたが、「…あんた、マジで太るわよ?」という燕の言葉には逆らえないようで、ハイネが手早く菓子などを包んでマリーンに渡した。


「…はあ… 私の子に欲しいわ…」と燕は言って、ハイネの頭をなでて礼を言った。


「この食い意地の張った子、いらない?」と燕がマリーンに指を差して信長に聞くと、「畏れ多い」とだけ答えて、大いに苦笑いを浮かべた。


そして燕はベティーに寄り添って、「…まさかだったわ…」とつぶやいて笑みを浮かべた。


「…お姫様のお洋服買って下さるって!」とベティーが自慢げに言うと、「…今まで嫌というほど拘束されていたんだから、大いに甘えればいいのよ…」と燕が言うと、「はい、オカメ様!」とベティーは明るく答えた。


「…まあ、オカメでもいいんだけどね…」と燕は小声で言ってから、信長に礼を言ってマリーンを連れて帰った。


「燕様も母親の方がよかったのかな?」と幻影がベティーを見て言うと、「…本当の子が生まれたから…」と眉を下げて答えた。


「…ま、さすがに付き合いづらくなったよな…」と幻影は言って、ベティーとハイネの頭をなでた。


「でも、みんな優しいし、お友達もたくさんいるから、

 全然寂しくなかったよ?」


ベティーの言葉に、濃姫がさらにベティーが愛おしくなりやさしく抱きしめた。


「煌様はなぜ来なかったんだろ…」と幻影が不思議に思ってつぶやくと、「…マリーン様が極様に甘えるからぁー…」とベティーが答えると、幻影は大いに笑って、「よくわかったよ!」と愉快そうに言った。



コリスナー一家の休みの前日、影達と源次夫婦が大いに眉を下げているエカテリーナとともに安土城に戻ってきた。


「…問題は、何もないはずだぁー…」と真っ先に威厳を晒して信長がうなると、「ございません!!」とエカテリーナは即座に大声で答えた。


「じゃが、エカテリーナ自身に杞憂があるのじゃな?」と信長がごく自然に聞くと、「…実は…」とエカテリーナは言って、仲間たちの変化について話し始め、すっかりなじんでいるコロナを見た。


「何度か訓練に来ておるじゃろ?」と信長が幻影に聞くと、「日に日に減っております」と幻影はすぐさま答えた。


「…ふむ… 我が琵琶家は麻薬のようなものか…

 もっとも、ワシらには全くわからんが…」


「生き急ごうとしている愚か者が多いのですが、

 それを抑え込んでいる者は大いに見込みがございます」


幻影の言葉に、「…欲というわけではないのですが…」とエカテリーナは個人的意見を述べると、「…わからぬでもない…」と信長は言って何度もうなづいた。


「ですがそれを実現するとして、

 マリーン様の怒りを買うようにも思います。

 さらには煌様と燕様の機嫌を損なうことにもつながると。

 エカテリーナはその件も含めて杞憂に思っているのです」


幻影の言葉に、エカテリーナは大いに同意して何度も首を縦に振っている。


「ふむ、面倒じゃが、出向くか…」と信長は言って、この先にするべきことをすべて語った。



まずは、一番の肝心要のマリーンに話を通す必要があるので、信長は手下たちを引き連れて空を飛んで大神殿にやってきた。


「マリーン殿はおられるか?!」と信長が下降しながら叫ぶと、マリーンのお付きの天使たちがすぐさま大神殿に駆け込んで行った。


マリーンは大急ぎでやって来て、大いに眉を下げて信長に挨拶をした。


「おまえさんは威厳が強すぎてある意味嫌われておる」


信長の単刀直入の言葉に、天使たちはわずかに憤慨したが、「控えなさい」とマリーンにすぐさま戒められた。


「ワシらとしても落ち着きたかったのだが、

 神側ではなく人間側に付こうと思っておる。

 じゃが、本宅はここで、別荘を右京和馬星に建てるつもりじゃ。

 主はどう思う?」


信長の質問に、「琵琶家がこのサルサロスから離れられることは自由でございます」とマリーンは薄笑みを浮かべて言った。


「我らは束縛はされておらんからな。

 じゃが、我が家臣がこの地に誘われ世話になった恩義もある。

 そなたから権力者に対して、

 様々な口添えを頼みたい」


「はい、お任せを」とマリーンは薄笑みを浮かべて答えて頭を下げた。


「要件はそれだけじゃ。

 では、さらばじゃ」


信長は大いにせっかちなので、要件をすべて満たしたのでふわりと宙に浮かんだ。


「ワシらの詳しい居所は自動人形から知ればよい。

 その件に関しては流すことに決めておる」


信長の言葉に、マリーンは薄笑みを浮かべたまま右手を上げて手を振った。



難儀なことになることはなく、琵琶家は様々な手順を踏んで、快適な移動方法を選択して、浜辺のコリスナー家の砂浜の村にたどり着いた。


そして信長は辺りを見渡した。


「今回は山を切り開いて別荘を建てるか」と信長が言うと、「…平地が狭くてごめんなさい…」とエカテリーナは大いに恐縮して謝った。


「いや、まったく構わん。

 さらには訓練施設も充実しておるので、

 ワシらとしても都合がよい」


あとは幻影とエカテリーナが話し合って、山を切り開いて農地にしている区画の一部の未開拓の土地を譲り受け、すぐさま整地と基礎工事が始まった。


もちろんゲイルたちも立ち会っているのだが、ここはすべてをエカテリーナに託していた。


信長自らも大いに働いて、スイジンとライジンの眉を下げさせた。


狩猟担当の幻影たちは早速獲物を吟味して、今までよりも豪華な食事を琵琶家とこの浜辺の村の住人分を作り上げて、作業を中断して食事を摂ることに決まった。


マックラ村とタルタロス軍の人数の十分の一ほどの食材集めなので、それほど手間はかからなかった。


食べ物持参の歓迎会だが、ここはゲイルが大いに仕切って、信長に礼を言った。


「琵琶家上層部は何ともなかったのじゃがな、

 やはり底辺はそうも言っておられんかった。

 どうしても委縮する者がおってな。

 その対策でもあったので、

 エカテリーナの進言はまさに好都合じゃったのじゃ」


信長の本音の言葉に、「本当にありがたいことでした」とゲイルは言って、エカテリーナに満面の笑みを向けた。


「エカテリーナを褒め称えんか!!」と信長が機嫌よく叫ぶと、誰もがエカテリーナをさらに見直して褒め称えた。


「…あっちの獣人たちは平気だったの?」とゲッタが眉を下げて幻影に聞くと、「…困ってたよ…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


自然でいるマリーンでもそれなり以上の威厳があるので、マックラ村の住人のほとんどが委縮しまくっていた。


もちろん極も燕もわかっていたのだが、自由奔放に出歩くようになっていたマリーンを押さえつけることはできなかったのだ。


しかし、この村の住人全てが琵琶家を歓迎している者ばかりではない。


その実力を自分の目で確認しない限りは、信じることはないし、まやかしだと捻じ曲げる者までいる。


「切ってもいいのではないか?」と信長がその者たちに顔を向けて言うと、「はい、そうします」とゲイルは言って、信長が示唆した数名を消した。


「今消えた者の分だけ補充をさせてもらおう。

 這い上がってくれば、返してもらうけどな」


「私にとっても、いい経験となっています」とゲイルは笑みを浮かべて頭を下げた。


「…我慢してたのね…」とスイジンは大いに眉を下げて、ゲイルに同情するように言った。


「リクタナリスは、ここに来るにはまだ早かったようですね」


幻影の言葉に、「ああ、自然界の神のなりそこないもいたか」と信長は言って鼻で笑った。


「実力は、ここに残った仲間たちの底辺でした。

 余計なことばかり考えているので、

 日々の修行に身が入らなかったようです。

 使えなくはないので、

 経験を積ませるつもりで雇っていました」


「ここでなくても、働く場所はいくらでもある。

 じゃが、厳選してこの人数とは…

 ゲイル殿もある意味、幻影と同様に厳しいな」


「いえ、幻影さんと比較されるほど偉くはございませんし、

 見る目もありません」


ゲイルは謙遜ではなく、本気で答えた。


「残った方々は弁慶にも匹敵するでしょう。

 これほどの猛者たちを集めるだけでも大変だったと察します」


幻影の言葉に、ゲイルの仲間たちは笑みを浮かべて一斉に頭を下げた。


そして春之介と優夏もやってきたので、快く宴会の仲間に加えた。


「…リーナちゃんが交渉したんだぁー…」と優夏が言うと、「…泣きそうだったがな…」とエカテリーナは言って胸を張った。


「リーナが女王でもいいのです」と現女王のライジンが言うと、「…いえ、まだまだ現場に出たいので…」とエカテリーナは言って、ライジンの申し出を断った。


「なんじゃ?

 女王様は現場に出ておらんのか?」


信長の言葉に、誰もが大いに戸惑っていた。


ライジンはそれほどでもないが、スイジンは痛いところを突かれたと言わんばかりに顔をしかめた。


「…信長様は現場に出るんだぁー…」とスイジンが大いに眉を下げていくと、信長は幻影を見た。


「できれば、宇宙船の中で我らの仕事を見守っていただきたいのですが、

 宇宙船が破壊してしまうことがあるかもしれませんので、

 陸地に降りていただいて、遠くから見守っていただこうと思っております。

 しかし、救出と復興に関しては、お手伝いをお願いしたいのです」


幻影の言葉に、信長は大いに苦言があったが、幻影の言った通りになると思い、「ということらしい」とスイジンに言った。


「俺たちもそうしよう」とゲイルが言うと、「認めてやろう」とエカテリーナも同意して、スイジンに向けてにやりと笑った。


「…いたいけな幼児をこき使うのね…」とスイジンが大いに嘆くと、誰もが大いに笑った。


「一番の理由は士気が上がるから」という幻影の言葉に、「…甘やかしすぎていた…」とゲイルがつぶやくと、ライジンとスイジンは大いに眉を下げていた。


「絶対に本陣に近づかせないという意志が大いに働くからね。

 必要があれば下がることもあるだろうが、

 参考に見せてもらった映像からではそれは感じなかった。

 まずは前衛部隊が突っ込んで、

 ひっかきまわせば勝ったも同然」


幻影の言葉に、蘭丸に大いに気合が入っていた。


「お蘭は本陣担当だろ?」と幻影がにやりと笑って言うと、「…ここは、光栄な役を弁慶に託すぅー…」と蘭丸は大いに眉を下げて言った。


「構わん。

 お濃がいれば怖いものは何もない」


信長の雄々しき言葉に、幻影も蘭丸もすぐに頭を下げた。


「…あら? 宇宙戦艦の中でお茶でもしながら見ていようと思っていたのに…」という濃姫の言葉に、信長は大いに眉を下げていた。


「誰が役に立つかわからんから、

 ここにいる全員戦場に立つこと。

 よいな?」


信長の言葉に、琵琶家一同は一斉に頭を下げた。


「…母ちゃんも協力してよ…」と幻影が眉を下げて言うと、「戦闘では、本陣で本来の姿で見ておきますわ」と妙栄尼が薄笑みを浮かべて言うと、信長は大いに苦笑いを浮かべて頭を下げた。


―― 出番はまずない… ―― という苦笑いだ。


「天使たちを守る使命がございますから」と妙栄尼が穏やかに言うと、「ありがたい」と信長は言って頭を下げた。


「…やはり、出し惜しみは控えるべきだ…」とゲイルは言って、エカテリーナを見た。


「俺は戦場に出るに決まってるだろっがぁー…」とエカテリーナがうなると、「…担当がスイジンの日は後衛で…」とゲイルが眉を下げて言うと、「…うう… わかった…」とエカテリーナはここは折れた。


スイジンの水竜は言いようがないほど穏やかなので、見ているだけでは朗らかになってしまうこともあり、士気を挙げるべき戦場ではそれほど効果はない。


しかし復興の場合は大いに役に立つので申し分ない存在でもある。


スイジンはほんの数年前に卵から孵化したばかりなので、体が小さいという理由もある。


ライジンはまさに雄々しき雷竜なので、戦場に出た方が大いに効果はある。


「全世界のために、大いに頑張りましょうぞ」とライジンは大いに眉を下げて言った。


できれば、争いの場に身を晒したくないという理由がある。


「なんなら、時には母さんがすべて倒してくれてもいいよ」


ゲイルの言葉に、「…心穏やかな時にはそういたしましょう…」と、ライジンは機嫌を直して薄笑みを浮かべて言った。


「…うぬ… 神の鉄槌か…」と信長が悔しそうにうなった。


「…お水、どばぁーってしちゃうぅー…」とスイジンが言うと、「死人が出るからダメ」というゲイルの言葉に、信長はさらに悔しがった。


「…涙をのんで、御屋形様は居残りという道もございます…」


幻影の穏やかな言葉に、「…うう… よきにはからえぇー…」と信長は苦汁を飲んでうなった。


「…使える術の選定でもするか…」と信長は肩を落として言った。


「奈落、とかいう術があるけど?」と濃姫が言うと、「…まあ、相手が死なんかったら使えそうじゃ…」と信長は少し悔しそうに言った。


「…まあ… 異空間に飛ばすんですって…

 怖いわぁー…」


濃姫の言葉に、誰もが大いに苦笑いを浮かべていた。


「…底がないわけだな…」と信長は鼻で笑って言った。


「…たわけ者?」と信長がつぶやいて不思議そうに首をひねった。


「…ここにはたわけ者がおらんようになったから使えん…」


信長が眉を下げて言うと、「ぜひとも援護いただきたく」と幻影が真剣な目をして言うと、「任せておけ!」と信長は胸を張って叫んだ。


「オリジナル…

 術名からして、独自に構築した術でしょうか?」


ゲイルが信長に聞くと、「…ああ、思い出した、その通りじゃ」と信長は機嫌よく答えた。


「感情によって、対象者がぶっ飛ぶ勢いが変わる術じゃ」


信長の言葉に、全ての子供たちが笑みを浮かべて拍手をすると、信長は上機嫌になって大いに笑っていた。


「さらに、感情を押し殺せば、地面に埋まる」


「…まさか、重力操作でしょうか?」とゲイルが聞くと、「ああ、様々な現象を細かく組み込んだものじゃが、基本的には物質の重量変化を使用しておる」と比較的詳しく説明した。


「…敵を蹴散らすには一番使える術のように感じます。

 発動は聞こえた者すべてということでよろしいのでしょうか?」


「そうなるな。

 じゃから、たわけ者でなければ何も起こらんわけじゃ」


「…誰か呼び戻すか…」とゲイルが言い始めると、さすがにスイジンたちが止めた。


「リクタナリスならばよいぞ。

 修行にもなるじゃろうて」


信長の言葉に、そのリクタナリスが、元いた椅子に座っていて目を見開いていた。


「この、たわけ者がぁ!!」と信長が叫ぶと、リクタナリスだけが数十メートル後方に飛ばされて、二転三転して止まった。


「おー…」と誰もがうなって、大いに拍手をした。


「…うむ、たわけ者ではなくなった!」と信長が陽気に叫ぶと、「…うわぁー… 使えるようになってるぅー…」とゲッタが確認して大いに喜んでいる。


「じゃが、リクタナリスの取り巻きがたわけ者じゃが?」と信長が言うと、「…娘たちは別にいらないけど…」とゲイルが言うと、リクタナリスは立ち上がって、信長に真剣な目を向けて立ち上がって、頭を下げてから消えた。


「その者らの教育が先のようじゃな」という信長の言葉に、「お見それしました」とゲイルは言って頭を下げた。


「…叱られてうれしい?」と幻影がつぶやくと、「…ま、あれほどになると、叱られることなどほとんどないじゃろうからな」と信長は言って、何度もうなづいている。


「…すべてではないでしょうが、改心を誘える術…

 …本当に、素晴らしいと思いますし、

 竜の戒めの術以上に使えるかもしれません」


ゲイルの言葉に、「そうか!」と信長は機嫌よく叫んで大いに笑った。


「たわけ者の術者がたわけ者になったら、

 私が奈落に飛ばせばいいのね?」


濃姫の言葉に、信長は大いに眉を下げていた。


「…うまくできていた…」と幻影がつぶやくと、蘭丸は下を向いて声を押し殺して笑っていた。



ほどなく琵琶御殿は完成した。


御殿のくつろぎの間から見る景色は絶景で、その逆にある謁見の間から見る景色は地獄だった。


この山間の谷にある地獄が修練施設で、琵琶家の目的のひとつでもあった。


同じような施設はタルタロス軍の基地にもあって経験済みだが、できれば気楽に使いたいと思い、この地にやってきた理由もあるのだ。


もちろん別荘扱いなので、それほど居座るわけでもない。


現在は安土城は雇った者だけを配備しているが、マックラ夫妻も目を光らせているので何も問題ないが、そのマックラ夫妻も連れて来る必要はある。


食事前の腹減らしとして、幻影たちは早速修行に勤しんだ。


しばらく訓練を積んで幻影は空き地で立ち止まって大いに考え込んでいた。


やはり基地だけあって、タルタロス軍の訓練施設の方が少々厳しいものがあると感じたからだ。


巨大な浮島に建設してあり、その浮島が移動できるので、上下させることで気温や気圧の変化などを利用して、体を痛めつけることが可能だ。


まだ早計だろうかと考えたが、ここは上層部会議をすることに決めた。



「…タルタロス軍の施設…」とゲイルは言ってうなだれた。


神が神と思う存在の施設なので、どこの施設でも勝てるわけがない。


「作りますか?」という幻影の気さくな言葉に、「…あの施設が手に入るのかぁー…」とエカテリーナが気合を入れてうなった。


「…ふむ…」と信長がつぶやいて腕組みをして考え始めると、誰もが注目した。


「…安心感が沸きすぎんじゃろうか…

 …それが、油断に繋がらんじゃろうか…」


信長のつぶやきに、「はっ 余計な進言をしてしまいました」と幻影は言って頭を下げた。


信長は少し笑って、「浮島は作れ。じゃがそこには子供たちが遊ぶ楽しい施設じゃ」という鶴の一声に、誰もが一斉に頭を下げた。


「どうしても修練場が必要だと感じれば、

 また話し合って別に作ればよい」


信長の決定は絶対で、誰もが快く従って、早速浮島本体の設計が始まった。


浮島は浜辺の村と同じ面積のもので、村の西側で建造することに決まった。


普段は海に浮かべておけば邪魔にはならない。


そして村にあった子供用の遊び場を浮島に移動して、本来の村の使える土地を増やした。


あとは子供たちからの意見を聞いて、子供たちなりの修行の設備としてゲイルたちが率先して建築を請け負った。


もちろん大人も使えるので、大人の修行の場としても大いに利用できる。


信長は今は少し宙に浮かんでいる浮島を見入って、「…キューブリックエンジンのパワーも素晴らしいな…」と笑みを浮かべて言った。


まずは無人で浮島を上下させて、咲笑など影たちの分析が始まって、リミッターを備え付けた。


まさかの事故が起こらないように計算しつくしたものだ。


信長は浮島を見上げて、「あの規模で一万人ほどは収容できそうじゃな」と言うと、ゲイルが目を見開いた。


「…可能です…

 まさかですが、全ての宇宙にあの浮島を作ろうと…」


ゲイルが目を見開いて言うと、「まさかの時のためには必要じゃろうと思ってな」と信長は鼻で笑って言った。


「実際はこれでは小さいから、最低でも十倍のものを。

 管理は、現地で雇った者にさせればよいじゃろうて。

 宇宙の創造神という、便利な神を従わせてもよいはずじゃ」


「…誰も、ここまでは考えてはいませんでした…

 …ですが、マリーン様に甘やかしだと反対されないでしょうか?」


「するじゃろうが、我らは神側の考えではなく、

 人間側の考えとして提案するまでじゃ。

 出会いは重要で、今いなくなっては困る者が必ずおるはずじゃからな。

 自然界はまさに厳しく、それは手分けすればできることと考える。

 じゃが、できれば使える者はその命を無碍に散らさずに生き残らせ、

 多くを守ってもらいたい。

 もっとも、必ず出番はあるとは言えんが、

 巨大な施設でもあるから、それに直面した時にすぐに対応できんからな。

 ワシらがどれほど頑張っても、十日ほどはかかりそうじゃ。

 その間に、救える命を救えないのは心もとない」


「我が竜一族も、琵琶家に賛同いたします」とゲイルは堂々と言って、信長に頭を下げた。


「もっとも、その管理者の心ひとつで決まることでもあるけどな。

 それも、その宇宙の運命じゃて」


「いえ、最小限の後悔のない運命となりますから、

 有意義に使ってもらいましょう」



ここからは幻影たち科学技術班がまずは小さな模型を作って宇宙に飛ばして情報収集をした。


「幻影、一発でどれほどまで構築できる?」


信長の言葉に、「百分の一に留めた方がよいかと」と幻影は答えた。


「まずはこの宇宙用に、試しとして一機作り上げる」


信長の鶴の一声に、まずは十分に休養を取ってから作業に取り掛かった。


まさに上層部だけの作業となったが、細かい仕事はいくらでもあるので、この場にいる全員が一致団結して、半日を費やして、巨大なドーム型の浮島が完成した。


その時、幻影と蘭丸は疲れ果てて眠っていた。


「試運転はふたりが起きてからじゃ」と信長は言って、夫婦仲よく眠っているふたりを見て笑みを浮かべた。


「…兄者も姉者も素晴らしい…」と弁慶が涙を流しながら言って、ふたりに向かって頭を下げると、誰もが追従した。


「…ゲイル、ゲッタ…」と真剣な目をしてライジンが言うと、「…半分ほどでひっくり返ってるでしょう…」とゲイルは言って大いに眉を下げていた。


「…それに、蘭丸姉ちゃんの役がいないから…」とゲッタは大いに眉を下げて言った。


「…うう… どこかから、優秀な悪魔も仕入れておかないと…」とライジンは眉を下げて言った。


政江と才英はまだ働いていて、咲笑に情報をすべて提供した。


巨大な宇宙船と言っていい浮島の正確なスペックが宙に浮いた。


「…収容人数十五万人か…

 最終的には、移動できる壊れない惑星を作る必要があるか…」


まさに第六天魔王は厳しかった。


「…本気、出すぅー…」とベサーニがうなって、ゲイルにしがみついた。


「いきなりやるなぁ!!!」とゲイルは大いに叫んで、巨大な浮島の塊の一部を出して意識を断たれた。


そしてゲッタも同じ扱いを受けて、父子ともに眠ってしまっていた。


「…厳しいな…」と信長が眉を下げて小さな幼児でしかない悪魔のベサーニに言うと、「…ベサーニが全ての発端ですから…」とライジンは眉を下げて言った。


「ひどいことしちゃったわ!」とベサーニがライジンに報告すると、「…力の差がよくわかったわ…」と眉を下げて言った。


「…それに、ゲイルとゲッタしか使えないわけね…」とライジンが嘆くと、「うん! そう!」とベサーニは少々辛らつに明るく答えた。


「…錬金術師か…」と信長がベサーニを見てうなると、「…うふふ… 蘭丸さんはすっごく優秀だよ?」と小首をかしげて言った。


「幻影に鍛え続けられておるからな。

 その実力差を知って納得もできた」


信長は言って、眠っている四人を見て何度もうなづいている。


「…一緒に行った方が楽なのにぃー…」とベサーニが言うと、「二手に分かれれば、半分の時間ですべてを救える」と信長が答えると、「…ざんねぇーん…」とベサーニは眉を下げて嘆いた。


「…そうか、ほかは分業しておるのじゃな…」と信長は咲笑に笑みを向けて言った。


「しかも、開放軍のようなものなので、

 ほとんどの場合、迫害を受け始めてから行動に出ます。

 我らの場合は大きな戦いの真っただ中に飛び込むので、

 さらに多くの人々を救えるのです」


「今すぐに試したいところじゃが、

 幻影たちが起きてからにするか…」


「…魔王には勝てないぃー…」とベサーニは嘆いてうなだれた。


「重要なのはその志じゃ」という信長の言葉に、ベサーニはすぐに復活して笑みを浮かべた。



幻影が一番に起きて辺りを見渡して、「…腹減ったぁー…」と言ったので、もうすでに準備を終えていたハイネが素早く配膳した。


幻影は今までにないほどの勢いで、全てのものを腹に収めていく。


食べながらも協力製造の反省点を考え、次は意識を断たれないようにと作業方法を組み替えた。


蘭丸も起きたので、ハイネはまずは魂まんじゅうをその手で食わせてから、配膳をした。


蘭丸も食欲に拍車がかかって、壮絶なフードバトルが始まった。


信長たちもご相伴に預かって、ふたりのフードバトルを眺めながら食事を始めた。


ようやく落ち着いたのか、幻影は蘭丸に作業の細かい変更点を述べた。


「…時間は倍になるが、倒れることはなさそうだ…」と蘭丸はうなって笑みを浮かべてうなづいた。


「短時間でも休息は必要だ。

 さっきの俺たちは早回しをして生きていたようなものだったからな。

 無謀なことが簡単にできるという罠にはまっていたようなものだ」


「…大いにはまったな…」と蘭丸は鼻で笑ってにやりと笑った。


「…やっぱり、一緒に仕事ができる人じゃないと…」とベサーニは仲のいい幻影と蘭丸を見てつぶやいた。


「タフな勇者だけに目をつけ、選定すればよいだけじゃ」という信長の言葉に、「…そうしなきゃ…」とベサーニは真剣な目をして言った。


そして琵琶家の勇者が幻影しかいないことにベサーニはうなだれた。


「フリージアにはわんさかとおったぞ」


信長の言葉に、「…もっと子細に探んなきゃ…」とベサーニは眉を下げて言った。


「聞いてやるから待っておれ」と信長は言って箸を置いて瞳を閉じた。


「…ふむ、そうか…

 何なら魔王のお前でもよいのじゃがな…

 なにぃー… 天使の伴侶じゃとぉー…」


信長が大いにうなると、「…魔王イカロス君とお話し中なのね…」とベサーニは眉を下げて言った。


信長は礼を言って念話を切り、「使えるやつはおらんそうじゃ」とベサーニに言った。


「…いないことがわかっただけでもよかったですぅー…」とベサーニは大いに嘆いて頭を下げた。


すると桜良とレスターがやって来て、小さな魔王と眉を下げている天使を連れてやってきた。


そして魔王が浮島を見上げて、「…これ、今、作っちゃったんだぁー…」と大いに眉を下げて言った。


「第八天! お前は平和過ぎやせんか?!」


信長が叫ぶと、魔王イカロスはその体が固まった。


そして、本来の雄々しき魔王の姿になると、「…怠けていたかもしれん…」とうなって信長を見た。


「…そうか… だからこそ様々な星に織田信長がいたのか…」とかなり重要なことを魔王イカロスはつぶやいた。


「リクタナリスも織田信長じゃった事実はあるな」


信長の言葉に、誰もが目を見開いた。


「あとは、皇源次郎か…

 我らの住んでいた星にいそうな名前じゃな…」


咲笑は気を利かせてふたりの情報を宙に浮かべた。


「できればどちも雇え。

 そうすれば、お前の願いは叶うやもしれぬ」


信長の言葉に、ベサーニは大いに喜んだが、「…女性と既婚者…」と大いに嘆いた。


「それは贅沢というものじゃ。

 じゃがリクタナリスは、松崎拓生に戻した方がよい。

 自然界の神としてはもうすでに役不足じゃ。

 これも松崎拓生にとって、

 大きな落とし穴じゃったはずじゃからな」


信長は言ってレスターを見た。


「どちらも早急に呼び出します」とレスターは真剣な目をして言うと、信長に大いに気合が入っていた。


「…変わってく…」と幻影は言って笑みを浮かべていた。


「織田信長は時期尚早じゃった」


信長の言葉に、幻影は笑みを浮かべて頭を下げた。


「…となると、師匠はどこぞにおる…」という信長の言葉に、誰もが大いに目を見開いた。


よって、『織田信長プロジェクト』が大昔からあったということのようだ。


「…たぶん、間違いないと思いますぅー…」と咲笑は大いに苦笑いを浮かべて幻影を見たのだ。


「…そうか… たぶん、わかっておったはずじゃ…」と信長は言って、幻影に頭を下げた。


幻影は大いに戸惑ったが、大いなる昔に、三人と係わりがあったと知って、大いに眉を下げていた。


「指南役はある意味、家臣で師匠ですから」


幻影の言葉に、「そうじゃったそうじゃった!」と信長は膝を打って大いに笑った。


よって信長と幻影の関係は何も変わらなかった。



すると大いに眉を下げているリクタナリスを先頭にして数名が姿を見せてすぐに、「たわけどもが!」と信長が軽く叫ぶと、リクタナリス以外はそのまま浜辺を転がって海にまで達して寝転んだ。


「おー…」と幻影たちは大いにうなって大いに拍手をすると、信長はさも当然と言った顔をしてうなづいていた。


「…数万が一斉にこうなると、壮絶だろうな…」とゲイルは笑みを浮かべて言った。


「…一度には無理ですわ…」とライジンが眉を下げて言うと、「…できるけど死んじゃうぅー…」とスイジンは眉を下げて嘆いた。



リクタナリスたちはゲイルに誘われて席についた。


「まずはリクタナリス。

 松崎拓生に戻すぞ」


信長の言葉に、「え?」とリクタナリスが戸惑った瞬間に、松崎拓生に戻っていた。


「ほら、伴侶候補が出来上がった」と信長が機嫌よくベサーニに言うと、「…あー…」とベサーニは言って、初対面ではないのだが、丁寧に自己紹介を始めて自分自身を大いにアピールした。


「…俺が怒鳴る側だったはずなのに…」と皇源次郎は大いに眉を下げてつぶやいた。


「仏なんぞに現を抜かすからじゃ」という信長の言葉には抗えられなかった。


「生きるために敵を打ち負かすのはまだ許される。

 じゃが、仏の力を使って多くの人民の命を奪うとは何事か!」


源次郎とその妻の越前雛は大いにうなだれた。


信長は雛を見て、「…ふむ… 関係者か?」と言って咲笑を見た。


「…柴田勝家様の姉君ですぅー…」と咲笑は答えた。


「…萩千代と同様に、早世しておったからな…」と信長は言って何度もうなづいた。


「…まさか、様子を見に来られていた…」と幻影が目を見開いて雛を見て言うと、「…仏の残忍さでしかないわぁー!」と信長は大いに怒りまくっていた。


「…ああ… 叱られちゃうぅー…」といきなり桜良が言い始めて落ち着きがなくなってきた。


「…自ら打ち明けた方が罪も軽いかと…」と幻影が瞳を閉じてつぶやくと、「…やっぱりね、絵にね、興味があってね、行ってきたのぉー…」と桜良は大いに眉を下げて言った。


「…知り合いは」と幻影はここまで言って言葉を止めて、「…面倒なヤツの関係者のようですね…」と幻影はすべてを悟ってため息をついた。


「…そんなに無碍にしてあげないでぇー…」と桜良は懇願の眼を幻影に向けた。


「我らと同行しても、ヤツが落ち込んでいくだけだと思いますが?」


幻影の少し厳しい言葉に、「…よーくわかってるぅー…」と桜良は眉を下げて答えた。


「では、底辺から鍛えさせますので、

 その手配をお願いできますか?」


幻影の言葉に、「どうかお任せを」とここはレスターが割り込んで答えた。


「私の勘でしかありませんが、

 レスター様の配下でもよろしいかと。

 時間が経てば、やつも逞しくなるでしょうから」


「はい、うまく立ち回ります」とレスターが笑みを浮かべて答えると、桜良は子供のように音をたてないように拍手をしていた。


「…ふん…

 秀忠は命拾いしおったな…」


信長がつぶやくと、「あはははは!」と桜良は勢い勇んで空笑いをした。


「…不甲斐ない自分を呪っておりました…」とレスターが小声で言うと、信長は笑みを浮かべて何度もうなづいていた。



そして本題に戻って、信長は織田信長だったふたりに対して大いに説教をした。


どちらも姿を消すところまでは順調だったのだが、皇源次郎の方は蘭丸と駆け落ちをして、わずか八十年で生涯を終え、松崎拓生の方は、わずかな手下とともに自由奔放に諸国漫遊をしてこちらも八十年程で生涯を終えていた。


「これはワシの勘でしかないのじゃが、

 幻影、織田信長と神の文字で書いてみよ」


信長の言葉に、幻影はすぐさまとんでもない事実に気付き、「…記憶よりも先に答えを導きました…」と幻影は笑みを浮かべて言って、半紙と筆を出して二文字の神の文字を書いた。


「…えー…」と桜良は口を手のひらで押さえつけてうなった。


「…これは、どういうことでしょう…

 古い神の一族でなくても読めるはずです…」


レスターが大いに嘆くと、「万物共通の文字じゃろうな」と信長は言って、弟子として幻影に頭を下げた。


幻影の描いた文字は大いに複雑なのだが、少し離れて見るとよくわかる。


そこには、『家族』と書いてあったのだ。


「ちなみに私は、どちらの織田信長の方にも行っておりました。

 これは決められていたことのようで、

 強制的に誘われたようです。

 師匠としての責任だったのでしょう」


幻影の言葉に、源次郎も拓生も大いにうなだれていた。


「私はどちらの織田信長にも大いに貢献したはずですが、

 どちらも私を見つけられなかったようで、

 どちらも二十になる前に死んでおります」


幻影の言葉に、信長が怪訝そうな顔をした。


「ワシは、幻影を見つけた覚えはないが?」


「お三方とも導入部分は同じです」


幻影の言葉に、「…幻影が仕官に来て、信長は確実に幻影と会っておる…」と信長が言うと、「御意」と幻影は笑みを浮かべて言って頭を下げた。


「…即刻幻影の資質を見抜けたかにかかっておったわけか…

 なるほどのぉー…」


信長は大いに納得して、何度もうなづいた。


「師匠だった当時の私は、

 種族としては勇者ではなく神だったのでしょう。

 その神の仕事としては、御屋形様が最後だったようで、

 転生は神ではなく勇者を選んだようですね。

 よって術としては呪いのようなものです。

 ここは師匠として、三人の弟子を大いに愛していたのでしょう。

 そして家族になりたかったのだと、

 今になってようやくよく理解できました」


幻影が号泣しながら言うと、信長も大いに泣いていて、ここは頭を下げるのではなく、幻影の頭をなでていた。


「…残念じゃが、はるか昔の師匠はおらんようになった。

 じゃがワシには、最愛の息子ができたことだけは、

 誇りに思う」


幻影は笑みを浮かべて何も言わず、信長に頭を下げていた。


「…この失敗作は、責任をもって雇ってやる。

 我が琵琶家の一員として働いてみよ。

 特に強制ではないが、今すぐに決めてみせよ」


信長の厳しい言葉に、「石鼠せっそ師匠とともに!」とまずは拓生が叫んで、幻影に頭を下げた。


「…こやつ、師匠の名をいいよったかぁー…」と信長は大いに震えながら怒り心頭となっていた。


「…ついでに、家族もともに…」と源次郎は言って、幻影に頭を下げた。


「ふたりとも不合格」と幻影が言うと、拓生も源次郎も大いに眉を下げてうなだれた。


「じゃあ、雇ってもいい?」とゲイルが言うと、「はい、どうぞ」と幻影は笑みを浮かべて、いとも簡単に答えた。


「我が琵琶家は、第六天魔王である織田信長様の家である。

 俺など家臣のひとりにすぎんのに、

 我が主に挨拶せぬとは何事か?!」


幻影が大いに怒りを込めて叫ぶと、「あーあ…」とゲイルは言って拓生と源次郎を眉を下げて見ていた。


ふたりは口から泡を吐いて意識を断たれていた。


「…あ、怒っちまった…」と幻影は言って大いに眉を下げると、「…もう甘えません!」と、真っ先に長春が泣き出しそうな顔をして叫んだ。


「…普通でいいから…」と幻影が表情を変えずに言うと、「…よかったぁー…」と長春は言って、満面の笑みを藤十郎に向けた。


信長は意識を断たれているふたりを見ていて、「…いい修行になったはずじゃ…」と眉を下げて言った。


「あ、長春様は聞いたかな?」と幻影が聞くと、長春は思い当たることはなかったようで、怪訝そうな顔をして首を横に振った。


「俺と長春様が初めて魂を得た時、

 俺たちは双子だったそうだよ」


この事実を知らなかった者たちが大勢いたので、「えっ?」と言って素っ頓狂な顔をしていた。


「俺が何の能力も持たない動物の鼫で、

 長春様は動物を操ることができる能力を持った神として生を受けたそうだ。

 ずっと神をしていたから、

 神が嫌になったことはよくわかってるつもりだよ。

 実際、鮮やかすぎるほどに動物を操れるのは特殊能力でしかないから。

 だから神は神として認めて、

 もしも不幸に見舞われている動物がいたら、

 助けてやって欲しいんだ。

 何らかの思惑を持たされて生きているかもしれないから。

 長春様だったら、

 誰かがかけた術でも外せると思う」


幻影の言葉に、長春は拒絶を示さず、少し目を見開いて聞いていた。


そして長春は辺りを見回して、拓生の近くにいる色とりどりの髪の毛を持っている少女に近づいた。


「もう大丈夫だよ?」と長春が言うと、拓生が娘にしていた友梨香が大粒の涙を流して何度もうなづいていた。


「…あ、彼女は人型を取っているだけで動物だ…」と幻影が言うと、誰もが納得してうなづいていた。


「…すっごく辛かったって…

 嫌われたくないのに、

 嫌われてしまうことばっかりさせられてたって…」


長春が泣き出しそうな顔をして言うと、「兄ちゃんが何かご褒美をあげなきゃな」という幻影のやさしい言葉に、長春は満面の笑みを浮かべていた。


「…そんな気配すら何も…」と信長が嘆くと、「動物への術は特殊だと思います」と幻影は言って、猫たちを見た。


「…そうだ… 術の縛りなど何も見えん…」と信長は言って、猫たちの頭をなでた。


「…友梨香姉ちゃんまで使えるようにしちゃった…」とゲッタは眉を下げて嘆いたが、満面の笑みを幻影と長春に向けた。


「…動物も持っていた源一さんでも気づかなかったのに…」と友梨香は笑みを浮かべて長春を見て頭を下げた。


「普通に動物だったら気づいていないさ。

 もしくは、知っていたけど手を出せなかったのかもね」


幻影の言葉に、友梨香は泣き笑いの顔をして幻影を見てから、満面の笑みを浮かべて礼を言った。


「…それもあって、転生する必要があったのじゃろうて…」という信長の言葉に、スイジンが何度もうなづいていた。


「…あと五六回は…」とスイジンが眉を下げてうと、誰もが一斉にスイジンと同じ顔をした。


五大神と言われる者ですら修行不足は否めなので、琵琶家一同に大いに気合が入っていた。


「…源ちゃんはさらにかわいらしくなっていいんだけどね…」と桜良は満面の笑みを浮かべて言った。


「ですが、桜良さんの息子にはしていないと思うのですが?」


幻影の言葉に、桜良は一瞬にして泣き出しそうな顔になり、「…生まれたばっかの花蓮ちゃんが母親ぁー…」と大いに嘆いた。


「レスターさんの兄弟率いる悪ガキたちは?」


幻影の言葉に桜良は大いに眉を下げ、レスターはすぐさま頭を下げた。


「…桃花ちゃんがいなくなったからさらに目立つようになっちゃってぇー…」


桜良が大いに眉を下げて言うと、「大屋京馬が娘にした子ですね…」と幻影は言って何度もうなづいた。


「…ふむ… 通じるかどうかは未知じゃが…」と信長が言うと、その目の前に目を見開いた大屋京馬が姿を現した。


「…この、おおたわけがぁー…」と信長が感情を抑え込んでうなると、京馬は地面に吸い込まれるように埋まって行った。


最終的には首までずっぽりと埋まってしまったが、「…随分と変わった…」とゲイルが明るい声で言った。


「まあ、この程度なら良いじゃろう」と信長は言って、術を使って京馬を地面から引き抜いた。


「ま、あとはじゃ」と信長は言って幻影を見ると、「やりましょう」と言って立ち上がって、桜姫を出して両手で振り回して地面に突き立てた。


京馬は目を見開き、幻影と桜姫を交互に見て、「…勝てるはずがありません…」と言ってうなだれた。


「…極さんも俺もそう思ったから、

 やってもやらなくてもいいよ…」


ゲイルが投げやりに言うと、京馬は大いに考え込んで、「…何事も体験せねば何もわからない…」と京馬はうなって、幻影に頭を下げた。


「随分とひどい目にあったそうだけど、

 それはあとで知った事実を悲愴に思っただけだよね?」


幻影の少々辛らつな言葉に、「はい… 私はその事実に胡坐をかいていたと思い知りました」と京馬は言って、長いが桜姫の半分程度の杖を出した。


まさに、小枝と大木ほどの差がある。


ふたりは組み手場に行って立ち会ったが、京馬はすべての技を封じられ、まさに赤子扱いだったが、擦り傷だらけになりながらも笑みを浮かべて幻影に頭を下げた。


「…ふむ…」と幻影は言って京馬を見入ってから、「…動物に変身…」とつぶやくと、幻影は大人程度の大きな鼫に、京馬は通常の大きさの中型犬程度のコアラに変身したと同時に、コアラが怯えていた。


「…どちらも神獣じゃが格違い…」と信長がうなると、ふたりは変身を解いて人型に戻った。


「どれほどの変化があるかと期待したのですが、

 大きくなっただけでした…」


幻影が眉を下げて嘆くと、「威厳は姿かたちではないということじゃ」と機嫌よく言った。


「…うふふ…」と長春が笑ったと同時に、「…触れなくてもかかるから止められない…」と藤十郎が大いに嘆いた。


もちろん、コアラは長春の手下になっていたが、人型では無効のようなものだ。


しかし京馬は長春に頭を下げてから、改めて信長に挨拶をした。


「処遇はここにいた時に戻せ。

 もしも意見があれば、ゲイル殿を通せばよい」


「はい、ありがとうございます」と京馬は答えて頭を下げてから、ゲイルに帰還の挨拶をした。


「桃花をお子様元老院に戻して、

 厳しい指導を」


ゲイルの言葉に、「了解しました」と京馬は答えてから、大勢の者たちに頭を下げてから消えた。


「欲かと思ったが、納得しとらんだけじゃった」と信長が言うと、ゲイルたちは一斉に頭を下げた。


「となると…」と幻影は言って、遥か彼方に見える高台を見た。


「小物じゃった」と信長は言って鼻で笑うと、「…あの高台まで届いたようですね…」と幻影は眉を下げて言った。


「今頃は救出されておるじゃろうて」と信長はにやりと笑って言った。


「…ああ、デヴィラさんですか…」とゲイルはつぶやいて何度もうなづいた。


「そういう名か…

 性格は悪魔のようじゃが、

 少々面妖な妖怪のようなヤツ」


信長の言葉に、ゲイルは大声で笑った。


ここは満を持して咲笑がその情報を宙に浮かべると、「…変わった種族もおったもんじゃ…」と信長は大いに眉を下げて言った。


「…完璧ともいえる種族の次元解も大いに欲があった…」


幻影の言葉に、「支配欲のようじゃったな」と信長は答えた。


「精神修行を積みたければ、関わってみればよい。

 人間の姿は美人じゃから申し分なさそうじゃ」


信長が家臣たちに言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


その家臣の中で、ひとりだけデヴィラに興味を持った者がいた。


「…これを見せつけられて興味を持つとは…

 …どうしてポポタール様には反応しなかったんだろ…」


幻影が不思議そうに言うと、「実直じゃからな、どちらも婚姻しとるからじゃ」と信長は笑みを浮かべて酒井家忠を見た。


燕の同居人の姉の宇宙の創造神のポポタールは、極の同居人のタルタロスと婚姻関係にある。


家忠の場合は、まずはそれをきちんと見極めてから恋に移行するようだ。


よって、デヴィラの婚姻の情報も映像に載っていて、幾度か婚姻関係はあったようだが、今はひとり身だ。


「…何か用事がないか…」と幻影がつぶやくと、信長は控え目に笑って、「高台の見学に行くぞ」と言って宙に浮かんだ。


すぐさま蘭丸とめんどくさそうな濃姫も宙に浮かぶと、幻影たちは宇宙戦艦に乗り込んだ。


「…あ…」と信長はつぶやいて、戦艦に乗ろうかと躊躇したが、ここは戦艦を先導するように、のんびりと高台を目指して飛んだ。


時には能力の確認もいいものだ、などと信長は考えながらも、もう高台にたどり着き、「邪魔するぞ!」と叫んだ。


デヴィラの救出を終えた京馬がすぐさま頭を下げて、デヴィラを見て、「まさかでした」と短い言葉で言った。


「低い声は遠くに届くからな。

 わずかでも聞こえれば、

 術がかかる可能性はある。

 申し分なくいいやつじゃったら、

 埋まることはなかったはずじゃ」


その証拠に、地面に埋まっていたのはデヴィラだけで、この町に住んでいる一般人たちには、術はかかっていなかった。


宇宙戦艦も高台に降りてきて、ここは琵琶家と大屋家の挨拶が始まった。



その頃、ゲイルたちは家族会議を始めていた。


「今回は持ち込みの材料を使っていなかったのに、

 どうしてあれほど美味いものが作れたのか」


ゲイルの言葉に、「…みんな、頑張ってくれているのに…」とライジンは眉を下げて言って子供たちを見まわした。


「手際の良さもそのひとつだと思う」というゲッタの言葉に、「…普通じゃなかったね…」とゲイルが眉を下げて言うと、その兄弟たちが大いに落ち込んだ。


「…ハイネちゃんがすごいぃー…」とコロナが眉を下げて言うと、「うちの姉ちゃんや兄ちゃんと同じ背格好なのにね…」とゲイルは大いに眉を下げて言った。


「これも修行です」とライジンは言って、数名の子供たちにある使命を与えた。


琵琶家一同全員が宇宙戦艦に乗って戻ってきたので、ここはライジンから信長にあるお願いをした。


「一向に構わん」と信長は満面の笑みを浮かべて答えた。


見込みがあれば自分の子にしようなどと考えていたようだ。


萩千代は親離れをしていないのだが、比較的子供たちと一緒にいることもあって、子供はどれほどいてもいいと考えているようだ。


ライジンがさっそく、八人の子供たちを紹介すると、信長は大いに好々爺となったが、また別の子供をふたり、頭をなでて指名した。


ライジンは少々戸惑ったが断わることはしなかった。


どう考えても、信長が指名した子は見込み薄なのだ。


「さすが御屋形様」と幻影が言うと、「…えー…」とライジンは嘆き声を上げてしまった。


「何ら差はないのです。

 差があるとすれば、それは心です。

 みんないい子には違いありませんが、

 細かく診断すると雲泥の差があったりするものなのです」


幻影が言うと、出番が来たと言わんばかりに咲笑がその情報を宙に浮かべた。


ライジンはこの情報を見入って、思い至ることがあったが、確かに幻影の言った通りに差はないと考えていた。


しかし、数値としてあらわすと、まさに雲泥の差で、信長が指名したふたりは誰よりも秀でていたのだ。


「本人次第ですが、この先の人生も、

 自分たちの真摯な考えで決めていくだろうと思います。

 もちろん、我が琵琶家は強要はしませんので。

 約一名、強要したい方がおられるようですが、

 私が責任をもって、本人の意思を尊重させますので」


幻影の言葉に、信長が大いに苦笑いを浮かべた。


「…奈落の術…」と濃姫がつぶやくと、信長の背筋が伸びていた。



夕餉も琵琶家とコリスナー家でともに摂ることになって、幻影は新しく抱え込んだ十名とハイネを連れて海に出た。


漁はいつも通り順調で、あっという間に戻って来て、早速厨房に籠った。


そして大勢のかわいらしいウェイトレスたちがライジンと信長のホホを緩ませて、一口食べると、天にも昇る顔をした。


「ハイネ、口上はどうした?」と信長が聞くと、「今回の調理長は、お姉さま方です」と言うハイネの言葉に、「えっ?!」と真っ先にライジンが叫び声を上げた。


「ご指導は先生が。

 私たちは調理以外のことをお手伝いしただけです」


ハイネの言葉に、「…幻影、恐るべし…」と信長がうなると、ライジンも賛同して何度もうなづいた。


「いい子ばかりなので、ハイネと同様に楽でした」


幻影の言葉に、ゲイルは苦笑いを浮かべて、「味はとんでもなくうまいが、もっときちんと切ろうよ」と言って、完全に切れていない食材を持ち上げて愉快そうに笑った。


「見た目も重要だから、

 次からは気をつけよう」


幻影の明るい言葉に、「はい! 先生!」と十名の子供たちは素晴らしい返事を返した。


「…あ、洗脳…」とゲイルは言ったが、すぐに幻影に申し訳なさそうに頭を下げた。


「ある意味間違いではありません」と幻影が答えると、「…思ったことをストレートに言っちゃあだめよぉー…」と妻のスプラッシュが眉を下げて言った。


「だけど、これほどの潜在能力をみんなが持っていたことはよくわかったの。

 厨房には、正の感情しか流れていなかった。

 その感情が、今まで以上にお料理をおいしくしたの」


スプラッシュの説明に、誰もが大いにうなづいて、幻影とその弟子たちを大いに褒め称えた。


「…じゃが、厨房に幻影がいなければ…」と信長が言うと、「…今日の記憶をある程度の糧にはできると思いますぅー…」とハイネが眉を下げて答えると、十名も自信なさげに眉を下げて賛同した。


「いればいいだけなので楽なものです」という幻影の言葉に、誰もが大いに笑った。


「…先生は、いつでも道化師なのですぅー…」というハイネの言葉に、「…そういうことか… 納得できた!」と信長は叫んでハイネの頭をなでた。


「その道化師はほかにはおらんか?」と信長が家族たちを見回して、源次にその視線が止まった。


「…頑張ってみます…」と源次は大いに眉を下げて答えた。


「内面的な性格は源次は幻影によく似とるからな。

 厳しくしたい時は弁慶でも構わん。

 それはそれで糧ともなろう」


幻影たち三兄弟は笑みを浮かべて信長に頭を下げた。


「…うちですと、ゲッタですわ…」とライジンが笑みを浮かべて言うと、「うむ、その通りじゃ」と信長は賛同して何度もうなづいた。


「その場の雰囲気は重要なことじゃ。

 腕を磨くことも必要じゃが、

 復興にはそれだけでは足りぬ。

 常に穏やかな感情をもって見守る役が一番重要なのかもしれぬな」


信長の言葉に、「私は任せっきりにしていました。その点については大いに反省です」とゲッタは負の感情が沸きそうな言葉を明るく言った。


信長はさらに納得して笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「もちろん、厨房の仕事は漁や収穫に出る時から始まっているんだ」


幻影の言葉に、弟子たちが満面の笑みを浮かべて賛同した。


「…そうか… それで必ずハイネを連れて行っておったのか…」と信長は大いにうなって、さらに納得していた。


「…特に咲笑ちゃんが大活躍ですぅー…」というハイネの言葉に、「…食材に対して真摯に向き合う、じゃな?」と信長が幻影に向けて言うと、「御意」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


ここにいる誰もが大いに納得して、朗らかな感情だけが沸いていて夕餉を終えた。



琵琶家が琵琶御殿に戻ると、スイジンを先頭にして子供たちは駄菓子づくりに勤しんだ。


「…駄菓子がうまいのはスイジンのおかげだったようだ…」とゲイルが眉を下げて言うと、「俺たちは琵琶家の神髄を知っていたのに、使っていなかった」とゲッタはまた反省していた。


その駄菓子をもらって帰った阿利渚たち子供は大いに陽気になって駄菓子を楽しんでいる。


「…むむむむむ…」と信長は大いに悔しそうに駄菓子を見つめている。


「これは大いに真似をさせてもらいましょう」と幻影は明るく言って、仲間たちに駄菓子のひとつひとつを分析して、その結果を説明した。


そして琵琶家独自の菓子にもその神髄を注ぎ込むように再構築して、さらに美味い菓子を作り上げた。



翌日、琵琶家は朝餉を摂ってからしばらくは城下を見回り、昨日の手順で右京和馬星に移動した。


しかしここで幻影はあるお願いを春之介にしようと思ったが、今はコリスナー家と行動をともにしていて仕事中だった。


よって帰って来てから願いを叶えてもらおうと思い、今日は居残りのスイジンとあいさつを交わして早速修練場で汗を流した。


今日は内地の村からも数名が来ていて、琵琶家一同とあいさつを交わして、ともにしのぎを削りあった。


コリスナー家のふたつの村と琵琶家の生活形態はよく似ていた。


大いにものづくりに勤しんで、貿易をその糧としている。


商品は主にフリージアとアニマールで消費されていて人気商品となっている。


特にゲイルが許可している取引先もあり、在庫管理などは琵琶家以上に詳細に行われていた。


商品の管理責任者はゲイルの兄のカイルとその妻のあさひだ。


コリスナー家にあって、一二を争うほどの穏やかな夫婦だが、その実態は穏やかではない。


金の竜と薄灰色の竜は、多くの商品を抱え込んで砂浜から飛び立った。


「…金竜は堅そうだし、灰色の方はさらに堅そうだ…」と幻影が大いに眉を下げて言うと、「…灰色のあさひ殿は、幻武丸も危ういと感じた…」と蘭丸は悔しそうに言った。


「無属性竜は最強の竜として、

 竜の中でも恐れられていますぅー…

 ゲイル様も、無属性竜ですぅー…

 通り名は無竜ですぅー…」


咲笑の報告に、「…実態同士の戦いだと、勝てる気がしない…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「人型で過ごすことが修行のようなものじゃな」と信長はコリスナー家を脅威に思ったが、真っ先にこの村に別荘を建てたことが間違いではなかったことを大いに納得していた。



昼餉の準備が終わったと同時に、二機の宇宙船が姿を見せて、泥だらけのゲイルたちが降りて来てすぐに、大勢の天使たちがすべてをきれいにして回った。


そして早速昼餉をむさぼって、「さらに美味い!」とゲイルは機嫌よく叫んでもりもりと食事を摂り始めた。


「…経験を積むぅー…」と蘭丸がうなり始めたので、「明日連れて行ってもらえば?」と幻影が気さくに言うと、「そうした方がよさそうじゃな」と信長もすぐに賛同したので、蘭丸は腰を低くしてゲイルにお願いに行った。


もちろん大歓迎されて、また琵琶家の一員を抱え込めることを喜んでいるほどだった。


影達はその実力を知って、今は琵琶家に戻っているので、エカテリーナとはまさに遠距離恋愛となっているが、琵琶家は毎日この村に通うので、疎遠にはならない。


この距離感もいいようで、ふたりはもう夫婦のようにして寄り添って食事をしている。


「お昼休みだから来たよ!」と今日も陽気な桜良と、低姿勢なレスターも席に誘われて食事を始めた。


「…このうまさを商用には持ち込めない…」とレスターはすべてを察してつぶやいた。


「…うふふ… お弁当屋さん…」と長春がつぶやくと、レスターは目を見開き、早速ゲイルと話を始めた。


「長春が進言したんだから手伝えよ」と幻影がにやりと笑って言うと、「…消費専門だから…」と眉を下げてつぶやいたので、誰もが大いに笑った。


ハイネが気を利かせて祭りで出して三種の琵琶家弁当をゲイルとレスターに配膳すると、ふたりは大いに味わって吟味して、「行楽弁当として採用」とゲイルは満面の笑みを浮かべて言った。


「これは、大人気になります」とほとんどを桜良に食われてしまったレスターが眉を下げて言った。


ハイネは気を利かせてもうひと揃えレスターに配膳した。


レスターは丁寧に礼を言って今回は死守して、弁当のうまさを堪能した。


売れ残ったら桜良が全て平らげることを条件として、まずは千ずつの契約をした。


そしてその安さにレスターは大いに眉を下げていた。


少し小さめだが、新たなフリージアの名物になることは桜良が証明しているので、売値を吊り上げて契約を交わした。


レスターとしては儲け主義には走らずに、その末端に恩恵を与える神としての自覚があるので、誰にも反論できなかった。


よって売値は、一般的な弁当の価格として販売することになるので、他の商品との熾烈な争いになるはずなのだ。


話しをしているうちに今日の分の商品が出来上がったので、レスターは嫌がる桜良と商品を抱え込んで、丁寧に礼を言って消えた。


「また貢献できました」とゲイルは笑みを浮かべて言って、信長に頭を下げた。


「早速共同事業とはうれしいことじゃ」と信長の機嫌はいい。


そしてハイネたちがまた同じ量の弁当を作ったのだが、今回は安土城下の観光客用のようで、ここは幻影とハイネのふたりがサルサロスに戻った。


「そうじゃ、八丁畷殿に幻影が頼みたいことがあると言っておった。

 庵の件じゃ」


信長は言って、この青空食堂の端に鎮座している社を見入った。


「わかりました、行ってきます」と春之介は言って消えた。


「…うふふ… 足かせが消えたわぁー…」と優夏は大いに喜んだのだが、その社から春之介、幻影、ハイネが出てきたので、大いに肩を落とした。


「見世物の踊り子の件か?」と信長が言って鼻で笑うと、「…はあ… もう知られていたのね…」と優夏は嘆いて、素知らぬふりをしている咲笑を見た。


「…天照ちゃんたちはどうしたのよぉー…」と優夏が眉を下げて春之介に聞くと、「観光がてら弁当売り」という言葉に、優夏は大いに眉を下げていた。


「…匂いと味が弁当から消えるとは…」と幻影が大いに眉を下げて言うと、妙栄尼が大いに食いついた。


「神の食事、目と鼻で食うっていうやつですよ。

 お供え物はそうやって神は召し上がっていると聞かされていたけど、

 その証明をしていただいた」


幻影は強制的に妙栄尼に連れ去られて、社に入った。


「…阿国の目的はなんじゃ?」と信長が光秀に聞くと、「味のない献上物を食して糧にする、でしょうか」と答えると、「そうじゃ… おいそれと経験はできんことじゃろうからな…」と信長は言って何度もうなづいた。


「…おいしいものは、おいしくいただいて欲しいですぅー…」というハイネの言葉に、「その通りじゃ」と信長は明るく言って、ハイネの頭をなでた。



「安土城下には舞台がある。

 そのアイドルとやらの興行を見せて、

 勧誘すればよい。

 我が琵琶家家人たちにも、

 大いなる修行となるじゃろうからな」


信長が語ると、優夏は百名のメンバーをすぐさま呼び出して、異様にきらびやかな歌と踊りを披露した。


琵琶家にとっては大いに刺激的で、特に阿利渚たち女子が大いに食らいついていた。


AFAエーエフエー100《ワンハンドレッド》でーす!!」と優夏が叫ぶと、阿利渚たちは夢中になって拍手をした。


「春之介さん! 配って配って!」と優夏が叫ぶと、春之介は大いに眉を下げて、踊り子人形を希望者に配った。


「琵琶家の人気投票第一位はエカテリーナだ!」と春之介が叫ぶと、優夏は大いにうなだれていた。


エカテリーナは恥ずかしいのだが、これは契約に入っているので出ないわけにはいかなかったのだ。


「…これもまた素晴らしい…」と、一票をエカテリーナに献上した影達がうなって、着せ替え人形が入っている箱を見入っている。


「…さすがに、我が母星には持ち込めんな…」と信長は残念そうに言って、大いに喜んで優夏人形に笑みを向けているハイネを見ていた。


「成り行き次第ですが、安土城下でなら問題はないでしょう」と幻影は言って、綿貫芽大瑠(めだる)人形ですでに遊んでいる蘭丸を見て言った。


優夏は簡易舞台の上で大いに眉を下げていた。


興味は持ってくれたのだが、全員ファンになってしまったからだ。


もちろん琵琶家の家人が演者に回ることは知っていたので、ひとりでもメンバーが増えればいいと思っていたのだが、ひとりもいなかったことがショックだったのだ。


幻影は演奏者の楽器に大いに興味をもって、アイドルたちの中に乱入して子細に観察を始めていた。


「男子が私たちに溶け込まないで!」と優夏が叫ぶと、「あ、俺?」と幻影は言って、現実に戻って大いに恥ずかしそうな顔をしてから席に戻った。


そして幻影はラッパに大いに興味を示したのかこの場で作り出して、その音を披露すると、「私の全ては誰のもの? いくよ!」と優夏が叫ぶと、幻影のラッパの音に合わせた音が鳴り響き始めた。


まさに男性らしい幻影のラッパの音が見事に溶け込んで、AFA100の仲間入りを果たしていた。


演奏が終わり、「戦いののろし」と幻影が言うと、信長は、「そうじゃそうじゃ!」と膝を打って大いに笑った。


優夏は仲間たちを見回して、「…うちのメンバーが、幻影君のファンになっちゃったわ…」と眉を下げて言った。


「…にぎやかしにはいいわい…」と信長は大いに眉を下げて言った。


優夏はメンバーを開放して一瞬にして舞台装置を片付けた。


「…にぎやかしに行くわ…」と優夏が眉を下げて言うと、幻影は少し考えて、「萩千代様の誕生祭がまだです」という言葉に、信長と濃姫が大いに食いついて、「祭りじゃ!」と信長は陽気に叫んだ。


「…この高揚感は重要だ…

 俺たちにはないはずだ…

 やはり、家族だけで生きることには限界があるのか…」


ゲイルが大いに嘆くと、「アニマールに来てやってくれたらいいよ」と春之介が気さくに言うと、ライジンも大いに乗ってきた。


「…これは… 神として信者を抱え込むような…」とゲイルが言うと、「おう、あるな」と信長はにやりと笑って言った。


「自然界は見ておる。

 そして策略は何もないことも知っておる。

 よってそのおこぼれが我が琵琶家にも降り注ぐ。

 詳しいことは、最近知ったばかりじゃがな。

 もちろん、祭りばかりやっておっては、

 自然界はいい顔はせぬから、

 その代わりに祭りの前に前倒しして宇宙に出る!」


信長の決断に、琵琶家一同に緊張が走ったが、すぐさま一斉に頭を下げた。


「初戦は全てお任せいたします」という幻影の言葉に、「おう! 任せておけ!」と信長は機嫌よく叫んで胸を張った。


「では、行くぞ?」という信長の言葉に、―― 今だった!! ―― と誰もが大いに驚いたが、これも予想した圏内なので、一斉に頭を下げた。


「では術を放つ!」


信長は叫んで、幻影をにらみつけて術を放った。


にらんだのは信長の厳しさのようなもので、感情的にはそれだけのものだった。


幻影は一瞬目を見開いて、「咲笑、急げ!」と叫びながら全員を放り投げるようにして宇宙船に詰め込んだ。


「出ました!」と叫んだ咲笑を抱いて幻影も宇宙船に乗り込んで消えた。


「…うわぁー… 行った方がいいようなぁー…」と優夏が眉を下げて言うと、「…それなり以上にひどいところのようだね…」とゲイルが大いに眉を下げて言った。


「…もう、終わっちゃったぁー…」とベサーニが大いに嘆くと、「たわけの術、恐るべし、だね…」とゲッタは大いに眉を下げて言った。



武力は信長の一声で一瞬にしてそいだのだが、忙しいのはこれからだ。


まずは人命救助に走り回り、一部は武器の始末を担当して、小競り合いのある場所に乱入しては、すべてを寝かしつけた。


武器や軍事施設はすべて解体して溶かしたり合成して、大きな町を作り出す材料に変えた。


治療班の数名は炊き出しに回って、ハイネが責任者となって大いに働く。


数十名の不幸に見舞われた者たちに安寧にと祈りを捧げ、山の近くのわずかにある平らな場所に、その躯を埋葬して、妙栄尼が経を上げ始めた。


琵琶家一同が安心してこの地を離れたのは二日後で、宇宙戦艦はこの地の者たちに惜しまれながら帰路についた。


この日は安土城で全員で眠りについて、起きてすぐに、ハイネが用意していた弁当を大いに食らって、風呂に行ってから、本格的な食事を堪能した。


「…お仕事、きちんとできたぁー…」とベティーは大いに喜んでいて、信長と濃姫に大いに褒められていた。


「咲笑、我らの仕事の情報をすべて流しておいてくれ」


信長の言葉に、「はぁーい!」と咲笑は陽気に答えて、この三日間の蓄積した事実をすべてストレージに送信した。


その途端、様々な場所から通信が飛んできたが、優先順位を考えて咲笑はその映像を宙に浮かべた。


一番はやはりゲイルと春之介の文書で、信長はその内容を読んで何度もうなづいた。


すると咲笑は、「お弁当卸してって…」と眉を下げてハイネに言うと、「二日ほど反故にしてしまったな」と信長は言ってハイネに製造の許可を出した。


「あ、その件は気にしないでって、レスター様の文書が来ていますぅー…」と咲笑は眉を下げて報告した。


「…桜良様は手厳しい…」と幻影が苦笑いを浮かべて言うと、「…ご本人が食べたいそうですぅー…」という咲笑の返答に、誰もが愉快そうに笑った。


「ほかに重要文書は?」と信長が催促すると、「ロストソウル軍の王が謁見したいという嘆願書が来てますぅー…」と咲笑は言ってその映像を出した。


「あとはどう考えても、琵琶家に近づくことが目的の文書のようですぅー…」


信長は何度もうなづいて、「用があればこちらから出向くと返信しておいてくれ」と言った。


ロストソウル軍は無視できない存在で、全宇宙の九割以上の平和はこの軍によって成し遂げられている。


一千万人を超える大きな組織なので、さすがに無視することはできないのだ。


よって信長は考えられることすべてを入れ込んだ文章を作成して、その画像そのままをロストソウル軍に返信した。


「結局は、我らの思うままに人助け手助けをするだけじゃ」


信長の言葉に、家人たちは一斉に頭を下げた。


「次回の旅は本来の予定した期日とする。

 その間に祭りをやるぞ!」


信長は断言して、ベティーを抱き上げた。


「…お着物、見立ててくださるのよ?」とベティーは言って、沙織たちを見た。


「全宇宙一の姫に仕上げてやろう!」と信長は号泣しながら叫ぶと、濃姫も笑みを浮かべて涙を流していた。


そんな中、―― しばらくは御屋形様に頼った方がいいか… ―― と幻影は考えていた。


不幸な惑星にたどり着いた瞬間に信長は、「たわけがっ!!!」と一喝しただけで、すべての戦いが止まったのだ。


よってひとりでも多く助けられることにもつながったのだ。


―― いや、我が母星にだけ使うことにして… ―― などとさらに考え込んでいると、「珍しいな」と信長が幻影に気さくに声をかけた。


「参謀の悩みもわかる。

 ワシが全てを吹っ飛ばして、

 我が琵琶家家人に糧があるのかという点じゃ」


信長の言葉に、誰もが信長の言葉に集中した。


「今回の場合は手を抜くことは許されんかった。

 まさに、罪のない者の首に刃がかかっておったからな。

 よって、最善の方法としてワシは叫ぶ。

 ワシを信じて、あとは幻影の指示に従え」


信長の言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「御屋形様の予言の代弁者は兄者だけでしょうか?」


弁慶の言葉に、「今日の仕事を見て数名いることに気付いた」という信長の言葉に、「おお…」と誰もが低くうなった。


「もちろん、幻影だけに重荷を背負わすわけにはいかんこともある。

 まずは我が妻、濃姫じゃ」


信長の言葉に、濃姫は大いに眉をしかめた。


「一刻を争う事態じゃから、

 冷静に判断せぬと咲笑が読み解けぬからさらに修練を積め」


信長の厳しい言葉に、濃姫は表情を変えずにうなづいて、咲笑とベティーを抱きしめた。


「進言した弁慶もそのひとり。

 源次とさらには信幻。

 その日が来ることを楽しみにしておる」


信長の言葉に、名が上がった者たちは高揚感を上げて素早く頭を下げた。


よって咲笑が大人気となって、琵琶家でも最高級の猛者たちに囲まれて陽気になっていた。



―― 進言してよかったのか… ―― と健やかに眠ってしまった源次と信幻、そして濃姫を見て、弁慶はさらに気合を入れた。


咲笑の修行はそれほど楽なものではなかった。


咲笑が信長の予言を対象者に伝え、そのすべてを咲笑がわかるように伝える必要があるのだ。


うまくできたとしてもその心労や精神的負担は大きく、源次たちのように眠りに誘われてしまうのだ。


「…弁慶様は気功術だけなのにぃー…」と咲笑は言って、能力者である濃姫を見て眉を下げていた。


「できれば完璧に兄者の代わりを務めたい。

 これは俺の持つ、唯一の欲だ」


「自然界はそれを欲とは認めていないってぇー…」という咲笑の言葉に、弁慶は大いに喜んでいた。


「おほほほ!」と遊びに来ていたマリーンが朗らかに笑った。


今はその威厳を十分の一ほどに抑え込んでいるので、やさしそうなお姉さんでしかない。


やはり琵琶家にとって居心地のいい城下町であってもらいたようで、ガイアが進言してマリーンが実践しているのだ。


もしも今までのままだと、琵琶家がこの地を去ってしまうことを大いに懸念してのことだった。


数少ないサルサロス星の貢献者を無碍に手放すわけにはいかなかったからだ。


そしてもうひとり、我慢できなかったのか、極に許可を得て、黒豹のサルサロスがやって来て、大いに信長に甘え始めた。


「…お前は琵琶家が面倒を見ることは不可能じゃ…」と大いに残念そうな信長の言葉に、「えー…」とサルサロスは大いに嘆いた。


「獅子丸と同じように考えただろ?」と幻影が言うと、「う、うん…」とサルサロスは困惑して答えた。


「獅子丸は、はっきり言って俺たちの引率者でもあるが、

 守る存在でもある。

 一方サルサロスは客人であり、

 その客人を守るのは、サルサロスが支配する者たちだ。

 よって、煌様に頼み込んで、

 サルサロスを守れる守護者を任命してから来て欲しいんだよ。

 本来ならば、サルサロスがひとりで出歩くのもどうかと俺は思う」


幻影の言葉に、「…琵琶家から見て、よそ者の面倒までは見られない…」とサルサロスが要約して言うと、「ああ、その通りだ」という幻影の言葉に、「…幻影兄ちゃんは誰よりも厳しいよ、やっぱ…」とサルサロスは言って、大いにうなだれた。


「…その割には遠慮なしじゃな…」と信長が言って軽く笑うと、「格式ばったことだけですので」と幻影は笑みを浮かべて答えて頭を下げた。


「…だから極兄ちゃん、笑ってたんだぁー…」とサルサロスが大いに嘆くと、「さっさと守護者を任命して来ればいいさ」という幻影の言葉に、「…そうするぅー…」とサルサロスは比較的明るく答えて、家人たちに手を振って部屋を出て行った。


「…とんでもない人を連れてこなきゃいいが…」と幻影が大いに眉を下げて言うと、「友人を連れて来るじゃろうな」と信長は確信して言った。


「…かわいい子に旅をさせますか…

 ですが、燕様が黙っていないと思います」


「ついてくるさ。

 そのついでに、世話係を任命してここにやってくるじゃろうて」


信長の言葉に、「…おっしゃる通りになりそうです…」と幻影は大いに眉を下げて言って、頭を下げた。


サルサロスは意気揚々と戻って来て、かなり使える小隊を引き連れてやってきた。


案の定、サルサロスはお付きとして極と燕の息子の宇宙を指名して、大いに反抗した燕がついてきた。


そして極の指示で天使二名が同伴して、ひ弱そうに見える女性とまさに軍人と思わせる男性が一番後ろにいる。


「…宇宙が刺激されちゃって…」と燕が言い訳がましく眉を下げて言うと、「このサルサロス星がお出かけするんですから、次代を担う若者がお付きであることは当然でしょう」と幻影は笑みを浮かべて言った。


幻影は時折出会う少女のサエと軍人のブラックナイトに改めて挨拶をした。


そして天使二名はまさに琵琶家の天使たちのお手本ともいえる、素晴らしい成長を遂げていた。


やはり実戦と人助けということもあり、天使に経験を積ませることは重要だ。


「…お前ら二人、変身しろぉー…

 …いや、本性を現せぇー…」


蘭丸が鬼気迫る勢いでサエとブラックナイトに向けてうなると、サエは黄色い虎の獣人に、ブラックナイトは黒い虎の獣人に姿を変えた。


「…おまえら、琵琶家の一員になりやがれぇー…」と蘭丸がうなったが、ここは幻影が止めた。


「煌様がよく許しましたね」と幻影が虎の獣人ふたりに言うと、「総司令が同行したいほどでしたので」とブラックナイトが答えた。


「俺は天使たちの護衛だぁー…」と人間と獣人では性格が真逆のサエがうなった。


「保身第一で構わないから」と幻影は笑みを浮かべて言った。


全員が知らない仲でもないので、都合がいいように過ごすようにと、信長が語った。


サエはすぐさま人型を取って、ハイネに寄り添った。


サエは調理修行中で、ここぞとばかりにハイネの弟子となっていた。


天使二名は妙栄尼に挨拶をして、もうすでに琵琶家に溶け込んでいた。


燕は宇宙から離れることなく、サルサロスとともにいる。


ブラックナイトは幻影とともに、組み手場に移動していた。



幻影は今回は無手でブラックナイトと向き合い、忍びの技を披露した。


ブラックナイトは大いに戸惑ったが、すぐさま冷静になり、動物的勘を大いに働かせて、狙ってではなく無条件反射に任せて、姿なき幻影を追い始めた。


獣人は優秀になればなるほど、動物に近くなると幻影は大いに思い知って、大胆にもブラックナイトの真正面に姿を見せた。


ブラックナイトはここも無条件反射に従って、素早く下がった。


「終わりでいいかな?」と幻影が聞くと、ブラックナイトは流れる汗をぬぐうことなく頭を下げた。


「最後の判断を間違っていれば、

 ナイトさんは吹っ飛んでいたはずなんだけどね。

 まさかそこまで悟られているとは思いもよらなかったよ」


幻影の気さくな言葉に、「…私はようやく成長を遂げたと自負しております…」とつぶやいて、頭を下げた途端に膝から崩れ落ちたが、幻影が術を使って宙に浮かべて銭湯に連れて行った。


「…俺のしもべをイジメやがったな…」と蘭丸はにやりと笑って言った。


「イジメないと強くなれなかったそうだ」


幻影の言葉に、蘭丸は愉快そうに大いに笑っていた。


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