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赤遊山 akayusan


     赤遊山 akayusan



世界銀行本店の業務開始は十日後ほどになりそうなので、琵琶家は生実に戻って、食材を仕入れてから製造を開始した。


その中で幻影はハイネを連れて、江戸湾の沖合の海の上にいた。


「…ああなるほど… 張り詰めたものを感じられないな…

 サルサロスの海とは様子が随分と違うとはっきりとわかる」


幻影はこう言ったがハイネにはわからないので大いに眉を下げていた。


幻影はハイネとともに釣り糸を垂れて、釣り場を変えながら多くの魚を釣って生実の琵琶御殿に戻った。


「…今日もごちそう…」と長春は満面の笑みで言って、刺身の盛り合わせに舌鼓を打ち始めた。


「食材は似たり寄ったりだ!

 やはり、料理人の考え方と覚悟と腕が違うわい!」


信長は多少酒も入っていて、大いに機嫌よく、大いに饒舌だった。


「ちなみにハイネは、好きになったおのこはおらんのか?!」と信長は上機嫌に叫んだ。


ハイネはいきなりのことで大いに戸惑って赤面した。


実はハイネには好きな人ができてしまっていたのだ。


「おっ おるのか…

 …それは、どこの馬の骨だぁー…」


信長が本気で畏れを垂れ流すと、特に琵琶家の男どもは大いに怯えていた。


「…叱られるので、お話しできません…」とハイネはさらに顔を赤らめて言った。


「ハイネちゃんじゃなくてね、好きな人が叱られるからイヤなんだって」


阿利渚の助け舟に、信長は大いに眉を下げていた。


「…ま… まあよい…」と信長は言って、猪口の酒をあおるようにして飲んだ。


やはり子供と決めた子が嫁ぐとなると寂しいものがあるようだ。


「調子に乗り過ぎです」という濃姫の言葉に、信長はわずかに首をすくめて大人しくなって、手酌で猪口に酒をついだ。


濃姫の助け舟にもハイネは大いに感謝したが、女性たちが興味津々でハイネを見ていたことに、「この件は終わり」という幻影の言葉にも助けられて、ハイネはほっと胸をなでおろした。


「まさかこいつじゃあるまいな?」と蘭丸が抜き身の幻武丸を幻影の肩に乗せて聞くと、「…全く気付かなかった…」と幻影は大いに嘆いた。


「…先生は大好きですけど、

 もちろん別の方ですぅー…」


ハイネが大いに眉を下げて言うと、「…あら、いつの間に…」と蘭丸は言って幻武丸を鞘に納めてから、異空間ポケットに入れ込んで、「ああ、ほんにおいしいわぁー…」と妙にわざとらしく感想を述べて刺身に手を伸ばした。


「だが、おかしいな…」と幻影は言って、長春、阿利渚、桃源の三人を見まわした。


「…わかんないのぉー…」と長春は大いに眉を下げて言うと、「ああ、脳内検索不可ブレインロックか」と幻影が言うと、ここは出番とばかり、咲笑が姿を見せて、映像を宙に浮かべて説明をした。


そして褒美とばかり、幻影にうまいものを食べさせてもらった。


「とと様は知ってるの?」と阿利渚が小首をかしげて聞くと、「知っていたとしてもハイネが嫌がることがわかっているから言わないぞ」と穏やかに言って、阿利渚に鯛の刺身を食べさせて口をふさがせた。


「…話してもいいので、食べさせてくださいぃー…」とハイネが言うと、幻影は大いに笑ってから、ハイネ、桃源、蘭丸に刺身を食べさせた。


「…ああ、平和じゃ…」と信長が感慨深く言うと、「…平和を乱そうとしたのはどこのどなたでしょう…」という濃姫の言葉に、信長は今度はこれ以上ないほどに首をすくめていた。


「ハイネ、告白しても問題ないわよ」と濃姫が自信を持って言うと、「…はい、奥様…」とハイネは小声で答えて頭を下げた。


「…お前は、知っておるのか…」と信長が大いに嘆くと、「教えて差し上げません」と濃姫は言い切って、大名煮の蓮根を口に運んで満面の笑みを浮かべた。


「人間的観察も侮れません」という幻影の言葉に、誰もが一斉に幻影を見た。


「そうね、距離感を見ていると自然に納得したの」と濃姫は自慢げに笑みを浮かべた。


「探るんじゃなくてただ気になっただけ。

 こういうのは女の勘というやつね」


濃姫は言って、これ見よがしに信長を見入った。


「いえ、さすが奥様です」と幻影は言って頭を下げた。


「じゃ、食べさせて」と濃姫が言うと、ここは阿利渚たちが大いに幻影の手助けをして、濃姫に懐き始めた。


「…女は怖い…」と信長が小声で言うと、幻影と蘭丸はすぐに後ろを向いて笑っていた。



琵琶家にも自由時間はあるのだが、それが本当の意味でその通りかといえば少々違う。


ほとんどの者が自分だけの時間を持たないのだ。


ハイネは偶然か策略があってのことか、意中の男子の目の前にいた。


今は比較的低年齢の同年代だけが集まって、極にもらったボードゲームを楽しんでいる。


大勢いればいるだけ楽しいので、子供たちは大いに歓声を上げる。


ハイネの意中の男子は同じ組になって、最下位だったので、罰としてにらめっこの最中だった。


『大好きです、信幻様』とハイネが信幻に念話と送ると、「えっ?」と信幻は素っ頓狂な顔をしてつぶやいた。


しかしハイネがその顔に指を差して大いに笑ったので、誰もが釣られて大いに笑った。


「…今のはわかったぁー…」と、精神年齢が同年代の長春は両手のひらで口をふさいでつぶやいた。


「…いやぁ… 参った…」と信幻は大いに赤面してつぶやいた。


ハイネが信幻を見初めたのは、まさにすべてにおいて真摯な部分だ。


そして失恋の痛手を負っていることも知っていた。


ハイネは阿利渚のようにはなれないが、少しでも力になれたらと思っているうちに好きになってしまっていたのだ。


まさに見た目にもいい男なので、年長者も信幻を狙っているほどだった。


「ハイネ、個人的に付き合ってくれないか?」


ここは信幻から積極的に告白すると、「…はい、喜んで…」とハイネは大いに赤面してつぶやいた。


「外で花火でもどうだい?」と信幻がさらに積極的に逢引に誘うと、「…はい、信幻様…」とつぶやいて、信幻の後ろ姿を見入ったままついて言った。


「…キュンキュンするわぁー…」と沙織が言って胸を押さえつけていると、志乃も同じ姿で、「…ほんに…」とつぶやいた。



「なんと! 信幻じゃったかっ?!」と離れていても察した信長が叫ぶと、「それは何より」と幻影は穏やかに言った。


「…なんじゃ、知っておったのか?」と信長がつまらなさそうに言うと、「いえ、誰にでも可能性はあると思っていただけです」と幻影はすぐさま答えた。


「ですが奥方様の助言を聞いて、

 なんとなく信幻だろうと察しはつけていました。

 ハイネはできれば信幻の近くに寄らないようにしていたと感じていましたので」


「…ほう、そういう距離感か…」と信長は言って、幻影に徳利を突き出した。


幻影は少し頭を下げて、猪口を差し出すと、「…ほんに平和だと感じますなぁー…」と高虎は言って、猪口の酒を飲みほした。


信長がすぐさま高虎の猪口に酒をついで、「…終わってしまった…」と信長は大いに嘆いた。


「では、口直しのうまい酒を用意しましょう」と幻影が言って立ち上がると、「おお! そうか!」と信長は上機嫌で言った。


幻影が持ってきたのは冷酒で、たくさんの氷の中にガラス製の瓶が入っている。


そして焼き物の湯飲みではなく、こちらもガラス製の湯飲みだが、妙な形をしている。


「ワインというもので、主に葡萄を発酵させて作った酒です。

 今回は初めての味見なのです。

 西欧にも同じようなものがありますが、

 製造に関する知識はサルサロス星で仕入れたものです」


幻影は言って、高杯のようなガラス製のグラスに赤いワインを注いだ。


「む? 子供用の飲料ではないのか?」と信長は怪訝そうに言ったが、すぐに、「いや、酒の匂いがする…」と言って、幸せそうな顔をした。


「飲み過ぎなければ体にもいいそうです」


すかさず幻影が言うと、「…よくわかっておる…」と信長は言って大いに眉を下げた。


そしてグラスを手に取って、ちびりと飲むと、「うぬ! 甘口じゃが、これはうまい!」と叫んで、グラスのワインを一気に飲み干した。


高虎も大いに陽気になって、信長の真似をした。


下戸の嘉明は、楽しそうな三人を見ているだけで眉を下げている。


「ささ、嘉明様も」と幻影は加減をしてグラスに注ぐと、「済まぬな」と嘉明は言ってちびりと飲み、「…これは…」と嘉明は言って、またちびりと飲んだ。


「梅酒と思えばその通りかと」という幻影の言葉に、「…なんだか食前酒のようで、飯を食いたくなる気分じゃ…」と嘉明は機嫌よく言った。


「今日は肴は準備していませんので、

 後日ご期待のほど」


幻影の言葉に、三人は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


三人で二杯ずつ飲んで、今夜の晩酌は荒れることなく無事円満に終了した。



「うまい晩酌のために大いに働こうぞ!」


気合いの入っている信長に、「はっ!」と誰もが答えたが、やることはいつものように菓子などの製造だ。


今日も幻影とハイネは別行動で、いつものように海の上にいた。


幻影はかなり小さい投網を持ってきていて、「今日は神頼みということで」と言うと、ハイネは愉快そうに笑った。


戦艦は潮に流されていき、そして幻影は目ざとく魚群を見つけて、大いに引き付けて投網を投げた。


網はきれいに傘を開いて、魚群の中央に達して、錘の重さによって魚を閉じ込める。


幻影は間髪入れずに投網の綱を引くと傘はきれいに閉じる。


「大漁大漁!」と幻影は大いに喜んで叫んだ。


狙っていたわけではないのだが、今日は小物が多いが稚魚はいないので、選別しながらクーラーボックスに投げ入れる。


秋刀魚のような長細い魚が多くいて、咲笑の検査により、秋刀魚とよく似て脂の多い魚と診断された。


するとその中に数匹だけ蛇のような黒いものもいたが、「…海だが、鰻じゃないのか?」と幻影がつぶやくと、「…絶対においしいぃー…」と咲笑が言ったので、幻影は大いに笑った。


「それにでかいな…

 一匹で五人前ほどはとれそうだ」


幻影は言って、家族の人数分はあると思いこの場は納得して、場所を移動して潮がぶつかる海域に出た。


船は枯葉のように右往左往とするが、横倒しになることはなく、この海域を巡行するように移動を繰り返す。


「今回は何がかかるかな?」と幻影が言うと、ハイネはワクワクしていた。


先ほどと同じように魚群を探って投網を投げ引き上げると、「ん? 鯵か?」と言いながら網を解いた。


今回は鰺に似た魚が全てだが、稚魚もいたのですぐに海に投げ入れたた。


それでも大漁で、「八割は干物だな」と幻影は言って、今夜の夕餉の調理方法を語ると、ハイネは何度もつぶやいて覚え込む。


幻影は戦艦を飛ばして、養鶏場に飛んで玉子を手に入れた。


「明日の朝餉用に出汁巻きを焼くぞ」


幻影の言葉に、初めての料理だったのでハイネは大いに緊張したが、大いに喜んでいた。



「…今日はまた色とりどりになりそうだね…」と弁慶は大いに眉を下げて、今日の収穫の食材を見て言った。


「そうなるよな。

 じゃ、説明するぜ」


幻影は言って、魚の調理方法を語り、ついでに体も動かし始めた。


そして理解を終えた者から順に調理に取り掛かる。


ハイネもすぐに調理を始めると、「おっ! さすがだ!」と幻影に褒めてもらって笑みを浮かべた。


「…今日の夕餉」と信長が厨房に顔を出してすぐに引っ込んだ。


あまり見ない方が絶対にうまいはずと悟ったからだ。


そして厨房を出ても、うまい匂いがくつろぎの間に届くので、誰も来ることはなかった。



まさに今夜の夕餉は色とりどりで、「…夕餉何回分じゃ?」と信長が眉を下げて言うほどだった。


そしてうまい匂いにつられるように、極と燕がやって来て、幻影と席を同じくした。


「…何とでかい鰻じゃ…」と信長は重箱に入っている重厚な鰻を見て満面の笑みを浮かべて食らいついた。


「…ああ… できれば罰が当たらないように…」と長春が言ったので、幻影たちは大いに笑った。


そして焼いた秋刀魚も大絶賛で、鰺のフライも大好評だった。


しかし信長はまだ足りないようで、「ハイネ、鰻はまだあるか?」と控え目に聞いた。


「はい、ございますので少々お待ちを」とハイネは言って、厨房に消えた。


「…おにいちゃぁーん、鰻、まだあるのぉー?」と長春が大いに甘えて聞くと、「あるが、ひつまぶしになるぞ」と幻影が言うと、「…ああ、それもいいぃー…」と長春は笑みを浮かべて言った。


幻影と入れ替わりにハイネが戻って来て、鰻の重箱を置いた。


「うむ! これもうまそうじゃ!」と信長は機嫌よく言って、豪快に食した。


幻影はひつまぶしを作って持って来て、保温用の容器に飛魚出汁を入れて持ってきた。


「最後は茶漬けでしめてくれてもいいぜ」という幻影の言葉に、女性たちは早速薬味などを入れてひつまぶしの出汁茶漬けを楽しんだ。


信長が重箱を食い終わると、ハイネがひつまぶしの茶漬けを準備した。


信長は上機嫌で何度もうなづいて、「お前ら! ひと言美味いとでも言わんかっ!」と大いに叫んで茶漬けをかき込んだ。


もちろん誰もが、「美味い!」「美味しい!」と大絶賛を始めて、ハイネは満足そうに笑みを浮かべた。



「…長春ではないが、罰を食らいそうじゃ…」と信長はすべてを平らげてしみじみと言って手のひらを合わせた。


「美味いものを食することは商売には必要なことですので、

 罰は下らないと察します」


落ち払っている幻影の言葉に、「うむ、そうじゃな」と信長は言って何度もうなづいた。


「…これほど食って当然だよ…」と満腹になった極が少々嘆き気味に言った。


「…最後のお吸い物がすっごくおいしかったぁー…」と燕は言って笑みを浮かべた。


汁物は二種類出て、ひとつは浅利の潮汁と、もうひとつは鰻の肝吸いだ。


ここからまた食事を摂りたくなるような絶品の二椀だった。



翌朝の朝餉時に、なぜだが憤慨しているマリーンがやってきた。


まさに、美味いものを食い逃したといわんばかりだった。


お付きの極と燕は、信長に頭を下げまくっている。


「毎食、こちらでいただいても構いませんよね?」


マリーンの言葉は願いではなく命令だったが、「一向に」と信長は笑みを浮かべて言った。


「じゃが、後ろめたさが沸かぬか?」


信長の言葉に、「…天使たち全員引き連れて…」といい始めたので、ここは燕が母の威厳を出して雷を落とした。


「…朝食だけ、ありがたくいただきますぅー…」とマリーンは泣きべそをかきながら渋々言った。


朝餉は質素なものだが、料理の数が多い。


これは最近始まったことで、色とりどりで朝から大いに食欲がわく朝餉になっている。


幻影が気を利かせてマリーンに昨晩の残り物を出すと大いに喜んで、ガイアに変わって大いに食らった。



朝餉が終わると、大勢の観光客が来たと思ったのだがそうではなく、大勢の警察官に護衛されて、ダイサクがここで働く銀行員を連れてやってきたのだ。


警官もこの地で勤務に就くので一石二鳥だった。


しかしマリーンが極を連れて外に出て、警官を三名、銀行員を二名宙に浮かべた。


「あなた方の眼は節穴ですか?!」とマリーンが本気で怒ると、ダイサクと警察署の次長が駆け寄って来て大いに頭を下げた。


宙に浮いている警察官の中に署長がいたことは心の負担としては大きい。


「…朝食のご利益があった…」と信長が小声で言うと、幻影は控え目に笑っていた。


極が五人の思考を探って、「…まあ、ほぼミーハー…」と眉を下げてつぶやいた。


しかしマリーンの言葉は絶対なので、「この五人は二度とここに入れないように」とそれぞれの責任者とマックラに言った。



ダイサクも、―― 見る目がない… ―― と大いに嘆いているのだが、気丈に補充の二名をこの場で決めて連絡を入れた。


「そのうちのひとりはダメです!」とまたマリーンの指摘が入った。


しかしダイサクは自信を持って、理由を告げたのだが、「だからその場から抜いてはいけないでしょ?」とマリーンに穏やかに諭されてしまった。


「…まあ、あなたのお爺様の人選よりはかなりマシでしょう…」


マリーンがため息交じりに言うと、「…ありがとうございます…」とダイサクは言って、祖父が大いにプッシュした二名をにらみつけた。


「…自慢したのにぃー…」とそのうちの一名が大いに嘆き始めたが、ダイサクは無視して二名を強制送還の刑に処した。


この役は極が引き受けて、ふたりを消してから新たな二名をここに引き寄せた。


ダイサクは驚くことなく、「今日はここで仕事をしてください」と穏やかに言うと、驚いている事務服姿の二名はすぐさま頭を下げた。


この地への引っ越しもあるので、この件は極が引き受けているので、その仕事の延長のようなものだ。


今日のところは銀行を営業できる準備に来たようなもので、もちろん警察署もその通りだ。


その警察の方は燕が引き受けて、三人を消して新たな三名を念話で指示した。


もちろん警察のトップとも知り合いなので話は早かった。


「あんたの進退も考えておいた方がいいわよ」


燕の本気の言葉に、「…相変わらず厳しい奥さんだ…」と、ここに飛ばされてきた新しい警察署長が眉を下げて極に言った。


「まあ、しばらくは兄さんが妥当だろうね」という極の言葉に、「興味もあったから丁度良かった」と、この地の署長になった極の兄の為田六三四が気さくに言った。


六三四はまずはマリーンとあいさつを交わしてから、マックラと信長に挨拶をした。


「煌殿のご兄弟で、武闘派は少ないそうじゃな?」と信長が聞くと、「ほとんど頭でっかちな者ばかりですから」と六三四は笑みを浮かべて言った。


「いや、町の治安の維持はお任せしよう」と信長は機嫌よく言った。


よって琵琶家が雇っていた用心棒はお役御免なのだが、雇う時に幻影の言っていた通り無職となったので、ここはめでたく萬幻武流の門下生となって家族が増えた。


幻影の指示で、師範代総代の弁慶が全てを引き受けたので、幻影とハイネは今日も戦艦に乗って、海に向かって飛んだ。



今日はそれほど漁をする必要はなく様子見のようなもので、いつもよりもかなり気楽なものだった。


幻影が兼ねてから狙っていたものを手に入れる予定なので、今日の夕餉はその食材を中心にして料理を作るからだ。


しかし事はうまく運ばないようで、また偶然にもキングの群れと遭遇した。


しかしここは涙をのんで、家族が食うものと法源院屋に卸す分だけを獲り、意気揚々と極に教えてもらった農地に飛んだ。


ここの村長はまさに気さくで、有名人の幻影と朗らかにあいさつを交わして小さな空飛ぶ戦艦を見入っている。


村長のお付きの者が、この地でしか生産していない作物を持ってくると、幻影は大いに笑った。


「新しい苗は、この中にたんまりと抱えていますから」と村長は言って、大人でもひと抱えはある巨大な丸い実を叩いた。


そして同じ種類に見える、妙に四角い実を見て、「こちらの方が濃厚ですじゃ」と機嫌よく言った。


「マリーン様も大好物だそうで」と幻影が聞くと、村長は満面の笑みを浮かべてうなづいた。


ハイネは不思議そうにしてふたつの実を見入っているばかりだ。


この星に住んでいても、この実は流通していないので、知らなくて当り前だった。


今は隠して栽培する必要があるので、慎重に取り扱っている。


特に食用肉の動物を育てている農家にとっては大打撃となる作物なのだ。


酪農家の身の振り方を考えさせてから、この実を流通に乗せるという、極の長期の計画でもあった。


そのひとつはもう始まっていて、牛の乳と同じようなものを絞り出せる野菜の実もあり、さらに安くて牛乳よりも栄養価が高いので、純粋な牛の乳はすたれつつあるのだ。


獣人が住んでいるこの星は、昔から食用肉についてはいざこざが絶えなかった。


それを一気に払拭するものが、このドドンガの実だった。


育ち方としては西瓜のようなもので、巨大な弦から実りを得る。


しかし養分を大いに食らうので、この作物は根枯らしの実という別名もある。


よって今回作った農地には最適なので、幻影は極に頼み込んで生産することに決まったのだ。


幻影とハイネは村長に礼を言って、二種類のふたつの実を持ち帰った。



ふたりを乗せた戦艦はまずは農地に降りて、手つかずの農地で、ドドンガの実を切ってから、すぐにクーラーボックスにいれ、中央部分にたんまりとある種を取った。


丸い大きい方は種が四角く、身が四角い方は種が丸いので、栽培する時に間違えることはない。


幻影はそれぞれ三個ずつ種を植えて、肥料と水をたんまりとやって、一気に成長させると、ハイネは大いに目を見開いた。


「…なるほど… 土地がやせた…」と極は眉を下げて言った。


しかし収穫したものは丸々と太っていたので問題はないが、農地は一から作り直しになった。


このドドンガの実にふさわしい農地の計画はもうできていて、極からもらった黒い土をかなり深い場所に巻いてから土を戻して、また黒い土を撒く。


これが特別な肥料のようなもので、人助けの救世主でもあるのだ。


そして試しにまた成長させると、今度は土地がやせることはなく、美味そうな実がなった。


幻影は間隔を考えて種を植えて、どちらも五十ほど植えてから、戦艦に乗って安土場に戻った。



時間は昼餉前なので、大きなドドンガの実の方を使うことにした。


こちらはたんぱくな味わいなので、野菜に混ぜて炒めると、食欲増進にもつながる。


少量だが、キングの握り寿司も添える。


昼餉にはちょうどいい量だろう。


さらに関名物の味付けの濃い煮物を用意した。


そして、うどんとそばを打って、昼餉の準備は終わった。


ハイネはすぐさまこの場で食事を摂るようにして地味をして、幸せそうな顔をした。


幻影はそんなハイネを見て笑みを浮かべてうなづいているだけだ。


今食べておかないと、食べる時間が制限されてしまうので、幻影もハイネに付き合った。



幻影たちが配膳を始めると、ハイネは信長に配膳して、口上を流ちょうに語った。


「…これは素晴らしい…」と信長は言って、ハイネの心地良い口上に眠ってしまったように瞳を閉じてうなづいている。


口上が終わると、「大儀であった!」という信長の最高級の言葉を聞いて、ハイネは満面の笑みを浮かべて頭を下げて、幻影たちを手伝った。


「…肉じゃなくて野菜なんだぁー…」と長春は言ってドドンガの実を口に運んで、さも幸せそうな顔をした。


これには巖剛と獅子丸が大いに反応して、ぺろりと平らげて、もうすでに皿を入れ替えたハイネに笑みを向けて、今度は味わうようにして食らい始めた。


「…キングのお寿司もおいしいぃー…」と長春は上機嫌に言った。


「さらに欲を持たないと来てくれるようだ」と幻影が言うと、誰もが陽気に笑った。


法源院屋は今回は高値で買って、半分は丁稚たちの腹に収まることになっていた。


麺屋にも出したのだが、食いたいのだが手が出ないのが、一般庶民の苦悩のようなものだ。


ドドンガの方はまだ市場には出さないが、昼餉時を狙ってなのか極と燕がやって来て、ご相伴に預かった。


「まずは切り身にして売ろう」という極の鶴の一声に、幻影とハイネは笑みを浮かべて頭を下げた。


「もうひとつの方は夕食用だね」と極が朗らかに言うと、「…まだ新たな作物があったかぁー…」と信長は大いに感激してうなった。


「同じ種類ですが味わいは大いに違います。

 どうか、ご期待いただきますように」


ハイネの穏やかな言葉に、信長は好々爺となって何度もうなづいた。


「俺たちはどちらの実も干し肉のようにして、

 非常食にしている。

 大いに食いごたえがあるからな」


極の言葉に、「それも準備するよ」という幻影の気さくな言葉に、「できればすぐにでも貰いたいほどだ」と極が言うと、「急ぐよ」と幻影はすぐさま答えた。


「極様は離縁のご予定はないのでしょうか?」と妙栄尼が穏やかに聞くと、「…ないわよぉー…」と燕がうなって答えた。


「あら、それは残念ですわ」と妙栄尼は薄笑みを浮かべて言った。


「…母さんが平和を乱そうと企んでいる…」


幻影の言葉に、「おほほほほ!」と妙栄尼は大いに空笑いをして、穏やかに手のひらを合わせた。


「阿国さんに見合う人を探すことは一苦労だよ…

 候補がいても、ひとり身はまずいないから…」


極の言葉に、「…残念でたまりませんわ…」と妙栄尼は大いに嘆いた。


「…ヤマちゃんがいいぃー…」という長春の言葉に、誰もが目を見開いた。


「…確かに相手はいないが…」と極は嘆いたが、「動物ですよ?」と妙栄尼に改めて言った。


「人間だって動物ですわ。

 それに、私よりも雄々しきお方…」


妙栄尼には問題ないようだが、「ヤマはあの口調の通り、子供です」と極が眉をひそめて言うと、「お付き合いだけでも致します」と妙栄尼は瞳を閉じて薄笑みを浮かべた。


「お昼からは遠足に行きましょう」と妙栄尼が明るい声で天使たちに向けて言うと、天使たちは飛び上がるようにして大いに喜んだ。


「…ま、これも修行だね…」と幻影はあきれ返って言ったが、春之介に念話を送った。


『…いや… それでいいのかもしれない…』


事情を聞いた春之介からすぐにこの言葉を聞いた。


「…でっかい父ちゃんだよ…」と幻影が眉を下げてつぶやくと、『確認は重要だが、父のはずだ』という春之介の穏やかな言葉に、幻影は何度もうなづいた。


そして丁寧に礼を言って念話を切った。


「歓迎してくれるそうだ」と幻影が言うと、妙栄尼は手のひらを合わせて感謝した。


「…あの巨漢が父とは口惜しい…」と信長がうなると、「生みの父でしょう」という幻影の軽い言葉に、「…あ、すまんな…」と信長はすぐに謝って、キングの寿司を口に放り込んだ。


「…だけどヤマが人型を取った姿には興味あるなぁー…」と極が感慨深げに言って、巖剛と獅子丸を見た。


「その事実はないわけなんだ」と幻影が察して言うと、咲笑がここぞとばかり出てきて、宙に映像を浮かべた。


「…首長竜と象…」と幻影は大いに眉を下げてつぶやいた。


「象の姿はチョモランマ。

 手のひらサイズだけど、普通の人では重すぎて持てない」


極の言葉に、「…なるほど、持てない…」と幻影はつぶやいて獅子丸を見た。


「…獅子丸もかい…」と極は眉を下げて言った。


「持ち上げられるのは俺と阿利渚だけ。

 もっとも阿利渚は特別に許可しただけ。

 ある程度は、獅子丸の思い通りだから」


幻影の言葉に、「…サルサロスと同じ…」と極はつぶやいた。


「獅子丸は我らが母である惑星そのもの」と幻影は言って、獅子丸に頭を下げた。


その獅子丸はそっぽを向いていたので、正否は誰にもわからない。


「あまり反抗的だと、あっちに縛り付けるぞ」という幻影の言葉に、「…まだまだ修行中の身…」と獅子丸はつぶやいた。


「そんなわけあるか。

 お前はこのサルサロス星の黒豹よりも修行を積んでいる。

 サルサロスは自力で魂を星に拘束できなかったんだぞ」


幻影の言葉に、「…マジか…」と極は目を見開いて言って獅子丸を見た。


「俺が修行不足と思えば修行不足なんだ」と獅子丸は意地を通すように言って、そっぽを向いた。


「なかなか頑固になったな…

 特に特別な理由はなさそうだ。

 俺たちといることが楽しいからともにいるだけ」


幻影の言葉に、「…獅子丸はもう少し素直になれ…」という信長の言葉に、獅子丸はすぐさま頭を下げた。


「こいつには誰にも感じていない欲があるはずです」


幻影の言葉に、信長は何度もうなづいた。


そして、「生き急がぬことも修行じゃ」という信長の穏やかな言葉に、獅子丸は頭を下げたまま上げなかった。


「…なるほどな…

 サルサロスに嫉妬したか…」


極の言葉に、幻影は何度もうなづいた。


「考えられないほどの多くの人たちを救いたい。

 強制的にこう思うのはそれほど良くない欲でしかない。

 しかも対抗心を沸かせていることは、

 強制送還にも値する」


幻影の厳しい言葉に、獅子丸はさらに畳に頭をこすりつけた。


「…獅子丸ちゃんって、悪い子だぁー…」という阿利渚の言葉に、さらに頭を上げられなくなっていた。


「我らには飽きるほどの平和な日々が必要なのじゃ」


信長の言葉に、極はすぐさま何度もうなづいた。


「真の平和を知っているからこそ、

 本当の不幸を知ることができる。

 今はその積み上げ期間じゃ。

 その程度のこと、わかっておろうな?」


信長の言葉に、「わかっておりませんでした!」と獅子丸は頭を上げることなく叫んだ。


「今の我らでは、見たことのない不幸を見た時、

 意地になってすべてを救おうとするだろう。

 それだと我らの運命は簡単じゃ。

 すぐにでも息切れをする。

 よって、見捨てる勇気も必要なのじゃ。

 何もかも救おうなどと、

 そんなもの罰の対象にしかならぬわい。

 いい例が、日ノ本以外の国を訪れた時の幻影の対応じゃ。

 あんなことを毎日やっていたら、

 我らは数日で不幸に飲み込まれるじゃろう。

 そうはならぬと自信がついた時に旅に出ることが重要じゃ。

 煌殿たちも、今はその期間中のはずじゃ」


「はい、いい日々を過ごさせていただいています」と極は真剣な目をして言った。


信長は何度もうなづいて、「すべてはマリーン殿のお考えのもとにある」と穏やかに言った。


「自然界は厳しい。

 じゃが、やさしい顔を見せてくれることもある。

 悪と善の幸運と不幸が入れ替わるほどの力を持ち合わせておるものじゃ。

 今は、マリーン殿だけが働く時じゃと、

 ご本人が決めておられるのじゃ。

 その件も、大いに考慮に入れよ」


信長の言葉に、この場にいる全員が頭を下げた。


琵琶家一同は有意義な昼餉を終えて、さらに平和を満喫するために働き始めた。



幻影が工房の広場で働いていると、法源院屋の店主といつもの番頭が眉を下げてやってきた。


「実は、東にできた町に出店したいと思いまして」


店主の言葉に、「ここのように変わったものは置けないよ」という幻影の言葉に、「はっ 警備の問題もありますのでそれは控えます」と店主はすべてを理解した上で言った。


「店舗はもうあるから、商品と人手だけだね」


幻影の言葉に、店主と番頭はすぐさま頭を下げた。


「商品の必要なものをすべて書いておいて欲しい。

 人を雇うのは重要なことだから、

 時間をかけて人選して欲しいものだ。

 できれば、ここに住んでいる人たちよりも平和な人が望ましいね。

 始めのうちは琵琶家から護衛を出すけど、

 見極めたら引き上げるから」


「何もかもありがとうございます」と店主は言って、幻影が出した椅子に座って、番頭と話し合いながら必要になる商品の選定を始めた。


「ほう、ついに出店するか」と信長が流れる汗を拭きながらやってきた。


「いい頃合いだと思っています」という幻影の言葉に、信長は何度もうなづいた。


「さすがに、ここと同じものは出せぬか…」と信長は眉を下げながら店主が書いている書を見ている。


「我らの監視があってこそですから。

 高価な品も多いので。

 しかし警備体制を拡充できれば、

 その限りではありません」


「中途半端に使えるやつを見つけるのもひと苦労じゃな」と信長は言って鼻で笑った。


「さらに名を上げれば、

 特別待遇で警察に守ってもらえるように願い出ても構わないのです」


「ふむ… 能力者が何人かいたな」と信長は警察署を見て言った。


「東の町の警官の大掃除もできて一石二鳥です」


幻影がにやりと笑って言うと、「さらに平和になってもらおうか」と信長は気合を入れて言って、警察署に向かって歩いて行った。


今日のお付きはいつものように蘭丸と、家老の光秀が小走りで信長を追いかけた。


さらには忍びも二名ついているので何も問題はない。



アニマール星では、妙栄尼とヤマの見合いが始まっていた。


琵琶家一同は仕事中なので、お付きは十名の天使たちだけだ。


一度しか訪れていない星なのだが、春之介の想いは同じと幻影は考えているので、特にお付きは必要なかった。


「…ヤマは山も作っていたんだ…」と春之介が大いに嘆くと、「…昨日までなかったのに…」と優夏も大いに嘆いた。


まさにヤマと同じように雄々しき山がそびえ立っているのだが、ヤマは獣人の姿を取って、通常の人間サイズに変わって妙栄尼と朗らかに話をしている。


「こちらの方も、素晴らしいお姿ですわ」と妙栄尼はヤマを絶賛した。


「初めての変身なので、少々緊張しています」と二足歩行の竜の姿のヤマが照れながら言った。


「…子供じゃなくて普通に男性じゃない…」と優夏が大いに苦情を言うと、「…ここぞとばかりに温存していた余所行きだよ…」と春之介が眉を下げて言うと、優夏は愉快そうに笑った。


天使たちはふたりの邪魔をしないようにと、少し離れた場所で白い小動物たちと戯れている。


すると、妙栄尼と竜人を見ながら桜良とレスターがやって来て、春之介と優夏に朗らかにあいさつをした。


「山があるから、誰だろうって思っちゃった」と桜良が言うと、「俺たちだって今知ったさ」と春之介は気さくに答えてから眉を下げた。


「妙栄尼様のお相手の選別も厳しいようですから」とレスターが言うと、三人は何度もうなづいた。


「琵琶家の中では唯一取り残されたといっていいからね。

 あれほどの大物となると、なかなか見つからないから」


春之介の言葉に、「…チョモランマちゃんにも春が来たんだぁー…」と桜良は感慨深げに言った。


「…あら、この子…」と桜良は言って、足元にいた白い栗鼠のような鼠を抱き上げて、「鼫?」と言って両腕を広げて確認した。


「…いつの間に…」と春之介は言って大いに眉を下げていた。


「今朝だよ」と机の上で、赤い果実を食べている黒いコウモリが言うと、「ヤマが生んだようだね」と春之介が眉を下げて言った。


「能力も何もない普通の子だよ。

 昔を懐かしんで産んだんじゃないの?」


黒いコウモリの言葉に、「…幻影さん、か…」と春之介がつぶやいた。


「…この普通の子が、幻影君になったんじゃ…」と桜良が言うと、三人は大いに目を見開いた。


「たぶんそうだよ」と黒いコウモリはさも当然のように言った。


「…強いはずだ…」と春之介は大いに眉を下げて言った。


「神の名は?」と春之介が聞くと、桜良はすぐに鼫を探って、右前足の手のひらに名を見つけた。


「…高願…」と桜良がつぶやくと、「…幻影さんの別名の方の名を授けたわけだ…」と春之介は感慨深げに言った。


「早くても、人型になれるのは数億年先だよ。

 そこから今の幻影さんになろうと思うと、

 最短でも数十億年先だろうね。

 一般的には、ずっと動物以下でいることが普通だけどね」


黒いコウモリの言葉に、四人は何度もうなづいた。



すると、竜人と妙栄尼がやって来て、朗らかに五人とあいさつを交わし始めると、妙栄尼が目を見開いて白い鼫を見入っている。


「阿国さんの子です」と竜人が言うと、桜良は大いに眉を下げて、妙栄尼に鼫を差し出した。


「…ああ、ああ…」と妙栄尼は言って、鼫を受け取ってしっかりと抱きしめて涙を流した。


「…幻影にしてあげられなかったことが、

 あなたには簡単にできたわ…」


妙栄尼の母の言葉に、同じ母である優夏と桜良はワンワンと泣きだし始めた。


「この子を祝福して見送ることも、

 阿国さんの修行となることでしょう」


竜人の言葉に、「今は考えたくありません」と妙栄尼は言って、鼫に笑みを向けた。


「最高の生活環境だから、

 数十億年分なんて吹っ飛ばしちゃうかも」


黒いコウモリの言葉に、「そうあってもらいたなぁー…」と竜人は感慨深げに言った。


「幻影に預けて育てさせた方がよろしいでしょうか?」と阿国は言って、竜人を見てから黒いコウモリを見た。


「その部分はその子次第だから」と黒いコウモリが言うと、「…自然に、自然に…」と妙栄尼は心を落ち着かせるように穏やかにつぶやいた。


「ですが、大問題があります」という春之介の言葉に、「それほどやわじゃないよ」と竜人は穏やかに言った。


「…まさか、ここまで読んでいて、今朝生んだわけ?」と春之介が興味を持って聞くと、「…はは、まあね…」と竜人は穏やかに言った。


「かの昔、鼫を産んだ時に、もうひとり生まれた。

 これは警告だったんだ。

 それがその杞憂の人だ」


竜人の言葉に、「…そんなことになっていたのか…」と春之介はつぶやいて、すべてのことに納得した。


「近くにいて助かったってところだね。

 その警告の人自身も危うい存在には違いないから。

 だが今世は、何の杞憂もなくなった」


竜人の言葉に、誰もが大いに納得していた。


「…幻影がどんな態度を示すのか楽しみですわ…」と妙栄尼は言って、鼫に満面の笑みを向けて、気を利かせて熱望している天使たちに抱かせた。


「…かわいすぎるぅー…」と天使たちは口々に言って、鼫と触れ合った。


「でも、お顔は厳しいよ?」とひとりの天使が言うと、「…幻影様みたい…」と別の天使が言うと、誰もが大いに笑った。


「神の力を使って知ったことがあります。

 生まれたばかりの幻影を抱いた記憶はなかったのですが、

 朦朧とする中で乳母から無理やり奪って抱きしめていました。

 その時の幻影と同じ顔をしていますの」


妙栄尼の言葉に、少々失礼だが、春之介と優夏は大声で笑い転げた。


竜人と黒いコウモリは大いに眉を下げていたが、「それが真の幻影さんだよ!」と春之介は叫んでからまた笑った。


「…お師匠様からの指導、かなぁー…」と桜良が言うと、「そうそう!」と優夏は叫んで、憮然としている白い鼫を見てまた笑った。


「別の意味でかわいい!」と優夏は叫んで天使たちから鼫を受け取って、「何も変えなくていいわ」と穏やかに言った。


「あまり余計なことを言うなよ」と笑い終えた春之介は眉を下げて言った。


「考えすぎない方が絶対にいいから」と優夏は言って、鼫を妙栄尼に返した。


「…信繁様の修行は徹底されているのね…

 ああ、そういえば、萬幻武流の教えにも、

 いつも朗らかに、がありますわ。

 できれば心の底からが推奨のようですけど、

 口角を上げるだけでもいいって…」


「まさに勇者の教えそのものですよ」と春之介が言うと、妙栄尼は薄笑みを浮かべて頭を下げた。



今日のお見合いは大成功として、妙栄尼は不愛想な鼫を抱いて、天使たちを連れてタルタロス軍の別荘に戻った。


そして大いに期待をしながら安土城の工房に行くと、幻影たちは笑みを浮かべて製造に従事していたことに愉快そうに笑った。


「楽しそうだね」と幻影が朗らかかに言ってから眉を下げて、白い鼫を見入った。


「…無理なこと、言ってないだろうね…」と幻影が聞くと、「快くくださいました」と妙栄尼は穏やかに言った。


「動物であってもその顔はいけない」


幻影は動物にも厳しかった。


そして幻影は鼫の口元を指で押さえて少し上げ、まるで笑っているように見せかけた。


「いい笑顔だ」と幻影は言って仕事に戻った。


そして妙栄尼も真似をして笑い転げた。


「…新しい子だぁー…」と長春は言ってまんまと罠にはまった。


そして自然に発する力が通用しないと思い、すぐに妙栄尼を見た。


「この子は動物でしかありませんが特別です」と妙栄尼が言うと、「ほう! そうなのかっ!」と信長が叫んで鼫を見入った。


「素晴らしい面構えだ!

 まるで幻影」


信長がここまで言って固まった。


「私の弟らしいのです」と幻影がなんでもないことのように言うと、真っ先に大勢の女性たちが鼫を抱きに来た。


鼫は危険を察知して妙栄尼の手を逃れて、後ろ足で肩を蹴ってから滑空すると、「あーあ…」と女性たちが大いに嘆いて、阿利渚の肩に止まった鼫を見入った。


「…叔父様?」と阿利渚が鼫に聞くと、幻影と信長は大いに笑った。


鼫は不愛想なままだったが、阿利渚の肩を住処にしたようで、離れようとはしなかった。


「…阿利渚は子供らしさが少し薄れたな…」と信長が眉を下げて言うと、「…親離れをいたしました…」と蘭丸が寂しそうに眉を下げて言った。


「では元服の儀を」という信長の鶴の一声に、「はっ ありがたき幸せ」と幻影は姿勢を正して頭を下げ、家族たちを見まわした。


「高虎、阿利渚の世話係を頼めるか?」


「承知!」と高虎は間髪入れずに答えた。


「高虎様もとと様」と阿利渚が言って抱きつくと、高虎は感無量となって、直立不動の姿勢を維持した。


「…ワシの役なのに…」と嘉明が大いに嘆いたが、「…ここは我慢してやれ…」と信長は気さくに言って、嘉明の肩をつかんだ。


「…桃源が元服の時はお願いするからぁー…」と長春が言うと、嘉明の機嫌は治っていた。


そして阿利渚の女性の世話係は順当に妙栄尼に決まった。


「お召し物はどうするのかしら?」と妙栄尼が阿利渚に聞くと、「私が考えます」と阿利渚は気丈に言って、まさに大人の女性の仲間入りを果たしていた。


しかし、マネキンを使って選定するだけなので、このあたりはまだ子供だった。


もちろん幻影に大いに甘えてくることがわかっているので、蘭丸が幻影から離れなくなった。


元服の儀は今すぐということではないのだが、形式上は二回やった方がいいと幻影は進言したが、信長がそれを許さなかった。


「天雲大名を返上する」


信長の鶴の一声に、琵琶家一同は一斉に頭を下げた。


「よって、阿利渚の元服の儀はこの安土城だけで行う。

 阿利渚は、異存はないか?」


信長の言葉に、阿利渚が考え始めたので、信長は大いに眉を下げていた。


「…たくさんできたお友達とも、もうそれほど会えないから…」と阿利渚が悲しそうに言うと、「この安土城と琵琶御殿すべてで執り行う!」と信長が言いかえると、阿利渚はそれほど喜ばなかった。


しかし悲しむことはなくなったが、元服の儀の際に告げる別れの言葉を考え始めた。


すると肩の上にいる白い鼫が阿利渚の首に密着した。


阿利渚の心中穏やかでない心を癒すような行動だった。


阿利渚は考えながらも、自然に鼫の体をなでて落ち着いていった。


「…ん?」と幻影が阿利渚と鼫を見入って、小声でうなった。


「…誰にやった?」と蘭丸は言って、もうすでに幻武丸を幻影の首に当てていた。


しかしもう慣れたもので、幻武丸は気にすることなく、腕組みをして考え始めた。


すると咲笑が俯瞰で見たような画像を出した。


「…たぶん、エッちゃんですぅー…」と咲笑が眉を下げて言うと、「…同じ時を生きていたこともあったんだなぁー…」と幻影は感慨深げに言った。


「…うう、怖そうだが…」と蘭丸が幻武丸を鞘に収めながら言うと、「…桜良さんの初恋に関係があるそうだ」と幻影が言うと、咲笑が知っているすべてを説明した。


「…この映像は五千八百兆年ほどの前のできごとですぅー…」


「…昔過ぎて意味が解らん…」と信長は大いに眉を下げて言った。


「ヤマ様は新しい動物を次々と作って行かれたのが、

 この数兆年あとのことですので、

 大昔の幻影様は春之介様と同じく動物の王でもあらせられると察しますぅ―…」


「その記憶はあるが、昔返りはできそうにないぞ」と幻影が大いに眉を下げて言った。


「人それぞれですが、

 何かがあって封印されていることも考えられるのです。

 封印したということは、

 それほど良くないことがあったのかもしれません」


咲笑の言葉に、幻影は何度もうなづいて、「あった」と言った。


「咲笑、決めた場所だけの記憶を読め」


幻影の命令に、咲笑はすぐに従ってから、涙を流し始めた。


「…幻影様は、やはりお優しいですぅ―…

 …本当は、不愛想ですけどぉー…」


咲笑が幻影を抱きしめて言うと、幻影は、「ひと言だけ余計だったが、俺自身がよくわかっていい」と言って、咲笑の頭をなでた。


「…怖いと思っていた顔は、不愛想な本当の顔…」


政江が言うと、幻影は大いに笑い転げて、「何度かあったあった!」と叫んだ。


「どれほど長く修行を積んでも、

 本質の部分はやはり変えられないんだよ。

 無意識になると自然に出て当然だと思う。

 そこまで自分を制御することは難しいから、

 よほどのことがない限りは口角を上げて穏やかに」


幻影の言葉に、真っ先に幻影の兄弟たちが頭を下げ、門下生と家族たちが頭を下げた。


「じゃ、封印を解いても問題なさそうだ」と幻影は言ってすぐさま解くと、通常の大きさの鼫になっていたが、顔はやはり不愛想だったので、信長と蘭丸が大いに笑い転げた。


鼫は慌てることなく部屋を出て廊下の桟に飛び上がり、四肢を広げて滑空して行った。


「こら! 幻影っ!!」と蘭丸が叫び、「高虎殿! 弁慶! 後は頼んだ!」とさらに叫んで、今までに見たことのない翼のある猫科の動物に変身して鼫を追って行った。


「…お蘭もすごいな…」と信長は大いに感心していた。


そして、「解説してくれる咲笑がいなくなったから、ここで待っておるか…」と信長は渋々言った。



鼫は新設した西の町まで飛んでいて、この地で一番高い物見の塔の屋根の上に座っていた。


すると、翼の生えている猫が鼫に体当たりしたが、びくともしない。


ふたりは動物の言葉で話し合って、猫の方はようやく落ちついた。


そして鼫の指示で、広場にいた少女の近くに飛んで行った。


「えっ?」と少女は言って、見たことのない鼫と翼を持っている猫を見入った。


猫は愛想よく、『ニャーン』と鳴いたのだが、鼫は不愛想だが少女を見上げている。


少女は鼫に手を伸ばしたのだが逃げないので、そのまま優しくつかんで抱きしめた。


すると少女は背筋が伸びた。


鼫が、『何も心配することはない』と言ってくれた気がしたのだ。


しかし少女は心配することしか考えることはなかったのだ。


町が新しくなっても人の心はほとんど変わらない。


奴隷のように働かされていた少女に、この先の希望がないのだ。


しかも、この少女だけではなく、同じような身分の子供は大勢いた。


すると猫が、『フー! フー!』と何かに憤慨していたが、少女に向ける威嚇ではないので、「…怒ってくれてありがと…」と涙を流して言った。


鼫は少女の手を離れて、猫の背に乗った。


すると猫は翼を広げて雄々しく羽ばたいて、役所に向かって飛んで行ったのだ。



極と蘭丸が人の姿に戻って帰ってきたので、信長は眉を下げて出迎えた。


「表面的に人間では感じられない感情がよくわかるようになりました。

 一番に感じたその想いだけに反応して飛んだのです。

 私は第三者となって、鼫の行動を監視していました。

 その昔、こんなことばかりをやっていたから、

 裏切られた時の無力感に嫌気がさしたのです。

 ですがそれでは心が狭いと思いましたが、

 それほどに純朴だったのでしょうね」


幻影の報告に、「それは我らも知っておく必要があることじゃ」と信長は穏やかに言った。


まずは今回の件だが、してはならない奴隷を雇っていた事実が発覚したので、大勢の者たちが一斉に解放された。


奴隷を使っていた個人、企業は一気に摘発されたが、穏健派の町長は大いに嘆いた。


そして様々なことを考える必要があったが、幻影はまずは、今は農地になっている元の南の町で働いてもらうように進言した。


もちろん給金を出し、労働条件もある仕事だ。


安土城の幻影と蘭丸は有名人だったので、さすがの奴隷たちも知っていて、まさに救世主としてふたりを崇めた。


中にはこのふたりを奴隷として雇いたいと思っていた主人もいたそうだ。


「…まずは悪人の方の考えに嫌気がさすな…」と信長はうなるように言った。


「以前にあった貴族制度の名残のようです。

 もちろん、その当時から奴隷は認められていませんでした。

 ここで大きな問題があります。

 なぜ、奴隷となっていた者は訴えなかったのかという部分です」


幻影の言葉に、「む!」と信長がすぐにうなったが、ただただ漠然と憤慨しただけだ。


「まず第一に、奴隷となっている者の決定的な弱みを握っていたこと。

 第二に、訴えが起こってもそれを上に上げずに主の元に戻していた事実。

 第二の場合は、見せしめもあったようです。

 そして第一の弱みの方ですが、

 その弱みそのものは消されてしまっていることがほとんどでした。

 働けなくなった奴隷は、

 食事を与えられなくなるので、死んでしまって当然ですから」


「…同じ目にあわせてやろうかぁー…」と信長は真の悪魔の感情を垂れ流してうなったが、家族たちがもうろうと始めたので、怒りを押さえつけた。


「今はマリーン様が先頭に立って、

 今後の正常化を考えておられるようですので、

 この件は我が琵琶家の手を離れました」


「…うむ、納得した…」と信長はうなったが、それは報告に関して納得しただけで、まだ怒っていた。


「比較的平和に見えるこのサルサロスにも、

 このような不幸はあるのです。

 これと同じことは、ほかも町にも根付いていると感じます。

 タルタロス軍はまずはこの件を正すことになったそうです」


「…我らも戻るか?」と信長が言うと、「いえ、タルタロス軍の成果の確認をしてからでも遅くはないと」と幻影が言うと、信長は右の眉だけを上げて、怪訝そうに思っていた。


「タルタロス軍のこのサルサロス生まれの兵士のほとんどが、

 この件とは無関係ではないのです。

 能力者と言われる者の九割以上はその貴族と係わりがあるからです。

 元貴族は育ての親の家と言っても過言ではありません。

 煌様もその対象者ひとりです」


「…人情的には、厳しいものがある…」と信長がうなると、幻影も家人たちもすぐさまうなづいた。


「よって、我らが仕事を請け負うことになるかもしれないと感じたので、

 待機を進言いたします」


「あいわかった!」と信長は叫んで膝を打って、「飯だ飯!」と気分をがらりと変えて叫ぶと、幻影たちは一斉に頭を下げて、調理に取り掛かった。



食事が始まると、誰もが陽気に語り始めた。


この切り替えも琵琶家としては重要なことなのだ。


すると休憩なのか、眉を下げて極と燕がやって来て、幻影に歓迎された。


「…幻影の杞憂通り、この地の能力者の半数が使い物にならなくなった…」


極が愚痴をこぼすと、「ここはほかの星から雇い入れた者たちに頼るべきでしょう」と幻影が言うと、「…結局はそうなったよ…」と極は感情を隠すことなくつぶやいた。


しかしこの件に関しては燕には心に負担を感じられず、美味そうにして食事を摂っている。


「さすがに修行が行き届いていますね」と幻影が燕に言うと、「ほとんどの人が冷酷だっていうわよ」と燕はさも当然のように言った。


「まともに仕事ができないのならば、冷酷も快し、です」


幻影の言葉に、「幻影とは仲間のようなものだわ」と燕は明るく言って蘭丸を見た。


「奥様は気に入らないそうよ?」と燕が言うと、「まだまだ経験不足です」と幻影はすぐに答えると、蘭丸はこれ見よがしに幻影をにらみつけた。


「ですがそれがお蘭のいいところでもありますから」という幻影の言葉に、蘭丸の機嫌は治っていた。


「我らのほとんどは戦場でその修行を受けていたようなものです。

 生き残るために殺さなければならない。

 ですが今は、戦場であっても誰も殺さない。

 それが琵琶家の家人としての、唯一の自尊心です」


「…その部分の修行は、やろうと思ってできるものじゃない…」と極は大いに嘆いた。


「その時代や条件によりますからね。

 我らが覚醒する前は、普通に人間でしたので。

 そしてその人間らしさはもう出さないことが、

 冷酷に繋がることにもなるのでしょう」


「俺の知っている限り、

 琵琶家と同じ思いでいるのは、

 五大神にはひとりしかいない」


極の言葉に、「ほう」と信長が興味を持って声を上げた。


「今世においてはほとんどの者が平和な地で産まれました。

 ですが唯一、大屋京馬さんは軍人で、

 それなりの重荷を担いだのですが…

 担ぎ過ぎました…」


「…それなり以上のひどい目にあったようじゃな…

 それだと逆に、いくら優秀でも、

 平和のためには使い物にはならん…」


信長の言葉に極はうなづいて同意して、「京馬さんに主ができたことで、ある程度は落ち着きました」と極は言ってから少し考えて、「あとで詳しいお話をさせていただきます」と言った。


咲笑が悲しそうな顔をすると、「今はダメだぞ」と幻影が咲笑に言うと、「時と場所を考えろぉー…」と咲笑はつぶやいてうなだれると、幻影は陽気に笑って咲笑の頭をなでて、「そういうことだ!」と陽気に叫んだ。


「どのような場所でもどのような話でもできることが理想じゃが、

 それじゃと大屋某と同じようになってしまうもんじゃ。

 ここはメリハリというやつが重要じゃ。

 寛ぐ時は寛ぎ、仕事は仕事と割り切る。

 それが琵琶家の方針じゃ」


信長の言葉に極と幻影が真っ先に頭を下げると、誰もが追従した。


「その京馬さんが強いんだ」と極が興味が沸くように言った。


この件に関してはまた別の話なので、琵琶家は大いに興味を持って極の話を聞いた。


「だが俺は、京馬さんを凌駕しているふたりと戦ったという自信がある」


極の言葉に、「なんだ、その程度なんだ…」と幻影が嘆いて不愛想な顔になると、真っ先に阿利渚が、「とと様、顔顔!」と陽気に叫んだ。


極は大いに笑ってから、「京馬さんの武器は盾でしかないから」という言葉に、「なるほどねぇー…」と幻影は言って、これ見よがしに笑みを浮かべた。


「その技を軽々と打ち破ったのが、

 五大神の現在最強のゲッタ・コリスナーさん。

 その父のゲイル・コリスナーさんは組み手でも

 本物の戦闘の実力でも一番だと思うが、

 本気を見たことがない。

 何しろふたりともその実態はとんでもない竜だから」


極の言葉に幻影が燕を見ると、「私って武闘派じゃないから」とさらりとかわした。


「いや、楽しみができた」と幻影が笑みを浮かべて言うと、「…今の笑みは怖いですぅー…」と阿利渚が指摘すると、幻影は大いに眉を下げていた。


「たぶんね、組み手じゃなくなるから、

 強制的に全員で止められるはずだから。

 だけど、立ち会うのはありだ」


極の言葉に、「その雰囲気だけでも体験することは重要じゃ」と信長が畏れを流しながら言うと、「気合を入れ捲って立ち会います」と幻影は答えて頭を下げた。


「…俺の予想としては…」と極が前置きをして語ると、「…作戦を考えないと…」と幻影が言い始めた。


「まずは気合を入れずに立ち会ってから、

 本気の気合を入れて立ち会うという二段構成であれば納得できると思うよ」


極の助言に、「それがよさそうだね」と幻影は答えてまた不愛想な顔になっていた。


そして極が現状の話をすると、「…それが自然界の厳しさ…」と極はつぶやいて納得していた。


五大神は時折このサルサロス星にも訪れていたのだが、今は来ることはない。


用事があればこちらから出向くし、桜良はここに来るので行きかう必要はそれほどないからだ。


よって五大神は毎日のように、少しでも宇宙を平和にしようと、星々を巡る旅をしている。


もちろん程も知っているので、休息も忘れていない。


先日アニマールに行った時は、偶然にも春之介たちは休日だったので会えただけだ。



この日からしばらくは様子を見て、このサルサロスの平和はタルタロス軍によってその兆しが見えた。


極力ほかの星から雇った者を先頭に立たせて平等に裁いたのだ。


まさにこれは極の厳しさと言ってもいいだろう。


琵琶家の出番はなさそうなので、兼ねてから予定していた物見遊山に出ることにした。


行先は右京和馬星で、この名は大屋京馬の別名だった。


案内は春之介に願い出ていたので、速やかに右京和馬星に渡って、「…来ないと何もわからないもんだ…」と幻影は苦笑いを浮かべてつぶやいた。


この場所はとんでもない高台にあるが普通に動くこともできるし呼吸も苦しくない。


そして早速大屋京馬と信長が挨拶をした。


「なるほど、いい面構えをしておる」と信長は喧嘩を売るように言って鼻で笑った。


「その立ち位置は幻影と同じじゃが、

 精神修行がなっとらん。

 お前の主は何も言わんのか?」


信長が憤慨して言うと、「直接おっしゃることはございません」と京馬は挑戦するように答えた。


「…ふん!

 その残忍さを持っていては、そのうちここから放り出されるわい」


信長の言葉を聞いていたのか、その主たちがすっ飛んでやってきた。


もちろん、この険悪な空気を察していたからだ。


「大屋京馬! ここから退去せよ!」と一番威厳がありそうな男性が叫ぶと、さすがに後悔したのか、京馬は大いに眉を下げて男性に頭を下げた。


「理由はお前が消されるからだ!

 相手の技量もわからんやつはいらん!」


決定的な解雇の理由に、京馬は大いに肩を落として、この地から消えた。


するとその家族は大いに慌てて、転送装置に入って行った。


「ここに遊びに来ただけなんじゃが、

 騒がしくして申し訳ない」


信長が言って男性に頭を下げると、琵琶一家も全員頭を下げた。


男性は大いに困惑して、「いずれこうなることがわかっていました。不愉快な思いをさせて申し訳ございません」と男性は謝ってから、ゲイル・コリスナーと名乗った。


「ワシはそれほど強くないのじゃがな」と信長が言うと、「お分かりになっていないのは織田様だけです」とゲイルが答えると、信長はすぐさま幻影を見た。


「さすが御屋形様」と幻影が笑みを浮かべて言うと、「まったくわからんが、まあよい」と信長は機嫌よく言って、ゲイルの家族たちとも挨拶を交わした。


「…父さんが御屋形様だったら別の地で暮らすよ…」というゲッタの言葉に、「宇宙最強がそんな気弱なことを言ってんじゃない…」とゲイルは大いに眉を下げて言った。


「ある程度は理解しておる。

 ワシらは家族じゃからな」


信長の機嫌は直っていて穏やかに言うと、「…わからないヤツはほんと賢くないよ…」とゲッタは大いに嘆いた。


「大屋某は帰る場所があるわけか」


信長の言葉に、「はい、ですのでいつでも放り出せましたので」とゲイルは穏やかに言った。


「やつも、万有源一と同じように、

 さらに転生せぬとわからんはずじゃ」


信長の厳しい言葉に、ゲイルはすぐさま頭を下げた。


「ワシがわざわざ言うことでもなかった」と信長は穏やかに言ってゲイルに頭を下げた。


ゲイルが眉を下げて幻影を見ると、「すべてを知っていますがお話しておりません」と答えた。


「…ん? 何の話じゃ?」と信長が怪訝そうに思って幻影を見て言った。


「御屋形様は正確な種族としての悪魔ではございません」


幻影の言葉に、「じゃが、ワシ自身は」と信長がここまで言ってすぐに黙り込んだ。


「…過去のワシが隠しよったか…」と信長は言ってから鼻で笑った。


「威厳が強すぎるのでしょう。

 よって、悪魔までその威厳を落としているだけなのです。

 もしも今、大屋京馬と戦っていた場合、

 一瞬にして消していたと推測します。

 ですので、御屋形様には戦わないでいただきたいのです」


幻影の真剣な言葉に、「今まで以上に世話になる」と信長は言って、幻影と家老たちに頭を下げた。


「…魔王、だったんだぁー…」とゲッタが嘆くと、「だが、やさしいお方だ」とゲイルは笑みを浮かべて言った。


「そういえば、フリージアにもおったように思い出した」


「魔王イカロスでしょう。

 彼も長い年月を費やし、

 穏やかな魔王となったひとりです。

 彼は修行の末、今は天使のように穏やかですので、

 誰も気づかないはずです」


「仲間もおった」と信長は機嫌よく言った。


「魔王という種族も希少で、

 自然界の習わしにより、九人しかいません。

 織田様はその六番目の魔王なのです」


「なんと! そういう意味の、第六天魔王じゃったか!」と信長は叫んでから大いに笑った。


「教えを乞うことは重要で、

 私では役不足だったのです」


幻影の言葉に、「…うむ、大儀であったな…」と信長は言って幻影を褒めた。


「…血がつながっていない家族、かぁー…」とゲッタがうらやまし気に言うと、「おまえだってそうじゃないか」とゲイルが言って笑った。


「なんと! そうだったのか?!」と信長は叫んでゲッタとゲイルを交互に見た。


「ふむ… 父は見えぬが、子はよくわかった」


信長の言葉に、「さすがです」とゲイルは笑みを浮かべて答えた。


「私の強さは種族の強さ。

 私としては納得できないのです」


「…ふむ… それは歯がゆいな…」と信長はゲイルに同情した。


琵琶家とコリスナー家は大いに語り合って、盤石の友好関係を築いた。



そんな中、長春だけがうなだれていた。


この右京和馬星はまさに動物王国なのだが、恐竜のような大きいものしか生息していない。


ここでは出番がないと長春は思って落胆したのだ、


ゲイルは長春も重要人物と感じ、「ここに住んでいた動物がタルタロス軍にも世話になっているのです」と希望の言葉を告げると、「…探しに行くぅー…」と長春は幻影を見て言った。


「それほど楽じゃないよ…

 極さんのパートナーと燕さんで捕まえたほど手ごわいから。

 何しろ隠れるのがうまいし動きが早いから」


ゲッタの言葉に、長春の眼が懇願に変わっていた。


「…ふむ… 長春様の願いを叶えるのも一興…」と幻影は言って鼫に変身すると、ゲイルもゲッタも目を見開いた。


「…指導者も、すごかったぁー…」とゲッタが嘆くと、信長は機嫌よさそうに大いに笑った。


すると、蘭丸も、「離れます!」と信長に叫んでから、翼を持っている猫に変身すると、「…フローラに翼がある…」とゲイルが大いに嘆いた。


「なんじゃ、お蘭の変身は知っておったのか?」と信長が聞くと、ゲイルはすぐさまフローラについて説明をした。


「…翼のないやつもいる、か…」と信長は言って、席を立って、「でかした」と言ってから、フローラの頭をなでた。


フローラは、『ニャン!』と威勢よく鳴いて頭を下げ、背筋を伸ばしていた。



鼫が高台から飛び降りて滑空すると、フローラもすぐさまついて行った。


「成果が楽しみじゃわい」と信長は機嫌よく言って何度もうなづいている。


すると極と蘭丸は人型を取ってもう戻って来て、長春を大いに喜ばせた。


「…こんな子も住んでたんだぁー…」とゲッタは眉を下げてうらやまし気に言った。


「…鎧犬?」と幻影が言うと、「え?」と誰もが普通の子犬にしか見えない犬を見入った。


「この子は体毛が特殊で、横に広がって鎧を纏ったように変えられるんだよ。

 こんな小動物が生きて行けるために進化をしたんだろうね。

 だから性格的には大いに敏感だ。

 今は穏やかでしかないから、全く警戒していない」


幻影が語って長春に犬を渡すと、「守ってね」と穏やかに言って、子犬を抱きしめた。


「むむ! 好敵手出現!」と藤十郎が本気で叫ぶと、誰もが大いに笑った。


「…藤十郎様も、一緒にいて欲しいぃー…」と長春が懇願すると、藤十郎は笑みを浮かべてうなづいた。


「…藤十郎さんも、ある意味すごい人だー…」とゲイルが嘆くと、琵琶一家は大いに笑った。


「長春の伴侶は幻影しかおらぬだろうと思っておったほどじゃからな」


信長の言葉に、「…まだ小さかったから、相手にもされなかったぁー…」と長春が嘆くと、「けしからんやつです」と藤十郎は言って幻影を見て笑みを浮かべた。


「…畏れ多いことに変わりはないからね…」と幻影は言って同じ立場だった蘭丸を見て笑みを浮かべた。


「もしも組み手をするのならば、

 久しぶりに藤十郎の戦いが見たいな」


信長の言葉に、「はっ 喜んで」と藤十郎は穏やかに言った。


ゲッタは藤十郎と幻影を見比べて、「…確実に強い…」と大いに嘆いた。


「雰囲気からではわからんものだ」とゲイルは苦笑いを浮かべて言った。


「藤十郎さん」と幻影は言って、桜姫と同じような槍を出して渡した。


「おや? もらっても?」と藤十郎が聞くと、「今日の日のために作っておいたんだ」と言った。


「…普通じゃないぃー…」とゲッタは大いに嘆いたが、組み手場に向かって歩いて行くと、藤十郎はすぐさまゲッタの後を追って朗らかに話しかけた。



組み手はまさに壮絶で、素早さのゲッタと巧妙な藤十郎の、一番の長所同士の戦いとなった。


藤十郎が一歩秀でているので、誰もが極とジャックの戦いをまた見ている気分になった。


「…武器の使い方が一味も二味も違う…」と無手でしか戦わないゲイルを大いにうならせた。


やはり長時間になると修行不足だったようで、ゲッタの顎が上がってきた。


「終わりだ!」というゲイルの非情の言葉に、ゲッタはその場で四つん這いになって、藤十郎に頭を下げる形になった。


「…体力を相当上げよったか…」と信長は大いに感心して言って、「よくやった! 藤十郎!」と機嫌よく叫んだ。


「はっ! ありがとうございます!」と藤十郎は息切れひとつせずに叫んで礼を言った。


「今回初めて、大いなる手ごたえがありました!」と藤十郎はさらに叫んで誰もを驚かせた。


自分のことに対してこれほど喜ぶことは今までになかったからだ。


「…宇宙一など甘かった…」とゲイルは眉を下げて言って、ゲッタを宙に浮かばせて立たせた。


「…とんでもない体力だぁー…」とゲッタは大いに眉を下げて嘆いた。


「術など一切使っていないからな。

 純粋な体力では信じられない程だ」


ゲイルも藤十郎を絶賛していた。


しかし、「幻影さん、一手お願いできますか?」とゲイルが懇願すると、「はっ 喜んで」と幻影はすぐさま答えて、桜姫を出した時点で、「…これは…」とゲイルはうなって、この先の展開を読めていたのだが、ここは修行と思い、降参する気持ちを抑え込んだ。


しかし戦いは長期には至らず、ほんの数手で桜姫がゲイルの喉元を襲い、「…参った…」とゲイルに言わせた。


「…この前は、本気ではなかったな?」と信長は幻影をにらみつけて言った。


「今後の付き合いもありますから」と幻影は言って桜姫を勢いよく振り回してから、丁寧に拭き上げた。


ゲイルは修行不足を大いに知った。


やはり人助けが中心の今の生活には無理があると思い、幻影に修行をつけてもらえるように懇願した。


そして今後の予定を聞いて、ゲイルは大いに喜んでいた。


一日に時間程度の修行なので、万能時計を使って、サルサロス星の標準時間を設定した。


「先にひとつだけお聞きしたいのですが、

 底知れぬ体力はどのような修行によって得られたものでしょうか?」


ゲイルが幻影に聞くと、「すべては日常にあります」という回答に、「…それほどのことをされているわけだ…」とゲイルは眉を下げて嘆いた。


「第一は我らの足として使っている、空飛ぶ戦艦です」と幻影は言って、一番小さい二人乗りの戦艦を出した。


「…うう、足漕ぎ…」とゲイルはうなって、許可を得てゲッタとともに乗り込んで、戦艦の素晴らしさを大いに知った。


ゲイルとゲッタはこの近隣を飛び回って降りてきた。


「さすが、乗りこなすとは素晴らしいです!」と幻影は絶賛したが、「…やはり、それほど難しいことではなかったか…」と信長は悔しそうにうなった。


「この機で星中を飛び回れば鍛えられて当然でしょう。

 私も真似をして作ります」


ゲイルの向上心には信長さえも大いに認めた。


もっともこの技術は万有源一が考え出した単独飛行用のスーツという実例もあるし、数年前まではどこに行くにも手漕ぎ足漕ぎのものを使っていたほどだった。。


よってゲイルは今まで怠けていたことを大いに恥じた。


「宇宙戦艦も同じ仕組みです」という幻影の言葉に、「…足漕ぎ宇宙船…」とさすがにゲイルは目を見開いて嘆いた。


「煌さんも飽きれていましたから」と幻影が機嫌よく言うと、「いや、それほどでないと、みなさんの体力はありえない」とゲイルはすべてに納得して頭を下げた。


そして琵琶家一同がこの地で採れた作物などを使ってゲイルたちを食事に招待すると、ゲイルもゲッタも大いに食らった。


「なにがどう違うんだ?!」とゲッタは大いに叫びながら大いに食っている。


「普通の人間の十倍ほどは食います」という幻影の言葉に、「…その自信はある…」とゲイルは言って、穏やかに食事を摂っている。


「しかしその栄養はすべて竜のものとなっているようです」


幻影の言葉に、ゲイルもゲッタも箸を止めて目を見開いて、「…やっぱり…」とゲイルは嘆いてうなだれた。


「雄々しさを維持するだけでも普通ではないと思います。

 もちろん食べなくても生きて行けますが、

 体はしぼんでいくでしょう。

 意識的に人間側に栄養が行くような訓練も必要でしょうね」


「今からやる!」とゲイルは宣言して、大喰いの竜の本能を抑え込んだ。


「みんな頑張れ!」といつの間にかここにいた桜良が蘭丸の料理を大いに食らいながら叫んだ。


「あ! 頂いてます!」と桜良が今更ながらに言うと、レスターが走ってやってきた。


そして大いに頭を下げて連れて帰った。


どうやら仕事中だったようだが、影にこの事実を聞いて黙ってやってきたようだ。


「…食事時に来ても構わんのだが…」と信長が眉を下げて言うと、「…たくさん食べるからダメェー…」と長春が大いに眉を下げて言った。


「…ワシらの食い物を荒らされてしまう…」と信長が嘆くと、「マリーン様と同じように美味いものを献上します」という幻影の言葉に、信長も長春も納得して笑みを浮かべた。


「幻影には執事という新しい称号を与えよう」と信長が機嫌よく言うと、「はっ ありがたき幸せ」と幻影は恭しく言って頭を下げた。


「側用人よりは言葉がかっこいいぃー…」と阿利渚が言うと、「そうかそうか!」と信長は好々爺となって大いに喜んだ。


「とと様は御屋形様の執事なのよ!」と阿利渚が自慢げに桃源に言うと。「…うん、聞いてた…」と桃源は眉を下げて答えて、懇願の眼を藤十郎に向けた。


「叱ろうと思ったが、大人の対応だった」と幻影が言うと、「うふふ」と阿利渚は機嫌よく笑った。


そして信長はこの場で言葉を改めて、側用人に執事と名乗らせるように代わり、その長に幻影を据えた。


副執事長は常に信長とともにいる蘭丸に決まって、号泣して喜んでいる。


もちろん藤十郎も執事として正式に任命されて喜んでいる。


「…とと様もすごかった…」と桃源が笑みを浮かべて藤十郎に言うと、阿利渚は自分のことのように喜んでいた。


そして家老も参謀という名前に変わって、光秀、嘉明、影達の三人も大いに喜んだ。


琵琶家は形だけだが、宇宙に飛び出す準備を終えていた。


「…そうだ…

 家族であっても肉親ではないから、

 この階級も重要なんだ…」


ゲイルの言葉に、「…今更だけど、あった方がよさそう…」とゲッタがつぶやくと、「我が家にも肉親ではない家族もいるらな」とゲイルは機嫌よく言った。


「…門番、どうすんのよ…」と幼児の女子にしか見えない子がゲイルに言うと、「第一部隊を警備にあたらせるから構わないよ」とゲイルはすぐに言った。


「それよりも、自己紹介しておいた方がいいんじゃないの?」とゲッタが幼児に言うと、「…仕方ない…」と幼児は言って席を立って、信長の隣に立って、「…この星の王のスイジンですぅー…」と言った途端、信長たちは大いに慌てて臨戦態勢をとった。


「あはは! さすがさすが!」と幼児は手を叩いて喜んでいる。


「私の母です」とゲイルが言うと、一挙に緊張の糸が切れた。


「初代の、自然界の神もやってましたぁー…」とスイジンが言うと、「…やはり、それほどのご仁であったか…」と信長は納得して言った。


「…あまり星を出ちゃいけないって言われてぇー…」とスイジンが眉を下げて言うと、「王としては当然」と信長が言い切ると、ゲイルとゲッタが陽気に手を叩いた。


「一度許可すると毎日になったので、

 王に罰を与えている最中です」


ゲイルの言葉に、「…程を知らんな… だから美味いものに食いっぱぐれたんだ…」信長の言葉に、すべての意味をすぐに知ったスイジンが大いに嘆いた。


「しかし、極さんが大いに怖いそうなので、

 悪い子ではありません」


ゲイルの言葉に、「あのご仁を畏れぬ方が珍しいわい」と信長は自信を持って言って、スイジンに頭を下げた。


「…あのね、招待してもらえたら行ってもいいのぉー…」とスイジンが小声で言うと、「ゲイル殿、その点はどうなんじゃ?」と信長がすぐさま情報の横流しをした。


「今回は一度だけお願いできますか?」とゲイルが答えると、「それでよい」という信長の言葉に、スイジンは大いにうなだれていた。


期間を指定されるとさすがに強引に理由をつけたり勝手に訪れることはしない。


よって、この幸運な一日を有意義に使おうと、スイジンは阿利渚に寄り添った。


しかしスイジンと同年代に見えた阿利渚は大人だったので、阿利渚に長春を紹介されたのですぐさま寄り添った。


「竜なの?」と長春が聞くと、スイジンはすぐさま水竜に姿を変えて、『うっ!』とうなった。


「竜を、従えちゃった?」と長春が言うと、誰もが大いに眉を下げていた。


「じゃ、命令ね。

 ゲイル様の言いつけを守ってね」


長春の言葉に、「…いいこともできるんだなぁー…」と幻影がつぶやくと、誰もが小声で笑っていた。


「…はい、ご主人様ぁー…」と水竜は答えるしかなかった。


そして、人型に戻ることができない。


「しばらくはそのままでいいよ」というゲイルの呆れたような言葉に水竜は大いにうなだれた。


「だけど、どうして術がかかったんだ?

 あ、ヤマ様にもかかったな…」


幻影の言葉に、ゲイルもゲッタも目を見開いた。


「そちらの件に対してご報告です!」と咲笑が陽気に言って出てきて、映像を交えて説明した。


「…竜の種類によって扱いが違うのか…」とゲイルは大いに嘆いた。


「攻撃性が高い竜にはかからないのです。

 こちらは本来の竜で動物ではないという判断です。

 それ以外の大人しい竜は、動物を含むという意味で、

 緑竜以外は従ってしまうようなのです」


「…緑竜は武闘派しかいないほどだからなぁー…」とゲイルが言うと、「…燕様にはかかんなかったよ?」と長春が悲しそうに言うと、「間違いなく武闘派だよ…」とゲッタが眉を下げて言った。


「…武闘派じゃないって言ったのにぃー…」と長春はホホを膨らませて言った。


「本人がそう言っているだけ。

 だが、自然界が武闘派だと示唆しているはずだから、

 それに準じているはずだ。

 だから嘘などはついていない」


幻影の言葉に、「…そうなんだぁー…」と長春は感慨深げに言った。


「緑竜は緑のオーラ以外にも術を持っているのに使わない。

 それは肉体に自信があるからなんだ。

 よって、武闘派ではない緑竜は、

 一柱しか知らない」


ゲイルの言葉に、誰もが大いに興味が沸いた。


「やっぱり、性別が関係してるんじゃないの?」とゲッタが言うと、「相違点はそこだけだな」とゲイルはすぐさま答えた。


竜は肉体的な性別はない。


しかし、その心根には性別を持っている。


武闘派と言われる緑竜は、全て女性なのだ。


「それに、スイジン様は自然界の神をされていたほどだ。

 攻撃的な性格なわけがない」


幻影の言葉に、「…ああ、認めていただいた…」とスイジンは大いに感動して涙を流して、長春を見た。


「命令は変えないよ?」と長春が小首をかしげて言うと、スイジンは大いにうなだれたが、誰もが愉快そうに笑った。


「拘束されてるわけじゃないんだから欲張ってるんじゃない…」とゲイルが眉を下げて言うと。「…はい、その通りでございます…」とスイジンは言ってさらにうなだれた。


「長春、術を解け」という信長の命令に、長春は、「はい、お爺様」と言って、スイジンの縛りを解いた。


「信頼の証しと受け取っていただきたいものだ」という信長の言葉に、「…結局は縛られてますぅー…」とスイジンが嘆くと、「だから欲を持つなと言ったはずだ」とスイジンはまたゲイルに叱られてうなだれた。


「最近は昔の苦労を盾にとってしたい放題なのです」


ゲイルが言いつけると、「我らも協力しよう」という信長の言葉に、スイジンには夢も希望もなくなっていた。


「マリーン様も煌様も頭が上がらないわけなんですね?」


幻影の言葉に、「…スイジンに色々と助言をもらったからね…」とゲイルは眉を下げて答えた。


「…なるほど…

 この場合、どういった教育が最善なのか…」


幻影が言って考え始めると、ゲイルとゲッタが満面の笑みを浮かべた。


「できれば星から出したくない理由を教えていただけますか?」と幻影がゲイルに聞くと、まさに常識的なことで、王という意味ではなく母として子供を育て上げる義務を多少怠っているということ。


しかももうひとり王がいることに幻影はさらに考え込んだ。


「では、ライジン様が我慢をしておられる面も大いにあるわけですね」


幻影の言葉に、「はい、負担とまでは言いませんが、自分の時間を割いている面は大いにあるのです」とゲイルは答えた。


そして極は、数多くの質問をして回答をもらった。


「という、教育方針です」と幻影が言った時点で、スイジンは罪悪感に満ちていた。


「…今の話し合いがまさに教育だった…」とゲッタは言って笑みを浮かべてうなづいた。


「現実をつぶさに知らせることが一番いいと。

 罪悪感が沸かなければ、

 拘束した方がいいとまで考えていました」


幻影の言葉に、「ありがとうございました」とゲイルは礼を言って、ゲッタとともに頭を下げた。


「…こんこんと言われちゃうぅー…」と長春が嘆き始めると、琵琶家一同は大いに笑った。


「できれば、サルサロス星にでも遠足に来てください。

 それなりにお見せできることが増えましたので」


幻影の言葉に、「はい、何から何までありがとうございます」とゲイルは笑みを浮かべて言って頭を下げた。


「やはり、見分を広げることは素晴らしいことだと我らは知った。

 この幻影はワシの家臣になる前に、

 ただひとりで大いに旅をしたそうじゃ。

 見聞を広げた者はまさにそれが糧となっていて、

 我が琵琶家の一員となっておる」


信長の自信がある言葉に、「兄弟たちのために、今回は大いに甘えさせていただきます」とゲイルは笑みを浮かべて言った。


早速細かい打ち合わせをして、琵琶家に珍しく予定ができたことを信長は大いに喜んだ。


自由奔放な暮らしも大概だと思っていたからだ。


そして琵琶家の宇宙への旅立ちの日が、また一日早くなったことになる。



「祭りじゃ!」という信長の鶴の一声に、幻影たちはすぐさま作業に取り掛かった。


その期間は三日間で、ゲイルたちが安土城に遠足に来る日に当たる。


得をしたのはマックラ村で、ただでさえ多くなった観光客がさらに増えることになる。


しかし警備を強化することで、それほど増えることはないと、信長はマックラに伝えた。


許可を得た者しか、安土城下に足を踏み入れることができないからだ。


タルタロス軍の協力も得て、善悪と平和を見極めるからだ。


もうその行動員は出ていて、出入り禁止の者が大勢いることは周知の事実であることは知れ渡っている。


まさに厳しい町になったことは、このサルサロス星では知らない者はいない程だった。


だが祭りということで恩赦があるなどと思ったようだが、琵琶家はそれほど甘くない。


祭りだからこそ、さらに厳しく目を光らせるのだ。


もちろん詰め寄ってくる者には、出入り禁止の理由を公衆の面前できちんと告げる。


これを、『公開処刑』と呼ぶようになっていた。


もちろんゲイルにもこの事実は伝わっているので、「いい子しか参加できな祭り」という言葉が多少のトラウマとなっていたが、幻影が、「全員合格、スイジン様だけが微妙」と伝えてあるので、誰もが胸をなでおろしていた。


そして、祭りの内容の冊子が配られると、「…琵琶家だけでここまでのことを…」とゲイルが目を見開いて言った。


「回を重ねるごとに豪華になっていってね…」と幻影は恥ずかしそうに言ったが、「…いや、誰にもできることではないよ…」とゲイルは琵琶一家を絶賛した。


今までの経験から細部に渡り、見どころの多い祭りを三日間も行うことになる。


もちろんその内容はすべて同じであることは冊子にも載せてあるので、スイジンとライジンの家族のために開催する祭りであることは一目瞭然だった。


よって力自慢や腕自慢、脚自慢も、それぞれの日に出場者を募ることになっていて、一度しか出られなくなっている。


何事も経験として、無理のない範囲でスイジンとライジンの家族は参加の意思を示した。


「我が琵琶家の一員になる子もいるかもなぁー…」と幻影が人さらいのように言うと、ゲイルの兄弟たちは大いに畏れたが、「ありがたいことだ」というゲイルの言葉に大いに戸惑っていた。


さらわれてしまうことがゲイルが胸を張れることにもつながると、敏感なゲイルの家族は大いに知ったことになる。


「特にエカテリーナさんは、高職の高給で召し抱えますが?」


幻影の言葉に、ゲイルの妹的存在のエカテリーナは答えられなかった。


答えられなことで、琵琶家がそれほどに魅力があることをすぐさま理解した。


「いや、名誉なことだぞ」とゲイルがエカテリーナに言うと、「…おまえ、俺を村から放り出す気かぁー…」と大いに戸惑いながらうなった。


エカテリーナの雰囲気は、まさに蘭丸とよく似ている。


内面もよく似ていて、粗暴を持っているがその反対に大いに優しい面も持っている。


琵琶家にとって、優秀な嫁候補でしかないのだ。


「最終的には同じ仕事をすることになるんだ。

 どこにもない大いに頼りになる琵琶家に嫁ぐことは喜ばしいことでしかない」


「…嫁ぐ…」とエカテリーナはつぶやいて赤面した。


「そうですねぇー… エカテリーナさんの相手だと…」と幻影が言うと、その候補者を咲笑が映像で宙に浮かべた。


「…はぁー… やっぱ、こういう人たちもいるわけだぁー…」とゲイルは大いに感心しながら言った。


「一番の掘り出し物は獅子丸でしょう。

 御覧の通り、星そのものの雄々しき存在ですから、

 エカテリーナさんとも文句なく釣り合いが取れます」


そのエカテリーナは、まるで心の中を見透かされたように感じた。


会ったのは一度だけなのだが、大いに動揺して、全く話ができなかったのだ。


エカテリーナの言葉とは裏腹の乙女らしい姿に、ゲイルが声を出さずに腹を抱えて笑っていたので、幻影も便乗していた。


「その次に、熊だった巖剛もお勧めです。

 その力はまさに未知です。

 会ってからお話しすることもまた一興でしょう」


「…目移りするからやめてぇー…」とエカテリーナが嘆き始めたので、ついにゲイルは大声で笑い始めた。


「…リーナ姉ちゃんの貴重な姿だ…」とゲッタが言うと、家族たちは大いに眉を下げてうなづいていた。


「…緑竜はフォレストがいるから俺はいらん子かぁー…」とエカテリーナがうなると、「そんなことは考えてもいない」とゲイルは言って鼻で笑った。


「エカテリーナさんの幸せのためだけを考えておられるのです」


幻影の穏やかな言葉に、「…幻影さんだったら、今決めたのにぃー…」とエカテリーナが言うと、「無謀なことを言ってんじゃない… 蘭丸さんに斬り捨てられるぞ… 幻影さんが…」とゲイルが眉を下げて言うと、幻影は愉快そうに笑った。


「…あの長太刀…」とエカテリーナは言って背筋を震わせた。


ゲイルは感慨深くうなづいて、「斬れなものはないはずだ」と言った。


「私の第一の本格的な作品です。

 もしも必要であれば、武器も提供できますので」


幻影の商人のような変わり身に、「…さすが商売人の琵琶家でもあるなぁー…」とゲイルは言って、幻影にある映像を見せた。


「これでよろしいはずです」と幻影は言って、異空間ポケットから海皇姫と名付けた長太刀を出した。


「…まさかだったぁー…」とゲイルはうなって、幻影に頭を下げてからパートナーのスプラッシュを見た。


「…これは私、なのね…」とスプラッシュは言って、ゲイルが受け取ってすらりと抜いた長太刀を見入った。


「海から退避!」とゲイルが叫ぶと、波打ち際で寛いでいた海洋生物はすぐさまいなくなっていた。


ゲイルは太刀を両手で握って上段に振りかぶって、「キエェ―――ッ!!!」と気合を入れて叫んで海皇姫を振り下ろすと、海が真っ二つに切れていた。


「おみごと!」と幻影が叫ぶと、ゲイルは気合を抜いて、「…返せぬ恩をいただいてしまった…」と言って、幻影に頭を下げた。


「今のひと太刀ですべてが見えたはずです。

 そして、お婆様の呪縛も切れたはずなのです」


幻影の意味ありげな言葉に、「…俺はようやくひとり立ちできた…」とゲイルは海皇姫を掲げ上げてうなった。


「…海は切れないぃー…」とスイジンは大いに嘆いて、今は穏やかに戻った波打ち際を見入ったが、その痕跡が砂浜に残っているので背筋を震わせた。


「宇宙一の実力者になれたはずなので、

 もう怖いものは何もありません」


幻影の言葉に、「そのお言葉、ありがたく頂戴いたしました」とゲイルは有頂天になることなく真剣な目をして幻影に言った。



琵琶一族は大いに忙しい日々を過ごし、祭りの準備を終えていた。


そして祭りの第一日目、琵琶家一同は別荘の庭に整列して、この世で一番の重鎮を迎え入れ、「お疲れ様でございました!」と一斉に叫んだ。


「…あら、やだわ…」とこの世で一番の重鎮は大いに謙虚に言って、連れ合いのダビデを見て眉を下げた。


「歓迎していただいているのだ」とダビデが穏やかに言うと、「…ええ、そうですわね…」とライジンはつぶやいてから、信長の前に立って、今回の招待の礼を言った。


「ご主人とはいい飲み仲間となれそうじゃ」


信長の穏やかで明るい言葉に、「こう見えても下戸ですが、無理にでもお相手をさせていただきますわ」とスイジンと肩を並べるもうひとりの王のライジンも穏やかに言って頭を下げた。


すると、「…お母様、すごぉーいぃー…」とライジンの子供たちが我が母をさらに尊敬していた。


ここからはきれいどころが、ライジン一家を祭りの会場に案内した。


「…マリーン殿とほんにいい勝負じゃった…」と信長が眉を下げて言うと、「…宇宙の母の威厳は計り知れませんね…」と幻影も眉を下げて答えた。


幻影が海皇姫をゲイルに渡した後すぐに、ライジンとは挨拶を交わしていた。


そしてとんでもない威厳を持っていることにすぐに気づいた。


今回は二度目の対面となるのだが、その威厳に慣れることはなかった。


その威厳が宇宙の母という、威厳のある権力だった。


宇宙の母の考えひとつで、悪い世界をさらに悪くすることは可能だ。


その逆もできればいいのだが、それは人海戦術で対応する必要がある。


もちろん、その手伝い程度はできるので、とんでもない権力者と言っても過言ではない。


宇宙の母の補佐的な宇宙の父もいるのだが、宇宙の母の十分の一ほどの威厳しかないので、極でも務まると聞いていた。


自然界の王のマリーンと宇宙の母であるライジンは早速顔を合わせ、お互い穏やかにあいさつを交わした。


そしてふたり仲よくサーカス小屋に入って行った。


琵琶家も半数ほどは演者として参加するので、すぐにサーカス小屋に移動して、早速幻影が入場してくる客を朗らかに迎え入れる。


もうここから道化師としての仕事は始まっているのだ。


ライジンの子供たちが幻影に陽気に手を振ると、道化師はさらに滑稽にあいさつを返して大きな笑いをもらっている。


サーカス興業はこういった感情の起伏が逆に向くような演目順となっていて、演技の一番初めは誰もが息をのむ、高い場所での演目になる。


そのあとに比較的穏やかやきらびやかな演目となって、そのあとに驚愕の演目をする。


このようにして誰も飽きさせないような興行方針となっている。


やはり子供たちに人気が高いのは動物芸で、アニマールで仕入れてきた白い動物たちも早速演技をしていて、子供たちを大いに興奮させた。


動物たちの人気が高いことはよく知っていたので、低年齢層を中心にしてアンケートを取っていて、演技をする動物たちの人気投票だ。


こういったちょっとした催しがあるだけでも大いに盛り上がるものなのだ。


まだ開票はしていないのだが、人気第一位の巖剛が、いつものように嫌々ながらの演技をすると、子供たちは大いに笑い転げている。


しかし最後の最後で誰もを驚かせて、さらに獣人に変身したことで、大歓声と大きな拍手をもらっていた。


このような変身能力を持っている者は希少なので、出会うことは稀でしかないで、喜んで当然なのだ。


そして最後は、きらびやかで興奮度満点の演目が、琵琶家の猛者たちによってはじまり、所狭しと場内を駆け、飛び回り、大きな拍手をもらって、盛会のうちに第一回目の興行を終えた。


「…みなさんも見習うように…」という、早速ライジンの厳しい言葉が子供たちに飛んだが、子供たちは真剣な目をして、「はい! お母様!」と胸を張って答えた。


それを見守っていた信長は首をすくめて、「…ワシも出ればよかった…」とつぶやいた。


そして幻影の滑稽な見送りに、誰もがまた笑い転げて会場を陽気に後にした。


客が全て外に出ると、「…問題がなくてよかったぁー…」と幻影は不愛想な無表情な顔をして言うと、阿利渚が、「お疲れ様!」と陽気に叫んで幻影に抱きついた時点で、父親のやさしい顔になった。


「…道化師はどうしてもできんー…」と蘭丸は大いに悔しそうにうなった。


「はは様もお疲れ様!」と阿利渚は陽気に言って蘭丸に抱きついた。


蘭丸もすぐさま母の顔に戻って、「…ありがとう、阿利渚…」と穏やかに言って阿利渚を抱き上げたがすぐに降ろした。


「うふふ」と阿利渚は意味ありげに笑って、子供たちの輪の中に入って行った。


「わかってくれているはは様がさらに好きになったそうだぞ」


幻影の言葉に、「…子離れが難しいわ…」と蘭丸は言って眉を下げた。



ここからも琵琶家は大いに働き、祭りを楽しんでいる子供たちの顔色を見て、労働の糧にする。


よって、大勢の人たちが楽しんでいる中で、それほど楽しそうではない子を見つけることは簡単だ。


発見したのは休憩時間に逢引中だった弁慶と沙織で、「…何かあったのかな?」と沙織が穏やかに声をかけた。


少女は悲しそうだった顔を憤慨に変えて、「…別に…」と言って長椅子から立ち上がって寺に向かって歩いて行った。


「…源次、頼む…」と弁慶がつぶやくと、源次と志乃が少女の後ろ姿を追いかけた。


「…なんとなくだけどわかったような気がするわ…」と沙織が言って辺りを見回した。


今の少女ほどではないが、数名の集団に元気がない。


どう見ても、本来いるはずの者がいないという戸惑いのようにも感じられた。


「…悪に魅力があるのは当たり前だから…」と弁慶がつぶやくと、「…いればいるで困るけど、いないとまた別の意味でつまらなくなっちゃうものなのね…」と沙織は眉を下げて言った。


「…源次に託した子は、周りがみんな悪い子だった…

 …だったから来なきゃいいのに、彼女はここにいる…」


「…そうね、妙だわ…」と沙織は言って考え込んだ。


「…仲間をこの地に入れなくした責任者に、

 ひと言言いたいことがあるんだろうなぁー…」


弁慶の言葉に、「…私もやっちゃうかも…」と沙織は言って声を押さえて少し笑った。


「あとは、悪い子に同情して、

 ほかの子はここに来ることを取りやめた、とか…」


「別にいいじゃない。

 あの年齢の子供たちは大いに悩めばいいのよ。

 大人になった時によくわかるだろうし、

 貴重な経験だわ」


沙織の言葉に、弁慶は眉を下げながらもうなづいた。



源次の明るくしつこい性格が功を奏して、少女はここにいる理由を話した。


まさか源次が主催者側の人間とは知らないので、大いに悪態をついているが、源次は真剣な目をして、そして志乃の感情を抑え込ませて聞くことに徹している。


「君の言い分はよくわかった。

 だけどその子と付き合っていて、

 今までに不思議なこととか起こらなかったかい?」


源次のやさしい言葉に、「…今まで…」と少女はつぶやいて、少し眉をひそめた。


「…まさか… …まさか…」と少女はついに嘆き始めて黙り込んだ。


「人ごみの中を歩いていて、後方から必ず叫び声が聞こえる。

 例えば、財布を掏られた! とかね」


源次の言葉に、少女は悲しそうな目をした。


「主催者はね、そういった不幸がないようにと一計を案じたんだよ。

 掏られた方も不幸だけど、捕まった方も不幸になる。

 誰かが悪いことをすれば、

 そういった不幸の連鎖が起こるんだ。

 できれば、みんな笑みを浮かべて、

 この祭りを楽しんでもらって、

 納得して帰ってもらいたいはずなんだ。

 そのために、そういった資質がある人は立ち入り禁止にしたんだろうね。

 君も知っての通り、能力者も雇っているようだから」


「…お祭り、みんな楽しみにしてたのに…

 …ひとりのせいで、みんなが寂しい想いになっちゃった…」


少女は言ってうなだれた。


「祭りはまだ二日ある。

 出入り禁止を食らった子が改心するとは思えないけど、

 ほかの子を誘ってもいいと思うんだ。

 できれば、悪いことを考えている子を改心させたいところだけど、

 そう簡単には人の心も行動も変わらない。

 だけどその子が大切ならば、

 穏やかに話すことも重要だと思う。

 決して感情的になってはいけない。

 今度は君までも不幸になってしまうかもしれないからね」


「…その子ね、元貴族の子なの…

 …きっとね、前ほどお小遣いをもらえなくなったから…」


少女の言葉に、「…冷たい言い方をすれば、貴族は甘い汁を吸っていたようなものだったんだ…」という弁慶の言葉に、「…うらやましさもあったわ…」と少女は言って苦笑いを浮かべた。


「公表されていることだけど、

 聞いていないかもしれないから伝えておくよ。

 タルタロス軍の将軍の煌極さんの育ての親と姉も、

 ここには立ち入れないんだ」


源次の言葉に、「…知らなかった…」と少女は目を見開いてつぶやいた。


「テレビで報道していたのを観たから間違いないよ。

 その他にもタルタロス軍の能力者たちの育ての親や家族のほとんどが、

 出入り禁止を食らっているそうだから。

 …能力者たちの落ち込んでいる姿が見えるようだよ…」


源次が眉を下げて言うと、「…ここに入ってもいい人は、楽しまなきゃいけない!」と少女は心に決めて叫び、笑みを浮かべて源次に頭を下げて、西側に向かって走って行った。


「…無駄に怒っちゃってごめんなさい…」と志乃が頭を下げて謝ると、「あはははは!」と源次は空笑いした。


すると拍手をしている幻影と、大いに眉を下げている極がやってきた。


「…あとでばれたら色々と言われそうだ…」と源次がつぶやくと、「あの子の本当の笑みを見せてもらえたから、それだけでもいいんだ」と幻影は力強く言った。


「それに、祭りの主催者側だと知っていたら、

 彼女は何も話さなかったかもしれない。

 もしも話したとしても感情的になり過ぎるはずだから、

 叱る必要もあったはずだ。

 だからバレたとしても、

 今のように空笑いをしておけばいいさ。

 彼女は源次の誠意を信じたはずだから」


幻影の更に力強い言葉に、真っ先に志乃が頭を下げて、これ見よがしに源次に密着した。



これほどに人がいると、偶然にでくわすことは、確率の低いことだ。


しかし源次と志乃が二回目の逢引をしていると、数名の友人を連れた少女にバッタリとでくわした。


そこはB級グルメの店で、源次と志乃はたこ焼きが焼きあがるのを待っていた。


「先ほどはありがとうございました!」と少女が明るく礼を言うと、「もう連れてきたんだね」と源次は言って、少女の友人たちを見まわした。


「この人、知ってる!」とひとりの少女が叫んで、源次に指を差した。


「…俺は悪人じゃないから…」と源次が眉を下げて言うと、指を差した少女は、手を下ろして、「ごめんなさい」とすぐに謝った。


「君は役所の助役の娘さんだったよね?」


源次の言葉に、「…そうですぅー… お世話になったのに、ごめんなさいぃー…」と少女はさらにバツが悪そうに眉を下げて謝った。


「…うう… それなりに偉い人だったんだ…」と少女が眉を下げて言うと、「ま、この祭りの主催者の一員だ」と源次が面倒になる前に明かすと、「…そうだったのですね… 失礼なことをたくさん言ってごめんなさい…」と少女は素直に謝った。


「別にかまわないさ。

 君に言ったことはすべて真実だから。

 俺たちは大勢の人たちにこの祭りを楽しんでもらいたいだけだから。

 そのために最善を尽くすことは当たり前のことなんだ」


「…打ち上げ花火の絶景ポイント、教えてぇー…」と少女が大いにねだると、「特別扱いはできない」という源次の厳しい言葉に、少女は舌を出しておどけて笑った。


「何ならここにいる全員に公表するから。

 身動きできないほどに人がわんさかと来るだろうなぁー…」


源次がにやりと笑うと、少女は安土城の本丸を見た。


「確かに絶景の観覧場所だが、

 あの城には魔王様が住んでいるけど、それでもいいかい?」


源次が脅すと、少女たちは抱き合うようにして震えあがっていた。


「これから、サーカスに行くだろ?」と源次がころりと話題を代えると、少女は友人を見回して、「はい、行きます」と笑みを浮かべて答えた。


「だったら、東側の座席に座ればいいことがあるかもな。

 サーカスの最終興行が終わったと同時に、

 花火が上がるようになっている。

 あとは、どういうことなのかよくわかったはずだ」


源次の言葉に、少女は満面の笑みを浮かべて、「ありがとう!」と叫んでから、注文した品を受け取って、友人たちとともにサーカス小屋に向かって走って行った。


「…私たちはその下のさらに快適な特等席から見ているなんて言えないわ」と志乃は言って、少し笑った。


「その程度の褒美は欲しいじゃないか」という源次の言葉に、志乃は賛成して、ふたりは味付き揚げたこ焼きを食べながらサーカス小屋に向かって歩いて行った。



ライジンたち家族も特等席に誘われていて、大いに感動していた。


そしてうまい夕餉も大いに堪能している。


このマックラ村の規定に従ったのんびりとした花火大会は終わりがないほどに続き、初めての連打があってから、「おお―――っ!」と、「ああ―――っ!」という歓声が沸いた。


そこからも連打が続いて、祭り会場はどこもかしこも歓声が沸き、『ドドドドドドォ―――ンッ!!!』とう音とともに、最後に琵琶家の家紋の花火が上がってしばらくしてから、『本日の現楽涅槃寺仏陀祭りは終了いたしました。どうぞお気をつけてお帰り下さいませ』という、アナウンスが流れた。


最後の仕事を終えた沙織は、満面の笑みを浮かべて、家族たちの拍手を浴びていた。


「さあ! 客たちを送り出してから大掃除だ!」という信長の雄々しき言葉に、琵琶家一同はすぐさま頭を下げて作業を開始した。


まず信長はライジンとあいさつを交わして、ライジンの家族たちを帰路に付かせた。


もちろん、「…明日も来たぁーい…」と子供たちは大いに嘆いたが、ライジンは何も言わない。


言わないからこそ怖いようで、子供たちはすぐに黙って、信長たちに手を振って、「ありがとうございました!」と陽気に叫んで、黒い扉に吸い込まれていった。


そして信長はほとんど人がいなくなった城下町を見回して、「やはり人選することは重要じゃった」と、言って笑みを浮かべた。


よって、ゴミ捨て場にはわんさかとごみがあるのだが、ここは能力者たちが協力して細かく選別して、幻影がごみとなる前の新品の製品に造り替えた。


「還元率九割五分です」と幻影が笑みを浮かべて言うと、「素晴らしい経費節減じゃ」と信長は機嫌よく言った。


そして迂闊にも個人の持ち物も多く見つかったので、その持ち主の居所と名前を書いて保管した。


そのうちの半数ほどは今夜のうちに取りに来たので、円滑に引き渡しができた。


しかも探し物が見つからない人がほとんどいないことに、信長は大いに喜んでいる。


よって探し物が見つからない人もいるのだが、「会場内に残されていたとすれば、見つかったはずです」という係員の言葉に、落とし主は諦めるしかなかった。


会場を出て帰路について落としたとすれば、誰かに拾われている可能性があるので、警察署に行くように進言される。


そして数名は幸運にも落し物が見つかったが、不幸の持ち主は落し物が返ってこない。


「お困りのようだ」とここでピエロが現れて、不幸な者を大いに笑わせた。


そして幻影は期間を祭りの終わりごろに集中して客の経験を再生して、「普通に探しても見つからない」と言うと、森からその落し物が飛んできたので、客は大いに驚いた。


「盗人は動物たちだったようだ。

 ここは大目に見てやって欲しい」


ピエロがおどけて言うと、客は大いに笑ってから、そして笑いながら礼を言って、清々しい気分で帰って行った。



これらの事実があったことは、この日の夜から素晴らしい出来事、仏陀のご利益として、インターネット上で大いに話題となり、さらにはピエロが登場した話に、誰もが驚き、そしてうらやましくも思っていた。


落としたことは災難だったが、その最後に素晴らしい想いを知ったと、誰もが感銘していた。


もちろん悪人たちもこの情報を目にする。


よって批難する書き込みを書くのだが、それが反映しない。


ゆえに、インターネット上も大いに平和となっていた。


この件はテレビのニュースとなって、琵琶家の耳に入ってきた。


「…いないと思ったら…」と信長が眉を下げて幻影を見て言うと、「見つかって助かりました」と幻影は笑みを浮かべて言った。


琵琶家の家人たちは誰もが疲れ切っていて半数ほどはもう就寝していたので、家人たちは一斉に最後まで仕事をしていた幻影に頭を下げた。


「…師匠だから当然だぁー…」と一番に子供たちと寝ていた蘭丸が言ったが、説得力はある程度はあった。


「そう、当然のことだ。

 だけど、見つかって喜んでくれた糧は、俺だけのものになった」


幻影の言葉に、「…一番に寝ちゃってごめんなさい…」と蘭丸がここで謝ると、幻影は大いに笑っていた。


「いや、家族として誇りに思う糧も、

 我らは受け取れた」


信長が言って幻影に頭を下げると、家人たちは誇らしげに幻影を見て頭を下げた。



「…ふむ… 解せぬな…」と、朝餉の際に報告を聞いた信長がうなった。


源次と交流を果たした少女、島田冴子の悪友の元貴族の娘のエイダ・クライオンが、悪人リストから除外されたのだ。


「心に根付いていた悪ではなかったのでしょう」


幻影が明るく言うと、「…まあ、素晴らしい体験を話して、書き込みなどを見せれば、善の心が勝ったのやもしれぬわな…」と信長はつぶやいて何度もうなづいた。


「じゃが、昨日の今日で随分と早い対応じゃが?」と信長が報告に来ていた極に聞くと、「使えなくなった者たちに集中させて仕事をさせていましたから」と明るい笑みを浮かべて答えた。


もしも今回のような明るい情報がひとつでもあるのならば、傷ついた心を癒すことも可能と極は信じていたからだ。


信長も笑みを浮かべて何度もうなづいて、「心の支えが除外されれば、まさに一石二鳥じゃ」と明るい言葉を放った。


信長の許可を得て、エイダ・クライオンにはインターネット経由で、祭り参加の許可が通達された。


まさかのこの事態に、エイダは恩人である冴子にすぐに連絡を取った。


『誰かに騙されてない?』という冴子の現実的な言葉に、「お祭りのホームページに乗ってるメールアドレスだった」とエイダが答えると、『だったら間違いなさそうね』と冴子は答えて、親身になってくれていた源次の笑みを思い浮かべて赤面していた。


しかし源次の隣には志乃がいたので、冴子は落胆した。


―― まさか姉、とか… ―― と都合よく考えたが、それは夢また夢として、頭の中から除外したが、もしまた会えれば聞くことに決めていた。


―― 名前、聞いておくべきだったわ… ―― と冴子は思ってすぐに、エイダにお祝いを言って、源次と接触のあった役所の助役の娘の赤磐光に連絡を取って、その名前を知り、「…琵琶、源次、さん…」と口角を上げてつぶやいた。


『偽名ですって、はっきりと言われて笑っちゃったの。

 でも名前は本名で、

 前田源次さんだって。

 琵琶家の方々って、

 ほとんどが血縁者じゃないそうなの』


「…あ、あ…」と冴子はすぐにつぶやいた。


もちろん、志乃の件を聞こうかと悩んだからだ。


『気になる方のお名前は琵琶志乃さん。

 本名は佐竹志乃さんで、

 本物のお姫様らしいの』


「…お姫様とは、縁がなかったわぁー…」と冴子は大いに嘆いた。


『最後まで言っていい?』


光の言葉に、冴子は大いに戸惑った。


「…ううん… もしもまた会えたら聞くから…」と冴子は自信なさげに答えて、光に礼を言って電話を切った。


―― 想いが届く可能性1パーセント… ―― と冴子は冷静に判断していた。


だがその1パーセントが実るようにと、窓の外の素晴らしい青空に手を合わせて祈った。



「…源次様と別れろって言われたような…」と志乃は箸を止めて眉を下げて言うと、「じゃあ、別れよう」という源次の言葉に、志乃は拒絶するようにして、源次の腕に腕を絡ませて箸を手に取って、「おいしいわぁ!」と無理やり明るく言った。


「ふむ… 琵琶家に迎え入れる資格がある子?」と幻影は自分自身に問いかけると、「…漏れてしまったようです…」と朝餉を食べに来ていたマリーンが眉を下げて言った。


「タルタロス軍でも構わんのではないのか?

 まあ本人は琵琶家側に想いがあるようじゃ」


信長の言葉に、「本人の意思に託します」とマリーンは穏やかに言ってガイアに代わって、「それほど優秀ではない」と言って、もりもりと食事を摂った。


「能力者ではあるようですね」という幻影の言葉に、ガイアは盛大にせき込んだので、一目瞭然だった。


「我が家にない何かを持っていれば幸いじゃ」と信長は穏やかに言って、大いに箸を悩ませてから、うまそうな出汁巻き玉子に箸を延ばした。


「…あのぉー… 御屋形様…」とハイネは申し訳なさそうな目をして信長に言って頭を下げた。


「何なりと申してみよ」という信長の許可が下りたので、ハイネは思いの丈を信長に話した。


「…むむ…」と信長はついついうなってしまったが、「いや、それで構わん!」と感情をころりと変えて明るく答えた。


「ご配慮、心から嬉しく思います」というハイネの言葉に、「…普通に礼を言うだけでよい…」と信長は眉を下げて言った。


「師匠が硬すぎて申し訳ございません」という幻影の言葉に、「子供特権!」と信長が叫ぶと、子供と認定された者たちが一斉に信長を囲んで、好々爺にした。


「ほう! 斬新だな!

 それでいいぞ、ハイネ!」


幻影が陽気に叫ぶと誰もが興味を持った。


「…手伝いはどうする?」と幻影はすぐに真剣な目をして聞いた。


「できれば…」とハイネは言って、沙織と志乃を見入った。


「姫様方、御屋形様のお料理番からのご指名です」という幻影の硬い言葉に、「働かせていただきます」と沙織は落ち込みながらも何とか答えた。


ハイネは師匠譲りの絵を描いて、「…むむむむ…」と信長をうならせた。


そして、「取り置きを頼む」という信長の懇願に、「はい! もちろんでございます!」とハイネは満面の笑みを浮かべて答えた。


これで料理番としても働けるので、ハイネに杞憂がなくなった。


ハイネの提案は比較的屋台向きのもので、品数は三つしかないのだが、ひとつひとつに思い入れがある秀逸な商品だ。


材料もふんだんに使うが、それほど無駄が出ない。


一日目の祭りを見てこその、ハイネの提案だったのだ。


そして幻影とハイネは器の選定を始めた。


ここに阿利渚を抱いた蘭丸も参加した。


蘭丸としては、なんとか阿利渚を抱きしめたい一心の行動でしかないが、阿利渚は快く従った。


「…おお、この模型も素晴らしいなぁー…」と蘭丸は幻影が出した見本に大いに感動してうなった。


「…むぬぬ…」とまさにうまそうな模型に、信長がうなった。


「今すぐに、ひと通り作って見せよ!

 まずは味見は重要じゃ!」


信長の命令に幻影は大いに笑ったが、ハイネは沙織と志乃を引き連れて厨房に行った。


「ダメよ阿利渚」とついて行こうとした阿利渚を蘭丸が止めた。


「今日一日遊べなくなるわよ」


蘭丸の言葉に、阿利渚は落ち込んだ。


「…巻き込んだお蘭が悪い…」という幻影の言葉に、信長は愉快そうに笑った。



「…うぬぬぬぬ…」と、三種の弁当を目の前にした信長はさらにうなっていた。


「まずは順を追って朝餉からじゃ」と信長は言って、朝餉と名付けた弁当を手に取って、何度もうなづきながら食った。


そして昼餉と夕餉も食い終えて、「申し分なく合格じゃ!」と信長は上機嫌で叫んだ。


「…あとで買いに行くわぁー…」と食べられなかったマリーンは大いに嘆いた。


屋号はハイネが店主であることもあり、『ハイネの琵琶家ご用達のお弁当屋さん』と少々軽い雰囲気の名前になって、幻影が屋台を作り上げた。


屋台といっても厨房もあるので、席のない飲食店だ。


調理をする姿も見てもらおうという、祭りならではの試みだ。


よって手伝いは必要なので、ここは琵琶家一同が協力し合うことになった。


ハイネは早速仕込みから初めて、祭りの開場時間に合わせる行動を取り始めた。


今は暇な幻影も大いに手伝って、三品種を百ずつ作り上げると、早速マリーンが十食ずつ三十食を買って、ひと通り食べてから、残りはガイアの腹に収まった。


「働いてまいります!」とマリーンは威勢よく言って、お付きの者たちとともに大神殿に向かって飛んで帰った。


開場すると目ざとい客はもう弁当屋を見つけて、大いに悩み始めた。


今はまだ朝だが昼に近い。


しかし、夕餉弁当が一番うまそうなのでこれも食ってみたい。


よってひと揃え三食を買っていく者が続出した。


祭りで出す食べ物は、普通のものよりも少し小さいことが一般的なので、大人であれば三食程度は食べられる量でもある。


よってすべてが少々小さいので、箸でもいいが、楊枝を差して食べることも可能だ。


わざわざ席を陣取って座り込む必要がない弁当になっていた。


特に屋台の店主たちが大いに眉を下げて、弁当屋を脅威に思っていた。


大勢の客は引き込まれるように弁当屋に行くのだ。


普通の祭りでは味わうことができない琵琶家ご用達の味を大いに堪能し始めた。



人は多いが街道は広いので、冴子は今日はエイダも伴って祭りにやってきた。


「昨日はなかったよ?」と光が言って指を差すと、冴子たちはもう列ができている弁当屋に並んだ。


「…琵琶家ご用達… あ…」と冴子は言って、屋台に朗らかな笑みを浮かべて客の対応をしている志乃を発見した。


―― でも、さすがに仕事中だわ… ―― と冴子は常識的に考えて、どれを食べようかとここは思案を始めた。


冴子は順当に昼餉に決めて、志乃に金を払うと、「…源次様は私の夫よ…」と朗らかに言われてしまった。


冴子は知りたいことは知ったが、ショックは隠しきれなかった。


「…何も言ってないのに…」とエイダは恩人の冴子に同情するように言った。


「…私の顔色でわかったんだって思うの…」と冴子は落ち込みながらも言って、ここは元気を出して、弁当の蓋を開いて、「うわぁー…」とすぐに喜びの声を上げた。


そして友人たちも冴子に倣って大いに喜んで、美味い弁当を大いに食べた。


すると、異様にきらびやかな武士が冴子たちの視線の釘付けになった。


その武士は信幻で、店の中からハイネに朗らかに話を始め、信幻が志乃の弟だとうことまで知った。


「…まだ何も始まってないのに失恋した気分…」と冴子が信幻とハイネを見て言った。


「…いい男はすぐに売り切れるんだわ…」というエイダの言葉に、友人たちはすぐに同意した。


すると信幻の後を追うようにして、これまたきらびやかな武士と、学者にしか見えない武士がやって来て、ハイネたちの労をねぎらった。


「…今度は相手はいないはずだわ… 多分…」とエイダが言うと、友人たちは大いに希望を持った。


しかしそのふたりは別の仕事があるようで、サーカス小屋に向かって走って行った。


「追うわよ!」とここは本来のリーダーシップをエイダが出して、友人たちはすぐに従った。


しかし、『関係者通用門』と書かれている場所に入って行ったので、ここから先は追えなかったので、一行は大いにうなだれていた。


「…あー…」ととんでもなく着飾っている女の子が冴子たちを見回して言ってから、客席の方に団体を引き連れて行った。


「…確実に関係者だわ…」とエイダは言って、友人たちを引き連れてあとをつけた。


冴子はまさに友人たちと青春を謳歌している気分になっていて、もうこれだけで十分だった。


「何か御用でござるか?」と影達が言って、エイダの前に立ちふさがると、「…悪いこと、してないよ?」とエイダは苦笑いを浮かべて言うと、影達は愉快そうに笑った。


「大人の事情を察することは重要だ。

 本日も大切なお客様をご招待いたしておるのでな。

 こういった警備も必要なのじゃ。

 我が琵琶家に用があるのなら、

 祭りが終わった次の日にでも来られるがよい」


影達の言葉に、「…はい、ありがとうございます…」と冴子は控え目に礼を言った。


「…ふむ、なるほど…」と影達は何かに納得して、本来の仕事に戻った。


「…怖そうだけど、絶対優しい…」というエイダの言葉に、友人たちは黄色い声を上げて喜んだ。



「ゲイルさんのご兄弟は昨日と今日で、ほぼ全員だと感じたのですが…」


世話役の弁慶の言葉に、ゲイルはその事情を説明した。


「ああなるほどそうでしたか。

 海辺に加え内陸地にも村があるから」


弁慶たちが見かけたゲイルの兄弟たちは海辺の村で仕事をしている者たちで、まだほかにも内陸地のひときわ大きな村にも人が住んでいるのだが、海辺の村の方が何かと都合がいいので、内陸地には海辺の村の三分の一ほどしか人は住んでいない。


農地も海側の山にもあるのでそれほど困らないのだが、さすがに全員が住むとなると少々狭い。


あとは子供ばかりではなく大人も住んでいるので、明日は遠足ではなく観光旅行のようになるだろうと、弁慶は察した。


「明日はスイジンの担当ですが、

 お目付け役として春之介さんにもお願いしているのですが…」


ゲイルが罰が悪そうに言うと、「いえ、一向にかまいませんから」と弁慶は即答した。


八丁畷家とコリスナー家は家族ぐるみの付き合いであることは情報として知っていた。


この二つの家も、宇宙の安寧を願って人助けをしているのだが、ほかの組織とは少々趣向が違う。


まさに琵琶家が目指す人助けをこの両家がやっているのだ。


できれば春之介とも大いに交流を深めたいと弁慶は切に願っていた。



有意義な交流の場の祭りも最終日となって、見物客も一番多くなった。


そして、許可できない者たちが現れたのだ。


「なぜ連れてきたんです?」と幻影が眉を下げて春之介に聞くと、「…やはりそれほど良くないようだね…」と眉を下げて答えた。


「…ダメだってぇー…」とスイジンが眉を下げて子供にしか見えない一行に言うと、その代表者らしき少年が幻影をにらみつけた。


「…いい度胸だ…」と蘭丸が言った時、幻武丸はその少年の首の横にあった。


さすがに蘭丸の予測できない読めない動きに、少年は尻もちをついて悔しそうな顔をした。


「レスターさんと兄弟とは思えないね…

 どうしてここまで曲がってしまったのか…」


幻影が大いに嘆くと、スイジンは眉を下げて、許可できない者たちを連れて消えた。


「…わからせるために連れてきただけ…」と幻影が眉を下げて言うと、「…試すような真似はしないでとお願いしたのですが…」とゲッタも眉を下げて言うと、「騒ぎを起こそうとした罰を与えたから」と幻影は言ってにやりと笑った。


「…はい… 念話で泣きごとを言ってきました…」とゲッタは言って幻影に頭を下げた。


「…むむむ…」とエカテリーナはうなって蘭丸を見入っている。


「俺の夫が打った業物だ」と蘭丸は言って鼻で笑ってから、幻武丸を鞘に納めた。


「獅子丸、巖剛、影達。

 どうだ? 美人の嫁候補だぞ?」


蘭丸の言葉に、三人は大いに眉を下げていたが、婿候補にしてもらえたことには大いに喜んだ。


「…三人だったら、申し分なく誰でもいいよぉー…」とゲッタは明るい笑みを浮かべて言った。


「…お兄ちゃんに相談したいぃー…」とエカテリーナがうなると、「…そろそろ自分で決めれば?」とゲッタは大いに眉を下げて言った。


「どちらにしても、エカテリーナ殿は嫁に来るのじゃな?」という信長の明るい言葉に、「…武者修行も必要だと、兄が言っていましたぁー…」とエカテリーナは大いに眉を下げて答えた。


「すぐに決めなくてもよい。

 我が琵琶家の一員として働いてくれたら何も言うことはないんじゃ。

 ワシらの家族も、絶賛募集中なのでな。

 それが嫁や婿だとなお好ましいだけのこと。

 その嫁婿候補が、何人もおられるわい」


信長に認められたことで、ゲッタの家族たちは大いに自信を持って胸を張った。


まさに宇宙最強の幻影が目の目にいることも大きい。


見かけだけのやさしさと聞いていたが、今の雰囲気ではそれは感じられない。


できれば弟子入りを果たしたいと、数名は心の中で懇願していた。


「ゲイルさんも修行でここにに来るそうだから、

 便乗してやってきても別にかまいません」


幻影のやさしい師匠の言葉に、大勢の者たちが一斉に頭を下げた。


信長は満足そうに何度もうなづいたが、「じゃが今日は祭りを楽しんでくれ!」というさらに気合の入った言葉に、「ありがとうございます!」と声を張り上げて大声で答えたことで、「…差し押さえるか…」と信長は言ってにやりと笑った。


まさに即戦力しかいないので、こう思っても普通のことでしかない。


しかももうすでに、初日と二日目に訪れた、竜になる資質の高い三名が修行に来ることは決まっていた。


よって信長の機嫌はすこぶるいいのだ。


まずは朝餉ということになり、琵琶家はゲッタの家族たちとともに、話をしながらのんびりと移動した。



「ワシらは構わんが、母者たちが気に入らんのではないのか?」


信長の言葉に、ゲイルの父でもあったガイルは残念そうにうなだれた。


ガイルは様々な資質が高いが、指導者としてライジンとスイジンの信頼が厚い。


よってできれば引き抜かない方がいいひとりなのだ。


「もしも強引に話を進めるのなら、

 我ら琵琶家からのいけにえが必要でしょう」


幻影の進言に、「…それは大いに言える…」と信長は眉を下げて答えた。


「ではそのいけにえを探し出してくれ。

 もちろん、ゲイル殿と同様に、

 修行に来ることは許されておるのでな」


信長の言葉に、ガイルは笑みを浮かべて頭を下げた。


「実は我がコリスナー家にも杞憂がありまして。

 エカテリーナが全ての後継者と、

 もう決まっているのです」


ガイルの言葉に、「…そうじゃろうなぁー…」と信長は残念そうに言ってうなだれた。


「…お兄ちゃんは、ここで暮らしてもいいって言ったよ?」というエカテリーナの言葉に、「さらに雄々しくなっていずれは戻ってくるとゲイルは希望を持っている」というガイルの言葉に、エカテリーナは眉を下げて何も言えなくなっていた。


「もっともあのおふたりが、そう簡単にくたばるわけがない。

 エカテリーナがあとをつぐのは、数百年先の話だろう。

 それはただの代替わりということだけで、

 おふたりは自由を満喫するはずだ。

 それが竜の本能でもあるからな」


「この先大いに話し合って、

 のんびりと決めれはよい」


信長の言葉に、ガイルもエカテリーナも希望に満ちた笑みを浮かべて頭を下げた。


「じゃが、ゲイル殿は世継候補ではないんじゃな?」


信長は疑問に思ったのですぐに聞いた。


「…今の影の王が、ゲイルとゲッタですので…」とガイルが眉を下げて答えると、「そういう立ち位置も必要じゃろう」と信長は言って何度もうなづいた。


「…影から操られるんだろうなぁー…」とエカテリーナが嘆くと、ガイルは愉快そうに笑った。


「問題は竜の存在感だけの話だ。

 ゲイルとゲッタは特殊過ぎて誰も真似ができん。

 だがエカテリーナは完成された生きた手本という、

 王の資質が大いにあるんだ。

 ふたりの母と同様にな」


「…お兄ちゃんとゲッタの役立たず…」とエカテリーナが嘆くと、誰もが大いに笑った。


ここからは女性たちはエカテリーナに寄り添って、きらびやかな服を仕立てると、「…これが私…」と姿見を見ているエカテリーナは夢見心地となっていた。


「でかい姫だ」と蘭丸が憎まれ口をたたくと、「おまえも着飾れ!」とエカテリーナが叫んだ。


するとその言葉は現実化して、雄々しききらびやかな姫がふたりに増殖した。


「…出し物の一環として、姫様道中をするよ…」と幻影が含み笑いをしながら言うと、誰もがすぐに賛同した。


仮装をしているのはふたりだけで、幻影たちはいつもの姿で街道を練り歩いた。


初日と二日目とは違う趣向に、見物客は大いに盛り上がっている。


「…心底笑われてるぅー…」と蘭丸が小声でうなると、「みんな喜んでくれているだけだ」と幻影はすぐに答えた。


心細くなった蘭丸が幻武丸を出すと、「…おー…」と見物客は声を上げて拍手をした。


「…俺にもそんな小道具をくれぇー…」とエカテリーナが嘆くと、幻影が槍持ちとなって、「姫、これを」と言って、緑濃い槍をエカテリーナに渡した。


「…お兄ちゃんの海皇姫と同じ…」とエカテリーナは喜んで、槍を掲げると、また見物客が沸いて拍手が辺りを包み込んだ。


まさに武闘派の姫のふたりに、誰もが大いに喜んでいる。


「それはまだ試作です。

 伴侶ができた時にでも、

 正式にお渡しします」


幻影の言葉に、「うん、ありがと」とエカテリーナは笑みを浮かべて答えて、流れるような動きで槍を振り回すと、「お―――っ!」と大いに沸いた。


「…桜姫と同等じゃないかぁー…」と蘭丸が大いに嘆くと、「槍の主がそれなり以上だからだよ」と幻影がすぐに答えた。


「…まだまだ幻武丸とともに成長せねば…」と蘭丸は決意をもってうなった。



今日の参加型の出し物は徒競走で、現楽涅槃寺の境内に設けてある一角で競技が始まった。


賞品は銭ではなく、軽食の屋台でなんでも一品十軒を巡れる祭りならではの懸賞だ。


よって、昼餉時すぐに勝者が決まるように計画されている。


そうしないと、懸賞品を使えなくなるかもしれないからだ。


最終的な勝者は決まったのだが、最終決戦に臨んだ十名全員に懸賞が渡された。


もちろんその差はあるのだが、誰もがこぞって屋台にすっ飛んで行く。


そんな中、一番手だった少年は懸賞品を見つめながらここは奮起して、係員にあることを進言した。


「うん、ありがたく使わせてもらうから」と係員だった源次は朗らかに言って少年に向けて笑みを浮かべた。


ここからは阿利渚の出番で、それほど金持ちではない子に声をかけては、欲しいものを聞いて引換券を使う。


もちろん理由も述べているので、「…券をくださった方、本当にありがとう…」と言って手のひらを合わせる。


最低でも十人は幸せにできると、阿利渚は大いに喜んでいた。


そして最後の券は、元の券の持ち主だったことに、少年は大いに驚いたが、辞退することなく快く阿利渚の接待を受けた。


拒めば罰が当たるとでも思ったようで、ここは目を付けていた弁当屋で琵琶家夕餉弁当と引き換えた。


少年は礼を言って、弁当をもって本堂に向かって手のひらを合わせて礼を言って、開いていた長椅子に座って朗らかに弁当を食って目を見開いて大いに感動した。


今までに経験したことのないうまさが、この小さな弁当箱に詰まっていたのだ。


少年はゆっくりと弁当を食べてから、きちんとごみの始末をしてから、弁当屋に行って、作業をしているハイネたちを見入った。


今は昼餉時なので長蛇の列だが、調理人の作業を見る場所もあるので、心おきなくその作業に見惚れていた。


「あら? 素晴らしい少年を捕まえたわ」と妙栄尼が穏やかに言って、少年を抱きしめると、「おー…」と事情を知っている者は誰もがうなった。


「もしよければ、琵琶家の一員になりませんか?」


妙栄尼の言葉を、少年は信じられない想いで聞いているだけだった。


奴隷として働いていた少年としては、この先どうしようと思い、奮起して単身この祭りに参加して、幸運にも懸賞をもらうことができた。


そして、名のある僧の妙栄尼にも声をかけられ抱きしめられたことで、感動して涙を流してうなづいていた。


「…足が速くて優しくて幸運を持ってる人だぁー…」と阿利渚は言って妙栄尼に抱きついた。


「…最低でも私はすべてを見ていました…」


妙栄尼の言葉に、少年は大いに照れて頭をかいて、「…おいら、五百八十九番、です…」と少年は名前という番号を名乗った。


「…まさに、ご利益ね…」と妙栄尼は大いに眉を下げて言った。


そして妙栄尼は様々な文字を書いて少年に説明して、「琵琶利益(とします)と名乗りなさいな」と言って、少年を大いに喜ばせた。


ほんのわずかな時間で、利益はたくさんの勉強をした気分になっていた。


「お! 父ちゃんと同じ名前の子だ」と言って朗らかな笑みを浮かべている源次もやってきた。


「あのお方は慶次の方がいいのです」と妙栄尼が言うと、源次は笑みを浮かべて頭を下げた。


「私の子にいたしました」という妙栄尼の言葉に、「利益にはもう幸せしかないでしょう」と源次は絶賛した。


「利益は、今は何をしたいですか?」と妙栄尼が穏やかに聞くと、「忙しいようなので、ごみの始末だけでもお手伝いしたいです」と利益は言って、弁当屋の屋台を見た。


「いいでしょう。

 みんなすごい人ばかりだから、

 手伝いに来たと伝えるだけで、

 お仕事をいただけるわ」


妙栄尼の穏やかな言葉に、「はい! 妙栄尼様!」と利益は叫んで、自慢の足を使って一瞬にして屋台の調理人の仲間になっていた。


「…奴隷であったことすらも、利益にとっては幸運…」と妙栄尼は言って手のひらを合わせた。


「…奴隷じゃなければ、今の彼はない…」と源次はつぶやいて、手のひらを合わせた。


「…勝手に決めるでないぃー…」と信長がうなりながらやってきたが、「今回は早い者勝ちですわ」という言葉に、源次は愉快そうに笑った。


「…うう… 面白くもなんともないぃー…」と信長がうなると、笑った理由を源次が告げると、「…だからこそ早い者勝ち…」と信長はつぶやいてうなだれた。


ただの語呂合わせで、利益の足が速いと早い者勝ちをかけただけのことだった。


ここは妙に低姿勢になっている信長は、仕事の邪魔にならないように、利益に挨拶だけをして戻ってきた。


「…いい子だ…」と信長は大いに感動してうなってから、妙栄尼をにらんだ。


「幻影にできなかったので、

 利益を育てることに決めました」


妙栄尼の言葉が決定打になり、信長は何も言えずに認めた。


「…家臣の子はみんなワシの子…」と信長は捨て台詞を残して、蘭丸たちとともにサーカス小屋に向かって歩いて行った。


「…若い子で、純粋に御屋形様が親として認めた子はいないからなぁー…」と源次が眉を下げて言うと、「そう簡単に見つかるものではありません」と妙栄尼は薄笑みを浮かべて言った。


「それに私は御屋形様の家臣ではありませんので、

 利益は私だけの子ですわ」


「…そうだった…」と源次は言って、大いに眉を下げた。


妙栄尼は琵琶家の相談役なので、正式には信長が召し抱えているわけではない。


「…御屋形様が怒り出さないように対策を…」と源次は大いに眉を下げて、妙栄尼に頭を下げてから、サーカス小屋に向かって走って行った。



第一回目のサーカス興業が終わった後、琵琶家一同とゲイルの家族たちは、サーカス小屋の特別室に集合して昼餉を摂り始めた。


利益は少し緊張しながらもきちんと挨拶をして、今は母親然としている妙栄尼の隣に座ってかしこまっている。


幻影は笑いながら、「利益は父と母は誰がいい?」と聞くと、この場に戦慄が走った。


信長と妙栄尼は、ここは大人として何も言わずに利益の言葉を待っている。


「…実は…

 ここのお祭りに来たのは、

 どうしてもお礼を言いたかったからなのです。

 …自由の身にしてくださって、

 本当にありがとうございました…」


利益の母親はもう決まっていた。


利益は蘭丸に頭を下げていたのだ。


「胡蝶蘭様はすっごく怒ってくださっていました。

 …それに…」


利益はここまで言って大いに顔を赤面させた。


「…ついつい、抱きしめてしまったな…」と蘭丸は利益に笑みを浮かべて言った。


「…泣いちゃってごめんなさい…」と利益が謝ると、「大人だって泣いていたから、子供が気にすることでもない」と蘭丸が答えると、「…はい、ありがとうございます…」と礼を言って、利益は新たな涙を流した。


「…あ、あの時かぁー…」と信長は悔しそうにうなった。


それは幻影が鼫に変身して、蘭丸が翼の生えているフローラに変身した時に、ついでに危ういと感じた場所にだけ飛んで、一部をすでに開放していたのだ。


「…俺は、無表情だったんだろうなぁー…」と幻影は大いに眉を下げたが、「はい、初めはそうでした」と利益は笑みを浮かべて言った。


「縁があればまた会えるさって、言ってくださったのです。

 ですがその時は、どちらにお暮しの方なのか全くわからなかったのですが、

 保護されていた施設のテレビを観て、ついつい指を差してしまって…

 僕たちはお祭りの三日間のうち、一日だけ見物ができることになったんです。

 僕だけが今日になっちゃったんですけど、

 それは徒競走に出たかったからです」


利益の明るい言葉に、「…足が速いなんてことすらまだわからなかったはずだ…」と信長がつぶやくと、「…施設のお医者さんに、みんなは激しい運動はしちゃだめって言われていたんです…」と利益は笑みを浮かべて言った。


「利益はそうではなかったんだね?」と幻影が聞くと、「君は確実に足が速いって言ってくれたので、自信を持って徒競走に出たんです」と笑みを浮かべて答えた。


「僕はご褒美までもらって、本当にうれしかったんです。

 すると胡蝶蘭様が、慈悲にあふれたすげえ子はいねえな、

 とおっしゃられた言葉が聞こえたんです」


「…はは… 確かに俺にも聞こえた…」と源次が言うと、「…俺のせいで、せっかくの褒美をふいにさせてしまった…」と蘭丸は言って、利益に頭を下げた。


「いえ、僕はどこか働かせてもらって、

 お金を稼ぐことはできるって思っていましたから」


利益の言葉に、妙栄尼はいろんな意味の涙を流してほぼ感動していた。


「…だけど、阿利渚様にお声掛けいただいて、

 貧乏から数えた方が早いって気づかされもしました…」


利益の言葉に、「…余計なことだったのかもぉー…」と阿利渚は大いに眉を下げて言って、利益に頭を下げた。


「いいえ。

 本当にお祭りを楽しんでもらいたいという気持ちがよくわかりました。

 まさかここにいられるなんで、

 夢を見ているようです」


「お蘭に母となってもらいたいか?」と信長が聞くと、「もう何度もお母さんって叫んでいます」という利益の言葉を聞いて、蘭丸は大声で泣いて利益を抱きしめた。


「…叫んでたな…」と幻影はつぶやいて何度もうなづいている。


もちろんそれは心の中での話だ。


「…父も必要なのではないのか?」と信長が催促するように言うと、「阿利渚様がずっと、御屋形様をご使命されていおられるのですが…」と利益が言うと、阿利渚はかわいらしく両手のひらで口を押さえつけていた。


信長は大いに眉を下げていたが、「おまえの理想の父を言ってみろ」と聞いた。


「はい、源次様です」という利益の返答に、「…名前の意味があったような気がするぅー…」と源次は小声で言った。


そして男性たち全員が大いにうなだれていたことに、源次は愉快そうに笑った。


「…出会いは重要だと、思い知った気分だ…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「幻影ではない理由を語れるか?」と信長が聞くと、「きっと、神様ですから」という利益の返事に、「…神を返上したいぃー…」と幻影がうなると信長は愉快そうに笑い、神嫌いの長春に大いに慰められた。


「…蘭丸も神だが、言葉遣いや態度がまさに人間らしく、

 自然に神を隠しておるからな…

 ある意味、器用なヤツ…」


信長の言葉は誉め言葉として受け取って、蘭丸は素早く頭を下げた。



「…なかなか、能力者っぽい子だ…」と幻影が蘭丸の隣で食事を始めた利益を見て言うと、「…私が育てるって決めたのにぃー…」と、蘭丸の隣にいる妙栄尼が大いに嘆いた。


「…勝手に決めるから悲しことになったんじゃないの?」という幻影の言葉に、妙栄尼はうなだれた。


「…お昼からも、また手伝ってもらえるの?」と正面に座っているハイネが眉を下げて聞くと、「はい、もちろんです」と利益は笑みを浮かべて答えた。


「祭りも最終日だ。

 無理をしてはいないか?」


信長の言葉に、「祭りの主催者側で参加することはそれほどないと思いますから」と利益が答えると、「この先ずっと主催者側だぞ」という信長の言葉に、「本当にうれしいのです」と利益が喜んでいるので、この件はもう誰も聞かなかった。


「…でもね、最終回のサーカス興業の前に、

 お弁当作りは終わるから」


ハイネの言葉に、利益は大いに喜んだ。


「だけど、利益は調理にも長けているようだけど?」と幻影がハイネに聞くと、「気持ちよく仕事をさせてくれるんです!」と機嫌よく答えた。


「仕込みをしてるとどうしてもごみが目に入るんですけど、

 すぐに全部消えちゃうほどの早業なんです!」


ハイネの陽気な言葉に、「利益が承諾したら、ハイネが利益の主となればいい」という幻影の言葉に、「…本格的に雇っちゃって大丈夫?」とハイネが聞いて、本来の仕事のことも語ると、「是非雇って下さい!」と利益はすぐに答えて頭を下げた。


「…特典として、幻影様と釣りとかにも行けるのぉー…」というハイネの言葉に、利益は幻影に笑みを向けて頭を下げた。


「…俺も行きたいが…」と蘭丸は言ってうなだれたが、「くればいいじゃないか」という幻影の言葉に甘えることにして、満面の笑みを浮かべた。


「成果によって、どういうことなのかよくわかるさ」と幻影が言うと、「…それが一番の杞憂なんじゃない…」と蘭丸は大いに眉を下げて言った。


「一度くらい、全く獲れなかったっていう経験も必要だからな」


「その原因になりたくないと言っている!」


ついに蘭丸が怒り始めたが、「…本来の仕事には係わらないことにしたわ…」と蘭丸は言って利益を少しだけ抱きしめた。


「物見遊山のようなものになるから、

 それでいいんじゃない?」


幻影の言葉に、「…そういわれるとさぼってるようだろうがぁー…」と蘭丸は大いにうなった。


「行きと帰りは船を操るんだから、

 仕事をしないわけじゃない」


幻影の言葉に、「…よーし…」と蘭丸は胸を張って言った。


「祭りのおかげで保存食もいい塩梅で減ったからね。

 新しい保存食をできれば確保したいから、

 明日は五人乗りで行くよ」


幻影の言葉に、「任せろ!」と蘭丸は大いに気合を入れて、陽気に食事を摂り始めた。



ハイネたちは午後からは四人だけで円滑に仕事を終えて、サーカス小屋の特等席に移動して、仕事中に作り上げた行楽弁当を配膳した。


「…これはまた豪勢な…」と信長が機嫌よく言うと、ハイネの口上が始まった。


利益も大いに聞き入って、大いに勉強になっていた。


しかも弁当箱の話にも広がったので、仕事に関わったことすべての知識を得たことに利益は喜んでいる。


夕餉の席では蘭丸が利益をひとり占めしたが、サーカスが無事終わり花火大会になると、利益は同年代たちに誘われて花火を見ながら様々な話をしてさらに知識を蓄えた。


利益は夢のようなこの場所で素晴らしい一日を終えた。


もちろん今日のところは一旦施設に帰ることになるが、幻影の予想通り、幻影と蘭丸とで利益を施設に送り届けた。


この施設の職員の一部とは顔見知りだったので、早速里子申請を出すと身元が誰よりもはっきりしていることもあり簡単に受理されて、母親の権利をつかみ取った蘭丸は利益を抱き上げるようにして安土城に戻った。


幻影たちも祭りの後片付けを手伝って、風呂に入ってから、夜食を摂ることになった。


―― きちんと食べておかないと、できない仕事だ… ―― と利益は琵琶家の一員として理解を終えていた。


貧乏や裕福は関係ない。


琵琶家は食うために働いているようなものとさらに理解した。



琵琶家の朝は早い。


まずは朝餉前の恒例の朝稽古が始まった。


この件はもう聞いていたので利益は驚くことはなかったが、萬幻武流の門下生全員には驚かされた。


利益も一部には参加して、その雰囲気だけは体感して笑みを浮かべた。


そして利益も厨房の一員として大いに働いて、美味い朝餉をたらふく食った。


祭りので成果物は、三日目にやってきたエカテリーナ・ガイと、能力者の資質が高いコロナ・ガイだ。


ふたりはライジンの子で、コロナの方が年上なのだが、身体の成長度合いはエカテリーナが倍の差をつけている。


まさに人間であって竜の子という、幸運と不幸を併せ持った、厳しい種族だ。


「…足漕ぎ戦艦に参加するぅー…」とエカテリーナがうなり始めたので、幻影は仲間に加えて五人乗りの戦艦に六人が乗り込んだ。


乗組員は極、蘭丸、ハイネ、利益、エカテリーナ、コロナの六人。


三人の肉体が子供でしかないので、重量過多には程遠いほどだし、船内は狭くない。


大人の姿の三人が原動力となって、戦艦は簡単に宙に浮かんだ。


「コロナ、力を抜いても構わないぞ」という幻影の指示に、「はい! 幻影様!」とコロナは笑みを浮かべて幻影の指示に従って力を緩めた。


まさに大人顔負けの力に、ハイネと利益は大いに眉を下げていた。


やはり竜の人たちも侮れないと、蘭丸は思い知っていた。


その隣には成長し切ったエカテリーナがいるが、比較的仲がいい。


穏やかな雰囲気を保ったまま、「ここに降りろとご神託があったぁー…」と幻影は言って、船を緩やかに旋回させたが、ただの勘でしかなかった。


漕ぎ手はゆっくりと力を緩めて、音もなく戦艦を海の上に浮かべた。


「凪すぎるのではないのか?

 海岸近くでは大いに荒れていたようだったが…」


エカテリーナは怪訝そうに言って辺りを見回して、「…おいおい…」とつぶやいた。


「…来てくれて助かったぁー…」と幻影は言って投網の準備をした。


そして頃合いを見計らって網を打ち、鰺の大群を手に入れた。


選別作業はかなり厳しく、半数ほどは海に返した。


比較的若い群れだったようだが、次に網を打つと一割だけを海に帰すことになった。


「鰺のフライは好きかい?」と幻影が聞くと、「…好きぃー…」とコロナは幻影に告白する勢いで答えた。


今回も衣に使う玉子を養鶏場から仕入れて安土城に戻り、大人数とともに鰺をさばいた。


ほとんどを干物にするので、調理人が大勢いるといえども重労働だ。


エカテリーナはこの琵琶家の生活の一端に触れて大いに奮起している。


「鰺のフライを三百ほどお願いしたい!」とうまい匂いにつられてやってきた法源院屋の番頭が叫ぶと、「ここで準備するよ!」と幻影は気さくに叫んで、工房の広場は厨房に早変わりした。


揚げ終わると今度はいつもの作業に移行して、菓子などを大いに作り始めた。


これは定期的な生産で、法源院屋からの別注文は出ていない。


コロナは早速味見をさせてもらって、「…おいしいぃー…」と大いに高揚感を上げて言った。


「…うちとやってることはそれほど変わんないのにぃー…」とコロナが感情を一変させて嘆くと、「砂糖と塩の差だ」とエカテリーナは言って、飴玉を口に放り込んで幸せそうな顔をした。


「…お土産になるぅー…」という言葉に、「コロナが作ったものだけをためておけばいいさ」という幻影の言葉にコロナは素直に従って、エカテリーナにお土産用の巨大な保管用の廿楽を作ってもらって大いに喜んだ。


「この廿楽を何個待って帰ることになるかな?」という希望のある幻影の言葉に、コロナは大いに喜んだ。


「サトウといえば…

 佐藤俊介が怒っていたぞ」


エカテリーナが蘭丸に言うと、「放っておけというご指示だ」と蘭丸はすぐに答えた。


「…ま、働かざる者食うべからず、だな…」とエカテリーナは言って苦笑いを浮かべた。


「すべてはヤマの威光だ。

 我らに責はない」


「…そういう決まりだからな…」とエカテリーナはつぶやいて何度もうなづいた。


「しかも我らに口出しは許されぬ。

 全てはマリーン様がお決めになられることでもある」


蘭丸の言葉に、「…わけわかんないほどすごい人だったぁー…」とコロナが眉を下げて言った。


「ただの食いしん坊だぞ?」と蘭丸が言うと、エカテリーナは笑い転げた。


そのマリーンがお付きの天使たちとともにやって来て、視察とばかり幻影と話し込んで、菓子を食べて喜んでいたので、エカテリーナは腹を抱えて笑った。


「…あら、居残りの方がおられたのね…」とマリーンは薄笑みを浮かべて言って、エカテリーナとコロナに挨拶をした。


燕が緑竜でもあるので、マリーンとエカテリーナの相性はいい。


まるで姉妹のように穏やかに話をしている。


「俺の姉で妹のコロナだ!」とエカテリーナが紹介すると、「がんばってるわ」とマリーンは言い切って、コロナを抱きしめた。


コロナはさらに自信がついて、「はい! ありがとうございます!」と陽気に叫んだ。


「…すべてが見えるのも詰まんなくねえのか?」とエカテリーナが眉を下げて聞くと、「自然に伝わってくるものだけをお伝えしたまでですわ」とマリーンは穏やかに言った。


「やはり、直接話すとよくわかる。

 あの優夏が子供に感じてしまう」


「あら、光栄ですわ」とマリーンは笑みを浮かべて答えた。


「…リーナちゃんが気さく過ぎるぅー…」というコロナの嘆きに、「…多少は、相手によって対応を変えるもんだ…」とエカテリーナは眉を下げて答えた。


「泣き虫で気が弱いことはよく知っております。

 だからこそ素晴らしいと私は思っているのです」


マリーンが薄英を浮かべてエカテリーナに言うと、「…お、おう…」とだけエカテリーナは答えて照れていた。


「さあ! 昼餉にするぞ!」と幻影が叫ぶと、誰もが大荷物を担いで安土城に向かって歩いて行った。



「…このサクサクとした衣がやめられぬ、止まらぬ…」と信長は陽気にうなりながら言って、鰺フライを大いに楽しんでいる。


今回は生野菜をふんだんに準備しているので、それほど箸が迷うことなく、躊躇なく鰺フライに手が伸びる。


「…いくつ食べるのぉー…」と昼餉が始まった瞬間にコロナが嘆いた。


「用意したもの全部だと思う」と声が聞こえていた利益が言うと、コロナは大いにホホを赤らめて、姿は同年代に見える利益を見入った。


しかし実年齢は倍で、コロナは生まれて二十四年経っている。


―― 何か、お話しなきゃ… ―― とコロナは大いに焦った。


「決めつけなくてもいいさ」と利益は言って、すぐに口をふさいで、「…ごめん…」とつぶやいた。


「…ううん… いいの…」とコロナは言ってホホをさらに赤らめて、利益に大いに興味が沸いていた。


「…うう…」と蘭丸が大いにうなっていたが、ここは阿利渚が抑え込ませていた。


人との付き合いは重要なので、母親があまり出しゃばらない方がいいのだ。


「…利益君は好きな人できた?」とコロナがホホを赤らめながら聞くと、「恋愛っていう意味だったら、まだよくわかんないかなぁー…」と利益が答えると、―― どうして大人? ―― とコロナは考えた。


「僕って奴隷だったから。

 だから子供なのに大人の考えを持っているって、

 お師匠様に言われてようやく気付いたんだ。

 それに丈夫な体に産んでくれたことも、

 大人に拍車がかかったって…

 だから僕の産みの親にはもっともっと感謝したい」


ここで利益の感情が悲しみに変わった。


できればその両親を救い出したかったのだが、もうこの世にはいない。


しかし、利益が悲しむことでその両親も悲しむので、利益はすぐさま感情を入れ替えて、鰺フライを箸で取って、浸けだれを使わずにそのままかじりついて、「…ああ、おいしいぃー…」と満面の笑みを浮かべてつぶやいた。


コロナも真似をして、「…おいしいぃー…」とつぶやいて、ふたりは顔を見合わせて陽気に笑った。


「…かっぷる、成立ですかぁー…」と蘭丸は幻影をにらみつけてうなった。


「…利益にその気はない…」と幻影は眉を下げて答えた。


「それにコロナもわかっている。

 無理に踏み込めば、

 そこには不幸しかないこともわかっているさ」


幻影の言葉に、「うむ、納得」と信長が答えて、さらに陽気になって十個目の鰺フライにかじりついた。


「…迫っちゃ、ダメなのね…」と桃源がつぶやいてすぐに口をふさいだ。


「…桃源様であれば、仕方ない…」と蘭丸がうなると、「…その線が一番好ましかったんだけどね…」と幻影は言って眉を下げた。


そして、「利益は恋心は沸きにくいと思うんだ」という幻影の言葉に、「なぜだ?」と信長と蘭丸が同時に聞いた。


「今までには多少はあったはずなんだ。

 だが、愛した人たちはすべてこの世にいないという事実。

 その非運な経験に、利益はこの点だけは踏み込めないように思う。

 だからこそ、その不幸を吹き飛ばす、

 琵琶家の雄々しさがさらに必要だ。

 だけど、蘭丸だけは母として認めているから、

 その手掛かりはつかめたね。

 だからこそ、コロナが覚醒した時に、

 一気に解決するような気もするんだよなぁー…」


「…そうなった時、コロナは不死身でしかない…」と蘭丸はうなってうなだれた。


「殺しても死なんという事実は、

 利益にとってはありがたいじゃろうて」


信長の明るい言葉に、幻影と蘭丸はすぐさま頭を下げた。


「だけど、コロナに惚れるとは限らない」


幻影の言葉に、「ん? そうなるのか?」と信長は怪訝そうに言って、コロナと、そしてエカテリーナを見て、「…その可能性は大いにある…」とつぶやいた。


「…エカテリーナに乗り換える…」と蘭丸が言うと、幻影は笑い始めて、「違う違う!」と叫んで腹を抱えてさらに笑った。


「…この先は、お楽しみじゃ…」という信長の言葉に、この話はここで終わった。



昼餉の後も、幻影たちは朝と同じ乗組員とともに、物見遊山ついでの海の旅に出かけた。


ハイネ、利益、コロナは同年代の親しさを出して、仲のいい友人となっていた。


まずは無人島を見つけたので、海に潜っては貝などを大いに獲った。


この貝類の八割は酒飲みの腹に収まることがわかっているので、獲り過ぎない程度に獲って、また戦艦を宙に浮かべた。


「…偶然にも見つけてしまった…」と幻影は眉を下げて言って、キングの群れがいる近くに戦艦を降ろして、今度は海に釣り針を下げた。


ここからは力技で、六人は心をひとつにしてキングを釣りまくった。


「さあ、ここからが修行だ」と幻影が言うと、五人は固まっていた。


「このキング一匹で家が建つ」


幻影の言葉に、固まらなかったのはこの事実を知っている蘭丸だけだ。


ハイネも事実は知っていたのだが、キングを始めて目にしたので固まっていた。


「…予想外にも全員合格…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


その証拠は、誰も欲を持たなかったことでキングの群れが立ち去らないことにある。


しかし必要量は釣ったので、誰も苦言を言うことなく、戦艦は宙に浮かんだ。


「…予想外とは俺のことかぁー…」とエカテリーナがうなると、「さすが次期女王様だ」と幻影が言うと、エカテリーナは大いにうなだれた。


「誰だって金品は欲しいし、欲が沸いても当然だ。

 しかしその想いを何かに変えることは可能だ。

 ハイネたちはできれば円滑にとその想いを分散させた。

 ひとりだけ、大勢の子供たちと手をつないで

 笑みを浮かべているイメージをした子がいる」


幻影の言葉に、「…私ですぅー…」とコロナが手を上げてつぶやいた。


「さすが団体生活者。

 そういった経験も必要になってくるものさ」


幻影はハイネと利益に向けて言うと、ふたりは幻影に笑みを返していた。


「…コロナも俺の子に…」と蘭丸が欲を口にしたので、幻影は愉快そうに笑った。



幻影は五人に魚をさばくところから取引までを経験させて、全く心に動揺がないことに好感の笑みを浮かべた。


「一番の修行をした面構えだな、幻影」と信長が穏やかに言うと、「はい、素晴らしい経験を積めました」と笑みを浮かべて答えた。


「…酒を飲み過ぎて悪かった…」と信長が言ってにやりと笑うと、「あはははは!」と幻影は空笑いをした。


「…おいしいものは私たちにも率先して回していただきたいものだわ…」


濃姫がつぶやくと、信長は大いに肩をすくめていた。


そして夕餉に、酒の肴にすればさらにうまく感じるものが大いに並ぶと、酒飲みたちの眉が大いに下がっていた。


家族たちに遠慮はなく、「うまい!」「おいしい!」の雨あられとなったので、ここは我慢するしか手はなかった。


「…こんなにおいしいものを自分たちだけで…」とまた濃姫がうなると、信長は言い返せる言葉を持ち合わせていなかった。


「幻影が準備しないのが悪かった」と高虎が言うと、「…それほど獲れるものじゃねえんだよ…」と幻影がため息交じりに言うと、高虎はすぐに非を認めて頭を下げた。


「今宵はワイン用に、肴を準備しております」


幻影の言葉に、酒飲みたちは復活して、大いにうまい料理に舌鼓を打ち始めた。


「幻影、それも出しなさい!」と濃姫が声を荒げると、「お料理にはそれほど合わないものなのです」という幻影の言葉に、濃姫はハイネを見た。


「パン食にはあうと思いますぅー…」とハイネがいうと、「…それは残念だわ…」と濃姫は言って諦めた。


琵琶家にとってパンは鬼門で、「食った気がしない」というものでしかなかった。


しかし、食後の別口にあるものを出すと、「…おいしいおやつぅー…」と長春が上機嫌となった。


「…パンのようだけと違うし、おいしいわ…」と濃姫は一口サイズのピザを口に運んで素晴らしい笑みを浮かべた。


「…ワシらのうまい肴が…」と信長が眉を下げて言ったが、「問題ございません」という幻影の自信満々の言葉に、信長もピザを口に運んで笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「そろそろ、このサルサロス星の

 世間一般の現住人が好む料理もお出しすることに決めました。

 明日の昼餉から始めますので、ご覚悟の程を。

 もちろん、すべてはハイネが監修いたしておりますので」


幻影が濃姫に言うと、「…よ… よきにはからえぇー…」と大いに嘆いたので、信長は腹を抱えて笑い転げた。


「好き嫌いが大いに出ると思うけど、

 食べられるものだから全く問題はないから。

 ピザだって、好き嫌いがすでに出ているからな」


幻影の言葉に、どうしても食べられない者は大いに眉を下げていた。


「うむ、仕方のないやつらじゃ」と信長が言って笑みを浮かべて席を立ったが、濃姫が率先して残飯処理を受け持った。


そしてハイネがチーズとサラミとピザソース、トッピングの野菜の説明を始めると、食べられなかった者たちは大いに悔やんだ。


しかし明日以降も食べる機会はあるようで、ここは心を鬼にして食べることに決めたようだ。


「チーズは確かにワインにはあいそうじゃが、

 酒には少々厳しいじゃろう。

 サラミは香ばしくてよいが、これも酒にはあいにくい」


信長が機嫌よく言うと、「晩酌が楽しみですね」という幻影の言葉に、酒飲みたちは一致団結して喜んだ。



「…ほかの惑星の力を甘く見とったわい…」


信長は朝から機嫌がいい。


素晴らしい晩酌の時間を経験して機嫌が悪いと、料理番としては目も当てられない。


信長の機嫌がいいと、もちろんハイネにもやる気がみなぎる。


それを穏やかな目で見ている利益も笑みを浮かべて、素晴らしい家族の琵琶家一同を見まわした。


今のところはハイネの補佐をしているのだが、利益としては様々な経験を積みたいと思い、朝からの仕事は返上して、弁慶に教えを乞うことに決めた。


するとハイネがすぐに眉をひそめた。


「利益もいろいろと試してみたいことがあるんだよ。

 ハイネにとって、

 素晴らしい仕事上の相棒なのはよくわかっているけどな」


幻影の言葉に、「…はい、お師匠様…」とハイネは今にも泣き出しそうな悲しそうな目をして幻影に答えた。


「…まさか… 私が嫌われたんじゃ…」とコロナが嘆き始めると、「全然違うから!」と幻影は叫んで腹を抱えて笑った。


「利益の得意なものはなんだ?」


幻影の問いかけに、「…足が速い…」とハイネはつぶやいて大いにうなだれた。


「萬幻武流の門下生としては、

 そっちの確認もしっかりとしたいんじゃないのかい?

 それに、ハイネは忘れているようだが、

 門下生たちも調理を手伝っているんだぞ?」


まさにすっかりとそれを忘れていたハイネはすぐさま顔を上げて満面の笑みを幻影に向けた。


「…恋愛が絡んでないところがすごいわぁー…」とエカテリーナが感動して言うと、「特に店を出すわけじゃないからね」という幻影の言葉に、「…残りたいんだけど…」と今度は蘭丸が言い始めた。


「ひとりでいいから引き抜いてきてくれ」と幻影言うと、蘭丸は工房に駆け込んで、「たまには海に行きやがれ!」と蘭丸が叫んだので、幻影は腹を抱えて笑った。


蘭丸の代わりは順当に源次と志乃に決まった。


「…今日こそは釣れないかもしれない…」


幻影が期待溢れる顔をしていると、源次と志乃は大いに眉を下げていた。



しかしそのようなことはなく、いつもと変わらず大漁だったことに、志乃だけが大いに感動していた。


「なぜこんなに釣れたのかがよくわからない…」と源次は苦笑いを浮かべて言った。


今回は生食、調理、保存と多岐に渡る収穫だったので、琵琶家一同が手伝って、いつもに増して大いに豪華な食事となった。


すると法源院屋の店主が眉を下げてやってきて、「少々騒ぎになりそうです」と報告に来た。


「琵琶家だけがうまい汁を吸ってるって?」と幻影が言うと、「…はあ… そういうことです…」と店主は答えた。


「騒げば売らないとでも言っておけばいいさ。

 こちら側に弱みなんて何もないんだから。

 売る方は、客を選んだっていいんだ。

 快く買って下さる方だけがお客様だ」


幻影の言葉に、「了解いたしました」と店主は真剣な目をして言って頭を下げて帰っていった。


「問題はないだろうけど」と、およばれに来ていた極が言って立ち上がった。


「いってらっしゃい」と燕は言って極を見送っただけで、うまい魚をたらふく食っている。


「もう警察が動いているはずだからね。

 時折、過激なヤツが出ることもあるから。

 それなりのことはしてきたつもりなんだけどなぁー…」


極はつぶやきながら部屋を出て行った。


「聞いてると思うけど、

 この宇宙には諍いが起きにくい処置を施しているの。

 だけど、諍いを起こしそうなやつの中の一割ほどがやっぱり諍いを起こすのよ。

 その時々に大いに探って、

 ある程度は納得できたんだけどね」


燕の言葉に、「本能的なものでしょう」という幻影の言葉に、「それしかないのよねぇー…」と燕は眉を下げて言った。


もちろん、『悪の象徴』などという本能を持った者はいない。


個人の本能や本質に、諍いが起きやすい感情になるような、本能や本質を持っている者だけが騒いでいるところまでは理解できていた。


よって、素直さを施す仕掛けが、悪い方に作用していることが顕著に見える場合もあるのだ。


しかしその騒ぎが十分の一以下に減っているので、いい方向に効果が出ているといっていい。


もちろん危険なおもちゃはすべて排除してあるので、大きな戦いになることは皆無だ。


よって、人質を取って奴隷などを黙って使っている者も大勢いたわけだ。


「問題はそれを食い止める側だよ。

 効果が出ていると思う?」


幻影が燕に聞くと、「…十倍になっているとは言いづらいわ…」と眉を下げて答えた。


「良くて倍ほどだろうね…

 それこそがまさに人間だろう。

 保身に回る方が普通だから、

 この先は警察官の人選に力を入れた方がいいんじゃないの?

 何をやっても見抜く力が必要だと思う。

 だから本能本質は、善の正義感や愛に満ちている方がいいと思う。

 よって、天使をさらに警察に派遣することもありだと思うんだ」


「大きな改革が必要だわ」と燕は言いながら、マリーンに念話を送った。


そのマリーンがやって来て、「お母様だけずるいわ!」と叫んで、マリーンはちゃっかりと燕の隣に座って、美味い夕餉をもりもりと食べ始めて、「…願いを聞き入れました…」といきなり穏やかに言ったので、幻影は愉快そうに笑っていた。


「ですが、以前のサルサロスよりはかなりマシです。

 どこもかしこも、諍いだらけでしたので。

 私のお勤めの性質上、

 天使本来の本能を出すわけには参りませんので」


マリーンの言葉に、「…浄化してしまいたいだろうからね…」と幻影は眉を下げてつぶやいた。


「…時々、ガス抜きはしてるわ…」と燕が眉を下げて言った。


「タルタロス軍の兵を短期の交代制で任務に就かせましょう。

 そっちの方があっている方も大勢おられますから」


マリーンの言葉に、「なぜ今までそれをやらなかった?」と信長が核心を突いた話をすると、「誰も言わなかったからですわ」とマリーンは薄笑みを浮かべて言った。


信長は何度もうなづいて、「もっと願えと言ったところだな」とにやりと笑って言った。


「はい、大いにお待ちしておりますわ」とマリーンは言って頭を下げた。


「…これを公表すれば、さらに面倒なことにも繋がる…」


幻影がつぶやくと、「信者はそれほど必要はないのです」とマリーンは穏やかに言った。


「いや、程が難しいと思い知った」と信長は言ってマリーンに頭を下げた。


マリーンは薄笑みを浮かべて頭を下げて、「…こちらのお料理以外にも、まだございますわね?」とつぶやくと、幻影と信長は大いに眉をひそめていた。


「…あんた、甘えてんじゃないわよ…」とここで燕のマリーンの母の程々が発動して、マリーンは母親に叱られることになった。


「…うまくできておる…」と信長がつぶやくと、幻影は愉快そうに笑った。



この件に関して、漁業関連協会の代表者たちが安土城に訪れた。


第一に、できれば協会に入ってもらいたいということ。


第二に、実際の漁を見せてもらいたいという二点だった。


「第一の希望は叶えられません」とこの場になぜかいたマリーンが発言した。


「第一の理由として、協会は強制を促すものとなります。

 さらには収穫物がさらにお高くなって、

 貧困層に行き渡りません。

 できれば行き渡るように、

 私から琵琶家代表の琵琶信影様にお願いの最中でございます」


マリーンの言葉に、協会の代表者たちは大いにうなだれた。


「では第二のご希望ですが、

 幻影様、いかがでしょうか?」


マリーンの言葉に、「まずは映像を確認していただきましょう」と幻影は笑みを浮かべて、出番とばかり幻影の影から出てきた咲笑の頭をなでた。


ここ数日間の戦艦での漁の一部が放映されると、協会の面々は大いに目を見開いていた。


映像にあるような魚影を見た者が皆無だったからだ。


「漁獲高の半分以上は、我らの腹に収まりました」


幻影の言葉に、マリーンだけが愉快そうに笑った。


「あなた方の体格からそれなり以上に食べるようですが、

 我らはその十倍ほどは食べます。

 なんなら、その体験をされて行かれますか?」


幻影の言葉に、もうすでにハイネが動いていて、魚料理と中心にしてずらりと料理が並んだ。


そして琵琶家が飢えた獣のようになって食らい始めると、協会の者たちは逞しい体を小さくして、「参りました!」と叫んで、琵琶家ほどではないが食事を楽しみ始めた。


そして幻影は決定的なことを言った。


「欲を持つと、魚影を見ることすらないでしょう」


この件は協会側でももうすでに確認を終えていたのですぐに納得していた。


漁師としての新参者が、始めは多くの収穫物を卸すのだが、その先は生活が成り立たないほどに落ち込む。


それを維持しているのはほとんどいないという部分に、信長が食らいついた。


「維持している漁港を教えてくれ。

 それだけで構わんし、面通しも必要ない」


信長の言葉に、「御屋形様、確認を終えました」と咲笑が笑みを浮かべて言うと、「あいわかった」と信長は機嫌よく言って、咲笑の頭をなでた。


協会の者たちの目が点になっている顔を見て、「その漁港を足掛かりにしようとお考えなのです」という幻影の言葉に、「…助かった、かもしれない…」と協会の者たちは笑みを浮かべた。


それなりの収穫はあったと思い、膨れ上がった腹を抱えて帰って行った。


「…子供、かなぁー…」と幻影がつぶやくと、「さもありなん」と信長が答えた。


「うちの子供たちにも経験を積ませようかなぁー…」と幻影が言うと、男子は胸を張ったが、女子は眉を下げていた。


「女子の方が今は適任かもな。

 欲以前に、嫌がって」


幻影はここまで言って言葉を止めた。


「…奴隷ではないだろうが、迫害も考えられる…」と信長はうなった。


「…維持できている二カ所は、児童保護施設が運営してますぅー…」と咲笑が言うと、「幻影、行け」と珍しく信長が即座に命令を発した。


「はっ」と幻影はすぐさま答えて、その姿は咲笑とともに消えた。



「あ、ここは問題なさそうだ」と幻影は施設を見下ろしてすぐに言った。


「…幸せそうでよかったぁー…

 大人たちも、やさしそう…」


咲笑も言って笑みを浮かべた。


「だからこそ、怪しくないかい?」と幻影が含みを込めて言うと、「…いい子だけしかいないことが怪しい…」と咲笑がつぶやいた。


「児童の出入りを調べられるかい?」


幻影の言葉に、「…出入り、激しいですぅー…」と咲笑は言って、その一覧を宙に浮かべた。


「…人身売買じゃないけど、

 ほかの施設にカネを払って引き取ってもらってるな…

 欲を持てば、いい暮らしはできなくなるってところか…

 俺たちの出現とは関係あるの?」


「いえ、もう十年も続いていますから。

 欲を持つと魚が獲れないことを知っていたようです。

 …だけど…」


咲笑が戸惑うと、「それを審査する大人が能力者だろうな」と幻影は真顔で言った。


良心的とはいいがたいが、迫害の事実はないので、ここはぎりぎり優良企業として、幻影は目をつぶることにした。


そしてもうひとつの方は、施設の建物がふたつある。


「欲のある方とない方」と幻影が言うと、「…その通りですぅー…」と咲笑が眉を下げて言った。


「欲を持っている方は、持っていない方に食わせてもらっている。

 そして欲を持っている方が殿様気分のようだな。

 働かなくても食えるだけでもありがたいことだろう。

 職員はその現実を知らいめている節がある。

 人生の教育としては間違ってはいないだろう。

 欲を持つ方が倍の三十人。

 もちろん、欲がなかった子もここに含まれているはずだ」


「…大正解ぃー…」と咲笑はつまらなさそうに言ってうなだれた。


幻影は咲笑の頭をなでて、「ほかに踏み込んで何かない?」と聞くと、咲笑は復活して、「二つの建物は行き来できません」と言った。


幻影は何度もうなづいて、「この先、問題が起きるかもな…」と眉を下げて言った。


こちらも漁業関連の事業を始めたのは五年前なので、琵琶家の真似をしたわけではなかった。


幻影は安土城に戻って、咲笑がその詳細を信長に報告した。


信長は咲笑の頭をなでながら、「手は出せんが口は出す」と信長は言って、この事実をマリーンに念話を送って知らせた。


あとはこれを知ったマリーンの行動に興味を持った。


「漁獲の高いもう一件ですが、

 こちらは手が後ろに回る可能性があります。

 大家族だと思いきや、

 欲のなさそうな子だけを家族にして、

 見込み無しとしては放り出しています。

 警察や自治体が動いてないことに問題がありそうですね。

 この件は、煌さんにすでにお話しております」


「この件は即断罪だな」と信長は言って何度もうなづいた。


もちろん、児童虐待に当たると判断したからだ。


「…この星の漁獲を支えているのが、純な子供たちだけだったとは…」


信長が大いに嘆くと、「…総漁獲高の九割を超えてますぅー…」と咲笑が眉を下げて答えた。


「我が琵琶家は何も変えない!」


信長が断言すると、幻影はすぐさま頭を下げた。


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