表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/37

赤居城 akakyojyo


     赤居城 akakyojyo



琵琶一家は異世界での余暇を大いに楽しんでから、まずは薩摩に戻り、全ての琵琶御殿巡りをじっくりと観察するようにして時間をかけて回った。


もちろん人を見る目を養うという意味もあるが、この先すぐに必要になることでもある。


まだそれほど時間が経っていないので、別世界に城が建った件は知れ渡っていないので今のところは問題はないのだが、秀忠が大いにうるさくなっていて、これが一番の問題となっていた。


「おまえの器では、琵琶家の一員は無理」


幻影の無碍な言葉を本気と取った秀忠は、今度は泣き落としを始めたが、幻影に白い目で見られた。


「じゃ、課題をやるからやっておけ」と幻影は文章を書き上げ、途轍もない厚みのある書物を秀忠に渡した。


「もしも、これをすべてこなせる者がいれば、

 琵琶一族として迎え入れていい。

 ま、家族にした者ですら、半数は無理だけど、

 これからはそれほどに厳しい事態がやってくるんだ。

 俺たちはそろそろこの国を離れて海を渡る」


幻影の言葉に、秀忠は目を見開いた。


「まずはどう考えても清国だろう。

 まだこの日の国がマシに見えるほどに平和ではないからな。

 あとは西欧諸国だ。

 早々に行って、説教をする者が大勢いるはずだ。

 耳を貸さないのなら、別にそれでいい。

 扱いはキリスト教徒や宣教師と同じだ。

 絶対に消せない予言の書を置いてきてやる。

 そこに無謀なことをやろうとしているやつの名を刻んで、

 末代まで語り継いでやる」


幻影の強気な言葉に、「明日から行くか?」と信長が言ったので、秀忠は大いに慌てた。


「物見遊山程度で、まずは偵察としゃれこみますか」という幻影の明るい言葉に、「国外の物見遊山も久しぶりじゃ!」と信長は陽気に叫んだ。


「…あっちは、どんなところなんだよぉー…

 …守山のやつが幻影に聞けって…」


秀忠の言葉に、「あいつは安土城を建てた土地の村長に気に入られてな、外交官として正式に雇った」という幻影の無碍な言葉に、秀忠は落ち込む一方だ。


「村長は二間ほどの身長がある、

 人間でもあり熊でもある生物だ。

 もしここに来れば、誰もが神と崇めるだろう。

 巖剛がかわいらしく見えるからな」


幻影の言葉に、巖剛はまるで子供のようにして座っていて、大いに目尻を下げていた。


「守山のやつは全く怯えることなく朗らかにあいさつをして、

 その村長に気に入られたほどなんだ。

 その程度の度胸がないやつは琵琶家にはいらんから」


「…ヤツとは同じ土俵に立っていたはずなのに…」


秀忠が嘆くと、「殿様だったことを後悔しな」という幻影の言葉に、秀忠はさらにうなだれた。


そんな中、加藤嘉明がやってきて、「都合がよかった」と機嫌よく言って秀忠に書簡を渡した。


秀忠は表紙を見ただけで、「許さん! 許さん!」と大いに叫んだ。


「あ、隠居ですか? 大歓迎ですよ!

 ほどなく高虎のやつも合流すると思います!」


幻影のうれしそうな言葉に、嘉明は満面の笑みを浮かべて頭を下げ、まずは信長の前に座ったが、やはり今までとの違いを大いに感じていた。


「…初めてお目にかかったころのことをすぐさま思い出しました…」


「尖っておったからな」と信長は言って鼻で笑った。


「琵琶家との付き合いは長い。

 何をすればいいのかは、お前自身がわかっておるはずじゃ。

 じゃが、隠居気分で、家老職に就いても構わん。

 お前の好きに過ごせばよい」


「はっ ありがたき幸せ!」とごく自然に答えた嘉明は号泣していた。


「…昔は先を越され申したが、今度こそ…」と嘉明は大いに気合を入れていた。


「ああ、勝家か」と信長はすぐに言うと、「御意」と嘉明は言って頭を下げた。


「その遺児の勘太郎は、萬幻武流免許皆伝目前じゃがな」


信長がにやりと笑って言うと、「…隠しておったかぁー…」と嘉明は大いに悔やしがった。


「市の子でもあるからな。

 それを知ったからには、叔父としては責任がある」


信長の言葉に、嘉明はすぐさま頭を下げた。


そして幻影は嘉明を含めた上層部だけを、琵琶家の新居に案内した。


あまりのことに、冷静沈着な嘉明は大いに驚いて辺りを見回している。


そして飛んだ先のマックラ村長を見上げて、腰を抜かす勢いだったが、何とか前に出た。


「…ああ、また普通の人を連れてきてくださったか…」とマックラは大いに感動して信長に言った。


「ワシの信頼のおける、加藤嘉明という家臣じゃ。

 守山兵衛と同様に扱ってくれて構わん」


「…強くなくても構わんとは…」と嘉明は嘆くように言うと、「村長としては、なんでも普通に語りあえる友人が欲しいのです」と幻影は朗らかに言ってから、お互いを紹介した。


「…じゃが、マックラ殿はその存在感が大いに武器となっておられる…」


「…この村を守れるだけの力があるだけで幸せなんだ…」というマックラの穏やかな言葉に、嘉明は何度もうなづいてから、ようやく景色を見渡せる余裕ができた。


そして安土城の天守閣を発見して、「…聞いておったはずなのに…」と嘉明は目を見開いて、その本丸に笑みを向けて号泣していた。


「もしも気に入ったのなら、しばらくは留守居役でも構わん。

 この地に慣れることも重要だし、

 誰かに商売を任せてもいいんじゃ。

 今は営業しておらんのでな。

 その責任者としての留守居役でもある」


「…おおっ! それは嬉しい話だ!」とマックラが真っ先に叫んで大いに喜んだ。


「性格を重視して人選いたしましょう」と幻影は信長に言ってから嘉明を見た。


「あまり働きたくない私でもいいわよ」という濃姫の投げやりな言葉に、「…自ら言うでない…」と信長は大いに眉を下げて嘆いた。


「…ここには平和しかないもの…

 それに、子供たちもかわいいし…」


濃姫は言って、極が作り上げたとんでもない遊具施設にいる子供たちに笑みを向けた。


「…ひっそりとひとりで呆けても、私としては悔いはないわ…」


濃姫の本気の言葉に、「…本当にそうなってしまいます…」という幻影の困惑の言葉に、「それでもかまわん」と信長は笑みを浮かべて濃姫に言った。


「…うふふ… でもね、なぜか死にたくはないの…

 私って、呆けることはないんじゃないのかしら…」


濃姫の言葉を聞いて、幻影は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


ここは一旦全員で会津の琵琶御殿に戻って、四人となった家老が人選をして、商売人などとして派遣する第一陣を決めた。


琵琶家が家族同然と認めた商人と手に職を持った工員や調理人たちの合わせて十五名が早々に決まった。


ちなみに警護は現地調達として、嘉明は息のかかった者たちを連れて行くことはなかった。


「…怠けすぎないようにしないと…」と濃姫は大いに焦っていた。


「子供たちと遊んでいるだけでも太ることはないでしょうから」と幻影が穏やかに言うと、「必要以上に元気だものね」と濃姫は機嫌よく言って笑みを浮かべた。


「…私も都合よく野生化しないかしら…」と濃姫が信長を見て言うと、幻影は愉快そうに笑っていた。


「物見遊山はいかんのか?」


信長が濃姫に聞くと、「嘉明も行くんでしょ?」と逆に聞き返すと、「…帰って来てからじゃな…」と信長は眉を下げて言った。



翌日、琵琶家はまずは清国に飛び、不幸を見つけては手助けをして、大きな戦いがあればすべての武器を粉砕して回った。


そして短時間でできる農地地改革を施して、様々な場所に出没しては、兵士たちに恐れおののかれた。


しかし一般人はまさに仏として琵琶家を崇めたが、一行は何も言うことはなくその場を立ち去る。


印度を経由して西欧の地にたどり着くと、「こいつら絶対頭がおかしい!」と幻影は叫んで至る所に雨を降らせた。


なんと、厠という概念がなく、あちらこちらで糞尿を垂れ流しているのだ。


「上水道があるのに下水がない…

 …金がなかったのか…」


信長が嘆くように言うと、「…嫌な病を移されそうですので、ここは早々に立ち去りましょう…」という幻影の言葉に、琵琶家一同は大いに慌てて戦艦に乗り込んだ。


信長が瞳を閉じて頭を振りながら、「…出す方が動物と同じとは嘆かわしい…」と嘆いた。


幻影は通称、緑のオーラという術をそこら中に放った。


極力、病が空気感染しないようにするためだ。


植物の力は計り知れず、ちょっとした病であれば簡単に治してしまうほどの力がある。


このような場所が多くあったが、それが病の原因だとわかっている民族たちには厠という文明はあった。


そして、そういった者たちに限って乱暴者だ。


さらには、人を人とも思わない行いをする。


幻影たちは初めて大勢の奴隷たちを見た。


「…解放したところで元の木阿弥…」と信長が苦汁を飲んだ顔をしてつぶやいた。


「…ですが、一時でも夢を見てもらいたいと…」という幻影の言葉に、「まずは一線引くぞ!」と信長は蘇って叫び、幻影たちは粗っぽい方法で、空き地の中央に高い壁を築いた。


それは丸太を大地に突き刺しただけなのだが、逃げるだけであれば時間稼ぎにはなる。


そして逃げる先の大地に広大な農地を作り上げ、一気に成長させてから、大勢の奴隷たちを開放した。


琵琶一族は誘導をするだけで何も言わずに、奴隷たちだけで行動を起こし始めたと同時に別の地に飛んだ。


「生きる希望さえあれば、抗う力も沸いてくるはずじゃ」


信長は大いに希望を持って言った。


琵琶一族は細かいことはそれほど気にすることなく、大いにやり切ったと感じて、生実の琵琶御殿に帰還した。


そして全員で麺屋に行って、店じまいを促すほどに料理を食った。


もちろん、店じまいをさせてしまうと申し訳が立たないので、ある程度復活した幻影たちが調理を手伝って、琵琶家一同の食欲をさらに増進させた。


そして特別室では幻影が氷を作り上げて、様々な冷えた菓子や氷菓子を大いに楽しんだ。


すると秀忠が眉を下げてやって来て、「…物見遊山じゃなかったようだね…」と言うと、「腹が立ったから働いた」と幻影はぶっきら棒に言った。


「…ダメなやつらばかりじゃ…」と信長が嘆くと、「…そのひとりでごめん…」と秀忠は素直に言って頭を下げた。


「…ところでさぁー… 守山の代わりが欲しいんだけど…」という秀忠の言葉に、「兵衛に決めさせな」と幻影はすぐさま言った。


「…頭でっかちな者ばかりだからと、断られたんだよぉー…」と秀忠が大いに嘆くと、「だったら無理な話だ。普通の人間よりはあいつの体はよく動くからな」と幻影は笑みを浮かべて言った。


「天雲大名でいるのもあとわずか」という信長の言葉に、秀忠は大いに戸惑った。


「琵琶御殿は好きにしていい。

 だが、住んでいる者がいる場合は、

 居住権を行使させてもらう。

 もし違えればそこで初めて、

 我が琵琶家は徳川家を破壊してやろう」


「今までと何も変えない!」と秀忠はすぐさま叫んだ。


「…君たちがこっちに戻った時、

 安心して寝泊まりする場所がないと、

 その時点で終わりだよぉー…」


「ふん、よくわかっておるようじゃ」と信長は言ってにやりと笑った。


「ほかの街道工事は楽だからな。

 一年後には、俺たちはあっちの安土城で過ごしているはずだ。

 …言っとくが、妙な足止め工作をした時点で、

 江戸城に五尺玉を打ち込むから覚悟しておけ」


幻影の威厳のある言葉に、「…みたぁーい…」と長春が言い始めたので、信長が腹を抱えて大いに笑った。


「あっちで花火大会ってしないの?」という長春の素朴な質問に幻影は疑問に思ってマックラに念話を入れて細かく聞いた。


「…なるほど… 怖がることはよくわかりますね…」と幻影が言うと、「花火、怖いの?」と長春は眉を下げている巖剛に聞いた。


「では、小さな手持ち花火などはどうでしょうか?

 調理で使う炎よりも小さな火花です…

 あ、やはりそうでしたか…

 慣れがありませんからね…

 探りながら鍛えてもらうこともいいでしょう。

 …いえ、面倒なことなど何もありません。

 誰もが夢を見る気分に浸ってもらいたいだけなのです。

 もしも煌様が映像で持っておられるのであれば、

 見ておいても損はないかと。

 それだけでも個別に資質が図れるはずですから。

 …はい、明日は全員でそちらに行きますので…

 はい、ありがとうございました」


幻影は終始笑みを浮かべて念話を終えた。


「…花火なんて初めてじゃないかなぁー…」とジャックが今更ながらに言うと、「ほかにも何か理由があるようだね」と幻影が聞いた。


「パートナーが獣人だから」


ジャックの言葉に、「…そりゃそうだった…」と幻影はすぐさま理解を終えた。


ジャックのように獣人を従えている戦士は希少と言ってもいい。


しかし、希少だからこそ、権力を持っている。


相棒が嫌うようなことを、主が許すわけがないのだ。


よって手持ち花火程度はどこにでもあるそうだが、それほど盛んではないらしい。


本来の夜空に咲く花火を見た者がほとんどいないので、手持ち花火の出来がそれほど良くないという理由だ。


しかしほかの惑星に行けば、この惑星と同じような文明文化を持っているところもあるので、夜空に咲く花火の知識はある。


「だけどそれって、欠点でもあるよね?」


幻影の言葉に、「砲撃がある時は、真っ先に耳をふさがせるさ」とジャックは大いに眉を下げて言った。


「第一線にいる獣人には、ある程度の慣れはあります。

 ですが戦場に出ない獣人も多くいますので、

 娯楽が苦痛に思えるのではないかと…」


フランクの考察に、「大いにあるね」と幻影は言って何度もうなづいた。


幻影は長春を見て、「今夜、小さな花火大会」と幻影が言うと、長春は大いに陽気になって言いふらしに回った。


「…小さい方で助かりました…」とフランクが眉を下げて言うと、「大きくないものを打ち上げるので、判断して欲しんだ」という幻影の言葉に、「修行だ修行!」とジャックは機嫌よく言ったが、フランクは眉を下げたままだった。


「ちなみに一番でかい五尺玉は、人間でも驚くから」


幻影の言葉に、「…経験は重要だ…」とジャックは大いに苦笑いを浮かべて嘆いた。



夕餉を終えて夜になってから、さっそく広場で花火大会が行われると、ジャックとフランクは子供に戻って大いにはしゃいでいた。


そして幻影は予告をしてから、打ち上げ花火の小さいものを上げると、「…ああ、きれいだ…」とフランクは耳から手を遠ざけてつぶやいた。


しかし三尺玉となると、音と同時に振動も伝わるので、さすがに冷静でいられなくなるようだったので、今日の確認はこれで終えた。


そして、長春の動物たちも、巖剛か獅子丸に寄り添って怯えていたことも大いに参考になった。


「しばらくは打ち上げ花火の場合は、

 一番小さい物なら合格ということでよさそうだね」


幻影の言葉に、「はい、本当にきれいでした」とフランクは感動して答えた。


「…打ち上げ花火を見ねえと、

 手持ち花火のいいものが作れねえことはよーくわかった…」


ジャックは感慨深気に言って、広場の掃除を始めた。



「…まさか花火職人までしているとは思ってもいなかったよ…」


安土城下にやってきた極が大いに眉を下げて言った。


極たちは夜になると別荘に戻ってくるので連絡の必要はなかった。


「…のろしのようなものしか見たことがないわ…」と燕は言って、幻影が描いた花火がある夜の風景の絵を見入っている。


「制限がない場合はこうなります」と幻影は言って、また別の絵を出すと、「…絶対、きれい…」と燕は子供のような顔をして言った。


「…ですがこの大きさだと、音と衝撃波がとんでもないのです…」とフランクが報告すると、「…随分と離れて観れば、これと同じ…」と燕は言って最初の絵を眉を下げて見た。


「そうなるな」と極は笑いたいところを堪えて言った。



辺りが真っ暗闇になってから、長春が手持ち花火大会を始めると、獣人の子供たちはあまりのことに目を見開いて花火を見入った。


そして手持ちでも打ち上げられる小さな打ち上げ花火を上げると、「…うわぁー…」と誰もが夜空に咲いた小さな花を見て笑みを浮かべた。


すると、今の小さな花の十倍ほどの花火が上がると、子供たちは大歓声を上げて喜んだ。


それほど派手でなくてもこの喜びは今までで一番と幻影は思い、幸せな気持ちに浸ってもらえるように、同じ間隔で多くの種類の多くの花火を打ち上げた。


そして最後とばかりに、百ほどを一斉に打ち上げると、子供たちは大いに感動したようで、涙を流しながら喜んだ。


もちろん、子供たちだけではなく、大人たちも初体験だったので、大いに感動していた。


「…このお返しは、どんなものでも褪せてしまいます…」とマリーンも大いに感動して、幻影に言った。


「いえ、もう頂いていますから」と幻影は言って、幸せそうな無垢な笑みを浮かべている子供たちに目を向けた。


「それが大問題なんだ」と極が眉を下げて言うと、「別にいいじゃないか」と幻影はすべてがわかっていて答えた。


「そんなもの、ただの副産物で、狙っていたわけじゃない。

 俺たちは感動して喜んでもらえることだけに、

 全ての力を注ぎこんでいるようなものだからな」


幻影の言葉に、「…俺もタルタロスも怠けていた… いや…」と極はこう言ってから考えを変え、「…俺にもこの経験が必要だと、タルタロスは知っていた…」と少し憤慨して言ったが、大声で笑い飛ばした。


「何かひとつだけでも前例が欲しかったんだと思う。

 それほどに極には隙がなかったんだろうな」


「おう! 最高の誉め言葉にさせてもらった!」と極は大いに高揚感を上げて叫んだ。


「さすがタルタロス様ですわ!」ととんでもない黒い化け物が叫ぶと、誰もが石化したように固まっていたが、「いきなり出てくんな!」と蘭丸が叫んで、変わり果てた姿の燕と肩を組んだ。


「…ある意味ショックだけどぉー…」とポポタールは言って、不気味な笑みを蘭丸に向けた。


「…知っていたやつも固まるんだな…」と蘭丸は言って、極の配下たちを見入った。


「…慣れはないんだってぇー…」とポポタールは悲しそうに言って、何とか動き始めたジャックを見た。


「それを乗り越えるしかねえってか、納得だ」と蘭丸は言って、ジャックに笑みを向けた。


「…お蘭ちゃんは唯一無二のお友達…」というポポタールの言葉に、「俺はすでにそう思っていたんだがな!」と蘭丸は胸を張って言った。


するとポポタールの感情が替わった。


「今度は燕か」と蘭丸が言うと、「…うん、そう… 極にしかわかんないのに…」とポポタールと全く同じ姿の燕が言った。


大きい違いはないのだが、ホホにある白い丸の大きさが、燕の方がわずかに大きい程度の見た目の違いしかない。


「ほぼ同じ運命を歩んだか…

 いや、双子だ!」


蘭丸は叫んで大声で笑った。


「…そうなの… 私たちは姉妹だから、

 お蘭ちゃんはお友達としては初めて…」


燕の恥ずかしそうな言葉に、「人見知りも程々だ、ま、俺が言えんのだけどな!」と蘭丸が機嫌よく笑うと、追従して極も大声で笑った。


「…お蘭ちゃんとはずっとお友達だよ?」と長春が笑みを浮かべて燕に言うと、「…主としては、そう思っておきたいわね…」と燕は悲しそうに言って人型に戻った。


「…お蘭ちゃんは動物じゃないのにぃー…」と長春は大いに嘆いたが、燕は蘭丸を見入った。


「…途中から気づいていたが、ちょっと言えん事情ができたんだ…」と蘭丸は大いに眉を下げて言った。


「…その友人想いなところはマネしなきゃ…」と燕は眉を下げて言った。


「俺の方が断然強いから、別にいいんだけどな!」


蘭丸は機嫌よく叫ぶと、巖剛と獅子丸が頭を抱え込む仕草をしていた。


「…誰もが怯えて当然じゃったか…」と信長は鼻で笑って言った。


「…初めの一年間は、いい修行となりました…

 …その相手に惚れられていたとは露知らず…」


幻影が嘆くように言うと、信長は機嫌よく幻影の背中を叩いた。


「…あやつはいつ気づいたんじゃ?」と信長が聞くと、「幻武丸を渡した時です」と極は堂々と言った。


「…それほど前じゃったか…」と信長は大いに嘆きながらも、納得して何度もうなづいた。


「我らが琵琶家となるわずか前からは、

 お蘭が全てを守っていたに等しいのです。

 ですので私は、じっくりと自分自身の修行に打ち込めたのです。

 お蘭は私にとって恩人でもあるのです」


「…初めはさすがに、動物としての意識があったわけだ。

 特に、幻武丸に守られるようになってからはそれが顕著に出ていたからこそ、

 幻影はお蘭に惚れることはなかった。

 ようやく話の辻褄があったという気分じゃな」


「虎は一頭いれば十分でしたから」と幻影が意味ありげに言うと、「…名は体を表す、じゃな…」と信長は眉を下げて言った。


「今治城でヤツに横っ腹を殴られた時、

 お蘭と同じだと悟りました。

 まあ、力の差は歴然でしたが…」


「高虎が我が琵琶家の一員となっても、苦難の日々じゃろうて」と信長は鼻で笑って言った。


「幻影の願いが叶うのではなく、

 その先をもう知っておったわけか…

 その件も納得じゃ」


「口にしない方がいいことも大いにあるのです。

 本人が無意識の方が、死ぬる前に覚醒できるはずなので。

 当時の私としても大いに考えていましたから。

 特に、危険がないことはわかっていましたので」


「そう、それが一番じゃ」と信長は機嫌よく言った。



翌日からはまだ少々寂しい城下町で麺屋と法源院屋の商売が始まったのだが、大勢の物見遊山の者がやってきたので、広い城下町は一気に狭くなってしまったように見えた。


特に麺屋は外に席を作る必要ができて、まさに大入り満員となった。


こういった時は決まって悪い者たちが現れるものなのだが、それは獣人の子供たちによって簡単に阻止された。


そしてマックラからの説教と、生涯出入り禁止が言い渡されることになる。


話ができないマックラを何とか避けて、安土城に潜り込もうとする者が大勢現れるが、こちらの方も子供たちが大いに活躍してすべてを捕らえる。


さらには獣人の大人たちも臨時の仕事として安土城を守るようになり、『一切悪事を働けない町』として知れ渡った。


途中からこの事実を知った極たちが、探りを入れようとした企業を潰して回ったので、報復すらできない状態となった。


特に化学工場を抱えていた企業はさらに立ち直ることができなくなり、多くの工場が閉鎖となったが、全てを極が抱え込んで、儲け度外視の企業を新たに立ち上げた。


よってさらに人を雇って、急がないものづくりに徹した。


文明文化のいい意味での退化を始めたのだ。


「ようやく落ち着けるよ」と黒豹が極に言葉を発して、屋敷の縁側にごろりと寝転んだ。


「今回はいい切欠だった。

 さらには獣人たちが一気に使えるようになって、

 この星本来の進化が見えてきた。

 俺たちはエネルギーには頼らないことに決めた。

 もちろん、人力はありだ」


「…それだったら全然いい…」と黒豹はつぶやいてひとつ背伸びをした。


「…あのさ、阿利渚ちゃんたちってどう思う?」


黒豹が聞くと、「阿利渚はジャックを気に入ったからダメ」という幻影の無碍な言葉に、「…父と娘じゃん…」と黒豹はつまらなさそうに言った。


「…お前だったらその年の差以上じゃないか…」と極は言って小さく笑った。


「動物使いの桃源にしとけ。

 お前だって居心地はいいはずだ」


「…術にかからなくって助かったってところだよ…」と黒豹は言って、まさに動物として背伸びをした。


「燕さんは心地良く手下になったけどな。

 用がない時は自由のようだし。

 こっちとしては助かったってところだ」


「もう忘れてる」という黒豹の言葉に、「ほんと、疑いたくなる程欲がない」と極はにやりと笑って言った。


「力試しのようなもんさ。

 だから僕には驚いたよ?」


黒豹が自慢げに言うと、「そんなもの当り前だ」と極は言って、黒豹の頭をなでた。


「燕さんの昔返りとは違って、

 今のこの姿は変身のようなものだ。

 よって、純粋には動物ではない。

 昔が動物でも、今は動物ではないから術にはかからない。

 かといって、長春様が術を発して操っているとは思えない。

 ただただ楽しんで、動物たちと接しているだけだ。

 まさに正しい主従関係を積んでいると思う。

 だからお前の場合、

 本来の姿で接した方がよさそうだ」


「…それができそうにないんだ…」と黒豹は嘆いた。


「婿選びに必死な女性たち?」


幻影の言葉に、「…うん、そう…」と黒豹は大いに嘆いた。


「その点だけでも欲があって何よりだよ」


「幻影さんのお母さんって、どう思う?」


黒豹の言葉に極は目を見開いたが、すぐさま大声で笑い始めた。



幻影たちは商品を作り上げて穏やかな時間を安土城で過ごしていると、いきなり女の子の獣人としての鳴き声が聞こえたが、すぐに収まった。


この時幻影だけが立ち上がっていて、「さすがだ」と信長にお褒めの言葉をいただいた。


今はこの辺りの感情に悲壮感は全くなく、穏やかな空気でしかなかった。


だが、「…困惑? 長春様です」という幻影の言葉に、「…元凶はここに来よる…」と信長が穏やかに言って初めて、幻影は立ってることに気付いて徐に座った。


すると誰かがなぎ倒されたようで、本丸の一回辺りから大きな悲壮感が流れては消えた。


そしてその元凶は、何らかの力で、マックラがいる辺りに飛ばされた。


「…何が起こってるんだ…

 欲は感じるのですが、撃退する相手ではないようです。

 ひとまず撃退したのは弁慶のようです」


「比較的平和な者で、弁慶と同等の力を持っている。

 こりゃ、脅威だな…」


信長は悲壮感溢れる言葉を、楽しむように言ってにやりと笑った。


「いやぁー! 弁慶さんの強さは異常だよ!」とやけに陽気な極が、眉を下げている燕を連れてやってきた。


「全宇宙最強最大のわがまま姫が来た」という極の言葉に、幻影と信長は大声で笑った。


「欲を感じたから、何かが欲しいようだね?」と幻影が聞くと、「例の高級呉服店の小さなマネキン人形だよ」と極があきれ返って言うと、幻影も大いに呆れていた。


「だけど、欲の持ち主は大人だったが…

 性格が長春様のような人…」


幻影がつぶやくと、「大当たりだ」と極は言って少し笑った。


「抑えが効かない、物理的な力を持つ長春か…

 これは面倒だな…」


幻影は弁慶に念話を送って、撃退した女性を連れてくるように伝えた。


今下にいる一番強い者に言っておけば、まず面倒は起こらない。


よってほどなく、男性に腕をつかまれているが、難なく歩いてきた女性が部屋に入って来て、「幻影お兄ちゃん! これ、作って!」といきなり叫んだが、幻影が誰だかわからないようで、琵琶家一同を見回している。


名前だけは長春から聞いたのだろうと幻影は理解した。


「あなたはそうやって人に迷惑をかけることが仕事なのですか?」


幻影が女性をまっすぐに見て言うと、女性は目を覚ましたように目を見開いて、「…またやっちゃったぁー…」と悲しそうな目をしてから、手を押さえつけている男性に謝った。


「本当に申し訳ございません!」と男性がすぐさま幻影に謝って、「…夢中になると、全く何も聞こえなくなってしまうのです…」と事情を説明してから、男性は万有レスター、女性は万有桜良と知った。


「その性格が治ったら、ご褒美として造って差し上げましょう」


幻影の言葉に、桜良は目を見開いて驚きを表現したが、極と燕はくすくすと笑い始めた。


「…私の、唯一残った個性なのにぃー…」と桜良が意味ありげなことを言ったので幻影は大いに興味を持った。


「…桜良さんの気持ちは誰にもわからない…

 だけど、この程度は克服してもらいたいんだけどできないんだ。

 まずは駆け足で、桜良さんの経験した事実をすべて話すよ」


極は言って、とんでもな情報量のものを半時ほどで説明した。


それがどれほど壮大なものなのかは、琵琶家上層部だけにはよく理解できていた。


「…桜良さんだけに限っては、この程度のわがままは許される…」


幻影の言葉に、「…できることであればね…」と極が眉を下げて言うと、桜良は陽気に小躍りを始めた。



「ちなみに、ふたつとないものだったらどうするんです?」


幻影の質問に、桜良は大いにうなだれて、「…悲しいけど諦めますぅー…」と心底落ち込んで言った。


「もちろん、一点物がいくつもあったからね」と極が補足説明した。


「…長春様とよく似ていて、さすがに憎めない…

 …長春様ができると判断して実行に移さないと、

 ずっとふてくされてるから、

 桜良さんの方がましかもしれないね…」


幻影の言葉に、長春は大いにホホを膨らませていた。


「…私よりもひどい人がいた…」と桜良が喜びながら言うと、「人様の欠点と比べて納得しちゃダメだ」というレスターの言葉に、桜良は長春とレスターにすぐさま謝った。


「ちなみに、作る人形はおもちゃではなくて商売道具です。

 その点は、理解していただいているのでしょうね?

 もしも、桜良さんのような人がわんさかと現れた時、

 我々だけでは対応できなくなります」


「…お仕事、なの?」と桜良が長春に恐る恐る聞くと、「…採用試験してたのぉー…」と眉を下げて答えると、桜良に大いなる罪悪感が沸いて頭を抱え込んだ。


「…反省もわかりやすい…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「…そして甘くなる、の繰り返しか…」と信長がにやりと笑って言った。


「…次に現れた人が大いに災難ですから、

 ここはある程度厳しくいきましょう…」


幻影の言葉に、極と燕は大いに眉を下げた。


まさに自然界の使者よりも厳しい者がいたと思い、困ってもいたが喜んでもいた。


「極さんの話を聞いて、ひとつわかったことがあります」


幻影の言葉に、誰もが幻影を見た。


「すべてのお祭り騒ぎの発端は桜良さんにあるはずなのです。

 それほどに長い時間魂を引き継ぐと、

 全ての者に桜良さんの想いが乗っていてもおかしくないのです。

 もちろん、俺たちにもです」


「…様々な性格や人種の差はあるが、

 確かに、俺たちはすべてエッちゃんの子だといっても過言ではない…」


極が嘆くように言うと、幻影は笑みを浮かべてうなづいた。


「母が子に甘えていると変えて考えれば、

 比較的簡単に言い聞かせはできます」


幻影の言葉に、「どうか! お任せください!」と夫であるレスターが叫んだ。


「適任者という意味では、夫ではそれほど良くないと思います。

 できれば、それほど親しくない、

 無垢な子供たちが悟らせた方がいいように思うのです。

 大人の計算づくの考えは、

 桜良さんにとって薬になるとは思えないのです」


「賛成だ」と極が真っ先に言うと、「…適材適所はわかっていたはずなのに…」とレスターはすべてを悟って大いに反省して幻影に頭を下げた。


「阿利渚、桜良さんを仲間にしろ。

 普通にお友達でいいぞ」


幻影の言葉に、阿利渚は満面の笑みを浮かべて、「一緒に遊ぼ!」と桜良を誘った。


「…簡単なことだったぁー…」と極は大いに嘆いたが、まさに子供返りしている桜良を見て笑みを浮かべた。


「…その者の経歴ばかりを気にして肝心要なことを見落としていた…

 いや、わかってはいるのに同情心が沸いてしまうことも大きい…

 この先我らも、幻影のような判断をしていかなければならんな」


信長の重厚な言葉に、幻影は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。


そして結局は、着物を着せた人形や小物をわんさかと作る羽目になったが、ひとつの光明が見えた。


これにはマックラが涙を流すほど喜んで、この村が城下町に店を出すことに決まった。


ここは獣人の住む村なのだが、全てが純粋に獣人というわけではない。


子供たちで比較すると、純粋な獣人は約半数で、それ以外は人間とのあいの子なのだ。


わずかでも人間の血が混ざっていた場合、もう獣人ではなく別の人種と言っても過言ではない。


そのわずかばかりに獣人の血が生きている子供たちだけに大いなる変化があったのだ。


それは手先が器用なことと、色彩感覚に優れているという面だ。


よって客の思い描いた着こなしの判断が異様に早い。


子供たちは遊びとしながらも、仕事の資質を披露していたのだ。


ちなみに、純粋な獣人たちは、ひとり残らず眉を下げている。


このような細かい仕事は性格的にも合わないようだが、楽しいことには変わりない。


そして、その子供たちには本来の仕事である、『パートナー資質』が大いに上がっていることはすでに確認済みだ。


これには極が大いに喜んだのだが、主人となる能力者がそれほどいるわけではない。


だか、相棒となる資格がある獣人が多くいれば、適応する能力者も必ずいると判断して気落ちはしなかった。


まず子供たちが目をつけたのはもちろん幻影だが、獣人たちの中心に幻影の子の阿利渚がいることで、さすがに抜け駆けはできない。


よってそういった子供たちは阿利渚や長春に相談を持ち掛けたのだが、「とと様が弱くなっちゃわない?」という阿利渚の言葉に誰もが目を見開いてうなだれた。


それは大いに考えられることなのだ。


もちろん、相棒に任せっきりになる主人もいるのだが、主人が真摯であればあるほどに、自分自身の成長を気にするものだ。


阿利渚は無碍な言葉を放ったのだが、ここは直接幻影に話をすると、幻影は二つ返事で協力者を引き受けた。


その理由は、幻影としては極の足元にも及んでいないと判断していたからだ。


できることであればすべて経験しておきたいと思い、ここは信長と蘭丸も誘って、獣人の子供たちの試験を受けた。


「…俺が気に入るのは、虎の子だけだぁー…」という蘭丸のいきなりの威厳がある言葉に、獣人の子供たちは今にも泣き出しそうな顔になっていた。


「好き嫌いはダメ。

 今はとりあえず、だけどな」


幻影の言葉に、「…お、おう…」と蘭丸は比較的素直に従った。


ここから幻影たちはある意味死の苦しみに耐えることになった。


獣人を相棒とするには、まさに高能力者である必要があった。


幻影を含めて三人は能力者としてはまだひよっこでもあるので、ここは我慢することなく地面をのたうち回った。


そして落ち着いてから、また別の子を抱いて試す。


「…三人とも、ヘタレじゃないわぁー…」と燕は明るい口調で言った。


「…生きている時代の差が大いに出たね…

 甘えもないし、無理をすることもなく、

 自然に任せて厳しい修行を積んでいる。

 今の三人は、まさにいい手本だよ」


極も笑みを浮かべて明るい口調で言った。


「…うまくいく子がひとりもいないかもという絶望感…」と極は嘆くような内容を言いながらも笑みを浮かべている。


このような試練は今までに経験していなかったからだ。


もちろん信長と蘭丸も同じで、ボロボロになりながらも次々と子供たちを抱きしめてはまた転がる。


だが一番に適任の相棒を手に入れたのは蘭丸で、「…多少辛いが、なんてことはない…」と言って、虎の獣人のガレッタに笑みを向けて抱きしめた。


「…一番の高性能の子…」と燕が嘆くと、「…ま、心底相性のようだな…」と幻影も眉を下げて言った。


「…ふっふっふ… これで幻影に勝てるぅー…」と蘭丸は言ってガレッタに体を抱きしめさせて幻武丸をすらりと抜いた。


すると誰もが大急ぎで蘭丸から遠ざかった。


幻影も例外ではなく逃げたのだが、「それだと嫌われ者だ!」と叫ぶと、蘭丸は大いに落ち込んで、素早く幻武丸を鞘に納めた。


「…いやぁー… 驚くにもほどがあったぁー…」と真っ先に逃げた極が冷や汗を流しながら言った。


「…上には上がいたわぁー…」と自信家の燕すら嘆いていた。


まさに幻武丸の威厳が跳ね上がっていて、まさに蘭丸の体の一部となっていた。


そして相棒のガレッタは蘭丸を抱きしめたまますやすやと眠っていたことに、蘭丸は大いに笑った。



その次に適正者を見つけたのは信長で、蘭丸ほどの威厳を放つことはなかったが、まさに祖父と孫の穏やかな関係を築いた。


適任者は鼫の獣人のポッタで、元々相棒の資格があったのだが、適任者が極しかいなかったことを嘆いていたのだ。


まさにうれしい出来事に、ポッタは信長に満面の笑みを向けていた。


「…心が折れそうだぁー…」と幻影は大いに嘆いて、苦痛から解放された体に鞭打って立ち上がった。


診断していない子供たちの底が見えてきた焦りもあるが、ここは気合を入れて平常心を保つことにした。


そして冷静になったとたんに、「…嫌なのか…」と極はある感情に気付いて、阿利渚の近くにいる小さな体の鳩の獣人が大いに気になった。


幻影はゆっくりと歩み寄って、「君は参加してくれないの?」と幻影が穏やかに聞くと、「…阿利渚ちゃんに悪いかなぁーって…」とつぶやいた。


そして名前をポッポと聞いて少し笑った。


「とと様の修行だからいいの!」と阿利渚が笑みを浮かべて答えると、「…じゃ、じゃあ…」とポッポは笑みを浮かべて幻影に両腕を差し出した。


「…ポッポちゃんでありますように…」と普段はほどんど願い事をしない阿利渚が願った。


幻影は怪訝に思ったが、躊躇なくポッポを抱きしめた途端、また拒絶反応が来て背後にひっくり返ったが、その苦痛が急速に去って行った。


「…やっと、みつけたぁー…」と幻影は満面の笑みを浮かべて言って、ポッポを抱きしめた。


「…ポッポちゃんはね、極叔父ちゃんでも駄目だったんだって…

 そんな人、ひとりもいなかったんだって…」


阿利渚が悲しそうに言うと、「もうできたから大丈夫だ」と幻影は言って半身を起こして、ポッポと阿利渚を抱きしめた。


そして幻影はひとりの残らず審査をしてもらって、ポッポが唯一だったことをある意味喜んだ。


「…まさにようやく、ポッポに春が来たなぁー…」と極が笑みを浮かべて言うと、「これで先に進めるわ」と燕は今までにポッポに言ってきたことを思い出して笑みを浮かべていた。


ポッポを受け入れてくれる人は普通ではない強さを持っている人だと、顔を合わせるたびに伝えて、希望を薄れさせなかった。


その苦労が報われる日がようやく来たことに、感動すらしていた。


「幻影なら当たり前と、心の底から思えてよかった」と極は笑みを浮かべて幻影とポッポに祝福を送った。


そして幻影はポッポを阿利渚に奪われたが、あまり気にしないことにした。


「…とと様と戦いたかったんだけど…」と蘭丸が眉を下げて阿利渚に言うと、幻影は大いに笑った。


「…はは様が悲しむからしないよ?」と阿利渚は言ってポッポに満面の笑みを向けた。


「…俺は、勝てないのか…」と蘭丸が嘆くと、「ううん、そうじゃなくてね…」と阿利渚は言ってから蘭丸に耳打ちをすると、「…ある意味負け…」とつぶやいてうなだれた。


「勝ち負けじゃなくて平和なの」という阿利渚の言葉に、蘭丸は大いに眉を下げたが納得もしていた。


ここは信長が子供たちの親と面談をして、丁重に借り受ける話をすると、親たちは二つ返事で大歓迎して逆に子供たちを頼むとお願いまでされてしまった。


特に蘭丸と相性がよかったガレッタは、育ての親がマックラだったので、村長としての威厳も保てたといったところだ。


もっとも、そういった子供たちを五十人も育てていれば、必ず誰かが雇われることにもなる。


しかも琵琶家にはその資質に長けている猛者が大勢いるので、今回雇ってもらえなかった子供たちの希望の灯は消えていなかった。


「あら、あなたがいいわ」と妙栄尼は明るく言って、ポッポの母親を雇ってしまったのだ。


まさかの事態に、「…誰もが希望を持ってくれ…」とマックラは大いに感動して言った。


眉を下げてしまったのはポッポの父親だが、長春が手下にしてしまったので、ポッポの家族は全員琵琶家の一員となってしまった。


鳩は猫と同じほどいるので、長春としてはお世話係として雇ったようだ。


できれば猫の獣人もいて欲しかったのだがここにはひとりもいなかった。


唯一の猫科の獣人が、蘭丸が雇ったガレッタだけだったのだ。


よって子供たちだけではなく大人たちにも大いに希望が湧いていた。


「お兄ちゃんはどうして選ばないの?」と弁慶に聞いてきたのは、滑稽な鳥の獣人に変身している燕だったことに、弁慶だけではなく誰もが眉を下げていた。


「今少し、自分自身の力だけを試したいからです」という、いつものような弁慶らしお堅い言葉で言った。


「…あー… 甘えることになるからなぁー…

 ざんねぇーん…」


燕は少し悲しそうに言って、兎の獣人を見た。


それを目ざとく発見した沙織が、「…弁慶様、雇って…」と半分以上命令して言った。


「沙織様がかわいがりたいだけではないですか…

 ですが構いませんよ」


弁慶に言葉に、育ての親のマックラがさらに喜んで、兎の獣人のライに言い聞かせを始めた。


「今は愛玩動物扱いだが、これは大いなるチャンスだ」というマックラの言葉に、誰もが眉を下げていたが、ライはそれでもいいようで、機嫌よく沙織に抱かれた。


「いえ、彼の能力はよくわかっているつもりです。

 私が納得した時、すぐにでも雇います。

 もしも拒絶反応が厳しくても、それに打ち勝ってみせましょう」


弁慶の信念の言葉に、「…はぁー… どこもおらん数少ない立派なお人じゃ…」とマックラは大いに感動していた。


「…弁慶さんならやっちゃうわ…」と妙に愛嬌のある鳥の獣人は、その滑稽な顔をさらに滑稽にして嘆いた。


「…エッちゃんを簡単に撃退したことは大きいね…」と極は眉を下げて言った。


桜良に力で挑んでも、普通の者が勝てるわけがないのだ。


それをいとも簡単に弁慶はやってのけた。


逞しい者が多い極の仲間の中でも、一二を争えるほどの人材だった。


琵琶家は旅を重ねるたびに強くなると信じて疑っていなかった。


「私がはは様で、弁慶様がとと様よ」


沙織がホホを赤らめながら早速ライと友好関係を築き始めたので、誰もが朗らかにふたりを見守ることにした。



「どーしていきなり変わっちゃたのっ?!」と長春が騒ぎ始めた。


「…ついに、この日を迎えることができましたぁー…」とライではない白い兎の獣人が言った。


「ああ、関でみつけた子だね」と幻影がなんでもないことのように言うと、「…そうだけどぉー…」と長春は苦情があるように大いに眉を下げて嘆いた。


「理由があって琵琶家に寄り添ったんじゃないのかい?

 まさに、今日の日を夢見ていたといっていいような」


幻影の言葉に、「お名前をください!」と白い兎の獣人は長春に懇願の目を向けた。


「…さすがにおぴょんは気に入らなかったのね…」と長春は大いに嘆いた。


「普通に雪美でいいじゃん」という幻影は言って、その名前を和紙に書くと、誰もが大いにうなった。


雪美は早速、「…雪美といいますぅー…」とライに自己紹介して大いに照れた。


「…うふふ…

 先に母親の私を通してね、雪美ちゃん…」


もうすっかりライの母親になっている沙織の言葉に、雪美は大いに戸惑っていた。


「…私を出汁にしていたことを弁慶様に…」と雪美がつぶやくと、「おほほほ!」と沙織は空笑いをした。


「動物をかわいがっている子供のような愛らしい姿を

 好いた人に見せる程度のことは当たり前だ」


弁慶の相変わらずのお堅い言葉に、「…バレてて当然だけどね…」と沙織は眉を下げて言った。


「それに、雪美は盗人だから大いに働いてもらうからな」


弁慶の言葉を理解できたのは、能力者と言っていい幻影たちだけだった。


「…盗んでごめんなさい…」と雪美は素直に謝った。


「まあいいさ、漏れていたものだからな。

 それを糧にできるほどなんだから、

 大いに働いてもらおうか」


幻影の言葉に、信長は陽気に笑った。


「…お姉ちゃんはもう働けるんだぁー… すごいなぁー…」というライの無垢な言葉に、雪美は立ち直れないほどにうなだれた。


幻影たちは大いに腹を抱えて笑ったあと、早速雪美の実力を見せてもらうことにした。


どうやら様々なことを見ていたようで、雪美が質問をすることはなかった。


特に菓子作りには誰もがうなり声を上げて、「白兎雪美の菓子とでも記して興味を沸かせるか…」という幻影の言葉に、誰もが賛同した。


そして雪美は早々に開放されて、ライにまた褒められたがさらに立ち直れなくなっていた。


やはり、『お姉ちゃん』と言われてしまうと、女性としては心中複雑なようだ。


もっとも、ライは雪美とは全く違う能力者なので、雪美にライの真似をしろと言ってもできない。


ライは能力者にとってありがたい存在だが、ある意味甘やかしにもなってしまう。


だが今のところは厳しい能力者しかいないので、それほど心配することはなかった。


幻影は完全に放任だし、信長と蘭丸はかわいがっているだけだ。


妙栄尼も似たようなものだが、経を上げるお勤めの時間は、いい刺激になっているようだ。


「…パートナーの意味がない…」とすべてを見ていた極が大いに嘆いたが、「あら、それはどうかしら?」と獣人の立場の燕が笑みを浮かべて言った。


「私としては、みんなをうらやましいって思ったわ。

 この星の風習っていう意味もあるけど、うちの子たちって、

 能力者とそのパートナーという狭き道を歩んできたわけじゃない。

 そして失敗をすることは許されない。

 もちろん幻影さんたちにその経験はそれほどないんだろうけど、

 できれば穏やかに任務を遂行したい時はここぞとばかり使うんじゃないのかしら?

 そして任務が終われば家族に戻る。

 何のわだかまりもなく働ける素晴らしい環境だと思うわ」


「…すべては歴史が物語る、か…」と極は言って、燕の言葉を肯定した。


もっとも、極と燕の間柄も、幻影たちと同じで家族なので、以心伝心の部分は大いにある。


できれば仲間たちもそうであってもらいたいと思うのだが、どう考えてもほとんどの者は主従関係でしかないのだ。


今更それを変えろなど、頂点に立つ者であっても、命令することははばかられる。


そのしっぺ返しが必ずあるからだ。


その数少ない優秀な主従関係のジャックとフランクを欠いたことは、極にとっては大いに辛いこととなってしまった。


しかもジャックは幻影の娘の阿利渚との婚姻がほぼ決まってしまった。


できれば、幻影たちが生まれた星の大掃除を早々にでもやってもらいたいと、幻影は切に願っている。


だが、幻影たちには別の仕事があることも知っているので、今日明日にでも終わるようなことではない。


さらにいえば、生まれた星としてずっと見守っていくことはもう決めてあるようだ。


しかし、この星に安土城を建てたことは極にとっては明るい材料でもあった。


ジャックの想いひとつだが、忙しい時は手伝ってもらうことは無理な話ではない。


だがこのような話をするのは諍いの原因ともなり、時期尚早として、今は考えないことに決めた。



「お困りのようですね」と幻影がいきなり極に話しかけると、「いやぁ… あははは…」と極は笑ってごまかした。


しかし極は家族や関係者一同の前で幻影と腹を割って話し合い、「元に戻したってかまわんのじゃ」という信長の言葉に、極はすぐさま頭を下げた。


「もっとも、出された者の意見を聞く耳はある」と信長は言ってジャックとフランクを見た。


「頼られることをうれしいと感じました」とジャックは笑みを浮かべて答えた。


「特に、極殿のようなとんでもない力を持っているような者に頼られて、

 うれしくないヤツは偽物じゃ」


信長の言葉に、極とジャックはすぐさま頭を下げた。


「その代わりと言っては何だが、

 一部の家族に強い味方ができたからな。

 ジャックとフランクの二人分ほどの働き程度はしてくれるじゃろうて」


信長は相棒にしたポッタの頭をなでた。


「さらに嫁の件だが、阿利渚にはまだ早い。

 だが、諦めろなどとは言っていない。

 わしらの家はここにあるからな。

 時間が合えば、逢引でも何でもすればよい」


信長は機嫌よく言って、赤い天守の安土城本丸を見上げた。


「…あー… お嫁には、まだ行きたくないかなぁー…」と阿利渚は言って幻影に抱きついた。


「まだまだお勉強することは多いからな」と幻影が言って頭をなでると、「はい、とと様」と阿利渚は笑みを浮かべて答えた。


ある意味肩の力が抜けたジャックは、「心細くなりやがったか」と極に悪態をついて言った。


「我らにも余裕があるわけじゃないからな。

 だがここは、信長様のお言葉に甘えさせていただく。

 そしてさらに琵琶家を知ってもらうために、

 ジャックとフランクの代わりの者を送り込む。

 ま、武者修行ってやつだ」


「使えんやつがおらんからな。

 こっちとしては問題ないぞ」


信長の心地良い言葉に、極は笑みを浮かべて頭を下げた。


そして極たちの部隊の隊長たち十五名が集合して、公開の会議が行われ、その候補の数名の名が上がった。


その都度宙に絵が浮かぶので、部外者の信長たちにもよくわかる。


「…ふふふ… ここにおったか…」と信長は今絵が浮かんでいる女性に注目した。


まさにの信長にとってはうれしい再会だった。


「我の願いが通じるのならば、

 パトリシアをくれ」


信長が口を挟むと、いきなりのことで極すら戸惑った。


パトリシアは優秀には違いないがまだ駆け出しでもある。


それをいきなり欲するということはと極は察して、「パトリシアもご家族なのですね?」と極が聞いた。


「ああ、ワシの妹をしておった市という。

 どこぞで生まれ変わったと思っておったからな。

 ここにいて幸いじゃったが、

 もちろん、本人が納得したのち、家族となってもらおう」


信長の穏やかな言葉に、パトリシアが呼ばれた。


もちろん話は聞いていたので、パトリシアは戸惑うことなく極と信長に頭を下げた。


「逞しくて何よりじゃ!」と信長は上機嫌だった。


「さらにはパトリシアの希望が我が家族におる。

 その昔、最後に産んだ市の子じゃ。

 今は無関係じゃから、亭主として抱え込んでもよいぞ」


信長の言葉に、「…亭主候補がようやく現れたぁー…」とパトリシアは初めて言葉を発して、逞しい肉体とは裏腹にまさに乙女のように体中で喜びを表現した。


「相棒も恥ずかしがり屋のようじゃな?」と信長は言って、パトリシアの首を抱きしめている小人でしかない鼫の獣人を見入った。


「…お殿様の子の方がすっごく優秀ですぅー…」とパトリシアは大いに眉を下げて言った。


「大きさは違うがどちらも鼫。

 奇妙な縁じゃな」


「…はい、うれしいですぅー…」とパトリシアが答えると、会議は終わって、極から正式に指示が出た。


期間なしの出向という形で、パトリシアは琵琶家の一員となった。


「勘太郎!」と信長が呼ぶと、勘太郎はすっ飛んできてすぐさま頭を下げた。


「今より、柴田勝家を名乗れ!」


信長の言葉に、「はっ! ありがたき幸せ!」と勘太郎は笑みを浮かべて叫んだのだが、できれば琵琶家独自の名が良かったと、わずかに残念に思った。


「…ああ… 柴田… 勝家… 様…」とパトリシアはつぶやいて大いに考え込んだ。


そして、「…そっくり…」とつぶやいたのだ。


「そっくりではないがよく似ておる。

 柴田勝家は勘太郎の父だからな」


「…そのお方は出戻りをあてがわれてかわいそう…」というパトリシアの言葉に、信長は大いに笑った。


パトリシアは前世のことを思い出しかけているのだが、それは第三者的なものにしか思っていなかった。


そういった夢などを見たのだろうと漠然と思っていたのだ。


「…私は幻影様がよかったなぁー…」というパトリシアの言葉に、誰もが目を見開いた。


「…こやつ、すっとぼけておるのではあるまいか…」と信長はつぶやいて、大いに苦笑いを浮かべた。


「…だけど、いつもいつも阿修羅が邪魔をして…」とパトリシアが眉を下げて言うと、「…邪魔したの?」と幻影が蘭丸に小声で聞くと、顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。


「同じ側用人としては言えんかっただけじゃ。

 ある程度は察してやれ」


信長の言葉に、幻影は笑みを浮かべて頭を下げた。


「そういえば、お静と話をしようとすると、都合よく現れたな…」


幻影の言葉に、「…もうやめてぇー…」と蘭丸はついに落城してうなだれた。


「…静香ちゃんには勝てるって思わなかった…」とパトリシアが大いに嘆くと、その静香は大いに眉を下げていた。


最終的な勝者は阿修羅の蘭丸だったからだ。


「…その阿修羅も、幼い頃はかわいかったぁー…

 桜姫ちゃん…」


パトリシアは断片的な記憶はあるが、それが実体験だとは思ってもいなかったようだ。


もちろん、死を迎えれば次の生涯があることは知っている。


しかしこの記憶が、前世のものだとは思えなかったのだ。


「そうそう、花火!

 本当に感動しました!」


パトリシアが信長に笑みを向けて叫ぶと、「…あれを観て前世の記憶がよみがえったか…」とつぶやいて何度もうなづいた。


幻影特製の初の打ち上げ花火を一番に見たのは、柴田勝家とお市だったのだ。


それが解放されて、まだ断片的だが記憶が戻ってきたといってよかった。


「素晴らしい記憶だったのでしょう。

 今回はパトリシアは自分自身の手で幸せを勝ち獲るでしょう」


極の言葉に、信長は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「あら、桜姫ちゃんがいたわ!」とパトリシアは言って、阿利渚に笑みを向けた。


「真田阿利渚ですぅー…」と阿利渚が挨拶をすると、パトリシアは固まった。


しかし、「…真田幻影さんのお嬢さん?」とパトリシアが聞くと、「うん! そうだよ!」と気さくに答えた。


そしてパトリシアは大いにうなだれて、「…まさか阿修羅と結婚されるとは…」と大いに嘆いた。


「あ、聞きたいんだけど」と幻影がパトリシアに言うと、「あ、阿修羅はお兄様がつけられたあだ名です」と答えたので、幻影は大いに笑った。


「今は真田胡蝶蘭様…

 出世したものだわぁー…」


パトリシアは大いに憤慨して言った。


ここからは現実に知りえた事実を語っただけだ。


「…元家族の仲間もいいものです…」と幻影がつぶやくと、信長は満面の笑みを浮かべてうなづいた。


もっとも、今は別人でしかないので、頼りになる仲間でしかない。



パトリシアはまさに仕事の鬼で、不得意がないのかとばかりに言われたことはきちんと及第点以上を出せるほどそつなくこなす。


しかも能力は何も使っていないことに、幻影ですら眉を下げていた。


「…ある意味得した…」と信長がつぶやくと、幻影は愉快そうに笑って同意した。


そして、生まれ故郷の惑星に戻って、わずか一日で四国の街道整備を終了させた。


もちろんパトリシアの働きが大きかったこともある。


ここでは子細に術を使って、さらに働きやすくなったので、疲れてしまったのはパトリシアの相棒のピットだけで、今はパトリシア特製のベッドで眠っている。


「…ちっちゃくってかわいいぃー…」と長春は笑みを浮かべて小声で言った。


「これほど小さい獣人は珍しくて、

 すごい力を秘めている人が多いの。

 小人族とは違うけど、

 その流れを汲んでいるらしいって、

 極様に教えていただいたの」


パトリシアの穏やかな言葉に、誰もが大いに感心していた。


「じゃが、それほどに疲れさせることはあるまいに」


信長のわずかに厳しい言葉に、「…初仕事だからって張り切っていたので、好きにさせたんです…」とパトリシアが答えると、「だったらよい」と信長は機嫌よく答えた。


「…今までは術を使っていなかった…」と家族たちが口々に言い始めると、「ああ、純粋にピットの初仕事だった」と幻影は笑みを浮かべて言った。


「…私だって、ある程度はできますから…」とパトリシアが眉を下げて言うと、誰もが詫びの意味で頭を下げた。


「いや、まさに逞しい、我らの家族じゃ」と信長が胸を張って言うと、パトリシアは大いに照れていた。



琵琶一家はこの松山の御殿で一日だけ休息して、その日の夕餉は異世界の安土城で摂ることにした。


そしてまずは風呂とばかりに、マックラが管理している極たちの別荘の御殿に行った。


ここの庭には広い銭湯があって、瞬時に疲れを癒すと聞いていたので試しに来たのだ。


「…来た来た…」と赤い体をした獣が、まるで悪だくみをするように言うと、「堂々と自己紹介すればいいじゃん」と黒豹が言った。


「…だって、怖がられるかもぉー…」


「それはない。

 あの人たちも特別だから」


黒豹の堂々とした言葉に、「…じゃ、せめて人型に…」と獣は言って、真っ赤な髪と真っ赤な目が印象的な小柄な少女に変身した。


「僕も、男湯に行こ」と黒豹は言って、こちらも小柄な少年に姿を変えて、まんまと幻影たちの背後について男湯に入った。



服を脱いで浴室に入ったとたん、「…神通力…」と幻影がつぶやいた。


「…なんだかぞわぞわしていたがそのせいか…」と信長は少し嘆いたが、戸惑うことなく浴室に入った。


そしてこの場にいるだけで、体の疲れが溶けていくことがよくわかった。


「もう出てもよいほどじゃ」と信長は陽気に言った。


「湯沸かし装置があったので沸かし湯です。

 それに見た目は温泉ではなく普通の水にしか思えませんが、

 普通ではなさそうです」


幻影は湯船に桶をつけて湯をすくって手のひらを当て、すぐに手をひっこめた。


「…竜が、関与しています…」と幻影が言うと、「…あとで紹介してもらうか…」と信長は機嫌よく言って、居心地が悪そうにして湯に浸ったが、一気に復活を果たしたことを知った。


「効果が強すぎやせんか?」と信長が眉を下げて言うと、「もう少し効果を薄めてもいいと思います。長湯が好きな人のために」という幻影の言葉に、信長は機嫌よくうなづいた。


―― ほんと、普通じゃなかったぁー… ―― と姿を人型に変えている黒豹は大いに嘆いていた。


浴室にいるのは、琵琶家の者だけではないので、黒豹は安心していた。


すると、「君は何者だい?」といきなり幻影に聞かれて、黒豹は大いに背筋を震わせた。


「猫科の獣人はいなかったはずだ」


幻影がさらに言うと、「…猫科じゃないよ… それは見た目だけ…」と少年が苦情を言うと、「…ああ、長春が嘆いていた子か…」と幻影はすぐに思い出して言うと、「…うん、そう…」と少年は答えた。


「長春の術がかからない程に強いやつか、

 君が言った通り動物ではないから」


「…まさか燕さんが従っちゃうなんて思いもしなかった…」と少年が大いに嘆くと、「それは小鳥の姿と獣人の姿限定だ」という幻影の言葉に、「…そうだったんだぁー…」と少年はようやく理解した。


「獣人の姿は作ったものらしいが、

 その根本は動物にあるから、

 獣人だが従ってしまうんだ。

 小鳥の方は昔返りと聞いているから、

 純粋に動物」


「…そうなるよね…」と少年は眉を下げて言った。


「君は説明を聞いた種族に当てはまらない。

 だがしいて言えば神だろうが…」


幻影はここまで言ってあることをして浴室の床を見た。


「何か意味があるの?」と幻影が顔を上げて少年に聞くと、「…ある程度以上の気功術師だったんだね…」と少年は眉を下げて言った。


「僕はこの星」


少年の言葉に、「君の肉体が抜け殻なのは理解できた」と幻影は言って苦笑いを浮かべた。


「僕の名前はサルサロス。

 もちろんこの星の名前だよ」


幻影は何度もうなづいて、「魂がこの星の中心にある意味がよくわからない」と幻影が言うと、「…あー、それは身代わりのせいでそうなってるようなんだ…」とサルサロスは言って、詳しい内容を幻影に話した。


「…誰も持ち上げられない金色の玉…」と幻影は言って大いに苦笑いを浮かべた。


「…誰も持ち上げられない剣なら持ち上げたが…」という幻影の言葉に、サルサロスは大いに背筋を震わせた。


「そいつも神だから、なんとなく似ていると思ってな。

 それにやつはここにいるが魂はここにはない。

 どうやらやつも、魂をもといた惑星に置いてここにいるようだ。

 もっとも、あんたとヤツの魂には飛ばないようにしないとな。

 さすがに一巻の終わりだろう」


「…理解が早くて素晴らしいと思う…」とサルサロスが眉を下げて言うと、「そりゃどうも」と幻影は少しおどけて言った。


「あ! 今のおどけた姿見たよ!」とサルサロスは一気に陽気になって言うと、「ああ、軽業興業の映像を観たのか。こっちではサーカスというらしいな」と幻影が言うと、「…花火もいいけど、サーカスもいいなぁー…」とサルサロスは言った。


「おまえは演じる方だぞ」


幻影の無碍な言葉に、サルサロスは返す言葉がなかった。


「時間はある。

 やってやればいい」


信長が機嫌よく言うと、「はい、早速見世物小屋を作りましょう」と幻影は笑みを浮かべて言った。


「…お殿様はほんとに変わった悪魔だよね…」とサルサロスが苦笑いを浮かべて言うと、「わしもまだよくわかっとらん。ぼちぼちと確認はしていくが、今は全く必要ない」と言い切った。


「…こんな人ってまずいないから…」とサルサロスが眉を下げて言うと、「俺もまだ全部は確認してないな…」と幻影も言い始めたので、サルサロスはさらに眉を下げていた。


幻影たちがサルサロスとともに銭湯から出ると、女性たちも変わった子をひとり連れて出てきた。


「やあ、君のおかげですっかりと回復したよ。

 ありがとう、ベティー」


幻影の言葉に、女性たちは目を見開いて、ベティーと言われた女の子を見入った。


「…俺が優秀だからだと思っていた…」と蘭丸が言うと、幻影は愉快そうに大いに笑った。


「神通力を組み込んだ湯になっていた。

 御屋形様は嫌がったが、

 お蘭はそうでもなかったようだな」


「…いや… そういえば…

 なんだかねちねちとうっとうしい人間が大勢いるように思えた…」


「秀忠が体にまとわりついていた?」と幻影が聞くと、蘭丸は身を震わせて、「想像したくないがその通り」と言って両腕をさすり上げた。


「…素晴らしい比喩だな…」と信長は言って鼻で笑った。


「悪魔は苦手なだけで害はなく、

 効能は人間と同じだ。

 しかし常に入っていれば、

 俺たちよりも我慢強くなるかもな」


幻影の言葉に、信長と蘭丸は大いに喜んでいた。


「竜の姿は燕さんに見せてもらえた。

 燕さんは緑色だったが、君は赤かい?」


幻影が聞くと、ベティーは燕と同じ姿の竜に変身したが、その姿は赤黒いと表現した方がいいだろう。


大きさは中型犬ほどあり、力を抑え込んで姿を変えたわけではなかった。


「…はあ、かっこいいなぁー…」と幻影がほめると、ベティーは嬉しかったようで幻影にまとわりついたが、すぐさま蘭丸が抱きしめて固まった。


術を放ったわけではないのだが、火竜から神通力が漏れているからだ。


「…これも修行…」と蘭丸は自分に言い聞かせて火竜を抱きしめた。


「…ここまでする悪魔の人って知らないぃー…」とベティーが嘆くように言うと、信長が蘭丸に両腕を出した。


「申し訳ございません。

 迂闊でした」


蘭丸は言って、信長にベティーを差し出すと、「ほう」と信長は言ってから、「ワシに飼われてみんか?」とぺティーを雇う気満々で聞いた。


「…ここでお仕事あるから…」とベティーが眉を下げて言うと、「時間がある時は勝手についてくればよい」と信長は機嫌よく言って、ベティーを蘭丸に返した。


「阿利渚、新しい友達だ」と蘭丸が言うと、「…もうお友達だけど…」と阿利渚は眉を下げて言ってから、笑みを浮かべてベティーを見た。


ベティーは人型に戻ってから、阿利渚と桃源と手をつないで、広場の遊具に向かって走って行った。


「竜は神。

 まるで動物ではないな」


信長の言葉に、「サルサロスもそうですが、惑星そのものの存在感はあります」と幻影が答えると、信長は何度もうなづいている。


「それほどの者たちが大勢いても、

 この宇宙は平和にはならんのか」


信長がうなるように言うと、「…この星の半分の者たちが震えたよ…」とサルサロスが言うと、「おう、そうかっ?!」と信長は陽気に言って、サルサロスの頭をなでた。


「…家族の半数も怯えましたが、修行ということで…」と幻影は言って信長に頭を下げた。


すると、マリーンを連れた極が幻影から飛び出してきて、「…お殿様でしたか…」と極は眉を下げて言った。


「ですので大丈夫だと言いました」とマリーンは朗らかに言って、信長とあいさつを交わした。


「…マリーン様も怯えていらっしゃったではないですか…」と極が眉を下げて言うと、マリーンは聞こえていない振りをした。


「怯えてなどおらん!」と都合が悪くなったマリーンはガイアと交代した。


「…ガイアが怯えたら、自然界はもう世も末だから…」と極が眉を下げて言うと、「…やはりチンタラやってはおれぬかぁー…」とガイアがうなると、「ダメダメ! 死人が出るぞ!」と極が叫ぶと、「…負けておられんわぁー…」とガイアがちらりと信長を見て言うと、極も幻影も大いに眉を下げていた。


幻影が細かい事情を話すと、「…頼りなくて申し訳ない…」と極は眉を下げて言った。


「どのようなことでも同じだな。

 一挙に平和を願っても、

 そこには不幸が訪れることもある。

 極殿のやり方には大いに賛同できるのじゃ。

 多くの平和をつかむには、

 日進月歩で遂行せねばならぬ」


「はい、うれしく思います」と極は笑みを浮かべて言って頭を下げた。


すると極はタルタロスに変身して、「おまえ、城が建ってから変わったな」と信長に聞くと、「安心感、じゃな」と信長はすぐに答えた。


タルタロスは何度もうなづいて、安土城を見上げながら、「ワシも城を構えるか…」と笑みを浮かべてつぶやいた。


「おまえの星だったらいくらでも建てればよい」とガイアは言ってマリーンに変わった。


するとタルタロスも極に戻って、「…時間がある時でいいので手伝って…」と極は幻影に眉を下げて言った。


「手伝うのはいいが、まずは設計だが」と幻影が言うと、極はひとりごとを言い始め、宙にその完成予想の絵を出した。


「…おー… 変わってるなぁー…」と幻影が大いに感心して言うと、「…ぬぬぬ…」と信長がうなり声を上げた。


「安土城下に建てるとすればこうです」


幻影は言って和紙を出してすらすらと描くと、「…おー… これは素晴らしい… じゃが寺でもいいのではないか?」と信長が言うと、「おほほほほ」と機嫌よく笑って妙栄尼がやってきた。


そして幻影の描いたものは本堂として、それ以外の建物を幻影に注文して描かせた。


「またおいおい、増やしていくか」と信長は機嫌よく言った。


「…機嫌、直ったぁー…」と極と幻影が同時に言うと、ふたりは大いに笑って肩を組んだ。


「…幻影様、ご神体…」と妙栄尼がつぶやくと、「…今すぐには建てませんよ…」と幻影は言いながらも、いとも簡単にご神体を彫り上げた。


「予備の書室にお運びしてくださいな」と妙栄尼が機嫌よく言うと、幻影は眉を下げて妙栄尼について行った。


「…母親も厳しい…」と極が眉を下げて言うと、信長は機嫌よく笑って、「最近は幻影に大いに甘えておるが、まあ、目をつぶっても構わんじゃろう」と言った。


「…さすがに母親としては、

 優秀になってしまった息子に面倒を見てもらいたいのでしょうね…

 そういう肉親もうらやましく思います」


事情を知っている信長たちには、極にかける言葉が思い浮かばなかった。


極は少々特殊な生まれ方をした。


父はいるのだが単独出産で、今は別の惑星に住んでいる。


まさに神の申し子として、極は誕生したのだ。


「そう想う気持ちが重要じゃと、ワシは思う」


信長の言葉に、極は笑みを浮かべて頭を下げた。


「…マリーン様も同じですので、

 私に大いに甘えてくるのです…」


極の言葉に、「言いつけないでくださいませ」とマリーンは言ってから、淑やかに笑った。


「家族内でのじゃれあいはあっても構わんと思う。

 もちろん、度を過ぎていると思えば、

 指摘することも重要じゃろうて」


信長の言葉に、「心に刻みました」と極は言って、信長に頭を下げると、マリーンは大いに困惑しながらも極に追従した。


「ちなみに、我が琵琶家ではないな」という信長の言葉に、極もマリーンも大いに眉を下げた。


「じゃが、ワシの孫の長春がその役を買ってくれている面は大いにある。

 ワシの妻の濃姫も同じようなものじゃろう」


信長の朗らかな言葉に、極とマリーンはほっと胸をなで下ろしていた。


「じゃが、楽しくないわけではないぞ。

 まあ…」


信長は言って大いに辺りを警戒している蘭丸を見た。


「…いえ、私は素晴らしいと思いたいです」と極は言って蘭丸に頭を下げた。


「…特に幻影がワシから離れるとこうなるのでな…

 だが指摘することはせん。

 これがお蘭の仕事じゃからな」


「…あまりにも気さく過ぎるのも問題かも…」とマリーンが言い始めると、「…それほど気さくではございません…」と極は眉を下げて言った。


マリーンは今日までのことを考えて、「ある意味私も、信長様と同じでした」とマリーンが笑みを浮かべて言うと、信長は納得したように何度もうなづいた。


「あとは離れてはおるが、弁慶か源次が必ずワシらの動きを見張っとる。

 あのふたりが、幻影の代わりのようなもんじゃ」


信長が機嫌よく言うと、「…存在感を消していました… 本当に素晴らしい…」と極は弁慶を見入って絶賛した。


「警戒ばかりしては息が詰まるという理由もあるし、

 ワシの回りが少々平和ではなくなるのでな。

 気配を消すことも重要なのじゃ」


「ようやく、琵琶家の神髄を知ったと感じました」と極は笑みを浮かべて言って頭を下げた。


そして幻影と妙栄尼の姿が見えた途端に、琵琶家の動きがこれ見よがしに変わった。


今はすべてを幻影に託しているといっていい。


まさに極が幻影と同じ状態なので、すぐに判断できた。


「長春! 土産だ!」と幻影が叫んで手から白い鼠を放すと、すぐに長春に向かって走って行った。


「…森にいたのか…」と極が不思議そうに白い鼠を見入っていると、「どうやら観光客についてきたようなんだ」と幻影は眉を下げて言った。


「…なるほどね… そうやって密かに侵入したわけだ…」と極は機嫌よく笑みを浮かべて言った。


「神様がいるから来たって!」と長春が朗らかに叫ぶと、「…その神は長春様のことなんだけどね… 本人が大いに嫌がるので、神の代理は俺なんだ…」という幻影の言葉に、極は愉快そうに笑った。


「神扱いはされたくない、か…

 様々な経験から、神は平和ではないという判断のようだね」


「問題は神を信じる、信仰をする者たちの気持ちだ。

 穏やかな生活が望みなのに、

 結局は神がいることで競い合うことになる。

 誰が一番、その神を崇めているか、

 理解できているか、など。

 そんな神ならいない方がましだという判断のようだ」


「確かに信仰の場合はそれは大きな問題だ。

 どれほど神に信頼を置いているかで、

 信仰心を判断することができる。

 そして論争になって、最悪戦争がはじまる。

 だったら戦争の元になるものがいなければいい。

 痛い目にあった土地は信仰禁止令を出していることもある。

 平和を維持するには、それも重要なのかもしれない」


極と幻影の話し合いは、琵琶家の面々に様々な考えをもたらせた。


特に幻影は家族であっても信仰の対象でもある。


しかし、尊敬までならまだ良しとするが、その上の信仰は幻影は認めていない。


もちろん、萬幻武流の教えの中にもあることなので、間違った解釈をしている者はいない。



ここからはかなり平和な話し合いになり、軽業興業の話となった。


極が相棒の流石に、幻影視線での映像を出させると、「これはいい…」と幻影は笑みを浮かべて言った。


「鍛え方がまるで違う…

 能力者でもないのに、それを感じさせる動き…

 能力者は幻影と長春だけだ…」


「…むむ… 面妖な…」と信長はうなって、流石を見入った。


「流石は生物ではありません。

 からくり仕掛けの自動人形、

 ロボット、ヒューマノイドという存在です。

 このロボットが平和を誘わないと誰もが言いますが、

 それは使い方を誤った場合だけです。

 よってロボットは人間の悪い心を具現化するわかりやすい存在です。

 そして感情に流されることなく、

 現実だけを見て冷静に判断することができる唯一です」


極の説明に、「君はそういう存在だったか」と幻影は言って流石を抱き上げて、「なかなか重い」と眉を下げて言った。


「はは… 同サイズの人間の倍ほどはあるので…」と流石は恥ずかしそうに言った。


「さあ流石、あなたの母の胸に」と蘭丸が言い始めたので、「…自然に盗もうとするんじゃない…」と幻影は眉を下げて戒めると、信長が愉快そうに笑った。


「我らの学士として、提供してくれんか?」と信長が極に言うと、「はい、構いません」と極はあっさりと答えて、しばらく黙り込んだ。


すると、問題児の桜良が子供を抱いて満面の笑みを浮かべてやってきた。


「言っとくけど、エッちゃんの持ち物じゃないから」と眉を下げて言った極の言葉に、桜良は大いに眉を下げていた。


「なかなか悪いヤツだ。

 ただの運び屋なのに」


幻影が桜良をにらんで言うと、桜良はすぐさま子供を蘭丸に引き継いだ。


すると、大人しそうな顔だった子供の顔が、蘭丸の幼少の頃の顔に変化した。


「…こりゃ、優秀にもほどがある…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


「この子たちの表現はすべて真実だから。

 今までの修行の成果を正確に判断できると思うから、

 まだまだ修行中の人たちは大いに注意した方がいい」


極の言葉に、幻影の弟子たちはすぐさま頭を下げた。


「特に女どもは、もうこの子を狙い始めた」と蘭丸が言って特に女性たちを見まわした。


「産まなくてもいい子だから、

 母としては嬉しい」


沙織の言葉に、「…考えが安直だな…」と幻影は眉を下げて言った。


「私の積み重ねでは、はは様が一番好き!」


女の子の言葉に、蘭丸は女の子を抱き上げて自慢げに胸を張った。


「…無茶なことやらせるなよ…」と幻影が眉を下げて言うと、「母として間違えない」と蘭丸は言って、女の子に笑みを向けた。


「む、そのような使命も帯びていたか」と蘭丸は厳しい言葉を放って、桜良を見据えた。


「…命令すれば漏らさないから…」と桜良が眉を下げて言うと、「一切漏らすな、いいな?」と蘭丸が言うと、「はい! はは様!」と女の子は陽気に答えた。


「そういうこと…

 本来はこの子たちは警備ロボなので、

 全ての情報は一カ所に集められる。

 よって行動の監視をされることにもなるんだ。

 それはある意味平和じゃないが、

 問題はこの子たち自身の成長にもある。

 人間と同じで、悪い気持ちのようなものを持つ場合がある。

 それを判断するための中央への情報の提供という意味もあるんだ」


極の説明に、「故障と判断すれば、すぐさま拘束するさ」と幻影が言うと、「幻影ならそう言うと思った」と極は笑みを浮かべて言った。


「それもやむなし」と蘭丸が言うと、「とと様、厳しい…」と女の子は嘆いた。


「こいつの言ったことを守ると俺のようになるからな。

 できればお前は俺のようになるな」


蘭丸の言葉に、「…胡蝶蘭様は優しいと思ってしまった…」と極が嘆くと、幻影は愉快そうに笑った。


「おまえの手本は阿利渚だ」と蘭丸は言って、もうすでに待ち受けている阿利渚の隣に立たせた。


「…姉妹、だな…」と幻影が眉を下げて言うと、蘭丸は満足そうにして何度もうなづいていた。


「お名前、ないよ?」と阿利渚が察して言うと、蘭丸が困惑の眼を幻影に向けた。


「おまえが子にしたんだから決めとけよ…」


「俺の意見は反対されるに決まってる」


蘭丸に堂々と言われて幻影はにやりと笑った。


「ガズドってどう書くんだ?」と幻影が眉を下げて聞くと、「ダメか?!」と蘭丸が大いに気合を入れて叫ぶと、「阿利渚を見てみろ…」と幻影はあきれ返って言った。


「…もっとかわいいお名前がいいですぅー…」と阿利渚が眉を下げて蘭丸に言った。


「ふむ… 桜姫か…」と幻影がつぶやくと、「俺の幼名でも構わん!」と蘭丸が気合を入れて言うと、「いや、乱暴に育ちそうだから却下」という幻影の無碍な言葉に、信長だけが大いに笑った。


「…サキエ…」と幻影はつぶやいて半紙を出して、『咲笑』と書いた。


「…なぜか、名前に、この文字に引き込まれるのだが…」と蘭丸が真剣な目をして書を見入って言った。


「それはどちらの字にもはらいがあるせいだ。

 普通は止か跳ねで筆を止める字が、

 女性の名としてはふさわしいと思う。

 はらいが多いと、比較的自由そうな文字に見えたりするもんだ」


すると誰もが半紙などを出して自分の名前を書き始めたので、幻影は大いに笑った。


弁慶が、「…名前診断の時間となってきた…」と言うと、誰もがすぐに気づいて弁慶に向けて苦笑いを浮かべた。


「名前は重要だからな。

 いろんな意味を持って考えた方がいい」


幻影の言葉に、誰もがすぐさま頭を下げた。


「…都合よく琵琶家の家老の地位を手に入れたのだが…」と影達が言うと、「もしも流されていれば、自由はなかったようにも思うね」と幻影が答えると、影達はすぐさま頭を下げて笑みを浮かべた。


「…私は、自由過ぎるのかもぉー…」と長春が名を書いた書を見ながら嘆くと、「わかってるのなら少しは改めろ」という幻影の言葉に、「はぁーい…」と言ってうなだれた。


「…名前を継がせるのも問題ありだな…

 まあ、気に入ればそれでいいのだが…」


信長は言って長春を見ると、「…気に入ってるよ?」と長春は眉を下げて言った。


「もう慣れたので、私たちが我慢すればいいだけです」


幻影の言葉に、信長は膝を打って大いに笑った。


「だから下手に我慢することはないぞ。

 その方が大いにめんどくさくなりそうだからな」


幻影が長春に言うと、「…自由になったような、そうでもないような…」と長春は言ってうなだれた。


「…変えない方がましな場合もある…」と信長は大いに眉を下げて長春を見た。



この翌日からは琵琶御殿を巡る旅に出たのだが、宿泊することなく毎日安土城に戻って充実した時間を過ごした。


どの地も比較的平和だが、琵琶家の領地を離れるとそうでもないことはわかっている。


しかし琵琶家は手を出さない。


各藩の藩主がするべき仕事でもあるからだ。


しかし飢饉のうわさが流れると同時に調査に回って、必ずといっていいほど麺屋を建てる。


もちろん銭がないことはわかっているので、まさに炊き出し屋のようなものだ。


このような土地が三つもあると、琵琶家は食材と人材集めに翻弄されることになる。


この麺屋には掟があり、『武家は立ち入り厳禁』となっている。


食うにも困るものだけを受け入れる施設なので、比較的銭を持っている武家には麺屋を使わせない。


もちろん面倒なことが起こらないように、幻影が厳選した浪人を用心棒として雇っている。


もちろん、毎食の食事代と賃金を支払うといえば、誰だっていい人にでもなるだろう。


もっとも、そのような中途半端な者ではなく、琵琶家に迎え入れても問題ない者を探し出していたのだ。


現在の仕事が終われば屋敷の警護をさせ、幻影が合格点を出せば家族に加えることにもつながる。


そして幻影が示唆していた通り、夜になって麺屋の店自体が襲われたが、用心棒が見事に捕らえた。


犯人は藩主の手の者で、すぐさま幕府の耳に入り事になり、その藩はお取りつぶしとなった。


まだ杞憂のある九州でも麺屋を出しているのだが、こちらの方は比較的大人しいもので、用心棒からは、『異常なし』の返答だけが返ってくる。


キリスト教の宣教師としてしては、目立った行動は慎むべきとして動いていないようだ。



最後になった山陽道の街道整備の準備をしている時に、幻影が平戸藩にいる用心棒に念話を送ると、『…今まで異常は感じなかったのですが、妙な胸騒ぎがするのです…』と言う返答に、琵琶家一同はすぐさま平戸に言って、誰もを驚かせた。


「…まさか、すぐに来ていただけるとは…」と用心棒の三島三郎太が目を点にして言うと、「三島さんの感じた通りだよ」と幻影は言って、平戸城がある場所を見入った。


「…松浦某といったな…」と幻影がつぶやくと、「現在の藩主は松浦隆信です」と三郎太が答えた。


「誰に頼まれた?!」と店内から大声が聞こえると、幻影は三郎太だけを連れて店内に入った。


「…食い物をこっそりと外に出す運び屋…」と幻影は小声で言うと、「…欲張って見つかった…」と三郎太は言って大いに眉を下げた。


「事情を聞かせてくれ」と幻影が声を上げると、店主の寅吉が目を見開いて、「…高願様ぁー…」とうなってすぐさま頭を下げた。


すると、犯人のひとりらしき子供が逃げようとしたが、幻影に宙に浮かばされて、空を蹴っているのだが走るのをやめない。


まさに必死だったのだ。


「…あの子はあんたの子かい?」と幻影が女中らしき女に聞くと、「…町周りの子です…」と観念して話した。


「役人の子、ねえ…

 殿様にでも頼まれたのかい?」


「…直接は、家老様ですが…」


「ここの飯はそれほどうまくないんだがな」という言葉に、寅吉は大いに眉を下げていた。


「…油物は高級な食べ物でございますれば…」


「ああ、それは言える。

 あとで法源院屋に顔を出すか…」


「法源院屋さんは値を上げてはいませんが、

 肝心の銭がなくては…」


「それほどひっ迫しているとは思えないんだがな…

 まあ、またあれだ、

 殿様のやせ我慢がついに限界に達したのだろう。

 どこの藩主も見栄っ張りだからな。

 そういうやつは放っておくから」


幻影は言って、男子の懐から盗もうとしたてんぷらなどを出すと、「あ!」と男子は叫んで天ぷらをつかもうとしたが叶わなかった。


「おまえはしばらくそうしてろ」と幻影は鼻で笑って言って、味見とばかり天ぷらを食った。


「おっ! 惜しい!」と幻影が叫ぶと、寅吉は天にも昇るほどに喜んでいた。


「ここから食い物を外に出すわけにはいかないし、

 捨てるような罰当たりなこともしないから、

 俺が全て食う!」


幻影は言ってすべてを平らげた。


そして女中からも袂から盗もうとしたものを出してすべてを食った。


そして幻影は徐に厨房に入って、食ったものと同量の天ぷらを揚げて、「みんな用の飯だ」と寅吉に言うと、誰もが大いに喜んだ。


「あの子とあんたは出入り禁止だ。

 早々に帰んな」


幻影が言うと、女中は青い顔をして頭を下げてから、自由の身となった男子を連れて店を出て行った。



幻影は外に出て空を見上げてから、冬支度を始めている山々を見入った。


「…標高がわずかばかりに高ければ…」と幻影がつぶやくと、「手伝おう」と信長は堂々と言った。


幻影は詳しい内容をひと通り説明して、この場にいながら標高を上げる計画を話した。


「…俺の出番じゃねえかぁー…」と蘭丸が喜び勇んで大いにうなると、「御屋形様のお言葉を無碍にできないから」と幻影が言ったが、蘭丸が丁重に仕事を譲ってもらえるように信長に進言した。


もちろん信長は快く蘭丸の申し出を叶えたことにより、「いつでも来い!」と蘭丸は堂々と叫んだ。


「その前に下調べだ」と幻影は言って山に向かって拳を握る仕草をすると、山からとんでもない質量の土の塊が飛んできた。


「咲笑、成分分析を頼む」と幻影が言うと、咲笑は大いに喜んで、その成分の絵を宙に浮かべた。


「…おー…」と誰もがうなって宙を見上げた。


「この総合元素量を忠実に引き抜いてくれ。

 合成と埋め込みは俺がやる。

 弁慶、数名を連れて、山で待機してくれ。

 わかりやすく隆起するから、

 倒木などが起こりそうだったらその処置を」


幻影の言葉に、弁慶は十名ほどを連れて、山に向かって走って行った。


「…難しいことを言いやがるぅー…

 全部金でいいんだ金で…」


蘭丸の言葉に、幻影と信長が大いに笑った。


蘭丸は大いに集中して、依頼のあった元素だけを異空間から取り出して、次々に幻影に送り込む。


幻影はその塊を調合して、すぐさま消した。


しばらく観察していた信長が、「…目に見えて大きくなっておる…」と山を見据えてうなった。


一時ほど作業は進み、弁慶は追加で十名を山に連れて行った。


そして木の苗なども持って行ったので、植樹も行うようだ。


幻影はさらにひと工夫してから山の処置を終え、今度は河川工事を始めた。


もちろん、術を使っているので、誰がやったのかは、その証拠がないので問題はない。


弁慶たちが戻ってきたので、幻影は雨雲を呼んだ。


季節はそれほどの大雨になるような雨雲は沸かないが、山に雨水を含ませるには十分だった。


「よっし、終わりだ!

 みんなお疲れ様」


幻影の明るい言葉に、誰もが笑みを浮かべていた。


もちろん獣人たちも手伝いができたので、素晴らしい笑みを浮かべていた。


「計算上は問題ないが、しばらくは観察することにした。

 問題があればまたここに来て手を入れよう」


「見えん部分で何かやったな?」と信長が聞くと、「地下水脈を張り巡らせてあります」と幻影が答えると信長は笑みを浮かべて何度もうなづいた。


「この川は枯れることはないか」と信長は素晴らしくきれいになった川を眺めた。


「しかし農地改革は急務でしょう。

 ですがそこまでは手を出すわけには行きませんので。

 ここまでを手助けとしましょう」


「ああ、それでよい。

 帰るぞ」


信長の一声に、全員が一カ所に集まって消えた。



平戸藩の飢饉についての情報は大村藩の酒井勝虎からだったので、念話を使って説明をした。


よって幕府はこの事実は知らないはずだ。


そして各屋敷への定期連絡時に、生実の留守番のお梅が、秀忠からの伝言を伝えた。


すると幻影は、「こっちで建築の仕事が入ったから、しばらくは戻らないと伝えておいて欲しい」と言って、念話を切った。


まずは一番楽な軽業興業所の建設を行い、安土城下に寺を建て、タルタロスの城を建てる。


材料集めだけでもひと苦労で、木を乾燥させる時間も必要になる。


幻影は計画表を作って信長に見せると、「忙しくて何より」と機嫌よく言った。


軽業興業所はあっという間に建つので、寺の建立も同時に行われた。


すると地元住人や観光客が軽業興業所の大きな看板を見て笑みを浮かべる。


やはりどこの世界でもこのような出し物は人気商売のようだ。


しかも妥協を知らない出しものばかりなので、特に子供たちの目が輝いていた。


この近隣にもサーカス団があったのだが、様々な事情によって分裂しては消えていった。


出し物の方向性によって独自に興行をしたかったようだが、全てが裏目に出た。


様々な演技を見せるごちゃまぜの内容が受けている面も大いにあったのだ。


まさにこの、『琵琶軽業楽団』は、誰もが見たいものが詰め込まれていた。


看板だけの説明では申し訳なく思ったのか、映像装置を看板の横に設置して、琵琶家一同の記憶を映像化したものをかいつまんで放映すると、これだけでも満足だったのか人の流れができてきて、初興業の日を楽しみに待つことにした。


「幻影、団員を招集してこい」


信長の鶴の一声に、幻影は生実の琵琶御殿に戻って、半数の忍びたちに招集をかけた。


忍びたちはすぐに集合して、お梅に見送られて消えた。


幻影はさらに前橋と松山に飛んで、楽器を扱える者をそろえて、安土城に戻って、早速団体での総合練習が始まった。


この総合練習は無料で現地住民の子供たちだけに披露された。


本番さながらの演技も見られるし、演技を離れた笑顔なども、子供たちにとってワクワクするひとつとなった。


そして子供たちに特に人気なのが、長春の動物芸だ。


小さな動物から大きな動物まで、さまざまな動物がはしゃいでいるような姿を見て、愛らしい姿で遊んでいるしか思えないほどの妙技に、誰もが満面の笑みを浮かべて必死になって拍手をした。


さらにはこの興業の中心人物である道化師の幻影の動きにも、誰もが大いに注目する。


舞台と客席の垣根をなくす役が、道化師の重要な役割なのだ。


「このような友好的な振興でもよさそうじゃな」と信長が機嫌よく言うと、「客の入りをみてから変えるのも面白いかと」と弁慶が少しお堅く答えると、信長は機嫌よく何度もうなづいた。


新し演目としては人間大砲が人気で、大砲が放つ轟音と、飛び出してきた滑稽な演者の一瞬の演技に、子供たちは大いに笑いながら拍手を繰り返した。


まさに瞬間の演技力を問われる演目なので、半分ほどは道化師が請け負っていて、団員たちは大いに見入っている。


子供たちのお気に入りは人間大砲打ち上げ花火で、特に女の子たちには人気だった。


ここは団員たちも参加して、子供たちを大いに感動させて、今日の練習を終えた。


「我が琵琶家のほどんどが出ているではないかっ?!」と唯一苦情がある蘭丸が吠えた。


「警備も必要だから蘭丸は抜けないだろ…」という幻影の言葉に、「…うー…」と蘭丸はうなって幻影を見据えた。


「…わかったわかった…

 では御屋形様はお蘭の助手として参加してください…」


幻影が眉を下げて言うと、「うむ、よかろう」と信長は機嫌よく答えた。


そして幻影の考えていた演目を蘭丸に説明すると、蘭丸は奇声を上げながらも機嫌よく簡単に演技をこなした。


「…ただの剣技にしかすぎぬのにすごいな…」という信長のお褒めの言葉に蘭丸は大いに感動して礼を言った。


「まず言っとくが、気合を入れすぎて柱を切り落とすなよ…」


幻影が眉を下げて言うと、「…わ… わかっておる!」と蘭丸は慌てて言った。


「…この方が効果的かも…」と蘭丸の剣技を見ていた燕が言うと、「…伝えておいても問題なさそうだ…」と極は答えて、少々重い腰を上げた。


極は燕を連れて幻影と蘭丸に話を持ち掛けると、「平和のために一役買いましょう」と幻影はすぐさま答えて、蘭丸はひとり戦場に出ることに決まってしまったのだ。


「…幻影は助手として来いぃー…」と蘭丸が心細げに言うと、「あ、阿修羅になるかい?」と幻影は言って着物を脱ぐと、蘭丸も着物を脱いで、幻影は蘭丸を肩車して、「…はは、でかい異様な巫女さんだ…」と極に苦笑いを浮かべさせて言わせた。


まさにふたりの動きは息があっていて、異様で巨大な生物としか思えないほどに動きに無駄を感じられない。


「萬幻武流奥義、阿修羅」という幻影の命名に、門下生たちは大いに眉を下げていたが、長春たちは腹を抱えて笑っていた。


「二人一組の奥義には意味があるぞ」という信長の言葉に、門下生たちは一斉に頭を下げた。


まさに息があっていないとただのこけおどしにしか過ぎないからだ。


しかしその実力を上げるほどの今のふたりの動きは奥義にふさわしいと感じ、相棒がいる者はお互いを見あっていた。


「…この姿だと、俺の力の全てを使えるからなぁー…」


蘭丸がうなると、「おまえが宙に浮かべばそれは解決だ」と言う幻影の言葉に、「踏ん張りがきかねえんだよ!」と蘭丸は叫び返した。


「あ、それはあるな」と幻影が同意すると、「姉者も空を飛べるのか?!」と弁慶が叫ぶと、「おう、できるぜ」と蘭丸は雄々しく答えて、幻影の肩から足を放してふわりと宙に浮かんだ。


「これで太刀を振ると、回転して前に進んじまうからやんねえ」


蘭丸は鞘に収めた幻武丸を振って、その言葉通りになることに誰もがうなった。


「そこら辺りにいるやつを切り捨ててしまうな…」と幻影は眉を下げて言った。


「よって、阿修羅が一番いいんだ」と蘭丸は言って、また幻影の肩に戻った。


「降りろ、もう終わりだ」と幻影が言うと、「…もっと付き合ってよぉー…」と蘭丸に言われてしまったが、さすがに見世物小屋の中なので、壊してしまうことを畏れて、蘭丸は渋々幻影の肩から降りた。


そして、「…あー… 頼りないわ…」と蘭丸が眉を下げて言うと誰もが目を見開いたが、幻影だけは大いに笑っていた。


「まさに一心同体じゃったわけか…」と信長がうなると、「胡蝶蘭様は本当にわかりやすくていいです」と極は眉を下げて言った。


「それを制御できる幻影がまさに素晴らしい」と信長は笑みを浮かべて幻影と蘭丸を見た。


「…阿修羅の動物使いぃー…」と長春が眉を下げて藤十郎に言うと、「長春様は門下生ではございません」と藤十郎は眉を下げて答えた。


「…門下生にはなれないぃー…」と長春は大いに嘆いた。


もちろんそれには理由がある。


「ふたりで勝手に修行しな」と幻影が投げやりに言うと、「…よかったぁー…」と長春は笑みを浮かべて言って、藤十郎に満面の笑みを向けた。


「…そうか… もう二度と、わがままを言えなくなるから…」と藤十郎が嘆くと、「その通りじゃ!」と信長が叫んで愉快そうに大いに笑った。


「長春様が変わってしまわれることは回避したいので、

 流派とは別として、一心同体となりましょう」


藤十郎のさわやかな言葉に、長春は大いに喜んで、藤十郎を抱きしめた。


「…ああ、今のは…」と長春が言って両手のひらで腹を押さえると、「気の迷いだ、子はできていない」という幻影の言葉に、長春は顔を真っ赤にして藤十郎を見上げた。


「…性教育、誰もしてないんだろうなぁー…

 普通は本能でなんとなくだろうがわかるはずなんだが…」


「…やっておくけど、最後まで聞かないはずよ…」と濃姫が言って長春に近づこうとして時点で長春は逃げた。


「…現実逃避…」と幻影が苦笑いを浮かべて言うと、「お濃! もうよい!」と信長は叫んだ。


「…だからこその、動物の神か…」と幻影が小声で言うと、「間違いなかろう」と信長は機嫌よく言った。


「長春様は取扱注意だ。

 特に女子は気を付けてくれよ」


幻影の言葉に、誰もがホホを赤らめてすぐさま頭を下げた。


「もっとも、普通に扱っても多分問題がない桃源がいることは幸いです」


「そのうち桃源が全てを引き継ぐわけじゃな」と信長は機嫌よく言った。



安土城の現楽涅槃寺建立間近となった時、それを見た極はタルタロスに変身して興味を持って寺に近づいた。


そして寺が一望できるひときわ高い物見小屋の屋根に登って、「ここがよい」と笑みを浮かべて言ってから極に戻った。


「安上がりだな」と極は言って少し笑った。


極がこの事実を幻影に伝えると、極の話をすぐに理解した。


「材料は保管しておくから、

 いつでも遠慮なく言って欲しい」


幻影の言葉を極は快く思って頭を下げた。


「…別荘をお城にしたいぃー…」と極の肩の上にいるおかめ鸚哥が言うと、「…また狭くなったからなぁー…」と極も同意した。


ここはマックラも巻き込んで、村長宅を城にすることに決まった。


「…穴倉…」とマックラが眉を下げて答えると、「…獣人らしい回答だった…」と幻影は言って眉を下げた。


住処としては穴倉が一番過ごしやすいのだが、マックラはそれほど大きくない家に住んでいる。


理想は穴倉なのだが、獣人といえども人間ではあるので、さすがに原始的な生活はしていない。


幻影は効果的なことが閃いて、「あ、ではこうしよう」と言って燕が望んだ城の絵を描いた。


「…あー… 理想的だぁー…」とマックラは言って、城の石垣にある隧道を見入った。


「見た目は城だけど、土台がマックラ村長の家」


誰もが納得できる新しい家を大歓迎した。


幻影たちが土地の有効活用という理由で区画整理をしたので、現在の別荘の真裏に建てることが可能だ。


それと同時に別荘も増築して、城はその床面積の倍を持たせることにした。


これで現在の隊員が倍になっても余裕で全員が過ごせることになる。


今回は居城になるので、それほどの手間はない。


材料がそろい次第、すぐに建てることが可能だ。


「…私の意見が通っちゃったけどいいのかしら…」と燕が恐縮して言うと、「問題は何も感じません」という幻影の心強い言葉に、燕は胸を張っていた。


「この星の歴史を見てきた知識量には脱帽するよ。

 だけど本来の好みを出せば、

 燕さんも穴倉がいいというはずだ」


極の言葉に、「…マックラがうらやましいわぁー…」と燕が言ってマックラをにらむと、大いに苦笑いを浮かべていた。


「あ、別の話ですが」と幻影が言うと、誰もが一斉に注目した。


「銭湯の湯の件ですが、

 少々密度が濃いように思います。

 できればじっくりと湯に浸って、

 自然回復を誘えたと思えるほど薄くてもいいのではないかと感じました。

 人によっては、倦怠感を感じる場合もあるように思うのです。

 肉体の急激な変化に脳がついてこないのではないかと」


幻影の言葉に、極が仲間たちに聞き回るとその事実があることが判明した。


幸い事故につながることはなかったが、早速極自らが改善を施した。


「…ここでも生き急いでいた…」と極は大いに反省して言った。


「殿様を信頼していることはわかるが、

 畏れながらと話す自主性、積極性も重要だと感じた」


信長の言葉に、真っ先に極が頭を下げると、大勢の猛者がすぐさま頭を下げた。


「逆も言えるぞ。

 殿様も、家臣たちの顔色をうかがうことも重要じゃ。

 琵琶家の場合、家老たちが行き届いておるから指摘することなど何もない。

 特に側近の幻影は、ワシの言いたいことをすべて言いよるから、

 常に楽をしておる」


信長の言葉に、幻影はすぐさま頭を下げたが、極は大いに悩み始めた。


「…やはり、魂をふたつ持っていればいいというものではない…

 これは俺の油断だ…」


「もったいないが、ジャックを常につけることを進言しておこうか」


信長の言葉に極は満面の笑みを浮かべて頭を下げた。


「もちろん、ジャックにひとりか二人つけさせて、

 代わりができるように育てる必要はあるじゃろう。

 もちろん、今の生活を変えることなくじゃ。

 そのような特別な者は、その程度のことはできるはずじゃからな」


「隊長、補佐官、参謀を交代制にしてつけます。

 琵琶様がおっしゃったことなど簡単にできる者たちですので」


極の厳しい言葉に、部下たちは大いに眉を下げていた。



「また話は大いに変わるが、

 天使を数名雇いたい。

 しかも、誰が見ても不幸でしかない天使じゃ」


信長の言葉に極は目を見開いた。


「…すぐにでもご紹介できます…」と幻影は言いたいことの半分も言えなかった。


信長はかなりとんでもないことを考えていると察したからだ。


「それほど難しいことではないぞ。

 空虚が大きい分、大いに詰め込めるものじゃ。

 特に天使はそういった逆境を修行とするからな。

 逆に言えば、生まれもって優秀な天使は、

 大いにわがままとなろう」


信長の言葉に、マリーンがすぐさま耳をふさいだ。


「マリーン殿は雇わんから安心せよ」と信長が言ってにやりと笑うと、「…お預けしてもいいかも…」と極がつぶやいた。


極は今までに蓄積した天使の情報の独自の順位付けをして、その底辺から十名をすぐに連れてくるように仲間たちに命令した。


「…あれも乗りたぁーいー…」と長春が空を見上げて宇宙船を見入ると、「そのうち見たくなくなるほどに乗ると思うぜ」という幻影の言葉に、長春は眉を下げた。


「その部分もまさに不思議だった。

 エネルギー開発が不十分な星の者たちは、

 真っ先に乗せろと言ってくるものなんだ。

 だが琵琶家からは一斉その感情を感じない。

 できれば詳しく聞かせて欲しいんだ」


極の真剣な言葉に、「俺の家族たちが一番納得できる理由」と幻影はまず言った。


「…ああ、そういうことだったのね…」と蘭丸がすぐに納得して笑みを浮かべた。


「そういうことだ。

 俺が宇宙船を作ると信じて疑っていないから」


「…あー…」と琵琶一家は全員が声を上げて、すぐに笑みを浮かべていた。


「…はー… メンタル面では学ぶことばかりだ…」と極は言って幻影に頭を下げた。


「…明日、できる?」と長春が眉を下げて聞くと、「できない」と幻影がすぐさま断言すると、信長が膝を打って笑い転げた。


「今の何百倍もの知識が必要だからな。

 それに一番興味があるのは動力部分。

 何とかして俺独自の唯一を作り上げたいんだ。

 どうしても乗りたいのなら、

 極さんにお願いしてくれ」


幻影の言葉に、「…待ってるぅー…」と長春は大いに眉を下げて言った。


「エンジンは他力本願の極みだからね…

 純粋に工夫した部分なんてないに等しいから。

 今までにあった科学技術の流用ばかりだから、

 幻影さんの作り上げる宇宙船に大いに興味があるんだ」


「いやぁー! できなかったらどうしようって思っちまった!」と幻影が愉快そうに笑い始めると、信長も大いに笑った。


「ということで、

 暇な時間は勉強部屋に籠るから。

 御屋形様、また離れてしまうことをお許しください」


幻影の言葉に、「四十年振りじゃな」と信長は笑みを浮かべて言った。


「ほんに、久しぶりでございます」と幻影は笑みを浮かべて頭を下げた。


「ちなみに、そっち方面の助手は?」と信長が聞くと、「政江と才英です」と幻影はすぐさま答えた。


政江も才英もまさか使命されるとは思っていなかったので目を見開いていた。


「才英は別として、政江は大いに力の見せどころじゃな。

 ついに学者に抜擢されたな」


信長の言葉に、「兄の信頼と期待を裏切らないように大いに奮起いたしましょう」と政江は堂々と言い放った。


極は科学者をひとり紹介したいところだったがここは控えた。


純粋な幻影の作り出すものに興味が沸いたからだ。



この時から三人は琵琶家とは一線引いた生活を始めた。


しかし家人の方から幻影たちに寄り添って、確かに宇宙船を建造する勉強をしていることは大いに理解できたが、その内容がさっぱりわからない。


幻影が政江と才英を選んだ理由もよくわかっていた。


ふたりは日に日に、まさに学者と変貌していったからだ。


生活が別というのも、三人の勉強部屋はまさに特殊で、一日が二日にでも三日にでも化ける部屋なのだ。


初日などは七日、二日目など二十日に増やしてしまった。


「宇宙でも力を使うなんて大丈夫かしら…」と政江が大いに嘆くと、「その方が安全だからね」という幻影の言葉に才英も賛成した。


まずは模型を作って宇宙に飛ばすことにしたが、現在の科学技術で小さな模型を宇宙に飛び出させる場合、現行のキューブリックエンジンを模したものが最適だ。


三人は現在宇宙で一番速く効率のいい、人が乗れない小さな宇宙船を作り上げて、様々な仕掛けを施した。


そのさまざまな仕掛けを理解することの方に時間がかかったこともある。


陸上での確認は順調に進み、三人の学士でもある咲笑は満面の笑みを浮かべて合格点を出した。


その宇宙船の筐体は、幻影たちが使っている特別な塗装を施した鎧の材質をそのまま使った。


まさに飛行試験は厳しく、地上に向けて墜落などもさせたのだが無傷だった。


これに驚いたのは極たちで、まさにもう、―― とんでもないものができる! ―― と確信していた。


宇宙に飛びださせる課題は見事に乗り越えて、三人は抱き合うようにして喜んでから、宇宙空間での様々な事実の裏付けを積み上げた。


そしてギヤマン製の真空装置を作り上げて、この惑星サルサロスがこの宇宙空間でどのような状態なのか、立体的な宇宙地図で再現して、極たちを喜ばせた。


ここからは信長と蘭丸も仲間に加えて、異空間を大いに知った。


そして異空間航行の神髄を知った。


しかし幻影は一番安全な精神空間を飛ぶことに決め、ふたりの悪魔どころか極たちの眉を下げさせた。


ここからは極たちにも理解不能になってきたのだ。


地上でそれを再現させると、宇宙船は奇妙な航路をとったが、まさに安全としか言いようがなかった。


残るは動力源だけの問題となって、三人は実寸大の動力源だけの模型を作り上げた。


「さあみんな! 力仕事だ!」と幻影が陽気に叫ぶと、琵琶家一同は座席に座って幻影の指示を待ったが、「漕いでいいぞ」と幻影がごく自然に言ったので、徐に漕ぎ始めた。


政江が計器の確認をしながら、「今の倍で浮くわ!」と陽気に叫ぶと、琵琶家一同は必死になってこぐと、装置ごと宙に浮かんだことに誰もが歓声を上げた。


「となると筐体はこれでいい」と幻影は言って絵を描いたが、それは見慣れた空飛ぶ戦艦の絵でしかなかった。


琵琶家の幟がその存在感を大きなものにしていた。


試験は終了して、「働いたぁー…」と誰もが大いにうなって、全員で銭湯に行った。


幻影が宇宙船を作ると決めてから今日まで二十日で、琵琶家の宇宙戦艦は完成していた。


ここは試験飛行として、宇宙ではなく空中を飛び回って、様々な試験に合格したのち、宇宙に飛び出すことに決めた。


まずは安全対策として、全員が幻影特製の宇宙服を着こんで、宇宙に飛び出す準備をした。


そして全員で漕いで宙に浮かんでしばらくしてから宇宙船はサルサロスから消えた。


宇宙船はもうすでに宇宙空間にいて誰もが大いに喜び、この星系一帯を精神間転送を使って飛び回って、初の宇宙旅行は大成功としてサルサロスに戻った。


「宇宙初の人力宇宙船だ!」と極は叫んで、琵琶一家を大いに称えた。


補助動力源として、キューブリックエンジンも積んでいるので、宇宙を航行する上での心配は何もない。


物見遊山であれば力を使うことなく宇宙の旅は可能だ。


「さて…」と幻影は言って宇宙船に誰も残っていないことを確認して消した。


そして二人乗りと五人乗りの戦艦を出して、「修行用だよ」と言って極に提供した。


「…なんと… これを乗り回していたんだな…」と極は言って、早速燕とふたりして乗り込んだ。


「辛いわよ!」と真っ先に燕が叫んだが、極の力だけで難なく戦艦は浮かび上がった。


「飛ばしてる感あるぅー!!」と極は陽気に叫んで、村中を飛び回った。


そして戻って来てから、部下たちへの指導が始まった。


幻影は信長に頭を下げてから、「あの惑星の神として帰還しましょう」という言葉に、「ああ、そうするか!」と信長は機嫌よく言って幻影の意見に賛同した。


置いて行かれないようにと琵琶一家がすぐさま集まってきた瞬間に消えた。



幻影は生実から江戸城に行き、宇宙戦艦を出して浮かべた。


「宇宙に飛び出すが行くかい?」という幻影の気さくな言葉に、秀忠は大いに戸惑った。


だがここは意地でも乗る必要があると思った瞬間に、秀忠はひとり宇宙船内にいて、その宇宙船ごと消えたので、側用人たちは大いに慌てた。


しかし師匠である幻影を信用しているのですぐに落ち着いた。


そしてまた宇宙船は姿を見せ、目を見開いたままの秀忠を天守に戻した。


「次は自ら乗りたくなるさ」と幻影は言って、今度は消えずに京に向かって飛んだ。


「早い早い!」と仕事を免除されている阿利渚たち子供は大いに喜んでいる。


「景色みたぁーい!」と長春は叫びながらも動力源のひとりとして必死に漕いでいる。


「もう着いた!」という幻影の無碍な言葉に、「…空しか見えなかったぁー…」と長春は大いに嘆いた。


そして後水尾も秀忠と同じように強制的に宇宙船に乗せて、惑星一周の物見遊山をさせて御所に戻した。


「…この地は丸かった…」と後水尾がつぶやくと、「はっきりしてよかったな」と幻影は言って、後水尾に別れを告げてまた江戸城に戻って、幻影と仲のいい学士たちを乗せて宇宙を飛んだ。


まさに貴重な体験に、学士たちは大いに感動していた。


今度は日ノ本を出て西欧に渡り、調べてあった優秀な学者たちを拉致して強制的に宇宙の旅に誘った。


ここはサービスで太陽の大きさがわかる位置まで飛んでから、さらに近場の月も一周してから惑星に戻って開放した。


真の驚きは誰もが目を見開いて何も言わなくなると思いながら、幻影たちは今度は物見遊山も兼ねながら生実に戻った。


宇宙戦艦は工房の前にある広場に置いてあるのだが、街道を行きかう者たちが興味を持つことはない。


今までの戦艦を少し派手にしただけのものだったので、まさか星を飛び出せるものとは思ってもいなかったようだ。


「よく考えると、よく勉強したなぁー…」


幻影は今さらながらに言いながら、宇宙船の計器類を見まわした。


この場所の担当は政江と咲笑で、「すべて異常ありません!」と咲笑は陽気に報告してから阿利渚に寄り添った。


「今回の航海で、さらによーく理解できたわ」と政江は笑みを浮かべて言った。


「最低何人で飛ばせる?」と幻影が聞くと、政江はその情報を宙に浮かべた。


「下からだと十五名、上からだと五名…

 …力の差がよくわかっていい…」


幻影は言ってにやりと笑った。


「全員が気を抜いても飛ばせることは確認できたから、

 大いなる収穫だ」


「何人かには目撃されたわ」と政江は言って、それらの映像を並べた。


「目撃者もいた方が信憑性が上がるから別にいいよ。

 政江もお疲れさん」


幻影が言うと、政江は笑みを浮かべて長春に寄り添った。


「さあ、片付けるから全員降りてくれ」という幻影の言葉に速やかに従った。


そして幻影は宇宙船を消した。


「…なくなったら、夢だったって思っちゃうほどだわ…」と政江が嘆くと、「夢だ夢」と幻影は陽気に言って大いに笑った。


「あっちのサルサロスに向かって飛べんのか?」という信長の素朴な質問に、幻影は質問ごと咲笑に投げると、咲笑は宇宙地図を何重にも出した。


「…意味不明な程離れておったか…」と信長は正しく判断して嘆いた。


「行けない距離ではありませんが、

 我らにしては少々長い、十日間ほどの物見遊山となるでしょう。

 真っ先に濃姫様が飽きられます」


「…やらないでおこうか…」と信長は言って愉快そうに笑った。


「…ですが漕ぐ力は、猛者たちを押しのけて七番手です…」


幻影が小声で報告すると、「…そんな雰囲気ひとつ見せんかった…」と信長は大いに嘆くと、「…私も目を疑ったほどです…」と言って機嫌よく妙栄尼に寄り添っている濃姫を見た。


「一番手は誰じゃ?」


今度はさらに興味を持って聞くと、「母でした」と幻影は眉を下げて報告すると、「…でかくなくてもさすが巨人族…」と信長はここは少し悔しそうにうなった。


「二番手以降は、御屋形様、お蘭、私、弁慶の順です」


幻影の言葉に、「まあ、よいよい」と信長は機嫌よく言って、功労者たちに寄り添った。


「正確なものを出しなさい!」と濃姫が叫び始めると、咲笑は眉を下げて、力自慢順位表を出した。


すると誰もが集まって来て、ほとんどのものがうなだれた。


この結果はまさにこの琵琶家の力関係図そのものだったからだ。


「…琵琶家御相談役の妙栄尼様が一番なのは素晴らしいことだと思いますぅー…」


咲笑の言葉に、「…あら、恥ずかしいから…」と妙栄尼は大いに照れて、「おほほほ」と淑やかに笑った。


「…それは大いに言える…

 二番手で助かったといったところか…」


信長の言葉に、「さらに奮起いたします!」と蘭丸は気合を入れて言った。


「この結果は真の実力を示すものじゃ。

 今回の旅の実績ではない」


信長の言葉に、その実績を咲笑が出すと、一番手から十番手は一直線で、ほとんど変わりがなかった。


もちろんその十番手までは、琵琶家の実力者ばかりだった。


「…俺が、一番貢献出来たぁー…」と蘭丸が大いに気合を入れて号泣を始めた。


「ああ、よくやった」と信長は眉を下げて、とりあえず褒めておいた。


「…手加減を知らないヤツ…」と幻影が眉を下げて言うと、「…よいよい…」と信長も眉を下げて小声で答えた。


「…あー…」と長春は映像を見上げて嘆いた。


もちろん、実力も実績も最下位だからだ。


「…私たちはね、無茶するからダメなんだって…」と阿利渚が眉を下げて言うと、「…参加できただけでも喜んでおかないと…」と長春は立ち直って言うと、「長春様、さすがです」とすかさず藤十郎がほめると、長春はホホを赤らめて礼を言った。


「その分、夫である私が頑張らせていただきました」と藤十郎は胸を張って言った。


その成績は、実績実力ともに第九位だ。


「ふたりの成績を足すと、源次君と志乃ちゃんに勝ったわ!」と長春は胸を張って叫んで、満面の笑みを藤十郎に向けた。


「…あーあ… 源次と志乃が落ち込んだ…」と幻影が大いに嘆くと、「競わせるようなことを言うでない」と信長は長春を叱咤した。


長春は平和ではなかったと判断して、源次と志乃、そして全員に向けて謝った。


「わかればそれでよい」と信長は威厳を持って言った。


「だったら成績を見せなきゃいいじゃない…」と濃姫が言い始めると、「お前が発端だ」という言葉に、濃姫は今気づいて、「おほほほほ!」と空笑いをした。


「どこの世界でもこのような無体で理不尽なことはあるからな。

 よく覚えておけよ」


幻影の言葉に、阿利渚たち子供は笑みを浮かべて、「はい! とと様!」と素晴らしい返事をした。



極たちの城の新設と別荘の改築はほとんど終わっていたが、幻影が別荘の装飾だけを施すと、ほぼ琵琶御殿となっていた。


もちろん極の願いがあってこうなったのだ。


住居と作戦本部は城の方で、くつろぎの間が別荘となる。


現在はくつろぎの時間なので、大勢の猛者たちは別荘の室内か縁側、または、『児童公園』と呼んでいる子供たちの遊び場にいる。


子供を見守っている者も入れば、一緒になって遊んでいる大人もいる。


幻影は極とともに縁側にいて、朗らかに話をしていた。


「食事はどうしてるの?」と幻影が子供たちを見ながら言うと、「さすがに家族団らんの邪魔はできないから家に帰すが、時にはここで食事会もするよ」と極は朗らかに答えた。


数百名程度は呼んでも問題がないほど広い場所なので、村人たちを呼びやすいと幻影は感じた。


「では今日は城の落成記念の宴会でもしようか」と幻影は言って立ち上がった。


そして、「材料を仕入れてくる」と言って、十人乗りの戦艦を出して、幻影が五人を指名して乗り込んだ。


すると阿利渚たち子供がすぐにやってきたが、「仕事だ!」と幻影が言うと、阿利渚は阿湯を下げて、「いってらっしゃい!」と言って手を振った。


「…全員乗せたら荷物が乗らないからな…」


幻影がつぶやくと、源次たちは愉快そうに笑った。


このサルサロス星の実情はほぼわかっている。


農作物は村のものでいいのだが、今回出てきたのは海産物の仕入れで、海に船を降ろして魚を釣る。


総勢四千名以上の大宴会なので、二度ほどは行き来する必要があるが、凍らせられる貯蔵庫を作り上げていたので、それと合わせればほぼ一度で済む。


幻影は魚影を探って凪の海にゆっくりと戦艦を降ろして、早速釣りに興じ始めた。


まさに入れ食いで、いくらでも釣れる。


すると天敵だろうか巨大な魚影が見えたのだが、小魚に撃退されて去って行った。


どうやら餌にしているものが相当うまいようで、力関係は関係ないほどだった。


幻影たちはたんまりと海の幸を冷凍箱に押し込んで、今度は浜に行って、近くにある岩場に潜って海藻や貝を大いに獲った。


さすがに戦艦に積めなくなったので、少々離れている漁師に買い取ってもらった。


大きな家だったのでこの辺りの元締めだろうと思ったが、相手は何も言わなかったので、適正料金だけを受け取って、戦艦を宙に浮かべて獣人の村に向かった。


「…今初めて知った…

 あの煌極の客人の琵琶家の方々だ…」


主人が嘆くと、「…まさかこんなに遠くまでやってくるとは…」と使用人が大いに嘆いた。


「斥候を出せ!

 絶対に見つからん位置で監視だ!

 変化があれば逐次報告を入れろ!」


主人の命令に、数名が個別に飛行艇に乗り込んで、それほど飛ばすことなく距離をとって戦艦を追った。


命令が監視だけだったので、幸いにも斥侯たちが気づかれることはなく、すぐに一名が引き返した。


マックラの獣人の村に城がふたつも建っていたからだ。


ほかの者たちは息を殺して、動物たちの生活の邪魔をしないように監視をしていたのだが、「覗きとは感心できんな」という極の言葉に、斥侯たちは一斉に固まった。


「動物たちも監視員だから」と燕が言うと、誰もが大いにうなだれた。


極が問い詰めると、遥か南の国の大臣の手の者だと判明したので、すべての事情を極が話した。


斥候の仕事としては失敗に終わったが、情報は仕入れることができたので斥侯たちは飛行船に乗って戻って行った。


「…幻影さんたちは無頓着なのね…」と燕が眉を下げて言うと、「いや、気づいていたような気がした」と極が言うと、「…極が急いで飛んだ時、笑ってた…」と燕も気づいて苦笑いを浮かべた。


「危険はないと感じたんだろう。

 やつらは武器を携帯していなかったからな。

 大臣にきつく言われて情報収集だけにやってきたのだろう」


「…悪だくみはしないと思うけど…」


「王への話のネタ作りだろう」という極の言葉に、燕は愉快そうに笑った。


「俺たちのことはほとんど報道されないからな。

 ネタを仕入れたきゃ、自分の手でするしかない。

 琵琶家の件は、観光客にでも聞けばわかるからな。

 だが、何か接点でもあったのか…」


「…マックラにお金を渡してたわ…

 海産物を売ったんじゃ…」


「ああだったら、好々爺のマック・マリー大臣だな。

 近くの漁港の総元締めだから、

 幻影さんは目ざとく発見して獲り過ぎたものを売ったんだろう」


「珍しいもの、全部食べられちゃうわよ?」


燕の言葉に、極は燕を抱いてすっ飛んで城に戻った。



城落成の宴会は盛会のうちに終わり、片付けを終えた後に幻影は定期連絡の念話をお梅に送ると、「…高虎が居座った?」と幻影が嘆くように言うと、信長は大いに笑った。


「…ああ、わかったよ…

 今すぐに行くから」


幻影は言って、信長と蘭丸だけを連れてお梅に飛んだ。


すると目を見開いている高虎が目の前にいた。


始めは幻影を見ていたのだが、徐に信長に顔を向けて頭を下げ、「葬式を済ませてまいりました」と言った。


「わかった。

 琵琶家の一員として認める」


信長の言葉に、高虎は頭を下げたまま、「うおー… うおー…」と低く声を出して泣いた。


「知っての通り、嘉明は安土城の城代を任せた。

 お前はどうしたい?」


信長が聞くと、「できれば常におそばに」と高虎は顔を上げることなく答えた。


「幻影は楽になろうが、お蘭と喧嘩すんなよ」と信長が軽い口調で言うと、「はっ 必ずや守ります」と答えた。


「希望は聞いたが、それか叶うとは限らん」と信長が厳しい言葉を高虎に放つと、高虎は泣き濡れた顔を上げて目を見開いていた。


「まずは萬幻武流の門下生。

 免許皆伝を果たした時、お前の望みも叶うだろう。

 ちなみに幻影はそば付きの家老といった面が大いにあるから、

 側用人の筆頭はお蘭じゃ。

 その次が弁慶と源次。

 ワシの側用人は、どこの殿様よりも優秀じゃ」


信長が機嫌よく言うと、高虎はすぐに頭を下げてから幻影をにらみつけた。


「…お前が家老とは世も末だ…」と高虎が憎まれ口をたたくと、「その威勢のよさ、明日まで持つだろうかなぁー…」という幻影の言葉に、高虎は大いに怯えた。


「そうだな、歓迎会は後回しで、

 歓迎の修行をつけてやってくれ。

 施設も充実したから、

 出世も早いじゃろうて」


信長のさらに厳しい言葉に、高虎はまた頭を下げて、「ありがたき幸せ!」と叫んだ。


幻影はお梅とひと言ふた言話してから、信長たちを抱え込んで、弁慶の魂に飛んだ。


今は街道の中央で、真正面に安土城が見える絶景の場所だった。


高虎は目を見開いて、城に向かって頭を下げた。


「さあ、夕食前までみっちりと修練だ。

 腹が減ってるんだったらこれでも食っとけ」


幻影は言って、高虎に海産物の干物ひと揃えを渡した。


高虎はぶつぶつと文句を言いながらも干物を食べ目を見開いた。


そして食べ終わった時に、幻影とふたりっきりで修練場にいたことに驚いた。


「さあ、早速やるぜ」と幻影は言って木刀を高虎に渡して、まずは型をみっちりと覚え込ませた。


さすがに覚悟ができていただけあって真剣そのものだが、覚えは悪いと幻影は判断した。


しかし萬幻武流は覚え込むことが多くある。


幻影は駆け足でその他の説明を終えた後、高虎は動かなくなっていた。


「いい根性をしている、さすがだ」と幻影は笑みを浮かべて言って、高虎とともに銭湯に行った。



高虎は湯船の中で目を覚まして大いに慌てたが、すぐに落ち着いて幻影に素直に礼を言った。


今のふたりは師匠と弟子でしかない。


「思い知ったことがひとつだけはあったはずだ」と幻影が言うと、高虎は湯船から両手のひらを出した。


右手は薬指、左手は中指が欠損している。


「…この手では、忍びの及第点をもらえない…」


「器用さが肝心だからな。

 もしも、十指まともなものが欲しいのならば願い出ればいい。

 しかし今はその手で、やれるところまでやってみろ」


「…ありがとう、ございます…」と高虎は言って、幻影に頭を下げた。


「今日の修行はここまで」と幻影が宣言すると、高虎は、「…ふー…」とため息をついて幻影をみらみつけた。


「いいメリハリだ」と幻影が言うと、「…甘い師匠だ…」と高虎は言って鼻で笑った。


「師匠としては、もう出番はほとんどない。

 あとは師範代に任せることになるからな。

 この師範代が厳しいから、

 釣り合っていていいんだ」


「…源次は、厳しくなさそうだが…」


「笑顔で厳しいことを言うけどな」と幻影が脅すと、「…さすが萬幻武流…」と高虎はつぶやいてうなだれた。



嘉明は琵琶家全体のために、高虎は自分自身のために生活をしている。


どちらも死んだ身なので、何も間違ってはいない。


しかし高虎は門下生の中でもめきめきと実力を上げたが、全く喜ばない。


やはり幻影が予感した通り、忍びの細かい技を思った通りに使えないのだ。


食事の席で高虎が思いつめて両手を見ていると、「おや?」と信長が声を上げた。


「なんじゃ、治してもらっておらなんだのか」と信長は目を見開いて、高虎の両手を見て言った。


「…はっ 今はこの手でできるところまでと…」と高虎は言って頭を下げた。


「…もうずいぶんと前に、免許皆伝をもらっておったはずじゃ…」と信長が大いに嘆くと、高虎は目を見開いた。


幻影もこの場にいるのだが、口を出すつもりはないようだ。


「…幻影のやつに願い出るのが嫌で意地を張っております…」と高虎が言うと、信長は大きなため息をついた。


「その意地は免許皆伝だな」と信長は言って大声で笑った。


「幻影はな、この件だけを杞憂に思っておったのじゃ。

 もう、随分と前のことじゃぞ。

 高虎は大きな借りを幻影に与えられることになる。

 高虎はそれを返す術は持ち合わせておらん。

 目を治してもらったこと、若返らせてもらったこともまだ返してはいない。

 じゃがな、幻影には返してもらおうなどとそんな思いはひと欠片もない。

 高虎は使えるやつだともう決めていたからこそ、目を治し若返らせたのだ。

 お前はその幻影の想いを踏みにじっているにも等しいのだ」


信長の厳しい言葉に高虎は幻影に体ごと向けて、「両手だけを治しやがれ!」と叫んだ。


「ん?」と信長が言って幻影を見ると、「正常化の棺は体ごと棺に入りますので、すべてを正常化します」と答えると、「…手だけということは…」と信長が言うと、「できません」と幻影はすぐさま答えた。


「さらにいえば一から鍛え直しですので、

 今の高虎を正常化の棺に入れることはお勧めではありません。

 ですが方法はあるのです」


幻影の力強い言葉に、「人体復活の術ぅー…」と気の抜けた声で阿利渚が言うと、幻影と蘭丸はかわいらしい愛娘に笑みを向けた。


「あ、でもね、すっごく痛いそうだよ?」と阿利渚が小首をかしげて言うと、「どうか、やって欲しい! うおっ!!」と高虎は大声で叫んで、仰向けに寝転んで両腕を宙に伸ばした。


「…阿利渚の根本的な性格は俺に似てしまったか…」と幻影は大いに眉を下げて言って、苦しんでいるがやせ我慢を始めた高虎を見た。


まさに不思議な術で、わずかずつ指が伸びるように再生している。


最後の方は高虎は笑い声をあげていた。


「はい! 終わりっ!」と阿利渚は言って、右腕の腕輪をなでた。


「阿利渚、ありがとう。

 俺にできることであれば、なんでも叶えよう」


高虎の言葉に、「思いついたら言うね!」と阿利渚は言って、高虎に笑みを向けた。


高虎は座り直すふりをして幻影に顔を近づけ、「…嫁にくれ…」とつぶやいた。


「阿利渚にその気があると思うかい?」と幻影が意味りげに聞くと、「いや、感じぬ」と言ってから高虎は目を見開いた。


「その気がある資格を持った者がいる」


「ああ、いるぜ。

 俺もお蘭も驚いたほどだ」


「…お前と同等の者など…」と高虎は大いに悔しがった。


「いくらでもいる」という幻影の言葉に、「…俺は俺の人生を怨む…」と高虎は自分自身に怒っていた。


「だがまずは、十指を使いこなすことが先だ。

 案外辛いと思うが、

 辛くなくなった時には喜びしか沸かない」


幻影の言葉は師匠の言葉として受け取って、高虎は頭を下げた。



この先数日間は指のご機嫌伺いのように、腫れ物に触るように付き合い、違和感がなくなった時に高虎は本領発揮を始めた。


今までの全てが楽にこなせるように変わったことに気付いた。


立ち合いでもついに弁慶にも勝ち、残すは蘭丸と幻影だけとなっていた。


「ここは俺に任せろ」と蘭丸は堂々と言って、長木刀を担いで高虎の前に立った。


そして蘭丸が木刀を持った腕を伸ばしただけで、高虎の顔から脂汗が流れ始めた。


「なんだ、調子が悪いのか?」と蘭丸がにやりと笑って言うと、「…なぜ、それほどに強いのだ…」と嘆いてから、「参った」といって頭を下げた。


「…やる気満々だったのにぃー…」と蘭丸が言うと、「手を抜くことを知れと何度も言った」と幻影が言うと、蘭丸はそれを思い出し、様々な言い訳を始めたので、幻影は大いに笑った。


「気合に蹴り倒されたってところだね。

 さすがに師匠に勝負を挑むことは控えるだろう」


幻影の言った通りで、高虎は幻影にも同じ対応をとった。


まさに萬幻武流の師匠は別格と、全ての者に思い知らせることになった。


「…お前ら以上がいるなど…」と高虎がうなると、「あ、総合的にだぜ?」と幻影が言うと、「…訓練の立ち合いでは…」と高虎が目を見開くと、「今のところいないな」と幻影は眉を下げて答えた。


「おまえが桜姫を振り回して怯えさせたんじゃないか…」と蘭丸が苦情を言うと、「そういうこともあったな」と幻影は鼻で笑った。


「…武器に、お互いの幼名をつけあった、馬鹿夫婦…」と高虎がにやりと笑って言うと、「仲、いいだろ?」と幻影は怒ることなく軽いノリで返した。


「…弱っちいお前に馬鹿と言われる筋合いはねえぞぉー…」と蘭丸がうなると、高虎は大いに委縮した。


「藤堂高虎は免許皆伝だ!」とすかさず幻影が叫ぶと、高虎は目を見開いたまま、その姿は虎となっていた。


「よっし! うまくいった!」と叫んだのは信長で、早速虎を抱きしめた。


「…このままでいれば誰もが逃げるだろう…」と幻影が眉を下げて言うと、蘭丸は悔しそうだったが、変身することはなかった。


早速長春が高虎を配下に据えたからだ。


よって冷静になった虎は、信長から素早く逃れて、姿を高虎に戻した。


「お蘭と高虎を中心にして、ワシを守ってくれ」と信長が言って頭を下げると、側用人と家老たちは一斉に頭を下げた。


「…もう返しきれませんので、もらっておくことに決め申した…」と高虎が信長に言うと、「それでかまわぬ、我らは家族じゃからな」と信長は上機嫌で答えた。


「…なぜ虎になった…」と嘉明が目を見開いてつぶやくと、「誰よりも自分自身を苛め抜いた罰のようなものです」という幻影の言葉に、「ある意味その通りじゃ」と信長は真剣な目をして言った。


「だからこそ、我を守る強い存在はひとりでも多く欲しいのじゃ。

 この先、星を飛び出して人助けに従事する場合、

 今までのように甘くはないことは、

 誰もがもが知っておるはずじゃ」


この件に関しては比較て詳しく咲笑に講義を受けているので誰もが真剣なまなざしをしていた。


「脅威はやはり光の武器。

 レーザービームというやつじゃ。

 じゃが我らは幻影の恩恵を受けて、もうすでに守られているが、

 油断は大敵じゃ。

 今の状態で頭を打ち抜かれたら一巻の終わりじゃからな。

 誰もがそうならぬように、さらに厳しい鍛錬を積んで欲しい」


信長の厳しい言葉に、誰もが一斉に頭を下げた。


「あ、命が惜しくば琵琶家を抜けることもお前らの正しい道じゃ。

 意地を張ることはないし、

 城に残り仕えることも必要なことじゃ。

 己の限界を感じた時、各々よく考えておくようにな」


今回は比較的やさしい言葉を配下にかけた。


やはり一時期の影達のように行き詰った者が大勢いるからだ。


だが影達のように誰にも負けないほどの力を手にすることだってできるはずと、誰もが思って疑わなかった。


信長の話が終わってすぐに、「幻影、付き合え」と高虎が言ったが、「これからものづくりの仕事だ」と言う幻影の無碍な言葉に誰もが大いに眉を下げると、信長は愉快そうに笑っていた。


「修練の時間はさっき取っただろうが。

 本気で修練を積んでないから不安になるんだ」


幻影の言葉に、誰もが目からうろこが落ちていた。


自分たちは怠けていたと思い、すぐさま立ち上がって誰もが幻影を追い抜いて作業場に走って行った。


そして眉を下げて長春たちが追いかけて行った。


「気合が入ったようなので、釣りにでも行きますか?」と幻影が眉を下げて信長に聞くと、「ああ、今日もうまい魚をたらふく食うぞ!」と信長は大いに気合を入れて叫んだ。



幻影は外に出てすぐに、「今日は東にはいかない方がよさそうです。天候の変動が激しいようですので」という幻影の言葉の言葉に、「それはそれでまた楽しみじゃな」と信長は今を楽しんでいた。


側用人としてはここは蘭丸が死守したようで、高虎はものづくりに励むこととなり、そのほかは体力的に素晴らしいものを持っている工員と農夫をふたりずつ連れていくことに決まった。


欲張ったわけではないが、幻影が選んだのは十人乗りの戦艦だが、難なく宙に浮いて西の海を目指して飛んだ。


幻影は魚影を探って絶好の場所に戦艦をゆっくりと降ろして、早速釣り糸を垂れると、まるで鯛のそっくりさんが釣れて誰もが大いに喜び勇んで釣りに興じた。


まだ半時も経っていないのだが、「今日は終わりだ!」と幻影は言って冷凍廿楽のふたを閉めた。


「ひとつは法源院屋に売りましょう。

 ですがまずはさばいて味見をしてからですね」


幻影の言葉に、「…おいしいのはもうわかってるぅー…」と安全確保のために連れてきた咲笑が眉を下げて言って、その情報を宙に浮かべた。


「…幻がこれほど釣れていいものか…」と信長が大いに嘆くと、「全然多くないよ?」と咲笑は小首をかしげてかわいらしく言った。


「…ま、まあよい… おいおいわかるということじゃな…」と信長は察して、今回も近くの陸地にほど近い岩場で素潜りをして海藻や貝などをたんまりと獲った。


咲笑が逐一確認をしているので全く不安に思うことなく、安土城に戻った。


するとマックラは楽しそうにしてやってきて、魚を見て目を見開いて、「…キングじゃないか… それも、これほどに…」と大いに嘆いた。


「味見味見!」と幻影はもう一尾をさばき終えて、信長たちの目の前に置いて、紫と山葵も用意した。


信長は早速口に運んで、何度もうなづいてから、また箸を延ばした。


誰もが同じ動きをするので幻影は大いに笑って咲笑とともに口に運ぶと、「こりゃ、長春が全部食うんじゃねえか?」と言って大いに笑った。


「…最高級品ですぅー…」と咲笑は満面の笑みを浮かべて言って、その詳細な情報も出して、現地で雇った法源院屋の番頭に見せつけた。


「中間の大きさで、一尾一万五千八百ゴルだって!」


咲笑の嬉しそうな言葉に、「適正ならそれでいいぞ」と幻影はすべてを咲笑に任せた。


咲笑は様々な条件を並べ立て、一尾二万五千で卸すことに決めた。


この星の漁業関係者で、この一尾の値段を稼ぐのは至難の業でもある。


一般的な労働者の一日の稼ぎは、一万もあれば高給取りの部類に入る。


幻影たちはわずか一時ほどで、高所得者の年収十年分を手に入れていた。


法源院屋腹は早速飛行艇が出て、大きな町に魚を運んで行った。


法源院屋の店主も味見を終えていたので、文句なく高く売れるものだ。


「…雇ってもらえてよかったぁー…」と現地採用した番頭は涙を流しながら、魚を食っていた。


美味いからうれしいのか、いい商売ができたことを喜んでいるのかはよくわからなかったが、幻影は幸せそうな家族たちを見て満足していた。



幻影たちが夕餉の支度をしていると、大いに眉を下げている極と燕がやって来て、町の騒動の話を始めた。


もちろん、幻影たちが売った魚の件だ。


「魚影を発見して釣っただけ」


幻影の説明に、「…何か予感でもあったの?」と極が眉を下げて聞くと、「前回行った南東に行くことをやめたんだけど、予想外に雨が降らなかった… この件だけが杞憂として残ったなぁー…」と幻影は言って、調理を続けた。


「…幸運の女神でもいたの?」と極が冗談交じりに言うと、「女性に見えたのは咲笑だけ」と幻影は言ってから大いに笑った。


その咲笑は今は阿利渚に寄り添っていて、着せ替え遊びに余念がない。


「…咲笑を連れて行くのは当然ね…

 危険な魚類も多いから…」


燕の言葉に極も納得してうなづいた。


この件は不思議なこととして覚えておくことにした。



「…どうして俺はこっちに戻ったんだ…」とジャックは大いに嘆いていた。


極たちはくつろぎの間で夕食を始めたのだが、うまい飯には違いないのだが、安土城にいる琵琶一家とはまるで違う食事だ。


幻影たちは家族用に魚を釣っただけなので、大勢の者たちに行き渡るほどは獲っていない。


「ジャックの不幸じゃない。

 幻影の人徳だ」


極の言葉に、誰もが大いに眉を下げていた。


「それに、大枚叩けば、法源院屋で売っているはずだが、

 一尾四万だそうだ」


極の言葉に、「…出せるわけがねえ…」とジャックは大いに嘆いた。


「それでも良心的よ。

 去年の最高値は形が悪くて十万だったもの。

 ほんと、おいしかったわぁー…」


燕の言葉に、誰もが一斉に燕をにらみつけた。


「…ばらすんじゃない…」と極が言うと、「…お前も、食ったのかぁー…」とジャックがうなると、「ああ、ここでなら食って行っていいと言われたからな、ポポタールとタルタロスも食った」と極が正直に話すと、誰もがうなだれていた。


「…次からは油断せず、片時も離れないでやるぅー…」とジャックはうなって、八つ当たりをするようにうまい飯を大いに食らった。


「ここは俺たちの家だからなぁー…

 お付きはいらないと思ったが、

 お殿様を見習おうか」


幻影の言葉に、「見習え見習え!」とジャックはほとんどやけになって叫んだ。



「理由、わかったんだけど聞く?」と黒豹の姿のサルサロスが言うと、「ああ聞きたい! 教えてくれ!」と極は大いに叫んだ。


「まずは、幻影さんの気候予測はほとんど間違わない。

 最低でも天候が悪くなって当り前だったんだ。

 その辺り前が僕すら知らない何かによって消されたんだよ。

 よって海水温の変化があって、

 幻影たちが向かった場所に、

 キングの群れが集まったんだ。

 可能性があるのは知っての通り、マーメイドの仕業だろうね」


サルサロスの報告に、「ゲイルさんたちは来てないよな?」と極が隊長たちに聞いたが、誰もが首を横に振るばかりだ。


ゲイルという男の妻が、サルサロスの言ったマーメイドという希少な種族なのだ。


「隠れるのはうまいからね。

 海中に潜られるとボクでも探せない。

 会ったことがある人だったら、

 すぐに見つけられるけど」


サルサロスの言葉に、極はゲイルの妻のスプラッシュの魂を探ったが、遠く離れた彼らの母星にいることはよくわかった。


そしてゲイルに念話を入れたが、今日はサルサロスを訪れていないと言った。


もちろん、黙って訪問することはないので、極はまるで疑っていない。


そしてサルサロスの見解を話すと、スプラッシュが大いに興味を持ったようだ。


『できると、スプラッシュは断言したよ』というゲイルの返答に、「何か目的があると思われますか? 俺としては、琵琶家に興味ありと感じました」と極が述べると、ゲイルも賛成した。


『ひょっとすると、もう紛れ込んでいるかもな』というゲイルの言葉に、「早速調べます」と極は言って、丁寧に礼を言って念話を切った。


「マーメイドがこの近隣にいるかもしれない。

 もう、安土城に潜入しているかもな。

 問題はだ、城下町の店舗で雇われた人たちの中にいるかもしれない。

 もしそうだと、幻影さんが気づかないわけがないが、

 危険はないと察した場合、放っておくことも考えられるんだ。

 余計なことかもしれないが、マーメイドは神を超えた神だから、

 放ってはおけない。

 …いや…」


極は言葉を止め大いに考え込んだ。


「…マーメイドなりのお礼…」と燕が言うと、「…そうだ、そういうことだ…」と極はつぶやいて何度もうなづいた。


「幻影たちをここに呼ばなければ、

 今もこの星は臭いままだったはず。

 マーメイドはある意味怒っていたはずだ。

 しかし俺たちがようやく重い腰を上げて、

 この星の改革を始めたが、

 実際手を下した俺たちではなく、

 ここに呼んだ幻影たちに恩があると知っていたんだろう」


極は話しながらも仲間たちを探りまくっていた。


「…ここにはいないわ…

 だけどね、今までここにいた人のような気がするの」


燕の言葉に、「…パトリシアだったか…」と極がつぶやくと、誰もが大いにうなづいていた。



その頃、豪華な夕餉中の安土城の食卓で、「…もう気づかれちゃった…」とパトリシアがつぶやいた。


信長が怪訝そうな顔をして、「隠し事でもあったのか?」とごく自然に聞くと、「今朝、すべてのことをはっきりと思い出したのです」とパトリシアは告白した。


「そうか、それはさぞすっきりしたじゃろうて」と信長は笑みを浮かべて言った。


「どうしてもお礼がしたくて…

 もっとも、私がそれを召し上がっておりますが…」


パトリシアは言って、うまそうにして、歯ごたえがある白身魚の刺身を箸でつかんで紫に浸して口に運んで幸せそうな顔をした。


「…ほんとにおいしいぃー…」と長春も大いに食欲が沸いている。


「だったらパトリシアがつく殿様はワシではないはずじゃが?」


信長の言葉に、「…こっちのチームがいいですぅー…」とパトリシアは懇願の眼を信長に向けた。


「平和のために戻った方がよい。

 できれば、煌殿とはいがみ合いたくないのでな」


ふたりの会話を目で追っていた幻影は、もうすべてを察していた。


もちろん信長もわかっていてパトリシアと話をしている。


「幻影はどう思う?」と信長が早速聞くと、「極さんの出方を待ちます」と幻影はすぐさま答えた。


「ああ、それでよい」と信長は言って、舌なめずりをして、刺身に箸を伸ばした。


「…戻されちゃうんですけどぉー…」とパトリシアが目線を下げて大いに嘆くと、「僕に聞かないで」と膳の上に乗って食事をしているビットが高い声で言い返した。


僕と言ったが、ピットは女の子だ。


「だけど今は働いているのは琵琶家の方だから、

 タルタロス軍が動き始めてからでいいと思うんだけど?」


ピットの現実的な言葉に、「あ、それは言えるな」と信長は機嫌よく言った。


「…マリーン様の気が変わりませんように…」とパトリシアは何かに願った。


「筒抜けだと思う」と幻影が言うと、「…マリーン様に届いちゃったぁー…」とパトリシアが大いに嘆くと、「…自業自得だよ…」というピットのあきれ返っている言葉に、信長も幻影も大いに笑った。


「そもそも、黙っていた経緯を俺は知りたいんだ」


幻影の少々厳しい言葉に、「…そっちが先だったな…」と信長は苦笑いを浮かべて言った。


パトリシアは箸を置いて幻影を見て、「欲があったら叶わなかったかもしれないのです」と真剣な目をして言った。


幻影は少し考えてから、「それは自然界の偶然… 幸運に関係することかい? それとも、この魚は特定の欲を持った者に釣られることはないという意味かい?」と幻影が言うと、パトリシア以外の全員が目を見開いた。


「…両方、ですぅー…」とパトリシアが答えると、「…偶然でももう釣れることはないかもな…」と幻影は大いに苦笑いを浮かべて言った。


「幻影がひとりで行けば、何とかなるかもしれぬ。

 ワシは自信がないからいかん」


信長の言葉に、幻影は少し笑って、「…神が食す魚と言ってもよさそうだな…」とつぶやくと、真っ先に長春が箸を置いた。


「食えないのなら俺が全部食うから問題はない」


幻影のまるで怒った母親のような言葉に、箸を置きかけていた者たちは、さらにじっくりと味わいながら刺身を食い始めた。


そして長春は大いに迷ったが、刺身のうまさに負けて、涙を流しながら食べ始めた。


パトリシアは眉を曇らせた。


「…一度釣った人はもう二度と釣れなくなるの…

 …誰もがみんな、強い物欲と金欲を持つから…

 だけど幻影様はさすがです…

 何も変わっておられない」


パトリシアは最後は笑みを浮かべて言った。


「だったら今度入れ食いがあったら、

 この地の子供たちに食べさせてやりたい。

 これほどにうまくて栄養豊富なものはないだろうから」


幻影は言って笑みを浮かべると、長春は皿に盛られている刺身を見てうなだれた。


「ひと切れ二切れだと、最終的には誰もが悲しむ。

 だったら誰にも与えない方がいいから、

 俺たちが全て食えばいいんだ。

 もちろん、悪者になるという意味もある」


「しっかりと、悪者になっちゃう!」と長春は叫んで、うまそうにして刺身を大いに食べ始めた。


「あとは、不幸がなきゃいいが…」と幻影が言って咲笑を見ると、「まだ正式なニュースにはなっていませんが、法源院屋さんがキングを売った町で不幸があったようです」と眉を下げて報告した。


「盗んだり奪ったりという事件だろうな…」と幻影はため息交じりに言った。


「言っておくが魚が不幸を導いたのではない。

 欲を持った人間のせいだから間違えないように」


幻影の厳しい言葉に、「はっ!」と誰もが答えて、いつもの琵琶家の食事風景に戻った。


「…報道では、魚のせいにするだろうからな…

 マリーン殿にひと言言ってもらいたいほどじゃ…」


信長が嘆くと、「ご招待しますか?」と幻影がすぐさま言うと、「おう! それがよいよい!」と信長は機嫌よく言った。


幻影はすぐさま極に念話を入れて、マリーンを夕食に招待すると話すと、極は何も事情を聴かずに、『すぐに行く』とだけ答えて念話は切れた。


「極さんもここに来るので、色々と話すことがあるようですが、

 マリーン様が先に知ったので、さて、どうなるのでしょうね」


幻影の明るい言葉に、「聞き役でよい」と信長は機嫌よく言った。


しかしパトリシアは心中穏やかではなくなっていた。



極と燕がジャックとフランクを引き連れて、薄笑みを浮かべたマリーンがくつろぎの間に姿を見せた。


マリーンと信長が挨拶を交わしている間に、幻影は厨房に行って調理をした。


切って盛り付けるだけなので、何の苦労もなく、さらに琵琶家の家庭料理を膳に乗せて運んだ。


マリーンは素晴らしい食事に大いに感謝して、なぜだか家庭料理の方に箸をつけ、大いにうまそうにして食った。


「…まさかですが、見えておられませんか?」と幻影がマリーンに聞くと、「はい? 何でしょうか?」とマリーンは答えて戸惑いの眼を幻影に向けた。


「…見えていてよかった…」と極が大いに苦笑いを浮かべると、見えていない燕が、「…膳の皿の配置が異常に偏ってるって思っちゃったわ…」と眉を下げて言った。


「こちらにキングの刺身を用意してあるのですが…」と幻影がその場所を示すと、マリーンは大いに目を見開いた。


そして徐に極を見て、「…食べさせてぇー…」と大いに甘えた。


「…欲も程々です…

 …罰が下っても知りませんよ…」


極も言葉に、マリーンは大いに戸惑い始めた。


するとマリーンはガイアに変わって、「なるほどな、これが見えなかったわけか」と言って、刺身を箸でつまんで紫に浸してから食った。


「おお… なんといううまさか…」とガイアは大いに感動して、満遍なくすべてを食べつくして、「全てはパトリシアの意思に任せる」とガイアは宣言してマリーンに戻った。


「…全部食べなくてもいいのにぃー…」とマリーンが大いに嘆くと、幻影は代わりの膳をすぐに用意した。


「…ああ、大反省してよかった…」とマリーンは言って、キングの刺身に手を付けて、まさにうまそうにして食った。



このあとすぐに事件報道があり、購入したキングが全て透明になったという騒ぎがあったようだ。


そしてそのほとんどが盗難に遭って、戻ってきたのはいいのだが、ケースの中に入っていたはずのキングが消えていた。


消えたのではなく目に見えなくなったようで、誰もが大いに恐れおののいたのだ。


昨年までも確かにこの兆候はあったが、それは軽微で、完全に見えなくなったのは初めてだった。


専門家の見解は、『新鮮で本物』というものだった。


なぜそうなるのかだけは謎だったが、マリーンが早々にコメントを出した。


『…欲を持つと透明になる…』と司会者はマリーンのコメントを読み上げて目を見開いた。


専門家だけは大いにうなづいていたが、それ以外の出演者は怪訝そうな顔をしていた。


『…さらに、二度手にした者はいないとありますが…』


司会者が困惑の眼で言うと、『欲が原因で見えなくなるということは、一度目で味を占めて欲を持って見えなくなったということでいいのでしょう』と専門家が答えた。


『…宗教的な話になりますが…

 神への献上品と言っていいのでしょうか?』


司会者の言葉に、専門家は大いにうなづいて、『それも考えられますね』と答えた。


「…神様いやぁー…」とまた長春が大いに嘆いた。


「だったら俺たち全員神だから。

 何も問題ない」


幻影の言葉に、「…あー、よかったぁー…」と長春は長いものに巻かれる論を発動して、納得して笑みを浮かべた。


「正確なところはどうなの?」と幻影が咲笑に聞くと、すぐさま情報を宙に映像を浮かべた。


「…そういうことか…

 魚は消えていないから、

 人側の眼と脳が認識できなくなったわけか…

 欲が沸いた時の脳内の分泌物が、魚を見えなくする…

 器が消えていたのは、光の加減か…

 なるほどのぉー…」


信長は大いに感心して何度もうなづいた。


「となると、欲を持つと釣れなくなるのは、魚側の都合のようですね。

 天敵がいるので近づかないという、生物の本能でしょう」


「おお! なるほどな!」と信長は大いに陽気に言って膝を打った。


「…私が種明かししたかったのにぃー…」とパトリシアが眉を下げてつぶやいた。


するとまたお騒がせ姫の桜良がやって来て、「…珍しいお魚を食べさせてぇー…」と大いに欲を持ってうなった。


極が説明すると、桜良は大いにうなだれて、納得したのかうなだれたまま帰って行った。


「グルメでもあるの?」と幻影が眉を下げて聞くと、「大食い宇宙一」と極がにやりと笑って言うと、誰もが大いに笑った。


「ああ、そうだ」と幻影は言って厨房に行ったが、すぐに戻ってきた。


幻影が皿に盛ったものを差し出して、「これが見えない人」と聞くと、手を上げた者は誰もいなかった。


「これはキングの皮とうろこだ」と言った途端、マリーンと燕が眉を下げて手を上げた。


「…見えていてよかった…」と信長がつぶやいたが、誰もが同じ気持ちだった。


「となるとだな…」と幻影は言ってから皿を膳に乗せてから、外套ようなものを出した。


そして頭からすっぽりと羽織ってから、「誰かと浮気をする」と幻影が言った途端に、「どこに行きやがったっ?!」と蘭丸が大いに錯乱した。


幻影は一歩も動かずに同じ場所にいる。


「わかりやすいなっ!」と信長は叫んで大いに笑った。


信長が蘭丸をなだめるとすぐに落ち着いた。


そして幻影は相手の欲によって姿を消せる隠れ蓑を脱いで蘭丸に向けてにやりと笑った。


「冷静にならないと見つけられないぜ」という幻影の言葉に、「…ちっくしょぉー…」と蘭丸は悔しそうにうなった。


「大いに欲を持っている者の正確な認識方法です」と幻影は言って、着物を信長に渡した。


「確かに、よくわかってよい」と信長は機嫌よく言った。


「この先、この着物は必要となりそうじゃ」と信長は機嫌よく言うと、「…私たちも試されちゃうわ…」と燕は大いに嘆いた。



翌日、早速洗礼を受けたのは法源院屋の店主だった。


しかし大いなる欲を証明されてすぐに改心した。


幻影はできれば子供たちにだけでもと考え、ひとり空高く飛び上がり、「…こっちか…」と言って北に飛んだ。


幻影の予感は的中して、正確に必要な数だけキングをすくい上げて安土城に戻ってすぐさま次々としめた。


そして黙々と切り身にして、村の子供たちを安土城の昼餉に招待した。


うまい魚をごちそうになるとだけ聞いていたので、子供たちには何の変化もなくいつも通りに陽気に食事を摂る。


そして幻影たちと膳が違うと思った子供たちは、自分の皿から刺身をとって、気に入った人に食べさせて回った。


まさに人気投票のようなもので、信長、幻影、妙栄尼、マックラが大人気となっていた。


そしておこぼれをいただいた長春は涙を流しながら、「今日の方が断然おいしい…」と大いに喜んだ。


子供たちも琵琶家一同も満面の笑みを浮かべて、楽しい昼餉会は終了した。



その日の夕餉時、「昼の残りの切れ端です」と幻影は言って、形が不格好なキングの切り身を信長だけに配膳した。


「これはうれしい」と信長は言って、手酌で酒を飲んでは刺身を楽しみ始めた。


そして少し酔ってきた信長は好々爺となって、子供たちから順に刺身を食べさせて回った。


特に最後の方の高虎と蘭丸は涙を流しながらありがたくいただいていた。


最後は幻影を呼んで、差し向えで酒と刺身を楽しんだ。


まさに信長の至福の夕餉のひとつとなっていた。


「じゃが、今日は何の切欠もなかったはずじゃが、

 どのようにして魚群を見つけたのじゃ?」


信長が興味を持って聞くと、「あっちにいるかもなぁー、というかなりあいまいな予感だけです」と幻影は笑みを浮かべて答えた。


「昨日とはまったく別の場所だったので、

 別の魚群だったと思います。

 正確な数と大きさを選別できるほど余裕がありました。

 魚たちには感謝ですね」


「おう、そうじゃそうじゃ」と信長は拝みながら刺身を食った。


「修行のために、マリーン様と燕さんには献上したいと思っています」


幻影の言葉に、信長は膝を打って、「それでよいよい!」と叫んで大いに笑った。


キングはまさに、神へのいけにえとなる日がやって来た。


そんな幻影と信長を、温かい目でパトリシアは見ていた。


「そのうち追ってくる者もおるじゃろうが」と信長は言って、欲検知の着物を羽織った。


「その中で見える者だけを面接したいと思います」


幻影の言葉に、信長は何度もうなづいて、「さすがじゃ、幻影」と信長はうなるように言って、まるで子供のように幻影の頭をなでた。


まさに最高の褒美に、幻影は子供返りするようにして大いに喜んだ。



幻影は翌日の昼前に、欲検知の着物を着てひとり空を飛んで、形のいいキングを一匹だけ手にしてすぐさま切り身にした。


そしてマリーンの住む、姿がよく見えない大神殿に行って調理場を借りて刺身を献上した。


献上したのは半分で、もう半分は燕に食わせるといって、マリーンに別れを告げた。


幻影はタルタロス軍の基地に向かって飛ぶと、現在はかなり上空にあったので、空高く飛んだ。


幻影は極に大歓迎されて、基地にある訓練場に誘われた。


そして、「燕さんに土産です」とまず言ってからマリーンにも同じものを献上したと伝えた。


燕はすぐさまポポタールに変わって、丁重に礼を言ってから舌なめずりした。


―― さすが神、こえぇー… ―― と幻影は大いに思い知っていた。


「ということは、今日はわざわざ一匹だけ獲って来てくれたわけだ」


極の言葉に、「ただの勘なので不確実なのですが…」と幻影は恥ずかしそうにして言った。


すると十名ほどの白装束の幼児に見える天使たちがやって来て幻影に挨拶をした。


「マリーン様からのお返しの天使たちだ」という極の言葉に、幻影は大いに喜んで、早速天使たちを安土城に連れて帰った。



一目見た時からわかっていたのだが、「…見事に無愛想じゃな…」と信長は言って鼻で笑った。


そして天使たちをひとりずつ抱き上げると、誰もが目を見開らいた。


そして我慢できなかったのか蘭丸も追従して、「俺の子だ!」と宣言して抱き上げた。


たったそれだけで、天使たちの表情は変わって、薄笑みを浮かべて涙を流していた。


「…泣かせてしまった…」と蘭丸はうなだれたが、「喜んでるんだよ…」と幻影は大いに眉を下げて言った。


天使たちには阿利渚と桃源がすぐに寄り添って友達になった。


「…うむ、ついさっきよりも随分とよくなった」と信長は機嫌よさそうに断言した。


今までも比較的穏やかだった琵琶家の面々はさらに穏やかになっていた。


「早速だけど、お勉強よ」と妙栄尼が言うと、「はいっ! 大天使様!」と天使たちは断言して叫んだ。


「…おほほほ… 新たな肩書ができたわ…」と妙栄尼は機嫌よく言って、天使たちと子供たちを連れて寺の本堂に向かって歩いて行った。


「…勉強ならば仕方ない…」と蘭丸は言って幻影に懇願の眼を向けた。


「気になるのなら行って来いよ…」と幻影が眉を下げて言うと、「御屋形様、離れまする!」と蘭丸は叫んでから、妙栄尼たちを追いかけた。


すると高虎がすぐに信長に寄り添ったが、全くわけがわからず眉を下げていた。


「ワシと蘭丸は悪魔という種族じゃ。

 そしてあの白い子たちは天使という種族。

 この二種族は切っても切れない関係でな。

 しばらくは問題はなかったんだろうが、

 必ず不幸が訪れたはず。

 そうなる前に先手を打って雇ったんじゃ。

 これは力や忠誠心ではなく、生きて行くための習性じゃ」


「…それであのお蘭のやつが妙にそわそわと…」と高虎が言うと、幻影が腹を抱えて笑い始めた。


「修行中の天使はふたりの母親を持つ。

 ひとりは上司と言える天使。

 もうひとりは悪魔だ。

 まさに俺たちと同じで、他人の集まりでも無関係。

 信じた者を母親にするんだよ。

 御屋形様は希少種の男性の悪魔。

 いないわけではないが、

 やはり天使とともに過ごすことがいいことに繋がったと納得しておられる」


幻影の言葉に、「その通りじゃ」と信長は機嫌よく答えた。


「天使の神殿に見えなくもないな」と信長は言って、現楽涅槃寺に笑みを向けていた。



幻影たちが修行を終えてものづくりに興じていると、天使たちは疲れ切ったようで眠っていたが笑みを浮かべていた。


珍しく蘭丸が術を使って、十名の天使たちを宙に浮かべて連れてきたのだ。


幻影は簡易の寝台をすぐさま出すと、蘭丸は幻影に頭を下げて、ひとりずつ丁寧に寝かせた。


そして起きている阿利渚と桃源も同じように扱うと、ふたりともすぐに眠そうな目になって眠ってしまった。


「…うふふ… みんな私の天使たち…」と蘭丸が薄笑みを浮かべて言うと、「やけちゃうわ」と妙栄尼が薄笑みを浮かべて言った。


信長は何も言わずに天使たちの寝顔を楽しみながら何度もうなづいていた。



琵琶一族は家光の命により、山陽道と山陰道の街道整備をわずか二日で終わらせてしまった。


よって琵琶家には大いに時間ができたことになる。


翌日は安土城で休息を楽しんでから、また日ノ本以外の国に飛んで悪しきを倒そうと思ったが、比較的平和で空振りに終わったので、日ノ本に戻って法源院屋を大いに喜ばせた。


琵琶家はまさに神出鬼没な大名となったのだが、やはりうわさが流れた。


もちろんいいことではなく、幕府との折り合いが悪くなったのではないかという憶測だ。


もちろん天雲大名の琵琶家側に着くこうとする藩主が多くいる。


もちろん、日ノ本中の街道整備は、琵琶家だけで成し遂げられたからだ。


この不穏な空気を察した琵琶家縁の大名たちはすぐさま幻影と連絡を取った。


「あ、そんなことになってたんだ」と幻影は軽いノリで言った。


「琵琶信影様を将軍にと、言い切るヤツもおります」と、猿飛佐助こと佐田与助が言った。


「琵琶信影はこんなに小さな国はいらないといううわさを流しておいて欲しい。

 そして一部では周知していることだが、

 琵琶家はこの惑星をもうすでに離れて生活をしている。

 しかし今のように連絡は取っているから、

 縁が切れたわけではないから」


「できればおそばにと思っておるのはワシだけではありますまい」


与助の言葉に、「身辺整理ができたら、いつでも言ってくれていいよ」と幻影の気さくな言葉に、与助は大いに喜んだ。


「もちろんこの先何年も、完全には縁を切れないんだけどね…」と幻影は眉を下げて言うと、与助は笑みを浮かべて首を横に振った。



幻影はこの話を持ちかえり、信長に報告した。


「言って回ってもよいぞ」と信長は天使たちの相手をしながら機嫌よく言った。


「まずは秀忠でしょう。

 あいつ、馬鹿なことをしなけりゃいいが…」


「だったらそれだけの器しかなかったやつとして切ればいい。

 まずは現在の天雲大名がどこにいて何をしているのか、

 家光と大君に詳しく話しておけばいい。

 もうお前らとは住む世界は違うのだとな。

 この程度のこと、法源院屋から情報を出させればいいのだが、

 商人でしかないからな。

 何なりと理由をつけて、ワシらとの面会を要望してくるのじゃろうて」


「わかりました。

 まずは法源院屋から情報を流します。

 それと同時に、家光と後水尾に説明をしておきましょう。

 できれば、ことを大きくしたくはありませんが、

 それでは我らの自由を勝ち取れませぬ。

 少々面倒ですが、ここは比較的穏やかに説明に行ってまいります」


「ああ、行ってこい」と信長は言って、天使を二名幻影にあてがった。


その二名は幻影に笑みを浮かべて頭を下げた。


「嘉明様に同行していただきましょう」と幻影が言うと、「ああ、それでよい」と信長は機嫌よく言った。


幻影と嘉明は、まずは京の法源院屋に行った。


これから出すおふれの件は問題なかったのだが、世間の噂話が妙に過剰になっていると店主から聞くことになった。


そのうわさは北陸方面から流れているようで、越前辺りではどうやら天雲大名は気に入られていないようだ。


「街道整備に手を付けていないから」


幻影の言葉に、「…そのような理由で… いえ、何なりと理由をつけて、叱られついでに街道工事…」と店主が言うと、幻影は大いに笑った。


「幕府の考えひとつだからな。

 だがこの件がお上に耳に入れば、

 武家諸法度に引っかかるはずだ。

 どうせ馬鹿な若い殿様の仕業だろう。

 まあいい、じゃあ、頼んだよ」


幻影が気さくに言うと、「お勤め、お疲れ様でございます」と店主の穏やかな言葉に見送られて御所に行った。



後水尾とはすぐに面会が叶い、現在の琵琶家の説明をした。


「…幻影たちにとって、この日の国も、この惑星すらももう小さいのだなぁー…」


後水尾は感慨深げに言って、公家方面には正しい情報を通達するといった。


「縁は切らんが会う頻度は下がる。

 気に入らんことがあればその時々に正していくことに決めているから、

 できればうまくやってくれ」


幻影の言葉に、後水尾は気さくに手を上げてひらひらと振った。


まさに友人の挨拶のようだと幻影は思って、後水尾と同じ仕草をとって、御所を後にした。


「…今回も捕まってしまいましたぁー…」と正子が眉を下げてやってきた。


「幻影たちは我らの手を離れた。

 この先、もうわがままは何も言えぬ。

 我らの力で、良き国にしていかねばならぬのだ」


後水尾の言葉に、正子は大きなため息をついてうなだれた。



幻影と嘉明は江戸城に飛んで、家光と面会をした。


「…信影殿が来ておらぬから助かったぁー…」と家光が言うと、「天雲大名などいつでも返上するぜ」と幻影が言うと、家光は大いに慌てた。


「もっとも、正式に返上する場合は、

 お前が言った通り、御屋形様をお連れするけどな」


「…噂の件は色々と耳に入っているよ…

 もう三つほど藩を取りつぶしにした…」


家光が眉を下げて言うと、「それが幕府として正しい行いだと俺は思うのだが?」と幻影が言うと、「…うん、よかった…」と家光は気さくな笑みを幻影に向けた。


「あとは少々過激な者が北陸にいるようだ。

 街道工事の催促だろうな」


「うん、今調べさせてるから」と家光は胸を張って言った。


「だったらお前には用はない。

 きちんと将軍様をしているようだからな」


幻影の言葉に、家光よりも側用人たちは大いに喜んでいた。


「もちろん俺たちは引き払うことはしないだろう。

 たぶん、お前が死んだ後も、琵琶御殿を行き来しているはずだ。

 その頻度が今よりもかなり下がるだけ。

 琵琶御殿を維持できるように、

 それなりのことを色々とやっていくからな」


「琵琶御殿がある藩だけが平和と言っていいほどだよ…」と家光は眉を下げて言った。


「その地だけでも平和ならそれでいいじゃないか。

 あまり贅沢なことを言ってると罰が当たるぞ」


幻影が少し笑いながら言うと、「…信幻は元気?」と友として家光は聞いた。


「随分と立派になったぞ。

 だが、この国に居座るつもりはないようだから、

 心の友としておいた方がいい。

 気が向けば、遊びにも来ることだろうが、

 今は新たなことを大いに学ぶ時なんでな。

 誰もが少々余裕がない。

 余裕があるのは、御屋形様と俺くらいなもんだ」


「…うう、そうなんだ…」と家光はうなって、嘉明を見た。


「毎日が猛勉強でござる」と嘉明が言うと、「…もう、手が届かないなぁー…」と家光は言ってうなだれた。


「各琵琶御殿とは毎日連絡を取っているから、

 用があれば、お梅さんに伝えておいてくれ」


「まだきちんとつながっているから、何も心配はないさ」


家光は自分に言い聞かせるように言った。


幻影と嘉明は江戸城からサルサロス星の安土城に飛んだ。



幻影はすべてを信長に報告してから、また新たな海産物を獲得するために、数名を連れて十人乗りの戦艦を飛ばした。


今回は少々北の寒い場所に飛んで魚影を探ったが、比較的大きな海洋生物が多くいて、いい釣り場はなさそうだった。


しかしわずかに南下すると、多くの魚影を確認できた。


「この辺りは漁師は来ないのかな…」


幻影がつぶやくと、「海流のせいで、ここを目指せないようです」と咲笑が調べて報告した。


「じゃ、遠慮なく…」


幻影たちは船をゆっくりと降ろして、また入れ食いの釣りに興じた。


今回はキングはいないようなのだが、大ぶりの身が引き締まっている、小型の鮪のような魚が大量に釣れた。


咲笑は大いに喜んでいて、すぐにでも食べたいようだが、約二千人分の魚を釣って安土城に戻った。



「…またこれは珍しい…

 ワシがまだ小さい頃に一度見ただけのログタだ…」


マックラの言葉に、「…高いの?」と幻影が咲笑に聞くと、「出回ってません」という言葉に、誰もが大いに眉を下げた。


早速切り身にして、幻影が味見をすると、「…見た目通り、鮪だぁー…」と幻影がうなると、「飯にしろ!」と信長がすぐさま叫んだ。


厨房はまさに魚の解体工場となって、全ての魚をさばいた。


そして千人分をマックラに、もう千人分を極におすそ分けして、残りは琵琶家と、わずかばかりを法源院屋に卸した。


「…ログタ…」と番頭は大いに嘆いた。


「ほら、頭と骨。

 何なら再生してやろう」


幻影は言って、ログタの標本を作り上げた。


そして味見をさせると、「…ログタだが、とんでもなくうまい…」と番頭は言って、キングよりも高い値段で買い取った。


「こっちでも大金持ち」と幻影は機嫌よく言って、売上金をいつものように妙栄尼に渡した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ