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朝顔の私刑  作者: 久成あずれは
完結(本編) 現在。夜音。夜曜

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21/21

(人形) 2話の続きです

今まで通りの更新時間に間に合いそうになかったので、ルビをふっておりません。丁寧な推敲の清書もしておりません。読みづらいと思われます、申し訳ありません。(次の話を投稿する時までに加筆します。今は拙い状態ですが、どうぞお楽しみください!)

 朝曜は風呂を済ませて脱衣所に居た。夜曜に誘われた夕飯の事を考えながら着衣を済ませる。人形の私服は、機関の卒業記念に配布される衣装だ。布一枚を被ったり巻き付けたり、自由に着ることができる。


 食器棚とキッチンに挟まれた脱衣所の扉を開けば、共用スペースが広がっている。場所は玄関から直通、部屋の中心部にあたる位置。そこには簡素なダイニングがある。狭い机を二つ合わせたテーブルに、椅子も二つ向かい合わせて座る。


 朝曜は脱衣所の扉を開き、食卓を視界に入れる。食卓には夕飯が用意されていた。夜曜が準備をしてくれたのだろう。夜曜を探して右手のキッチンを見るも、夜曜の姿はない。朝曜が脱衣所の扉を締めて食卓に向かうと、右奥の棚から夜曜が顔を出した。


「兄ちゃん先座ってて。今、水持ってくね」

「ありがとう。でも、水くらいなら自分で」

「こっちでまとめて持っていったほうが早いじゃんか」


 この部屋は元々横並び、二つの小部屋だった。両部屋の仕切りをダイニングまで抜いてできた部屋なため、玄関と水回りが二つずつある部屋になっている。夜曜は自分のキッチンで調理をしていたらしい。朝曜と共に過ごす時は朝曜の部屋を使い、朝曜の目がない時は夜曜の部屋を使う。夜曜は暗黙のルールに則って生活しているのだ。


 この部屋は廊下から見て右側が夜曜の部屋、左側が朝曜の部屋とされている。大まかな境界線は家具で作られており、寝床などのプライバシーは堅牢にできている。

 部屋の接続部にあたる、このダイニングは兄弟唯一、常用の共用スペースだ。どちら側の椅子に座っても良いが、大抵は自室に近い椅子を選ぶ。朝曜も例に習い、手前の椅子に座って夜曜を待つ。


「おまたせー。はい、こっち兄ちゃんの分」


 夜曜は木製のコップを二つ運んできた。もちろん飲料用の水が入っている。人形館は玄関の側に大きなタンクを二つ有しており、そこが室内の水源となる。壁に埋め込まれるようにして存在するタンクは、壁に内蔵された管を通って部屋の水回りを潤す仕組みになっている。水道から出る水、風呂と水洗便所で使用する水、それぞれのタンクは別である。


「ありがとう。君も座って」


 夜曜が席に着いて、二人は食事を始めた。一杯の水と強飯、メインは干し肉で今日の夕飯。二人は人形館の配給を受け損ねたので、このような現状になった。そもそも朝顔家に仕える人形達は朝夕の飯を保証されており、昼飯と小腹を満たす用の食料も一週間毎に支給される。職業人形の仕事は基本、早朝に始まり夕方には終わる。多くの人形が仕事の無い時間帯に、館の食堂で配給がある。


 その時間外に飯を必要とする人形に慈悲はなく、一週間毎の食料支給品で凌ぐことを強要される。なぜなら時間外の労働をする人形の殆どが、人形の中で唯一給金を貰える従者だからだ。しかし従者人形は主人の許可なく給金を手元に持つことができないため、自由に買い物などできない。

 主人と相当良好な関係でない限り、暇をもらって金銭の使用許可を取って自力で食料を調達する、というのは難しい。このようなシステムが、朝曜と夜曜の夕食を簡素にしているのである。


 朝曜が干し肉を細かく割いて、強飯の入っていた器に混ぜた。そこにコップの水を注ぎ、ふやけるまで待ってから食べるのだ。夜曜はコップの水に強飯を入れて、スプーンでかき混ぜた。


「お湯とか、火とか使えたらいいのにね。待ってらんないよ」

「人形が自由に使えたら、火事にしてしまうから仕方ない」


 人形には自由に使える食器が、それほど支給されない。全て木製で、浅深の器とコップにフォーク・スプーンの四品のみ。従者以外の人形は館の食堂で済ますことが可能なため、これだけで充分とされている。メイド人形の数に比べたら、従者人形は数にも入らない程度なのだから仕方がない。優遇と歌われる従者人形にも苦労があるのだ。


「それより、君は今日食堂の時間に間に合ったろう? わざわざ私に合わせなくても」


「いーのいーの! 僕は兄ちゃんとご飯食べたいからさ」


 夜曜が満面の笑みでフォーク・スプーンを振り、コップを掲げた。朝曜は「そうか」と頬を緩めて、コップに乾杯をする。


「それに、兄ちゃん夕飯食べないつもりだったでしょ」


「蕾花持は餓死しないから。食事に割く時間がないときは優先して省くよ。当たり前だ」


「ほーら、僕がいないと平気でご飯抜くの、良くなーい」

 夜曜が眉を吊り上げて強面をつくり、説教をする。


「餓死しないって言っても空腹は感じるし、エネルギー源を外的摂取の蕾花力だけに頼るのは良くないんだよ。ちゃんとご飯食べないと、蕾花は枯れるかもしれないんだからね!」


 移植で得た蕾花は、蕾花力の供給を一歩間違えるだけでも命取りになる。花家の蕾花持にとっては常識だが、自身の命に頓着しない人形には浸透していない知識だ。


「そうだな、気をつけるよ。朝音様も食事を抜く方だったから、移ってしまったのかもしれない」


 強飯がふやけるのを待つ間、二人は他愛もない話をする。夜曜は強飯がふやけるのを待てずに、さっさと口に運びながら。


「そう、そーいえば。朝音様とどんなこと話したのか気になってた」


「大したことは何も。あ、傷と事件のこと和解した、くらい?」


「ええっ、めっちゃ重要じゃん。くらい? って軽く報告する内容じゃないよう!」


「まあ、そうなんだが、それよりも、私自身の変化が大きくて、戸惑いが晴れなくて、それどころじゃないというか」


 朝曜は、こめかみを軽く抑えて思い悩む素振りを見せた。夜曜は首をかしげて共に悩む。


「変化? 朝音様大好きなのは元からでしょ、それ以外かー」


「大好き? 私が、朝音様を?」動揺する朝曜に納得材料を与える夜曜。


「そでしょー? どんだけキツい仕打ちをされても、兄ちゃんは朝音様んとこから離れようとしないからさ、大好きじゃんか」


 ピンと来ていない朝曜の表情が晴れるようにと、ラベルを付け加える。

「好きっていっても敬愛の好きね。好きにも色々あるからさ」


 夜曜にとって朝曜は一番大切な全てである。朝曜の全てが侵されることさえ無ければ、夜曜は朝曜を純粋に想うだけだ。崇拝に近い感情で、ただ一心に想い続けてきた。


「ついでに僕は、兄ちゃんが大好き。これは家族愛ね」

 それ以上の愛は、確固たる形で名前を持っては存在していない。


「なるほど。愛とは複雑なものなんだな」

「そんなことないよ。種類が分かれば、案外扱いやすいものなんだー」


 興味を惹かれた朝曜は、夜曜の知識と思考を引き出すために問う。

「例えば、どんな種類がある?」


「まずは恋愛の愛。恋人の愛って感じ」

 朝曜に頼りにされて舞い上がった夜曜の心は、次の返事によって羽を削がれ地に落ちた。


「なるほど。恋人なら居たことがあるから理解しやすそうだ。詳しく聞かせてく、れ」


 一変した夜曜の雰囲気に、朝曜は息を呑んだ。夜曜は薄笑いを浮かべて硬直し、手に持ったスプーンを小刻みに震わせていた。スプーン同様に、震える声で夜曜が尋ねる。


「へえ……知らな、かった、な」

 動揺を隠すためか、夜曜はスプーンを器に置いて手を組んだ。


「相手は?」

「君も良く知る相手だ」

「興味あるなぁ、詳しく聞かせてよ」

 食いつきのいい夜曜を不思議に思いながら、朝曜は素直に事情を話す。


「朝音様に決別されて、脈になった後に付き合い始めていた。朝音様の従者に戻る時には別れる約束だったから、今はもう別れてる」


 夜曜は朝曜の話を吟味するようにして、相槌を真剣に考える。言葉にトゲがつかないように、何重にも練り直す。


「期間限定の相手なんだね。それで、どこまで許したの?」


(兄ちゃんの蕾花力に他人のが混ざってたら、直ぐに気づいてただろうし。体の関係を持つとか、そこまで深い関係だったとは考えにくい。兄ちゃんのことだから、恋人ってのがどんなものか正しく理解していない可能性もあるよね。)


「夜曜の知りたいことに沿っているかわからない、私からも確認させてもらおう」

 ところがどっこい。朝曜の回答は夜曜の思考を裏切るものだった。


「君が確認したいのは私と元恋人との、情事のことで間違いない?」

 純粋無垢な無表情は、夜曜が確認したことの意味を確かに理解していたのである。


「そうです。僕は兄ちゃんの性生活を知りたがっています」

 恥じ入る夜曜をよそに、朝曜は一般常識と経験とを参照していた。


「どこまでと、いうのだろう、全部だろうか」「全部」

 思わずオウム返しする。驚きを隠せない夜曜は、疑問の湧き水に溺れかけていた。


(どーいうこと。僕の知らないところで兄ちゃんは大人になってた? 本気で誰と、相手によっては殺害一択もんじゃんか。兄ちゃんは純粋無垢だと思ってたよ。僕と同じで性交渉なんか興味ないと思ってたよ。違ったんだね。違うなら、兄ちゃんの初めてを僕が奪うつもりでいたのに……手遅れッ! 信じたくない。兄ちゃんの常識知らずの勘違いであってくれ。)


 一方朝曜は気にした様子もなく、淡々と告げる。

「そうだな、一通りは教わった。精神的な面での自信はないが、身体的関係だけなら満足させられると思う、くらいには自信が」


 朝曜の勘違いという可能性は、朝曜の発言によって打ち砕かれた。同時に、夜曜の思い浮かべていた無垢な朝曜像も粉々に。


「へっ、へえ? ちょーっと待ってね、兄ちゃん」

 夜曜は情報処理の追いつかない頭と心を、沈めるための時間を要した。


(うそウソ嘘! じゃあ何、実は恋人関係じゃないとか。体だけの関係だったりする感じ? 兄ちゃんの体だけ喰った人でなしが存在する可能性にかけるしかない感じ? それはそれで許せない。もし、そうだったとしたら、そいつを絶対に兄ちゃんの世界から消さなくちゃ。)


「えーっとごめんね。確認なんだけど、今から失礼なこと聞くよ」


 口に運んだスプーンを止めて「うん」と朝曜が聞き返す。夜曜は言いにくいのか目のやり場を右往左往させている。一度、スプーンを握る手に力を込めた夜曜は決心した。


「兄ちゃんは恋人っていうけど、社会的に見たらセフレ、とかじゃないよね?」

 朝曜は呆気に取られた表情を浮かべた後、真剣な表情で考え込む。


「強いて言うなら……援交だった、かもしれない」

 夜曜の表情が強張ったため、朝曜は慌てて説明を続ける。


「いや、大切にはされていたと思う……時々怖かったが」

 恋人との日々を思い返すことに集中するため、朝曜は目を閉じた。


(そう言えば、彼との情事は常に闇の中だった。あの心臓を締め付けるような温かさは心地が良くて、朝音様が与えてくれる心の温もりと似ていた。)


 朝音のことから連想した朝曜は、目を開いて続ける。

「暴力は振るわれなかったから、君も安心だろう」


 話せば夜曜も理解を示すだろうと、勝手な思い込みをしていたのだ。夜曜が朝曜の恋人事情を聞き出して、その後何をするのか想像できなかったのである。


「うん、話してくれてありがとう。それで」


 夜曜が満面の笑みを浮かべたことにより、朝曜は胸を撫で下ろす。しかし仮初の笑顔は、たちまち闇に侵食される。


「兄ちゃんを食い物にした畜生は、どこの野郎なのかな?」


 夜曜は凄まじい殺気を放って問い詰めた。朝曜は夜曜に恋人のことを話したのが、間違いだったと今更気づく。恐らく彼の殺気は朝曜の元恋人に向かうもの。朝曜は予想外の殺意に尻込みしつつ、ふと疑問に思う。


「相手を知ってどうする。相手に危害を加えるようなら教えられない」


 夜曜は一度目を見開いて視線を彷徨わせた後、伏せた。俯きがちな姿勢で首の皮を握り、平坦な声で返答する。


「そんなことは、しないよ。僕をなんだと思ってるの」


 夜曜は前髪の間から朝曜を見つめ続ける。朝曜は夜曜の視線から逃れるようにして、眼下の器に視線を移す。


「そうだな。考えうる推測を潰して安心したかっただけだ」


 夜曜は目を逸らさず、笑わない瞳で「へえ」と相槌を打つ。朝曜は、その瞳に闇が過ったのを見逃せなかった。震えそうになる声を気丈に保ち、疑問を投じる。


「どっうして君は、私の元恋人を知りたがる」

「だって、気になるじゃんか」


 声色、表情、仕草、何も不自然な所はない。しかし朝曜は、夜曜が嘘を吐いたことを肌で感じ取った。


「生真面目で堅物の兄ちゃんを、そういう関係に落とし込んだヒトがいるなんて、想像できないからさ」


 また嘘だと朝曜は感じる。夜曜は飄々をした態度を崩さず、普段と変わらない口調で話していた。しかし、張り詰めた糸の軋みが見える、どこかに緊張を感じる。夜曜は何かを抑えて恐れて緊張し、嘘を吐いている。朝曜は彼が被る嘘のヴェールを剥ぎたい好奇心に駆られた。親しいふりをしておきながら踏み込むことを許さない夜曜の尻尾。朝曜にとって夜曜との関係は、秘め事が多い印象だ。彼の中に隠されているものを、暴いてしまいたかった。なぜなら朝曜は、本当の親しさを望んでいたのだから。


 そうして好奇心から出た言葉は、気を張って嘘を吐いている夜曜を煽るのに充分だった。


「私が君の知らないところで誰かと恋仲になると、何か問題があるのか?」


 夜曜が勢いよく席を立つ。俯いた頭が、ゆらりと上がる。朝曜は息を呑んで、夜曜の一挙手一投足を見つめる。夜曜の目には、前髪の陰りに負けない闇が渦巻いていた。いつも通りか、それよりも丁寧な笑顔で、無機質な声を吐く。


「いいから相手を教えて?」


 溢れ出した夜曜の正体は、様々な感情がない交ぜになったモノだった。たまに見せる闇は、これの一端でしかなかった事を思い知る。(墓穴を掘った。彼が抑えていたのは、これか。)恐れで身が竦む、腹が冷えたもので満たされる。早速後悔した朝曜は、慌てて夜曜を宥める。


「わかった、教える、落ち着いてくれ」


 夜曜は笑顔を崩さずに、緩慢な動きで着席した。首の皮を握っていた手は今になって離される。夜曜の首には痕が残っていた。


「はは、やだなぁ。僕は落ち着いているじゃんか」


 掴み掛かられるかと身を強張らせていた朝曜は、ひとまず肩の力を抜いた。夜曜の闇は朝曜を見つめ続けた。瞬きを忘れた瞳を逸らさずに、微笑みを絶やさずに。朝曜は自身の好奇心を悔いつつ、元恋人の名前を言う決心がつけられず、夜曜の闇が収まることを祈った。


(どうすべきだ。彼の、ここまでの闇を見たことなんてない。どうすれば収まるのだろう。言わないと元に戻らないのだろうか。私の回答で闇が収まるのか疑問だ。悪化する予感に目をつむり、言うしかないのだろうか。いや、夜曜の殺気は朝音様だけに向くものだ。その他には向かないはず。)


 決心した朝曜は、その名を口にした。

「……潤葉先輩だ」

あけましておめでとうございます。今年も投稿頑張ります。

今後の投稿についてですが、しばらくは人形の話を投稿して閑話の補完を終わらせる方針に決まりました! しばし人形たちにお付き合いください。それでは次回予告「上書きする夜曜」何を?って次回もお楽しみに、来月会いましょう!


執筆状況の報告です。(夜音の過去編は下書きが完結したので、閑話補完が終わる頃には清書済みを投稿する予定です。なお出会いは飛ばします。下書きの作成に夢中になっていたら、今月投稿する話が未完成のままだったってオチなんです、ご迷惑をおかけします。)

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