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家出
俺には前世の記憶がある。
おぼろげながらだが、こことは違う世界、地球の記憶だ。
線路の上を走る列車、アスファルト舗装された大地、豊かにあふれる様々な品々。
どこの誰だったかはわからない。でも、前世はいろいろ俺に知識を与えてくれる。
いつだってこの前世は俺の味方だ。
・・・俺の名はスリード。こっちの世界ではありふれた名前になる。
今年、数え年で10歳になる。どこにでもいる農家の三男坊だ。
俺は今日、人生において極めて重要な岐路にたっている。
居間から両親の声がする。
「口減らしするしかない。スリードを売ろう。」
聞き間違いではない。母も泣きながら同意している。
うちの村は貧乏だし、家計が厳しいのは知っていた。
自分も魔法が使えることがばれないように立ち回りながらできるかぎりの手伝ってはいたが・・・。
その夜、みんなが寝静まった深夜に俺は家をでた。
☆☆☆
飛空術で空を飛びながらどこにいこうか考える。
もはや俺を縛るものはない。
俺は泣きながら遠くの町まで飛び続けた。