社畜、ラジオに驚く
暑い。
森なんだからマイナスイオンで涼しい筈じゃないのか。
額にかいた汗を拭い、乱雑にスーツをリュックに突っ込む。
「だいぶ歩いた気がするんだけどなぁ……」
振り向けば、後ろには泥で形どられた革靴の跡が幾つも並んでいる。
しかし、一向に森が開けて平地に出る気配はない。
「野宿やむなし……か」
既に陽が傾いてきている。そろそろ食事と眠る準備をしなかれば。
手探りで焚き火をする準備をしていく。
取り敢えず、燃え移らないように火を起こす場所を掘る。
これだけで重労働だ。背中が痛い。
「松ぼっくりとかが良いんだっけ?こんなことならキャンプ動画でも見ときゃよかったな。」
できた穴に辺りを探して持ってきた細い枝や薄皮、薪になりそうな木の切れ端を入れていく。
これにライターで火をつければ焚き火完成だろ。
そう思ったが、素人考えだった。
まぁ思うように火が付いてくれない。
それから1時間近く格闘してやっと着いた。向こうに戻れたら絶対キャンプには行かないことにしよう。
それからフライパンで大根を焼いて食べた。
塩味だけで味気ないが、疲れた体にはご褒美だ。
「そろそろ寝るか」
地面に段ボールを布団みたくひく。
やっぱり持ってきて正解だったな。
段ボールに寝転がり、スーツを掛け布団にする。
さあ寝よう、そう思った時どこからかノイズ音が聞こえた。
なんだと思って、体を起こし辺りを見回す。
そうしている間にも音はどんどん大きくなっていく。
ようやく音の出どころが分かった。鞄だ。鞄から音がする。
ラジオか?しかし、おかしい。ラジオは壊れている。
俺は眉を顰めながら、そっと鞄を開けた。
『あーあー!まいくてすと!まいくてすと!』
「うおっ!?」
突然の人の声に驚いて硬直してしまう俺をよそに、壊れたラジオは高い女の声で喋り続ける。
『初めまして、異世界「地球」からの勇者くん!私は賢者のミルティア・アルトニアーナだ。これからの旅路よろしく頼む!』
そう言ってブチッとラジオは切れた。