社畜、森の中
初めまして、読んでくれてありがとうございます
不定期ですがよろしくお願いします
森、森、森。
何度見回しても、深い森の中だ。
さっきまで通勤列車に揺られていたはずなのに。
どこだ、ここ?
森なのは確かだ。寝過ごした?
いや、いくら寝過ごして電車を乗り過ごしたって森の中に捨てられることなんてあるか?そもそも終点は博物館前でこんな森じゃない。
最近?流行りの異世界に召喚でもされたか?
あーだめだ、考えても全然分からん。
いや、そんなことはどうでもいい。
まずは会社へ連絡しないと。無断遅刻で罰金になるのは避けたい。ただでさえ安月給をさらにむしられたんじゃやるせなさ過ぎる。
己の悲しき社畜根性を感じながら、上司の中では比較的温厚な田無さんに何度も連絡をしてみるが携帯はずっと圏外表示で繋がる気配がない。
仕方ない、遅刻の理由は直接出社して報告しよう。
早々に連絡は諦め、出社をする=森を抜けるために取り敢えず目が覚めた辺りを見回すと何か茶色いものが落ちてるのが見えた。
「なんだ、これ………段ボール箱?」
近づいてみると、段ボール箱だった。ご丁寧にガムテープが貼られている。
誰かの持ち物かなと思って一瞬気が咎めたが、そもそもこんな森に段ボール箱を置いていく人間はいないだろうと思い、中を開けてみる。
入っていたのは大根が2本に塩の小瓶、ライター、フライパン、そして壊れたラジオだった。
親の仕送りかよ。謎の段ボールに1人ツッコんでみたが反応がないので異様にスベった感じがして気分が盛り下がった。
気を取り直して箱の中を見てみると、旅のお供にどうぞ、なんて書いた紙がお誂え向きに入っていた。
ラッキーだ。持ち主?がそういうなら貰っておこう。
リュックへ大根その他諸々を入れていく。一応、何かに使えるかもと思って段ボール箱の方も畳んで仕舞っておいた。
「さて、急いで出社するか」
異世界転移が労災認定されればいいなぁ、そんなことを思いながら堅苦しいネクタイを解き、延々と広がりそうな深い森を歩き始めた。