紫炎の劫火。
「ディメンション・シーリング!」
ソプラノの透き通るような声が響き渡る。
その瞬間、世界は反転した。
この世界の空間は、膨らんだ風船の表面のようなものと規定されている。
その面部分が現実世界。裏部分にはまた別の世界、魔界がある。
反転したここは、その二つの世界の間に存在する異空間だ。
全てがグレーに包まれて現実世界がただの虚像として映るそこ、間。
いきなりそんな異空間に落とされた男たちは、それでもまだ冷静であった。
「ラプラス! 周囲に結界を。サイレンは迎撃用意だ」
ラプラスとサイレン、彼ら二人に指示を出し、庇うように前に出る魔法剣士ソユーズ。
その手には聖剣エクスカリバーを携えて。
——っつ!
心の中でノワールが動揺するのを感じ、彼女は確信する。
その聖剣の本来の持ち主が彼であったことを。
「あなたたち。勇者ノワールを襲っただけでは飽き足らず、その装備までもを奪ったのね!」
樹々の隙間であった場所、男たちよりも一段高い場所からそう叫ぶマキナの声に、一瞬だけ驚愕の表情を見せるソユーズ。
「この異空間を展開したのはお前か! 小娘!」
「あら。これから起こることを考えたら、こうしてあなたたちを隔離しておかないと森がどうにかなっちゃうからね」
その声を聞くや否や、巨大な炎をマキナに向かって放つサイレン。
「無駄よ」
アウラクリムゾンによって受け流されたその炎は、マキナの後方に飛び爆散した。
「ほらほら。怖い怖い。これだから短気な魔法使いは嫌いなのよ。ちゃんと間に隔離しておいて良かったわ」
そう軽口を叩く彼女。
確かに爆散したはずの後方の森、しかしその虚像にはなんら変わりのない樹々が映し出されていた。
「お前、あの時の小娘か!」
サイレンはそう叫ぶと共に、再度2種類の攻撃魔法を放った。
氷の槍と風の刃。
その二つとも威力としては牽制程度のものであったけれど、その分時間的には速く。
見てからでは対処のしようがないほどの速度で放たれたはずのそれ、しかしマキナはその両方とも難なく躱す。
アウラクリムゾンの盾を使用するまでもなくマキナの身体をすり抜けるように背後に飛び去る二つの魔法。
「馬鹿な!」
「馬鹿とは失礼ね。あたしにはあなたの魔法の熾りが見えるもの。見えていれば躱すことくらい造作もないわ」
「ではこれならどう!」
ラプラスのそんな叫びと共にマキナの足元から黒い影が伸びる!
鞭のように伸び彼女の両手両足を拘束するよう蠢くそれ。
しかしマキナはそのまま空中に飛び上がり、そしてその地面に向かって叫ぶ。
「フレイムバーストォー!」
マキナの両手の平より放たれる紫炎の劫火。
最上級の炎の魔法によりその黒の鞭は消し炭となって消え去った。




