わたくしは誇り高きマリアンヌ・マディニア。終わった恋より新しい愛に生きますわ。
公爵令嬢フローラ・フォルダンと美男騎士団長様と7つの聖剣に出て来るマリアンヌ視点で書きました。
単体で楽しめます。(一部、同じシーンの展開あり)
こうして見て見ると、主役のフローラとローゼンってとんでもない連中ですよね(笑)私は大好きですが。
マリアンヌ・マディニアは、マディニア王国の王弟殿下の次女に生まれた、高貴な女性である。それはもう、王弟殿下の娘だけあって、我儘に育った。
そんなマリアンヌには幼い頃から好きな人がいた。
ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵。
マディニア王国の現騎士団長である。
金髪碧眼のその美しき騎士団長は、彼を知る女性達の憧れの的だ。
しかし、ローゼンは姉カロリーヌの婚約者だった。
ローゼンが18歳、カロリーヌが14歳の頃に、婚約を結んだのである。
当時、まだローゼンは騎士団へ入団したての公爵令息であった。
マリアンヌはまだ子供で、7歳。
それに姉の婚約者だから、いくら子供でもむやみに親しくすることが出来なかったのである。
「わたしが何でも取ってしまう、妹だったらよかったのに…あの姉から取り上げるなんて考えられないわ。」
姉カロリーヌはキツい性格だ。
マリアンヌより7つ年上で、常に上から目線のマリアンヌからしたら、恐ろしい姉であった。
遠目で屋敷の庭を姉と散歩するローゼンを見て、マリアンヌはほうっとため息をつく。
ああ…なんて美しい人なの。あの美しい人が姉の婚約者なんて。
わたしの方を見てくれたらいいのに。
そんな思いを抱いて何年かが過ぎ、姉が留学して、そして、留学先のアマルゼ王国の王子と恋に落ち、ローゼンと婚約破棄をしたいと聞いた時には、マリアンヌは飛び上がって喜んだ。
マリアンヌ11歳の時である。
「お父様、お願いがあります。わたしをローゼン様の婚約者にして。」
父である王弟殿下は眉を寄せて、
「ローゼンは、歳は22歳、お前とは11歳も離れておるが…」
「いいのっ。ローゼン様がいいっ。」
「それなら、兄に頼んで、王命でフォバッツア公爵家と婚約を結んでもらうが…
お前が年頃になった時、ローゼンは30近いのではないのか。」
「かまわないわ。わたしはローゼン様のお嫁さんになりたい。」
「解った。国王陛下と、フォバッツア公爵家に掛け合ってみよう。」
そして…それが認められて、ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵令息と、
マリアンヌは婚約する事となった。
ローゼン22歳、マリアンヌ11歳の時である。
マリアンヌは嬉しくて嬉しくて、ローゼンに色々な所へ連れていってくれるよう強請った。
「動物園へ行きたいわ。お買い物にも連れていって。」
「かしこまりました。マリアンヌ様。」
綺麗なローゼンと共に歩くのは、マリアンヌにとって誇らしくて。
なんてなんて幸せなんだろう。このままずっと幸せが続いて、ローゼンと結婚するんだって信じて疑わなかった。
しかし、ローゼンは騎士団で出世するにつれて、マリアンヌに会ってくれなくなったのである。
仕事が忙しいから、デートする暇がないとか…
マリアンヌは涙にくれた。
「わたくしは婚約者よ。何で優先してくれないの。」
騎士団へ怒鳴り込んだ事もある。
ローゼンはすまなそうに、
「私は騎士団長へ昇格した。今が一番大変な時なんだ。解って欲しい。」
「でも、わたくしはっ。わたくしはローゼン様ともっと会いたい。もっと、貴方の愛を感じたいの。」
「すまない。」
そう言えば、キスもしてもらった事もないわ。
まだ子供だからって…
11歳も離れているからって。
マリアンヌは悲しかった。
なんて酷い…なんて…。
そんなマリアンヌの悲しみに追い打ちをかけるような事件が起こったのである。
マリアンヌが16歳、ローゼンが27歳の時だった。
王弟殿下である父から呼び出され、マリアンヌが父の書斎へ行くと、父が、
「すまないが。フォバッツア公爵との婚約を白紙にと、国王陛下から今日、命じられた。
フォバッツア公爵はフォルダン公爵令嬢と婚約を結ぶそうだ。」
「どういう事よ。ローゼン様は5年間もわたくしの婚約者だったのよ。それを白紙だなんて。」
涙がこぼれる。
父は困ったように。
「フォルダン公爵は私にとっても目障りな権力者だ。宰相のような仕事をしている。
国王陛下にも取り入ってもっとも近い側近だ。国王陛下に頼んだのであろう。
フォルダン公爵令嬢のフローラは我儘で有名だからな。諦めてほしい。マリアンヌ。そなたには良い縁談を探してやろう。」
「ローゼン様がいいですわ。幼い頃からローゼン様しか、わたくしは目に入ってこなかった。
とても冷たい人だけれどもわたくしは、ローゼン様が好き…好きなのよ。」
フローラの事が許せなかった。
フローラ・フォルダン公爵令嬢。我儘で有名な令嬢だ。
マリアンヌは翌日学園に行った時に、
フローラの頬をビンタした。
「この泥棒猫っー。」
「盗られる方が悪いのではなくて。」
フローラも負けていない。バシっとビンタし返してきた。マリアンヌがフローラを床に押し倒して、更にバシっとビンタをする。
「ローゼン様はわたくしの婚約者よ。汚い手で盗るなんて許せない。」
フローラはマリアンヌの長い縦ロールの金髪を引っ張ってきた。
マリアンヌも負けていない。フローラの金髪の三つ編みを引っ張った。
ゴロゴロと転がって互いをひっぱだき、引っ掻きあう。
その時は周りのお陰で何とか騒ぎは収まったのだが、マリアンヌの腹の虫はおさまらなかった。
フローラが憎い。愛しいローゼン様を盗った女が憎い。
ローゼン様もローゼン様よ。わたくしに冷たくして…そして、挙句の果てにフローラと婚約をして。
わたくしはこんなにも貴方の事が好きなのに。
世の中には理不尽が平然と通る事がある。
月に照らされた薔薇園で、マリアンヌはため息をつく。
この薔薇園は、屋敷の庭にあって、マリアンヌが庭師に頼んで、作って貰ったものだ。
薔薇は高貴で好きな花。
わたくしは常に薔薇のようでありたい…
月の光では薔薇の色までは見えないけれども、薔薇がかもしだす雰囲気が好きなのよ。
「こんな夜中に美しき令嬢にお会いできるとは。」
マリアンヌが声の方を見て見れば、長い銀髪で羊の角を持つ、美しい魔族が立っていた。
「貴方は?」
「第三魔国魔王、シルバ。」
マリアンヌは緊張する。
マディニア王国と関係ある魔国は第一から第五魔国まであるのだが、
その第三魔国魔王が、王弟殿下の娘である自分にわざわざ会いに来たのだ。
ただの用ではあるまい。
「わたくしに何用でしょう。」
「フォルダン公爵が憎くはないか?私はフォルダン公爵の失脚を望んでいるものだ。」
「フォルダン公爵の失脚を望むという事は、貴方はアイルノーツ公爵と繋がっているという事で間違いないかしら。」
「そうだ。間違いない。」
と言う事は、王妃オイスティーヌとも繋がっているということだ。
王妃オイスティーヌはアイルノーツ公爵家の出である。
マリアンヌは頭を巡らす。
「確かに、国王陛下に近いフォルダン公爵は目の上のコブですもの。それで…わたくしに何をお望みかしら。」
「お美しい令嬢。マリアンヌ。私と結婚しないか?」
「貴方と?」
「私とお前の利害は一致しているだろう。共にフォルダン公爵家の失脚を。フローラを叩き落としてやろう。」
あの女を叩き落とす。
なんて素敵な…
「解ったわ。わたくしは貴方と結婚いたします。」
その為なら、わたくしはこの男と結婚するわ。
シルバは冷たい口調で。
「フォバッツア公爵家も叩き落とす事になるが…それでもかまわぬか。
アイルノーツ公爵家にとって邪魔なのは、フォルダン公爵家とフォバッツア公爵家だ。」
ローゼン様を叩き落とす?
自分に冷たかったローゼン。平然とフローラと婚約したローゼン。
許せなかった。
「解りましたわ。それでもかまいませんわ。」
「それでこそ、王弟殿下の令嬢だ。」
金色の瞳を光らせる野心家のシルバ。
マリアンヌはこの野心家の第三魔国の魔王の提案に乗る事にした。
それから、シルバは毎日のように、マリアンヌの部屋へ通うようになった。
ただ、ソファに座り、マリアンヌと話をして帰って行くだけである。
「お前の事を詳しく知りたい。伴侶になるのだからな。」
「わたくしの事?」
「そうだ。人間とはどういう物なのか。生憎、魔族と人間の婚姻例は驚く程に少ない。」
「そうですわね。魔族の事、詳しく知りませんが、わたくしは人間も魔族も、心根は同じだと思いますわ。」
「そういうものか…」
「ええ。貴方様も薔薇が好きなのでしょう?」
「そうだ。薔薇と美しき令嬢。マリアンヌ。何てそなたは美しいのだ。」
「わたくしと結婚するのは、貴方の野心の為でしょう。」
「それもあるが…」
シルバは立ち上がり、マリアンヌの横に腰かけて来た。手を握り締めて、
「もっと、マリアンヌの事が知りたい。薔薇の他に何が好きなのか。どのような考えを持って暮らしているのか…」
ローゼン様は何もわたくしに対して、興味を持ってくれなかったわ。
でも、この人は…
握り締められた手に愛し気に手を重ねてマリアンヌは呟く。
「わたくしも貴方の事、知りたいですわ。このように、わたくしの事を興味持って下さって、とても嬉しく存じます。」
「当たり前ではないか。私と結婚するのだからな。」
なんて心が温まる。そして、苦しかった今までの気持ちが、徐々に癒されていくのが解った。
ローゼンの事は忘れられないけれども、マリアンヌはシルバとのひと時をとても幸福に感じたのだ。
そんなとある日、マリアンヌは王宮に呼ばれた。
そこには、王妃オイスティーヌ。王妃の兄のアイルノーツ公爵、父の王弟殿下、そしてシルバがいた。
王妃オイスティーヌは、扇を手に微笑んで。
「フローラ・フォルダン公爵令嬢は、ローゼンに向かって、魅了を使っている事が判明した。あの二人は近いうちに婚約のお披露目会をこの王宮で開きたいと言ってきたわ。
断罪の機会よ。そこに神官長を呼んで、魅了が使われた事を証明すれば、フォルダン公爵家と魅了を使われて気が付かなかったフォバッツア公爵家を失脚させることが出来るわ。シルバ。マリアンヌ。お前達の手でフローラの魅了を訴えるがいい。」
マリアンヌはその言葉を聞いて唖然とした。
フローラとローゼンを地獄へ突き落す事が出来る絶好の機会。
自分からローゼンを盗ったフローラ。婚約者でありながら、冷たい態度を取り続けたローゼン。どちらも許せない。その気持ちには変わりはないけれども。
「王妃様。わたくしから断罪は致したくありませんわ。」
「何故じゃ。マリアンヌ。」
「わたくしには荷が重く存じます。」
「解った。わたくしが断罪しよう。」
仕方がないと、王妃オイスティーヌは諦めたようだ。
シルバはマリアンヌに、
「そのパーティで、私とマリアンヌの婚約を国王陛下に報告しよう。
主役を奪う事が出来る。奴らの婚約披露パーティだからな。」
「そうね。それならば、わたくしにも出来そうだわ。」
王宮から屋敷に戻り、マリアンヌは悩んだ。
何故…躊躇したのかしら。断罪すればよかったじゃない…
わたくしはまだ、ローゼン様の事を愛しているのかしら…
マリアンヌは、こういう時に少しは頼りになる従兄に相談に乗って貰う事にした。
ディオン皇太子。マディニア王国最強の皇太子である。
三年の外遊から戻って来ているこの皇太子は、幼い頃から知っている従兄だった。
「ディオン様。わたくし…ローゼン様の事が憎くて憎くて。フローラの事も許せなくて。
でも、断罪なんて出来ない。」
ディオン皇太子は腕を組んで、
「母上の企みだな。断罪出来ないのなら、どうしたい?」
「わたくしは、わたくしの意地は見せたく存じます。でも、二人を失脚させたくはありませんわ。」
「ならば、マリアンヌの思うままに振る舞うがいい。」
「いいんですの?」
「ああ。俺はマリアンヌを信じている。お前はマディニア王国にとって不利になるような事はしないだろう?」
「そうですわね…王国の未来。わたくしが取る態度は、ローゼン様とフローラを許す事。」
「そうだ。フォルダン公爵家もフォバッツア公爵家も、失っては困る家だろう。母上とお前の父は追い落としたいみたいだが、俺は失っては困る家だと思っている。」
「確かに。わたくしもディオン様と同意見ですわ。わたくしはわたくしの私怨から間違った行動をしてはいけませんわね。」
「二人を許す事は、マディニア王国にとって必ず良い方向を導くだろう。お前にとってもいずれな。」
マリアンヌは思った。
アイルノーツ公爵派の王妃と父、フォルダン公爵派の国王と皇太子、
自分は王弟の娘なれども、考え方は皇太子に近い物を持っている。
王族の一員として誇り高い行動を取らないと、特に今回の事は態度を誤まれば、
国が滅びる事態になりかねないのだ。
ディオン皇太子に礼をいい、マリアンヌはその場を後にした。
そして、王宮でフローラとローゼンが婚約を披露する日がやってきた。
会場の壇上にマディニア王と、王妃。右手には王弟殿下夫妻、そしてマリアンヌ。
左手にはディオン皇太子殿下と、セシリア皇太子妃。
横手には招待された高位貴族達が席に座っていた。上座には神官長の姿も見える。
アイルノーツ公爵夫妻とその長男夫妻、主催のフォバッツア前公爵夫妻の姿も見えた。
勿論、主催であるフローラの父、シュリッジ・フォルダン公爵も一族と共に席に着いている。
まずは美しく着飾った主役の二人がダンスを披露する。
ダンスの曲が流れる。
白銀の礼服を着たローゼンの主導の元、フローラは踊りだした。
二人の優雅なステップに皆、ほおおおおっと見とれている。
一通り踊り終えると、拍手が二人に起こる。
白銀の長い髪、金色の瞳の黒服を着たシルバに手を引かれ、マリアンヌは入場した。
マリアンヌのドレスは黒を基調としているが、銀の糸が織り込まれており、薔薇が沢山飾られていてキラキラと輝いている。金の髪をカールし、長く垂らしたマリアンヌは本当に美しかった。
二人が踊りだすと、皆、目が釘付けになった。
見事な踊りである。優雅なステップ。ふわりと翻るドレス。
華があった。
踊り終わると、皆、凄い拍手で湧き上がる。
王弟殿下がわざとらしく、二人に向かって声をかける。
「マリアンヌ。そこに連れているのは誰だ?」
「ご報告がありますわ。お父様、そして国王陛下。発言をお許しいただけるでしょうか?」
マディニア国王は頷いて。
「許す。申してみよ。」
マリアンヌは優雅に微笑んで。
「わたくし、マリアンヌ・マディニアは、第三魔国魔王、シルバ様と婚約したいと存じます。
お許しいただけないでしょうか?陛下。」
シルバもマリアンヌの手を取り。
「この美しき令嬢に惚れましてございます。国王陛下。どうかお許しを。」
国王陛下は二人を見つめ、椅子から立ち上がり。
「このマディニア王国、国王の名において。第三魔国、魔王シルバと、マディニア王国、王弟が娘、マリアンヌ・マディニアの婚約を許可しよう。」
「有難うございます。」
マリアンヌは優雅に両手でドレスの裾を持ってお辞儀をする。
シルバも頭を下げ礼をした。
その時である。
国王の隣に座っていた濃い赤のドレスを着た、王妃が扇で口元を隠しながら。
「して、話は変わるが、フローラ・フォルダン公爵令嬢が、フォバッツア公爵家の乗っ取りを図って公爵家の者達に魅了をかけているという噂を聞いたのだが、本当の事か?」
マリアンヌはどきりとした。ついに始まったのだ。フローラとローゼンを追い落とす断罪が。
フローラが進み出て。
「王妃様、断じてわたくし、フローラ・フォルダンは魅了等、使っておりません。」
王妃はニヤリと笑って。
「噂は噂だが、真実は確かめておかねばなるまい。神官長、フォバッツア公爵と、アスティリオとシュリアーゼを調べてたもれ。」
神官長は前に進み出て。
「かしこまりました。王妃様。」
ローゼンの母であるシュリアーゼが立ち上がり、
「恐れながら、王妃様。わたくしたち、フォバッツア公爵家はフローラ・フォルダン公爵令嬢を大切に思っております。フローラが魅了を使っていないと言っているならば、その言葉を信じたいと思いますわ。いかに王妃様と言えども、フォバッツア公爵家とフォルダン公爵家を侮辱しているではないでしょうか。」
元、英雄で隣国の王女である。
その態度は堂々としていた。
王妃は苦々しく、しかし凛とした声で。
「魅了を受けていないと自信があるならば、わたくしにも解るように証拠が見たいと言っているのです。シュリアーゼ。これは王妃命令です。」
その時である。
マリアンヌが進み出た。
「王妃様。わたくしからもお願い致します。フローラは魅了なんて使う子じゃありませんわ。フォルダン公爵家とフォバッツア公爵家は、このマディニア王国では大切な公爵家です。
どうか、侮辱するような事はおやめください。」
マリアンヌが頭を下げる。
悔しいけれども…でも、わたくしは、国の利益の為に、フローラを庇うわ。
フローラがマリアンヌの傍に行き。
「マリアンヌ様。」
マリアンヌは小さな声で。
「主役は奪ってやったわ。これで恨みっこなしよ。でも、貴方を失墜させたくない。
悔しいけど貴方とは良いお友達になれそうな気がするの。」
ああ…何故か余計な事を言ったわ、わたくし。お友達だなんて…この女と…
ローゼンが王妃に向かって。
「もし、神官長が調べて魅了した証拠が出てこなかったら、王妃様はわれらが公爵家を疑った責を取って下さるというのでしょうな。」
それまで黙っていたディオン皇太子殿下が笑って。
「母上。どの公爵家も、そしてどの魔国も我がマディニア王国にとっては大切なものだ。
神官長。この件はこれで終わりだ。席に戻りたまえ。それでよいですね?父上、母上。」
マディニア国王は頷き。
「疑ってすまなかった。フローラ・フォルダン公爵令嬢。改めて婚約おめでとう。
ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵。フローラ・フォルダン公爵令嬢。
二人の結びつきが我が国の力に、敷いては人と魔族の強い結びつきを作るきっかけになる事を望んでおるぞ。」
ローゼンと共にフローラは頭を下げる。
「有難うございます。国王陛下。」
王妃は不機嫌に椅子に座って、フローラを睨みつけていた。
パーティが終わり、皆、帰り支度をし始めた。
フローラにマリアンヌは礼を言われた。
「かばって下さってありがとうございます。マリアンヌ様。」
マリアンヌは扇で口元を隠して小声で。
「魅了なんて貴方が使いそうな手だわよ。まったく。まぁいいわ。
私も学園卒業後に魔国に嫁ぐことになるけど、こちらの王宮にもちょくちょく顔を出すから。お互いに人と魔族の強い結びつきを作るきっかけになるといいわね。それじゃまた。」
フローラと別れる。
憎い女だったけれども…何だか、憎しみはどうでもよくなってしまったわ。
ふと、ローゼンと目があった。
ローゼンは騎士の礼で軽く頭をマリアンヌに下げてきた。
そして、背を向けて行ってしまった。
シルバが肩に手をかけて、
「何だ。未練があるのか?」
「いえ…終わった恋を眺めておりました。ごめんなさい。あの二人を庇ってしまいましたわ。」
「いやいい。ディオンごと、いずれ追い落としてやる。マリアンヌは気にするな。」
シルバのやる事には口出しは出来ない。王妃とアイルノーツ公爵や父に考え方が近いシルバは自分の考えとは反対の所はあって不安だけれども。
今は、自分はマディニア王国の王族として、憎かった二人を庇ってあげた。それだけでよいのではないのか。
そして、二人の事を、もう、どうでもよいと思ったのはきっと…
「わたくしには貴方がいればいいですわ。シルバ様。」
シルバはマリアンヌの顎に手を添えて、口づけをしてくれた。
「私の愛しいマリアンヌ。嬉しいよ。」
その言葉に心から幸せを感じるマリアンヌであった。
先行きどうなるか解らぬマディニア王国。
それでも、わたくしは…
誇り高き令嬢。マリアンヌ・マディニアとして生きていきたい。
シルバが周りの説得で野心を諦めたり、フローラやローゼンと共に、国民に結婚を披露する日が待っていようとは、その時のマリアンヌは思いもせず、ただ、シルバの腕に抱かれ、今の幸せを満喫するのであった。
人物紹介
☆マリアンヌ・マディニア
マディニア王国の王弟の次女。誇り高き女性。
金髪に縦ロールでキツイ顔立ちをしている。
薔薇の花が好きで、贅沢好き。実はローゼンと婚約が白紙になった後のパーティでモテていたりする。
マリアンヌには彼女なりの思惑があり、フローラとは後に良好な関係になる。
ちなみに「わたくしは、帝国の薔薇メルディーナ。今度こそ最高の男を掴んでみせますわ。」という話があるが、その前世のメルディーナとは、はとこにあたる。
☆シルバ
第三魔国の魔王。銀の長髪に金色の瞳をしている。美しい男。
何とか、ディオン皇太子やフォルダン公爵を追い落とそうとしている。
後に、友のクロード・ラッセルや、第五魔国魔王ロッドとの「豆を食べながらシルバの野望を抑える豆会談」の末、説得されて、良好な関係を皆と築くようになる。
☆ローゼンシュリハルト・フォバッツア公爵
柔らかい金髪が背まである美しき騎士団長。ファンクラブまである。
友達がいないちょっと変人。王弟の娘たちの婚約者になったせいと、有名人だったので、27歳の歳になっても女性経験がないかわいそうな人。
「経験していないと不便はあるのでしょうか?多忙で現在、やっとフォルダン公爵令嬢を気遣うという幸せを得た所です。男ですからいざとなったら、臆する事無く遂行する自信はあります。その時は自分の熱を全て傾けて、妻を愛してやりたいと思います。」
カロリーヌに皮肉を言われた時にこう答えていたりする。
☆フローラ・フォルダン公爵令嬢
金髪を三つ編みにしている、すみれ色の瞳の我儘令嬢。この話では触れなかったが実は魔族である。シルバとは顔見知り。この話の当時は敵対していた。ローゼンとは小さな喧嘩をしながらも愛を深めていき、後に結婚する。
☆ディオン皇太子
神様にいいように使われている破天荒の勇者である。
弱点は母親。メルディーナとははとこ、マリアンヌとは従兄にあたる。
普段は非常に仕事の出来るイイ男。
セシリア皇太子妃と言う出来た妃がいるのが自慢。
後、男性の愛人がいて、彼が絡むとポンコツになる。
☆カロリーヌ
名前だけ出て来たマリアンヌの姉。キツイ性格。
アマルゼ王国の皇太子ジョセフへ嫁いで、現皇太子妃である。ローゼンに会った時は、「貴方、女性経験はあるのかしら。」ディオン皇太子の妻、セシリア妃にも、「子供が出来ないなんて、側室でも紹介して差し上げましょうか。」と皮肉を言っている。
まぁ、こんな感じで。