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おさわりマン、コイツですっ!!

作者: 小林ミメト

衝動的に短編を書きました。

 痴漢冤罪撲滅隊、略称は『CHINBOチンボ』で文字通り構成員は痴漢冤罪の被害者だ。彼らは、痴漢冤罪を行っている女子たちを発見するや否や、特殊な手袋をはめて対象者の頭に触れて洗脳するということを五年にわたって行ってきた。


なぜ、本人やその親、はたまた過激なフェミニストたちから通報されても彼らが捕まらないかって?それは、チンボの隊長が軍政日本時代に富国強兵の手助けをして、今も外国の資本から日本を陰で守っている菊野工業の社長、菊野平蔵(56)だからである。


 彼は、息子の虹児こうじが痴漢冤罪の被害者で五年前に痴漢として警察に捕まった後、父親の働きかけで何とか釈放してもらえたのだが、ネット上で干されて引きこもりになってしまったのだ。痴漢冤罪をひどく恨んだ彼は、復讐と痴漢冤罪撲滅のためにチンボを設立したのだ。


 警察も手を出せないためにチンボは、どんどん痴漢冤罪の加害者を洗脳していった。


 そして、一昨日ついに痴漢冤罪の被害が0件という世の男性陣にとってうれしい知らせが届いた。


 だが、それと同時に痴漢犯罪が急激に増加することになる。


 そんなある日、一人の女子高生が駅で電車を待っていた。


彼女が電車を待っていると無機質な男性の接近放送が聞こえてきた。


 《間もなく、一番線に、各駅停車、渋谷行きが、参ります。黄色い線の内側まで、お下がりください。》

 

 電車に乗車してしばらくした後、臀部に嫌悪感すら覚える強烈な違和感が襲った。


 〈な、なに?え、やだ!痴漢!?〉


 怖かったので少し顔を後ろに向けて目を後ろの方へ向けると、中肉中背のスーツ姿で禿げた中年オヤジがハアハア言いながら右腕を動かしていた。


 オヤジが腕を動かすたびに嫌な感触が脳髄を駆け巡った。


〈間違いない!痴漢だ!〉


だが、彼女は叫ぶ勇気がこれっぽっちもなかった。


 最初こそ、チンボも疑った人物が痴漢被害者とわかれば手を引いて、警察に通報する善良な市民団体だった。


 だが、団体の規模が大きくなるにつれて痴漢とわかっていても見過ごすことが多くなっていった。それどころか、痴漢被害者の女性を洗脳する人まで現れる始末だった。


 だから、彼女も大声を出さずにじっと耐えざるを得ないのだ。


 〈うう・・・誰か、だれか助けて・・・!!〉


 おっさんは、そんな女子高生の悲痛な心の叫びを感じ取ったのかニヤニヤしながら耳元で話しかけてきた。


 「助けてほしけりゃ叫ぶことだな、もっとも断罪されるのはお嬢ちゃんだけどな・・・。グヒヒヒヒヒ・・・。」


 そう言いながらオッサンは、スカートの中にも手を入れ始めた。


 周りに助けを求めるように周囲を見渡したが、ほとんどの人が眠っていたりスマホをいじっていて全く気付いていなかった。


向かい合わせの席に座っている小学生の男の子は、先程から痴漢に気づいていたが、顔を赤くした女子高生が目を合わせようとすると、自分も顔を赤くしたまま慌てて目を逸らした。


藁にもすがる思いだったのだが、やはり小学生じゃとてもじゃないが太刀打ちできないと思いついに悲痛の叫びをあげた。


 「誰か!後ろのおっさんが痴漢です!!どうか、どうか助けてくださーい!!!」


 するとオッサンは、すぐにスカートから手を勢いよく上げた。オッサンの斜め後ろにいた社畜系サラリーマンは、叫び声にびっくりして飛び起きた。その時、自分はもう拝めないと思っていた紺色のスカートの中の純白のエデンが視界いっぱいに広がっていた。


 「ひっ!嫌アアア!!!」


 「へっへっへ・・・白か!さあて男性客の皆々様方!!これから先は、本来であれば諭吉を溶かすことでしか見れねえ上物でござーい!たっぷりとお楽しみくださいませ!!」


 自分が痴漢犯罪者だとバレて何かが吹っ切れたオッサンは、ほかの乗客にも聞こえるような声で彼女の下着の色とこれから行われることを暴露した。


 「待てイ!痴漢野郎め!!」


 女子高生とおっさんが、声のする方へ振り向いたのはほぼ同時だった。


 「だ、誰だ!」


 「目には目を歯には歯を痴漢おさわりには痴漢おさわりを・・・女子たちの悲痛な叫びを聞いたなら、私はどこへでも駆けつける・・・おさわりマン参上!!」


 紫色のスーツにピンクのワイシャツ、黄色のネクタイを着用した七三分けの自分を『おさわりマン』と呼ぶ彼は、後ろ手を組みながらモンローウォークで一歩、また一歩と二人に近づいていき、名前を言ったタイミングで、組んでいた後ろ手を組んでいた両手を勢いよく、顔の両サイドに二人から見て指先を上にしながら、手の甲が見えるように出した。ちなみにその手には真っ白な手袋をはめていた。


 「お嬢さん、私は痴漢被害者の味方『おさわりマン』と申します。以後お見知りおきを・・・。」


 そう言っておさわりマンは、両手をそのままの状態で後ろに持っていき、その勢いでお辞儀をした。


 だが、女子高生はこう思った。また変な奴が出てきたと。


『まもなく、駒場東大前です。出口は、右側です。 We will soon be aliving at KOMABATOUDAIMAE. IN 3. The door`s on the reft side will open.』


 空気を読まない女性の自動放送が流れた。


 「痴漢やチンボの報復をものともせずに立ち向かうその勇気!感激しましたよ女子高生のお嬢さん。私が助けて進ぜよう。」


 ドアが開いたタイミングで女子高生は、彼の言葉には耳を貸さずにオッサンの腕をつかんで電車から降りた。


 「お気持ちだけ受け取っておきます。叫んで踏ん切りがつきましたので、あとは私が自分でこのおっさんを警察に突き出しますから。」


 「ちょっオイ!俺を警察に突き出したらどうなるかわかっているんだろうな!?お前はチンボに洗脳されるんだぞ!いでで、あれ?この娘思ったより力強い。」


 「あんな変態に恩を売るくらいなら自分で何とかするわ!」


 「待ちなさい!・・・さあ、僕・・・証言しなさい。」


 いつの間にか、おさわりマンは目撃者である男の子を連れていた。


 「このおじさんがずーっとお姉ちゃんのお、おしりを触ってた。・・・悪い奴。」


 「それがどうした坊主!?」


 すると、おさわりマンの目の色が急に変わった。


 「弁解の余地なしと見た。これより、正義を執行する・・・。任務おさわり開始ッ!!!」


 突然、おさわりマンは再び両手の甲を見せたかと思うと、勢いよくオッサンに向かって走り出した。


 「おい!?なんだよ一体!?や、やめろアアアアア嫌アアアアイ!!!!」


 どこからともなく、二人の黒子が現れておさわりマンとオッサンを隠した。その直後に、なんとも不思議な擬音があたりに鳴り響いた。


気が付くと、おさわりマンと黒子たちの姿はなく、代わりに体をヒクつかせながら悶絶しているオッサンが倒れていた。


 「だ、大丈夫ですか?」


 「ふ、服のこすれだけで感じちゃうビクンビクン!」


 おさわりマンは、人ごみに紛れながらつぶやいた。


 「任務おさわり完了。」


 おさわりマンは、痴漢で泣き寝入りする女性がいる限り、加害者たちを痴漢おさわりするのだッ!!


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